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【学位論文審査の要旨】

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Academic year: 2021

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【学位論文審査の要旨】

1 研究の目的

低地の止水で繁殖するサンショウウオ類は,人為的な環境変化により個体群の衰退が著 しく,保護が急務とされている.野生生物を保護する際,生態学的な知見 (生活史,個体 群密度,個体数変動,生残率) に加えて,集団遺伝学的な知見が欠かせない.特に,集団 遺伝学的モニタリング (genetic monitoring),管理単位 (management unit) の推定,遺 伝的多様性 (genetic diversity) の評価,そして遺伝子汚染 (genetic pollution) の有 無は,適切な保全計画を立てる上で必須である.本研究では,関東に生息するトウキョウ サンショウウオ (Hynobius tokyoensis) および九州東部に生息するオオイタサンショウウ

オ (H. dunni) に関して,将来的な保全に向けて,これら 4 項目を含む集団遺伝学的解析

を行った.

2 研究の方法と結果

まず,トウキョウサンショウウオ 46 集団 815 個体について,ミトコンドリア DNA の cytochrome b (650-bp) および核 DNAのマイクロサテライト 5 遺伝子座に基づく集団遺伝 学的解析を行った.トウキョウサンショウウオはHynobius属の中で分子系統学的によくま とまった集団を形成し,福島南部から房総および三浦半島南部まで断続的に生息する.本 種は,地理的に比較的狭い範囲に分布しているにもかかわらず,集団ごとの遺伝的差異は 顕著であった.特に,北部と南部では遺伝的差異が大きく,銚子から房総半島にかけてと,

栃木から東京にかけて,それぞれ異なる遺伝的な傾斜が認められた.一方,三浦半島と房 総半島南部の集団は遺伝的に類似しており,両半島が陸続きであった時代に移動分散が起 こった可能性を支持している.遺伝的多様性に関して,ミトコンドリア DNA と核 DNAに基 づく多様度を比較した結果,両者の間には正の相関が認められ,分布の周縁域でとくに遺 伝的多様度が低い集団が見られた.また,埼玉集団と三浦半島集団および埼玉集団と房総 半島集団の間にはそれぞれ遺伝子汚染が生じている可能性が示唆された.

次に,オオイタサンショウウオ 12 集団 242 個体において,ミトコンドリア DNA の cytochrome b (569-bp) および核 DNAのマイクロサテライト 3 遺伝子座に基づく集団遺伝 学的解析を行った.オオイタサンショウウオについては,形態分類と分子系統解析の結果 が一致しなかったため,九州東部の集団のみを解析対象とした.本種もトウキョウサンシ ョウウオと同様に,大分県から宮崎県という比較的狭い分布域にも関わらず,大きな分集 団化が認められた.また,主に分布域の周縁部で遺伝子多様度の低い集団が見られた.

これら都市近郊に分布する低移動性サンショウウオ類に関しては,繁殖場所ごとに遺伝 的な分化が生じている可能性が示唆された.そのため,保全管理単位の決定を行う際には,

比較的狭い範囲の管理単位とする必要がある.また,分布域の周縁部では,両種ともに遺 伝子多様性が低い傾向があった.やむを得ずこれらの集団に対して遺伝的多様性の回復を 目的とした導入を行う際には,遺伝子汚染に十分注意する必要がある.

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3 審査の結果

池,沼,谷戸などで繁殖する止水性のサンショウウオ類のうち,平地にしか生息しない 種の分布の衰退が問題となっている.これらの種は,人間活動の影響を受けやすく,生息 地が縮小すると同時にそれぞれの生息地が孤立するようになってしまった.サンショウウ オ類の分散能力は極めて低いため,いったん孤立してしまうと,その後の遺伝的浮動の影 響を受けやすく,遺伝的多様性が損なわれてしまうことが多い.そうした,集団毎の遺伝 的差異や遺伝的多様性の低下を評価することは保全上とても重要であるにも関わらず,簡 単に行えなかった.しかし,最近の DNA 解析の技術の向上によって,それが可能になり,

今回の成果は,種の生息地全域にわたる詳細な集団遺伝学的解析のさきがけともなる研究 である.同じトウキョウサンショウウオと言っても,関東平野の地史などの影響もあって,

集団毎に遺伝的の異なることが明らかになった.一方で,おそらく人為的な影響を受けて,

遺伝的多様性が失われた集団が,各地で認められ,これらの集団については,保全活動を 優先させる必要があり,市民活動として行われているトウキョウサンショウウオの保全活 動の指針ともなる成果である.九州のオオイタサンショウウオについても同様の成果が得 られ,これも今後の本種の保全活動の指針となるだろう.このように,この研究は,止水 性サンショウウオ類の保全に対する先駆的研究であり,優れた成果を含んでいる.これら の研究の一部は,すでに国際的な学術雑誌に英語論文として発表され,他の部分も国際誌 に英語論文として投稿中である.よって,博士(理学)の学位に十分値するものと判定し た.

4 最終試験の結果

本学の学位規定にしたがって、試験および試問を行った。公開の席上で論文発表を行い、

専攻教員による質疑応答をもって試験にあてた。また、論文審査委員が本論文および関連 分野について試問を行った。その結果、専門科目および外国語について十分な学力がある ことを認め、合格と判定した。

参照

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