教材用スターリング機関に関する研究
福 田 昌 准*
(平成元年8月30日受付)
Development of a Small Stirling Engine for Technical College Education
Masanori FUKUDA*
(Received August 30, 1989)
Abstract
It may be difficult for college students to understaild the principle and working mechanism of a stirling engine be−
cause of its less popularity than gasoline or diesel engines, ln this study, a small stirling engine ior technical college education was developed in order that students could see and operate a real engine, This engine is operated with hot air as a working substance and produces a s皿all output, By using this engine as teaching aids, students can not only make clearer and deeper understanding of the working mechanism of a stirling engine but also develop their fields in heat en−
gine cycle, engineering heat transfer and so on.
1.ま.えがき
機械工学科の学生は機械工学の基礎,応用科目に加えて,
制御工学,電子工学やコンピュータに関する科目など広範 囲の科目を修得しなければならない。これらの科目を単に 講義のみで理解するのは難しく,実験,実習を通して理解 が深まるよう配慮されている。またビデオ教材なども積極 的に活用されている。
機械系科目のうち熱力学,内燃機関などは,材料力学,
水力学などに比べて扱われる現象が把握しにくく,学生に とって理解しにくい科目のようである。特にスターリング 機関はガソリン機関やディーゼル機関に比べて,実物に接 する機会がないため,その作動原理を講義のみではなかな か理解できない。実機関が身近にあれば,理解が早くかつ 深まると推察される。
そこで本研究では,学習効果の向上を目指して,教材用 の小形スターリング機関を製作した。スターリング機関は,
1816年にR. Stirlingによって発明されたが,蒸気機関の発 達や内燃機関の出現により一時陰をひそめていた。しかし,
近年になり石油危機による省エネルギ化,排気ガスによる 大気汚染や騒音などが社会問題となり,内燃機関に変わる
動力源として注目されている。高熱源に太陽熱も使える可 能性があり,また低公害,高効率などの長所を持ち,世界 各国で移動用動力源として実用化に向けて研究開発が進め
られている(1) (2)。
今回製作した機関は,空気を作動ガスとする串形ディス プレーサ形の機関で,高温部をプロパンバーナ加熱,低温 部を水冷却して,最:高山1W(回転数240 rpm)の出力を 発生した。以下設計・製作の過程および完成した機関の性 能特性について述べる。
2.スターリング機関の動作原理
* 機械工学科
スターリング機関は連続燃焼の外燃機関に属し,シリン ダ内に密封した作動ガス(通常は高圧ガス)を外部から加 熱,冷却し,その温度変化により生じる圧力変化を動力と
して取り出す熱機関である。
図1に示すディスプレーサを持つスターリング機関で作 動原理を説明する(3〕。ディスプレーサピストンの運動によ
り,シリンダ内のガスは高温側と低温側を移動する。ディ スプレーサピストンが下に動くと下部のガスはクーラ,再 生熱交換器(RG),ヒータを通って最終的には加熱されて 上部へ移動し,ディスプレーサシリンダ内は多くの高温ガ スで満たされる。逆に上に動くと上部のガスはクーラに よって冷却されるためディスプレーサシリンダ内を多くの
低温ガスが満たす。このようにディスプレーサピストンの 上下移動により院内のガス温度つまりガス圧力の変化が生 ずる。この圧力変化をディスプレーサピストンと位相差を 持つパワーピストンの上方空間へ導くと出力が得られる。
て出力を比較して諸元を決定した。両ピストンともシリン ダ径,行程ともに60mm,死体積を含めた全体積が800c.cの基 本設計での図示出力は,回転数300rpmで35.2Wとなった。
表1 基本構成
ヒータ
再生熟 交換器 CRG)
クーラ
;F )Q
アイスプレーサ ピストン
ディスプレサ シリンダ
1 H
M
e 7 c
o
i
rl$>N
v
パワービストン
パフーシリンダ
。θ/位相差
K.LM
^・
図1 スターリング機関の動作原理3〕
3.スターリング機関の設計と製作
3.1 基本設計
スターリング機関の構成としては,種々の方法21が提案 されているが,本研究ではパワーピストンとディスプレー サが同一軸上に配置される串形とした。これはシリンダと ピストンの気密性が2ピストン形ほど必要でなく,また小 形化できるためである。作動ガスは空気を用い,大気圧運 転とし,高温室はプロパンバーナ加熱,低温室は水循環に よる強制冷却とし,出力取り出しはWクランク機構とした。
以上の基本構成をまとめて表1に示す。
ピストンは慣性質量をできるだけ小さくし,ピストンと シリンダの加工精度を上げるためにシリンダ長さを短くし て,全体の組立寸法の小形化,ロッド長さの短縮を図った。
分解組立やすさの点から,部品数をできるだけ少なくし,
さらにパワーピストンとディスプレーサピストンは同一径 とした。ピストンとシリンダは同一材料を用い,熱膨張に よるすき間の変化をなくした。パワーピストンとシリンダ 間の圧力漏れはピストンリングを用いず,細動面に設けた 数mm間隔の数本の細い溝で防いだ。またパワーピストンと ディスプレーサピストンの位相差は最適の90。に近づけた。
以上の検討をもとに,低温側および高温側のガス温度を それぞれ50℃,500℃と仮定して,シュミット法〔41を用い
機関形式 雛形ピストン・ディスプレーサ形 作動ガス 空気(大気圧)
高熱源 バーナ加熱
低熱源 水冷却
出力取り出し Wクランク機構 熱交換器 有
3.2 製作と改良
すべての部品は本校の実習工場で旋盤,フライス盤,研 削盤などの工作機械を使用して製作した。特にピストンと シリンダの憎動面の加工には十分注意し,抵抗なく滑らか に動き,かつガス漏れが少ないようにした。クランクは一 体製作が困難なため,分割して製作した後組み付けた。材 料はすべて機械構造用炭素鋼S45Cを用いた。基本設計に 基づいて製作した機関は作動しなかった。このため様々の 改良を重ね運転に成功した。改良点とその目的および効果
をまとめて表2に示す。主要な改良について説明する。
熱交換器は伝熱面積の増加による熱交換効率の向上を図 るため,ハニカム構造のジュラルミンからコイル状の銅線 に変更した。また高温室に熱交換器と同材質,同形状の蓄 熱器を設置し,さらに高温室の壁厚を低減して,高温室内 のガス温度の上昇を図った。これらにより高温室と低温室 のガスの温度差が増大し効果が認められた。ディスプレー サシリンダの外周に取り付けた熱交換器を図2に示す。図 のように熱交換器は低温側,高温側の2つの部分から構成 されている。
次にパワーピストンに圧力漏れを防ぐため,テフロン製 のピストンリング(1本)を取り付け,憎動部に真空グリー
.高温側
図2 熱交換器
表2 改良方法と目的
改良場所 方 法 目 的 効果
熱交換器 ハニカム構造のジュラルミンか 辜Rイル状の銅線へ変更
熱交換効率の向上 ◎
加熱部 蓄熱器の設置および壁厚の低減 高温室のガス温度の維持
◎
パワー sストン
ピストンリングの取り付け(テ tロン製)および憎動部への真
グリース塗布
圧力漏れ防止
○
キャップの取り付け 断熱化と死体積の低減 △ ディス
vレーサ シリンダ径の増大 行程体積の増大と死体積 フ低減
◎
その他
フライホイールおよびクランク フ軽量化
機関摩擦の低減
△
平均圧力の増加 図示出力の増大 ×
(注)◎効果大 ○効果有り スを塗布した。これにより圧力漏れは少なくなったが,摩 擦抵抗の増大により期待したほどの効果は得られなかっ
た。
この他表2に示す改良を行ったが機関は動作せず,最終 的に高温側シリンダ(ディスプレーサシリンダ)の直径を 60mmから82mmに増加させた。行程体積の増大および死体積
DiSplQcer〜...
φ卿 ・
Power
@ piston 1 3卿
ド1﹁ 幽脚
図3 最終仕様の機関組立図
△効果少または無 ×評価不可能
の低減が同時に行え,これにより機関は作動した。この効 果をシュミット法により比較すると,回転数300rpmで図 示出力が約1.5倍に増大しており,行程体積の増大および 死体積の低減の効果は大きいことが分かる。以上の改良に よって得られた最終仕様の機関組立図を図3に,全体の外 観を図4に示す。図4で右上が加熱部である。
図4 スターリング機関本体
4.スターリング機関の性能特性 4.1 実験装置および方法
実験装置の概略を図5に示す。スターリング機関の高温 室はプロパンバーナで加熱し,低温室は歯車ポンプとモー タで冷媒(切削油と氷の混合物)を流量3.27cc/sで循環 させて強制冷却した。
高温部と低温部のガス温度TH, TL,冷却水の温度Tc をクロメル・アルメル熱電対を用いて測定した。機関回転 数nはフライホイール兼用の歯車(歯数120>に非接触で 取り付けた電磁ピックアップ(小野測器MP−9)で検出し,
周波数一電圧変換器(小野測器FV−800)で電圧に変換し た。これらの信号をアナライジングレコーダ(横河電機 3655E)でAD変換し,内蔵のX−Yプロッタに時問波形
を描かせた。
出力測定にはプローニブレーキ(腕の長さ4 cm,秤の最 小読み取り値5g)を用い,この時の各温度は切換スイッ チを介してデジタル温度計(横河電機2575>で測定し,回 転数は周波数カウンタ(ADVANTEST TR 5821)で読み
とった。
、.、.ノ『[r・ノワ
デシタル キ度計 ア→ ライシンケ
香@ しコータ
切拗スイッチ
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周波数 Jウノワ
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闇 一
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@変換器 ;
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@電 磁 sックアップ
@ ブローニ
@ クランク アレーキ
モータ
フライホイール
@(歯車付) 歯車ポンプ.
樋 ■闘
Tc TL OUτ
Xター 潟塔O.
@ 関
「.===7.一
@冷却水
TH
、 ブ〔1バンバーナ
4.2 実験結果および考察
図6は高温室をプロパンバーナで加熱し始めてからの時 間tを横軸に取り,機関回転数n,高温部のガス温度TH,
低温部のガス温度TL,および冷却水の水槽内温度Tcの 変化を示す。回転数が3分20秒のあたりで,急激に増加し た後,低下している。これは,THが約400℃に達した時 にフライホイールに回転を加えて機関を始動させたが,ガ スが高温部と低温部を移動して温度差が縮まり機関が停止 したことを示す。次に5分30秒あたりでTHが約500℃に 達した時に同様に始動させたところ,最初THが下がり回 転数も減少したが,徐々にTHが上がり回転数も回復して 連続運転をすることが出来た。この結果からTHが約 450℃,TLが約40℃で370rpm前後の回転数で安定した運 転が出来ることがわかる。この他種々の温度条件で行った 実験結果によると,高・低温ガスの温度差が約400℃あれ
ば,本機関は連続運転できる。
500 E 400 c 300 200 100 o
o.as
No [oad γ ク
500.
図5 実験装置
eoo
Cva5 050
(T,一TL)/T.
ct}5
図7 温度比の違いによる回転数の変化
a60
375
Ee2so
[
125
∬挫
02
ex)
eO 400 f
xx}
3 4, 5 6 t min
7
図6 機関回転数と温度の.時間変化
80
次に温度の違いによる回転数の変化を横軸に温度比をと り整理した結果が図7である。なお横軸の温度比は再生熱 交換器付のスターリング機関の理論熱効率に相当する。図 ではディスプレーサピストンの材質の違いも比較してあ る。設計段階より高温での材料の熱膨張を考慮してシリン ダとピストンは同材質としていたが,軽量化のためアルミ ニウムピストンでも運転を行った。アルミニウムではピス トンとシリンダの公差は十分大きくしたが,熱膨張係数が シリンダ材料の約2倍のため高温でのアルミニウムの膨張 により{習動抵抗が増加して,高温での運転はできなかった。
しかし異種材料のピストンとシリンダの場合には公差に対 する最適温度に加熱温度を制御すれば,また同材質の場合 にはピストンとシリンダの公差になお一層の配慮を行え ば,低い温度で運転できることが示唆される。図より材質 によらず温度比が大きくなると回転数が増加し,炭素鋼の ディスプレーサピストンは最高400rpmを示している。同 じ材料での記号の違いは組付け方による機関摩擦の差であ
る。
図8はプローニブレーキで測定した正味出力N,を回転 数nに対して示す。バーナ加熱のためガス温度の制御が難
しく,図にはTHが750 K前後の結果のみを示してある。
回転数240rpmで約1Wの最高出力を示したのち,回転数 が増加するとともに出力が低下している。これは本機関は 図9に示すように摩擦仕事Nbが正味出力N,に比べては るかに大きく,回転数が増加すると,Nbも大きくなるた めである。なお機関摩擦は直流電気動力計で駆動運転して 求めた結果であり,先ほどの最高出力回転数では約6Wの 摩擦がある。また高温部のガス温度が高くなると摩擦は小
さくなる。
≧ΦZ
1・5
10
発生している{5)。今後熱交換器の効率向上,動作ガスあ漏 れ防止,流動抵抗の削減,機関摩擦の低減などにより出力 を向上できる可能性は十分あるといえる。
70
60 50 40 Z 30 20
10 Ne Ni
Schmidt
05
Nb
協
t2
10
86≧OZ
4
2
:櫓:驚
300
n rpm 図8 出力特性
o O−O
opo
o se ltfi−6一一M−idh−S65−st−11so 2so 3co 3so 400
n rpm
図9 機関摩擦
図10は実測した正味出力N,と摩擦仕事Nbの和を図示 出力Niとし,シュミット法で計算した理論図示出力Sch midtと比較した結果である。 Niは理論の25%程度である。
シュミット法には多くの仮定があるため㈲理論値と同等の 出力を得るのは難しいが,ある機関では50%程度の出力を
200 300
n rpm
400
図10図示出力のシュミット法との比較 5、あ と が き
本研究では,教材用の小形スターリング機関を設計・製 作し,その性能を測定した。十分な出力は得られなかった が,教材開発の目的は達成した。今後は講義や実験の教材 として活用し,学習効果の向上を図りたい。これによりス ターリング機関のみならず熱機関のサイクル,熱力学,伝 熱学などの理解が深まると期待される。
最後に卒業研究として,スターリング機関の製作に意欲 的に取り組んでくれた大田康治君(現立石電機),松岡徹 君(高評セラ),茂崎邦造君(現ブラザー工業)の3名に お礼申し上げる。
参 考 文 献
(1)山下巌:スターリングエンジン(2),内燃機関,Vol.23,
No, 299 (1984), p. 87.
② 村上昇・百瀬豊・大内弘之・長谷川雅彦1小型自動車 用スターリングエンジンの開発自動車技術,Vol.42,
No.8 (1988), p, 1071.
(3)一色尚次:スターリングエンジンの開発,工業調査会 (1982), p.17,
㈲ 古浜庄一監修:自動車工学全書8,電気自動車,新形 原動機,山海堂(1980),p.163.
(5)文献(4)のP.144.