第 1 回西之島総合学術調査の概略
森 英章
1*
、港 隆一1
、小山田佑輔1
、川上和人2
、大湊隆雄3
、向 哲嗣4
、 川口大朗4
、高嶺春夫5
、永野 裕1
、寺田 剛1
、日髙裕華1
、安齊友巳1
、菅野康祐
6
、横山直人7
Overview of the Nishinoshima comprehensive scientific research project
Hideaki MORI 1* , Ryuichi MINATO 1 , Yusuke OYAMADA 1 , Kazuto KAWAKAMI 2 , Takao OHMINATO 3 , Akitsugu MUKAI 4 , Dairo KAWAGUCHI 4 , Haruo TAKAMINE 5 ,
Hiroshi NAGANO 1 , Takeshi TERADA 1 , Hiroka HIDAKA 1 , Tomomi ANZAI 1 , Kosuke KANNO 6 & Naoto YOKOYAMA 7
1.
自然環境研究センター(〒130-8606 東京都墨田区江東橋3-3-7)
Japan Wildlife Research Center, 3-3-7 Kotobashi, Sumida, Tokyo 130-8606, Japan.
2.
森林総合研究所(〒305-8687
茨城県つくば市松の里1
)Forestry and Forest Products Research Institute, 1 Matsunosato, Tsukuba, Ibaraki 305- 8687, Japan
3.
東京大学地震研究所(〒113-0032 東京都文京区弥生1-1-1)
Earthquake Research Institute, The University of Tokyo, 1-1-1 Yayoi, Bunkyo, Tokyo 113- 0032, Japan.
4.
アイランズケア(〒100-2211
東京都小笠原村母島字静沢)Islands Care, Shizukazawa, Hahajima, Ogasawara, Tokyo 100-2211, Japan.
5. HARUKA-MARU(〒100-2101
東京都小笠原村父島字清瀬)HARUKA-MARU, Kiyose, Chichijima, Ogasawara, Tokyo 100-2101, Japan.
6.
環境省小笠原自然保護官事務所(〒100-2101
東京都小笠原村父島字西町)Ministry of the Environment, Nishimachi, Chichijima, Ogasawara, Tokyo 100-2101, Japan 7.
環境省自然環境計画課(〒100-8975
東京都千代田区霞が関1-2-2
)Ministry of the Environment, Biodiversity Policy Division, 1-2-2 Kasumigaseki, Chiyoda,
Tokyo 100-8975, Japan.
* [email protected] (author for correspondence)
要旨
小笠原諸島の西之島は
2013
年からの噴火で島のほとんどが溶岩に覆われ、新た な陸地が生まれた。この島は太平洋上に孤立し、最寄の陸地から130km
も隔離され た無人島であることから、海洋島における生態系の一次遷移を人為的影響のない状 態で観察できる世界に例のない場所と言える。そこで、2019
年9
月、西之島の自然 環境の現況を明らかにするため、初の総合学術調査が行われた。噴火直後に生物、地質及び火山活動における網羅的な分野の調査を実施することで、火山島の形成過 程、噴火による生物相への影響、新たな遷移の開始時点の状況等を把握して、西之 島の科学的価値を明らかにすることを目的とした。
本調査は環境省とともに、東京大学及び日本放送協会の連携により実施され、鳥 類、陸上節足動物、植物、潮間帯生物、地質、火山活動の各分野における専門家、
及び調査研究に対するサポート隊を含め、計
22
名の調査隊が組織され、9
月3
日~5
日に上陸して行った。調査の実施に当たっては、調査による人為的な影響を最小 限に抑えるため、外来生物の侵入を防止するための検疫を実施した。また、火山活 動や上陸時の安全管理にも十分に配慮した。キーワード
安全管理、一次遷移、遠隔離島、小笠原諸島、検疫
1.西之島の概要
1-1.西之島の火山活動の記録
西之島は東京本土部の南方
1,000km
ほどの距離にある小笠原諸島の島である(図1)
。伊豆-マリアナ諸島にかけて伸びる島弧の一部であるが、近年活発な火山活動 が見られている(表1)
。1702
年にスペインにより発見されて以降、しばらくは噴火 の記録はなかったが、1973年、西之島近傍で海底火山が噴火し、有史以降初めての 火山活動が記録された。1974
年まで続いた活動により西之島新島と旧島が結合し、面積は
0.07km 2
から0.316 km 2
に拡大した。2013
年11
月、40
年ぶりに西之島南東沖 で海底火山が噴火し、溶岩により旧西之島の95%以上が溶岩の下に埋まった。 2015
年には噴火が一旦収束したものの、2017年4
月〜7月および2018
年7
月に噴火が 生じ、面積は最大で2.95km 2
、標高は160m
に達した。2019
年9
月には旧西之島由 来の陸地(旧島)は島の西部に約0.005 km 2
が残存し、その他の部分は2013
年の噴 火以後にできた溶岩、スコリアの堆積した海浜、火砕丘などによる新たな陸地で構 成されている。図
1.
西之島の地図と景観左:調査航路。台風養生のための南硫黄島への航路も示した。 右:調査位置図(
A.
旧島、
B.
北西台地、C.
西之浜、D.
南西浜)。地図は国土地理院発行のものを改変.Figure 1. Map and landscape of Nishinoshima Island
(Left) Sea route of the research. Evacuation routes to Minami-Iwo-To Island to avoid waves
due to the typhoon are also shown. (Right) Location map of the survey (A. Remnant of former
island, B. Northwest plateau, C. West beach, D. Southwest beach).
表
1.
西之島の火山活動及び主な上陸調査等に関する年表Table 1. Chronology of volcanic activities and surveys in Nishinoshima Island
情報は上記文献より引用した。旧島と新島が結合する前は面積を旧島
+
新島で表現 した。R
で示した回の数値は参考値。Information was obtained from the above literatures. Before the old and new islands joined, the area is shown as “the old island + the new island”. “R” means reference values at the time.
年
year
月
month
面積
area (km
2)
参考情報
Remarks
文献
Reference
1702 9 ロザリオ号(スペイン)が発見、ロザリオ島と命名 *2
1801 ノーチラス号(イギリス)が発見、失望の島と命名 *2
1854 45 アメリカの⽇本遠征隊による報告。島の⻑さ1400m *2
1911 6 測量艦松江(⽇本)による測量。 *2
1969 7 小笠原諸島自然公園調査団による上陸調査 *3
<1973 0.07 25 噴火前 *5
1973 4 4月12⽇に変色域を確認、5月30⽇より白煙。 *5
12 0.07+0.121 52 12月21⽇、⻄之島新島と命名 *4
1974 3 東海大学、東京工業大学、気象庁等による上陸調査 *2
7 東京大学、東海大学等による上陸調査 *2
8 0.316 6月10⽇、旧島と新島が結合 *5
1983 5 千葉大学等による上陸調査 *9
1992 0.29 25 *7
2003 産業技術総合研究所等による上陸調査 *11
2004 7 森林総合研究所による上陸調査 *1
2012 7 東京都小笠原支庁による上陸調査 *10
2013 11 11月20⽇、噴火 *4
12 0.29+0.097 39 R 12月26⽇、旧島と新島が結合 *6
2014 2 0.51 66 R *6
12 2.27 110 R *6
2015 12 2.71 142 R 11月17⽇以降噴火は観測されず *6
2016 10 東京大学、森林総合研究所、環境省等による上陸調査 *8
12 2.72 143 *6
2017 4 4月20⽇再噴火、8月まで噴火を継続 *4
2018 1 2.95 160 R *6
7 7月12⽇再噴火、7月末に噴火は認められなくなる *4
2019 5 2.89 160 *7
9 環境省、東京大学等による上陸調査 本調査
12 12月6⽇再噴火 *4
*1: Abe (2006), *2: ⻘⽊・小坂(1974), *3: 浅海ほか(1970), *4: 海上保安庁(2020), *5: 気象庁
(2020), *6: 国土地理院(2018), *7: 国土地理院(2019), *8: 中野ほか(2017), *9: 大沢・倉田
(1983), *10: 東京都小笠原支庁土⽊課自然公園係(2013) , *11: 海野・中野(2007)
標高
elevation
(m)
1-2.西之島における総合学術調査
1973
年の噴火から2013
年の噴火までの間に、生物や地形、地質に関する上陸調 査が少なくとも1974
年、1975年、1976年、1977年、1978年、1979年、1982年、1983
年、1985
年、2003
年、2004年、2012
年に行われた(倉田・金子、1982;
大沢・倉田
1983;
小坂、2004;Abe, 2006;
海野・中野、2007;
東京都小笠原支庁土木課自然公園係、
2013
)。また、2016
年には2013
年噴火後初の上陸調査が行われた(川上、2017
)(表1
)。しかしその多くは植物や鳥、地質など特定分野の専門家による調査 であり、総合的な学術調査は行われてこなかった。上述のとおり、西之島は度重なる火山活動により島のほとんどが溶岩に覆われる こととなった。同様に噴火により新たな陸地が形成された例としてはインドネシア のクラカタウ島(
Thornton, 1997
)やアイスランドのスルツェイ島(Fridriksson, 1975
) が知られるが、いずれも大陸島であるとともに、近隣の島から近距離にあるためそ の影響を強く受けると考えられる。また、有人島との距離も近いことで生態系の成 立過程に人為的な影響が及びやすいと考えられる。一方、西之島は孤立した無人島 であり、最も近い有人島の父島から約130km
離れているため、小笠原諸島やハワイ 諸島のような孤立した海洋島が形成された際に起きる生態系の成立過程を観察で きる絶好の機会を提供している。小笠原諸島はその自然の持つ価値の高さから
2011
年に世界自然遺産に登録され ており、2013
年噴火以前の西之島の範囲も遺産地域に含まれている。また、この範 囲は自然公園法の特別保護地区および国指定鳥獣保護区に指定されると共に、バー ドライフ・インターナショナルによる重要野鳥生息地にも選定されている。1973
年 噴火以前の西之島の範囲は国有林として林野庁に管理されており、小笠原諸島森林 生態系保護地域に含まれている。2013
年の噴火により、西之島の自然環境は大きな 影響を受け、その変化と現況を早急に明らかにする必要が生じた。そこで、2016
年 の上陸調査をもとに情報が整理され(自然環境研究センター、2017)
、西之島の世界 自然遺産地域としての科学的価値を解明すべく、2017
年から総合学術調査が計画さ れた(自然環境研究センター、2019a)。2.調査計画 2-1.調査の目的
西之島は最近隣の島から
130
㎞、日本の本土部からは約840
㎞離れた孤立した島 嶼である。このような孤立した場所に新たな陸地が形成される例は世界的にも稀で あり、火山島の形成過程や新たな陸地における生態系の成立過程に関する新知見を 得ることが期待される。世界各地の多くの海洋島の生態系は無人島も含めて様々な人為的影響を受けて いると考えられる。西之島は人間の定住記録はないが、明治時代から昭和初期にか
けてグアノや海鳥の採集が行われており(青木・小坂、
1974; Austin, 1949
)、またネ コが野生化していたという伝聞情報がある(下村、1933
)。これらの点から、この島 も人為的影響が全くなかったとは言えない。一方で、この島は極度に孤立しており、また面積が小さく淡水の供給を欠くことから、第二次世界大戦後には積極的な利用 は行われておらず、外来生物もほとんど確認されていない。このため、現在の西之 島は、生態系の成立過程がほぼ原生状態で観測できる場所と言える。
西之島には新たな陸地が形成された一方で、旧島が小面積残存することにより旧 島由来の生物相の一部が維持されている。このため、
1)旧島から新たな陸地への生
物の拡散と、2)島外からの西之島への生物の渡来の2
つの過程を観測することが できる。海洋上に新たな島が生じた場合、生物は島外からの渡来、集団の定着、島 内での拡散のプロセスを経る。西之島は孤立していることから、島外からの渡来に は時間がかかると考えられる。しかし、1
)の過程を観測することにより、集団が定 着した後の拡散の過程を明らかにすることができる。また、噴火後の生物相を網羅 的に記録した上で2)の過程を明らかにすることで、島外からの生物の渡来が把握
できる。西之島は2013
年噴火により約10
倍の面積となり、海浜の面積も拡大し海 岸線の距離が長くなったことから、漂着物も増えると予想される。現在分布してい る生物、また新たに侵入する生物がどこからやって来るのか、生物本来の(人間活 動の影響を受けない)分類群や分散方法に応じた侵入起源や侵入までの時間から、生態系の形成過程を観察することができる。
上記のように、西之島の活動は、海底火山噴火や新たな火山島成長のプロセスを 理解する上で貴重な機会であると同時に、噴火により生物相のほとんどが消失した ことから、生態系形成・土壌生成の始原的な過程を観測する絶好の機会を提供する。
そこで、西之島の持つ科学的価値を明らかにし、その自然環境の保全管理を検討す る基礎情報を収集することを目的に、下記の調査を実施する。
・西之島の生物相を網羅的に把握するとともに、今後の生態系の形成過程のモニタ リングを開始する。
・西之島の火山活動の現状を把握するとともに、今後の火山活動のモニタリングを 開始する。
2-2.調査組織の体制
調査隊は環境省が発注する平成
31
年度西之島総合学術調査業務によって検討、構成された。西之島の科学的価値を評価するため、2017年より「西之島の価値と保 全にかかる検討委員会」が組織されており、総合学術調査の調査計画案について
2
か年、4
回に渡り議論が重ねられた(自然環境研究センター、2019a
)。この検討委 員会の助言をもとに、必要な調査項目等を精査し、総合学術調査に携わる調査隊を 構成して調査を実施するに至った。表
2
.西之島総合学術調査・調査隊Table 2. List of the survey team members carrying out Nishinoshima comprehensive scientific research
氏名 所属 調査等担当 管理担当 備考
川上和人 森林総合研究所 鳥類 研究班長 調査
G
検討委員 小山田佑輔 自然環境研究センター 鳥類 副隊長、検疫、医療班
調査
G
森 英章 自然環境研究センター 陸上節足動物 隊長、研究班、検 疫
調査
G
岸本年郎 ふじのくに地球環境史ミ ュージアム
陸上節足動物 研究班 調査
G
検討委員 上條隆志 筑波大学 植物、菌、土壌 研究班 検討委員 廣田 充 筑波大学 植物、菌、土壌 研究班 調査G
中野智之 京都大学 潮間帯生物 研究班 調査G
港 隆一 自然環境研究センター 潮間帯生物 副隊長、検疫 調査G
前野 深 東京大学 岩石 研究班 調査G
検討委員 吉本充宏 山梨県富士山科学研究所 岩石 研究班 調査
G
大湊隆雄 東京大学 火山活動 火山監視班長、研究班
調査
G
渡邉篤志 東京大学 火山活動 研究班 調査
G
横山直人 環境省 撮影(魚類) 監督員 調査G
菅野康祐 環境省 撮影(魚類) 監督員 調査G
齋藤文彦 日本放送協会 現地撮影 調査G
岡村弦樹 ヘキサメディアUAV
撮影 調査G
大村寿明 海洋エンジニアリング 連絡調整(調査船)
サポート
G
向 哲嗣 アイランズケア 海洋班長、医療 班
サポート
G
川口大朗 アイランズケア 海洋班、医療班 サポート
G
高嶺春夫HARUKA-MARU
船舶班長 サポートG
渡邉 篤
DAINANATAKA-MARU
船舶班 サポートG
近藤 洋
DAINANATAKA-MARU
船舶班 サポートG
調査隊は表
2
のとおり、22
名で構成した。調査隊には各調査分野の専門家として10
名の隊員が参画したほか、調査サポート、および撮影記録の専門隊員を含め、18
名が上陸して行動した。上陸や荷揚げには船舶やダイバーによるサポートを受けた ほか、留守本部を設置し、調査準備や調査中の安全管理体制を構築した。西之島の調査においては、遠隔の無人島であり、上陸が困難であることから、最 大限の安全管理を行う必要があった。隊員には調査担当のほか、予め管理担当(隊 長、副隊長、火山監視班、海洋班、船舶班、研究班、医療班)を割り当て、組織体 制を整備して実施した(表
2)
。また、表3
の通り、調査隊外の関係者によるサポー ト体制も構築し、調査に至るまでの準備や調査中の緊急連絡体制を整備した。調査は環境省、東京大学、
NHK
が連携して実施した。また、調査の分析・解析に おいては各隊員および共同研究者の協力において進められた。表
3
.西之島総合学術調査関係者Table 3. List of the support team members carrying out Nishinoshima comprehensive scientific research
氏名 所属 専門または担当 管理担当 備考
吉田正人 筑波大学 世界遺産管理 検討委員
加藤英寿 首都大学東京 植物 検討委員
苅部治紀 神奈川県立生命の星・地 球博物館
昆虫 検討委員*
山崎敦基 日本放送協会 記録管理
宮澤泰子 環境省 調査統括 留守本部
平川大輔 日 本 ス ノ ー ケ リ ン グ 連 盟
海洋訓練
安齊友巳 自然環境研究センター 事務局統括 留守本部 寺田 剛 自然環境研究センター 検疫 留守本部 永野 裕 自然環境研究センター 物資調達 留守本部 日髙裕華 自然環境研究センター 連絡調整(本土) 留守本部 芦澤 航 自然環境研究センター 連絡調整(父島) 留守本部
*2019
年3
月まで2-3.許認可および協議
本調査は、表
4
のとおり各種許可や協議のもとで実施した。表
4.西之島総合学術調査実施のための許認可等手続き
Table 4. Permission procedures for the scientific research on Nishinoshima Island
2-4.調査工程
調査実施に向けては、表
5
の工程で準備を進めた。調査の3
か月前より調査隊及 び関係者でミーティングを開催し、各自の研究内容や準備の進捗について情報共有 をするとともに、調査隊内の連携をとることができるよう、メーリングリストを作 成し調査に関する意見交換を行うなど、コミュニケーションを心がけた。特に上陸 のための準備については2016
年に上陸した隊員がいたものの、その後の噴火によ り地形の変化もあると予想されたほか、上陸時の波の状況や体調不良者が出た場合 などの様々な場面を想定した計画を立案する必要あり、入念に打合せを行った。また、調査は上陸準備に
1
日、上陸調査に5
日、撤収作業に1
日を想定して計画 した。ただし、3に示す通り、実際の工程は変更となった。2-5.行動計画
西之島到着後の調査は表
6
の行動計画に沿って実施することとした。調査は9
月 であり、西之島は酷暑になると予想されたことから、可能な限り早朝から上陸準備 を進めて作業をするとともに、熱中症を避けられるよう、上陸後は1
時間ごとに休 息をとることとした。関連法等 申請先 申請内容
自然公園法 環境省 工作物の新築、落葉落枝の採
取、土石の採取、動物の捕獲 鳥獣保護管理法 環境省、東京都知事 希少鳥獣種の捕獲
種の保存法 環境省 国指定鳥獣保護区、同区域外で
の希少鳥獣等の捕獲
植物防疫法 農林水産大臣 ヒルガオ属等の移動禁止植物等 の移動
小笠原村キャンプ禁止条例 小笠原村⻑ テントの設営
文化財保護法 文化庁 天然記念物の現状変更
入林届 小笠原総合事務所国有林課 調査者の入林、ドローンの飛行 フィールド提供協議 小笠原総合事務所国有林課 録音装置、地震計、定点カメラ
の設置
航空法 国土交通省 ドローンの飛行
また、本調査では調査による生態系の攪乱を最小限とするため、及び夜間の火山 活動による災害を避けるため、宿泊を伴う上陸調査を行わないこととした。そのた め、大型の海洋調査船・第二開洋丸(全長
62.87m、総屯数 850t、海洋エンジニアリ
ング)を用いて上陸調査時以外の活動の拠点とし、全調査隊員は調査日ごとに西之 島への上陸および撤収を行い、調査船にて宿泊をする体制とした。表
5
.西之島総合学術調査の実施に向けた準備工程及び調査工程計画Table 5. Preparation process and survey schedule plan on Nishinoshima Island
時期(2019年) 実施内容 確認事項等
4
月 下旬 調査業務開始5
月 上旬 調査隊打診24
日 研究計画打合せ①25
日 海洋訓練①6
月4-17
日 気象研究所・東京大学による洋上調査25
日 海洋サポート打合せ① 海洋サポートの計画7
月5
日 海洋サポート打合せ②22
日 全体打合せ①許可申請(採取、設置、上陸、飛行等)
調査スケジュールすり合わ せ、共同調査地検討、上陸方 法確認
26
日 海洋サポート打合せ③8
月9
日 上陸用物資等の購入海洋サポート打合せ④
19
日 全体打合せ②(安全管理、環境配慮等確 認等)海洋訓練②
安全管理確認、調査計画最 終確認
19-30
日 検疫9
月1
日 調査船出港(三崎港)2
日 大型船出港(父島二見港)3
日 西之島沖到着、準備作業、UAV調査 ※実際には変更4-8
日 上陸調査 ※実際には変更9
日 撤収作業、UAV調査 ※実際には変更10
日 大型船帰港(父島二見港) ※実際には変更11
日 調査船帰港(三崎港)表
6
.西之島総合学術調査の行動計画Table 6. Action plan for the scientific research on Nishinoshima Island
時刻 調査
G
サポートG
5:30
スケジュール再確認、朝食6:00
朝食・本土へ調査予定報告 上陸準備6:30
上陸準備7:00
ミーティング、順次ゴムボートへ移動 (ミーティング)上陸サポート8:00
上陸、荷揚げ完了 上陸サポート完了午前調査実施(1hごとに休憩) 避難場所設営(緊急時に備えて待機)
11:00
午前調査終了タープで休憩、昼食 バイタルチェック補助
12:00
午後調査開始(1hごとに休憩) 調査完了班がいれば乗船サポートor
調査補助
15:00
午後調査終了次第、乗船準備 乗船サポート準備15:30
乗船開始 乗船サポート16:30
乗船完了 乗船サポート完了17:00
夕食・本土へ調査結果報告 夕食18:00
ミーティング、翌日の日程確認 ミーティング、翌日の日程確認2-6.安全管理
調査実施に当たっては、調査隊全員の安全確保が重要である。特に遠隔離島であ る西之島は緊急時でも対応に時間を要するほか、2013年から
2018
年まで繰り返し 噴火を起こしてきた活火山である。事故を未然に防ぐことができるよう、十分に安 全を確保した上で調査を実施するとともに、緊急時には迅速な対応ができるよう、予め体制を構築した上で調査を行うこととした。
計画の作成に当たっては
2017
年に行われた南硫黄島自然環境調査における対策(鈴木ほか、2018)等を参考にした。
(1)海洋班の設置
調査隊が安全に上陸できるよう、経験豊富なダイバー
2
名により海洋班を設置し、上陸をサポートする体制とした。海洋班は事前に隊長、副隊長、船舶長とともに上 陸計画を確認し、調査隊内に周知した。また、4-2に述べる通り、上陸のための 事前訓練実施に当たっては、計画と指導を行った。
○上陸体制
海洋班
2
名と船舶班長、上陸管理者(隊長または副隊長)をあわせた計4
人体制 のもと、上陸の補助を行った。・当日の上陸-調査-撤収の基本的な流れは海洋班、船舶班長、隊長、副隊長、監 督員の協議の下で決定し、調査前のミーティングにて隊内に周知した。
図
2
.西之島における基本的な上陸体制Figure 2. Landing formation on Nishinoshima Island
①基本的な上陸方法
・
2
丁アンカーで岸および沿岸の海底にアンカーを固定し、ロープ(100m
)を張 る。・調査船にてウェットスーツ、スノーケル、マスク、マリンブーツ、グローブ、ウ ェイトベルト、ヘルメットを着用する(フィンは緊急避難時用に班ごとにまとめ てバッグに保管)。
・
1
班4
名で調査船からゴムボートで上陸浜へ向かう。・隊員は
1
名ずつゴムボートから下船して上陸する。海洋班2
名が波打ち際で上 陸をサポートし、上陸後の動作を指示する。上陸管理者は陸地から監視し、補助 を行う。②通常時の下船(乗船時は逆の工程)
・ゴムボートから
1
人ずつ着水し、ロープにつかまりながら岸まで上陸する。・ゴムボートから岸まで距離が近い場合は、フィンなしで上陸する。ゴムボートか ら岸まで距離が遠くなる場合は、フィンをつけて上陸する(フィン使用の判断は 海洋班が指示する)。
・水深が浅い場合のエントリーはバックロールの必要はない。
③荷物の搬入
・防水バッグ以外のものは可能な限り統一規格のスチロール箱などに梱包してお く。波に流された場合に素早く回収することができるよう、箱型の荷物も持ち手
などを取り付ける。
・隊員を含め、一列に整列して荷物を運搬する。
④緊急避難時
・海岸に準備されているフィンを付けて離岸する。荷物は持たない。回収用ゴムボ ートまで各自泳いで移動、ボートに引き上げる。
本調査の実施中はいずれも波が穏やかであったため、フィンを使用せず、歩行に より上陸、撤収を行うことができた。
(2)医療班の設置
救急体制の確認や救急用品等の準備に当たっては野外救急救命講習を受講し、現 地における対策を実践するものが中心となり医療班を結成した。また、医療品の準 備に当たっては小笠原村診療所による助言を受けるとともに、緊急対応時の窓口と して協力体制を構築した。
○熱中症対策
西之島は日陰がないことから、熱中症のリスクが高いと考えられた。そのため、
休息場所としてのタープ、送風機、経口補水液などを準備して対策した。調査はバ ディ制として、
2
名が1
組となり、お互いの健康状態を確認しながら実施した。調 査中は1
時間ごとに休憩することを原則とし、医療班または隊長・副隊長が各隊員 の健康状態を確認した。○溺水対策
調査中は毎日早朝に調査船を出発し、西之島への上陸を行うため、溺水のリスク に備え、AEDを調査地まで持参した。
○ダニ媒介の感染症防止
2018
年までに行われたUAV
を用いた調査により、クチビルカズキダニが確認さ れた。このダニは海鳥に外部寄生する種であるが、人獣共通感染症である回帰熱等 を媒介することが知られており、注意を要する(鶴見ほか、2002; Reeves et al., 2006
)。ディートの配合率が高い(30%)防虫スプレーにより対策することとした。
○傷病発生時の緊急対応
傷病発生時の対応については図
3
に示した。・傷病発生時は傷病者本人またはそのバディが
A
(隊長・副隊長)及びB
(医療班)に無線連絡し、指示を仰ぐ。
・傷病が重度の可能性がある場合、調査隊は全ての調査を中止し、撤収に備える。
・医療班・隊長・監督員の協議の上、救助の必要を確認した場合、速やかに
C
以降(船舶を通じ、父島・本土)の連絡を進める。
図
3
.西之島総合学術調査緊急連絡体制図(傷病発生時)Figure 3. Emergency contact network on Nishinoshima Island (injury and illness response version)
(3)火山監視班の設置
東京大学地震研究所の専門家を中心として、西之島における火山活動の監視体制 を構築した。
○監視体制の構築
調査実施中は下記の体制により監視を継続し、毎日の調査開始前に火山監視班長 と隊長、副隊長、船舶班長が協議の上、調査の実施可否を判断した。
・【毎日】東京大学地震研究所により、上陸調査前に
UAV
もしくは双眼鏡を用いて 火口付近を撮影し、噴気の状態を確認した。・【毎日】東京大学地震研究所により、ひまわり
8
号による衛星画像から熱異常がな いことを確認した。・【毎日】地震計の設置後は、東京大学地震研究所により、振動に異常がないことを 確認した。
・海上保安庁が火山活動を監視する体制と連携して対応した。
○災害発生時の対応
災害発生時の対応については図
4
に示した。・島内で地震が確認された場合、
A
(隊長・副隊長)・C
(東京大地震研)・D
(父島)を通して確認の上、避難連絡を行う。揺れが大きい場合は
X
(東京大地震研)・Y
(父島)を待たず調査を中止して速やかに撤収する。
・島外の地震・津波については
W
(海上保安庁)・X
(東京大地震研)・Y
(父島)から船舶に連絡を受け、調査隊に避難指示を出す。
・噴火が発生した場合、調査を中止して速やかに撤収する。
・西之島内及び船舶との連絡は無線使用により隊への情報共有を同時に行う。
※災害発生時は避難優先のため、撤退後の船舶内にて安全確認を行った後、緊急連 絡体制図に準じて連絡を行う。
図
4
.西之島総合学術調査緊急連絡体制図(地震・噴火等災害発生時)Figure 4. Emergency contact network on Nishinoshima Island (disaster response version in the case of an earthquake or eruption)
(4)
UAV
の運用西之島に生息する生物に影響を与えないために、下記の通り環境及び安全に配慮 したルールの下で
UAV
の運用を行った。①自然環境への配慮
・着陸・離陸は調査船上からとし、海鳥が繁殖する場所で離着陸は行わない。
・海鳥繁殖地に接近する場合には海鳥を驚かせないよう
60
m以上の高空で水平に 接近した後に垂直に下降する。②安全への配慮
・離陸・飛行前に機器の点検を行い、不具合やバッテリーの残量を確認し、不具合 があれば、飛行は行わない。
・運用は雨の降っていない風速
5m/s
以下の時に限定する。雷鳴時も飛行しない。・
UAV
のパイロットは、国土交通省が飛行許可申請への許可基準とする操縦経験を
10
時間以上有していることのほか、無人島等における操縦経験が豊富な者と する。・飛行は目視可能な範囲で行い、運用時はパイロットの他に目視担当者を配置す る。
・万が一、UAVが不時着した場合には、作業者の安全を考慮しつつ、原則、回収 する。なお、回収が難しい場所での飛行は必要最低限とし、安全管理は特に留意 する。
2-7.外来生物侵入・拡散防止対策
西之島は人間活動の影響がなく原生状態の生態系の変化を捉えられる世界にも 例のない機会を提供している。本調査において人為的に生物を持ち込むことにより、
原生状態の生態系成立プロセスに悪影響を及ぼすことのないよう、細心の注意を払 わなければならない。一方、西之島の生物が父島に人為的に持ち込まれる場合にお いても、本来独立である集団の遺伝的な交流が進化学的価値を損なう可能性がある。
そのため、物資の防検疫措置を行うことにより、生きた状態の生物の島間移動(本 土及び父島から西之島、西之島から父島)を防止する。なお、本対策は東京都によ る南硫黄島自然環境調査で実施された対策(加賀・佐々木、
2018
)等を参考とした。(1)基本方針
西之島に、出発地である本土及び父島からの生物(植物(種子等)及び動物(人 間による目視で識別可能な分類群))の拡散を防止する。同時に、西之島から父島へ の生物の拡散を防止する。
(2)対策方法
○防検疫カテゴリ
防疫手法として①未開封新品使用、②凍結処理、③高温処理、④エタノール洗浄、
⑤海水洗浄の
5
つのカテゴリが挙げられる。このうち、本調査で実行する手法は、①、②、④、⑤の
4
種である。西之島に持ち込む全ての物資に対し、いずれかの手 段により防検疫を行った。新品は異物混入の可能性の最終確認のため、目視確認のみを行った。冷凍可能な 再利用品については凍結処理を行った。調査機器など新品の準備が困難な再利用物 資については目視確認に加え、エタノール系の洗浄剤を布に染みこませて表面を拭 き取る処理を行った。上陸撤収時に海水中で使用する機材等は、海水に浸すことで 対処する事とし、事前の目視検疫のみを行った。
○チェックリストの作成
移動する全ての物資に対して防疫処理を確実に実施するため、チェックリストを 作成した。チェックリストには物資の品名、個数、新規購入と再利用の別、防疫カ テゴリ等を記入し、処置実施の有無をチェックした。
防検疫は図
5
の流れで実施した。詳細は1)から3)に示した。1)調査準備
○検疫担当者、検査担当者の設置
・検疫の実施に際して、外来生物侵入・拡散防止対策(検疫)を担当する検疫担当 者及び検査担当者(監督員)を設け、ダブルチェック体制を整えた。
・検査担当者には事前に防疫プロトコルやチェックリストの確認を依頼したほか、
クリーンルーム及びダーティルーム運用の立ち会いを求めた。
○クリーンルーム、ダーティルームの設置(図
6
)・本調査では、調査前の検疫済み物資保管場所として、本土では自然環境研究セン ターに、父島では小笠原世界遺産センター内に、また海上輸送のため調査船の一室 に、それぞれクリーンルームを設置した。クリーンルームの設置と管理は以下の手 順で行った。小笠原世界遺産センター、調査船においては、調査後の物資を扱うた めのダーティルームも同様の処理で準備した。
①室内の整理・清掃:机および棚類の一部を除き、備品の多くを室外へ移動し、
床面、机および棚類を清掃する。
②目張り:外部からの生物の侵入を防止するため、室内から外部に通じる隙間を 目張りした。目張りには養生テープやビニールシートを使用した。
③燻蒸:目張りをした後、燻蒸を行った。燻蒸後は翌日までクリーンルームを閉 め切った状態で維持した。
④出入り口の管理:使用時以外は、隙間を密閉して生物が侵入しない状態を維持 した。入口にはクリーンルーム稼働中であることを掲示し、誤った利用が無い ように注意喚起した。付着物の混入を避けるため、クリーンルームには土足で の入室は禁止とした。
○物資の梱包とクリーンルームへの搬入
・地上徘徊性の節足動物等の混入を防ぐため、床面からの高さが確保できるテーブ ルをエタノール消毒し、梱包の作業台とした。
・防疫処理済みの物資を目視検疫しながら、新品のチャックビニル等に密封した。
・防水バッグ、コンテナボックス等に収め、隙間を養生テープで密閉した。この時 点で、袋に封入した物資内部は生物の混入が無い検疫済みの状態といえる(仮梱 包)。
・仮梱包が済んだ物資は、クリーンルーム設置施設(本土:自然環境研究センター、
父島:小笠原世界遺産センター)に運び、再度検疫を行った後にクリーンルーム内 に持ち込んだ。クリーンルーム内において最終的な梱包を行い、調査出発に備え て保管した。
・正の走光性を有する夜行性昆虫の混入を避けるため、夜間の使用を避けた。
○船舶における外来生物侵入防止
・1週間前よりベイト型殺虫剤、粘着トラップにより船内の外来生物を排除した。
・乗船前には、検疫担当者が目視による点検をした。
・夜間灯に集まる昆虫を避けるため、出港は日中とした。
○運搬
・陸上運搬時は、生物の付着を防ぐため、ブルーシート等で物資を覆い、燻蒸済み の空間に保管した。
・海上輸送時の上陸用物資は、調査船ではクリーンルームに保管して移送した。大 型船では防水バッグまたは密閉性の高いビニールに密封して保管した。
2)調査中
○上陸時の洗浄
・西之島への上陸はウェットランディングで行った。全ての物資、隊員は必ず海水 を経由して陸域への荷揚げを行った。物資の外装が海水で洗浄されることにより、
西之島の陸域への生物の持ち込みを防止する最終的な対策として実施した。
○西之島滞在時
・物資輸送に利用したビニール袋、防水バッグ等は、物資を取り出す時以外は口を 閉じ、西之島の生物の混入を防いだ。
○撤収時の荷揚げ・運搬
・撤収時には西之島の海岸にて隊長・副隊長により調査用具等の目視検疫を行った。
特に共通装備については入念に確認を行い、共通装備専用の防水バッグに密封し た。
・調査中に開封した防水バッグ、厚手のビニール袋等は撤収前に裏返して、生物の 混入がないことを確認した。
・西之島への持込防止対策と同様に海水を経由させて撤収し、生物が付着した可能 性のある物資外装を洗い流した上で回収した。
3)調査後・帰島後
○調査船内での処理
・帰路における調査船内でのサンプル確認のため、調査船内にダーティルームを設 置した。
・西之島で発生したゴミ類は、撤収時ビニール袋に封入し、全て本土に持ち帰り、
適切に処理した。
○調査後の検疫
・父島に持ち帰った物資は凍結処理を基本とし、凍結不可の物資はエタノール系洗 浄剤による拭き取り処理を行った。物資に凍結処理できるものとできないものが 同梱されている場合の選別、凍結処理後の検疫、精密電子機器等の防検疫は、すべ て小笠原世界遺産センターのダーティルーム内で行った。全ての物資の処理終了 後、ダーティルームは燻蒸を行った。
・本土に持ち帰る物資については西之島の生物による撹乱が想定されないため、防 検疫を必要としなかった。そのため、父島隊と解散した後は検疫体制を解いた。
図
5.
西之島における検疫体制の実施フローFigure 5. Implementation flow of the quarantine system for research on Nishinoshima
Island
図
6.
クリーンルームの準備Figure 6. Preparation for clean room
部屋の目張り(
a.
スイッチ、b.
通気口)、 調査物資輸送用トラックの対策(c.
燻蒸、d.
生物侵入防止に適したアルミバン)、e.
調査船クリーンルームの目張り、ドアの密 閉対策(f.
テープ型、g.
樹脂ボード型、h.
ビニールシート型)Sealing gap in a clean room (a. switch, b. vent), countermeasures for trucks transporting
survey equipment (c. fumigation, d. aluminum vans suitable for preventing invasion of living
organisms), e. sealing of clean room in vessels, sealing of doors (f. tape type, g. plastic board
type, h. vinyl sheet type)
(3)検疫の実施
表
7
の通りの日程で検疫作業を実施した。事前の検疫作業には隊員も自ら参加す ることとし、生物の侵入防止に対する意識の共有を行った(図7a)
。ただし、本土 の検疫では到着物資の検疫、梱包、保管には労力を要し、2名が出発前の10
日ほど はほぼ専属で対応する必要が生じた。検疫により植物の種子及び節足動物を検出した(図
7g, h, i, j, k
)。また、調査前の 船舶の点検でも節足動物、および種子が発見された(図7l
)。いずれも西之島には生 息していない生物であった。表
7.
西之島総合学術調査における検疫の実施日程Table Implementation schedule of quarantine measures for research on Nishinoshima Island
本土 父島
8月5-22⽇
8月13⽇
・各隊員の物資送付締切(必着)
・クリーンルーム作成(自然環境研究セン ター)
8月20⽇ ・到着物資の検疫・梱包・クリーンルームへ の保管
8月23⽇ ・クリーンルーム作成(小笠原世界遺産セン
ター)
8月24⽇
・各隊員の物資送付締切
・到着物資の検疫・梱包・クリーンルームへ の保管
8月26⽇
・各隊員の物資送付締切【追加物資・精密機 器】
・到着物資の検疫・梱包・クリーンルームへ の保管
8月30⽇ ・直前検疫・梱包・クリーンルームへの保管 8月31⽇ ・調査船クリーンルーム・ダーティルーム作
成
・船舶目視点検
9月1⽇ ・船舶目視点検、物資積込み
・三崎港出発
・直前検疫・梱包・クリーンルームへの保管
9月2⽇ ・船舶目視点検、物資積込み
・父島出発
9月10⽇ ・父島到着
・使用済物資の防検疫 9月11⽇ ・三崎港到着
・各隊員による防検疫・梱包作業
⽇程 作業内容
・各隊員の物資送付受付開始
8月19⽇
図
7.
西之島調査に向けた検疫作業の実施状況Figure 7. Quarantine status for survey in Nishinoshima Island
検疫作業(
a.
隊員参加のダブルチェック、b.
大型冷凍室を用いた凍結処理、c.
小分け 梱包による効率化)、梱包の規格化(d.
防水バッグ、e.
水、f.
大型物資)、本土の検 疫で検出した混入生物(g, h.
植物の種子、i.
コガネグモ科の1
種)父島の検疫で検 出した生物(j.
センダングサ類の種子、k.
コウチュウ類、ウスヒラタゴキブリの1
種)Quarantine work (a. double check with researchers, b. freezing treatment using a large freezer, c. efficiency by subdivided packing), standardization of packaging (d. waterproof bags, e.
drinking water, f. large items), organisms detected by quarantine on mainland (g., h. plant seeds, i. Araneidae Gen. sp.), and in Chichijima Island (j. seeds of Bidens sp., k. beetle, l.
Onchostylus sp.)
2-8.装備
表
8
のとおり、調査に必要な物資を準備した。可能な限り新品にて準備するこ とにより、生物混入のリスクを低くした。特に布製品については、手作業による 生物の除去が困難であるため、衣類、靴、ザック、タープ等については新品で用 意することを義務付けた。また、旧島とそれ以外の上陸予定地では生物の生息状 況が異なることから、上陸浜間で人為的に生物を移入させることがないよう、布 製品については旧島専用と新島専用を用意することとした。調査機器も可能な限 り上陸浜ごとに準備したが、やむなく共通で使用する物資については、調査終了 後に各隊員が検疫作業を済ませた物資を、隊長または副隊長により再確認した上 で専用の防水バッグに保管して移送する方式を徹底した。表
8.
主な装備の準備Table 8. Preparation of research supplies
カテゴリcategory
防検疫方法 quarantine method
主な装備 examples of equipment
旧島専用 for former
island
新島専用 for new
beach
共通使用 both areas 装着 新品 クルーシャツ、作業着上、作業ズボ
ン、パンツ、靴下、足袋、軍手、作 業バッグ
● ●
新品
または
凍結 防水バッグ、背負子 ● ●新品
または
凍結 ヘルメット、ヘッドライト ●海水 ウェットスーツ、フィン、マスク、
スノーケル、ウェイトベルト
●
梱包 新品 スチロール箱、チャックビニル ● ●
食料 新品 レーション、飲料水、ハイドレー ション、経口補水液
● ●
医療対策 新品 医薬品、救急用品、送風機 ●
新品 タープ、携帯トイレ ● ●
エタノール AED ●
連絡 エタノール 無線器、衛星携帯電話 ●
火山対策 エタノール ガスマスク、ガス検知器 ●
調査機器 新品 粘着トラップ、パントラップ、ライ トトラップ
● ●
新品 筆記用具 ● ●
エタノール カメラ、GPS、スマートフォン、二 酸化炭素計測機器、ハンマー
● エタノール 地震計、空振計、ソーラーパネル ●
エタノール UAV ○上陸なし
2-9.研究計画
調査に当たっては全島の調査を目標として、各分野の隊員を中心に、下記の通り 計画を定めた。ただし、5.に示す通り、実際の上陸調査日程、および上陸地が変 更となったことから、必ずしも計画と実施結果は一致しない。
(1)鳥類 1)目的
①西之島における鳥類相の変化の解明
②原生の生態系における海鳥の機能の解明 2)調査方法
①西之島における鳥類相の変化の解明
ア)
UAV
撮影による生息状況確認(調査地:全島)イ)踏査および捕獲調査(調査地:旧島、西、北、南、東)
ウ)録音装置および自動撮影装置の回収と設置(調査地:旧島、西、北、南、東)
②原生の生態系における海鳥の機能の解明
ア)安定同位体比分析による物質循環の把握(調査地:旧島、西、北、南、東)
イ)鳥類の種子散布機能の把握(調査地:旧島、西、北、南、東)
ウ)鳥類の巣の採集(調査地:旧島、西、北、南、東)
(2)節足動物 1)目的
①西之島における節足動物相の解明
②生態系の初期状態における節足動物の機能解明 2)調査方法
①西之島における節足動物相の解明
ア)スイ―ピング、シフティング、石おこし等(調査地:旧島、北、南、東)
イ)パントラップ法(調査地:旧島、北)
ウ)粘着トラップ法(調査地:旧島、北、南、東)
エ)ライトトラップ法(調査地:旧島)
オ)ツルグレン法(調査地:旧島、北、南、東)
カ)DNA標本の保管
②生態系の初期状態における節足動物の機能解明 ア)生態情報の収集(調査地:旧島、北、南、東)
イ
)
安定同位体比分析による生態的地位の把握(調査地:旧島、北、南、東)(3)植物・菌類・土壌 1)目的
①人間活動の影響を受けにくいところに位置する生まれたての孤島における、生態 系や土壌生成初期過程の観測
②海鳥が生態系形成に与える効果の検証 2)方法
①固定調査区の設置
②固定調査区における植生調査
③維管束植物の採取
ア)腊葉標本(押し葉標本)
イ)根圏微生物解析用サンプル
ウ)遺伝解析・葉の成分解析用サンプル ※遺伝解析と葉の成分分析(窒素含量等)
④地衣類・蘚苔類とその生育場所としての土石の採取
⑤土石(表層土壌)の採取 ※土壌の物理化学性、微細形態、土壌微生物の分析
⑥漂着物の採取
⑦海鳥の糞・脱落羽毛の採取
⑧レジンコアの設置(参考資料参照)
⑨セルロースコットン布の設置(参考資料参照)
⑩地温測定
⑪定着植物のクロロフィル蛍光計測
(分析体制)
微生物の
DNA
分析 藤村玲子(東京大学)植物の
DNA
分析津村義彦(筑波大学)
根圏微生物 山路恵子(筑波大学)
土壌分析・微細形態 田村憲司・浅野真希(筑波大学)
レジンコア・コットン布・土壌呼吸 廣田充・上條隆志(筑波大学)
植生調査・サンプル採取 上條隆志・廣田充(筑波大学)
(4)潮間帯生物 1)目的
①西之島における潮間帯生物相(主に海産無脊椎動物)の解明 2)方法
西之島における海産無脊椎動物相の解明
①定性調査(調査地:旧島、北、南、東)
②打ち上げ物調査
③DNA標本の保管
(5)魚類(環境
DNA
) 1)目的①西之島浅海域における魚類相定着状況の把握 2)方法
①採水とろ過
②解析
(分析協力)宮正樹(千葉県立中央博物館)佐土哲也(千葉県立中央博物館)
(6)地質 1)目的
①西之島の
2013
年以降の火山活動におけるマグマ供給過程全体像の把握②西之島の火山活動状況の把握 2)方法
①地質調査・試料採取(旧島、旧島付近西海岸、北海岸、東海岸、南海岸)
②UAVによる火口状況の観察(火口)
(7)火山活動 1)目的
①地震及び空振観測による西之島の火山活動の把握 2)方法
①地震計・空振計の設置
(8)撮影記録・環境記録 1)目的
①西之島における生物の季節変化の解明
②生物の新環境への進出の仕方の解明
③西之島の噴火の情報収集 2)方法
①定点観測カメラの設置
②同行撮影による上陸調査の記録
③UAVによる上陸調査の記録
3.行動記録
調査航路及び調査位置は図1に示した。当初の想定では
9
月1
日に出港し、9
月3
日から9
月9
日まで調査を実施する予定とし、9月4
日から8
日までの5
日間で 上陸調査を実施する予定であった(表5)
。しかし、台風15
号が西之島に接近する 予報となったため、9月2
日夕方に調査隊内で協議の上、調査工程を急きょ変更し た。上陸調査は9
月3
日から5
日までの3
日間とし、上陸地は波の影響を確認しな がら決定することとした。また、台風15
号は父島から7
日から8
日に西之島に向 けて西進した後、北上する予想であったことから、父島から参加した隊員(父島隊)が乗船した大型船は父島に、本土から参加した隊員(本隊)が乗船した調査船は南
方
300km
ほどの南硫黄島沖に避難した。表9
には詳細な行動記録を掲載した。表
9.
西之島総合学術調査の行動記録Table 9. Action records of the Nishinoshima comprehensive scientific research project
場所 location 行動 action 担当 member 8月31⽇ 10:00 - 17:00 三崎港 調査船クリーンルーム設置・燻蒸 検疫班
9:00 - 12:00 東京 輸送トラック燻蒸・資材準備 〃
12:00 - 15:30 東京→三崎 資材移送 〃
9月1⽇ 7:50 - 8:30 三崎港 荷物積み込み 本隊
9:45 - 三崎→ 調査船出港 〃
12:00 - 昼食 〃
14:00 - ミーティング 〃
17:00 - 夕食 〃
9月2⽇ 6:00 - 朝食 〃
11:30 - 鳥島沖 通過 〃
12:00 - 昼食 〃
12:50 - ドローン撮影テスト ドローン班
14:00 - ミーティング 本隊
17:00 - 夕食 〃
17:25 - 父島→ 大型船出港 父島隊
18:00 - 緊急ミーティング(台風情報) 本隊
9月3⽇ 6:00 - →⻄之島沖 本隊・父島隊合流 全隊
6:35 - ミーティング 本隊
6:30 - 9:30 ⻄之島 ⻄之浜点検・ロープ設置 海洋班 8:00 - 15:15 ドローン撮影(上陸隊上陸完了後周回)ドローン班
10:00 - 火山活動等確認 地質・海洋班
11:00 - 11:26 ⻄之浜 上陸隊上陸 海洋班・上陸隊
12:00 - 16:00 旧島ほか 上陸調査 上陸隊
13:00 - 休憩(以後1時間ごとに10分休憩) 〃
16:30 - 16:50 撤収準備 〃
16:50 - 17:00 →調査船 撤収 〃
17:15 - 夕食 全隊
18:00 - ミーティング 〃
⽇時 date
表
9.
続きTable 9. Continued
場所 location 行動 action 担当 member
9月4⽇ 6:00 - 朝食 〃
6:30 - ミーティング 〃
7:00 - ⻄之浜 上陸準備 海洋班
7:30 - 7:45 上陸隊上陸 海洋班・上陸隊
8:30 - 16:30 ⻄之浜 上陸調査 上陸隊
10:00 - 16:00 休憩(以後1時間ごと10分休憩) 〃
10:00 - 16:00 ドローン撮影 ドローン班
16:30 - 撤収準備 上陸隊
17:10 - 17:30 ⻄之浜→ 撤収(夜間調査班は待機) 〃
18:00 - 旧島 待機 鳥班・節足動物班
19:00 - 21:00 夜間調査 〃
21:00 - 撤収準備 〃
21:20 - 21:30 撤収 〃
9月5⽇ 6:00 - 朝食 全隊
6:30 - 南浜状況確認 地質・海洋班
7:30 - 9:20 南⻄浜 上陸地変更・ロープ設置等上陸準備 海洋班・隊⻑
9:50 - 13:11 ドローン撮影 ドローン班
10:00 - 10:20 上陸隊上陸 海洋班・上陸隊
10:30 - 15:30 上陸調査 上陸隊
12:00 - 15:00 休憩(以後1時間ごと10分休憩) 〃
15:00 - 15:35 撤収準備 海洋班・上陸隊
15:35 - 15:55 南⻄浜→ 撤収 〃
17:00 - 夕食 全隊
18:00 - ミーティング 〃
18:50 - 調査隊解散 〃
19:40 - ⻄之島→ 各隊出港 本隊・父島隊
9月6⽇ - 以後食事・ミーティングは省略 本隊
8:00 - 硫⻩島沖 通過 〃
8:40 →父島 到着 父島隊
11:00 - →南硫⻩島 台風養生のため、停泊 本隊
9月8⽇ 16:30 - 南硫⻩島→ ⻄之島へ出発 〃
9月9⽇ 10:00 - 13:15 ⻄之島周回 〃
13:15 - ⻄之島出発 〃
9月10⽇ 12:30 - 須美寿島沖 通過 〃
15:30 - ベヨネース列岩沖 通過 〃
9月11⽇ 13:00 - →三崎港 調査隊解散 〃
- 17:30 三崎→東京 調査資材等移送 検疫班
⽇時 date
4.調査体制構築の成果と課題
今回の西之島総合学術調査は、西之島で幅広い分野の専門家が一堂に会して実施 した初の上陸調査であるとともに、
2017
年の噴火以降で初めての上陸調査であった。その成果として、分野間の連携が見られ、重要な発見が相次いだ。大地と生態系が 変化をし続けていることが西之島の科学的価値であることから、同様の規模で分野 横断的・網羅的な総合学術調査は今後も長期にわたって継続するべきである。ただ し、
20
名を超える調査隊が遠隔地の無人島にて調査を実施するためには、最大限の 安全管理体制を構築する必要があることは明らかである。また、生物がほとんど不 在の西之島は、人為によるかく乱の影響を受けやすい。踏圧や生物の侵入防止には 細心の注意を払い対策を講じるべきである。以下には今回の調査における対策状況 と、今後に向けた課題を挙げた。4-1.組織分担の明確化
本調査では調査隊内において、隊長、副隊長、火山監視班、海洋班、研究班、医 療班、船舶班等を設置し、隊員の管理について役割を位置付けた。しかし、2017年 の噴火後に地形が変化した西之島における初の上陸調査であるとともに、
18
名とい う多人数による上陸であったことから、各分担の具体的な役割を事前に整理するこ とができなかった点もある。特に隊長は、調査の時間管理や安全管理等、行動の最 終判断を行う役割を担当していたが、研究担当を兼務している者では負担が大きか った。副隊長と役割を共有して負担を軽減するか、専任の隊長として位置づけるこ とが望ましい。4-2.海洋訓練の実施
本調査においては人為による影響を最小限とするため、西之島での宿泊を伴う調 査は基本的に実施しないこととした。また、調査予定の各地の海浜部は溶岩台地に 隔てられており、陸上で異なる調査地へは移動できない。このような条件により、
毎日海上を往復する必要が生じることから、入念に海洋訓練を実施した。
平川大輔氏(日本スノーケリング連盟)の指導の下、
5
月24
日には基礎訓練(下 記①~④)、8
月19
日には総合訓練(下記①~⑧)を実施した。主な実施メニュー は次のとおりである。①準備運動・泳力チェック(100m連続遊泳)
②ウェットスーツ、マスク、フィン着用法
③スノーケル呼吸、スノーケルクリア、マスククリア
④フィンキック法
⑤「ギア紛失の想定」片足フィンスイム、マスクなし水面遊泳
⑥「緊急避難の想定」ヘッドアップクロール法