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計画研究 年度 腸管出血性大腸菌を中心とした腸管感染菌の病原性ゲノム基盤の 解明と臨床応用 林 哲也 1) 小椋 義俊 1) 大岡 唯祐 2) 1) 宮崎大学フロンティア科学実験総合センター 戸邉 亨 3) 2) 宮崎大学医学部 飯田 哲也 4) 桑原 知巳 5) 3) 大阪大学

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計画研究:2005 ∼ 2009 年度

腸管出血性大腸菌を中心とした腸管感染菌の病原性ゲノム基盤の

解明と臨床応用

●林 哲也

1)

   ◆小椋 義俊

1)

   ◆大岡 唯祐

2)

   ◆戸邉 亨

3)

  ◆飯田 哲也

4)

  ◆桑原 知巳

5) 1) 宮崎大学フロンティア科学実験総合センター  2) 宮崎大学医学部  3) 大阪大学大学院医学系研究科 4) 大阪大学微生物病研究所(平成 17 ∼ 19 年度) 5) 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス部(平成 20 ∼ 21 年度) <研究の目的と進め方> 種々の細菌感染症の中でも、腸管出血性大腸菌(EHEC)感染 症は、我が国を含む先進諸国で最も問題となっている腸管感染症 である。EHEC は O157 EHEC と non-O157 EHEC に大別される が、前者の方が分離頻度も高く、ゲノム配列が決定されたことも あって、EHEC 研究は O157 を中心に進んできた。しかし、non-O157 EHEC の分離頻度も増加しており、これらの EHEC 対する 対応も必要になっている。本研究では、これまで我々が進めてき た O157 堺株の全ゲノム情報に基づいた O157 の病原性とゲノム 多 様 性 の 解 明 を 更 に 推 進 す る と と も に、O26・O111・O103 EHEC を新たな解析対象とし、EHEC の病原性メカニズム、ゲノ ム多様性、病原性発現調節機構の解明に取り組む。また、他の病 原性大腸菌(腸管病原性大腸菌(EPEC)など)とのゲノム比較 を行い、EHEC の病原性の特性を浮き彫りにする。さらに、腸管 常在細菌の解析と EHEC と常在菌の相互作用の解析を行う。特 に、本特定領域研究の後半2年間は、腸管常在細菌の解析に重点 を置いて研究を進め、ヒト腸管常在細菌叢の実体を明らかにする とともに、EHEC の増殖や病原性発現に対する常在菌の作用を明 らかにする。これらの研究成果を基に、EHEC の新しい診断・サー ベイランス・治療・予防法の開発を目指する。なお、腸管常在細 菌解析をより効率的に遂行するため、20 年度より班構成を一部 変更した(阪大・飯田に代わり、徳島大・桑原が加わった)。 <研究開始時の研究計画> (1)EHEC のゲノム多様性解析:O157 堺株の全ゲノム情報と それに基づく全ゲノム PCR スキャンニング(WGPS)とマイク ロアレイを用いたゲノム解析系は確立できているため、これらの 手法と菌株特異的なゲノム領域の配列決定により、O157 堺株を 基準とした O157 EHEC および non-O157 EHEC の大規模ゲノム 多様性解析を行う。また、その結果に基づいて、O157 EHEC の 迅速菌株識別システムを開発する。さらに、O26・O111・O103 の全ゲノム解読を行う。 (2)EHEC の病原遺伝子システムの解析:腸管への付着と下 痢発症に中心的な役割を果たす III 型分泌系(T3SS)の解明に重 点を置き、T3SS によって宿主細胞に注入されるエフェクター蛋 白質を、情報学的手法とプロテオーム解析等により網羅的に同定 する。 (3)EHEC の病原性発現調節機構の解析:T3SS の発現調節機 構に重点を置く。マイクロアレイと種々の遺伝子破壊株や強制発 現株を用いて、腸管内模擬環境での遺伝子発現解析を行い、腸管 内環境シグナルによる病原遺伝子群の発現調節機構の解明を試み る。 (4)腸管常在細菌の解析:基盤ゲノム・服部研究班らと共同で、 腸内細菌叢とその構成菌種のゲノム解析を行う。 (5)EPEC と腸炎ビブリオの解析:T3SS の比較解析に重点 を置き、エフェクター蛋白質の網羅的な同定、生体内環境シグナ ルによる発現制御機構の解析等を行う。腸炎ビブリオに関して は、マイクロアレイを用いて環境分離株と患者由来株のゲノム比 較解析を行う。 <研究期間の成果> 【O157 EHECの解析】 (1)ゲノム多様性解析:WGPS、マイクロアレイ、菌株特異 的なゲノム領域の配列決定等により、8 株の臨床分離株の O57 堺 株との詳細なゲノム比較解析を行い、サイズの大きな多型領域は プロファージの変化によって生じていること、またサイズの小さ な多型領域 (SSSP) は2種類の IS(IS と IS )の転移等に よるゲノム変化によって生じていることを明らかにした。SSSP の網羅的な構造解析から、「ファージなどの可動遺伝因子の不動 化」という IS のゲノム進化における新しい役割を提唱するとと もに、細菌では稀とされていた IS の simple excision が O157 な どの EHEC では高率に生じることを見出した。未発表データで あるが、この現象(IS excision)に関わる新規遺伝子を同定した。 また、ゲノム多様性解析の結果に基づいて、O157 EHEC の迅速 菌株識別システムを開発し、特許出願を行うとともに、TOYOBO (株)と共同でキット化し、O157 IS-typing kit として発売を開 始した。本キットは、既に全国の地方衛生研究所等で使用がされ ている。さらに、O157 堺株のゲノム上に多数存在するプロファー ジの網羅的な構造・機能解析から、一見 defective と思われるプ ロファージの多くが、染色体からの切除・複製・パッケージング・ 他菌株への transduction などの多彩な活性を有することを見出 し、「prophage community 内での prophage 間相互作用による欠陥 プロファージの活性化」という新しい概念を提唱した。 (2)病原因子の機能解析:O157 ゲノム情報を基に、T3SS エフェ クター蛋白質の網羅的な検索を行い、新たに 30 種類のエフェク ターを同定した。このうち 19 種類については、宿主細胞内への 移行と局在を確認した。また、T3SS のコアコンポーネントをコー ドする LEE 領域以外に存在するエフェクター(Non-LEE エフェ クター)遺伝子はラムダ様ファージにより持ち込まれたことが明 らかになった。偽遺伝子化したエフェクター遺伝子も数多く見い だされ、T3SS の確立に至る過程では、多くの取捨選択が行なわ れたことが示唆された。一方、新規エフェクターの機能解析では、 EHEC や EPEC で高度に保存されている NleH, EspL2 などの機 能を明らかにした。NleH は感染細胞での炎症応答を修飾するエ フェクターの 1 つであり、EHEC の感染により抑制される応答を ある程度上昇させ、応答レベルを調節する。EspL2 は宿主細胞の annexin 2 と直接相互作用して、その F −アクチン凝集活性を亢 進するとともに細胞膜の形態変化を誘導し、細胞上での密集した 集落形成に寄与する。さらに、Intimin-Tir を介した細胞への付着 とは独立に、EspL2 は細胞表面に仮足条突起の形成を誘導して付 着を促進することも明らかにした。また、TccP/TccP2 エフェク ターの機能及びその分布の解析から、アクチン重合を誘導する新 たなパスウェイを見出した。 (3)病原性発現調節機構の解析:① 緊縮制御による発現調節:

(2)

大腸菌が小腸から大腸に移行すると、富栄養から低栄養への大き な環境変化に遭遇する。この環境変化を実験室内で再現するため に、EHEC を富栄養培地から低栄養培地へとシフトさせた場合、 LEE 遺伝子群の発現が上昇することを見いだし、さらに、この 調節が細菌に広く保存されている緊縮応答によることを明らかに した。すなわち、増殖ストレスにより合成誘導された ppGpp と DksA タンパク質が RNA ポリメラーゼに結合し、これが LEE の 発現制御にかかわる転写調節因子をコードする遺伝子の転写を活 性化する。このことは、外来性の病原性遺伝子群の発現調節が緊 縮制御系という内在性の調節システムに組み込まれ、環境応答シ ステムを構築していることを示している。② 嫌気呼吸活性化に よる T3SS 活性化:腸管内環境が嫌気条件であることから、嫌気 条件下での LEE 遺伝子群の発現状態を検討した結果、その発現 は嫌気条件下でも大きく変わらないのに対して、T3SS の活性が 低下し、分泌されるエフェクターの量が著しく減少することを見 いだした。さらに、この低酸素条件下での T3SS 活性の低下は、 特定の電子受容体を添加することにより回復することを明らかに した。つまり、T3SS の分泌活性は特定の嫌気呼吸系の活性化に より活性化される。そのメカニズムとしては、分泌装置構成タン パク質の構造変化によるタンパク質複合体形成の制御である可能 性が示唆される。③ 腸内環境因子による調節:腸内フローラの 代謝産物である短鎖脂肪酸(SCFAs)は腸管内に豊富に存在し、 大腸上皮細胞の維持に重要である。EHEC に対する SCFAs の影 響を解析した結果、高濃度の SCFAs は EHEC の増殖を抑制する 一方、低濃度では細胞密着および微絨毛消失(A/E 傷害)に必須 の LEE 遺伝子群(T3SS 遺伝子群)の発現を著しく上昇させる ことを見いだした。特に酪酸は、1.25 mM の低濃度でも病原性遺 伝子の発現を顕著に上昇させた。しかし、酢酸およびプロピオン 酸は 40 mM の濃度でもほとんど効果はみられなかった。酪酸に よる LEE 遺伝子群の活性化は、転写調節因子 PchA を介した LEE1 オペロン(Ler 調節因子をコードする)の転写活性化によ ること、また、この応答はロイシン応答性の転写因子である Lrp を介することを明らかにした。この結果は、回腸下部に到達した EHEC は、酪酸濃度の上昇に応答して、病原性遺伝子群の発現を 活性化し、標的組織である大腸への効率的な付着を誘導すること を意味する。また、この場合も病原性の発現制御が内在性の環境 応答システムと組み込まれている。④ 病原性発現制御ネットワー ク:LEE 遺伝子群の発現は Pch および Ler の2つの転写因子に より段階的に調節されている。これら2つの転写因子による病原 性発現制御ネットワークを明らかにするために transcriptome 解 析を行なった。その結果、LEE 遺伝子群の発現調節に中心的な 役割を果たす2つの転写因子が、LEE 遺伝子群だけではなく、 他の多くの外来性遺伝子、さらには内在性遺伝子の発現をも制御 し、病原性の発現制御に中心的な役割を果たしていることを明ら かにした。さらに ChIP-chip 法による解析結果から、Pch と Ler が T3SS 遺伝子群などの外来性遺伝子領域に選択的に結合し、発 現を直接制御していることを明らかにした。また、Pch と Ler の 結合の違いにより転写制御クラスが異なることを見いだした。す なわち T3SS 遺伝子群を中心とした病原性関連遺伝子群の発現が Pch およびそれに制御される Ler という2種類の制御因子により 協調的な発現制御ネットワークを形成していることを明らかにし た。⑤ 転写因子による病原性遺伝子の発現活性化機構:サルモ ネラや大腸菌では核様体タンパク質のひとつである H-NS が特異 的に外来性ゲノムに結合し、遺伝子の発現を抑制していることが 報告されたが、EHEC の病原性遺伝子のほとんどは外来性ゲノム に存在している。そこで、EHEC における H-NS の染色体結合部 位を ChIP-chip 法により決定した。その結果、ほとんどの病原性 遺伝子近傍に H-NS の結合がみられること、また Pch と Ler の 結合部位が H-NS の結合部位と重なっていることを明らかにし た。さらに、病原性遺伝子領域における H-NS の結合は Pch およ び Ler の発現により低下することを見いだした。この結果、Pch と Ler の協調的な結合は H-NS による核様体構造を変化させ遺伝 子発現を脱抑制させることが示唆された。 【non-O157 EHEC のゲノム解析】

まず、主要な non-O157 EHEC である O26(8 株)、O111(6 株)、 O103(6 株)のゲノム構造と遺伝子レパートリーを WGPS と O157 マイクロアレイを用いて解析し、病原遺伝子のレパートリー には有意な類似性が認められるものの、ゲノム構造には顕著な違 いが存在することを明らかにした。また、これらの non-O157 EHEC ゲノムサイズは O157 と同じか、それ以上であり、プラス ミドプロファイルも大きく異なることを明らかにした。この結果 に基づき、それぞれ血清型から一株のをゲノム解析株として選定 し、全ゲノム配列の決定を行った。その結果、いずれの non-O157 EHEC も、non-O157 と同じか、同等のゲノムサイズを有し、 O26 及び O111 が 4 及び 5 種類のプラスミドを有することが確認 された。完全に保存されている 926 遺伝子を用いたゲノムワイド な進化系統解析では、これらの non-O157 EHEC は O157 とは異 なる大腸菌系統に属し、それぞれ独立に進化したことが明らかと なった。一方、全遺伝子レパートリーに基づいたクラスタリング 解析では、4 種類の EHEC は 1 つのクラスターを形成し、良く似 た遺伝子レパートリーを有することが明らかになった。プロ ファージ等についてさらに詳細な解析を行った結果、いずれの non-O157 EHEC も O157 EHEC と同様に、多数のプロファージ とプロファージ様 integrative element を有すること、プロファー ジの大部分は互いに良く似たラムダ様ファージであること、これ らの遺伝因子が Stx 遺伝子などの各 non-O157 EHEC の主要な病 原遺伝子の大部分をコードしていることが明らかになった。特 に、T3SS 関連遺伝子群に関しては、LEE、SpLE1 様 integrative element、多数のラムダ様ファージという 3 種類の遺伝因子によっ て運び込まれていることが明らかになった。しかし、これらの遺 伝因子の染色体挿入部位やゲノム構造には著しい多様性が見ら れ、その進化の歴史はそれぞれ異なることが示唆された。さらに、 各 EHEC が保有する病原プラスミドに関しても、各プラスミド がコードする病原因子セットは非常に良く似ているものの、プラ スミドの基本骨格は大きく異なっており、異なった進化過程を経 て形成されたことが示唆された。以上の結果は、各 EHEC が、 ファージやプラスミドなどを介して、非常に類似した病原遺伝子 セットを獲得したこと、しかしこれらの可動性遺伝因子は極めて 複雑な進化過程を経て形成されたものであり、その大部分は各 EHEC が独立に獲得したものであることを示唆する。 【他の病原性大腸菌の解析】 本研究では、種々の病原性大腸菌の中で、EHEC と同様に、 LEE がコードする T3SS を有する EPEC を中心とした解析を 行った。代表的な EPEC である E2348/69 株については、英国 の Sanger center と共同で全ゲノム解析を行い、この株にも EHEC と同様にラムダ様プロファージ上に Non-LEE エフェク ター遺伝子が存在するものの、その数は EHEC に比べて遙かに 少なく、非常にシンプルな T3SS を有することを明らかにした。 したがって、大腸菌における T3SS の機能解析においては、本株 は非常に有用なモデルとなることが示めされた。現在、本株の有 するエフェクター遺伝子を順次脱落させた一連の変異体を作製し ており、最終的には、エフェクターレスの EPEC を作製する予 定である。また、E2348/69 と並ぶ EPEC 代表株である B171-1 株については、WGPS と Fosmid mapping を併用した解析により、

(3)

本株の菌株特異領域を同定し、その塩基配列を決定した。この新 しいゲノム解析法により、本株の有する病原遺伝子群の大部分が 同定でき、本法の有用性が示された。また、この解析の過程で取 得した LEE 領域を有する Fosmid クローンを用いて、非病原性 大腸菌である K-12 において機能的な T3SS を再構築することに 成功した。この再構築系と E2348/69 由来の一連のエフェクター 欠損株は、まだ機能が明らかになっていないエフェクターの機能 解析において、極めて有用な解析プラットフォームになると期待 される。これら 2 株の EPEC 以外に、O157 EHEC と近縁で共通 の祖先株から進化したと考えられる O55:H7 EPEC の部分的なゲ ノム解析を行い、O 抗原合成領域を含む数 10 Kb にもおよぶ大き なゲノムセグメントが入れ替わることによって O55 から O157 へ の(あるいはその逆の)抗原変換が生じたことを明らかにした。 また、O55/O157 系統の大腸菌群に関しては、溶血関連遺伝子に 関して解析を行い、極めて近縁の菌群であるにもかかわらず、そ の溶血毒素遺伝子の分布や発現において著名なバリエーションが 見られることを明らかにした。この知見は、O157 の分離同定の 際に有用な情報である。さらに米国のグループと共同で、新型シー ケンサー等を用いた O157/O55 系統のゲノムワイドな系統解析を 行い、堺株のような典型的な O157 EHEC は数百年前に非典型的 な O157 EHEC から分化したことを明らかにした。 【腸炎ビブリオの解析】 腸炎ビブリオに関しては、患者由来株と環境由来株の比較、及 び本菌が有する 2 種類の T3SS の機能解析を行った。前者では、 T3SS-2 をコードする Chromosome 2 上の Pathogenicity island (PI) が臨床株にのみ存在すること、またシーケンス株の T3SS-2 とは異なる PI を有する株が存在することを明らかにした。後者 の解析では、T3SS-1 が細胞毒性に、T3SS-2 が下痢原性に関与 することを明らかにした。また、各々の T3SS のエフェクターの 同定、発現調節遺伝子の同定に成功し、2 つの T 3SS が異なる エフェクターを分泌することを見出した。さらに、新規に同定し たエフェクターのうち、数種類については、その機能と宿主細胞 内での局在部位等を明らかにした。 【腸内常在菌及び常在菌叢の解析】 (1)健常日本人13名のメタゲノム解析:応用ゲノムの服部 グループや比較ゲノムの黒川らと共同で、成人から離乳前幼児ま でを含む健常日本人 13 名の腸内フローラ(糞便サンプル)のメ タゲノム解析を行った。1 人のサンプルあたり 80,000 リードのメ タ配列を取得し、各サンプルの比較解析を行った。その結果、成 人型フローラは菌種組成の面でも機能的にも乳児型に比べて多様 性が高いこと、乳児型フローラは成人型に比べて菌種組成の面で はシンプルであるが、成人型に比べて個人差が大きく不安定なフ ローラであると見なせること、乳児のフローラは離乳後に速やか に成人型に変化することなどが明らかになった。さらに、成人型 及び乳児型フローラで共通に顕著に enrich されている遺伝子群を 同定し、それぞれのフローラの機能的な特性の違いを明らかにし た。成人型フローラにおいては、食物などに由来する難分解多糖 の分解系、嫌気代謝系などの遺伝子の他、抗菌ペプチド抵抗性に 関する遺伝子群や DNA 修復に関する遺伝子群などが enrich され ているのに対して、乳児型では母乳等に含まれる低分子の取り込 み系が有意に enrich されており、成人と乳児の腸管環境の違いに 応じたフローラの機能の違いを明らかにすることができた。成人 型において鞭毛や走化性関連遺伝子の検出頻度が非常に低いこと や、いずれのフローラにおいても脂質の代謝系遺伝子群の頻度が 低いことなども明らかになった。また、いずれのフローラにおい ても、接合伝達性トランスポゾンなどの遺伝子群が大量に存在 し、腸内フローラが接合を介した細菌間での遺伝子水平伝播の ホットスポットになっていることが示唆された。 (2)腸内常在菌の個別ゲノム解析:腸内常在大腸菌2株と の全ゲノム解析を行った。腸内常在大腸菌に関しては、 潜在的な病原性連遺伝子の種類が非常に少ない点が病原性大腸菌 との大きな異なる。 に関しては、アノーテーションの 途中であるが、ヒスタミン合成系などの興味ある遺伝子群が見出 されている。 (3)バクテロイデスの解析: はヒト腸管に常在す る偏性嫌気性グラム陰性桿菌で、腸内フローラの最優勢菌種の1 つである。腹膜炎や敗血症患者の血液よりしばしば分離され、医 学的に重要な日和見感染菌でもある。本研究では、桑原らによっ て全ゲノム配列が決定された YCH46 株の全ゲノム情報 を基に、本菌の大きな特徴であるゲノムワイドな inversion シス テムの解析を行った。その結果、このシステムが外膜蛋白質や莢 膜多糖など、菌体表層の抗原性に関わる多数の遺伝子群の発現を promoter 領域の inversion によって ON/OFF 制御し、同一菌株 の中でもそれぞれ異なった表層抗原性を有する多様な集団を生み 出すユニークな相変異システムを有することを明らかにした。ま た、これらの inversion 領域は逆位の起点となる inverted repeat 配列により 6 種類(Class I - VI)に分類され、Class I 領域は莢 膜 多 糖、II、III、V お よ び VI 領 域 は 外 膜 蛋 白 質(SusC/D family)の発現制御に関わっていることを明らかにしたほか、 DNA invertase 遺伝子群のシスティマティックな破壊実験を行 い、SusC/D family の相変異に関わる Class II, V および VI 領域 を制御する DNA invertase を同定することに成功した。この結

果、今までの報告と合わせて、 における表層分子の相

変異システムは少なくとも 3 つの globally acting DNA invertase により担われていることが明らかになった。さらに、高分子多糖

の結合と輸送に関わる SusC/D family は における最大

の paralog family であり、その相変異システムは本菌の腸管内で の定着に重要な役割を担っていると推察されるため、同定した DNA invertase の欠損変異株を作製し、腸管への定着能を野生株 と比較した結果、本 invertase による SusC/D family の相変異が 腸管への定着に重要な役割を果たしていることが示唆された。 (4)腸内難培養菌 SFB のゲノム解析:腸内フローラの構成菌 の 30-50%は難培養菌であると考えられているが、難培養菌には 純培養からゲノムを精製するという従来の手法が適応できないた め、ゲノム解析には新しい手法の開発が必要である。本研究では、 代表的な腸内難培養菌として知られる segmented filamentous bacteria (SFB) のゲノム解析に挑戦した。本菌は極めて長い連鎖 を形成するグラム陽性菌である。近年、腸管免疫系の発達に深く 関与していることが報告され、その生物性状に大きな関心が寄せ られているが、人工培地による培養ができないため、簡便に SFB の ゲ ノ ム を 取 得 す る 手 法 の 開 発 を 試 み た。 最 初 に micromanipulator を用いて顕微鏡観察下に SFB を吸引し、回収 した菌体を鋳型にゲノムを rolling circle amplification(RCA)法 により増幅することを試みたが、菌体の選択的回収とゲノム DNA 増幅自体は成功したものの、プラスミド DNA が優先的に増 幅されたため、本法は SFB の全ゲノム解析には不適当であった。 しかし、SFB ノトバイオートマウスを作製することに成功し、 その盲腸内容物から調整した DNA を用いてマウス SFB の全ゲ ノム情報解読を進めた。現在、配列は一本になっており、最終的 な確認とアノーテーションを行っている段階にあるが、鞭毛や走 化性関連遺伝子群の存在など、非常に興味ある知見が得られてい る。 <国内外での成果の位置づけ>

(4)

EHEC は先進諸国における最も重要な腸内感染菌である。 O157 のゲノム解析は以前に我々のグループが成功しており、今 回の3種類の non-O157 EHEC のゲノム解読により、主要な EHEC 4種のゲノム解読を全て我々が行ったことになり、国際的 なインパクトは極めて大きい。また、進化系統の異なる細菌が同 一あるいは類似の病原型に独立して進化したメカニズムを明らか にした初めての例である。O157 EHEC のゲノム多様性に関して も、我々の解析が世界的に最も進んでおり、細菌ゲノムの多様化 機構の解明という点では極めて先進的な研究成果が得られた。特 に、「ファージなどの可動遺伝因子の不動化」という IS のゲノム 進化における新しい役割と「prophage community 内での prophage 間相互作用による欠陥プロファージの活性化」という新しい概念 を提唱できたことは重要である。また、O157 菌株間のゲノム多 様性解析の研究成果を応用して、O157 の迅速菌株識別システム を開発し、実用化にまで至ったことは、応用ゲノムの成果として は特筆すべきものである。今後、今回の研究で解読した non-O157 EHEC に関しても、同様のアプローチで新規疫学ツールや 同定・診断ツールの開発が期待できる。さらに、病原遺伝子の発 現調節機構の研究に関しても、O157 EHEC の環境因子による外 来性病原遺伝子の発現調節系を多数明らかにできたこと、特に目 標としていた腸管内環境因子に対する応答機構が明らかになった こと、そして外来性病原遺伝子群の発現調節がどのように内在性 の遺伝子発現調節機構に組み込まれているかを明らかにできた点 は重要である。 腸内常在菌叢及びその構成菌種のゲノム解析に関しても大きな 成果が得られた。まず、健常日本人 13 名の腸内フローラメタゲ ノム解析は、現時点でも、最大規模のヒト常在細菌叢のメタゲノ ム解析である。 の解析に関しても、本菌は腸内フロー ラにおける最優勢構成菌のひとつであり、近年 の産生 する莢膜多糖(PSA)に免疫修飾作用も報告され、 対する関心が高まっているため、本研究で得られた 表層分子の相変異システムに関する成果は、腸内常在菌の宿主腸 管への適応進化の分子機構や宿主腸内菌相互作用を理解するため のモデルの構築に大きく貢献する。また、SFB については、 SFB が腸管免疫組織において CD4 陽性 T リンパ球の Th17 サブ セットの分化を強く誘導することが最近報告され(Cell, 139:1-24,2009、Immunity, 31:677-689,2009)、さらに、この Th17 は自 己免疫疾患や炎症性腸疾患の発症に深く関与していることが知ら れているため、SFB のゲノム配列解読のインパクトは極めて大 きいと予想される。本菌のゲノム配列決定については激しい国際 的な競争が予想されるが、SFB の全ゲノム解読は最終段階に入っ て お り、 国 際 的 に リ ー ド で き る 立 場 に あ る。 さ ら に、 micromanipulator を用いての難培養菌の回収やノトバイオートマ ウスを用いた難培養菌の培養などは、今後、他の難培養菌のゲノ ム解析にも応用可能である。 <達成できなかったこと、予想外の困難、その理由> EHEC 等のゲノム解析やゲノム多様性解析に関しては予定通り に進んだ。一方、フェクターの機能解明においては、各エフェク ターの標的宿主因子を同定する試みは予想以上に困難であった。 EHEC の産生するエフェクターの数が当初の予想以上に多かった こともあるが、Y2H 法を用いてエフェクターの結合蛋白を網羅的 に検索したが有望な候補はほとんど見いだせなかった。エフェク ターは病原因子であるため、断片にしても酵母では安定して発現 できなかったことも一因として考えられる。また、エフェクター 以外の病原性因子についての解析が充分に進められなかった。特 に細胞への初期付着にかかわる因子の解析は、EHEC O157 が多 数の付着因子を保有していること、線毛を選択的にまたは強制的 に発現させることが困難なことによる。バクテロイデスに関して は、 の表層分子の相変異に関わる主要な DNA invertase が同定でき、その変異株と野生株の比較解析が可能となったが、 それぞれの領域がどのような生物性状の発現に寄与しているの か、機能的な面に関しては未だ解明できていない。特に SusC/D については、homolog が非常に多数存在するため、個々の蛋白質 の機能決定することは現時点では困難である。また、SusC/D 遺 伝子発現の腸管内でのスイッチ切り替えのメカニズムについて は、無菌マウスや microarray を使用した発現解析が必要である。 SFB ノトバイオートマウスの盲腸内容物を用いた SFB 全ゲノム 配列解読においても多くの困難に直面し、予想以上に時間を要し た。大きな理由は、この解析が一種のメタゲノム解析であり(ク ローン化ができない)、クローンの違いによる indel や SNIP が存 在するため、アッセンブルが困難であったことである。また、フィ ニッシングのための long insert library の作製においても、low GC 含量のゲノムであるため、DNA が断片化しやすく、fosmid library の不可能であった。 <今後の課題、展望> non-O157EHEC の全ゲノム配列を基に、各 EHEC のゲノム多 様性、病原性、病原性発現調節機構、あるいはその EHEC 間で の相違などを解析する必要があり、その結果は、今後の non-O157EHEC 対策に活用できる。また、多数同定されたエフェク ターの機能解析は大きな課題として残っており、今回作製した K-12 での機能的 T3SS 再構築系と E2348/69 由来のエフェクター 欠 損 株 は、 こ の 解 析 の 有 用 な ツ ー ル に な る と 期 待 さ れ る。 を初めとする腸内常在菌の機能解析(腸内常在性のメ カニズム、宿主との相互作用、病原菌との相互作用など)は、世 界的に見ても今後の大きな研究課題であり、激しい競争が予想さ れる。また、難培養菌のゲノム解析やゲノム情報を基にしたその 機能の解析も、困難ではあるが今回の研究で確立した研究手法な どを用いてチャレンジすべき非常に重要な課題である。腸内フ ローラあるいは他の身体部位のフローラのメタゲノム解析につい ては、新型シーケンサーを用いて再度挑戦すべき研究課題である が、レファランスデータの充実と、計画的なサンプル採取をとも なった優れた実験デザインの基に解析を行うことが重要である。 <研究期間の全成果公表リスト> 1)論文/プロシーディング 1. 0912011136

Ogura Y., Ooka T., Iguchi A., Toh H., Asadulghani Md, Oshima K., Kodama T., Abe H., Nakayama K., Kurokawa K., Tobe T., Hattori M. and Hayashi T., Comparative genomics reveal the mechanism of the parallel evolution of O157 and

non-O157 enterohemorrhagic , Proc Natl Acad

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1. 507070238

O157:H7 Sakai genome database http://genome.naist.jp/bacteria/o157/ 4)研究成果による産業財産権の出願・取得状況 1. 出願番号;特願 2006-155279(出願日;2006/06/02)、発明の 名称;微生物の識別方法、及び該方法に使用するプライマー 並びに識別キット(発明者;大岡唯祐、林哲也) 5)その他

1. 商 品 化 さ れ た 製 品:O157 IS-printing kit(( 発 売 元: TOYOBO)

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