よび実用性の検討
著者 竹下 遥
雑誌名 東京家政大学附属臨床相談センター紀要
巻 12
ページ 17‑30
発行年 2012‑03
出版者 東京家政大学附属臨床相談センター
URL http://id.nii.ac.jp/1653/00010068/
子どもの感情覚知尺度日本語版 LEAS-C の妥当性および実用性の検討
竹下 遥
Examination of the Validity and Usefulness of LEAS-C for Japanese as an Emotional Awareness Scale for Children
Haruka TAKESHITA
要旨
本研究の目的は、子どもの感情の気づきを測定する尺度Levels of Emotional Awareness Scale for Children(LEAS-C)の日 本語版スコアリングマニュアルを作成し、日本語版LEAS-Cの妥当性、実用性を検討することであった。中学生268名 を対象に「日本語版LEAS-C」「児童用自己意識尺度」「多次元的共感性尺度」「日本語版 The20-item Toronto Alexithymia
Scale (TAS-20)」「児童用社会的望ましさ尺度」「語彙理解力テスト」「学校生活スキル尺度」から成る質問紙を実施した。
分析の結果、LEAS-Cと「私的自己意識」「共感性」「アレキシサイミア」との有意な相関が示され、LEAS-Cの構成 概念妥当性がみとめられた。また,LEAS-Cとアレキシサイミアとの相関が弱かったこと、社会的望ましさ、語彙力と の相関がそれぞれみとめられなかったことから、LEAS-C の弁別的妥当性も示された。さらに、LEAS-C と「学校生活 スキル」との相関が示されたことにより、LEAS-Cの現場での応用の可能性が示唆された。
キーワード:LEAS-C、感情覚知尺度、中学生
問題と目的
近年、感情の適応的側面に焦点を当てた実証的 研究が多くなされ、感情のコントロールやストレ スコーピングの柔軟性、対人関係の構築といった 精神的健康にかかわる様々な側面において感情 への気づきの重要性が示唆されている1,2,3)。1
感情への気づき、すなわち感情覚知は、「自己 や他者の感情を同定し表現する能力」と定義され る4)。感情覚知は、感情に関わる情報を処理する 機能をもつ認知スキーマから成っており、発達過 程における認知的スキルであると考えられてい る5)。スキーマがどの程度発達、分化しているか には個人差があり、感情語を伴う個人の過去の経 験を反映するものとされている5)。
Lane & Schwartz (1987)は、感情の組織化の程度は感情の言語的な
1東京家政大学附属臨床相談センター
表象に反映されると考え、感情覚知の認知的発達 段階を示している4)。その発達段階モデルによれ ば 、 感 情 経 験 は ①
bodily sensation
, ②action tendencies,③single emotions,④blends of emotion,
⑤combination of blendsという
5
つの段階から成 るという。この感情経験の発達モデルに基づき、感情覚知の複雑さにおける個人差を測定するた め に 開 発 さ れ た 尺 度 が 、
Levels of Emotional
Awareness Scale: LEAS
6)である。LEASは、感情喚
起場面を呈示し、実際にその場面に遭遇したと仮 定した場合にどのような気持ちになるか(自己感 情覚知)、また、場面に登場する他者はどのよう な気持ちになっていると思うか(他者感情覚知)に ついて回答を求め、感情覚知の発達モデルに従っ て得点化するものである。スコアリングは、自己 と他者の感情覚知において別々になされる。無回 答や、認知的判断の記述は0
点、身体的感覚の記述や、感情反応の欠如を示す記述は
1
点、行動傾 向の記述や、厳密には感情ではないが快不快とい った広い意識状態の記述は2
点、分化した感情語 の記述は3
点、複数の分化した感情語の記述や、ひとつの分化した感情語が複数の人物の感情と して記述されているものは
4
点とされる。LEAS を用いた研究においては、より高齢であること、低所得であること、教育年数が短いこと、男性と いった要因が低感情覚知と関連することがわか っている7,8)。
LEAS
は成人を対象に開発された尺度であるが、その児童版として新たに作成されたのが
Levels of Emotional Awareness Scale for Children:LEAS-C
である 5)。全12
場面から成り、スコアリングの 基準はLEAS
と同様である。例として、LEAS-C の場面1
と、Bagjar et al.(2005)、佐伯(2003)のス コアリングマニュアル5,9)をもとに反応を得点ご とに分類したものをTable1
に示す。LEAS-C
を用いた先行研究においても、男子より女子の方が自己の感情覚知、他者の感情覚知が 有意に高いことがわかっている5)。感情覚知レベ ルの高いことが怒りのコントロールや協力行動 と関連し、感情覚知レベルの低いことが抑うつや 攻撃性、けんかやいじめと関連することが示され
ている10)。
日本人の感情覚知を扱った研究は少ないが、女 子大学生を対象に
LEAS
を実施したものとして佐 伯(2003;2004)の研究が挙げられる
9,11)。佐伯(2003) は、感情覚知と抑圧コーピングスタイルとの関連 を検討しており、抑圧コーピングスタイルをもつ 者は、自己の負の感情の覚知が困難であるとして いる9)。また、母親からの感情受容イメージとの 関連を検討した研究によれば、養育者が自分の感 情を受容してくれるというイメージが強いほど、自己の感情覚知、特に負の感情覚知が高いことが わかっている11)。
先行研究の問題点は、対象者の年齢層が限定さ れていることである。感情覚知発達モデルの妥当 性を検証するためには、あらゆる発達段階のデー タの蓄積とその比較検討がなされる必要がある が、初期青年期を対象とした研究データの不足が 指摘されている6)。そこで本研究では、中学生を 対象とした調査により、LEAS-Cの日本語版スコ アリングマニュアルを作成し、日本語版
LEAS-C
の信頼性、妥当性、実用性を検討することを目的 とした。自己や他者の感情に気づいていることは、精神的な健康を維持し適応していく過程におい て重要な要素といえる。本尺度の実用性を示すこ
Table1 スコアリングの基準と反応例
場面 1:あなたは,大切なレース(かけっこの競争)で走っています。よくいっしょに練習し てきた友だちも同じレースに出ています。もう少しでゴールというところで,あな たは足首をひねって転んでしまい,走り続けることができなくなってしまいまし た。あなたの友だちは,そのレースで優勝しました。
あなたはどんな気持ちになりますか?
あなたの友だちはどんな気持ちになっていると思いますか?
得点 感情の表現形態 反応例
0 認知過程 「どうしよう」「不公平だ」「期待する」
1 身体的感覚 「痛い」「つかれた」
感情反応の欠如 「何を感じているのかわからない」
2 行動傾向 「壁を殴りたい」「笑う」
意識状態 「気分がよい」
3 分化した感情語 「しあわせ」「悲しい」「怒る」「驚く」
4 複数の分化した感情語 「うれしいけど悲しい」
複数の人物における分化した感情語 「自分と相手に怒りを感じる」
とにより、学校現場における児童生徒の心理的適 応についての理解を深めるための一助としたい。
方法
1. 調査対象
A
県内の市立中学校の生徒1
年生~3年生268
名(男子141
名・女子127
名)。2. 調査方法
質問紙法による無記名の調査を実施した(有効 回答率
94.4%)。
3. 調査内容 日本語版 LEAS-C
著者が
LEAS-C
を邦訳し、予備調査の結果をも とに修正を加えたもの。児童用自己意識尺度
自己意識を測定するための尺度である12)。本研 究では,自己の内面や感情への注意の向けやすさ とされる「私的自己意識」10 項目を使用した(4 件法)。
多次元的共感性尺度
共感性を測定するための尺度である13)。本研究 では、共感性の情動的側面であるとされる「共感 的関心」13 項目と、認知的側面であるとされる
「気持ちの想像」5項目を使用した(5件法)。
日本語版 The 20-item Toronto Alexithymia Scale (TAS-20)
Bagby, Parker, & Taylor(1994)により作成された
TAS-20
14)を小牧他(2003)が邦訳したものを用いた15)。本尺度は、感情同定困難や感情伝達困難と いった症状を特徴とするアレキシサイミア傾向 を測定する
20
項目からなる(5件法)。学校生活スキル尺度
学校生活スキルを測定する尺度である16)。本研 究では、「集団活動スキル」12 項目、「健康維持 スキル」9 項目、「同輩とのコミュニケーション
スキル」7項目を使用した(4件法)。
児童用社会的望ましさ測定尺度
Crandall et al. (1965)により作成された Children’s Social Desirability (CSD) Questionnaire
17)をもとに、桜井(1984)が作成した尺度18)で
25
項目からなる(2 件法)。語彙理解力テスト
平他(1998)により作成された中学生用の語彙理 解力テストである19)。それぞれのことばについて、
もっとも意味の似ていると思うものを
5
つの選 択肢の中から回答するよう求めるもので、本研究 では、感情に関連すると思われる21
項目を使用 した。結果と考察
1. 日本語版 LEAS-C のスコアリング
予備調査において作成した予備スコアリング マニュアルをもとに、調査対象者の回答内容を著 者と心理学専攻の大学院生
2
名の評定者でスコ アリングした。12 場面それぞれに対して自己感 情覚知、他者感情覚知、自他感情覚知(自己と他 者の感情覚知得点を合計したもの)の得点を算出 した。評定者間のスコアリング一致率を算出した ところ、自己感情覚知:94%、他者感情覚知: 92%、
自他感情覚知:
90%となった。この一致率は、 Bajgar et al.(2005)の評定者間一致率と同程度のもので
ある。12
場面すべての自己の感情覚知得点を足した ものを「自己感情覚知得点」、12場面すべての他 者の感情覚知得点を足したものを「他者感情覚知 得点」とした。また、「自己感情覚知得点」と「他 者感情覚知得点」を合計したものを「自他感情覚 知得点」とした。2. 自己感情覚知と他者感情覚知の関連
「自己感情覚知得点」と「他者感情覚知得点」
の関連を検討するため、Pearsonの積率相関係数 を男女別、全体で算出した。分析の結果、両得点 間に有意な正の相関がみられ(男子(
N =141)
:r =.73,
女子(N =127)
:r =.79,
全体(N =268)
:r =.77, p <.001)、
自己の内面に注意を向ける傾向の強い者は、他者 の感情の覚知に対しても敏感であることが示唆 された。他者の感情を推察するためには、特定の 状況とそれに伴って喚起されやすい感情などが 心の理論として理解されている必要があるとさ れており、本結果は、他者の感情経験に敏感であ ることが自身の持つ感情理論の精度を高めると 同時に、自己の感情により注意深くなることにも つながるとする知見20)と一致するものである。
3. 自己感情覚知と他者感情覚知の比較
「自己感情覚知得点」と「他者感情覚知得点」
の平均値を比較するため、対応のある
t
検定を行 った。男女別、全体の平均値とt
検定の結果をま とめたものをTable2、平均値をプロットしたもの
をFigure1
に示す。分析の結果、男子では「自己感情覚知得点」と
「他者感情覚知得点」との間に有意差はみられな かったが(
t (140)=1.24, n.s .)、女子では「自己感情
覚知得点」の方が「他者感情覚知得点」よりも有 意に高いことが示された(t (126)=2.00、 p <.05)。全
体の結果においても、「自己感情覚知得点」の方 が、「他者感情覚知得点」よりも有意に高いこと が示された(t (267)=2.24, p <.05)。
4. 自己感情覚知得点の学年差・性差
対象者の学年、性別によって「自己感情覚知得 点」に差がみられるかを検討するため、2要因の 分散分析を行った。学年、男女別の「自己感情覚 知得点」の平均値と分散分析の結果を
Table3
にTable 2 自己感情覚知得点と他者感情覚知得点の平均値(SD)・t値
自己感情
覚知得点
他者感情
覚知得点 t値
男子 (N=141)
11.62 11.06
1.24 ( 7.89) ( 6.14)
女子 (N=127)
14.42 13.57
2.00 * ( 7.81) ( 6.52)
全体 (N=268)
12.94 12.25
2.24 * ( 7.96) ( 6.44)
*p<.05
Figure 1 自己感情覚知得点と他者感情覚知得点の比較
示す。平均値をプロットしたものを
Figure2
に示 す。分析の結果、性別の主効果のみ有意であり( F (1,262)=8.24, p <.01)、学年の主効果、学年と性別
の交互作用は有意でなかった。学年に関係なく、女子の「自己感情覚知得点」の方が男子よりも有 意に高いことが示された。
5. 他者感情覚知得点の学年差・性差
対象者の学年、性別によって「他者感情覚知得 点」に差がみられるかを検討するため、2要因の 分散分析を行った。学年、男女別の「他者感情覚 知得点」の平均値と分散分析の結果を
Table4
に 示す。平均値をプロットしたものをFigure3
に示 す。分析の結果、性別の主効果のみ有意であり( F (1,262)=10.42, p <.001)、学年の主効果、学年と性
別の交互作用は有意でなかった。学年に関係なく、女子の「他者感情覚知得点」の方が男子よりも有 意に高いことが示された。
6. 学年別にみた自己感情覚知得点・他者感情覚 知得点の割合
学年によって自己と他者の感情覚知の特徴に 違いがみられるかを検討するため、感情覚知得点 の頻度を割合(%)で示した(Figure4~7)。男子にお いては、学年によって得点の割合に大きな違いは みられない。一方、女子においては、学年が上が るにしたがって
0
点レベルの回答の割合が少な くなり、3点、4点レベルの回答の割合が多くなTable 3 自己感情覚知得点の平均値(SD)・F値
学年×性別
1 年生 2 年生 3 年生 F値 多重比較
男子 N=51
女子 N=50
男子 N=46
女子 N=34
男子 N=44
女子
N=43 学年 性別 11.92 13.82 11.07 13.65 11.84 15.72
.70 8.24** 男子<女子 (1.10) (1.11) (1.16) (1.35) (1.19) (1.20)
**p<.01
Table 4 他者感情覚知得点の平均値(SD)・F値
学年×性別
1 年生 2 年生 3 年生 F値 多重比較
男子 N=51
女子 N=50
男子 N=46
女子 N=34
男子 N=44
女子
N=43 学年 性別 11.33 12.74 10.20 12.91 11.64 15.05
1.82 10.42*** 男子<女子 (0.88) (0.89) (0.93) (1.08) (0.95) (0.96)
***p<.001
Figure 2 自己感情覚知得点の平均値 Figure 3 他者感情覚知得点の平均値
っていることがわかる。女子においては、年齢が 上がるのに伴いより分化した感情語によって自 己や他者の内的な状態を記述できるようになる と言えそうである。
7. LEAS-C の妥当性の検討 7-1. LEAS-C の弁別的妥当性 LEAS-C と社会的望ましさとの関連
仮想場面での認知では相手との実際の相互作 用がないために、より理想的な反応や社会的に望 ましい形での反応が出てくる可能性が高いと考 えられている21)。そこで、児童用社会的望ましさ 測定尺度18)を用いて、
LEAS-C
と社会的望ましさ との関連を検討した。分析の結果、男女、全体い ずれにおいても、「自己感情覚知」「他者感情覚知」「自他感情覚知」と「社会的望ましさ」との間に 有意な正の相関はみられなかった。本結果は、
LEAS
と社会的望ましさの変数との間に有意な相 関がみられなかったとする知見6)と一致するもの である。LEAS-Cのスコアリングにおいては、反 応が適応的なものか不適応的なものかといった ことは問題にしない。たとえ「怒り」や「憎しみ」といった否定的な感情であっても、それが分化さ れた感情反応であれば覚知得点は高くなる。それ ゆえ、適応的な反応をしようとする傾向を測る社 会的望ましさ得点と感情覚知得点との間に関連 がみられなかったものと考えられる。
LEAS-C と語彙力との関連
先行研究により、女子の感情語彙の発達は男子 よりも早いことが示唆されていることから、感情
58.8 57.6 52.9
1.2 4.7 1.7
8.8 7.6 9.3
28.3 26.7 33.5
2.8 3.4 2.5
0% 20% 40% 60% 80% 100%
1年・女子 2年・女子 3年・女子
0点 1点 2点 3点 4点
61.6 62.7 60.6
3.1 4.5 6.6
10.0 11.6 7.8
25.0 20.3 23.5
0.3 0.9 1.5
0% 20% 40% 60% 80% 100%
1年・男子 2年・男子 3年・男子
0点 1点 2点 3点 4点
Figure 4 自己感情覚知得点の割合(男子) Figure 5 自己感情覚知得点の割合(女子)
60.9 62.0 61.2
4.7 6.7 4.0
13.6 16.3 11.7
20.4 14.5 22.9
0.3 0.5 0.2
0% 20% 40% 60% 80% 100%
1年・男子 2年・男子 3年・男子
0点 1点 2点 3点 4点
57.8 56.9 50.2
4.8 5.9 5.6
13.2 12.5 15.7
21.7 22.3 25.6
2.5 2.5 2.9
0% 20% 40% 60% 80% 100%
1年・女子 2年・女子 3年・女子
0点 1点 2点 3点 4点
Figure 6 他者感情覚知得点の割合(男子) Figure 7 他者感情覚知得点の割合(女子)
スキルの性差を検討するにあたっては、言語スキ ルを考慮に入れる必要があることが指摘されて いる 5)。そこで、語彙理解力テスト 19)を用いて、
LEAS-C
と語彙力との関連を検討した。分析の結果、男女、全体いずれにおいても、「自己感情覚 知」「他者感情覚知」「自他感情覚知」と「語彙理 解力」との間に有意な正の相関はみられなかった。
本結果は、LEAS-Cの得点が、単に語彙力を反映 するものではないという知見6)を支持するもので ある。分化した感情を覚知するにあたって、必ず しも高度な語彙力が必要ではないといえる。
7-2. LEAS-C の構成概念妥当性 LEAS-C と私的自己意識との関連
自己の内面に注意を向けるという過程を特性 として捉えたものとして、私的自己意識特性があ る22)。理論的には、私的自己に注意を向けやすい 者ほど、自己の感情の覚知が高いことが推測され る。本研究では、LEAS-C自己感情覚知の構成概 念妥当性を検証するため、自己意識尺度12)の「私 的自己意識得点」との関連を検討した。Pearson の積率相関係数を男女別、全体で算出した結果を
Table5~7
に示す。分析の結果、男女、全体すべてにおいて、「私 的自己意識」と、「自己感情覚知」「他者感情覚知」
「自他感情覚知」との間に有意な正の相関がみら れ、私的自己意識の高い者、すなわち自己の内面 に注意を向ける傾向の強い者ほど、自己の感情覚 知が高いことが示された。
LEAS-C と共感性との関連
Ciarrochi et al.(2003)は、
「共感性」と「他者感 情覚知」との相関をみることにより、LEASの構 成概念妥当性を検討している23)。本研究においても、
LEAS-C
他者感情覚知の構成概念妥当性を検証するため、多次元的共感性尺度13)における共感 性の情動的側面である「情動的共感性得点」と、
認知的側面である「認知的共感性得点」との関連 を検討した。Pearson の積率相関係数を男女別、
全体で算出した結果を
Table8~10
に示す。分析の結果、男女、全体すべてにおいて、「情 動的共感性」「認知的共感性」と「自己感情覚知」
「他者感情覚知」「自他感情覚知」との間に有意 な正の相関がみられ、他者の感情覚知が高い者ほ ど他者に対する共感性が高いことが示された。
共感には、他者の喜び、苦しみ、悲しみなどを 自己の中に感じ取ることによる自己感情の認知
Table 5 LEAS-C と私的自己意識の相関(男子:N=137)
LEAS-C
自己感情覚知
LEAS-C 他者感情覚知
LEAS-C 自他感情覚知
私的自己意識 .49 *** .40 *** .49 ***
*** p<.001
Table 6 LEAS-C と私的自己意識の相関(女子:N=126)
LEAS-C
自己感情覚知
LEAS-C 他者感情覚知
LEAS-C 自他感情覚知
私的自己意識 .47 *** .37 *** .49 ***
*** p<.001
Table 7 LEAS-C と私的自己意識の相関(全体:N=263)
LEAS-C
自己感情覚知
LEAS-C 他者感情覚知
LEAS-C 自他感情覚知
私的自己意識 .51 *** .42 *** .50 ***
*** p<.001
が伴うとされている24)。本研究においても「共感 性」と「自己感情覚知」との有意な正の相関がみ とめられており、自己の感情が覚知できている者 ほど共感性が高いという本結果は、こうした知見 とも一致する。
LEAS-C とアレキシサイミアとの関連
Ciarrochi et al.(2003)は、TAS-20
とLEAS
との 相関をみることにより、LEASの構成概念妥当性 を検討している23)。本研究においても、LEAS-C の構成概念妥当性を検証するため、日本語版TAS-20
15)の「アレキシサイミア傾向得点」との関連を検討した。
Pearson
の積率相関係数を男女別、全体で算出した結果を
Table11~13
に示す。分析の結果、男女、全体すべてにおいて、「ア レキシサイミア傾向」と、「自己感情覚知」「他者 感情覚知」「自他感情覚知」との間に有意な負の 相関がみられ、アレキシサイミア傾向の強い者ほ ど自己や他者の感情覚知が低いことが示された。
しかしながら、両尺度の相関は低いものであっ た。成人を対象とした先行研究においても、
TAS-20
とLEAS
の相関はあっても低い値であるか、みとめられていない 8,23)。感情を覚知しにく いことはアレキシサイミアの特徴ではあるが、ア レキシサイミアは単に感情に関連する言葉の使 用における問題ではないため、TAS-20が測定す
Table 8 LEAS-C と共感性の相関(男子:N=135)
LEAS-C
自己感情覚知
LEAS-C 他者感情覚知
LEAS-C 自他感情覚知
情動的共感性 .34 *** .36 *** .38 ***
認知的共感性 .55 *** .54 *** .59 ***
*** p<.001
Table 9 LEAS-C と共感性の相関(女子:N=126)
LEAS-C
自己感情覚知
LEAS-C 他者感情覚知
LEAS-C 自他感情覚知
情動的共感性 .31 *** .24 ** .29 ***
認知的共感性 .44 *** .32 *** .40 ***
*** p<.001, **p<.01
Table 10 LEAS-C と共感性の相関(全体:N=261)
LEAS-C
自己感情覚知
LEAS-C 他者感情覚知
LEAS-C 自他感情覚知
情動的共感性 .35 *** .33 *** .36 ***
認知的共感性 .52 *** .45 *** .52 ***
*** p<.001
Table 11 LEAS-C とアレキシサイミア傾向の相関(男子:N=134)
LEAS-C
自己感情覚知
LEAS-C 他者感情覚知
LEAS-C 自他感情覚知
アレキシサイミア傾向 -.19 * -.21 * -.22 *
*p<.05
Table 12 LEAS-C とアレキシサイミア傾向の相関(女子:N=123)
LEAS-C
自己感情覚知
LEAS-C 他者感情覚知
LEAS-C 自他感情覚知
アレキシサイミア傾向 -.20 * -.28 ** -.25 **
**p<.01, *p<.05
Table 13 LEAS-C とアレキシサイミア傾向の相関(全体:N=257)
LEAS-C
自己感情覚知
LEAS-C 他者感情覚知
LEAS-C 自他感情覚知
アレキシサイミア傾向 -.20 ** -.26 ** -.24 **
**p<.01, *p<.05
るものと
LEAS
が測定するものとは厳密には異な るとされている8)。注目したいのは、
LEAS-C
においては女子の感 情覚知得点のほうが、男子よりも有意に高かった にもかかわらず、女子のアレキシサイミア率のほ うが、男子よりも高い結果となったことである。自己評定尺度である
TAS-20
の潜在的な問題は、アレキシサイミアの対象者が自己の内的状態を 正確に判断することができない点にあるという
25)。こうした知見に従えば、感情覚知の高い女子 がより正確な自己評定をしたのに対し、感情覚知 の低い男子が自覚の伴わない評定を行なったた めに、女子のアレキシサイミア率が高くなったと も推測できる。本研究においても TAS-20が低得 点である対象者の
LEAS-C
の記述を見ると、必ず しも分化した感情語が記述されているわけでは なかった。これは、感情覚知が困難でLEAS-C
が 低得点である群のなかに、正確な自己評定を行えず
TAS-20
が低得点になっている者がいる可能性を示唆するものである。感情の覚知や表出が困難 であるにもかかわらず、その自覚がない者をスク リーニングするうえで、LEAS-Cはより精密なア セスメントを可能にするといえる。
8. LEAS-C の実用性の検討
LEAS-C と学校生活スキルとの関連
LEAS-C
の実用性を検証するため、学校生活スキル尺度16)の合計得点(「学校生活スキル得点」) および下位尺度得点(「健康維持スキル得点」「コ ミュニケーションスキル得点」「集団活動スキル 得点」)との関連を検討した。Pearsonの積率相関 係数を男女別、全体で算出した結果を
Table14~
16
に示す。分析の結果、男女、全体すべてにおいて、「学 校生活スキル」「健康維持スキル」「コミュニケー ションスキル」「集団活動スキル」と、「自己感情 覚知」「他者感情覚知」「自他感情覚知」との間に 有意な正の相関がみられた。健康維持やコミュニ
Table 14 LEAS-C と学校生活スキルの相関(男子N=131)
LEAS-C
自己感情覚知
LEAS-C 他者感情覚知
LEAS-C 自他感情覚知
学校生活スキル .50 *** .47 *** .52 ***
健康維持スキル .48 *** .42 *** .49 ***
コミュニケーションスキル .45 *** .45 *** .48 ***
集団活動スキル .32 *** .28 *** .32 ***
*** p<.001
Table 15 LEAS-C と学校生活スキルの相関(女子N=120)
LEAS-C
自己感情覚知
LEAS-C 他者感情覚知
LEAS-C 自他感情覚知
学校生活スキル .45 *** .41 *** .46 ***
健康維持スキル .35 *** .33 *** .36 ***
コミュニケーションスキル .32 *** .27 ** .32 ***
集団活動スキル .39 *** .37 *** .40 ***
*** p<.001, ** p<.01
Table 16 LEAS-C と学校生活スキルの相関(全体N=251)
LEAS-C
自己感情覚知
LEAS-C 他者感情覚知
LEAS-C 自他感情覚知
学校生活スキル .50 *** .47 *** .52 ***
健康維持スキル .43 *** .40 *** .44 ***
コミュニケーションスキル .42 *** .39 *** .43 ***
集団活動スキル .37 *** .34 *** .38 ***
*** p<.001
ケーション能力など、学校生活において必要とさ れるスキルが高い者ほど、自己や他者の感情覚知 が高いことが示され、
LEAS-C
の学校現場におけ る応用の可能性が示唆された。本結果は、自己や他者の感情への気づきが学校 適応において重要であるとする知見5)を支持する ものである。自己と他者の感情状態をより正確に 捉えられていることが集団活動への適応を良好 にしているといえる。「コミュニケーションスキ ル」と「健康維持スキル」に含まれる項目内容に 注目すると、自身の感情や身体の状態を言葉で伝 えるスキルに焦点が置かれていることがわかる。
学校での適応ということを考える場合には、覚知 した感情を実生活の場面でいかに効果的に用い るかという運用面にも焦点を当てる必要がある。
自己の内面を覚知できることと、それを表現でき ることとは異なった側面のスキルであると考え られるが、本研究により、感情の覚知と「コミュ ニケーションスキル」「健康維持スキル」との関 連が示されたことにより、感情覚知の高い者はそ の表出もなされやすい可能性が示唆された。
今後の展望
―学校現場における LEAS-C の活用について―
学校現場においては、児童生徒ひとりひとりの 状況、ニーズに応じたサポートを提供することが 求められる。生徒がどのような不適応問題を抱え ているかを査定し、援助内容や方向性を決めるた めのひとつの指標として、本尺度を用いることが 可能であると思われる。
1. 感情覚知得点からのアセスメント
まず、LEAS-Cの得点から、感情覚知の個人差 を量的にとらえることができる。自己の感情覚知 が困難な者は、自分について考える経験が不足し
ている可能性が考えられ、ストレスへの対処行動 の遅れなど不適応状態に陥るリスクが高い。一方 で、自己の欲求や感情を手がかりに行動を選択す ることが難しいアレキシサイミア傾向を有する 者の中には、過剰適応に陥りがちな者がいること が指摘されているように26)、過剰な適応を示す者 の背景に感情覚知の困難さがあることも念頭に おく必要があるだろう。近年、ストレスマネジメ ント教育の一環としてフォーカシングの技法が 取り入れられることがあるが、自己の感情の覚知 が困難な者に対しては、自身の感情状態に気づき、
変化をモニタリングできるような継続的な働き かけが有効であると考えられる。
また、他者の感情覚知が困難な者は、他者の視 点の取得が困難である。こうしたケースにおいて は、ロールプレイなどの取り組みを通して、他者 の立場で物事をとらえるといった視点の柔軟性 や共感性を高められるような働きかけが有効で あろう。
2. 記述内容からのアセスメント
LEAS-C
の回答内容から、感情覚知を質的にとらえることも可能である。
(1) 内省の欠如・感情の抑圧
まず、
LEAS-C
の回答内容を分析することにより、ストレス場面における個人の一定の反応傾向 を浮かびあがらせることが可能となる。本研究に おいては、文脈に関わらず「どうでもいい」「な んとも思わない」といった反応を示し、内省を志 向する姿勢が不足していると思われる者も少な くなかった。低感情覚知と関連のある要因のひと つとして、「抑圧」が指摘されている9)。「抑圧型」
の者は、非現実的な楽観傾向を示すことがあると いい、事実に関する情報が正当に評価されていな い可能性があるといわれている27)。「抑圧型」は、
その情報処理バイアスのために自己の状態や状 況についての理解に歪みが生じ、状況に応じた適 切な対処行動や柔軟な方略が採用されず、長期的 にも悪い影響をもたらす28)。
LEAS-C
においても、場面状況に即さない肯定的な感情を報告する「抑 圧型」の反応には注意が必要であり、こうした者 に対しては、出来事を多面的に見て評価するよう 促す援助が必要だろう。
(2) 不適応的な原因帰属
LEAS-C
の回答内容から、他者の行為や物事に対する原因帰属の傾向を明らかにすることも可 能である。たとえば、先生から宿題の再提出を命 じられる場面において、「先生が宿題を受け取っ てくれなかったのは自分の宿題の出来が悪かっ たからではない。先生の性格が悪いからだ」とい う原因の帰属は不適応的であるといえる。また、
文脈に関わらず、物事の原因が常に自分もしくは 相手の側にあると考えてしまう自責的、他罰的な 傾向も不適応的である。個人の原因帰属の誤りや パターンが明らかになれば、より客観的な状況の 評価、思考の転換を促すような認知的なアプロー チも可能になるといえる。
(3) 攻撃性
姉小路・越智(2005)は、体感や感情の認識およ び言語化の不全が、短気、敵意、身体的攻撃とい った攻撃性と正の相関をもつことを明らかにし ており、自らの感情状態を正確に認知することが できないために、生起した感情に適切に対応でき ず、攻撃などの衝動的な行動をとるとしている29)。 本研究においても、怒りや敵意といった攻撃性や 行動化を伴う反応を生起しやすい傾向にある者 がみられた。敵意の強い者に対しては認知行動的 な介入が重要であることが示唆されているよう に30)、個人が自身の認知や思考のパターンを認識 し、より現実的、建設的な思考へと変容させてい
けるようなサポートが求められるだろう。
(4) 感情の表出における問題
自己の感情覚知が高いにもかかわらず、不適応 状態にある者もいると思われる。こうした者は、
感情を抑制しているか、もしくは、不適切なかた ちで感情を表出している可能性が考えられる。渡 部・稲川(2002)によれば、自分の感情を伝えよう としない非主張的自己表現を用いる児童は、劣等 感が強いという 31)。こうしたケースに対しては、
アサーション・トレーニングを行うことにより適 応的な方法での感情表出を促す介入が有効であ ると思われる。
(5) 対象・場面別にみる感情覚知
唐沢(2000)は、感情の多くが他者との社会的相 互作用のなかで経験されることから、状況の性質 そのものの評価だけではなく、その場面に関わる 他者に対する評価も、感情の質を決めている重要 な要因として検討される必要があるとしている
32)。また、戸ヶ崎・坂野(1997)は、異なる状況で の社会的スキルを検討する際には、それぞれの場 面ごとに社会的スキルを測定する必要があると 指摘している33)。LEAS-Cでは、父親、母親、友 人、教師との対人場面が設定され、場面も家庭や 学校、それ以外の場面が設定されている。たとえ ば、家庭における両親の感情覚知には問題がない が、学校における友人の感情の覚知は苦手である など、特定の場面や対象における感情覚知に困難 を抱えやすいことが明らかになれば、焦点を絞っ た介入も可能になる。
3. ストレスマネジメント教育に関連したトレー ニング効果のアセスメント
さらに、LEAS-Cは、ストレスマネジメント教 育の一環であるスキルトレーニングの効果測定 にも有効であると考えられる。近年、学校現場に
おける児童生徒の問題行動を未然に防ぎ、内面の 成長を促進する予防開発的な取り組みとして、ス トレスマネジメント教育への関心が高まりつつ ある。ストレス反応の早期発見を目的として、心 身の状態についての気づきを促したり、ソーシャ ルスキルの獲得を目的としたアサーショントレ ーニングやロールプレイを行うことにより、適切 な感情表出や他者理解を促そうするなど、感情面 へのアプローチに重点を置いた取り組みがなさ
れている34,35。スキルトレーニングの前後に本尺
度を実施し、感情覚知得点を比較することにより、
トレーニングの効果を評価できる。自己記述式の
LEAS-C
では、対象者が調査者の期待に沿うように回答しようとしたり、トレーニングの効果を過 大評価するといった自己評定式尺度に見られる ようなバイアスバイアスの影響を受けにくく、よ り客観的なアセスメントを行うことができるも のと思われる。
まとめ
本研究の調査対象者は、Bajgar et al.、(2005)の 調査対象者よりも年長であったが、
LEAS-C
得点 の性差や構成概念妥当性に関する結果は、Bajgaret al.、(2005)の知見を支持するものであった。
女子の自他感情覚知の方が男子よりも有意に 高いことが示され、LEAS-C と「私的自己意識」
「共感性」「アレキシサイミア」との有意な相関 が示されたことにより、
LEAS-C
の構成概念妥当 性がみとめられた。また、LEAS-Cと「アレキシ サイミア」との相関が弱かったこと、社会的望ま しさ、語彙力との相関がみとめられなかったこと から、LEAS-Cの弁別的妥当性も示された。さら に、「学校生活スキル」との相関が示されたことにより、
LEAS-C
の現場での応用の可能性が示唆された。
今後の課題として、
LEAS-C
の発達的な観点か らの検討が必要であるものと思われる。感情覚知 発達モデルによれば、感情理解は、認知の発達年 齢に伴ってより複雑なものになっていくとされ ている。したがって、学年が上がるほど、その感 情表現はより複雑な経験を反映した多様なもの となるものと推測される。今回の対象者の年齢は12
歳から15
歳と年齢層が限られたものであった ため、発達段階における感情覚知レベルの有意な 差をみとめることができなかったものと考えら れる。今後は対象者の年齢幅を広げ、発達的な観 点から検討を加えることにより、感情覚知発達モ デルの妥当性を高めることが求められる。引用文献
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Abstract