徒手による抵抗力の判別能力
小追 雄介 ),矢野明日美 ),山 裕司 ),栗山 裕司 )
要 旨
徒手による主観的な抵抗力の判別がどの程度の精度を有するかについて,膝伸展運動モデルを用いて検討し た.
対象は,徒手筋力検査の授業を終了した理学療法養成課程の , 年生である.
膝伸展運動モデルには大腿四頭筋訓練器を用い,下腿に見立てたアームを重錘負荷アームに対し 度の位置 にセットし,重錘重量によって抵抗力を調整した.被験者は,重錘によって生じた力に対して下腿アームが 度よりも伸展しないように抗した.重錘負荷は を基準とし,それに対して %, %, %,
%, %, %, %の負荷量を準備し,抵抗力の大小を判別させた.
右手,左手によらず同側で判別した場合,重量差が大きいほど正答率は高く,差が %あれば大小の 判定が可能であった.左右の手を変えて評価した場合, %の重量差においても正答率は低値を示した.よっ て, を実施する場合には,同側徒手で評価すべきと考えられた.日を変えた場合の正答率は低値を示し,
による経時的筋力評価の限界が示唆された.
以上のことから,信頼性ある筋力評価のためには,客観的な筋力測定装置の利用が必要なものと考えられた.
キーワード 徒手筋力検査,判別能力,信頼性,筋力評価
【はじめに】
現在,理学療法現場における筋力評価としては,
徒手筋力検査法(以下, )が最も一般的であ る. し か し, は 以 上 で は 同 一 の であっても,筋力測定装置によって客観的に 評価された筋力値は広い範囲に散らばっていること が報告されている ).この原因としては評価者の
主観によって抵抗力が解釈されることが挙げられて いる ).主観的な抵抗力の判別能力が明らかとな れば,徒手筋力検査によって得られたデータの臨床 的意義について解釈することが可能となる.
膝伸展筋力は,移動動作能力と密接に関連するこ とが示されており ),臨床で最も筋力測定の頻度 が高い筋群の一つである.その筋力値は移動動作障
)松尾内科病院リハビリテーション部
)道後温泉病院リハビリテーション部
)高知リハビリテーション学院 理学療法学科
害の原因分析や治療プログラム立案のための基礎 データとして活用されており, における抵抗 力の判別能力を明らかにする意義は大きい.
本研究では,膝伸展運動モデルを用いて徒手によ る主観的な抵抗力の判別精度を明らかにするため つの実験を実施した.
第一研究 徒手による抵抗力の判別能力
【目的】
徒手による筋力の判別能力について膝伸展運動モ デルを用いて検討すること.
【方法】
徒手筋力検査の授業を終了した理学療法養成課程 の , 年生, 名(男性 名 女性 名)を被験 者とした.年齢は 歳,身長 , 体重 であった.全例が右利きであった.
被験者には事前に本研究の主旨を説明し,同意を得 た.
膝伸展運動モデルには, 社製大腿四頭筋 訓練器 を用いた(図 ).下腿に見立てた アーム(以下,下腿アーム)を重錘負荷アームに対 し 度の位置にセットし,軸心から重錘装着位置ま でと等距離の地点に徒手抵抗部位を設置した.実験 者は重錘負荷アームを水平位置まで引き挙げ,被験 者が垂直になった下腿アーム抵抗部位を前方から片
膝立ち位で把持した.次いで実験者は重錘負荷アー ムをゆっくり落し,被験者は下腿アームが 度より も伸展しないように抗した.なお,重錘は被験者か ら見えないようにタオルで覆った(図 ).
重錘負荷は を負荷 とし,それに対して以 下の 種類の負荷 を設けた.すなわち
%( ), %( ), %( ),
%( ), ( ), %( ) である.
被験者は負荷 と負荷 間の抵抗力の大小を徒 手によって判定した.負荷 , の順序や,負荷 の 種類の重量は無作為に変化させた. 名の被験 者は同日に, つの重量の判別を 回行った.
被験者は上記の内容を同側および対側,つまり 右手 右手, 左手 左手, 右手 左手または左 手 右手の 条件で判定を行った. 条件の実施は 日を変えて行った.
統計的手法としては, 検定を用い,有意水準 を %未満とした.
【結果】
右手 右手での正答率を見た場合(表 ),重量 差が大きいほど正答率は有意に高値を示した(
).
左手 左手での正答率(表 )も,重量差が大き いほど正答率は有意に高かった( ).
平成 年度 高知リハビリテーション学院紀要 第 巻
図 膝伸展運動モデル
図 実験場面
重錘にはカバーをかけ,対象者から見えないようにした
右手 左手または左手 右手の正答率(表 )で は,重量差と正答率の間には有意な関連を認めな かった.
右手と左手の正答率を比較した場合,有意な差を 認めなかった.
第二研究 時間経過が抵抗力の判別能力に与える影響
【目的】
時間経過が徒手による抵抗力の判別能力に及ぼす 影響を検討すること.
【方法】
徒手筋力検査の授業を終了した理学療法養成課程 の , 年生, 名(男性 名,女性 名)を被験 者とした.年齢は 歳,身長 , 体重 であった.全例が右利きであった.
被験者には事前に本研究の主旨を説明し,同意を得た.
第一研究と同様の方法で徒手による抵抗力の判別 を実施させた.
重錘の重量は を基準とし, %( ),
%( ), %( ), %( ) の パターンの比較群を用意した.負荷の判別は,
第 研究と同様,無作為に変化させた.
まず,同日に連続して 種類の判別を行った.次 いで, 日間にわたって判別を実施した.まず,第 日目に 種類の負荷を徒手抵抗によって記憶し,
翌日にそれぞれに対応する 種類の負荷との間で抵 抗力の大小を判別させた.
統計的手法としては,負荷量の差ごとに正答率を 算出し, 検定を用いて検討した.なお,有意水 準は %とした.
【結果】
同日に評価した場合と日を変えて評価した場合の 正答率を表 , に示した.
同日の正答率,日を変えた場合の正答率ともに負 荷量が増加するにつれて向上した( ).
同日と日を変えた場合の正答率を比較した結果,
%, %の負荷量では有意差を認めた(図
表 右手 右手の正答率
重量差 % % % % % % 正 解
不正解
正答率 % % % % % %
表 左手 左手の正答率
重量差 % % % % % % 正 解
不正解
正答率 % % % % % %
表 右手 左手の正答率
重量差 % % % % % % 正 解
不正解
正答率 % % % % % %
表 同日評価の場合の正答率
重量差 % % % %
正 解 不正解
正答率 % % % %
表 日を変えた場合の正答率
重量差 % % % %
正 解 不正解
正答率 % % % %
図 正答率の比較
).
【考察】
徒手による主観的な抵抗力の判別能力が,どの程 度の精度を有するかについて,膝伸展運動モデルを 用いて検討した.
同側で判別した場合,重量差が大きいほど正答率 は高かった.右手の場合では, %( )以 上の差では, %以上の正答率を示したが,それ以 下では,正答率は %前後に止まった.左手の場合,
重量差が %( )以上の場合には正答 率は %以上を示し,それ以下では,正答率は低下 した.第二研究における同日評価においても, % 以上の差の場合, %の正答率であった.したがっ て,筋力差が %以上あれば筋力の大小の判 定がある程度可能なものと推察された.
左右差については明らかな違いを見出せなかっ た.これについて和島 )は,理学療法士,作業療 法士における力の感覚を調査し,左右差が無かった ことを報告している.したがって,左右とも同程度 の判別が可能なものと考えられた.
右手 左手または左手 右手と変えて評価した場 合,重量差と正答率の間に関連を認めず, %に おいても正答率は %に止まった.これは,評価す る上肢を変えると抵抗力を判別する能力が低下する ことを示している.このことより, を実施す る場合には,同側で評価すべきと考えられた.
%, %の負荷量の差においても判別でき なかった対象者はいずれも女性被験者であった.山 崎ら )は,同じ膝伸展運動モデルによる検討にお いて女性検者の平均的な固定力は約 ,最低値は であったことを報告している.また,ハンド ヘルドダイナモメーターによる膝伸展筋力測定にお いて徒手固定の限界を超えた場合,測定値は筋力と いうよりも,むしろ検者の固定力を反映することが 指摘されている ).この場合,被験者の筋力の 多寡によらず,筋力値は検者の固定力に近似した一 定値をとる.今回の女性検者の体重や筋力は小さく,
固定力の限界を超えていたため,大きな負荷量の差
の判別ができなかったものと考えられた.
日を変えた場合の正答率は %, %,
%, %の順に %・ %・ %・ %であり,
%・ %の負荷量の差では,同日評価に比べ 有意に正答率は低かった.臨床における一般的な筋 力変化は,トレーニングによる筋力増加と廃用性の 筋力低下である.筋力トレーニングでは, 週間で は有意な筋力増加はみられないことが報告されてい る ).また,安静による廃用性筋力低下は 日 % 程度と報告されており, %の筋力低下を生じるに は一週間以上の日数を必要とする ).このことを 勘案すると,筋力変化は少なくとも 週間以上の評 価期間をおかなければ生じ得ない.本研究では,翌 日に評価したにもかかわらず, %の負荷量の差 における正答率は %であった.正答率は評価間隔 が空くほど低下することが予測され, 週間の間隔 が空いた場合には,本研究以上の成績は得られない であろう.以上のことから,主観的に抵抗量が判別 される 以上の筋力の場合, は筋力 の経時的評価には利用できないものと考えられた.
最後に,対象者は理学療法士養成課程にある学生 を用いたため,熟練した理学療法士における徒手に よる判別能力と純粋に比較するには問題があるかも しれない.臨床経験と力の判別能力には関係が無 かったとの先行研究 )はあるが,この研究では学 生を含んでおらず,本研究の限界といえよう.
【結語】
つの研究から,徒手による抵抗力の判別には,
その精度に多くの限界を有していることが明らかと なった.妥当な筋力評価を行うには,客観的な筋力 測定装置を利用すべきである.
【文献】
)北川了三,山 裕司・他 膝伸展筋の徒手筋力 検査値と等尺性膝伸展筋力値の関連.高知県理 学療法 , .
)平木幸治,山 裕司・他 膝伸展筋の徒手筋力 検査値と膝伸展ピークトルク値の関連.総合リ
平成 年度 高知リハビリテーション学院紀要 第 巻
ハ , .
)板場英行 筋力測定 筋力評価の問題と今後の 課題 .理学療法学 , .
)吉村茂和,相馬正之・他 徒手筋力テストにお ける段階付け. ジャーナル ,
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)田中宏太佳 徒手筋力テストの方法と注意点.
総合リハ , .
)
)黄川照雄,山本利春・他 機能的筋力測定・評 価法 体重支持指標( )の有効性と評価の 実際.整形外科スポーツ医学会誌 ,
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)
)山 裕司,横山仁志・他 等尺性膝伸展筋力と 移動動作の関連─運動器疾患のない高齢患者を
対象として─.総合リハ , .
)和島英明 力の感覚 の左右差について.理
学療法学 , .
)山 裕司,加藤宗規,梶原和久 膝伸展筋力評 価における徒手固定の限界.総合リハ 印刷 中, .
)加藤宗規,山 裕司・他 ハンドヘルドダイナ モメーターによる等尺性膝伸展筋力の測定.総
合リハ , .
)山 裕司,長谷川輝美 固定用ベルトを装着し たダイナモメーターによる等尺性膝伸展筋力の 測定.高知リハビリテーション学院紀要
, .
)
)