価格判断におけるアドバイスの方向性が受容に及ぼす影響
The influence of vector of advice on acceptance in decision making of price
1w153102-0 遠山 和杜 指導教員 渡邊 克巳 教授
TOYAMA Kazuto Prof. WATANABE Katsumi
概要:本研究では,PCスクリーン上に呈示された椅子画像の価格推定課題を用いて,実験参加者の初期判断 に対するアドバイスの距離と方向性(ベクトル)がアドバイス受容に与える影響について検討した。実験参 加者は自身の初期判断を±75%,±50%,±25%のいずれかの割合で増減させた価格を専門家によるアドバイ スとして与えられ,その上で最終判断を回答した。以上を1試行とし,各試行のWeight of Advice(WOA)を 算出することによって実験参加者のアドバイス受容の程度を示した。この時,初期判断に対するアドバイス のベクトルがアドバイス受容に有意な影響を与えることが認められた。また,初期判断に対して負のベクト ルのアドバイスは,正のベクトルのアドバイスに比べ有意に高い受容を示すことが明らかとなった。
キーワード:意思決定,アドバイス,Weight of Advice,アドバイス受容 KeyWords:decision making, advice, Weight of Advice, advice taking
1. 序論
アドバイスは日常レベルの問題から専門性の高い 複雑な問題まで,多岐に渡って使用される重要な意 思決定の方略の1つである。アドバイス受容は様々 な認知的なバイアスの影響を受けるとされている が,具体的な数値としてのアドバイスの性質がアド バイス受容に与える影響については明らかでない。
初期判断に対するアドバイスの距離と方向性(ベク トル)の両面からアドバイス受容への影響を検討す ることで,普遍的なアドバイス受容の知見を得るこ とができるのではないか。本研究の目的は,初期判 断に対するアドバイスのベクトルがアドバイス受容 に与える影響を明らかにすることである。
2. 方法
大学生の男女36名を実験参加者とした(平均年
齢20.28 歳,標準偏差1.64)。実験刺激には実際に
市場で販売されている1人掛け用の椅子画像92種 を用いた。全ての刺激画像は白色無地を背景に撮影 されていた。また,実験参加者は実験刺激に関して 特別な専門知識を有していないことを口頭にて確認 されていた。
実験参加者は呈示された椅子画像の市場価格を推
定(初期判断)し,初期判断を基準に±75%,±
50%,±25%のいずれかの割合で増減させた価格を 専門家によるアドバイスとして与えられた上で,再 度価格推定(最終判断)をするよう教示された。以 上を1試行とし,各6条件15試行をランダムに計 90試行の推定課題を行った。課題は実験参加者のペ ースで行われ,15試行につき2分間の休憩が設けら れていた。以下の図1に1試行の実験手続きを示 す。
図1 実験手続き
3. 結果
アドバイス受容の指標としてはWeight of Advice
(WOA)[1]を用いた。各実験参加者の全試行の平均 WOAを基準に各試行の標準化スコアを求めた(標
準化WOA)。その後,各条件における標準化WOA
について,全実験参加者の平均値および標準誤差を 算出した(図2)。
各6条件の平均標準化WOAについて対応ありの 一元配置分散分析を行ったところ,各条件がWOA に与える影響は有意であった (F(5,210) = 22.09, p
< .01, 𝜂2= .53)。次に,Tukey-Kramer testを用いた 多重比較の結果,初期判断に対し25%の距離にある アドバイスは,それより乖離したアドバイスに比べ 有意に低い受容を示すことが明らかとなった。更 に,ガウス関数を用いてフィッティングを行ったと ころ,データのピーク位置は正方向に5%程ずれて いることが示された。
図2 各条件と標準化WOA
(エラーバーは標準誤差を表す)。
このことから,初期判断に対するアドバイスのベク トルによって受容の傾向が異なる可能性について検 討した。初期判断に対するアドバイスの増減6条件 をplus条件(増加)とminus条件(減少)の2条件 とし,それぞれについて全実験参加者の平均標準化 WOA及び標準誤差を算出した(図3)。各2条件に ついて対応ありのt検定を行った結果,minus条件 のアドバイスはplus条件のアドバイスに比べ有意に 高い受容を示すことが明らかとなった (t(35) = -2.28, p < .05, r = .36)。
この結果を説明するものとしてSharot, Korn, and
Dolan (2011)の研究で示されている楽観性バイアス
が影響している可能性が考えられる。彼らによれ ば,普段我々は状況判断において悲観的な判断を過 小評価し,より楽観主義的な判断を正しい判断とし て受け入れる傾向にあるという[2]。本実験における
minus条件のアドバイスは,より安価という意味で
実験参加者にとって楽観的なアドバイスと考えられ る。そのためminus条件のアドバイスは実験参加者 にとって受容し易く,結果としてWOAが増加した 可能性が示唆される。
図3 各条件と標準化WOA
(エラーバーは標準誤差を表す)。
4. まとめ
本研究では,初期判断に対し負のベクトルをもつ アドバイスは正のベクトルをもつアドバイスより高 い受容を示すことが明らかとなった。一方で,それ があらゆる状況で一般化するものであるか,または 異なる表現で一般化されるべきものであるかについ ては更なる検証が必要であろう。本現象の説明とし て,著者はアドバイスのベクトルを楽観性バイアス と紐付けて考察をした。本研究の結果が純粋なアド バイスの正負ではなく,楽観性バイアスで一般化さ れる可能性は大いに存在する。以上の課題に関し て,今後異なる指標を用いた実験を行うなどが必要 であろう。
5. 引用文献
[1] Bonaccio, S., & Dalal, R. S. (2006). Advice taking and decision-making: An integrative literature review, and implications for the organizational sciences. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 101(2), 127-151.
[2] Sharot, T., Korn, C. W., & Dolan, R. J. (2011).
How unrealistic optimism is maintained in the face of reality. Nature neuroscience, 14(11), 1475.