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雑誌名 東京家政大学研究紀要 2 自然科学

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(1)

PIXE法による河川水標準試料に含まれる微量元素分

著者 新関 隆, 辻 正道, 川崎 克則, 服部 俊幸

雑誌名 東京家政大学研究紀要 2 自然科学

巻 41

ページ 111‑115

発行年 2001

出版者 東京家政大学

URL http://id.nii.ac.jp/1653/00010706/

(2)

PIXE法による河川水標準試料に含まれる微量元素分析

新関 隆*,辻 正道**,川崎 克則***,服部  (平成12年10月5日受理)

俊幸****

Determination of Trace Elements in River

        Water Sample by Pixe

Takashi NlizEKI, Masamichi TsuJi, Katsunori KAwAsAKI and Toshiyuki HATToRI

      (Received on October 5,2000)

キーワード:荷電粒子励起X線分析,PIXE分析,微量元素,遷移元素,水試料,ダイベンジルジチオカルバミ       ン酸ナトリウム

Key words PIXE, trace element, transition metals, water sample, sodium dibenzyldithiocarbamate

1.はじめに

 荷電粒子励起X線分析(Particle Induced X−ray Emission;PIXE)は,試料への荷電粒子照射に伴い放 出される特性X線を計測することで,多元素を同時に 分析するものである.PIXE分析では,原子番号による が,数10ng程度の試料を短時間で分析できる.つまり 水試料では,濃度数mg/Lの元素ならば10μL程度あ れば十分であり,薄膜上に滴下・乾燥するだけで容易に

照射試料が出来上がる1).

 これに対し,水質中の有害元素に対する環境基準値は 10μg/L程度である.この基準に対して十分な精度で PIXE分析を行うには数10μLの試料を要する.このよ うな測定を可能とするための照射試料作成技術の研究が 行われてきた.そして近年,東北大の山崎らは,ジベン ジルカルバミン酸ナトリウム(DBDTC)錯体を照射試 料とすることで,μg/L以下の濃度あってもPIXE分析

が可能であることを示した2).

 DBDTCは表層水に微量に含まれる遷移金属などを不 溶性混合物として抽出するが,多量に含まれるアルカリ,

アルカリ土類金属などは抽出しない.このような選択性 を持っ照射試料は,時として邪魔となる多量元素が含ま

   *環境情報学科 情報科学第三研究室   **東京工業大学 炭素循環素材研究センター  ***東京工業大学 理学部物理

****東京工業大学 原子炉工学研究所

れない,好都合なものとなる.

 ここでは,この照射試料作成法を応用し,環境基準値 及び水道基準値の分析法としてのPIXE分析の信頼性を 確かめるため,水標準物質中の微量元素を定量した.こ の研究により,今後多くの身近な水試料を十分な精度で

分析してゆきたい.

 PIXE分析は,ここで見る水試料だけでなく,エアロ ゾル,鉱物や土壌,さらには生きたままの生物対象に,

それに含まれる元素を分析することができる.このこと は,環境三圏(水系圏,大気圏,土壌・岩石圏)と生物 圏をめぐる元素をPIXE分析によって広く分析できる,

と言い換えられる.そこで私たちは,環境をめぐる元素 を広く分析できるPIXE分析を利用して,環境学習に適

したデータを提供したい,と考えている.

2.実験 2.1.照射試料作成及び検出効率

 検出効率を求めるために調整した試薬にっいて,照射 試料を次の2っの方法で作成した.そして,両者の検出 効率を比較することで,DBDTCを用いて作る照射試料

の有効性を確かめた.

「滴下乾燥法」

 各種元素を10mg/L混合した2種類の水溶液30μLをそ れぞれ2枚の自作ポリカーボネートフィルム上に滴下,

自然乾燥したものを照射試料とした.混合水溶液は,(1)

Si, Cr, Cu, GaとYをそれぞれ10mg/L含むもの,(2)

Na, Sc, FeとGaをそれぞれ10mg/L含むものの2種類

(3)

新関 隆・辻  正道・川崎 克則・服部 俊幸

を用いた.Cr, Cu, Naを除く元素の試薬として,和光 純薬の0.1M硝酸標準溶液を用いた. Cr, Cu, Naにっ

いては,秤量したK2Cr207, CuSO,, NaClO、の結晶をそ

れぞれ脱イオン水に溶かし,各元素10mg/Lの濃度とし

た水溶液を用いた.

「濃縮法」

 先の2種類の混合溶液にっいて,以下の手順で濃縮法 による試料作成を行った.まず各元素10mg/Lを含む混 合溶液100μLを0.1M HNO3を加えた脱イオン水25mL で希釈し,各元素濃度40μg/Lの混合溶液を作る.これ に,Zrを1000mg/L含む標準溶液25μLを追加する.

この溶液に重量比0.1%のDBDTCを含むメタノール溶液 を2ml追加し,錯形成する.この時点まで溶液のpHは 1程度であるので,これにpH調整のため,アンモニア と酢酸を混合したバッファ液を加え,pHが5程度とな るようにして4分間撹絆する.

 このようにして液中に形成された不溶性のDBDTC混 合物をフィルタ(商品名Nuclepore Track−etch Mem−

brane)で吸引ろ過する.このフィルタは穴径0.4μmの ものを用いた.このフィルタが濃縮法で得られた照射試 料となる.

 滴下乾燥法による照射試料はごく単純な操作で出来上 がるので,PIXE分析システム全体の検出効率を得るの に好都合である.これと濃縮法で作成した照射試料に対 する検出効率とを比較することで,元素抽出効率やフィ ルタ上に付着していることからくる検出効率への影響を 評価することができると考えた.

2.2.河川水中の微量元素の定量

 河川水標準試料にっいて,「濃縮法」で作成した照射試 料を用いてPIXE分析した.河川水標準試料は日本分析化 学会が認証及び領布している添加河川水サンプル

(JACOO32)である. pHが約1となるよう調整されている この試料を25mLとり,これにDBDTCメタノール溶液を 2mL追加する.以下「濃縮法」と同様に,濃度1000mg/L のZr標準溶液を内部標準として25μL追加する.その後,

バッファ液を加えpHが5程度となるよう調整し4分間撹 搾する.得られた不溶性成分をフィルタで吸引ろ過し,こ

れを照射試料とした.

 samplc

5Φ  holder

  図1東京工業大学ヴァンデグラフ実験室の        PIXE分析装置の概略図

2.3.PIXE分析

 図1は,東京工業大学ヴァンデグラフ実験室のPIXE 分析装置の概略図である.円筒形真空槽の中央に置い た照射試料に,ヴァンデグラフ加速器で2.5MeVに加速 された陽子ビームを照射する.試料の直前には直径 5mmの炭素製コリメータがあり,これで照射陽子ビー ムの径が決められる.ここでの照射試料は先に述べた滴 下乾燥法による試料と濃縮法による試料である.

 陽子照射後放出されるX線は厚さ300μmのポリエチ レンを通してORTEC社製Si(Li)半導体検出器でエネ ルギー測定される.検出器の有効直径は10mm,厚さ 5.67mmであり,ベリリウム窓の厚さは25μmである.

このX線検出器は試料から120mm離れた位置の真空槽

内に置かれている.

3.結果と議論 3.1.X線スペクトルの解析

 PIXE分析によるスペクトルに見られる特性X線の強 度は,試料に含まれる元素の量と特性X線発生確率・検 出効率に比例する.そこで定量したい元素Mと内部標準 元素Zrからの特性X線の測定強度はそれぞれ次式のよ

うに表される.

これから,

1Mκα ・c[岡(μ9/L)xV(L)×〃M(3.1)

1z「Kαoc【Z「](μ9/L)×V(L)×〃Zr  (3.2)

   IMKa.互.[Z。](μ9/L)(3.3)

[M]=

   1ZrKα ηM が得られる.

 ここで,vは試料の体積であり,[i]はその試料中

に含まれる元素iの濃度である.また,Iihαは元素iに

(4)

っいてPIXE分析で測定したKαX線強度である.「濃 縮法」では[Zr];1000μg/Lとなるように内部標準とし てZrを添加している.ηiは次の式で定められるGaを 基準とした相対的なKαX線検出効率である.

♂等器器織累鵠綴畿n輸)(3・4)

 先に示した検出効率測定用の混合溶液にっいて「滴下 乾燥法」と「濃縮法」の二通りで作成した照射試料を用 いて,検出効率ηMを原子番号の関数として求めるため

のデータを得た.

 PIXEスペクトル上には特性X線のエネルギーに対応 した横軸の位置にピークが現れる.このピーク計数から KαX線測定強度を求めるが,他元素からのKβX線と 重なるために計数が直接得られない場合がある.このと き,重なるKβX線の強度を対応するKαX線の強度か ら評価するためにFeのKα強度とKβ強度を用いた. Fe での,KβX線測定強度はKαX線測定強度の15%であっ た.これを式で表わすと下のようになる。

Intensity of FeKβobserved

      =15%   (3.5)

hltensity of FeKαobserved

 FeからGaまでの領域では,この比はほぼ一定とみな すことができる3).そこで,例えばCuとZnをともに含 む試料について,補正されたZnのKαX線測定強度

(IZ。Kα)c。rrは,次式のようにCuからのKβX線強度を

(ICuKcr)c。rr×15%として評価し,これを差し引くことで 得た.

(IZnKα)corr=(IZnKα)一(ICuKα)corr×15% (3・6)

 得られた相対的検出効率ηMをGaにっいての効率を 1としてプロットしたものが図2である.白抜き丸が

「滴下乾燥法」,黒丸が「濃縮法」で作成した試料にっい ての結果であり,この図に示される元素にっいて,お互 いよく対応している.このことから,この図に示されて いる元素は,「濃縮法」による検出効率がよく一致して いるこれらの元素にっいては,「濃縮法」により効率よ く抽出されていると言える.一方,Y, Kはほとんど抽 出されず,Mnは抽出率が低かった. Mnの抽出率を高 めるには,pHの条件を最適化する必要があると考えら

れるi

 実線は最小二乗法で全データを原子番号Zの関数に当

:oi

0

塁Oり

10

103

102

loi

15        20        25        30        35        40

        The Atomic Nurnber

図2Gaに対しての効率を1としたときの       相対的検出効率ηM

100

    400        800        1200       1600       2000

      channel

図3河川水標準物質(JACOO32)に対するPIXEスペクトル

てはめた結果であり,次式で表される.

ηM=179.4(Z−15.1)2・34・−0・375xZ(3.7)

 この検出効率測定に用いた元素濃度は「滴下乾燥法」

で10mg/L,「濃縮法」で40μg/Lであるから,その濃 度範囲は3桁に渡っている.実際に利用できる濃度範囲 はこれより広い.「滴下乾燥法」ではGaを「濃縮法」で はZrを内部標準元素とし,これらのKαX線測定強度と 定量したい元素からのKαX線測定強度から式(3.3)と

(3.7)に従って未知の濃度が求められる.

3.2.河川水標準試料中の微量元素の定量

 日本分析化学会が領布する添加河川水標準試料

(JACOO32)に対するPIXE分析スペクトルを図3に示

す.照射試料は濃縮法で作成し,内部標準として濃度

1000μg/LのZrを用いた.

(5)

新関 隆・辻  正道・川崎 克則・服部 俊幸

表1 河川水標準物質(JACOO32>のPIXE分析結果   Present     Certified stud    IL  value (  !L)

素に邪魔されることなく,微量元素を定量するのに適し

ていると言える.

4.結論 V

Cr

Mn

Fe Ni

Cu

Zn As Se Pb

392  3鴻コー03

° ° 

°ユ﹂       9 ●

    2う乙2   う乙11︵りl     

ll

    ±±十一

         十一

十一十︸十一十︸       十一十一

77165コ561β ︐︐︐6120︐︐1 !OQノー       

く﹂くノ  2   つ﹂24

 ・一 ⁝9332

 0  

り一〇〇〇   〇      

〇〇〇

   十一十一十一十一a十一

       ±十一十一

  十﹁

  ζ1γ       く﹂く﹂0ノ 0   

001    5 

︒ . .

 一47253529

n

 各元素のKαX線の強度は対応するピークの計数から 求めた,原子番号がひとつ少ない元素からのKβX線の 影響がある場合は,先に示した方法によりこれを補正し た.エネルギーが接近しているAsのKαX線とPbの LαX線は一つのピークとして観測された.Pbの定量に はLβX線の測定強度を用い,これからPbのLαX線強 度を推定し,これを差し引くことでAsのKαX線強度 を求めた.Pbの検出効率は40μg/LのPb, Se, Zrを

含む試料から得た.

 得られたKαX線測定強度から,式(3。3)と(3。7)を利 用して各元素の濃度を求めた.ここで得た各元素の分析 結果を認証値とともに表1に示す.

 Mnを除いた元素の濃度の分析値はSeの5.1μg/Lか らFeの66μg/Lまでであり,典型的な10μg/Lの濃度 に対して十分な感度があることが分かる.DBDTCによ るMnの回収率は試料作成したpHの条件に依存するこ とが考えられる.ここで得られた分析値の誤差は,20%

を見積もっているが,今後試料作成を数多く行うことで,

より正しく誤差を評価することができよう.

 Mnを除いて,ここでのPIXE分析値と認証値とはよ く一致している.さらに,認証値には示されていないV がPIXE分析で確認された.このVとAs, Seは,試料 中では陰イオンとして存在していると考えられ,抽出さ れる過程は不明だが,抽出率が高いことが示された.

 また,CaとKは河川水中に多く含まれる元素である が,これらの元素はほとんど抽出されなかった.これら の多量の元素は滴下乾燥法で作成した試料で定量できる.

これに対し,濃縮法で作った照射試料はこれらの多量元

 水試料にっいて,DBDTC試薬を用いて作成した照射 試料をPIXE分析に用いることで, Fe付近の遷移元素 にっいてμg/L程度の濃度であっても十分な精度で定 量することが出来た.低濃度分析ができる元素として,

環境基準値が定められているSeやAsも含まれている.

これらの元素は水試料中では陰イオンとなっていると考 えられ,DBDTCによって抽出される機構が明らかでは ないが,ここで示した条件下での抽出率は高い.

 この試料作成とビーム照射測定に要する時間はともに 10分以下と短時間であり,数多くの試料を測定するのに 適している.また,試料から元素を抽出,固定化したも のを照射試料とするため,試料の飛散がない.そこで,

測定環境を有害元素で汚染することなく測定できる利点 を持つ.

 ここで示した濃縮法PIXE分析は,水質にっいての環 境基準値以下の濃度を容易に定量できごとから,水質を っねにモニタリングする用途に利用できる.また,

PIXE分析は,水試料のみでなく,大気エアロゾルや鉱 物・土壌,生きたままの生物など多種多様な試料にっい

ての元素分析が行える.

 このような多様な試料を数多く分析して広く提供する ことは,教育的に価値があると考えられる.そこで,私 たちは幅広いPIXE分析データを集積し,この分析手法 を環境学習へ利用することを考えている.

謝 辞

 DBDTCを用いたPIXE照射試料作成にっいてご教授 いただきました東北大学山崎浩道博士に感謝いたします.

測定試料作成に協力していただいた環境情報学科卒研生

の方に感謝いたします.

(6)

参考文献

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   S.Iwasaki, S. Matsuyama, J.Inoue, K.Murozono

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   Testing and Materials, Data Series DS46,

   Washington)

Abstruct

  Transition metal elements and others in river water sample supplied by The Japan Society fbr Analytical Chemistly

(JSAC)were determined by PD(E using 2.5 MeV proton beam at the Tokyo lnstitutc of Technology Van de Graaff Labo−

ratory. The relatlve detection e伍ciency fbr each X−ray of element and孟ts recovely were studied in two methods:

Drop and Dry method and Concentration method. Ten elements(V, Cr, Mn, Fe, Ni, Cu, Zn, As, Se and Pb)were determined, being in good agreement with the values indicated in止。 certificate by JSAC except for Mn and V. KαX−

ray of As and正αX−ray of Pb were nearly close to each other to determine individually. Isolated KβX−ray of Pb was

used to correct contribution of PbLαto AsKα.X−ray using the X−ray emission rate of PbLαand PbLβ. Mn was in−

suf且ciently recovered to give lower content than the certified value in the present conditions. V that is not listed in the

certificate was fbund. Concentration method using sodium dibenzyldithiocarbamate only could be successfUlly employed

f()rcollecting these elements.

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