奈良教育大学学術リポジトリNEAR
「中国帰国者」3世・4世児童・生徒のための日本社 会の教え方に関する研究 ―中日両文化を尊重する 中国人の立場からの提案―
著者 王 芳
発行年 2011‑03‑25
URL http://hdl.handle.net/10105/5784
2010年度修士論文
「中国帰国者」3世・4世児童・生徒のための
日本社会の教え方に関する研究
一一中日両文化を尊重する中国人の立場からの提案一一
奈良教育大学大学院教育学研究科 教科教育専攻社会科教育専修
093201
王 芳
次 I 序章
1.問題の所在・・・・・・・・・・・・・・・・
2.研究の背景・・・・・・・・・・・・・・・・
1)中国帰国者の定義
2)日本における在留外国人の概況
Ⅱ 先行研究
1.教育問題に関する研究・・・・・・・・・・・
2.エスニシティとアイデンティティに関する研究 3.進路に関する研究・・・・・・・・・・・・・
4.先行研究における課題・・・・・・・・・・・
Ⅲ 研究対象と方法
1.研究対象の紹介・・・
1)東大阪市立A中学校 2)日本語教室
2.調査方法・・・・・・
Ⅳ インタビュー事例
1.事例(一)・・・・・・
2.事例(二)・・・・・・
3.事例(三)・・・・・・
4.事例(四)・・・・・・
Ⅴ 考察
3)生徒の紹介
1.進学制度について・・・・・・・・・・・・・・・・・
1)日本での帰国者生徒に関する進学情報
① 高等学校への進学 ② 大学、専修学校への進学 2)中国での進学情報
3)現在の日本における中国帰国者生徒の進学について 2.日中の学校文化の違いについて・・・・・・・・・・・
3.アイデンティティと日本社会の関心・・・・・・・・・
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Ⅵ まとめ………‥36 注釈
引用・参考文献・・・・・・・・・・
参考資料(アンケート調査の中国語版)
I 序章
1.問題の所在
「中国帰国者」3世・4世児童・生徒の教育問題が最近しばしば注目されている。主に日 本語教育、エスニシティとアイデンティティ(注1)、進学問題などの問題が出ている。
しかし、日本に渡航してきたばかりの「中国帰国者」3世・4世の児童・生徒に関しては以 上の問題だけではなくて、日本社会の日常生活に関する知識や態度、つまりよく言われて
いる「常識」の問題も重要ではないのかと思われる。
「中国帰国者」3世・4世児童・生徒が日本社会に一早く適応するように、日本語以外の 日常生活の指導が最も差し迫っている問題の一つだと思われる。本研究は中国人の立場か ら、どのような日常生活に関する知識・態度を優先的に指導すべきか、どのように指導し たらよいのか、この二点に絞って、「中国帰国者」3世・4世児童・生徒がより早く、順調
に日本社会に融合できるような指導のあり方について、東大阪市での調査にもとづいて、
提案することを目的としている。
2.研究の背景
1)中国帰国者の定義
中国帰国者とは、1970年代以後に中国から日本に「帰国」してきた「中国残留日本婦人」
とその家族のことである(蘭信三2000『「中国帰国者」の生活世界』)。
2)日本における在留外国人の概況
ここでは、『在留外国人統計平成 21年版』(以下「統計表」と略記する)をもとに、日 本に在留する外国人特に中国人の概況について述べる。
表1外国人登録者総数の推移
総 数 総 数
昭 和 54 (197 9)年 7 74,5 05 6 (1994 ) 年 1,354 ,0 日 59 (19 84) 年 84 0,8 8 5 11 (199 9) 年 1,5 56,113 平 成 元 (198 9) 年 98 4,4 55 16 (20 04 ) 年 1,97 3,74 7 2 (19 90) 年 1,07 5,3 17 20 (20 08 ) 年 2,2 17,4 26
『在留外国人統計平成21年版』より作成
統計表の「外国人登録者総数の推移」をみると、外国人登録者数は1979年(昭和54年)
の774,505人から2008年(平成20年)の2,217,426人になっていた。30年間で約3倍に 増加した。その中では、アジア地域が1,670,150人で一番多い、次いで、南米地域の389,399 人が二番目に多い。アジアで経済が一番進んで、治安がいいので、発展途上国の人にとっ て、進学、就労、国際結婚などのために、日本が一番優先的に選ばれた国だと考えられる。
特にアジア地域の人にとって、母国から日本までの近い距離も理由の一つではないのかと 考えられる。
統計表の「国籍(出身地)別外国人登録者数の推移」をみると、中国は2007年(平成 19年)から、韓国・朝鮮を抜いて、最大となる。
表2 「国籍(出身地)別外国人登録者数の推移」
国 籍 (出 身 地 ) 平 成 19 年 (20 0 7) 平 成 2 0 年 (2 008 )
中 国 60 6,88 9 6 55,3 77
韓 国 ・朝 鮮 59 3,4 8 9 58 9,23 9
『在留外国人統計平成21年版』より作成
韓国・朝鮮は毎年結婚で日本に帰化する場合や、韓国・朝鮮に帰国するなどの原因で減 少している一方で、中国は毎年の増加率は著しく多い。1972年(昭和47年)から、中日 国交正常化後に、第二次世界大戦(中日戦争)で中国に残留している日本の孤児・婦人(後
に中国帰国者と呼ばれている)が日本政府国費より永住で日本に帰国した人数は増加して いて、その同伴家族の人数も多い。
統計表の第7表「都道府県別 本籍地別 外国人登録者 (その1中国)」をみると、
遼寧省(106,420人)一番、黒竜江省(67,363人)二番、上海市(58,729人)三番、
山東省(58,045人)四番、吉林省(54,805人)五番、福建省(53,699人)六番である。
前の6地域の中に、東北部の遼寧省、黒竜江省、吉林省が全部ある。
表3 「都道府県別 本籍地別 外国人登録者 (その1中国)」
都 道 府 県 遼 寧 黒 竜江 上 海 山 東 吉 林 福 建 総 数 10 6,4 20 67 ,3 63 5 8,72 9 58,0 4 5 54,8 05 53 ,69 9
『在留外国人統計平成21年版』より作成
東北部の人数が一番多い。中国帰国者はもともと主に中国東北部に住んでいた。中国帰 国者の人数が多いことがここからも見られる。
その理由について、山下(2010)は次のように述べる。
「日本では福建省からの来日が抑制される一方、九〇年代後半あたりから増えはじめる
のが黒龍江省、吉林省、遼寧省の東北三省の出身者である。この変化は池袋チャイナタウ ンを構成する新華僑たちにもみられ、前述したようにこの街に東北料理の店が多いのはそ の反映だ。
では、なぜ東北地方から日本へ来るようになったのだろうか。これはもともとこの地方 が日本語となじみ深いことが大きな要因である。
旧満州にあたる東北部地方は中国でもっとも日本語教育がさかんな地域である。また、
もともとの地域には朝鮮族が多く、彼らが話す朝鮮語は文法的に日本語と近いため、日本 語の習熟が早い。実際、中国人で流暢な日本語を話すのは朝鮮族が多い。二〇〇〇ごろま で朝鮮族にとって、英語よりも日本語のほうが学びやすく、大学受験の場合にも、英語で 受験する場合よりも日本語を選択したほうが、より高い点数が取れたそうである……」
また、統計表の第1表「国籍(出身地)別 在留資格(在留目的)別 外国登録者」を みると、中国登録者(655,377人)の中には永住者の人数が(142,469人)で一番多く、
留学の人数は(88,812人)で二番目に多い。後は特定活動(84,478人)三番、研修(65,
716人)四番、日本人の配偶者等(57,336人)五番である。
表4 「国籍(出身地)別 在留資格(在留目的)別 外国登録者」
国 籍 総 数 永 住 者 留 学 特 定 活 動 研 修 日本 人 の配 偶 者 等 中 国 6 55,3 77 14 2,4 6 9 8 8,8 12 84 ,48 7 65,7 16 57,3 36
『在留外国人統計平成21年版』より作成
永住者は中国帰国者の場合が多い。中国国内が1999年から今までも大学生の人数は多 くなって、卒業生の就職環境が厳しくなってきて、競争が激しくなっている。日本に留学、
就労の人数が著しく増加している。それ以外に国際結婚の形で日本人の配偶者(主に妻)
になっている。統計表の第2表「国籍(出身地)別 年齢・男女別 外国人登録者」をみ ると、(655,377人)の中に、男性は(277,727人)で、女性は(377,650人)である。
表5 「国籍(出身地)別 年齢・男女別 外国人登録者」
国 籍 総 数 男 女
中 国 6 5 5,3 77 2 77,7 27 3 77,6 50
『在留外国人統計平成21年版』より作成
女性は男性より約10万人多いのは、就職状況が女性の方が良好であることも理由の一 つであると考えられる。
統計表の第3表「都道府県別 国籍(出身地)別 外国人登録者」をみると、中国の場
合は東京都(144,469人)一番、神奈川県(51,789人)二番で、大阪府(48,155人)
三番、後は愛知県(46,167人)四番、埼玉県(43,411人)五番、千葉県(41,125人)
六番、兵庫県(24,760人)七番、福岡県(20,201人)八番である。
表6 「都道府県別 国籍(出身地)別 外国人登録者」
東 京 神 奈 川 大 阪 愛 知 埼 玉 千 葉 兵 庫 福 岡 中 国 144 ,4 6 9 5 1,7 89 4 8,15 5 4 6,167 4 3,4 11 4 1,12 5 24,7 6 0 20 ,20 1
『在留外国人統計平成21年版』より作成 中国人は主に首都圏、近畿圏のような大都市圏に集中している。
統計表の第8表「国籍(出身地)別 市・区別 外国人登録者」をみると、大阪府の場 合で、大阪市(25,405人)一番、堺市(4,351人)二番、東大阪市(2,812人)三番、
八尾市(1,481人)四番である。
表7 「国籍(出身地)別 市・区別 外国人登録者」
大 阪府 大 阪 市 堺 市 東 大 阪 市 八 尾 市 中 国 25,4 05 4 ,35 1 2,8 12 1、4 8 1
『在留外国人統計平成21年版』より作成 府営住宅と市営住宅が多い自治体に中国人が多い。
本研究で取り上げる東大阪市は、大阪府内における中国人の集住地域の一つであり、東 大阪市は本研究に取り組むのにふさわしい地域であるといえる。
Ⅱ 先行研究
「中国帰国者」3世・4世児童・生徒に関する研究はこれまで藤井健太・田渕(2001)、
藤井泰一(1998)、高智(2008)、大久保(2000)、鍛冶(2000、2007)などが見られる。こ れらの先行研究は3つの分野に分けることができるため、以下では、分野ごとに先行研究 の内容や課題を述べる。
1.教育問題に関する研究
藤井健太・田測(2001)は、主に4人の中国帰国者3世児童・生徒の生活実態を記述し て、子どもたちの視点から一人一人のミクロの内面世界に踏み込んだ研究である。4人の
中国での生活、来日後の一年目から四年目までの生活を記録して、来日の目的、生活習慣、
価値観、家庭、学校生活なども紹介した。彼らの生活の様子を生き生きと記述した。本研 究は自然な形で子どもたちの観察を行ってきた。エスノグラフイーの手法(注2)で研究 して、主に子どもたちの生活の問題を紹介して、教育課題の提言をしたが、彼らの教育に ついて具体的な方法などは指摘しなかった。
藤井泰一(1998)は、主に大阪府松原市にある市立B小学校における中国渡日児童教育 の取り組みを紹介しながら、中国渡目児童教育、国際理解教育の方向性を探った研究であ
る。渡日児童の帰国原因や日本に来てから持つ疑問などの具体的な事例を挙げながら、周 りの児童が自分の問題として共感的に受け止めることと、渡目児童が周りの児童と自分の 悩みや思いを本音で話せるような繋がりを作るための集団作りにも取り組んだ。これに基 づいた年間カリキュラムも紹介した実践的研究である。
2.エスニシティとアイデンティティに関する研究
高智(2008)、は大阪府八尾市を事例として、中国帰国者などのニューカマーと日本人・
当地の在日コリアンなどのオールドカマーのいかなる民族関係が「統合」を促進しうるか について、地域社会というローカルレベルから考察した研究である。ローカルレベルの社 会統合のありかたを模索するキーワードとして「多文化共生」が提唱されるようになった 現在において、この研究は外国人住民の間に民族関係や政治経済的格差があることについ ても検討した。
この研究を通して、中国帰国者に対する研究が彼ら自身の問題だけではなくて、周りの
地域住民とのふれあいも考える必要性があることが分かった。外国人住民の統合に向けて 何かできるかが今後の課題であると指摘した。
大久保(2000)は「中国日えい青年」の新たなアイデンティティへの方法について考え た研究である。「中国目えい青年」は日本と中国のハイブリディティ(注3)をポジティブ な特徴とする中間的な存在としての「生」を確立することによって、彼らが正々堂々とそ の特徴を主張し、生きることができるとした。
「中国目えい青年」は、日本人と中国人の中間者として存在し、中国文化と中国語の継 続的な習得に努めて、日本文化と日本語に対しても、獲得する姿勢が強い。両方の言語や 文化において、限りなく「完全」に近づけば近づくほど、「アイデンティティ・クライシス
(危機)」をより乗り越えやすくなるといえる。特に日本語の習得が重要な意味を持ってい る。
3.進路に関する研究
鍛冶(2007)は、ある特定の中学校区に居住した経験を持つ中国出身生徒を対象に進路 追跡調査を実施することを通じ、その進路決定要因を明らかにした研究である。この論文 の中で中卒直後の進路について小学校時代に渡目した生徒9割以上が高校に進学できてい て、中学校時代に渡目した生徒や就学以前から日本にいた生徒は3割以上が高校に進学で きていないことを明らかにしている。中学生として渡目した生徒の多くが高校に進学でき ていないことに改めて注目する必要があることを指摘した。
高校進学後の進路は、中国で父親が非農家だった生徒は農家だった生徒よりも、52.5ポ イントも高い割合で大学・短期大学・専門学校へ進学していることを指摘している。
中国帰国者生徒の進路は、中学校から高校までは日本における在学開始学年に代表され る移民時の年齢から、高校から大学までは中国における父親の職業に代表される社会経済 的地位から、それぞれ強く規定されていることが明らかとなった。
中国で父親の職業が農家であっても、非農家であっても、経済的な能力は進学の決定的 な原因であると解釈できる。
鍛冶(2000)は、進学上に不利な立場に立たされている中国帰国者青少年たちが「進学 組」と「ドロップアウト組」とに分化させられていくそのプロセスを彼(女)らの民族的 要素と階級的要素の両方に着目しながら素描した研究である。中国帰国生徒の三類型が配 置されて、最後にこの三類型それぞれにとっての学校生存機会についての考察が質的デー
夕を参照しながら順番に行われていく。
中国帰国生徒にとっては日本での進学が困難であることが読み取れる。文化、言語の壁 を乗り超えると同時に、彼ら自身の悩みやいじめの問題の解決はどうしたらいいのが課題 である。
4.先行研究における課題
先行研究から見ると、中国帰国者児童・生徒の個人の事例の調査を通して、生活と教育 の問題がよく検討されたが、中国帰国者児童・生徒が日本に来たばかりの時、日本社会に どのように適応していくかというその方法はほとんど検討されてこなかった。先行研究は
日本社会への適応の難しさを明確にしたが、どうしたら適応していけるのかについて、具 体的な方法を明示しなかった。
Ⅲ 研究対象と方法
1.研究対象の紹介 1)東大阪市立A中学校
東大阪市立A中学校(以後はA中学校と記す)は中国帰国生徒の指導の指定校である。
中国帰国生徒の受け入れを開始してから十年以上経過している。平成22年度当初のA中学 校の全校生徒は約1050人、教師は約70人である。平成22年10月1日現在の中国帰国生 徒数は全部で36人である。その内訳は一年生6人、二年生13人、三年生17人である。
2)日本語教室
A中学校では、日本語教室が中国帰国生徒のために設置されている。主な目的は中国帰 国生徒に日本語を補習するためである。また、他科目の指導も行っている。例えば、英語、
数学、社会などである。日本語教室では中国帰国生徒の学習状況を把握する以外に、中国 帰国生徒の家庭状況や心理状況も把握している。
日本語教室担当の教師は日本人教師のほかに、一人の中国人教師も非常勤教師であるが、
毎日日本語教室に通ってきている。日本語教室に恒常的に通っている生徒は9名である。
生徒は日本に来る時期が違うことによって、日本語のレベルも違うから、日本語指導は主 に一対一の形で行っている。
3)生徒の紹介
今は通う必要がある中国帰国生徒が9人いるが、筆者は主に以下の7人と接している。
表8 「7人生徒の紹介」
名前 性別 学年 日本語会話 力の程度 在 日期 間 勉 強態度 出身地 国籍
Ⅹ 男 中三 日常会話 は上手にできる 3 年間 半 まじめ 中国黒龍江省 中国 C 男 中三 日常会話 まあまあで きる 2 年間 半 比較的 まじめ 中国黒龍江省 中国 W 女 中三 日常会話 あま りで きな い 10 カ月 まじめ 中国黒龍江省 日本 Q 女 中三 日常会話 あま りで きな い 10 カ月 比 較的 まじめ 中国黒龍江省 日本 D 女 中二 上手 8 年間 半 ま じめ 中国黒龍江省 日 本
S 男 中二 ほ とん どで きな い 8 カ月 比 較的 まじめ 中国黒龍江省 中国 H 女 中三 ほ とん どで きな い 1 カ月 ま じめ 中国黒 龍江 省 中国
筆者より作成
9名の生徒のうち、7名は中国黒龍江省生まれ、残る2名は日本で生まれた生徒であり 本研究の研究対象として扱わない。
現在筆者はその7名に日本語の指導を行っている(注4)が、5名は来日後3年以内で あり、日常生活の会話力は十分に身についていない。8年前に来日している生徒が1名い るが、文章の読み書きに関しては日本語力が十分でない。
Ⅹ君は日本での生活に結構慣れていて、日常会話が上手にできるものの、書く能力はま だほとんど身に付いていない。Ⅹ君がもっとも好きな科目は歴史(社会科歴史的分野)で ある。日本語教室にいる時は、いつも誰かと話をしている。とても明るい性格のように見 えるが、クラスで日本人の生徒と仲良くしているわけではない。後述のWさんはT君が「あ なたは日本に来たばかりだから、(日本人の生徒は)親しんでくれたが、ただあなたのこと に好奇心を持っているだけだ。日本に長く生活していると、回りの日本人の生徒たちにと ってもう別にどうでもいい。私は最初そうだった」と話した。
C君は日本に来てもう二年間半になったが、日本の生活にまだ慣れていないようだ。彼 は日本語教室にいても、いつも静かだ。とても内向的な性格で、誰とも話さない。クラス でも同じだ。他の生徒の話では、彼はよく苛められたようだ。
WさんとQさんは姉妹である。WさんはQさんの2歳下の妹である。しかし、Wさんは学 校で中国の名前で呼ばれるが、Qさんは学校で日本の名前で呼ばれている。名前のみで二 人は姉妹だと思わない。二人は農村部から日本にやってきた。家庭の経済状況が良くない
ことを気にかけているようだ。
Dさんは幼稚園ごろに日本に来た。日本語の会話は上手で、日常生活に関しては特に問 題ない。ただし、日本語の読み書き能力が十分ではない。
S君とHさんは日本に来たばかりだから、何に対しても興味を持っている。日本語の学 習にもとても真面目だ。
2.調査方法
本研究は最初に7名の生徒に簡単なアンケート調査を実施した後、二つのグループに分 かれて、インタビューする。主に中国帰国生徒が渡日してから、日本の社会で生活する上 でどんな困ったことがあるのかを確かめるためである。アンケート調査の内容に基づいて、
インタビューでは具体的な内容を詳しく聞いて、まとめる。その結果明らかになる問題は 社会科教育でどのように対応したら、一番ふさわしいのかであり、その点を検討して、個
別に指導すべき課題を明らかにしていきたい。アンケート調査項目は次の通りである。
社会科教育内容に関するアンケート調査のお願い
この調査は皆さんが日本に来て間もない頃に、どんなことにとても困ったのかを確かめ させていただくものです。これはテストではありませんので、思ったとおりにそのまま答 えてください。それぞれの問いで当てはまる答えを○で囲んでください。または、具体的 に書いてください。
お答えいただいた回答をもとに、私は日本在住の中国人のために、よりふさわしい社会 科教育内容について研究したいと考えています。
お手数ですが、何卒、ご協力をお願い申し上げます。
2010年6月
奈良教育大学 大学院生
王 芳
I.まず、学年などについて書いてください。
(1) 学年…………=…・ 中( 1 2 3 )年生<○で囲む>
(2) 年齢‥‥‥…………
(3) 性別……・=………
(4) 生まれた国…‥‥‥…
(5) 来日時期…‥…‥‥…
( )才
( 男子 女子)<○で囲む>
( 日本 中国 その他 )<○で囲む>
( )年( )月頃
Ⅱ.困ったことが以下に書いていることに当てはまっていたら、○をつけてください。ま だ、「13番、その他」に○をつけた方は具体的に書いてください。
1買い物の方法
2 乗車の方法(地下鉄、バス、J R、近鉄など)
3 挨拶の仕方 4 道を尋ねる方法 5 自己紹介の仕方
6 料理の食べ方
7 生活用品の名前を覚えにくいこと 8 区(市)役所で手続きのやり方 9 学校用語
10 日常マナー 11進学制度 12 将来の進路 13 その他
(1)
Ⅲ.現在、日本の社会のことで、もっとも知りたいことは何でしょうか。できれば、三 つあるいはそれ以上を書いてください。
(例:日本の国歌、日本の国旗の意味、選挙)
(1)
ご協力に、心から感謝いたします。
Ⅳ インタビュー事例
インタビューの内容はすべて中国語で行った。インタビューの内容は生徒の了解を得た 上ですべて記録した。以下に示すインタビュー記録は録音された中国語の記録を筆者が日 本語に翻訳したものである。事例は全部で四つで、以下の通りである。
1.事例(−)
人物: S君(男性)(中二)(中国黒龍江省、来日8カ月)
時間:10月5日(午後火曜日)15:45から16:30まで 場所: 図書館
内容:
筆者:前のアンケート調査(9−10ページに参考)はまだ覚えているの。内容については分 からなかったところがあるの。(前のアンケート内容を見せながら聞いた)
S君:はい、覚えている。
筆者:日本に来てから、今まで分からないことと困ったことは何かあるの。
S君:(アンケートを見ながら答えた)
2番(乗車の方法)、4番(道を尋ねる方法)、5番(自己紹介)だ。
筆者:他はないの。例えば、日本料理の食べ方とか S君:ない。
筆者:食べ方は一回見たら、すぐ分かるのね。他は?
S君:まだ、11番(進学制度)。
筆者:日常生活での文化やマナーなどはわかるの。例えば、日本人は初対面の時、中国人 みたいな握手をしないとか、挨拶する時、うなずくなど。
S君:はい、わかる。
筆者:例えば、8番について、市役所で手続きが出来るの。
S君:それは全部母がやってくれた。
筆者:でも、今は一人でできるの。できないだろう。
S君:そうだ。できない。
筆者:難しいだろう。
S書:うん。
筆者:進学制度もまだなのね。将来は何をするつもりなの。この中学校に来てから、高校 に進学し、それからどうするの。
S君:大学に進学だ。
筆者:自分は将来についての計画が分かっているの。大体でもいいよ。
S君:ほとんどないよ。
筆者:ないの。
S君:うん(恥ずかしそうに)。今はただ高校まで考えているだけだ。
筆者:ただどこの高校に進学したらいいのを考えているの。
S君:うん。
筆者:うんん。私が言った他に、何か困ることはあるの。例えば、クラスメートと付き合 いにくくて、何を言っているのかがわからない、やり方がわからないなどがあるの。
S君:あったよ。話がわからないから、自分の悪口を言っているかもしれないと思った。
でも、そうじゃない。誤解しやすい。
筆者:クラスメートを誤解したね。これは日本語の問題だろう。日本語ができたら、この ような誤解がないだろう。
S君:うん、そうだ。
筆者:そして、まだ何かあるの。
S君:うん。
筆者:例えば、乗車の方法
S君:それは駅で印があるじゃないか、それですぐわかる。
筆者:乗車の方法はどれくらい身につけたの。
S君:9月の中旬に、八尾市へスピーチ・コンテストに参加に行った。バスで行った。あの 一回でバスに乗れた。
筆者:身につけたの。
S君:うん。
筆者:他は?例えば、学校で染めるのは禁止することや制服で登校など。
S君:なぜ、制服なの。好きな服装で登校(したい)。
筆者:制服、多分学校は管理の便利さのためだ。日本の文化、習慣みたいだ。中国でも、
中学校や高校はジャージーを着るだろう。ジャージーより日本の制服はもっとかわ いいだろう。
S書:うん。
筆者:他もうないの。
S君:うん、ない。
筆者:自分自身は何を勉強したいの。例えば、日本の国歌を歌いたいの。日本の国旗にあ る丸はどんな意味。日本の総理大臣は最近毎年変わっている、なぜか。政治など。
S君:ただ日本人はなぜ中国人を蔑視するかを聞きたい。
筆者:自分はどう思うの。
S書:多分中日戦争のせいだろう。両国の友情は崩れた。
筆者:日本人は全部同じだと思うの。日本語教室の船津先生はどう。
S君:違う。彼女は中国人が好きだと思う。
筆者:学校の他の先生は。普段、出会った日本人は中国人を蔑視するはうが多いの。
S君:少ない。学校の先生は中国生徒と日本生徒同じに扱う。
筆者:そうだ。先生だから・・・・・・
学校で使われている言葉はわかるの。例えば、放送用語など S君:大体わかる。
筆者:授業で簡単な用語はわかるの。意味はわかるの。
S君:うん。
筆者:言葉以外、身振り手振りでなんとなくわかるやなあ・・・・・・
筆者:帰国生徒という言葉は聞いたことがあるの。あるいは帰国者。
S書:それは何。
筆者:生徒の祖父か祖母は日本人だ。中日戦争で中国で残留した日本人だ。1972年から中 日関係の回復次第に彼らたちは身元を確認させて、日本人として日本に戻る。戻る 時、子供と孫も一緒に戻った。
S書:うちのおばあさんも帰国者だよ。母のお母さんだ。もう日本に帰った。
筆者:あなたのお母さんとあなたは帰国者の二世と三世だ。
S書:お祖母さんは残留孤児だ。
筆者:君は三世だよ。私の研究は君みたいな帰国者の三世や四世の教育問題だ。みんなは 中国で生まれて、中国文化も慣れる。いきなり日本に渡ってきて、分からない所が 多いだろう。
S君:うん。
筆者:私が聞きたいのは日本の社会について分からないことだ。日本に来て、すぐ身につ けたいことは何だろう。
S書:あるよ。日本語の勉強だ。高校、大学まで進学して、就職する。日本で生活できる ように。
筆者:やっぱり、日本語は一番だ。でも、日本語を勉強しながら、日本で生活しているだ ろう。日本の社会が分からないと生活しにくいだろう。
S君:うん。
筆者:だから、日本語以外の知識も重要だ。日本の日常生活について、特に知りたいこと はなんだろう。
S君:なぜか日本人は刺身を食べるの。生で食べるわ。
筆者:日本は島国だから、周りが海だ。魚は大事な食物だよ。日本人の食文化だ。私もよ く分からないで、調べるわ。他、生活習慣など。日本国のことについて、政治や中 日関係など。
S君:中日関係に興味がある。今は前よりよくなった・・・・・・
筆者:今は平成22年だ。年号の経緯を知っているの。原因は知りたいの。
S君:うん、知りたい。中国と違う。
筆者:日本人は結婚した後で、入籍することを知っているだろう、納得できるの。なぜか 知りたいの。
S君:できない。それは知りたい。中国と違う。
筆者:日本の地理や歴史などについて知りたいことがあるの。
S君:ない。でも、なぜか時間が違うの。まだ、日本の有名な文化遺産を知りたい。
筆者:世界遺産みたいな所だ。授業で習いたいだろう。
S君:はい。そうだ。
筆者:日本に天皇が存在していることが分かっているだろう。天皇について、知りたいこ とがあるの。
S君:はい。なぜ天皇が存在しているのか、どんな意味があるのかを知りたい。
筆者:うん。日本の国以外のことは。自分自身について、何か権利を持っているなど、例 えば、法律常識とか
S君:なぜ自転車で人を載せるのは禁止なの。バイクも免許がいるの。そうだ、そうだ。
もうひとつ知りたいことは、日本は核兵器を持っているの。
筆者:自転車やバイクのことは交通の問題だ。交通の法律を知りたいよね。日本は核兵器 をもっていない。社会科については。
S君:中国に関する歴史はわかるけど、他は知らない。なぜ、日本の歴史教科書で中国の 秦始皇があるの。
筆者:彼は歴史的に重要な意味がある人だ。初めて中国を統一する皇帝だ。
S君:なるほど。
筆者:自分の将来については?
S君:自分は分からないけど、先生の指導が欲しい。
筆者:帰国者の歴史の指導は。
S君:知りたくない。歴史はいいけど、今のことや将来のことを知りたい。
筆者:日本の社会のことは
S君:簡単な知識を知りたい。日本人は礼儀がいい。とても礼儀が正しい。
筆者:日本のマナーなどは
S君:なぜ学校で携帯電話を禁止するの、中国で使えるわ。ただし、マナーモードする。
他にはもうない。
筆者:お疲れ様でした。今日は以上だ。何かあったら、まだ言ってください。
S君:わかった。
考察:
1.S君が日本で困ったことには、2番(乗車の方法)、4番(道を尋ねる方法)、5番(自 己紹介)、11番(進学制度)がある。
2.S君が知りたいことは、日本人が中国人に対してどうして蔑視するのか、日本の食 文化、中日関係、日本の年号の経緯、入籍のこと、日本の世界遺産、交通ルール、簡単な 社会知識、日常マナー(学校制度)などがある。
3.S君が関心を持たないことは、日本の国歌と国旗、政治(総理大臣など)、帰国者の 歴史などがある。
帰国生徒としてのS君が帰国者に関する知識すなわち、自分自身が渡目した理由に関す ることに興味を持ってないことは意外だった。日本の国のことについても同じだ。筆者の 予想と違った。原因は何だろう。日常に使える知識を知りたいだけだ。これから、どうよ うな指導で日本の国のことや帰国者のことなどの重要さを彼に意識させるのかが課題であ
る。
まだ、彼らは中国人としてのアイデンティティを持っているために日本の国について、
関心を持たないとも考えられるか、この点は章を改めて、考察を加えたい。
2.事例(二)
人物: Wさん(女性)(中三)仲国黒龍江省、来日10カ月)
時間:10月7日(木曜日午後)15:30から16:30まで 場所: 日本語教室
内容:
筆者:前のアンケート調査(9−10ページに参考)はまだ覚えているの。内容については分 からなかったところがあるの。(前のアンケート内容を見せながら聞いた)
Wさん:はい、覚えている。
筆者:日本に来てから、今まで分からないことと困ったことは何かあるの。
Wさん:(アンケートを見ながら答えた)2番(乗車の方法)だ。
筆者:それから。
Wさん:7番(生活用品の名前を覚えにくいこと)、8番(市役所で手続きのやりかた)だ。
筆者:挨拶の仕方は。
Wさん:大丈夫だ。
筆者:他は、道を尋ねる方法とか。
Wさん:尋ねたことない。でも、場所を覚えたら、なんとなく行ける。
筆者:自己紹介は。日本に来たばかりなので、すぐ覚える必要がないの Wさん:今はできる。うん、必要があると思う。
筆者:学校で使う言葉は。
Wさん:教科の名前は今わかるけど、来たばかりの時は授業の名前、授業の場所を教えて 欲しかった。
筆者:他は。
Wさん:11番(進学制度)だ。どうやって高校に進学できるのかが分からない。
筆者:進学する時は先生が教えてくれるはずだ。心配しないで。日本に来てから、将来の 計画はあるの。
Wさん:ない。高校の成績によって、大学まで行くかどうか決まる。
筆者:そうじゃない。重要なのはどんな大学へ行きたいか。進学は誰でもできる。いい大 学へ行きたかったら、頑張らないとだめだ。
Wさん:うん。
筆者:自分は最初から目標がはっきりして、頑張る方がいいと思う。
Wさん:うん。
筆者:だから、進路についての指導が必要だろう。
Wさん:うん
筆者:アンケート以外の内容で何か困ったことや、自分が知りたいことは。特に日本に来 たばかりの時。日本社会や生活に関することなど。
Wさん:うん。よくわからない。
筆者:うん、例えば、最初学校に来る時、登校の時間や、制服、髪を染めることが禁止さ れているなどのことだ。このような生活でよくあることだ。
Wさん:うん、
筆者:ないの。
W さん:ない。ただし、最初来た時、新しい環境に何でも分からないし、クラスメートと 一緒にやることができない。
筆者:特にクラスメートと一緒に何かやりたいだろう。
Wさん:うん。
筆者:それから。
Wさん:最初、授業の場所が分からなかった。それは困った。
筆者:うん。授業の科目によっては、場所が変わる。大学に進学しても、同じだ。だから、
事前に了解する必要がある。どんな授業はどこで受けることを事前に聞いた方がい いだろう。
W さん:最初は聞かなかった。日本語ができないから。ただし、クラスメートに従ってな んとなく場所がわかる。結構困った。
筆者:一回、二回ぐらいだったら、行けるだろう。入学してから、どれぐらいかかって、
場所を全部覚えたの。
Wさん:一ケ月、二ケ月ぐらいだ。
筆者:なぜ日本に来たのかは知っているよね。お祖母さん(母のお母さん)は日本人だか ら。お祖母さんやお祖父さんは日本人で、戦争で中国に残留した。中日関係が回復
してから、だんだん日本に帰ってきた。その子供や孫たちも一緒に日本に帰った。
このような人たちは帰国者と言う。このような知識は聞いたことがあるの。
Wさん:ない。
筆者:帰国者の歴史的背景を知りたいの。なぜかお祖母さんが中国に残ったの。なぜあな たは日本に来たのか。
W さん:うん。知りたい。なぜ日本に来たのかは知りたい。考えたことがあるけど、よく 分からない。日本に来るのは両親が決めたわ。でも、進学制度を優先的に知りたい。
筆者:社会常識などは。社会科の内容、地理や歴史などを知りたいの。
Wさん:知りたい。どうやって、日本でいい生活ができるのとか。
筆者:うん。日本のマナーとか、日本に来たばかりの生徒に対して、教える必要があるの。
W さん:あるけど、数学、国語など優先的に知りたい。とりあえず、高校に進学したい。
他は高校に進学したら、勉強もできる。
筆者:他の問題は。
Wさん:ない
筆者:日本に来たばかり、日本人と付き合う時、何を注意すべきかなど教えて欲しいだろ う。
Wさん:うん。欲しい。特にクラスメートと付き合いたい。何か注意すべきか分からない。
教えてほしい。
筆者:今はクラスメートと何か交流があるの。
Wさん:ない。ただ、授業の場所尋ねるぐらいを聞く。
筆者:クラスメートと喋らないか。
W さん:うん、普段は喋らない。たまに一言を言ったら、みんなは意外な顔をしていた。
しゃべりたいけど、しゃべり方や内容は分からない。
筆者:でも、日本語が上手になったら、話題があるだろう。
Wさん:うん
筆者:やっぱり日本語が下手だろう。
W さん:そうではない。知らない人と喋るのが恥ずかしい。でも、相手から声をかけられ たら、嬉しい。返事もしたい。でも、長くしたら、クラスメートも(私の存在に)
慣れるし、声もあまりかけられない。
筆者:長くしたら、みんなは慣れた。だから、あなたは自分から進んでクラスメートに声
をかけたら、いいじゃないのか。みんなの考え方は一緒だ。相手から先に挨拶して ほしい。
Wさん:最初は朝教室に入る時、「おはよう」と挨拶してくれた。今はしない。
筆者:自分から進んで言ったことがあるの。
Wさん:ない
筆者:なるほど。今度、教室に入ると、大きい声で「おはよう」を言ってみなさい。
Wさん:うん。
筆者:自分は声をかけられたら、嬉しいだろう。みんなも同じだ。
Wさん:返事するのは大丈夫だけど、進んで言うのはおかしいと恩う。
筆者:なぜ?
Wさん:よく分からない。言いたいけど、言い難い。
筆者:やらないと、わからない。良い習慣をできるように頑張って声を出してね。
Wさん:声を出したら、みんなはびっくりするだろう。(不安な顔をした。)
筆者:考えすぎやなあ。みんなはまだ子供だ。必要な常識を知らないから、自信がない。
普段で知らないこと、日本語教室の先生や先輩たちに尋ねた方がいい。
Wさん:うん。
筆者:まだ、日本の社会について、知りたいことがあるの。
Wさん:うん、あるけど、よく分からない。
筆者:日本の歴史とか
Wさん:知りたい。役に立つと思う。
筆者:例えば、天皇とか、首相とか。
Wさん:知りたい。
筆者:興味あるの。
Wさん:あるよ。
筆者:年号のことは
Wさん:役に立つ。教えて欲しい。
筆者:日本の国の歴史は。社会科の時間、いつも日本語教室で日本語を勉強しているから、
勉強できなかった。常識みたいな知識をやっぱり知りたいだろう。
Wさん:うん。
筆者:特に中日関係の歴史は知りたいだろう。中国である程度勉強してきたはずだ。日本
に来て、日本からの見方は知りたいだろう。
Wさん:うん。
筆者:日中の歴史を分かると、特に帰国者の歴史をもっと了解したいの。
Wさん:うん、知りたい。
筆者:歴史以外は、地理とかは。例えば、日本の首都は東京だ。知っているだろう。北の 所は北海道、南の所は沖縄だ。
Wさん:それは知りたいけど、別にいい。
筆者:中国で有名な所は知っているだろう。故宮とか、万里の長城とか。同じように日本 の有名な場所を知りたいだろう。あるいは少なくても世界遺産ぐらいを知りたいだ ろう。
Wさん:うん。全然知らなかった。
筆者:まだ、一番高い山や、一番広い湖など Wさん:うん、知りたい。
筆者:全国的に有名な所の以外に、自分が住んでいる所に関する常識は Wさん:うん、知りたい。市長とか、市役所の場所、買い物の場所など。
筆者:わかった。日本の常識については。例えば、外に出たら、携帯電話をマナーモード にする。音を出さないように。そういうことは。
W さん:うん。乗車の注意すること。服装に関する知識なども。あるいは、スーパーで、
街で何か注意すべきかを知りたい。何かやったらいいの。
筆者:うん。エスカレーターに乗る時、二人並んで立つのは良くないことだ。(関西では)
右側に立って、左側にあげて、後ろの人の為だ。このような知識はどう。
Wさん:知りたい。
筆者:日本の国歌や国旗など、入籍などは。
W さん:知りたくない。日常生活の常識を知りたい。でも、日本に慣れたら、分かるはず だ。必要なものだけでいい。
筆者:わかった。他は。
Wさん:もうない
筆者:お疲れ様でした。今日は以上だ。何かあったら、まだ言ってください。
Wさん:わかった。
考察:
Wさんは中国の農村部からいきなり日本にやって来た生徒だ。彼女は2009年12月に日 本にきた。彼女は日本語教室の生徒の中で、最も問題を抱えた生徒だ。友達があまりいな
い。日本語教室に通っている生徒とも、関係が良くなさそうだ。その原因はなんだろうか。
彼女自身の問題があるが、他人の助けが必要だろう。このインタビューを通して、彼女自 身の寂しさが強く感じられた。彼女は他人との交流が求めているのに、恥ずかしくて、そ れを実行できないという気持ちがあると分かった。彼女のように農村部から日本に来た帰
国生徒が他の生徒より更に関心を向けていく必要があるのではないか。
3.事例(三)
人物: Ⅹ君(男性)(中三)(中国黒龍江省、来日3年間半)
時間:10月13日(午後水曜日)13:00から13:2515:30から16:30まで 場所: 日本語教室
内容:
筆者:前のアンケート調査(9−10ページに参考)はまだ覚えているの。内容については分 からなかったところがあるの。(前のアンケート内容を見せながら聞いた)
Ⅹ書:はい、覚えている。
筆者:日本に来てから、困ったことは何があるの。乗車の方法とか。
Ⅹ君:うん、それは簡単だ。一回乗ったら、分かる。主に3番(挨拶の仕方)、9番(学校 用語)だ。
筆者:日本に来て、すぐ教えて欲しいことは何だろう。
Ⅹ君:来たばかりの時のことだろう。やっぱり挨拶の仕方だ。僕は主に学校用語や10番(日 常マナー)を教えて欲しい。それぐらいだ。
筆者:他はないの。
Ⅹ君:ない。僕は(困ったことは他の生徒より少ないから)特別なのか。(不安な顔をして いる)
筆者:いや、何も無いよ。個人によって違う。今は何か問題があるの。教えてほしいこと はあるの。
Ⅹ君:ほとんどないけれど、高校に進学することがわかっているのに、他に望むことは特 にないよ。毎日、同じことをやって、生活に楽しさが感じられない。
筆者:学校で勉強以外に何かクラブに参加してなかったのか。
Ⅹ書:参加したよ(筆者注:ラクビ一部で活動していた)。中三の後半からもう引退だ。
筆者:他は。
Ⅹ君:高校の進学だ。
筆者:高校の進学について指導を受けているの。
Ⅹ君:ないよ。
筆者:日本語教室でも。
Ⅹ君:ない。別にいいよ。高校についての指導は高校に入学したら、分かるからだ。
筆者:クラスメートや先生との関係はどう。
Ⅹ君:普通だよ。いい関係とは言えないし、良くない関係とは言えない。
筆者:普段はクラスメートとの交流が多いの。
Ⅹ書:多くない。
筆者:なぜ。
Ⅹ君:クラスメートより先生と話す方が多い。多分僕は特別かもしれない。大人のほうと より話したい。
筆者:先生の方がいいよね。
Ⅹ君:別にクラスメートと話しても、役にも立たない。でも、何か問題があったら、先生 と相談できる。
筆者:問題を解決するの。
Ⅹ君:そうだ。解決した。例えば、今のように先生と話している。
筆者:君はなぜ日本に来たのか。
Ⅹ君:お母さんが日本に来たから、僕も付いてきた。
筆者:帰国者という言葉を知っているの。
Ⅹ君:帰国者。
筆者:日本人と血縁のある人だ。
Ⅹ君:うん、今は分かっている。
筆者:前は知らなかったの。
Ⅹ書:うん。
筆者:別の言い方に残留孤児や残留婦人もある。聞いたことがあるの。
Ⅹ君:残留孤児のことだったら、知っているよ。
筆者:なぜ。
Ⅹ君:親戚に(残留孤児の)二世と結婚した方がいて、日本に来たから。
筆者:ちょっとだけ知っているよね。帰国者に関することをもっと知りたくないの。
Ⅹ君:いいえ、知りたくない。
筆者:次は授業のことだ。日本語教室で受けている授業はどう思う。
Ⅹ君:いいじゃない。
筆者:直して欲しいことはあるの。
Ⅹ君:うん、毎学年で勝手に先生が変わることはやめてほしい。変わると、僕の成績が悪 くなる。
筆者:毎学年も変わるの。
Ⅹ君:毎学年だ。成績がだんだん悪くなった。
筆者:そうか。多分個人によって、違う。
Ⅹ君:ずっと同じ先生に教えて欲しい。
筆者:でも、高校に入学すると、先生は全部かわるよ。適応能力の問題じゃないか。
Ⅹ君:先生が変わると、教え方も変わる。なかなかついていけない。
筆者:それは頑張ってね。他は生徒指導のこととか。
Ⅹ君:国内(筆者注:中国のこと)よりは厳しくない。もっと厳しくして。
筆者:なぜ。
Ⅹ君:生徒指導がいいけど、もっと厳しくして欲しい。厳しくないと、頑張る気がない。
筆者:学校については。
Ⅹ君:ない。もう三年間日本にいるから。(嘆きながら)この三年間は大変だった。いろい ろ苦労した。
筆者:苦労した。でも、今もうほとんど問題がないだろう。
Ⅹ君:ないよ。別に日本語を喋れるし。
筆者:今の立場から、後に来る生徒にアドバイスはあるの。
Ⅹ君:アドバイスか。何があっても、平気でいることだ。日本に来たら、何でも気にしな いで。
筆者:平気でいるの。
Ⅹ君:そうだ。日本に来たばかりの時、突然、いい友達はだんだん親しくなくなった。な ぜか分からない。もう別にいい。
筆者:他は。
Ⅹ君:まだ、進んでクラスメートと交流した方がいい。
筆者:学校については。
Ⅹ君:ない。
筆者:学校に関することを知りたくないの。
Ⅹ君:知りたくない。そいうことは長くいたら、だんだん身につける。そうじゃないの。
自分で学んだことは印象が深い。
筆者:他に疑問がないの。
Ⅹ君:ない。
筆者:インタビューの目的を知っているの。
Ⅹ君:少し。
筆者:主に君みたいな帰国生徒に日本社会に関する知識の教え方を研究している。特に日 本に来たばかりの生徒にどのような指導でもっと早く日本社会に適応できるか。や
り方を研究している。君のアドバイスは参考になる… ‥意味が分かるの。
Ⅹ君:分かった。一つあった。ある人は日本に来て、日本のことを受け入れない気持ちが ある。それは先生の指導がいる。ある人だけだ。
筆者:うん。他には。日本の社会について、歴史や地理など。特に中日の歴史は。
Ⅹ君:歴史だったら、将来にも役にたつよ。
筆者:帰国者の歴史は。
Ⅹ君:教えて欲しい。役にたつよ。自分のことだから。
筆者:地理は。簡単な知識は知るべきだろう。日本語が分からない生徒に日本語教室でそ の指導がいるだろう。
Ⅹ君:いる。日本の世界遺産とか。
筆者:住んでいる所は。
Ⅹ君:周りの有名な旅行地や公的な施設を教えて欲しい。普段、どこに遊びに行くのかも 知らない。それは教えてくれたらいい。
筆者:日本の常識は。天皇の簡単な紹介とか。
Ⅹ君:簡単な紹介で一回だけで十分だ。もう知っていた。
筆者:日本の国歌、国旗は。
Ⅹ君:知りたくない。
筆者:なぜ。
Ⅹ君:音楽に興味がないし。聞いたことがあるけど、よく知らない。
筆者:政治のことは。選挙とか。
Ⅹ君:個人によって、興味があったら、教えたらいいけど。僕はテレビから分かった。毎 日放送するから。テレビのほうがいいと思う。
筆者:なるほど。他は。日本のマナーとか。
Ⅹ君:それは大事だよ。一番大事だ。最初は何も分からないから、違うことをやったら、
おかしい人と思われた。誰も教えてくれなかった。ただ、家族の人と一緒に出かけ る時、注意してくれた。初めて電車に乗る時はいきなり携帯電話の着信を知らせる 音楽が流れて、周り人がびっくりしていた。でも、中国でそれは普通だろう。電車
で携帯をマナーモードすることを教えてくれたら、助かるわ。
筆者:うん。
Ⅹ君:エスカレーター(筆者が教えたことがある)のこととか、衛生のこととか。一日に 一つでもいいよ。
筆者:それは日本のマナーというか、大きく言うと日本の文化だよ。
Ⅹ書:先生はもっと教えてください。話し方とか。
筆者:分かった。他は花見とか。
Ⅹ君:それはそんなに重要ではない。
(後、筆者は日本のマナーについて少し紹介して、Ⅹ書がすごく興味を持った)
筆者:将来の計画はあるの。
Ⅹ君:通訳やガイドになりたい。せっかく中国語と日本語ができるから。前からもっとい い仕事(コンピュータに関する仕事)をやりたいけど、それは不可能だ。もうやめ た。
筆者:よかった。ちゃんと自分の計画ができた。将来は日本と中国のために何をしたいの
Ⅹ君:やっぱり両国の架け橋になりたい。今はやっぱり中国が好きだけど。
筆者:今日は以上だ。お疲れ様でした。何があったら、まだ言ってください。
Ⅹ君:はい、分かった。
考察:
Ⅹ 吾は結構大人ぽいと感じられる。自分の将来までも具体的な計画を持っていた。日本