その他のタイトル Application and Visualization of the
Many‑objective Nonlinear Knapsack problem
著者 仲川 勇二, ノーマン・d クック, 上島 紳一, 林
武文, 井浦 崇
雑誌名 情報研究 : 関西大学総合情報学部紀要
巻 38
ページ 23‑34
発行年 2013‑03‑31
URL http://hdl.handle.net/10112/7756
* 関西大学総合情報学部
多数目的非線形ナップザック問題の応用と可視化
仲川 勇二* ノーマン・D.クック* 上島 紳一* 林 武文* 井浦 崇*
要 旨
非線形ナップザック問題(分離形非線形離散最適化問題)は,よく知られたナップザック問 題をその特殊な場合として含み応用範囲が広いにも関わらず,研究者は非常に少ない.本稿で は,非線形ナップザック問題の研究の歴史を概観し,その拡張形である多目的非線形ナップザ ック問題(目的関数が 4 個以上の多数目的の場合を含む)の厳密解法を説明し,多目的非形ナ ップザック問題の実用化についても考察する.また,多目的最適化の場合,複数の評価基準を 取り扱うことが必要であり多目的最適化問題を解いて得られたパレート解集合の個々の解は互 いに一長一短の特性をもつ.このパレート解の集合から意思決定者にとって最も良い解を選択 するために役立つ可視化の技術について提案する.
キーワード:組み合わせ最適化,多目的,多数目的,非線形ナップザック,可視化
Application and Visualization of the Many-objective Nonlinear Knapsack problem
Yuji NAKAGAWA Norman D. COOK Shinichi UESHIMA Takefumi HAYASHI Takashi IURA
Abstract
Nonlinear knapsack problems, which are also called “separate nonlinear discrete optimization problems,” include the (0 1) knapsack problem, which is well known as a special case. Of course the application range of the nonlinear knapsack problem is wide, but the number of researchers is very few.
In this paper, we describe a general view of the history of the research on the nonlinear knapsack problem. We explain the exact method for solving multi-objective nonlinear knapsack problems, which is an extension of the nonlinear knapsack problem and includes four or more objective functions.
Practical usages of the multi-objective nonlinear knapsack problem are considered. Furthermore, we handle two or more criteria of multi-objective optimization problems when we solve the multi-objective
optimization problem. Each of the obtained Pareto solutions, which have characteristic merits and demerits, is evaluated by using multiple criteria. We propose a visualization technology, which a decision-maker uses in choosing the best compromised solution out of these Pareto solutions.
Key word: Combinational Optimization, Many-objective Optimization, Multi-objective Optimization, Visualization
1 .はじめに
本稿においては,目的関数が 4 個以上の多数目的の場合を含む多目的非線形ナップザック問 題の応用とその際必要となる可視化技術について議論する.
非線形ナップザック問題は,数理計画の重要な分野で組合せ最適化問題のひとつである,多 次元非線形ナップザック(multidimensional nonlinear knapsack)問題は,多制約分離形非線形離 散最適化問題(multiple-constraint separable nonlinear discrete optimization problem)のことであ る.非線形ナップザック問題の特別な場合として,非線形の資源配分問題(resource allocation
problem)がある.多次元非線形ナップザック問題は,線形のナップザック問題のほとんどをそ
の特別な場合として含んでおり,ナップザックと名前がつく問題の中ではもっとも解くことが 難しい問題である.当然,実用面では他のナップザック問題よりも応用範囲が広く重要な問題 である.
非線形ナップザック問題が文献において最初に現れたのはIEEEの信頼性工学の分野である と考えられる.1956 年のMoskowitz,McLean[ 1 ]あるいは日本人として最初の 1959 年のMine[ 2 ] の論文では,信頼度を最大化する最適化問題が取り扱われた.複数のサブシステムからなるシ ステムは,サブシステムを複数個並列冗長することでシステムの信頼度を向上させることがで きる.このとき全体のコストが許容制限内で信頼度を最大にする冗長配分を決定する問題が最 適冗長配分問題である.この問題は少し規模が大きくなると厳密に解くことができないため,
ヒューリスティック解法が活発に研究されたが,厳密解法の研究は極めて少なかった.非線形ナ ップザック(Nonlinear Knapsack)という用語が初めて登場するのは,1976 年のMorin,Marsten[ 3 ] においてである.
非線形ナップザック問題の厳密解法としては,1978 年に発表されたMarsten,Morin[ 4 ]の動的 計画法と分枝限定法のハイブリッド解法が有名である.しかしこの解法では複数制約の大規模 な非線形ナップザック問題を解くことは困難であった.制約が複数であるという困難(DPでい う次元の呪い)を突破するための光が,Glover[ 5 ]の代理制約の考え方である.複数の制約条件 式の各制約に重み(代理乗数)を付けて足し合わせ一つの制約(代理制約)とし,複数制約の 代わりをさせるという考えである.この代理制約問題の最適な代理制約乗数を決定することは,
線形の問題の場合は比較的簡単であるが,問題が非線形の場合は容易ではなかった.
この代理制約法に対して,多次元非線形ナップザック問題に利用可能な最適な代理乗数を決 定するアルゴリズムを提案したのが,1980 年の英国数学者Dyer[ 6 ]および仲川等の 1981 年[ 7 ], 1984 年[ 8 ]の研究である.しかし,代理制約法を用いた解法は代理ギャップ(ギャップのため厳 密解が見つからない場合)がある問題に対しては無力であった.この代理ギャップの問題を解 決することは極めて困難で,Dyerらのグループも新たな成果を出すことができずに十数年が経 過した.この代理ギャップの問題を解決したのが 2003 年の仲川[ 9 ]である.このとき用いたの が標的解法で,代理ギャップがある近辺の解を完全列挙することで厳密解を見つけることに成 功している.
2007 年にこの代理制約法を信頼性工学の分野で超難問として知られていたマルチコンポーネ ント混合選択問題に適用し,世界で初めて厳密解と保証された解を見つけることに成功した.
1968 年にFyffeら[10]は,二つの制約条件のもとで各サブシステムにおいて複数のコンポーネン トから一つを選択し並列冗長として用いるマルチコンポーネント選択問題を提案し,また, 2 制約の最適化問題をDP(動的計画法)で解くために制約条件の一つにラグランジュ乗数を掛け て目的関数に移動して,制約条件が一つの非線形ナップザック問題へ変換することを試みた.
このシステム信頼性最適化問題はコンポーネント選択と冗長数を同時に決定するため,当時と しては厳密に解くことが極めて難しい問題であった.Nakagawaら[ 7 ]はこのマルチコンポーネ ント選択問題に対して代理制約を用いて二つの制約条件を一制約条件の問題に変換し原問題の 代理双対問題を考え,さらに最適な代理乗数を決定する方法を提案し,Fyffeらのラグランジュ 関数を用いたDPと性能比較するために,マルチコンポーネント選択問題の例題を変形し 33 問 のテスト問題を作成した.実験結果よりラグランジュ関数を用いたDPよりも代理双対問題を 解く代理制約問題の方が代理ギャップの面で優れていることが示された.その後,厳密解法の 研究としての進展はなかったが,1996 年にCoit, Smith[11]はNakagawaら[ 7 ]のマルチコンポーネ ント選択問題 33 問において,複数のコンポーネントの混合使用を許すことで困難度を更に高く したマルチコンポーネント混合使用選択問題 33 問として再提案した.この組み合わせ最適化問 題は,解空間の規模が 7.6 × 1033と非常に大きいため,既存の解法では厳密解を求めることが できないと考えられ,様々なメタヒューリスティク解法を用いて近似解を求め,得られた解の 品質を競う研究が十数年に渡り活発に行われた.大西ら[12]は,仲川が開発した改良代理制約法
(ISC法:Improved Surrogate Constraint Method)[ 9 ]を,この問題に適用して,短いCPU時間で 厳密解を求めることに成功した.
この標的解法を多目的の問題に適用したのが[13][16]の一連の研究である.文献[13]
において,複数目的の離散最適化問題に対して代理乗数を用いて単一の目的関数の問題(代理 目的問題)に変換し,この代理目的問題を解くことで原問題のパレート解(有効解,非劣解と も呼ばれる)を効率よく求めることができることを示した.Isadaら[14]は単一の制約条件式を もつ多目的問題の大規模問題に対して,意思決定者にとって必要とされるパレート解の部分集 合を実用的な時間で求めることが可能であることを示した.この時一部のパレート解が欠ける
可能性があったが,仲川ら[15]においては,欠けるパレート解がないように列挙の時の標的の値 を決定する方法を提案した.また,仲川ら[16]においてはある与えられた二目的のナップザック 問題に対して厳密に全てのパレート解(欠けることがなくパレート解であることが保障された 解)を列挙する解法を提案し,計算機実験で既存の解法と比べ格段に高速であることを示した.
2 .多目的多次元非線形ナップザック問題
一般的によく知られたナップザック問題は,子供が遠足に行くときに,できるだけ好きな品 物をナップザックに一杯詰めて持っていきたいときの問題である.詰め込みすぎると重たくて 持っていけなくなる.重さの制約のもとで好ましさを最大にする品物(代替項目)の組み合わ せを決定する問題がナップザック問題である.n個の品物の好ましさの度合いと重さをそれぞ れci,aiとし,重さの最大許容量をbとすると, 0 1 ナップザック問題は次のように書ける.
P1: max(f x) =
n
Σ
i= 1cixis.t. g(x) =
Σ
i= 1n aixi 侑 bxi ∈ {0, 1}(i ∈ N)
と書ける.ここで,xi= 1 または 0 はナップザックに品物iをそれぞれ入れるか入れないかを意 味する.このナップザック問題で,重さの制約だけではなく容積やコスト等の制約を考えた場 合,複数の制約条件式をもつ多次元(1)ナップザック問題となる.また,同じ品物を複数個入れ ることを許した問題は,整数値ナップザック問題と呼ばれる.
ナップザック問題で子供に好きなものばかり入れさせると,弁当を入れずにお菓子ばかり入 れてしまうかもしれない.そこで,お菓子のグループからは一つの品物,弁当のグループから は一つの品物というように採用する品物に制約を入れると非線形ナップザックになる.
多次元非線形ナップザック問題(分離形離散最適化問題とも呼ばれる)は,n個のプロジェ クトがあり,そのプロジェクトに対して投入可能なm種類の資源(人,費用,原材料等)があ るものとする.それぞれのプロジェクトi ∈{1, 2, … , n}にはki個の考慮可能なレベル(代替 項目)があるものとする.もしプロジェクトiでレベルxi ∈{1, … , ki}を採用したとき,資源 j ∈{1, 2, … , m}の消費量はg(ji xi)とし,その時のリターン(満足度,収益等)の量は(fi xi) とおく.また,資源jの最大許容消費量はbjとすると
(1) 多次元という言葉は,複数の制約条件式をもつナップザック問題を動的計画法(Dynamic Programming)
で解くときに多段決定過程で複数次元の取り扱いを必要とするためこの言葉が使われるようになった.
当初,ナップザック問題は動的計画法が最も有効な解法と考えられていた.
P: maxf(x) =
Σ
i= 1n (xfi i)s.t. g(j x) =
Σ
i= 1n g(ji xi) 侑 b(j j ∈ M)xi ∈ K(i ∈ N)i
と書ける.ここでx = (x1, x2, … , xn)は決定すべき変数ベクトルで,M = {1, 2, … , m}は資源 に対する制約条件式の添え字集合,N = {1, 2, … , n}決定変数の添え字集合,Ki = {1, 2, … , ki}は各変数xiの値は採用すべき代替項目を示す.
この多次元非線形ナップザック問題にq個のリターンを考慮したのが多目的多次元非線形ナ ップザック問題である.すなわち
P: max(x) = f
(
f(x), f1 (x), … , f2 (x)q)
s.t. x ∈ X
ただし,f(s x) =
Σ
n i= 1 f(xsi i)(s = 1, 2, …, q), X={
x ∈ K|
g(x)侑j b(j j ∈ M)}, K={(x1, x2, …, xn)|
xi ∈ K(i i ∈ N)}
.3 .多目的多次元非線形ナップザック問題の解法
3.1 加重和単一目的問題と代理目的標的問題
多目的多次ナップザック問題に対応した加重和(weighted sum scalarization)単一目的問題 P(s w)と代理目的標的問題P(T w, fT)[14]は以下のように記述できる.
P(w): Maxs
Σ
q s= 1 wsf(x)s s.t. x ∈ X およびP(T w, fT): 次の標的に当ったすべての実行可能解を列挙する 標的 :
Σ
q s= 1 wsf(x)侒 s fTs.t. x ∈ X,
ここで,ws 侒 0 (s= 1, 2, … , q)は各目的関数に対する重みで
Σ
q s= 1 ws= 1 であり,fTは解を列挙するための標的値である.
原問題Pの有効解の種類としては,加重和単一目的問題P(w)を解くことで得られる支持s
(supported)有効解と,加重和問題を解くことでは得られない非支持(unsupported)有効解があ
る.支持有効解はウエイトwの値を変化させて加重和問題P(s w)を厳密に解くことで比較的簡 単に得られるが,くぼんだ場所に存在する非支持有効解を求めるには何らかの工夫が必要とな る(図 1 参照).
本論文で扱うパレート解を求めるための標的解法は,あるウエイトw(l)(l ∈ L ={1, 2, … , lU}) とある標的値f(l)T をもつ標的問題P(T w(l), fT(l))を改良代理制約法[ 9 ]で厳密に解き得られた標的 解集合(f(l)T 以上の標的値を持つ実行可能解の集合)の中だけで比較することで原問題Pの有 効解が得られることに着目した解法である.この事実は下記の定理 1 で示される.問題P(T w(l), f(l)T )に対して制約条件x ∈ Xを満たし標的値f(l)T 以上の目的関数値をもつ標的解の集合をXT(l)
とする.また,原問題Pの二個の目的関数を用いてX(l)T 内のすべての要素間において優越操作 を行い,明らかに劣った解を取り除き得られた解集合をX(l)E とする.すなわち,
X(l)E =
{
x ∈ X(l)T|
(x')侒 ff (x)かつ(x')f ≠(x)となるf x' ∈ X(l)T が存在しない}
このとき次の定理 1[13]が成り立つ.
[定理 1 ] 解x ∈ X(l)E は原問題Pの有効解である.証明略.
定理 1 より,標的解集合X(l)T の中だけで比較することで得られた有効解集合X(l)E は原問題Pの 有効解集合である.
18500 18600 18700 18800 18900 19000 19100
18200 18300 18400 18500 18600 18700 18800 18900 19000 19100 19200 feasible soluons unsupported effi. sol.
supported effi. Sol.
1( ) f x
2( )
f x
図 1 実行可能標的解,支持有効解および非支持有効解
図 2 有効三角形
次にすべての有効解を欠けることなく列挙するために,有効三角形(図 2 )を利用する.本 論文では,支持有効解だけではなく既に得られている非支持有効解も含めて,目的関数値にお いて隣接する二個の有効解により構成される有効三角形(図 2 )を考える.この有効三角形全 体が列挙領域内に完全に含まれていれば,この隣接する二個の有効解の区間は列挙が終了した ことになる.有効三角形部分が完全に列挙されているかどうかを検査することを,二個の有効 解に対する有効三角形テストと呼ぶ.これをq個の目的関数の場合に拡張したのが,次の定理 である.
[定理 2 ] 目的関数値において隣接するq個の有効解x1, x2, …, xqを考える.ある有効解x(r r ∈ {1, 2, … , q})に対して隣接したq 1 個の x(s ∈ s {1, 2, … , q}, s ≠ r)の参照点は,
f(R xr, xs) = ρrs(f xs)(s = 1, … , q)
となる.ここで,
ρrs = minj=1, … , q
{
f ((xfjjxsr))}
(s ∈ {1, … , q}, r ≠ s) である.証明略.定理 2 より有効解の目的関数値集合f(x1),f(x2),…,f(xq)と原点 0 で構成された凸包には,
新たな有効解が存在しないことが分かる.
3.2 複数制約を持つ代理目的標的問題を解くための解法
複数制約を持つ標的問題(代理目的標的問題)を厳密かつ効率よく解くために,代理制約法
を用いる[ 9 ].代理制約法は複数の制約条件式を持つ原問題に対して,代理乗数を用いて単一制
約条件式の代理問題からなる代理双対問題へ変換し,この双対問題を解くことで原問題の最適 解を求めようとする方法である.しかし多くの離散最適化問題では,代理双対問題に双対ギャ ップ(duality gap)が存在することが多く,代理制約法は解決が困難な問題点を持つ解法と考 えられていた[ 7 ].この問題点を解決するために,仲川[ 9 ]は標的(標的に当たった解を列挙す る)問題を解くことで代理双対ギャップを閉じ,原問題の厳密解を求めることができる改良代 理制約法(ISC法)を提案した.この解法により 3 個の制約条件式を持ち 1000 変数で各変数 20 個の代替項目を持つ問題や 8 制約で 500 変数 50 代替項目の問題のように,極めて大規模な多制 約非線形ナップザック問題も厳密解を求めることが可能になった.従来の解法では 30 変数でも 解くことができなかったことを考えると,500 変数や 1000 変数の問題が厳密に解けるようにな ったことからISC法が卓越した計算性能をもつことがわかる.
代理目的標的問題を厳密に解くためにISC法を用いるとき,代理制約法の代理双対ギャップ を閉じるための最適な代理乗数をもつP(T w, fT)の双対問題は,
P˜(T w, fT): 次の標的に当ったすべての実行可能解を列挙する 標的 :
Σ
q s= 1 wsf(x)侒 fs Ts.t. x ∈ X
と表せる.ただし,X =
{
x ∈ K| Σ
m j= 1 ujg(j x)侒Σ
m j= 1 ujbj}
.ここで,最適な代理制約乗数uは,仲川ら[ 8 ],[17]によって提案されたCOP(Cutting-Off Polyhedron)
アルゴリズムで求めることができる.双対問題P˜(T w, fT)を解き原問題の実行可能領域x ∈ X を満たす標的解を求めることでP(T w, fT)の標的解が得られる.
双対問題P˜(T w, fT)は,制約条件式が一つである.この代理双対問題は,モジュラ法[18],[19]を 用いて高速に解くことが可能である.モジュラ法は分枝限定法の分枝操作で幅優先探索を用い た場合を拡張したもので,次の 1 )と 2 )の操作を繰り返して原問題をより規模の小さい等価 問題へ変換する.
1 )等価問題に対して深測操作を適用し決定空間(変数の項目空間)を縮小する.
2 )等価問題の変数の中から二個の変数を選び一つの変数に統合することで,変数の数を一つ 減らした等価問題を作る.ここで,決定空間とは探索する解空間のことであり,深測操作と は等価問題の決定空間を狭めるために,変数の項目を固定してできた部分問題に対して次の 二つのテストを行う操作である.
1 )実行可能性テスト
部分問題が実行可能解を含むかどうかテストする.
2 )限界値テスト
部分問題の限界値を求め,標的値fTと比較し標的値よりも良い解を含むかどうかを判定する.
また,二つの変数を一つの変数に統合する統合政策は,各変数に対して上界値の最大と最小 の差(上界値差)の大きい二つの変数を優先選択する.この上界値差は後の研究[20]で,変数の 困難度と密接に関係していることが分かった.仲川[20]では複数制約の 0 1 ナップザック問題 の計算の困難度を測るために,エントロピーを用いた新しい推定法を提案している.問題の各 変数において,代替項目(変数がとりうる値 0 または 1 )がよく似た特質を持ち共に最適解と なる可能性が高い場合と,全く違う特質を持ち明らかに一方の代替項目が最適解になる可能性 が高い場合が考えられる.代替項目がよく似た特質(上界値差で測る)を持ちどちらが最適解 になるか予想しにくい変数を困難度の高い変数と呼ぶと,難しい問題は困難度の高い変数を多 く含む問題であることが実験的にも示された.
また,モジュラ法で代理双対問題P(w, T fT)を解く際に計算効率を更によくするために,変 数を統合し変数の数が十分少なくなった(約 20 個)後に,Jamesら[21]は変数の数が少なくなっ た問題に対してConstraint-based ApproachとState Search enumeration等の全実行可能解を列挙す る方法を適用することを提案している.計算実験ではナップザック問題に対しては世界で最も 高速と評価の高いCPLEXよりも計算効率で優れていることを示している.本論文の計算実験 では,モジュラ法と全実行解列挙法(State Search enumeration)のハイブリッド法[21]を用いて いる.
3.3 意思決定者の求めるパレート解の列挙
意思決定者が希望するパレート解を求めるための手順を図 3 に示す.初期代理目的乗数w(l)
と初期標的値fTの決定は,経験的な数値を用いる.また,標的解集合XTの大きさについては プログラムの中では要素の数で判定している.
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図 3 意思決定者にとって好ましいパレート解列挙の手順
4 .多数目的最適化のための情報可視化
q(侒 4 )個の評価関数(目的関数)の情報を可視化することで,意思決定者が最善の妥協解 を見つけることを支援する.提案する支援システムは,まず意思決定者が重要と考える 3 つの 評価関数を選択する.得られたパレート最適解集合XE
(l)(l ∈ L)に対して,この 3 つの評価関 数値を用いて図 4 のように三角グラフ(ternaryplot)を描く,この三角グラフ上においてカーソ ルで選択されたパレート解のq個の評価関数値をレーダーチャートで表示することができる.
このレーダーチャートを参考に意思決定者が最善の妥協解見つける.
5 .多目的最適化の応用例
1 )応用例 1 .テキサス州の道路補修問題
単一年度だけを考えて道路補修をしていくと,各年度の予算を有効に使えず数年後に多大の 出費を強いられる場合がある.そこで今後 5 年間を考えて補修計画を作るものとする.n個の 補修すべき区間があり,区間i ∈{1, 2, … , n}には代替案としてki個の 5 年間の補修計画があ るものとする.目的関数としては 5 年間の年度ごとの道路状況を用いる.制約条件は各年度の 予算執行額が許容予算額内であることを用いる.
2 )応用例 2 .動圧気体軸受の設計システムの開発
動圧気体軸受は,相対運動する軸と軸受間の微少な隙間で発生する動圧力によって負荷能力 と剛性を確保している.この適用事例として,磁気ディスク装置の浮上型ヘッドスライダが挙 げられる.高速走行するディスク表面とヘッドスライダの間の隙間を 10nm程度に保ち,ディ スクの振動や外乱に対して安定に動作させるためには,軸受面の形状の最適設計が不可欠とな る.通常,軸受面は,イオンビームエッチングで形成された 6 〜12 程度のパーツで構成される が,パーツの数,縦横寸法,配置,押付荷重,溝深さなどのパラメータによって軸受の性能が 決められる.これまで試行錯誤の繰り返しにより,パラメータの選択を行っていたが,本研究 の結果を適用することにより設計効率の飛躍的な向上が期待される[22].
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0.25 0.27 0.29 0.31 0.33 0.35 0.37 0.39 0.41
0.6 0.65 0.7 0.75 0.8
図 4 パレート解の三角グラフとレーダーチャート
3 )応用例 3 .棚割りシステムの開発
商品の陳列の仕方は,販売実績に大きな影響を与えることが知られている.陳列対象の商品 は店舗規模が大きくなると商品数も増加し,陳列方法の組み合わせの数が指数関数的に増え複 雑になってくる.そのため従来の人が作成する棚割り表では最適なものを作成するのが困難で あった.この棚割り最適化では,事業目標や制約事項が数多く重なり,競合し合う状況で利益 を最大にすることである.利益を最大にする為に,基礎需要量,位置効果,フェイシング効果 を考慮してモデル化を行なう.最終的に得られたパレート解(商品を制約条件の下で最適化さ れた解)から最適な妥協解を求めるために棚割り表として可視化をおこなう.
〔謝辞〕本研究の一部は,平成22,23年度関西大学重点研究による成果である.
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