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科学研究費助成事業 研究成果報告書

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Academic year: 2022

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科学研究費助成事業 研究成果報告書

平成26年 4月28日現在

研究成果の概要(和文):トランスクリプトーム解析およびプロテオーム解析により,精子特異 的電位依存性イオンチャネル遺伝子を見いだした。これらの遺伝子のホモログは動物や藻類な ど鞭毛を有する生物種には広く分布し,被子植物には存在しない。従って、このイオンチャネ ルが鞭毛機能に関与している可能性が示唆された。また,塩基性アミノ酸に富むプロタミン様 タンパク質をコードする遺伝子が見いだされ,この遺伝子が精子特異的に発現することを見い だした。

研究成果の概要(英文):Transcriptomic and proteomic analyses identified homologues of sperm-specific voltage-dependent ion-channel in

Marchantia polymorpha.

These channel genes are found in organisms that have flagella, such as mammals and algae, but not in angiosperms, suggesting that they are involved in flagellar functions. In addition, a gene encoding a sperm-specific protamine-like basic protein was identified.

研究分野: 複合新領域

科研費の分科・細目:ゲノム科学・ゲノム生物学

キーワード: コケ植物,性染色体,半数体,雌雄異株,基部陸上植物 1.研究開始当初の背景

受精は有性生殖の根幹をなすプロセスで あり、多くの生物種で卵および精子という異 型配偶子が用いられる。このプロセスの中で、

卵は精子走化性物質によって精子を誘引し、

両者は膜融合によって合体する。これらは共 に正しい相手の認証という点で、受精に必要 不可欠なしくみである。

一部の生物種について、卵あるいはその周 辺の組織などが放出する精子走化性物質が 同定されているが、精子走化性物質受容体に ついてはほとんど未解明である。一方、膜融 合については、近年、ほ乳類のIZUMO (Inoue et al. Nature 434:234-238, 2005) や植物の GCS1 (Mori et al. Nat. Cell Biol. 8:64-71,

2006) という、卵・精子の相互認識および融

合に不可欠な因子が同定されている。しかし、

膜融合に関わる他の因子については未解明 であり、受精時の膜融合の全体像の解明には 至っていない。

研究代表者は、植物における性決定・性分

化や、それを制御する性染色体のなりたちに 興 味 を も ち 、 ゼ ニ ゴ ケ

Marchantia polymorpha

L. をモデルとして研究を行っ てきた。ゼニゴケを含むコケ植物は、約4億 5000 万年前に植物が陸上進出してから最初 に分岐したと考えられ、基部陸上植物と位置 付けられている (Qiu et al. Proc. Natl. Acad.

Sci. USA 103:15511-15516, 2006)。実際、ゼ ニゴケには陸上植物に共通する基本的なし くみの多くが、より単純なかたちで保存され ている。一方で、ゼニゴケは性染色体をもつ 雌雄異株植物であり、雄株は造精器をもつ雄 器托を、雌株は造卵器をもつ雌器托を形成す る。雄器托に水がかかると造精器より運動性 のある精子が放出される。精子は2本の鞭毛 を用いて水中を泳ぎ、雌株の造卵器に到達し て受精に至る。

研究代表者らは植物の性染色体としては 初めてゼニゴケ Y 染色体の全構造を解明し、

比較ゲノム解析を通して動物の精子関連遺 伝子のホモログがゼニゴケに存在すること 機関番号:34419

研究種目:新学術領域研究 研究期間:2012~2013 課題番号:24112715

研究課題名(和文) ゼニゴケ精子特異的膜タンパク質の受精における役割

研究課題名(英文) Functions of sperm-specific membrane proteins in fertilization in

Marchantia polymorpha

研究代表者

大和 勝幸(YAMATO KATSUYUKI)

近畿大学・生物理工学部・准教授 研究者番号:50293915

交付決定額(研究期間全体):(直接経費) 7,400,000 円 、(間接経費) 2,220,000 円

(2)

を示した(Yamato et al. Proc. Natl. Acad.

Sci. USA 104:6472-6477, 2007)。精子関連遺 伝子の共通性から、ゼニゴケと動物に共通す る配偶子認識・融合のしくみがあると期待で きる。また、被子植物に見られる重複受精は 複雑ではあるが、単純な基部陸上植物の生殖 機構に近いものから進化し、被子植物におけ る受精を支える因子はゼニゴケでも保存さ れていると考えられる。実際、被子植物にお ける卵・精子の膜融合に関与する

GCS1

遺伝 子のオーソログが、ゼニゴケY染色体上に見 いだされている。

2.研究の目的

精子の卵への走化性および卵との融合に 必要とされる精子特異的膜タンパク質を同 定するため、本研究では、生殖研究における 新興モデル生物ゼニゴケを用いて以下の2 項目を実施する。

(1) 精子特異的に発現する膜タンパク質の同 定

(2) 形質転換系を用いた精子特異的膜タンパ ク質の精子走化性および膜融合への関与の 評価

本研究で解析する予定の精子特異的膜タン パク質には、精子走化性物質受容体や受精時 の膜融合に必要なタンパク質が含まれてい る可能性が高いと期待する。

3.研究の方法

<精子特異的膜タンパク質の同定>

応募者による先行研究で取得した精子特 異的に発現する膜タンパク質遺伝子の候補 について、以下の評価を行い、目的とするタ ンパク質を同定する。

①RT-PCR による雄器托における発現特異 性の確認

②候補膜タンパク質:GFP 融合タンパク質 の構成的一過発現による膜局在の確認

Gateway システムを利用してコンストラ クトを作成する。アグロバクテリウム法によ り幼葉状体にコンストラクトを導入し、一過 発現による細胞内局在を観察する。

<遺伝子破壊株の作成>

相同組換えに基づくイネ遺伝子破壊用ベ クターのプロモーターをゼニゴケ用に置換 したものを利用する (Ishizaki et al. Sci.

Rep. 3, 1532, 2013)。同定された精子特異 的膜タンパク質の遺伝子について、順次遺伝 子破壊用コンストラクトを作成し、遺伝子破 壊株の作成を行う。この時、卵・精子の膜融 合に必要とされる

GCS1

遺伝子のゼニゴケ・

オーソログの破壊株も作成する。

<精子走化性の評価系の開発>

精子特異的膜タンパク質遺伝子の破壊に よる精子走化性への影響を評価するには、遺 伝子破壊株の精子について造卵器への誘引 を評価する必要がある。ゼニゴケの精子走化 性物質は同定されていないが、応募者による 先行研究により、少なくとも造卵器基部に精 子走化性物質を含む組織が存在することが 判明している。そこで、本研究では造卵器を 多数集め、造卵器そのもの、もしくはその粗 抽出液を精子誘引源として使用する。

精子走化性の評価は顕微鏡下での目視を 基準とするが、より客観的に評価するために、

マイクロキャピラリーへの精子の進入を指 標とする評価法も開発する。

4.研究成果

これまでのトランスクリプトーム解析に より,約 4,000 の雄器床特異的配列が得られ ている。その中より膜タンパク質をコードす ると期待されるものを抽出した。これらのう ち , plasma membrane Ca2+-transporting ATPase 遺伝子(

MpPMCA

)の解析を行ったとこ

ろ,

MpPMCA

転写産物がオルタナティブ・スプ

ライシングを受け,雄器床特異的なスプライ シング・バリアントのみが PMCA 全長をコー ドしていることが明らかになった。

MpPMCA

は 雄器床のみで機能していると予測されたが,

MpPMCA

プロモーターで GUS を発現させたとこ ろ,雄器床辺縁部での発現は検出されたもの の,造精器あるいは精子での発現は見られな かった。従って,

MpPMCA

遺伝子は精子そのも のでは機能していないと考えられる。また, 精子プロテオーム解析のデータと合わせる と,精子にタンパク質として発現している電 位依存性イオンチャネル遺伝子を見いだし た。興味深いことに,この遺伝子のホモログ は動物や藻類など鞭毛を有する生物種には 広く分布し,被子植物には存在しない。従っ て,このイオンチャネルが鞭毛機能に関与し ている可能性が示唆される。

上記の雄器床特異的配列に加え,塩基性ア ミノ酸に富むプロタミン様タンパク質をコ ードする遺伝子

MpPRM

が見いだされた。一般 に,プロタミンは精子においてヒストンの代 わりに DNA に結合している。

MpPRM

遺伝子に 蛍 光 タ ン パ ク 質 Citrine 遺 伝 子 を 融 合 (PRMC) させて発現させたところ,造精器特 異的な発現が見られた。さらに,精子そのも のにおいても強い蛍光が観察された。目視で は PRMC 発現株の精子の運動能に異常は見ら れず,KCl に対する正の走化性も観察された。

野生株雌株と PRMC 発現株を交配したところ,

胞子が正常に形成された。得られた胞子の約 半数がハイグロマイシン耐性を示した。以上 の結果より,PRMC 精子の稔性は正常であると 結論づけた。さらに、野生株雌器床に PRMC

(3)

精子懸濁液をかけ,30 分後に観察したところ,

多数の PRMC 精子が造卵器内に認められ,一 部の精子は卵細胞に到達していた。コケ植物 やシダ植物において,これまで造卵器内進入 後の精子の挙動をリアルタイムで追跡する ことは難しかったが,今回作成した PRMC 精 子により、それが容易になると期待される。

さらに、配偶子が融合した後の精子核の挙動 の観察にも利用できる。

GCS1

遺伝子のゼニゴケ・オーソログの破壊 株の作成を試みた。Ishizaki ら(Sci. Rep. 3, 1532, 2013) の方法に従ってコンストラクト を作成し,胞子を発芽させて得られた細胞塊 に導入したが,破壊株は得られなかった。ゼ ニゴケ

GCS1

遺伝子は Y 染色体に存在するた め,その強い凝縮が相同組換えを妨げている 可能性がある。

精子走化性を観察するための実験系とし ては,ホヤでの系を採用した (Saito et al.

Proc. Natl. Acad. Sci. USA 109:4158-4162, 2012)。この方法では,スライドガラスとカ バーガラスの間に 0.2〜0.5 mm 厚のシリコン シートをスペーサーとして挟み込み,チャン バーとして精子が遊泳するための空間を確 保する。チャンバーに精子懸濁液を注入し,

試料を充填したマイクロニードルをチャン バーに挿入すれば精子走化性を評価できる ことがわかった。精子走化性物質として雌器 床の水抽出物を利用できるが,安定した評価 を 行 う た め に 50 mM KCl 水 溶 液 を 用 い た (Åkerman Zeit. für Bot. 2:94-103, 1910)。

図1に前述の PRMC 精子を用いた精子走化性 試験を示す。

図1 PRMC 精子は KCl に走化性を示す。

PRMC 精子は 50 mM KCl を充填したキャピラリ(点 線で囲まれた領域;上)に誘引された。

ゼニゴケ造卵器が用いている精子走化性 物質は同定されていないが,高度不飽和脂肪 酸生合成酵素遺伝子の一つを破壊すると,精 子走化性が消失した。これは,ゼニゴケにお ける精子走化性物質が高度不飽和脂肪酸に 由来することを強く示唆している。

5.主な発表論文等

(研究代表者、研究分担者及び連携研究者に は下線)

〔雑誌論文〕(計 2件)

1. Kubota, A., Kita, S., Ishizaki, K., Nishihama, R., Yamato, K.T., Kohchi, T.

(2014). Co-option of a photoperiodic growth-phase transition system during land plant evolution. Nat. Comm. 5, 3668.

2. Ishizaki, K., Nonomura, M., Kato, H., Yamato, K.T., Kohchi, T. (2012).

Visualization of auxin-mediated transcriptional activation using a common auxin-responsive reporter system in the liverwort Marchantia polymorpha. J. Plant Res. 125, 643-651.

〔学会発表〕(計 8件)

1. Tsukamoto, S., Motohashi, T., Hirao, S., Ishizaki, K., Kohchi, T., Yamada, L., Sawada, H., Yamato, K.T.

“Characterization of a protamine-like protein from the liverwort Marchantia polymorpha L.” 第55回日本植物生理学 会年会(富山大学,富山), 2014年3月 18日

2. Yamato, K.T. “Sex in the liverwort Marchantia polymorpha.”, Marchantia Workshop 2013, Buln Buln Holiday Cabins, Yanakie, Australia, 2013年12月9日. 3. 大和 勝幸「生殖研究のモデル植物とし

てのゼニゴケ」 近畿作物・育種研究会 第175回例会(近畿大学,和歌山),2013 年7月13日

4. 大和 勝幸 「ゼニゴケ:精子走化性研究 のモデルとしての可能性」 山口大学農 学部生物機能科学セミナー(山口大学,

山口),2013年4月30日

5. Yamato, K.T. “Sperm Chemotaxis in the Liverwort Marchantia polymorpha L.”

International Symposium on the Mechanisms of Sexual Reproduction in Animals and Plants. Joint Meeting of the 2nd Allo-Authentication Meeting and the 5th Egg-Coat Meeting (Hotel Nagoya Garden Palace, Nagoya, Japan) 2012年11 月16 日

6. Yamato, K.T. “Sexual reproduction in Marchantia polymorpha - sex chromosomes and sperm chemotaxis.” International

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Marchantia Workshop 2012 (Hotel Greenpia Minamiaso, Aso, Japan), 2012年 11月16日

7. 大 和 勝 幸 “The liverwort Marchantia polymorpha L. - a model organism for sperm research –“ 第53回日本植物生理 学会年会シンポジウム(京都産業大学,

京都), 2012年3月16日

8. Yamato, K.T. “The genome of Marchantia polymorpha L.” XVIII International Botanical Congress (Melbourne Convention and Exhibition Centre, Melbourne, Australia), 2011年7月25日

〔図書〕(計 2件)

1. 大和 勝幸 「第5章 コケ・シダ植物の 受精」、動植物の受精学(澤田 均 編)、

化学同人、pp.76-87、2014.

2. 大和 勝幸 「見えてきたゼニゴケゲノ ム」、BSJ-Review, 3, 71-83, 2012.

〔産業財産権〕

○出願状況(計 0件)

○取得状況(計 0件)

〔その他〕

なし。

6.研究組織 (1)研究代表者

大和 勝幸(YAMATO, Katsuyuki)

近畿大学・生物理工学部・准教授 研究者番号:50293915

(2)研究分担者 なし

(3)連携研究者

河内 孝之(KOHCHI, Takayuki)

京都大学・大学院生命科学研究科・教授 研究者番号:40202056

石崎 公庸(ISHIZAKI, Kimitsune)

神戸大学・大学院理研究科・准教授 研究者番号:00452293

参照

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