1.植物の学習の大切さ
植物の学習の目標について新学習指導要領*1に は,「身近な植物などについての観察,実験を通し て,生物の調べ方の基礎を身につけさせるとともに,
植物の体のつくりと働きを理解させ,植物の生活と 種類についての認識を深める」とある。
植物は生徒にとって,ごく身近に存在するもので あり,生徒は植物についての何らかの既存の知識を 持っている。しかし,そのすべてが正しい認識だと は限らない。理科の教師は,生徒の既存の知識を新 しい認識様式に置き換えることの難しさを痛いほ ど感じている。どうすれば生徒の認識様式を新しい ものに転換することができるのかは,長年の理科教 育の課題であり,本校でも研究を続けているところ である。この点に関しては後述する。
植物の学習には,学習指導要領や教科書には明記 されていない大切な部分がある。それは,植物の学 習は「中学校理科との出会い」だということである。
多くの学校ではたくさんの植物が花を咲かせ,種子 をつくる春先から初夏に合わせて植物の学習を行 う。つまり,中学校に入学して最初に学習するのが 植物の単元である。植物の学習が「中学校での理科 との出会い」であり,これから3年間の理科の学習 を進めるうえで基礎となるものである。
この「理科との出会い」が良いものになれば子ど もたちの理科を学ぶ意欲,関心はより高まり,「学 びたい」という気持ちが科学的な思考力を高める理 科の学習の礎になることはいうまでもない。
2.科学的な思考力育成の考え方
私たちは生徒の既存の認識様式を新しい認識様 式に転換することがいかに難しいか経験してきて いる。それは教師が生徒に予想や仮説を立てさせる ことなく,教師の引いたレールの上を走らせ,準備 周到な観察・実験によって教科書と同じ結果を導き 出し,「わかったか」と念を押してきた結果である と考える。
また,生徒が理科で学習したことの価値に気づか ないまま,応用の利かない暗記であると決めつけて いる場面に出くわすことがある。それは教師が生徒 に授業で明らかになったものを活用させることな く,新しい認識様式の有用性を感じさせてこなかっ た結果である。
これに対して,東田充弘*2は,観察しても直接感 覚器でとらえることのできない概念について,生徒 自身の生き生きとしたイメージを生成させること が必要であるとしている。客観的な認識に近づく手 段として,互いに矛盾する友達のイメージと比較・
4 理科
科学的な思考力を高める理科学習
-「進化の視点を取り入れた植物の学習」の実践を通して-
保木 康宏 本論の要旨
自然を客観的に認識させるとき,互いに矛盾するイメージと比較・検討させて,相対的に妥当なものを生 徒自身の判断で選び取らせなければならない。さらにその論理を確かめるための観察・実験を経て,正しい 科学概念が形成されるといえる。比較・検討させる過程において,現象的世界から本質的世界へと向かう帰 納的推論を働かせたり,本質的世界から現象的世界へ向かう演繹的推論を働かせたりすることが重要である。
生徒の認識様式を新しい認識様式に転換する際には,「視点の移動」による情報の変化を仕組む。
植物は環境の変化や動物との共存の中で,さまざまな進化をとげている。これらの多くは非常に理にかな っており,植物のからだのつくりや種類を「身近な自然」「進化」それぞれの視点から捉えさせるような学習 課題を設定し,単元を構成することは,生徒の認識を転換させるうえで非常に有効である。また,植物の学 習は,「中学校の理科との出会い」としてもその役割は大きい。自分のイメージを超える驚きがあったとき,
そこには「もっと学びたい」という気持ちが生まれる。植物の進化には,そんな驚きがたくさん詰まってい ると考え,授業を実践した。
キーワード 科学的な思考力,帰納的推論,演繹的推論,進化,理科との出会い
理 科
検討させて,相対的に妥当なものを生徒自身の判断 で選び取らせなければならない。さらにその論理を 確かめるための観察・実験を経て正しい科学概念が 形成される。仮説形成の過程と,観察・実験の結果 を考察させる過程で,教師には現象的世界から本質 的世界へと向かう帰納的推論を働かせるような支 援が必要となる。また,本質的世界から現象的世界 へという演繹的な順序で学習させる支援が有効で ある。
つまり,習得した知識を使う場面(=活用)を授 業中に意図的に設ける必要がある。「どのような場 面で,どのような知識を使えばよいのか」を学ばせ ることが大切である。
新学習指導要領には,科学的な思考力・表現力等 の育成の観点から,観察・実験の結果を分析して解 釈する学習活動,科学的な概念を使用して考えたり 説明したりするなどの学習活動を充実させること があげられている。これらは東田および本校理科教 育が推進してきたもの*3~*6と同じものであり,ま とめると第 1 図のようになる。
第1図 科学的な思考力を高める
3.授業実践において考えること
科学的な思考力を高めるための学習指導の実証 研究を進めてきた結果を,第 1 図に則って検討する。
(1)導入の過程に関して
じっくりと無心に観察することが大切だとか,見 せればわかるという考え方によって,生徒に目的意 識を持たせないまま観察,実験を行わせた後に多く のことを考察させるのではなく,生徒に疑問を持た せて観察,実験を行わせ,見過ごしていた大切なも のに気づかせる。つまり,課題意識を明確にするた
めに「帰納的推論」を中心とした過程を,授業の開 始に仕組み,学習課題を生徒の共通の目的とする。
学習課題は挨拶のようなものではなく,ただ示せば よいというものではない。1時間の中で,時間いっ ぱい何を学ばせたいかという学習内容の縮図であ る。授業では,学習課題を黒板の青い枠に示し,最 終的な授業のまとめを赤い枠の中に示す。1時間に 1つだけの課題を解決するという制約で,豊かな学 びを保障するための内容を以下のように吟味する。
①学習課題を手応え十分にする。
どのような方法で学習課題をつくればよいか。生 徒に問題意識を持たせるには,その問題が生徒にと って解決可能であり,しかも適度に難しくなければ ならない。難しすぎても易しすぎても問題とならな い。一問一答の質問にならないように,生徒がどの ような予想をするのか,学びをイメージしながら作 成する。
②学習課題をクイズにしない。
生徒にとってその課題が解決のめどが立てられ ないような内容であれば,問題意識を持ち続けるこ とはできない。課題が生徒の素朴概念とかけ離れす ぎないように作成する。
③学習課題を生徒から生み出す。
学習課題は生徒が「調べてみたいな,できたらい いな」という強烈な動機に支えられて授業の最後ま で首尾一貫として流れ続ける意識だといえる。した がって,教師が示すのではなく,生徒の問題意識と 多くの事象の検討から自発的に生み出されるよう に設定する(第 2 図)。
④学習課題で単元構成を行う。
生徒にとって挑戦しがいのある課題であっても,
単元全体で段階的に理解がすすんでいくような課 題の配列が必要である。つまり,単元全体でどのよ うな力をつけさせたいのかを明らかにしてから各 時間の課題を作成する。
第2図 学習課題の形成過程
(2)仮説形成<討論>の過程に関して
自分の考えをはっきりさせる仮説形成の場は,あ くまで個人単位にする。予想をたてる上で,他の人 の意見を参考にすることは奨励すべきことである が,予想を班で考えさせるのは避ける。なぜなら,
班では意見が集約され,貴重な個々の考えが失われ てしまう。一人ひとりの意見を全体に反映させてか ら,集約していくつかのグループにまとめ,全体で 討論にうつるようにする。
意見を集約した後であれば,班討議も可能である。
その場合は,班で時計回りにひとりずつ,自分が賛 成する意見について理由をつけて班員に説明し,そ の後,班の話し合いをもとにして,自分の意見をも う一度まとめさせる。安易にすべてを班に任せるこ とは,代表者に多大な責任を強いることになる。む しろ,班は自信がなくてみんなの前では発表できな い生徒も自分の意見を述べることのできる場であ り,発表への自信をつけていく場であるととらえる。
他者の意見を吟味する過程は,生徒の視点の切り かえに不可欠であるため,さらに討論を深めるため に,教師からの視点の切りかえを促す言葉がけなど のゆさぶりも必要である。討論後に,どの意見に賛 成か,自分の見方を確認させることが大切である。
そのために,以下の点に留意する。
①接続詞を補足する。
討論は,現象的世界から本質的世界へと向かう帰 納的推論や,本質的世界から現象的世界へ向かう演 繹的推論が一番活発に働く場面といえる。そのため に,生徒の発言の「接続詞」を重視する。帰納的推 論を促すために〝つまり〟,演繹的推論を促すため に〝例えば〟という問いかけを,積極的に行うよう にする。
②発表者を明確にする。
人の意見をきちんと最後まで聞く姿勢が大切で ある。最後まで聞くことと同様に始めから聞く姿勢 も大事である。自分の意見を他の人に伝えるときは,
挙手してから起立して発言する姿勢を尊重する。こ れは,互いの顔が見える場合は不要であるが,大勢 で話し合いをするときには,今誰が発言しているの か注目させる必要があるためである。人前に出て発 言することを,照れくさいものだと教師が決めつけ ることは,話し合いを楽しむことを始めから否定し
ている。もちろん,発言している生徒の意見を教師 が一番よく聞いていることが大切である。
写真1:自分の意見を堂々と発表する生徒
③最小限で話す。
教師は静かなことが不安になってついつい話し てしまう。そのとき2つの失敗をしてしまうと考え る。一つ目は,質問が理解されているか不安になっ て,何度も言葉を換えてしまうときである。生徒か ら見れば,言葉が変わると,それは新たな質問とな り,考え始めたことがふりだしに戻るので,考える こと自体が面倒になってしまう。二つ目は,十分に 理解されているか不安になって,念を押して何度も 話しているときである。一度で聞き取る習慣が失わ れていくと,生徒から見れば,聞かなくてもよいこ とになってしまう。
教師が細心の注意をはらって生徒に伝える言葉 よりも,たどたどしい発表であっても,生徒の言葉 の方がきちんと生徒に伝わっている。発言している 生徒の話をしっかり聞いて,全体に広がっていくこ とを楽しみとする。
(3)観察・実験の過程に関して
観察・実験は,討論で問題になったことを解決す るためにおこなう。班実験の場合は 3~4 人でなく てはならない。なぜなら,5 人以上では観察・実験 にかかわれない生徒が出てくるからである。観察・
実験はすべて生徒が行うのではなく,教師が行う方 が望ましい場合がある。どちらにするかは,観察・
実験方法に習熟させるねらいがあるかどうか,生徒 実験によって適切な結果が確認できるかどうかで 決める。観察・実験に関して次の点に留意する。
理 科
○観察,実験が始まると生徒は夢中になる。こうな ると,新しい指示は徹底されない。観察や実験が安 全かつ円滑に行われているか全体が見える場所に 立ち,支援や指導が必要な場所に素早く移動できる ようにする。
○作業の精度を予定させるために,終了時刻の目安 をきちんと伝えておく。
○早く終わった班が意欲を失わないように,他の班 を待つ間の作業を指示しておく。
討論によって謎が深まるほど,生徒は驚くほど手 際よく観察・実験をおこなう。このような学びの姿 を大切にする。
(4)考察とまとめの過程に関して
観察・実験でわかった事実を点になぞらえると,
法則はそれらの点を結んだ線であるから,生徒が内 面に問いかけ納得したものをすべて出し合えばよ いといえる。多くの生徒を指名して,生徒が感じた ことを丁寧にまとめていく中で,共通点に気づかせ る。その際に,シンキングツールの「比較・対象シ ート(第3図)」や「ベン図」等を利用して,多く の点を集めて線にする帰納的推論を働かせる支援 を行う。
第3図 比較対象シート(一例)
(5)まとめを活用する過程に関して
授業で明らかになったものを使って,新しいこと を考えるときに法則の有効性が明らかになるとい える。そこで,授業の終末に「演繹的推論」を中心 とする過程を仕組む。
生徒が獲得した科学的な概念を使用して考えた り説明したりする例として,いくつかの類題を検証 したり,短時間の課題研究やものづくりを行う。
4.授業の実際
(1)進化の視点の導入
植物の学習の大きな目標は,「植物の体のつくり と働きを理解させ,植物の生活と種類についての認 識を深める」ことである。これは,身近な植物の観 察を通して,植物のからだのつくりと働き,種類な どの特徴を理解させることを主なねらいとしてい る。
前項で述べたように,目的意識のない観察にじっ くりと取り組ませることは,生徒の既存認識を転換 するうえであまり大きな意味を持たない。
観察には討論で問題となった点を解決するため の方法として,目的意識を持って取り組ませること が大切である。そのためには,「早く調べてみたい。」
と思えるような討論を行うことが重要であり,その ための適切な課題設定が必要不可欠である。
新学習指導要領では,新単元として2年生に「生 物の変遷と進化」が組み込まれた。ここでは,動物 の体のつくりが,生息環境に適した形に進化してき たこと,種類によって共通する特徴が見られること などを学ぶ。進化の中での動物どうしのつながりや 環境の変化への適応を意識することで,それぞれの 動物の持つ特徴が非常に理解しやすくなる。
例えば,両生類と爬虫類には卵生や変温といった 共通する特徴がある中で,爬虫類がより乾燥した内 陸部へと進出した仲間であることを意識させるだ けで,子どもたちの頭の中には体表や卵が持つ特徴 などのイメージが次々と浮かんでくる。動物は,そ の環境に応じて合理的に形を変え,現在に至ってい る。これは植物においても同様である。植物は環境 への適応による進化や動物との関わりの中での共 進化を通して,非常に理にかなった形へと姿を変え てきている。時には私たちの想像を遥かに超えるよ うな姿に形を変えているものもあり,非常に興味深 いものである。そのような点からも,植物の学習に も進化の視点を導入することで,植物のからだのつ くりと働きやその種類に対する正しい認識への転 換がスムーズに進むと考えられる。また,時に私た ちを驚かせるような進化の姿は,生徒のさらなる自 由な発想を促すことにつながり,討論が深まる学習 課題として,また「中学校理科との出会い」の場と しても適切であると考える。
比す るも の
比較するもの 比較するもの
類似点
相違点
(2)単元構成について
単元の構成にあたり,次の3点を意識した。
①中学校の理科との出会いの単元として
植物の学習は,「中学校理科との出会い」の場で ある。単元構成,学習課題の設定については,単元 の前半に生徒にとって身近である「花」を取り扱う ようにし,親しみやすさを感じながら授業に取り組 めるように心がける。また,本校が取り組む授業の スタイルに慣れること,自分の考え(予想)や意見 の発表,他人との意見の比較・検討(討論)を自由 な発想で伸び伸びと行える環境を各学級で整える ために,自由に発想しやすいような課題を設定した。
②進化はあくまでも「視点の移動」の手段 植物の学習を進化の視点を中心と捉えて進めて いくためには,どうしても時系列に学習を進めるほ うが都合がよい。しかし,過去の植物から現在の植 物へと学習を進めることは,入学して間もない子ど もたちに,馴染みの浅い植物から学習を進めさせる ことになり,身近な自然に親しむ理科の学習のスタ ートとしては不適切である。
「進化」という視点は,植物のからだのつくりや 生活,種類を理解するうえでの「視点の移動」のた めの手段であり,中心に据えるものではないと考え る。
③みんなが主役になれるように
「もっと調べてみたい」「もっと知りたい」とい う欲求は,理科の授業を盛り上げ,生徒の科学的な 思考力を高める礎となるものである。
自由な発想が可能な学習課題では,一見的外れに 見えるような意見も出てくる。討論では,他の生徒 に徹底的に叩かれ,自信を喪失する生徒もいる。植 物の驚くべき進化の姿は,時にそんな生徒を救い,
大逆転で授業の主役に押し上げることが多い。自分 たちの想像を遥かに超えた植物の姿に誰もが驚く。
自信を無くしていた生徒も誇らしげに微笑む。そん な授業は,「自分の意見を堂々と述べても大丈夫。」
「どんな意見でも一度は認めてみよう。」という空 気を生み出し,さらに活発な討論へとつながってい く。深みのある討論は,目的意識を持った実験,観 察へとつながる。
幅広い発想が可能な学習課題の設定はそのよう な意味でも重要である。
(3)単元構成および授業のようす
①花のつくりとはたらき
第1次 花粉が運ばれやすい花の形を設計して みよう。
・花の役割について知る。
・虫や鳥,風を誘い込みやすいような花を考え,
設計する。
・VTR「花咲く地球の1億年物語」を視聴し,
虫とのやりとりの中で,驚くべき進化をとげて いる花があることを知る。
第2次 花と呼ぶにはどのようなつくりが必要 だろう。
・花を形作る「つくり」として必要なものを考え る。
・身近な植物としてアブラナ,ツツジなどを実際 に調べてみる。
・花がのり巻き構造になっていることを知る。
・さまざまな花について,画像で確認する。
第3次 タンポポの花弁は何枚あるだろう。
・タンポポは様々な種類が存在することを知る。
・実際のタンポポを観察し,何枚の花弁を持って いるかを考える。
・花弁の数が5枚である理由を考える。
・なぜそのような形に進化してきているのかを考 察する。
写真2(左)、
写真3(下):
生徒の考えた「花 粉が運 ばれ やす い植物」
理 科
第4次 虫や風に運んでもらいやすいような花 粉の形を設計しよう。
・花が果実へと成長するには,受粉が必要である ことを知る。
・花が虫や風を誘い込みやすく進化していたこと から,花粉の進化について考える。
・風媒花,虫媒花それぞれの花粉を実際に顕微鏡 で観察する。
・いろいろな花粉について顕微鏡画像で確認する。
第5次 マツのなかまが進化の中で,アブラナの なかまに負けたのはなぜだろう。
・マツの花について知る。
・実際にマツの花を観察し,その大まかなつくり を理解する。
・アブラナの花のつくりや花粉の運ばれ方を思い 出しながら,アブラナのなかまの方が優れてい る点を見つけ出す。
・動物との関わりに注目し,さらに考察する。
②根・茎・葉と水のゆくえ
第6次 水を効率よく吸収したり,からだをしっ かり支えるような根を持つ植物を設計 しよう。
・根の役割について知る。
・水をひとり占めできるような根や,強く体を支 えられるような根を持つ植物を考える。
・身近な植物がどのような根を持っているのかを 観察する。
・大きくは2種類の根に分類できることを知る。
・変わった形に進化した根について知る。
写真4:生徒の考えた「水を吸収しやすい植物」
第7次 セロリのからだを2つに裂いて,赤と青 の染料につると,葉はどのような色に変 化すると思いますか。
・2色の染料から,どのような色の葉になるかを 考える。
・アスパラガス,ブロッコリーを用いて,道管の 観察を行う。
・道管のつながりから,再度セロリの結果を予想 し,確認する。
第8次 水をいきおいよく吸い上げるために,植 物はどのような工夫をしていると思い ますか。
・根には水を効率よく吸収するための工夫がされ ていたことを思い出しながら,どのようにから だの隅々まで吸い上げているかを考える。
・からだの端である葉を観察し,水を吸い上げる 工夫を見つける。
・蒸散について理解する。
③葉と日光
写真5:生徒の考えた「光をひとり占めする植物」
第9次 太陽の光をひとり占めできる植物を設 計しよう。
・植物が生きていくために,光が必要不可欠であ ることを知る。
・少しでも効率よく光を集めるために,どのよう な工夫をしているかを考える。
・実際の植物を観察し,光を集める工夫がないか を調べる。
・光取り競争を勝ち抜くための様々な工夫につい て知る。
第10次 デンプン工場は葉のどの部分にあるだ ろう。
・ふ入りの葉や赤色の葉などを観察し,どの部分 で光合成が行われているかを考える。
・ヨウ素液を用いた実験で結果を確認する。
第11次 カナダモの茎は光合成しているのだろ うか。
・カナダモの茎で光合成が行われているかを考え る。
・葉を観察し,葉緑体の存在を理解する。
・茎に葉緑体があるかを観察する。
・茎から葉や花への進化について知る。
第12次 息を吹き込んで緑色にしたBTB溶液 の中にカナダモを入れ,光に当てると,
BTB溶液は何色に変わるだろう。
・光合成によって起こる変化を考える。
・実際に実験を行い,光合成について理解を深め る。
第13次 カナダモを入れたBTB溶液はなぜ黄 色くなっていたのだろう。
・BTBの色が変化した理由を考える。
・植物の呼吸を調べる実験を行い,二酸化炭素が 排出されることを確認する。
④植物のなかま
第14次 オオバコは単子葉類か双子葉類のどち らだろう。
・オオバコを観察し,単子葉類か双子葉類のどち らに分類されるかを考える。
・維管束のようすや,芽生えのようすから,双子 葉類であることを確認する。
第15次 オニシダに花は咲くと思いますか。咲 くならどの場所に咲くだろう。
・オニシダを観察し,花が咲くかどうか,また咲 くならどの部分に咲くかを考える。
・オニシダの葉や胞子を観察し,花が咲かないこ とに気付く。
・胞子でなかまを増やす植物は花が咲かないこと を理解する。
5.成果と課題
本実践を終えた後,生徒に簡単なアンケートを行 った。
(1)アンケート結果より分かること
「小学校の時と比べて理科への思いが変わりまし たか。」という設問に対して,およそ7割の子ども たちが「小学校のときよりも好きになった。」と回 答した。「小学校の時も今も好きである。」という回 答をした生徒も合わせると,97%の生徒が理科に 対して好感をもっているということになる。
その理由については,大きく分けて次の2点が大 半を占めていた。生徒の自由記述の一部を以下に示 す。
①自分との対話に関すること
・ある仮説を立てることによって,自分の中で想 像がふくらむ。
・発表するのは苦手だけど,自分のノートに予想 してから実験で確認できるので,分かりやすい。
・分からないことに予想を立てて,追求していく 授業スタイルがとてもおもしろい。
・予想を立てずに学ぶよりも,予想を立ててから 学ぶ方が頭に残った。
・自分の意見が間違っていても,間違っていたこ とをもう一度考えて,自分の糧にすることがで きた。
・予想をノートに書いて,その後に実験や観察で 結論を出すことで,自分の誤解も解けてすごく おもしろい。
②他者との対話に関すること
・自分の考えを黒板に書いて発表している人たち を見て,自分とは違う考え方の人がいて楽しか った。
・自分の考えを書くと,他の人と違うところが分
理 科
かるからよい。
・自分が書いた予想と人との違いがいろいろなと ころから出てきて,他の人の考えも聞けておも しろいです。
・初めに疑問を持ち,みんなで比べてから,実験 をして確かめることがおもしろい。
・自分の考えを書いてその意味を発表しあうと,
他の人の考えていることが分かっておもしろ い。
単元構成の際に意識した「中学校理科との出会い」
を良いものにしたいという点では,多くの生徒が,
小学校の時よりも理科が好きになったと回答した ことからも,ある一定の成果はあったといえる。
また,授業を繰り返すごとに,討論が盛り上がり,
たくさんの生徒が発表するようになってきたこと は,授業者としてこの上ない喜びを感じるものであ った。
アンケートの中に,「植物はすごい!」「他にはど んな進化をした植物がいるのか知りたい。」「普段何 気なく見てきた植物に,進化で得たたくさんの秘密 があったことに驚いた。」など進化に関するものや,
「もっと調べてみたい。」というような意見も数多 く見られた。進化の視点を取り入れたことで,生徒 の視点は動かされ,新たな認識へと転換ができたの ではないかと考える。
(2)おわりに
今回の実践の中で一番感じたことは,授業の度に 生徒が生き生きと自分の意見を述べ,討論を行える ように成長してきたことである。この変化が,今回 の実践の成果なのかどうかはもう少し検証が必要 であると思うが,少なくともイメージを膨らませや すい学習課題は生徒に受け入れられたのではない かと考える。
しかしながら,学習課題→予想→討論という流れ に時間がかかりすぎてしまい,実験や観察が急ぎ足 になってしまった時間もあり,一部の生徒からは
「もう少しじっくりと考えたり,観察できる時間が あってもよかった。」という意見もあった。
今後,学習課題の精選をはかりながら,授業スタ イルについてもさらなる研鑽をしていきたい。
*1 中学校学習指導要領,文部科学省,2007 告示.
*2 東田充弘,滋賀大学教育学部,理科共同研究者.
*3 科学的な思考力を高める理科学習-「原子,分子の 見える化学変化の学習」「視点の移動を生かした力学 教材の開発」の実践より-,澤田一彦・保木 康 宏,滋賀大教育学部附属中学校研究紀要 49,2007.
*4 科学的な思考力を高める理科学習-「郷土の自然災 害調査の手引き『近江の自然調査法』の作成と 実 証授業の研究」「天動説的宇宙観と地動説的宇宙 観を結びつける地球儀教材の開発」-,澤田一彦・
保 木 康 宏 , 滋 賀 大 学 教 育 学 部 附 属 中 学 校 研 究 紀 要 50,2008.
*5 科学的な思考力を高める理科学習-「郷土愛を育て る水環境教材 『プランクトン・ザ・ムービー』 の 作成と実証授業の研究」「状態変化と化学変化の 単元におけるミクロとマクロの視点移動の研究」
-,澤田一彦・保木康宏,滋賀大学教育学部附属 中学校研究紀要 51,2009.
*6 科学的な思考力を高める理科学習-メタ認知を生か した力学の授業づくり-,-滋賀の水環境との共存 を考える単元「びわ湖と私」のカリキュラム作成と 教材開発-,澤田一彦・保木康宏,滋賀大学教育学 部附属中学校研究紀要 52,2010.