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西鶴『本朝桜陰比事』について

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西鶴﹃本朝桜陰比事﹄について

序 本論 第 一 章 構 想 に つ い て 第一節訴訟の種類について 第二節登場人物について 第 三 節 判 決 に つ い て 第 二 章 原 典 と の 比 較 第一節﹃裳陰比事﹄の影響 第二節﹃板倉政要﹄との比較 結ぴ 参考文献 序 乙の﹁本朝桜陰比事﹄は、元禄二年︵一六八九︶正月に、 井原西鶴の﹁雑話物﹂の一つとして書かれた作品である。 五巻四十四話で構成されており、その一話一話が独立した 物話である。内容は、当時の庶民の聞に起とった数々のも

三十回生

めごとを、裁判官﹁御前﹂が解決してゆく、というもので ある。一見、裁判の記録集のようにみせながら、実はそれ だけでなく、庶民の生活を描き出し、西鶴自身のものの見 方などを鋭く盛り込んだ作品となっている。 乙乙では私は、彼が当時の各階級の人々に対して持って いた考えを明らかにすると共に、影響を受けたと考えられ る、中国の﹁業陰比事﹄、板倉名裁判と唱われ、江戸時代 初期に実在した板倉父子による判例集﹃板倉政要﹄の二つ の作品を典拠の一として挙げ、西鶴の脚色の意図を探りた い。さらに、裁判という善と慈の判断の場においての彼の 価値観もまた考察してみたいと思う。また、乙の作品には、 彼のどんな意図があり、どのような想いが乙められていた のであろうか。内容分析を進め、できうる限り、彼の中核 に迫ってみたいと思う。 テキストには、明治書院の対訳西鶴全集十て 陰比事﹂を用いた。 第 一 章 構 想 に つ い て ﹁ 本 朝 桜

(2)

﹁本朝桜陰比事﹂五巻四十四話は、それぞれが独立した 作品で、共通した登場人物は、困難な事件を見事に解決し てゆく﹁御前﹂だけである。乙の共通性に欠ける四十四話 を、いろいろな視点から眺め、分類して、西鶴が当時の社 会の人々に対して持っていたイメージや考えを明らかにし たい。そして、この作品で西鶴がねらったものは何であっ たのか、などを捉えてゆきたいと思う。 第一節訴訟の種類について 訴訟の種類としては、①所有、②盗み︵詐欺︶、③殺人、 ④相続、⑤密通、⑥約束の不履行、の六つが主なものである。 そして、子供の認知などを含む、⑦その他、とに八万けられ る。さらに、訴訟と言うより、⑥処置を願い出るもの、が ある。①

t

⑨のいずれの分類も、お上に届ける時点におけ る訴訟の種類である。これをまとめたものが、次の八表 1 ﹀ で あ る 。 八表 1 ﹀からわかるように、盗み︵詐欺︶が一番多く、 四十四話中九話となっている。ついで、相続、所有、殺人 となり、乙の四つで三十話、つまり、全体の約七

O%

を占 め、ここに集中しているととがわかる。法律として確定し たものが存在しなかった当時、相続所有の問題は、よく起 った乙とであろうし、盗みや殺人も、庶民の貧しい生活の 中では、多くみられる訴訟だったのではないか、と思われ

ヲ 。

以上から考察すると、西鶴は、当時よく起った訴訟を題 えられる。それは西鶴のイメージとして、﹁好色物﹂など から期待される密通の訴訟も、わずかコ一話にとどまってい るところからも言えるのであろう。 つまり、特に目を引く程の奇抜な訴訟はないのである。 訴訟という題材に、特異な効果を出し、珍しい事件の解決 噺を書乙うとしたのではない。そうなれば、明らかな虚構 となり、庶民の生活から離れたものになってしまう。西鶴 は、題材や事件、それ自体には特異性を持たせず、ごく日 常の庶民の生活にあり得るような事件を取り扱って、読者 に身近なものとして事件を感じとらせ、物語の中に導入す する乙とに成功している。 第 二 節 登 場 人 物 に つ い て 先に述べたように、乙の作品では、﹁御前 L 以外は、共 通した登場人物はいない。そこで、﹁御前しについては、 後の第三節で述べるとして、この雑多な登場人物達の中で、 特に、訴えた者、訴えられた者の二者を採り上げて、次の ように分類してみた。 川町人階級︵商人、職人など町に住む人︶ 凶農民階級︵村里人なども含心︶ 同武士階級︵浪人など︶ 凶僧侶階級︵山伏、修験者なども含む︶ 分類の都合上、@互いに訴え合ったもの、②訴えられた 相手が定っていないもの、④明確に二者がわかるもの、 の三つの中を、それぞれ分類していったのが︿表 2 ﹀

(3)

そ 以上から考察すると、西鶴は、当時よく起った訴訟を題 ふ 明 二 一 、 4 ん E 人− vLflL1 じ 〆 K 6 γ h H t v 一 一 一 戸 ペ 1117 , ︵ の三つの中を、それぞれ分類していったのが︿表 2 ﹀ で u m w

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計 五 四

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(4)

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計 五 四

1

7 四 四・八 三・九 .-ノ~ (×2) ① 1 2 2 2 三・九 七・九 ーーー・f:::. 一・七 四 10 ② 2 2 2 3 1 一・二・五 −ーーー・ ー−−ー 二・三・五 二・四・五 二・三・五 28 六・七・八 四・五・六 七・九 六・七 七・八 (×2) 八 ③ 6 7 5 5 5 45 9 9 9 10 8 計 <表 出 ︵ 二 さ は、再訴訟の為、二度になる。 計 僧 侶 武

農 民 町 人

14

3 11 ① 10

1 8 ② 56 3 1 3 1 2 2 20 24 ③ 80 4 5 8 63 計 (注) ③については、 右半分が訴えた者 左半分が訴えられた者となる。

(5)

く 言l (×2 10 28 (×2 7 出 ︵ 二

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七 ︶ は、再訴訟の為、二度になる。

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す べ て の 話 ’ の や に 登 場 す る 。 ∼ 、 それでは、登場回数の少ない

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武 全 階 級 、 j 凶僧侶階級、の人々が、物語の中に苅どのように描かれて いるかという点に注目して、西鶴がそれぞれの階級に対し て持っているイメージを明らかにしてみたいと思う。

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農民階級 田舎者の言葉、所業や、常識のなさを笑う話が多い。ま た、学の浅さやおろかさを馬鹿にする話もある。全体的に、 町人階級から見下されているという感じを受ける。反感や −軽蔑といったものではなく、弱くて、滑稽な、取るに足り ないと言ったようなイメージで描き出されている。

ω

武士階級 自分が不利な立場におちいっても、恥を重んじるという 武士気質が強調されている。また、学が深く、芸術にも長 じている、というイメージで描かれている。そして、その ような武士に対しての反感、嫌悪といったものは全く見ら れず、一段階上のものとして、その精神に感嘆している様 子さえも感じられる。 凶僧侶階級 話に措かれている僧侶の姿のほとんどが、僧侶の腐敗ぶ りを示し、その所業を笑い、懲らしめられる結果に満足を 覚えるものである。とうした結果を、西鶴は読者のささや 45 (注 ③については、 右半分が訴えた者 左半分が訴えられた者となる。 称 名 、 ろ 簿 紬 阿 る を 戸 ご し

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良山 r t 守 タ 市 ザ タ は 批 判 い つ J

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A Y 一 ぞ れ を慈事、の方流転用もたりコ修行を怠 τって、決楽に身後沈め てでいる姿を、軽蔑を含めたイ 2

l ジで捉えている。そして それはまた、読者層である庶民の僧侶に対するイメージで もあると思われる。 ととで、登場人物に関して、総合して考察してみると、 町人、農民、武士、僧侶と、四つの階級に分類し得たとい う所に注目せねばならないと思う。大名、将軍、公家など は、下々の訴訟とは縁がないので登場しないのは当然とし ても、怪物、幽霊の類も全く登場しない。登場させれば読 者の興味を引くに違いない怪物、幽霊の類を出さず、日常 の人々のみに焦点を絞っている。乙れは、どういう意図で あったのか。それは、乙の作品を、物珍らしさの読み本と するよりも、﹁公事捌﹂という形式をあくまでくずさず、 その話自体に面白きを加味していきたかったのではないか と思われる。そのためには、訴訟の種類と登場人物といっ た、話の展開につなげてゆく材料は、平凡で、読者の身近 にある、現実的なものでなくてはならなかったのである。 第 三 節 判 決 に つ い て 第一節において考察した訴訟の種類については、日常性 を重視し、奇をてらった事件というものは、あまり見うけ られなかった。第二節の登場人物に関しても、日常的な人 物ばかりである。それでは、乙の日常的な素材と登場人物

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を使って、乙の作品が平凡なものとならず、読者の興味を 引く原因はど乙にあるのだろうか。それは、﹁御前﹂が困 難な事件を解決してゆく姿や、その判決にあると考えられ る。乙の節では、判決を分類し、それぞれの特徴を捉える と共に、唯一の共通した登場人物である﹁御前﹂の性格、 作品における役割りをも考察してみたいと思う。 判決は、次の七つに分類するととができる。 ①御前の智恵や機転で、被疑者を試して犯人をつきとめ たり、策を用いて解決するもの。 獅前が考え出す策は、どれをとっても智恵や機転に富ん でいて面白い。そうして、その策にうまくひっかかる犯人 達の姿もまた滑稽である。御前は、事件の種類や状況を的 確に判断し、その事件の解決のため、それぞれに適応した 策を考え出す。似たような策は、ほとんど見られない。西 鶴の神経が四十四話すべてに行きわたっていた結果であろ う。乙乙で読者は、まず御前の策の奇抜き、面白きに興 味をひかれ、それに乗せられてゆく犯人達を笑う。つまり 西鶴は、そのような方法で、読者を話の世界に、うまくひ きずり込んでいるのである。 ②情報や事実を、御前が調べて判断するもの。 裁判の上で基本となる﹁調査﹂を軸に、御前が的確な判 断を下すものである。調べ上げて悪事を明らかにする理由 として、不自然なものや、無理がみられるものはなく、ど れも納得のいく筋立てで、西鶴の構成の巧みさがでている。 乙の中には、知識によって、つまり故事や言い伝えによ って判断するものがあるが、その故事や言い伝えは、必ず しも現実的な・ものではなく、非科学的で、ありえそうもな いようなものが多い。 ζ 乙には、明らかに話を面白くする ための西鶴の博い方面からの知識の放出がある。その博い 知識が、読者の興味と感嘆をひき出しているのである。 ④御前が、訴えた者の真意を理解し、公平に判断するも

の .

御前が、するどい眼力で真意を見ぬき、公平な裁きをす るものである。人々が、言いたくても口に出すととが憎ら れるような事で・も、御前は理解し、平等に処置してくれる。 庶民と御前との、信頼関係とでも言うような姿が描かれて い る 。 ⑤御前が頓智などを用いて解決するもの。 御前が、ユーモアのセンスを発揮して解決するものであ る 。 以上、①から⑤までは、御前の力によって解決した事件 である。そ ζ で、との判決から﹁御前﹂が、どのような立 場で乙の作品に関わり、どのような性格を持っているかを 明らかにして行きたいと思う。 まず、①②③より、かなりの学聞を身につけた人物とし て描かれているととは、言うまでもない。その知識は博く、 医学などにも通じ、漢籍にも親しんでいたと考えられる。 また、状況判断も的確で、庶民の生活というものを把握し、

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れも納得のいく筋立てで、西鶴の構成の巧みさがでている。 @御前の知識や見識の深さによって判断するもの。 アのセンスもあり、情に篤い性格として拾かれている。 ﹁御前﹂の寛大な判決は、四十四話中、十六話にも及び、 ﹁強きを挫き、弱きを助ける。﹂そういった、英雄的要 素を持っている。 つまり、﹁御前﹂は、庶民にとっては、天上人の如く偉 い人でありながら、自分達を理解してくれる人間

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各方面 に博い知識を持ち、機知に富む理性的な人間で、ユーモア もあり、情にも篤く、弱者の味方である ll !といった、ま ことに理想的な人物として措かれている。第二章で詳しく 述べるが、板倉父子が﹁御前﹂のモデルとなっているのか、 理想の裁判官の姿を、現実の裁判官への皮肉を交えて措い たのか||どちらにしても、西鶴は﹁御前﹂のような裁判 官を理想としていたであろうし、読者もそうであったと思 う。読者は、住みづらい当時の社会にありながら、この理 想郷にしばし酔い、現実を憂いていたに違いない。 ⑥解決の直接の原因が御前によらないもの。 全体で三話あるが、三話とも、その解決の糸口となる策 を講じた主体は、後家である。ここで、後家について考察 してみたいと思う。後家の出てくる話は、乙の三話を含め て七話である。どの後家をとってみても、皆、機転がきい て賢い、ということが言える。 万能という設定で措かれている﹁御前 L 以外の人物が事 件を解決する時、その人物を、後家という、女であり、頼 るべき夫もいない弱者の象徴にもってきたと ζ ろに、西鶴 らしさがあるように思う@弱い立場にある後家が健気に、 E 2 1 ︿ l t 、到︷詰章ト J t 立 花 t p f T し士と是え号、才そ また、状況判断も的確で、庶民の生活というものを把握し、 弱い者の床方となっている。さらに、︵彫のように、ュ l モ 大の男たちに立ち向い、自分の無実を、頭を使って明らか にしてゆく姿は、読者の拍手喝釆の的となったに違いない。 ﹁御前﹂が直接解決したものでない、との三話が、すべて ﹁御家﹂の解決となっているのは、西鶴が、そのような効 果を期待したためだったのではなかろうか。 ⑦その他 ︵五|入︶の温情判決。御前の人柄を示すものである。 以上、判決の方法に注目しながら考察してきたが、四十 四話がそれぞれに、話としての見せ場を持って著されてい る。中には、︵一 I ごのように、策を用いたり、調査 φ したりと、かなりとみ込った話もいくつかみうけられ、か なり凝った趣向のものも自につく。乙の判決の方法が、話 の中心となるわけであるが、平凡であった、登場人物など の素材が﹁御前﹂を中心に、思いもよらない展開の中で、 生き生きと輝いている。時には、奇抜な策で読者を驚かせ、 また時には、博い知識に基く解決に、読者を感嘆させる。 そして、状況を読みとりながらの人情捌き。読者を魅了す るに十分な展開が、なされているわけである。 第 二 章 原 典 と の 比 較 第一章での内容分析をふまえ、第二章では西鶴が参考に したと考えられる多くの作品の中から、特に大きく影響し ていると思われる﹁裳陰比事﹂と﹁板倉政要﹄の二つをと りあげ、﹁本朝桜陰比事﹂との比較を通して分析じてみた い と 思 う 。

(8)

<表

3>

計 五 四

二・三・四 二・四 一・九 一・五 四・五・六 五・六・七 15 6 2 2 2 3 九 八・九 三・四・五七・八 三・八 一・七 12 、 1 2 5 2 2

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(9)

<表 12 15 6 3 4 言十 八表〉3 趨 黄 憲 程 張 崖 斐 程 程 道 専{ 丙 業 末日 覇 之 鍛 轄 警高 均 薄 景買 譲 隆 =口と 寵 叱 倶 仇 行 捜 釈 日| 詰 詐 議 験 比 産 官以 骨平 門 '/¥_ 手斉 夫 銭 翁 囚 絶 子 事 四 士イ 毛主ι主, 利 " 侍 太 御 曇 指 も さE己目 lま 五 せ lま 女 て 算 の t乙 時 朝 三[<言司 器 官:弘 枯 の 欲 用 中 立 る 桜 (' // // b l 長5€; 5注 て を l乙 ま 入 あ し 同 法 比 り の 隠 花 ね 物 し、 ら じ 師 の 御 し の よ ぬ

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どミ , 6 ど斗 どミ

正三〉 iご込

滝 田 × × × ×

野間 , 6 × どミ × × × × × × とと込 ×

見 3 44 (注) 原拠として明らかなも の 推定の域を出ないもの 原拠とは言いがたいも

野間氏の説における空欄は、 特に指摘がないもの。

とと〉 ×

(10)

第一節 ﹃業陰比事﹄は、宋の桂万栄の作であるロ小説ではなく、 裁判において、古来からの実例を挙げながら編集されたも のである。﹁裳陰﹂とは、昔、周の召伯が地方を巡行した 時甘裳︵山梨︶の樹下で、民の訴えを聞き、公平な裁きを したという故事より、立派な裁判をさす。﹃本朝桜陰比事﹄ の題名が、乙れに由来しているのは明らかで、その事実は、 ︵ 一 l 一︶冒頭に、はっきりと記されている。 また、﹁比事﹂というのは、字の如く、比類するものを 対比させるととである。﹃業陰比事﹄百四十四話は、類に よって、二話ずつ対比させていて、七十二群に分けるとい う形式をとっている。つまり、﹃業陰比事﹄というものは、 名裁判を比べたもの、なのである。しかし、﹃本朝桜陰比 事﹄は、﹁比事﹂という言葉は用いたものの、二つのもの を対比させる、という形式にはなっていない。やはり明ら かに﹃裳陰比事﹄のパロディである。 ﹁業陰比事﹄は、その性質が裁判実話集であるので、﹁御 前﹂の名裁判を讃える﹃本朝桜陰比事﹄と違って、裁いた 人も雑多で、その判決についても、評価はまちまちで、中 には、やりすぎである、まちがっている、とするものさえ ある。乙とに、題名の似た、乙の二作品の創作意図の違い が、明らかになっている。﹃業陰比事﹄が現実の姿を著し たものとすれば、﹃本朝桜陰比事﹄は、理想の姿を追って い る も の と 一 一 え る で あ ろ う 。 注 1 注 2 いて、考察してみたいと思う。滝田氏と、野間氏の指摘に よると、八表 3 ﹀のようになる。八表 3 V の下欄に、私見 を付け加えてみたが、その根拠として、登場人物、訴訟に 至るまでの設定、訴訟の種類、解決の方法、判決、の五つ の視点から分析した結果が、八表

4

V

で あ る 。 八表 4 ﹀をみると、明らかに原拠と考えられるのは、 ﹁丙吉験子﹂と﹁曇は晴る影法師﹂の一話だけである。乙れ については、八表 5 ﹀に詳しく比較しているように、筋の 運ぴ、解決方法に、明らかな類似がみられる。 このように、﹃裳陰比事﹄との関係を調べてゆくと、 ﹃本朝桜陰比事﹄は、題名の由来や、冒頭部分から期待さ れる程、﹃業陰比事﹄に原拠を求めていない乙とがわかる。 西鶴自身も、﹃裳陰比事﹄の翻訳まがいの作品として、云 朝桜陰比事﹄を著そうとしたのではない。二書の性格の違 いもまた、明らかである。ただ、裁判の判例集というモチ ーフを用いる時、﹃業陰比事﹄が参考となった、という程 度 で あ ろ う 。 第二節﹃板倉政要﹄との比較 ﹃板倉政要﹄は、江戸時代初期、京都所司代に任じた、 板倉勝重、重宗父子の裁判を記したものである。乙乙で使 用した写本は、京都大学所蔵のもので、片仮名交り十巻十 冊本処々に、平易な漢文体もみられる。こ乙では、巻六か ら巻十までの六十三話が、﹁公事捌﹂として問題となる部 分 で あ る 。

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巴 一 〆 H 7 4 t R H ﹄ 豆 一 一 一 L

i いるものと言えるであろう。 ここで、﹃枠拡陰比事﹄と、﹁本朝桜陰比事戸の原拠につ 八 表 7 ﹀である。﹃業陰比事﹄と違って、原拠として明ら かに断定できるものが多い。一話一話の構成や、話の長さ も同じ程度であり、﹁業陰比事﹄よりも多く影響を与えて いる、と言ってもよいだろう。 類似している十二話を読みくらべてみると、小説として 読む場合には、どれを取ってみても、﹁板倉政要﹄よりも、 ﹁本朝桜陰比事﹄の方が、話においての山が多く作られ、 御前の奇抜な策がとび出して、面白い仕上りとなっている。 ﹁板倉政要﹄において裁判する、板倉父子は、人道をわき まえ、差口と悪というものを、はっきりと判断している。そ れに比べ、﹃本朝桜陰比事﹄の御前は、善悪よりもまず、 人聞を優先させる理想の人物として措かれているのである。 人聞を措き続け、人間を愛した、西鶴の価値観が、乙こに も現れているように思う。 また、﹁板倉政要﹄を、原拠として用いる時も、そのま ま西鶴の文体に書き直すだけ、というのではなく、興味を ひかれる部分をとり出し、そ乙を中心に、話を盛り上げる という形をとっている。原拠として用いられた部分は、時 には説明を加えられ、時には、もう一ひねりされて、完全 に西鶴自身のものとなって描かれているのである。 刊と井ぺ円 ν 以 岩 手 勺 J 刊 A , 7 、 結び 各階級の人々の生き生きとした生活。その生活の中にま きおこる数々の事件。それを、暖かく裁いてゆく理想的な 裁判官、﹁御前﹂。まさにユートピアの世界である。それ ら巻十までの六十三話が、 分 で あ る 。 第 − 節 に 出 杭 nrL 、 河 川

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岡 田 h m わ ら 守 凶 行 J 旬 、 i b D F 、 i E j / ー を、非現実的なものと感じさせないために、設定の平凡さ を打ち出した西鶴。その手腕は見事である。それぞれの人 々が、それぞれの想いをこめて生きて行く姿が、裁判とい う一つの素材の中で表現されている。人聞を描き続けた西 鶴にとって、最も愛すべきものは、やはり人間でしかあり えなかったのである。 ︵ 注 1 ︶滝田貞治﹁本朝桜陰比事説話系統の研究﹂ ︵ ﹁ 西 鶴 襟 藁 ﹂ ︶ ︵ 注 2 ︶野間光辰﹁本朝桜陰比事考証﹂ ︵ ﹁ 西 鶴 新 孜 ﹂ ︶ ﹁公事捌﹂として問題となる部 参考文献 ﹁本朝桜陰比事﹂対訳西鶴全集十一 麻 生 磯 次 、 冨 土 昭 雄 訳 注 ﹁裳陰比事﹂中国古典文学大系日 駒 田 信 二 、 訳 解 題 ﹁本朝桜陰比事説話系統の研究﹂ 滝田貞治﹁西鶴襟藁﹂ ﹁本朝桜陰比事考証﹂ 野間光辰﹁西鶴新致﹂ 明治書院 平 凡 社

(12)

<表 4 > 本朝桜陰比事 登 場人 物 設 定 種類 方法 判 決 業陰比事 私 見 類似度 曇は晴る影法師 どと〉 ~

。。。

丙 吉 験 子

5 ( 1-2) 御王平に立は同じ言葉 × × × × × 簿 降 議 絶 × 1 ( 1 3 ) 太鼓の中はしらぬが × × × とさh i込 道 譲 詐 囚 ど与 3 因果 ( 1-4) 待ぱ算用もあいよる × × × × × 程 頴 詰 翁 × 1 中 ( 3 6 ) 壷掘って欲の入れ物 × × Le込 × × 程 薄 旧 銭 × 2 ( 3-8) 利発女の口まね × × × × × 表 均 釈 夫 × 1 ( 4-1 ) 参詣は枯木l乙花の都 ~ × × × × 崖賠捜手誇 × 2 人 ( 4-6) , , × × × × 張 轄 仇 門 × 2 仕もせぬ事を隠しそ × × × × × 程 鍛 仇 門 × 1 乙なひ ( 4-8) 四つ五器重ての御意

~

× Le込 憲 之 倶 解 ~ 4 ( 5 2 ) , , × × L::.込 × × 黄 覇 叱 臥 × 2 小指は高ぐ』りの覚 i ご 〉 ζ〉ご

× 正三与 組不日腫産 正:c, 4 ( 5-6 ) (注) 類似度は、五段階で表わし、 5が一番類似度が高いとする。

0

類似しているもの ム類似している点も含まれるもの × まったく類似点が認められないもの

(13)

判 解 訴 ま 訴 登 決 訟 で 訟 の の の に 方 種 設 至 人 決 法 類 定 る 物 隠 影 て 八 子 じ 下 庭ぽ材木 居 が て 十 供 て 女 カ ヨ 映 も あ の も が た 問 息 ら 影 ま 認

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× b.込

b.与 私 見 2 4 1 5 5 5 1 3 1 2 5 2 分 類 (注) 登場人物、訴訟に至るまでの設定、訴訟の種類、解決の方法、判決に 分類している。

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類似しているもの ム 類 似 し て い る 点 も 含 ま れ る も の × まったく類似点が認められないもの

参照

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