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4GLM 教育セミナー: BSC 演習

SWOT 分析からクロス分析」グループ演習報告( 3 )

東海大学医学部基盤診療学系臨床検査学

松 下 弘 道

はじめに

さる平成 19 年 5 月 12 日に開催された,第 4 回 GLM 教育セミナー「臨床検査室の検査診療にお けるバランスト・スコアカード(BSC)の利用」に 参加した.本セミナーは日本臨床検査専門医会の 主催によるものであり,検査医が病院検査室のお かれた現状や問題点を的確に把握して,いかによ りよい検査室を戦略的に構築していくかを考える ことを目標にしている.今回のセミナーでは,そ の手段として,組織のビジョンを,財務,顧客,

業務プロセス,学習と成長,の 4 つの視点から計 画・管理する戦略的マネジメント・システムで あるバランスト・スコアカード(以下 BSC)につ いて講義を受け,架空の病院検査室を例として演 習を行った.実際には長い時間をかけて議論をし て作り上げていくものであるが,今回の演習でも そのエッセンスは感じられた.

1.ミッション・ビジョンの作成

高橋淑郎先生による 30 分の講義のあと,中堅 地方都市の国立大学病院の検査室という設定で BSC の作成を開始した.まずミッションおよび ビジョンの作成を行った.組織の理念・行動規範 となるミッションとして「当該地域における充実 した教育・研究・臨床体制の確立」を,より具体 的な将来像を示したビジョンとして,1.卒後教 育プログラムの確立,2.産学連携の強化,3.地 域における検査センター化推進,4.POCT の積 極的な導入,5.人材の適正配置,を掲げること とした.

2.SWOT

分析・クロス分析

SWOT 分 析 と は , 強 み (Strength: S) , 弱 み (Weakness: W) , 機 会 (Opportunity: O) , 脅 威 (Threat: T)の頭文字をとったものである.KJ 法 を利用して,架空の検査室におけるそれぞれの項 目を挙げていった.あくまで想像の上ということ になっていたが,実際にはグループのメンバーが 普段実感していることが挙げられた.異なる背景 を有する各メンバーであったが,大学病院の特徴 である豊富な症例数や教育機関としての責務,医 療費の削減,外注委託の圧力など,普段感じてい ることに共通点が多かった.しかしながら,人的 資源や検査室の組織の問題などに関しては,メン バーの背景によって多少意見が異なっていた.実 際に挙げられた SWOT 分析の各項目を表1 に示 す.

SWOT 分析で挙げられた項目を基にして,さ

らに戦略の基本となるクロス分析を行った.強み (S)と機会(O)を活かす部分では,教育への参加 をより充実させていくという意見が目立った.一 方で,現実には認可されていないが,地域の医療 機関からの受託検査を行うという意見があった.

検査相談件数の増加や競合病院の出現などの脅威 (T)に対しては,臨床検査専門医がいるという強 み(S)を活かして専門領域を積極的にアピールし,

さらに検査の内容や報告について付加価値を高め る方向で考えることとした.検査室内の硬直化し たシステムや経営意識の欠如などの弱み(W)や,

業務負担の増加などの脅威(T)については,教育 システムや業務の見直しを行うこととした.議論

(2)
(3)

図1 戦略テーマと戦略マップ

では,ミッションのうち教育や診療が中心であり,

研究についての発言は少なかった.詳細について は表1 を参照されたい.

3.戦略テーマと戦略マップの作成

SWOT およびクロス分析の結果で把握した “現

状” を踏まえて,戦略テーマおよびそれを達成す るための戦略マップを作成した.戦略テーマは 3

~4 つが適当であるとされるが,我々のグループ

の SWOT 分析/クロス分析の内容にやや偏りがあ

り,以降の議論を進めるのに不十分であると考え られた.このような場合,実際の BSC 作成では

もう一度 SWOT 分析からやり直しになるのであ

るが,演習ではこの段階で新しく戦略テーマを考 えて加えることとした.戦略テーマとしては,

SWOT およびクロス分析を基にして作成した,1.

診断の質の向上,2.社会貢献,3.地域検査体制 の充実,の 3 つに,それまであまり議論されてい なかった研究面を考え,ビジョンにある,4.産 学連携の強化,を加えて 4 つとした(図1).

戦略テーマを支えるそれぞれの視点の項目数は 計 17 であり適当と考えられたが,財務の視点に

おける項目数は計 2 とやや少なめであった.これ は,病院という公共的な色彩の強い施設における BSC の作成であるため財務の視点を最重視する 必要はない,というファシリテーターの先生から 助言を頂いたことによる.しかしながら,SWOT 分析の際に挙げたように,診療報酬の削減やそれ に伴うコスト削減の圧力,独立行政法人化による 独立採算制への移行など,財務面の問題は非常に 重大であり,現実にはもっとしっかりとした議論 が必要であると考えられた.

4BSC

の作成

BSC は,戦略マップに掲げた項目を達成する ために,それぞれの項目に対し具体的な行動とそ の評価法を明確に示したものである.本来であれ ば全ての項目に対して BSC は作成されるべきで ある.しかしながら,一部の項目は抽象的であり,

結局 7 つの項目に対して BSC を作成した(表2).

これまでの議論はやや抽象的なイメージを中心 に進んできたが,ここに至り具体的なアクション プラン,成果尺度,数値目標を設定することにな った.この際,理想像と実現性を考えながら BSC

(4)
(5)

に高い理想像を掲げてしまうと絵に描いた餅にす ぎなくなる.

我々の作成した BSC を見返してみると,院外 からの検査相談,院外対象の勉強会の開催,積極 的な実習生の受け入れ,地域からの受託検査など,

病院外への積極的な働きかけをしながら地域とと もに発展していこうという姿が伺える.一方で,

検査の依頼件数や資格試験への合格実績など,検 査室の努力だけでは達成できない目標も挙げられ ていた.

さらに,作成された BSC に従って行動するこ とによりミッション・ビジョン・戦略テーマを達 成できるのか,矛盾点はないか,ということにつ いて確認・検討を行った.我々のグループでは戦 略テーマの全てについて BSC を作成できなかっ たため,BSC がミッションの中の “研究” の部分,

およびビジョンの中の 2.産学連携の強化と4. POCT の積極的な導入,を十分にカバーしていな かった.これらについては,SWOT 分析に戻っ て再度検討し直す必要があると考えられた.

5.おわりに

今回の演習では,時間の都合があり,各ステッ プにおいて十分なブラッシュアップができないま まに終わった.しかしながら,目標を掲げ,それ を達成するために問題点を抽出・分析し,4 つの 視点で見直して,具体的な行動・評価方法を作成

BSC 作成において重要な点は,議論に参加し ている各人が問題点を共有すること,戦略マップ の作成を通じて問題点の位置づけを明確にするこ と,そして具体的な行動や目標の設定を通じて自 主的に行動をすること,にあると考えられる.各 ステップにおける議論は,次のステップのたたき 台になることから時間をかけて十分に行い,常に 前のステップとの矛盾点を検証していく必要があ る.最終生成物である BSC はありふれたもので あったとしても,議論に参加した各人がその背景 や位置づけをよく理解し,それを周囲に伝えるこ とで,組織全体が 1 つになって目標に向かって行 動することができる.

評価を通じて BSC を見直し,必要に応じて新

たな BSC の作成を繰り返すことは,BSC 作成を

一過性のイベントに終わらせず,組織が問題点へ の関心を持ち続けるように仕向ける効果がある.

議論を通じて各人の戦略的なモチベーションを常 に維持することが,BSC 導入の一番の目的であ ると考えられる.

最後になりましたが,丁寧なご指導をいただいた インストラクター・ファシリテーターの先生方,今 回の GLM セミナーを主催していただいた日本臨床 検査専門医会の先生方,スタッフの方々に感謝いた します.

参照

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