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Kyushu University Institutional Repository
電子マネーの普及と今後の小額決済サービス : ミク ロデータによる電子マネー普及状況の実証分析
中田, 真佐男
九州大学大学院経済学研究院 : 准教授 : 政策分析 | 九州大学システムLSI研究センター : 応用システ ム研究部門
https://doi.org/10.15017/17024
出版情報:SLRC Discussion Paper Series. 6 (1), pp.1-32, 2010-03. 九州大学システムLSI研究セン ター(SLRC)
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権利関係:
電子マネーの普及と今後の小額決済サービス
― ミクロデータによる電子マネー普及状況の実証分析 ―
†中田 真佐男
‡【要約】
小額決済サービスにおける近年の特徴として、貨幣流通枚数の減少とその一方で の電子マネーの急速な普及が挙げられる。本論文では、電子マネーの普及が小額決 済市場に及ぼす影響について理論的に整理したうえで、福岡県の消費者を対象とし た独自のアンケート調査の結果を用いてミクロデータによる実証分析を行った。こ の結果、第1に、電子マネーを頻繁に利用する消費者のうち過半数は、電子マネー の使用開始後も現金保有額を維持しているものの、現金決済の回数は減少させてい ることがわかった。また、一部の消費者は保有現金額も削減しており、その平均的 な削減割合は36.2%であること、さらに、こうした消費者は額面の小さい硬貨と額 面の大きい紙幣から順に保有枚数を減らしていることが示された。第2に、Ordered
Probit 推定から、アベイラビリティ・コストや時間コストといった要因が消費者の
電子マネーの利用頻度に影響を及ぼしていることが示され、複数決済手段の選択に 関する理論モデルと整合的な結果が得られた。電子マネーが主要な小額決済ツール となるまでにはまだかなりの時間がかかると思われるものの、小額決済ツールの
「公共財」的な側面に留意し、将来的には(1)貨幣(特に硬貨)の過大供給というか たちでの「政府の失敗」、(2)電子マネーの過小供給というかたちでの「市場の失敗」
を回避するための施策が必要となろう。
JEL:E42, G29, H41
キーワード:電子マネー(e-money, e-purse)、小額決済、公共財
† 本論文は科学研究費補助金(「民間電子マネー事業の成長・競合と小額決済サービスへの公的関与のあり 方に関する研究」(課題番号:20730212))の助成を受けて行われた研究成果の一部である。本稿の作成に あたり、内田 真人氏(成城大学)、春日 教測氏(近畿大学)、北岡 孝義氏(明治大学)、北村 歳治氏(早 稲田大学)、北村 行伸氏(一橋大学)からは有益なコメントをいただいた。記して感謝の意をあらわした い。言うまでもなく,あり得べき誤りは執筆者に帰するものである。
‡ 九州大学大学院経済学研究院准教授(九州大学システムLSIセンター 兼任)
1. は じ め に
こ れ ま で の 長 き に わ た り 、 日 本 に お い て 小 額 の 財 ・ サ ー ビ ス の 取 引 場 面 で 用 い ら れ て き た 決 済 手 段 は も っ ぱ ら「 現 金( と り わ け 貨 幣 )」で あ っ た 。換 言 す れ ば 、 小 額 決 済 サ ー ビ ス は 政 府 の み に よ っ て 供 給 さ れ て き た 。 し か し 、2006 年 12月 以 来 、こ の 貨 幣 流 通 枚 数 の 対 前 年 同 月 比 伸 び 率 が 一 貫 し て マ イ ナ ス を 記 録 し て い る 。
こ の 背 景 と し て 、 民 間 部 門 に よ っ て 供 給 さ れ る 「 電 子 決 済 サ ー ビ ス 」 の 近 年 に お け る 台 頭 が 挙 げ ら れ る 。 例 え ば 、 ス ー パ ー マ ー ケ ッ ト 等 で ク レ ジ ッ ト カ ー ド を 使 っ て 買 い 物 を す る 場 合 、 一 定 金 額 ま で は 署 名 を 必 要 と し な い 店 舗 が 増 え て い る 。 こ れ は ク レ ジ ッ ト カ ー ド で の 小 額 決 済 が よ り 容 易 に な っ た こ と を 意 味 す る 。 ま た 、デ ビ ッ ト カ ー ド が 登 場 し 、消 費 者 が 預 金 口 座 に 即 時 的 に ア ク セ ス し て 小 額 決 済 を 完 了 さ せ る こ と が 可 能 に な っ た 。 デ ビ ッ ト カ ー ド は 、 家 電 量 販 店 を 中 心 と し て 導 入 が 進 ん で い る 。
そ の 中 で も 、 最 も 大 き な イ ン パ ク ト を 及 ぼ し て い る の は 、 電 子 マ ネ ー の 登 場 と そ の 顕 著 な 普 及 で あ ろ う 。 ソ ニ ー が 開 発 し た 非 接 触 型 IC チ ッ プ FeliCa を 搭 載 し た 初 の 電 子 マ ネ ー (Edy) は 2002 年 6 月 に サ ー ビ ス を 開 始 し た が 、7 年 余 り の 間 に 電 子 マ ネ ー サ ー ビ ス 事 業 者 は 増 加 し 、 現 在 (2009 年 10 月 末 ) の 主 要 電 子 マ ネ ー(Edy、Suica、PASMO、nanaco、WAON、ICOCA、Kitaca、SUGOCA、
nimoca) の カ ー ド 発 行 枚 数 ( い わ ゆ る 「 お サ イ フ ケ ー タ イ 」 を 含 む ) は 約 1 億 2000 万 枚 に 達 し て い る 。
公 的 部 門 か ら 民 間 部 門 へ と い う 小 額 決 済 サ ー ビ ス の 提 供 主 体 の シ フ ト は 、 い わ ば 、 わ が 国 の 小 額 決 済 サ ー ビ ス 市 場 で 発 生 し た 初 め て の 大 き な 構 造 変 化 で あ る 。よ っ て 、こ の 構 造 変 化 が 経 済・社 会 に 及 ぼ す 影 響 を 厳 密 に 検 討 し た う え で 、 必 要 な 政 策 対 応 を 提 言 す る こ と に は 大 き な 意 義 が あ る と 思 わ れ る 。 し か し 、 日 本 で は 電 子 決 済 サ ー ビ ス に 関 す る 統 計 の 整 備 が 遅 れ て い る た め 、 そ も そ も 民 間 電 子 決 済 手 段 の 普 及 が 現 金 需 要 に 及 ぼ す 影 響 を 統 計 学 的 に 頑 健 な 方 法 で 検 証 し た 研 究 自 体 の 蓄 積 が 進 ん で い な い 。 数 少 な い 例 外 と し て 中 田 (2007,2009) や 北 村 ・ 大 森 ・ 西 田 (2009) が あ り 、 こ れ ら の 研 究 で は 貨 幣 需 要 関 数 の 推 定 や イ ン パ ル ス 応 答 関 数 の 導 出 を 通 じ て 、 電 子 マ ネ ー の 普 及 が 貨 幣 需 要 に ( イ ン パ ク ト は 小 さ い な が ら ) 統 計 的 に 有 意 な 負 の 影 響 を 及 ぼ す こ と を 示 し て い る 。 た だ し 、 中 田 (2007,2009) や 北 村 ・ 大 森 ・ 西 田 (2009) は い ず れ も マ ク ロ デ ー タ を 利 用 し た 計 量 分 析 で あ り 、 経 済 主 体 の 行 動 の 背 後 に あ る ミ ク ロ レ ベ ル の 要 因 が 十 分 に 検 証 さ れ て い な い 。 そ こ で 本 論 文 で は 、 福 岡 県 の 消 費 者 を 対 象 と し た 電 子 マ ネ ー の 利 用 状 況 に 関 す る ア ン ケ ー ト 調 査 を 用 い て 実 証 分 析 を 行 い 、 小 額 決
済 サ ー ビ ス 市 場 で 生 じ て い る 構 造 変 化 の 現 状 を ミ ク ロ レ ベ ル か ら 明 ら か に す る 。 さ ら に 、 実 証 分 析 の 結 果 を ふ ま え 、 今 後 の 小 額 決 済 サ ー ビ ス 市 場 の 制 度 的 枠 組 み を 考 え て い く う え で 配 慮 す べ き 点 に つ い て 検 討 し て い く 。
本 稿 の 構 成 は 以 下 の と お り で あ る 。 ま ず 、 第 2節 で は わ が 国 に お け る 貨 幣 流 通 お よ び 電 子 マ ネ ー 普 及 の 現 状 に つ い て 概 観 す る 。 次 に 、 第 3 節 で は 、 中 田
(2009) を 引 用 し な が ら 、 電 子 マ ネ ー の 普 及 が 小 額 決 済 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て 理 論 的 に 整 理 す る 。 続 く 第 4節 で は 、 筆 者 が 福 岡 県 を 対 象 と し て 実 施 し た ア ン ケ ー ト 調 査 を も と に 、 電 子 マ ネ ー 普 及 の 現 状 に 関 し て 実 証 的 な 分 析 を 行 う 。 最 後 の 第 5節 は 分 析 結 果 を 要 約 す る と と も に 、 効 率 的 な 小 額 決 済 サ ー ビ ス 市 場 の 実 現 に 資 す る 公 的 部 門 の 対 応 の あ り 方 に つ い て 検 討 す る 。
2. 貨 幣 流 通 枚 数 の 減 少 と 電 子 マ ネ ー の 普 及
分 析 を 開 始 す る に あ た り 、 ま ず 、 わ が 国 に お け る 「 伝 統 的 」 な 小 額 決 済 ツ ー ル と い え る 貨 幣 の 流 通 枚 数 の 推 移 に つ い て 概 観 し た も の が 図 1 で あ る 。
図 1. 貨 幣 流 通 枚 数 の 推 移
0 50 100 150 200 250 300 350 400 450
1985 1990 1995 2000 2005 【年度末】
【億枚】
五百円貨 百円貨 五十円貨 十円貨 五円貨 一円貨
【 出 所 】『 金 融 経 済 統 計 月 報 』( 日 本 銀 行 )
額 面 50 円 以 下 の 貨 幣 に つ い て み る と 、流 通 枚 数 の 対 前 年 度 末 比 変 化 率 は 、五 円 貨 は 2000 年 度 末 か ら 、五 十 円 貨 は 2003 年 度 末 か ら 、十 円 貨 ・ 一 円 貨 は 2006 年 度 末 か ら 持 続 的 に マ イ ナ ス と な っ て い る 。 五 百 円 貨 と 百 円 貨 に つ い て も 近 年 は 流 通 枚 数 の 伸 び 率 が 鈍 化 し て お り 、2008 年 度 末 に は 百 円 貨 の 流 通 枚 数 の 対 前 年 度 末 比 変 化 率 が は じ め て マ イ ナ ス を 記 録 し た 。 こ う し た 貨 幣 流 通 枚 数 の 減 少 の 理 由 と し て 、し ば し ば 指 摘 さ れ る の が「 電 子 マ ネ ー の 普 及 」で あ る 。例 え ば 、 新 聞 記 事 で は 「 電 子 マ ネ ー の 普 及 な ど で 五 十 円 玉 と 五 円 玉 が 減 り 始 め て い る 」
( 日 本 経 済 新 聞 2006 年 4 月 5 日 朝 刊 5 面 )、「 電 子 マ ネ ー 普 及 で 電 車 な ど で 小 銭 が 使 わ れ な く な っ た た め ら し い 」( 朝 日 新 聞 同 日 朝 刊 1面 )、「 電 子 マ ネ ー の 急 速 な 普 及 で コ ン ビ ニ な ど の 店 頭 で 釣 銭 を 受 け 取 る 必 要 が な く な り 、 硬 貨 を 使 う 機 会 が 減 っ て い る こ と が 背 景 と み ら れ る 。」( 東 京 新 聞 同 日 朝 刊 9 面 )な ど が 挙 げ ら れ る 。1 ま た 、第 一 生 命 経 済 研 究 所 も『 電 子 マ ネ ー で「 貨 幣 が な く な る 」 説 の 信 憑 性 』(Financial Trends,2007 年 5 月 7 日 ) の な か で 、 電 子 マ ネ ー の 普 及 に よ っ て 貨 幣 が 節 約 さ れ る 傾 向 に あ る 旨 を 指 摘 し て い る 。
そ こ で 次 に 、 電 子 マ ネ ー の 普 及 状 況 に つ い て 把 握 を 試 み る 。 な お 、 本 稿 で は 特 に 断 ら な い 限 り 、日 本 銀 行 (2008)に お い て「IC型 の 電 子 マ ネ ー 」と 分 類 さ れ た も の を 電 子 マ ネ ー と 呼 ぶ こ と に す る 。 す な わ ち 、 本 稿 に お け る 電 子 マ ネ ー の 定 義 は 、 プ リ ペ イ ド 方 式 の 電 子 的 小 口 決 済 手 段 で あ り 、 か つ 、 金 銭 価 値 が カ ー ド や 携 帯 電 話 な ど の 媒 体 に 埋 め 込 ま れ た IC チ ッ プ 上 に 記 録 さ れ 、分 散 管 理 さ れ る も の で あ る 。2 具 体 例 と し て 、Edy( ビ ッ ト ワ レ ッ ト 社 、2001 年 11 月 ~ )、
Suica(JR東 日 本 、2004 年 3 月 ~ )、ICOCA(JR 西 日 本 、2005 年 10 月 ~ )、PASMO
( 株 式 会 社 パ ス モ ( 首 都 圏 の 私 鉄 ・ 地 下 鉄 各 社 )、2007 年 3 月 ~ )、nanaco( セ ブ ン & ア イ ホ ー ル デ ィ ン グ ス 、2007 年 4 月 ~ )、WAON( イ オ ン 、2007 年 4 月
~ ) な ど が 挙 げ ら れ る 。3
図 2に は 、比 較 的 長 期 に わ た っ て デ ー タ が 存 在 す る Edy と Suica( 含:PASMO)
の 1 日 あ た り 利 用 件 数 の 推 移 が 示 さ れ て い る 。4 な お 、統 計 と し て 公 表 さ れ て い る の は 「 月 間 利 用 件 数 」 で あ る が 、 こ こ で は 月 ご と の 日 数 の 差 異 を 調 整 す る た め 、1 日 あ た り 利 用 件 数 に 変 換 し て い る 。 こ れ に よ る と 、 交 通 系 の 電 子 マ ネ ー (Suica お よ び PASMO) は 直 近 ま で 順 調 に 普 及 し て き て い る 一 方 、 非 交 通 系 のEdyに 関 し て は こ の と こ ろ 利 用 件 数 の 伸 び が 止 ま っ て い る 。図3に は 、nanaco や WAON と い っ た 流 通 系 の 電 子 マ ネ ー の デ ー タ も 公 表 さ れ る よ う に な っ た
1 2 0 0 6年 4月 4日 に は 、2 00 6年3 月 の 貨 幣 流 通 高( 記 念 貨 を 含 む )が 対 前 年 同 月 比 で マ イ
ナ ス の 伸 び と な っ た こ と が 日 本 銀 行 か ら 発 表 さ れ た 。( 現 在 公 表 さ れ て い る 確 定 値 ベ ー ス の 統 計 で は2 00 6年2月 の 対 前 年 同 月 比 伸 び 率 が マ イ ナ ス と な る 。)各 社 の 新 聞 記 事 が2 0 0 6 年 4月 5日 に 集 中 し て い る の は こ の た め で あ る 。 た だ し 、 流 通 枚 数 の ケ ー ス と は 異 な り 、
20 0 6年4月 以 降 の 貨 幣 流 通 高 の 対 前 年 同 月 比 変 化 率 は 一 貫 し て プ ラ ス で あ る 。
2 本 稿 で は 分 析 対 象 か ら 除 外 し た が 、 日 本 銀 行 決 済 機 構 局 (2 0 08) で は 、 コ ン ピ ュ ー タ ・
サ ー バ 上 で 金 銭 的 価 値 を 記 録 す る こ と で 、 こ れ を 中 央 管 理 す る タ イ プ の 小 口 電 子 決 済 手 段 も 「 サ ー バ 型 」 と し て 、 電 子 マ ネ ー の 定 義 に 含 め て い る 。
3 一 方 、i D や Q U I C P a y, Vi s a To u c hな ど は 同 じ よ う に 非 接 触 型 の I Cチ ッ プ を 採 用 し た 小
口 電 子 決 済 手 段 で あ る も の の 、ポ ス ト ペ イ 方 式 で あ る 点 に お い て 異 な っ て い る 。こ れ ら は 、 署 名 を 要 さ ず に 決 済 が 完 了 す る 点 な ど を 除 け ば ク レ ジ ッ ト カ ー ド と し く み は ほ ぼ 同 じ で あ る こ と か ら 、 本 稿 で は ク レ ジ ッ ト カ ー ド に 分 類 す る 。
4
PA S M Oは 20 0 7年 3月 の 導 入 当 初 か ら S u i c aと の 相 互 利 用 が 可 能 で あ る た め 、2 0 0 7年 6 月 か ら は S u i ca と PA S M Oを あ わ せ た 1日 当 た り 利 用 件 数 の 月 中 平 均 値 が 示 さ れ て い る 。
2007 年 6 月 以 降 の 推 移 が 示 さ れ て い る 。月 ご と に 多 少 の 増 減 は あ る も の の 、全 体 と し て 見 る と 電 子 マ ネ ー の 利 用 件 数 は 拡 大 ト レ ン ド を 維 持 し て い る よ う だ 。
図 2.E dy お よ び S u i c a( 含 :PA S M O) に お け る 1日 あ た り 利 用 件 数 の 推 移
0 20 40 60 80 100 120 140 160
2002年 6月 2002年12月 2003年 6月 2003年12月 2004年 6月 2004年12月 2005年 6月 2005年12月 2006年 6月 2006年12月 2007年 6月 2007年12月 2008年 6月 2008年10月 2009年 6月
【万件】
Edy
Suica + PASMO
【 出 所 】 ビ ッ ト ワ レ ッ ト 社 ・ 東 日 本 旅 客 鉄 道 株 式 会 社 の プ レ ス リ リ ー ス お よ び 日 経 流 通 新 聞 か ら 公 表 さ れ た 値 を 筆 者 が 加 工 ・ 集 計 し た も の
注 1)E d yの 1日 あ た り 利 用 件 数 は 当 該 月 の 月 中 平 均 で あ る 。
注 2)S u i c aの 1日 あ た り 利 用 件 数 は 2 0 0 7年 1 2月 ま で は 当 該 月 中 で 最 大 の 利 用
件 数 を 記 録 し た 日 の 値 で あ り 、2 0 0 7年 6月 か ら は 当 該 月 の 月 中 平 均 で あ る 。
注 3)S u i c a( 含 :PA S M O) に つ い て は 2 0 0 8年 6月 よ り 「n i mo c a」( 西 日 本 鉄 道 )、
2 0 0 9年 6月 は 「K i t a c a」(J R北 海 道 ) と 「S U G O C A」(J R九 州 ) を 含 む 。
図 3. 主 要 な 電 子 マ ネ ー に お け る 1日 当 た り 利 用 件 数 の 推 移 (2 0 0 7年 6月 以 降 )
0.0 50.0 100.0 150.0 200.0 250.0 300.0 350.0 400.0 450.0
2007年6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 2008年1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 2009年1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月
【万件】
Edy Suica PASMO nanaco WAON ICOCA
【 出 所 】 日 経 流 通 新 聞 が 月 単 位 に 公 表 す る デ ー タ を 筆 者 が 集 計 ・ 加 工 し た も の
注 1)「WA O N」 は 2 0 0 8年 4月 か ら の 公 表
注 2)S u i c a( 含 :PA S M O) に つ い て は 2 0 0 8年 6月 よ り 「n i mo c a」( 西 日 本 鉄 道 )、
2 0 0 9年 4月 か ら は 「K i t a c a」(J R北 海 道 ) と 「S U G O C A」(J R九 州 ) を 含 む 。
注 3)「E d y」・「S u i c a」・「P a s m o」・「I C O C A」 に つ い て は 、2 0 0 9年 3月 の 統 計 が 日 経
流 通 新 聞 に 掲 載 さ れ て い な い た め 、 線 形 補 完 に よ っ て 値 を 推 定 し た 。
『 家 計 消 費 状 況 調 査 』( 総 務 省 ) で は 、2008 年 1 月 か ら 「 電 子 マ ネ ー 等 関 連 の 利 用 状 況 に つ い て 」 と い う 調 査 項 目 が 新 設 さ れ た 。 こ の 調 査 か ら 、 電 子 マ ネ ー を 使 う 家 族 が い る 世 帯 の 割 合 を 世 帯 主 の 居 住 地 域 別 に 算 出 し た も の が 図 4-A、
世 帯 主 の 年 収 別 に 算 出 し た も の が 図 4-Bで あ る 。
図 4. 電 子 マ ネ ー を 使 う 家 族 が い る 世 帯 の 割 合
4- A. 世 帯 主 の 居 住 地 域 別 集 計
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50
北海道 東北 関東 北陸 東海 近畿 中国 四国 九州・沖縄
【%】
4- B. 世 帯 主 の 年 収 別 集 計
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50
200万円未満 200万円台 300万円台 400万円台 500万円台 600万円台 700万円台 800万円~
1000万円~
1250万円~
1500万円~
【%】
【 出 所 】『 家 計 消 費 状 況 調 査 (2 0 0 8年 )』( 総 務 省 統 計 局 )
ま ず 、 世 帯 主 の 居 住 地 別 に み る と 、 関 東 地 方 で の 電 子 マ ネ ー の 利 用 率 の 高 さ が 突 出 し て い る 。近 畿 地 方 が こ れ に 続 く も の の 利 用 率 は 20% 弱 で あ り 、そ の 他 の 地 域 で は 利 用 率 が 10% 程 度 に と ど ま っ て い る 。 Edy や nanaco、WAON な ど と い っ た 独 立 系 ・ 流 通 系 の 電 子 マ ネ ー に つ い て は 、 コ ン ビ ニ エ ン ス ス ト ア や ド ラ ッ グ ス ト ア を 始 め と し て 利 用 可 能 な 環 境 が 全 国 的 に 整 備 さ れ つ つ あ る 。 し か
し 、Suica, PASMOを は じ め と す る 交 通 系 の 電 子 マ ネ ー に つ い て は 、都 市 圏 以 外 に は ま だ 十 分 に 認 知 さ れ て い な い の が 現 状 で あ る 。図 4-A は こ う し た 状 況 が 反 映 さ れ て い る も の と 考 え ら れ る 。
次 に 、 世 帯 主 の 年 収 別 に み る と 、 年 収 が 高 い 世 帯 ほ ど 、 電 子 マ ネ ー を 利 用 し て い る 家 族 が い る 割 合 が 高 い こ と が わ か る 。 こ の 統 計 は 電 子 マ ネ ー の 利 用 者 自 身 の 年 収 で 階 級 分 け さ れ て い る わ け で は な い 。 よ っ て 、結 果 の 解 釈 に は 慎 重 を 要 す る が 、 仮 に 世 帯 主 自 身 が 電 子 マ ネ ー 利 用 者 で あ る こ と を 想 定 す る と 、(1)
年 収 と 教 育 水 準 ( 人 的 資 本 ) に 正 相 関 が あ る と す れ ば 、 年 収 が 高 い ( 支 出 機 会 が 多 い ) 者 ほ ど 現 金 決 済 の 機 会 費 用 ( 後 述 す る 時 間 コ ス ト な ど ) が 高 い 、(2)
や は り 年 収 と 人 的 資 本 に 正 相 関 が あ る と す れ ば 、 年 収 が 高 い 者 ほ ど 先 進 的 な 技 術 へ の 関 心 が 高 い 、(3) ク レ ジ ッ ト カ ー ド に 電 子 マ ネ ー 機 能 が 付 さ れ る ケ ー ス も 多 い こ と か ら 、 ク レ ジ ッ ト カ ー ド を よ り 頻 繁 に 用 い る 高 所 得 層 ほ ど 電 子 マ ネ ー の 保 有 率 が 高 い な ど い く つ か の 可 能 性 が 考 え ら れ る 。
新 し い 小 額 決 済 ツ ー ル で あ る 電 子 マ ネ ー の 普 及 は 、 伝 統 的 な 小 額 決 済 ツ ー ル で あ る 貨 幣 の 必 要 性 を 低 下 さ せ て い る の で あ ろ う か 。 既 に 述 べ た よ う に 、 新 聞 記 事 や シ ン ク タ ン ク の レ ポ ー ト で は こ の よ う な 主 張 が 見 ら れ る が 、 こ れ ら は い わ ば 2変 数 の 変 動 だ け に 着 目 し た 「 単 相 関 」 の 考 察 に 過 ぎ な い 。 だ が 、 貨 幣 流 通 量 は 「 取 引 需 要 ( 経 済 規 模 )」 や 「 資 産 需 要 ( 他 資 産 の 収 益 率 )」 な ど に も 依 存 す る 。 よ っ て 、 電 子 マ ネ ー の 普 及 が 通 貨 重 要 に 及 ぼ す 影 響 を 厳 密 に 検 証 す る た め に は 、 通 貨 需 要 を 規 定 す る フ ァ ン ダ メ ン タ ル 要 因 を 制 御 し た 分 析 を 行 う こ と が 不 可 欠 と な る 。 し か し な が ら 、 電 子 マ ネ ー に 関 す る わ が 国 の 統 計 整 備 は 非 常 に 遅 れ て お り 、 こ の こ と が 統 計 学 的 に 頑 健 な 分 析 を 行 う う え で の 障 害 と な っ て き た 。 第 1 の 問 題 は デ ー タ の 種 類 の 不 足 で あ る 。 現 状 に お い て 公 表 さ れ て い る の は 、 電 子 マ ネ ー の 「 カ ー ド の 発 行 枚 数 」、「 利 用 可 能 店 舗 数 」、「 月 間 利 用 件 数 」だ け に 過 ぎ な い 。5 第 2の 問 題 は「 標 本 数( す な わ ち 自 由 度 )」の 不 足 で あ る 。Edyに つ い て は 2002 年 6 月 か ら 、Suica に つ い て は 2004 年 6月 か ら 、と も に 発 行 体 が プ レ ス リ リ ー ス を 発 表 す る 際 に 直 近 の 月 末 時 点 に お け る デ ー タ を 公 表 し て い る も の の 、主 要 な 電 子 マ ネ ー(Edy、Suica、ICOCA、PASMO、Nanaco、
WAON)の 全 て に つ い て デ ー タ が 得 ら れ る よ う に な っ た の は 、日 経 流 通 新 聞( 日 経 MJ) が 定 期 的 に 公 表 す る よ う に な っ た 2007 年 6月 以 降 に 過 ぎ な い 。
こ う し た 制 約 が あ る な か 、 マ ク ロ 時 系 列 デ ー タ を 用 い て 電 子 マ ネ ー の 普 及 が 通 貨 重 要 に 及 ぼ す 影 響 を 分 析 し た 研 究 と し て 中 田 (2007)、 北 村 ・ 大 森 ・ 西 田
5 日 本 銀 行 も 統 計 の 整 備 を 始 め て い る 。 現 状 に お い て は 、 各 年 度 に お け る ( 主 要 電 子 マ
ネ ー の ) 集 計 デ ー タ の 公 表 に と ど ま っ て い る も の の 、 取 引 1回 あ た り の 決 済 金 額 も 把 握 す る こ と が で き る 。
(2009) が あ る 。 こ れ ら の 研 究 は い ず れ も 電 子 マ ネ ー の 普 及 指 標 ( 取 引 件 数 ) を 考 慮 し て 貨 幣 の 種 類 別 に 貨 幣 需 要 関 数 を 推 定 し 、 フ ァ ン ダ メ ン タ ル 要 因 を 制 御 し た う え で も 、 電 子 マ ネ ー の 普 及 が 貨 幣 需 要 に マ イ ナ ス の 影 響 を 及 ぼ す こ と を 明 ら か に し た 。 た だ し 、 い ず れ の 研 究 で も 、 現 状 に お け る 貨 幣 流 通 へ の 量 的 な イ ン パ ク ト は ご く 小 さ い こ と が 示 さ れ て い る 。ま た 、中 田(2009)は VAR推 定 の 結 果 を も と に 貨 幣 の 種 類 別 に イ ン パ ル ス 応 答 関 数 を 推 定 し 、 電 子 マ ネ ー の 普 及 が 貨 幣 需 要 に 及 ぼ す マ イ ナ ス の 効 果 の 持 続 性 に つ い て 検 証 し て い る 。 こ の 分 析 か ら は 、 電 子 マ ネ ー の 普 及 に よ り 、 小 額 貨 幣 の 流 通 量 は 持 続 的 に 減 少 す る 一 方 、銀 行 券 の 流 通 量 の 減 少 は 持 続 的 で は な い こ と が 示 さ れ る 。6 こ れ に つ い て 中 田 (2009) は 、 銀 行 券 の 場 合 は 定 期 的 に ( 電 子 マ ネ ー へ の ) チ ャ ー ジ の た め の 需 要 が 生 じ る 可 能 性 を 指 摘 し て い る 。
も っ と も 、 マ ク ロ 時 系 列 デ ー タ に よ る 実 証 分 析 は 有 益 で は あ る も の の 、 経 済 主 体 の ミ ク ロ レ ベ ル の 行 動 を 十 分 に 検 証 で き な い と い う 限 界 が あ る 。 こ こ で ミ ク ロ レ ベ ル の 行 動 と は 、「 複 数 の 小 額 決 済 ツ ー ル( 現 金 、ク レ ジ ッ ト カ ー ド 、デ ビ ッ ト カ ー ド 、 電 子 マ ネ ー ) の 中 か ら 、 何 ら か の 基 準 に 則 っ て 決 済 手 段 を 選 択 し て い る 」 と い う 経 済 主 体 の 意 思 決 定 の こ と を 指 す 。
3. 決 済 手 段 の 選 択 の 理 論
決 済 手 段 の 選 択 の 問 題 を 理 論 的 に 分 析 し た 日 本 の 先 行 研 究 と し て 、Humphrey and Berger(1990)を 拡 張 し た 伊 藤・川 本・ 谷 口(1999)、Shy and Tarkka(2002)
の 複 数 決 済 モ デ ル に 立 脚 し た 北 村(2005)な ど が 挙 げ ら れ る 。 中 田(2009)は 、 伊 藤 ・ 川 本 ・ 谷 口 (1999) に 立 脚 し 、 こ れ に 北 村 (2005) が 考 慮 し た 「 電 子 マ ネ ー が 格 納 さ れ る IC チ ッ プ の 破 損 リ ス ク 」や「 決 済 の 完 了 ま で に 要 す る 時 間 コ ス ト 」 を 加 味 す る な ど の 拡 張 ・ 修 正 を 加 え た う え で 、 電 子 マ ネ ー の 普 及 が 既 存 の 小 額 決 済 手 段 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て 考 察 し て い る 。 中 田 (2009) で の 分 析 は 以 下 の よ う に 要 約 さ れ る 。
あ る 決 済 手 段 を 利 用 す る と き 、 利 用 者 は 様 々 な コ ス ト を 負 担 す る 。 こ の コ ス ト は 「 固 定 費 」・「 物 理 的 要 因 費 用 」・「 金 利 逸 失 費 用 」 に 分 類 さ れ る 。
1) 固 定 費
固 定 費 は 、 取 引 1 回 あ た り に 等 し く か か る コ ス ト で あ り 、 取 引 金 額 の 多 寡 に は 左 右 さ れ な い 。 第 1 の 固 定 費 と し て 「 時 間 コ ス ト 」 が あ る 。 現 金 決 済 で は つ
6 た だ し 、 中 田 (2 0 0 9) の 分 析 で は 、 一 万 円 券 に つ い て は 統 計 的 に 有 意 な イ ン パ ル ス 応 答
が 得 ら れ な い 。ま た 、二 千 円 券 の 流 通 量 は 極 め て 少 な い た め 、分 析 の 対 象 外 と さ れ て い る 。
り 銭 の や り と り 、 ク レ ジ ッ ト カ ー ド 決 済 で は 小 売 店 に よ る 信 用 情 報 の 確 認 と 利 用 者 に よ る 伝 票 へ の 署 名 と い っ た プ ロ セ ス が 不 可 避 で あ る 。 こ れ と 比 較 し て 、 電 子 マ ネ ー 決 済 で は 非 接 触 型 IC チ ッ プ を か ざ す だ け で よ い 。 決 済 完 了 ま で に 要 す る 時 間 の 長 さ は 、 当 該 決 済 手 段 に か か る 機 会 費 用 と み な す こ と が で き る 。 第 2の 固 定 費 と し て 「 ア ベ イ ラ ビ リ テ ィ ・ コ ス ト 」 が 挙 げ ら れ る 。 当 然 な が ら 現 金 は ど こ で も 決 済 に 利 用 で き る 。 一 方 、 ク レ ジ ッ ト カ ー ド 、 デ ビ ッ ト カ ー ド 、 電 子 マ ネ ー の 利 用 可 能 範 囲 は 加 盟 店 網 の 規 模 に 制 約 さ れ る 。 当 該 決 済 手 段 の 利 用 可 能 店 舗 の 探 索 に 要 す る 時 間 の 長 さ は 、 や は り 一 種 の 機 会 費 用 で あ る 。
2) 物 理 的 要 因 費 用
物 理 的 要 因 費 用 に は 、「 ハ ン ド リ ン グ・コ ス ト 」・「 セ キ ュ リ テ ィ・コ ス ト 」・「 破 損 コ ス ト 」 が あ り 、 い ず れ も 決 済 金 額 の 大 小 に 応 じ て コ ス ト が 異 な っ て く る 。
第 1に 、ハ ン ド リ ン グ ・コ ス ト は 当 該 決 済 手 段 の 持 ち 運 び に か か る 費 用 で あ る 。 金 額 に 応 じ て 重 量・体 積 が 増 え る 現 金 の ハ ン ド リ ン グ ・コ ス ト は 高 い 。こ れ に 対 し 、 カ ー ド 形 態 な い し 携 帯 電 話 と 一 体 化 さ れ た 他 の 決 済 手 段 の 場 合 、 実 質 的 に は ハ ン ド リ ン グ ・ コ ス ト は か か ら な い 。
第 2に 、セ キ ュ リ テ ィ・コ ス ト は 当 該 決 済 手 段 の 安 全 性 に か か る も の で あ る 。 現 金 や ( 無 記 名 式 の ) 電 子 マ ネ ー の 場 合 、 盗 難 ・ 紛 失 時 に 金 銭 価 値 を 取 り 戻 す こ と は 難 し い の で セ キ ュ リ テ ィ ・ コ ス ト は 高 い 。 そ し て 、 こ の コ ス ト の 大 き さ は 紛 失 し た ( 盗 難 に あ っ た ) 金 額 に 比 例 す る 。 こ れ と 比 較 す る と 、 デ ビ ッ ト カ ー ド や ク レ ジ ッ ト カ ー ド は 盗 難 ・ 紛 失 時 に 機 能 を 停 止 す る こ と が で き 、 機 能 停 止 後 は 預 金 口 座 か ら 金 銭 価 値 が 奪 わ れ る こ と も な い 。 よ っ て 、 セ キ ュ リ テ ィ ・ コ ス ト は 無 視 で き る 程 度 の も の で あ る 。
第 3に 、「 破 損 コ ス ト 」は 当 該 決 済 ツ ー ル の 損 壊 に よ っ て 失 わ れ る 金 銭 価 値 の こ と で あ る 。 現 金 の 場 合 、 硬 貨 や 紙 幣 の 破 損 時 の 交 換 条 件 が あ ら か じ め 法 律 に よ っ て 定 め ら れ て お り 、 常 識 的 な 範 囲 内 で の 破 損 で あ れ ば そ の 金 銭 価 値 が 失 わ れ る こ と は ほ ぼ な い 。 ま た 、 ク レ ジ ッ ト カ ー ド や デ ビ ッ ト カ ー ド に つ い て も 、 カ ー ド 破 損 に よ っ て ( 再 発 行 さ れ る ま で は ) 預 金 口 座 に ア ク セ ス で き な く な る も の の 、預 金 残 高 が 減 少 す る こ と は な い 。こ れ に 対 し 、無 記 名 式 の IC カ ー ド で 電 子 マ ネ ー を 利 用 す る 場 合 、金 銭 的 な 金 銭 価 値 が 格 納 さ れ た IC チ ッ プ が 壊 れ て し ま う と 、 こ れ を 復 元 す る こ と は で き な い 。 し た が っ て 、 現 金 、 ク レ ジ ッ ト カ ー ド 、 デ ビ ッ ト カ ー ド に よ る 決 済 で は 破 損 コ ス ト は 発 生 し な い 一 方 、 無 記 名 式 の 電 子 マ ネ ー を 決 済 に 用 い た 場 合 に は 、 残 存 金 銭 価 値 に 応 じ て 破 損 コ ス ト が か か る こ と に な る 。
3) 金 利 逸 失 費 用 ( ま た は 金 利 獲 得 便 益 )
資 金 が 預 金 口 座 に 預 け ら れ た 状 況 を 出 発 点 と し た 場 合 、 デ ビ ッ ト カ ー ド 以 外 の 小 額 決 済 手 段 で は 、(1) 預 金 口 座 か ら の 資 金 引 き 出 し 、(2) 財 や サ ー ビ ス の 購 入 ・ 受 取 、(3) 代 金 の 支 払 い の 時 点 が 一 致 し な い 。 こ の タ イ ミ ン グ の 乖 離 に 由 来 す る 預 金 金 利 獲 得 機 会 の 逸 失 は コ ス ト と み な さ れ る 。 現 金 決 済 の 場 合 、 予 め 預 金 口 座 か ら 資 金 を 引 き 出 し て 支 払 い に 備 え る た め 、 デ ビ ッ ト カ ー ド 決 済 と 比 べ て 金 利 を 獲 得 で き る 機 会 が 失 わ れ る 。 こ の 金 利 逸 失 コ ス ト は 、 明 ら か に 口 座 か ら の 引 出 額 ( さ ら に は 取 引 額 ) と 正 相 関 す る 。
他 方 、 ク レ ジ ッ ト カ ー ド を 非 割 賦 方 式 で 決 済 に 用 い た 場 合 、 最 大 で 1 ヶ 月 程 度 は 購 入 代 金 の 支 払 い を 先 延 ば し で き 、 こ れ に か か る 金 利 ・ 手 数 料 の 負 担 も 発 生 し な い 。7 換 言 す れ ば 、 よ り 長 く 預 金 口 座 に と ど め る こ と が で き る た め 、 デ ビ ッ ト カ ー ド 決 済 と 比 べ て 金 利 収 入 獲 得 の 機 会 が 広 が る 。 こ れ は ク レ ジ ッ ト カ ー ド 決 済 時 に は「 金 利 獲 得 ベ ネ フ ィ ッ ト( マ イ ナ ス の 金 利 逸 失 コ ス ト )」が 発 生 す る こ と を 意 味 す る 。
以 上 の 整 理 の も と 、 最 初 に 、 電 子 マ ネ ー 普 及 以 前 の 小 額 決 済 手 段 の 選 択 に つ い て 検 討 す る 。 縦 軸 を 取 引 費 用 総 額 、 横 軸 を 取 引 金 額 と す る 座 標 軸 を 設 定 し た 場 合 、 現 金 、 ク レ ジ ッ ト カ ー ド 、 デ ビ ッ ト カ ー ド を 決 済 に 利 用 す る こ と に 伴 う 取 引 費 用 は 図 5 の よ う に 特 徴 づ け る こ と が で き る 。
図 5. 各 小 額 決 済 手 段 の 取 引 費 用
1回当たり 取引金額
取引費用
【A】現金決済
【C】デビットカード決済
【B】クレジットカード決済
7 『 日 本 の 消 費 者 信 用 統 計 』( ク レ ジ ッ ト 産 業 協 会 ) に よ れ ば 、2 0 0 7年 の ク レ ジ ッ ト カ ー ド シ ョ ッ ピ ン グ 額( 約 3 8. 8 兆 円 )の 91 .7% は 非 割 賦 方 式 で の 信 用 供 与 で あ る 。非 割 賦 方 式 の 場 合 、明 示 的 に は 金 利 や 手 数 料 が 発 生 し な い も の の 、カ ー ド 会 社 は 加 盟 店 か ら の 手 数 料 、 利 用 者 か ら の 年 会 費 等 に よ っ て 間 接 的 に は こ れ ら の コ ス ト を 回 収 し て い る と 思 わ れ る 。
現 金 は 一 般 受 容 性 を も つ た め に ア ベ イ ラ ビ リ テ ィ ・ コ ス ト は ゼ ロ で あ る 。 よ っ て 、 現 金 決 済 の 固 定 費 は 時 間 費 用 の み で あ る 。 一 方 、 取 引 金 額 に 相 関 す る 物 理 的 要 因 費 用 と し て は 、 ハ ン ド リ ン グ ・ コ ス ト と セ キ ュ リ テ ィ ・ コ ス ト が か か る 。 さ ら に 、 既 に 述 べ た よ う に 現 金 決 済 は 金 利 逸 失 コ ス ト を 伴 い 、 こ れ も 取 引 金 額 と 正 相 関 す る 。 よ っ て 、 現 金 決 済 の 取 引 費 用 は 、 時 間 コ ス ト 分 の 切 片 を も つ 取 引 金 額 の 増 加 関 数 と し て 表 さ れ る 。 こ れ を 線 形 関 数 と し て 単 純 化 し た も の が 図 5の 【A】 で あ る 。
ク レ ジ ッ ト カ ー ド 決 済 で は 、 信 用 情 報 の 確 認 や 署 名 に 伴 う 時 間 コ ス ト が か か る 他 、加 盟 店 で し か 利 用 で き な い た め に ア ベ イ ラ ビ リ テ ィ 費 用 も か か る 。 よ っ て 、 固 定 費 は 現 金 決 済 よ り 大 き い と 考 え る こ と が 妥 当 で あ ろ う 。 一 方 、 既 に 述 べ た よ う に 物 理 的 要 因 費 用 ( セ キ ュ リ テ ィ ・ コ ス ト 、 ハ ン ド リ ン グ ・ コ ス ト 、 破 損 コ ス ト ) は か か ら な い 。 さ ら に 、 ク レ ジ ッ ト カ ー ド 決 済 時 に は 「 金 利 獲 得 ベ ネ フ ィ ッ ト( マ イ ナ ス の 金 利 逸 失 コ ス ト )」が 発 生 す る 。よ っ て 、ク レ ジ ッ ト カ ー ド 決 済 の 取 引 費 用 は 、 現 金 決 済 よ り 大 き な 切 片 を も つ 取 引 金 額 の 減 少 関 数 と し て 表 さ れ る 。 単 純 化 の た め に こ れ を 線 形 関 数 に し た も の が 図 5 の 【B】 で あ る 。
デ ビ ッ ト カ ー ド は 暗 証 番 号 の 入 力 だ け で 決 済 が 完 了 す る の で 時 間 コ ス ト は 小 さ い 。 だ が 、 日 常 の 買 い 物 を す る よ う な 小 売 店 に 関 し て は 加 盟 店 が 非 常 に 少 な く 、 ア ベ イ ラ ビ リ テ ィ ・ コ ス ト は 高 い 。 一 方 で 、 金 額 が 大 き な 買 い 物 を す る 家 電 量 販 店 な ど で は 利 用 で き る 場 所 が 多 い 。 つ ま り 、 デ ビ ッ ト カ ー ド の ア ベ イ ラ ビ リ テ ィ ・ コ ス ト は 取 引 金 額 の 大 小 に よ っ て 異 な る 。 物 理 的 要 因 費 用 は ク レ ジ ッ ト カ ー ド 決 済 と 同 様 に 無 視 で き る ほ ど 小 さ い 。 ま た 、 デ ビ ッ ト カ ー ド 決 済 で は 、 預 金 口 座 か ら の 資 金 の 引 き 出 し と 購 入 代 金 支 払 い の タ イ ミ ン グ が 一 致 す る の で 金 利 逸 失 コ ス ト は 発 生 し な い 。 し た が っ て 、 取 引 費 用 は 取 引 金 額 と は 相 関 し な い も の と み な せ る 。 以 上 の 特 徴 を 図 示 す る と 、デ ビ ッ ト カ ー ド 決 済 の 取 引 費 用 は 、 閾 値 と な る 取 引 金 額 を 境 に ジ ャ ン プ す る 横 軸 と 平 行 な 2 本 の 直 線 と し て 表 さ れ る ( 図 5の 【C】)。
利 用 者 は 1 回 あ た り の 取 引 金 額 に 応 じ て 、 も っ と も 取 引 費 用 が 低 い 決 済 手 段 を 選 択 す る こ と に な る 。 こ れ を 実 線 で 結 ん だ も の が 図 6 で あ る 。 取 引 金 額 が 小 さ い 領 域 で は 現 金 、 大 き い 領 域 は デ ビ ッ ト カ ー ド 、 そ の 中 間 領 域 は ク レ ジ ッ ト カ ー ド が 選 択 さ れ る こ と が わ か る 。 日 本 デ ビ ッ ト カ ー ド 推 進 協 議 会 が 公 表 し て い る 統 計 に よ れ ば 、2007 年 度 の デ ビ ッ ト カ ー ド で の 1 件 あ た り の 平 均 的 な 決 済 額 は 66,623円 で あ る 。一 方 、株 式 会 社 ジ ェ ー シ ー ビ ー が 2008 年 10月 に 男 女 各 1250 名 ず つ の 消 費 者 を 対 象 に 実 施 し た ア ン ケ ー ト 調 査 に よ れ ば 、1番 多 く 使 う
ク レ ジ ッ ト カ ー ド で の 1 回 あ た り の 決 済 額 は 男 性 で 9,415 円 、 女 性 で 7,149 円 で あ る 。8 現 金 が よ く 使 わ れ る の は 、ク レ ジ ッ ト カ ー ド よ り も さ ら に 小 額 の 取 引 で あ る と 考 え ら れ る 。 つ ま り 、 現 状 に お い て は 理 論 と 整 合 的 な 小 額 決 済 手 段 の す み 分 け が さ れ て い る と 言 え よ う 。
図 6. 小 額 決 済 手 段 の す み 分 け ( 電 子 マ ネ ー 普 及 以 前 )
1回当たり
取引金額
取引費用
現金 クレジットカード デビットカード
次 に 、 や は り 縦 軸 を 取 引 費 用 総 額 、 横 軸 を 取 引 金 額 と す る 座 標 軸 を 設 定 し た う え で 、 電 子 マ ネ ー 決 済 の 取 引 費 用 に つ い て 検 討 す る 。 電 子 マ ネ ー 決 済 の 最 大 の 特 徴 は 、非 接 触 型 ICチ ッ プ を リ ー ダ ー に か ざ す だ け で 決 済 が 完 了 す る「 即 時 性 」に あ る 。つ ま り 、固 定 費 の う ち 時 間 コ ス ト は 限 り な く ゼ ロ に 近 い 。し か し 、 電 子 マ ネ ー の 登 場 当 初 は 利 用 可 能 店 舗 が 少 な く 、 ア ベ イ ラ ビ リ テ ィ ・ コ ス ト は 非 常 に 大 き か っ た と い え る 。一 方 、非 接 触 型 IC チ ッ プ は カ ー ド な い し 携 帯 電 話 に 搭 載 さ れ る た め 、 物 理 的 要 因 費 用 の う ち ハ ン ド リ ン グ ・ コ ス ト は 他 の 電 子 決 済 手 段 と 同 様 に 微 小 で あ る 。 し か し 、 ク レ ジ ッ ト カ ー ド や デ ビ ッ ト カ ー ド と 違 い 、電 子 マ ネ ー の 場 合 に は 電 子 的 金 銭 価 値 が 非 接 触 型 IC チ ッ プ に 格 納 さ れ る た め 、 特 に 無 記 名 式 の 電 子 マ ネ ー の 場 合 に は 盗 難 や 紛 失 な ら び に 破 損 の リ ス ク に さ ら さ れ る 。 当 然 な が ら 、 こ う し た セ キ ュ リ テ ィ ・ コ ス ト や 破 損 コ ス ト は 電 子 的 金 銭 価 値 の 残 存 額 と 正 相 関 す る 。 利 用 者 が 取 引 金 額 に 応 じ て 電 子 マ ネ ー に チ ャ ー ジ す る こ と を 前 提 と す れ ば 、 こ れ ら の コ ス ト は 取 引 金 額 と も 正 相 関 す る こ
8 『 ク レ ジ ッ ト カ ー ド に 関 す る 総 合 調 査 2 0 0 8年 度 版 調 査 結 果 レ ポ ー ト 』 に は 、1番 目 に 多 く 使 う ク レ ジ ッ ト カ ー ド の 月 間 利 用 額 と 月 間 利 用 頻 度 の 平 均 値 が 男 女 別 に 掲 載 さ れ て い る 。 こ れ ら の 値 を も と に 筆 者 が 「1回 あ た り の 決 済 額 」 を 算 出 し た 。
と に な る 。 ま た 、 チ ャ ー ジ と い う 行 為 自 体 が 預 金 口 座 か ら の 資 金 の 引 き 出 し を 伴 う た め9、電 子 マ ネ ー 決 済 時 に は 取 引 金 額 に 応 じ た 金 利 逸 失 コ ス ト も 発 生 す る 。
図 7に は 、 サ ー ビ ス 開 始 当 初 の 電 子 マ ネ ー 決 済 の 取 引 費 用 関 数 が 示 さ れ て い る 。 切 片 が 大 き く な っ て い る の は 、 電 子 マ ネ ー の サ ー ビ ス 開 始 当 初 は 利 用 可 能 店 舗 が 少 な く 、ア ベ イ ラ ビ リ テ ィ ・コ ス ト か ら 構 成 さ れ る 固 定 費 は か な り 高 か っ た と 考 え ら れ る た め で あ る 。
図 7. 電 子 マ ネ ー の 取 引 費 用 ( サ ー ビ ス 開 始 当 初 )
1回当たり 取引金額
取引費用
アベイラビリティ・コスト
【参考】現金決済の取引費用 電子マネー決済の取引費用
た だ し 、2002 年 6 月 に Edyの サ ー ビ ス が 開 始 さ れ て 以 来 、電 子 マ ネ ー に よ る 決 済 サ ー ビ ス は 様 々 な 点 で 改 善 が 進 ん で き た 。 第 1 に 、 電 子 マ ネ ー 事 業 者 が 増 え 、 利 用 可 能 店 舗 も 顕 著 に 増 加 し た 。 こ れ は 固 定 費 で あ る ア ベ イ ラ ビ リ テ ィ ・ コ ス ト の 低 下 を 意 味 す る 。 第 2 に 、 技 術 進 歩 に よ っ て 破 損 の リ ス ク 自 体 が 小 さ く な っ た 。 加 え て 、 記 名 式 の 電 子 マ ネ ー が 一 定 の 普 及 を 見 せ て い る 。 こ れ は 、 手 数 料 を 払 っ た う え で 非 接 触 型 IC チ ッ プ に 氏 名 等 の 個 人 情 報 を 記 録 さ せ れ ば 、 盗 難 ・ 紛 失 ・ 破 損 時 に 電 子 的 金 銭 価 値 が 補 償 さ れ る サ ー ビ ス で あ る 。 第 3 に 、 複 数 の 電 子 マ ネ ー 事 業 者 は 、 決 済 金 額 の 一 定 割 合 を ポ イ ン ト と し て 付 与 し 、 貯 ま っ た ポ イ ン ト を 電 子 マ ネ ー 等 に 交 換 で き る よ う に し た 。 こ れ ら は い ず れ も 、 電 子 マ ネ ー の 取 引 費 用 関 数 の「 傾 き 」を 小 さ く す る 方 向 に 作 用 す る 。こ の 結 果 、 電 子 マ ネ ー が 普 及 す る に つ れ て 取 引 費 用 関 数 の 形 状 は 図 8の よ う に 変 化 す る と 考 え ら れ る 。 た だ し 、 こ こ で は ポ イ ン ト 付 与 の 効 果 が 、 総 取 引 費 用 と 取 引 金 額 の 正 相 関 の 関 係 を 失 わ せ る ほ ど に は 大 き く な い ケ ー ス を 想 定 し て い る 。
9 現 金 で チ ャ ー ジ す る 場 合 で も 、 そ の 現 金 を 用 意 す る た め に 預 金 口 座 か ら 資 金 が 引 き 出 さ れ る こ と に 注 意 さ れ た い 。
図 8. 電 子 マ ネ ー の 取 引 費 用 ( サ ー ビ ス 開 始 当 初 )
1回当たり
取引金額
取引費用
利用可能店舗の増加による
アベイラビリティ・コストの低下
技術進歩、ポイント付与等による 傾きの減少
図 6に 図 8 を 重 ね る こ と に よ り 、 電 子 マ ネ ー の 普 及 が 小 額 決 済 手 段 の す み わ け に 及 ぼ す 影 響 を 把 握 で き る 。 図 9 に 示 さ れ る よ う に 、 現 金 決 済 と ク レ ジ ッ ト カ ー ド 決 済 の 境 界 と な っ て い る 取 引 金 額 の 領 域 に お い て 、 電 子 マ ネ ー 決 済 が そ の 双 方 を 侵 食 し て い く こ と が わ か る 。
図 9. 電 子 マ ネ ー の 普 及 が 小 額 決 済 に 及 ぼ す 影 響
1回当たり
取引金額
取引費用
現金 クレジットカード デビットカード
電子マネー
普及後の電子マネー決済の取引費用
実 際 に は 、 ど の よ う な 取 引 価 格 帯 で 電 子 マ ネ ー の 利 用 頻 度 が 高 く な っ て い る の で あ ろ う か 。 電 子 マ ネ ー の 決 済 金 額 を 把 握 す る た め の 数 少 な い 手 が か り と し て 、Edy、Suica、ICOCA、PASMO、Nanaco、WAON の 6 つ の 電 子 マ ネ ー の 利 用 状 況 に つ い て 調 査 し 、そ の 集 計 結 果 を 公 表 し た 日 本 銀 行(2008, 2009)が あ る 。 こ の う ち 日 本 銀 行(2009)に よ れ ば 、2008 年 度 に お け る 取 引 1 件 あ た り の 平 均
決 済 金 額 は 732 円( 決 済 金 額 総 計 は 8,172 億 円 、決 済 件 数 は 11.1 億 件 )で あ る 。 ま た 、 金 融 広 報 中 央 委 員 会 が 行 っ て い る 『 家 計 の 金 融 行 動 に 関 す る 世 論 調 査 』 の 平 成 21 年 の 結 果 に よ れ ば 、決 済 手 段 と し て 電 子 マ ネ ー を 選 択 す る 人 の 割 合 が 最 も 大 き く な る の は「1000 円 以 下 」の 取 引 で あ り 、そ の シ ェ ア は「 二 人 以 上 世 帯 」 で 3.2% 、「 単 身 世 帯 」 で 25.2% で あ る 。「 二 人 以 上 世 帯 」・「 単 身 世 帯 」 の い ず れ に お い て も 、「1000 円 以 下 」 の 取 引 で 電 子 マ ネ ー を 利 用 す る 人 の 割 合 は ク レ ジ ッ ト カ ー ド を 上 回 っ て い る が 、現 金 決 済 と 比 べ る と シ ェ ア は か な り 低 い 。
な お 、 小 額 決 済 を め ぐ る 近 年 の 動 き と し て 、 ク レ ジ ッ ト カ ー ド が よ り 小 額 の 取 引 領 域 に 対 応 し つ つ あ る こ と に 留 意 す る 必 要 が あ る 。 例 え ば 、 一 定 金 額 未 満 の ク レ ジ ッ ト カ ー ド 決 済 で あ れ ば 、 署 名 を 求 め な い 小 売 店 も 増 え て い る 。 さ ら に 、 電 子 マ ネ ー と 同 様 に IC チ ッ プ を 端 末 に か ざ す だ け で 決 済 が 完 了 す る QUICPay や iD な ど の サ ー ビ ス も 提 供 さ れ 、 利 用 可 能 店 舗 が 増 加 し て い る 。 こ れ ら の 動 き は 、 ク レ ジ ッ ト カ ー ド の 時 間 費 用 の 低 下 と し て と ら え る こ と が 可 能 で あ る 。 図 10 は こ れ を 図 示 し た も の で あ る 。
図 10. ク レ ジ ッ ト カ ー ド 決 済 の 時 間 コ ス ト の 低 下
1回当たり
取引金額
取引費用
現金 クレジットカード
デビットカード 電子マネー
実 際 に は 、 こ の よ う に ク レ ジ ッ ト カ ー ド 決 済 に よ る 電 子 マ ネ ー 決 済 の 侵 食 も 一 部 で 生 じ て い る と 考 え ら れ る 。 一 方 、 一 部 の 電 子 マ ネ ー で は ク レ ジ ッ ト カ ー ド か ら の チ ャ ー ジ が 可 能 に な っ て い る 。 こ の サ ー ビ ス を 利 用 し た 場 合 、 電 子 マ ネ ー 決 済 を 利 用 し た 場 合 で も 、 実 質 的 に 「 金 利 獲 得 ベ ネ フ ィ ッ ト 」 を 享 受 す る こ と が で き る 。 よ っ て 、 電 子 マ ネ ー 決 済 と ク レ ジ ッ ト カ ー ド 決 済 の 境 界 に つ い て は 、 今 後 は あ い ま い に な っ て い く こ と が 予 想 さ れ る 。
4. ミ ク ロ デ ー タ に よ る 実 証 分 析
現 実 の 経 済 に お い て 、 電 子 マ ネ ー の 普 及 は 第 3節 の 理 論 分 析 で 示 さ れ た ミ ク ロ レ ベ ル で の 経 済 主 体 の 行 動 と 整 合 的 な か た ち で 進 ん で い る の だ ろ う か 。 わ が 国 で は 様 々 な 個 票 調 査 が 実 施 さ れ て い る が 、 そ の 中 で 電 子 マ ネ ー に 関 連 す る 設 問 が 設 け ら れ て い る の は『 家 計 消 費 状 況 調 査 』( 総 務 省 )と『 家 計 の 金 融 行 動 に 関 す る 世 論 調 査 』( 金 融 広 報 中 央 委 員 会 )に 限 ら れ て お り 、し か も 、電 子 マ ネ ー 関 連 の 設 問 の 数 自 体 が 非 常 に 少 な い 。 よ っ て 、 こ れ ら の 調 査 を 用 い て ミ ク ロ デ ー タ に よ る 実 証 分 析 を 行 う こ と は 困 難 で あ る 。
そ こ で 、 筆 者 は 科 学 研 究 費 補 助 金 の 助 成 を 受 け 、 電 子 マ ネ ー の 普 及 の 現 状 を 把 握 す る こ と を 目 的 と し て 、2009 年 3月 に 福 岡 県 在 住 の 消 費 者 を 対 象 と し た ア ン ケ ー ト 調 査(「 電 子 マ ネ ー の 普 及 実 態 に 関 す る ア ン ケ ー ト 」)を 実 施 し た 。 近 年 は 、 地 方 圏 に お い て も JR 各 社 を 中 心 に 独 自 の 電 子 マ ネ ー サ ー ビ ス の 提 供 が 開 始 さ れ て い る(JR 北 海 道 の Kitaca 、JR 東 海 の TOICA 、JR 九 州 の SUGOCA な ど )。福 岡 も 例 外 で は な く 、九 州 で 最 大 の 鉄 道・バ ス の ネ ッ ト ワ ー ク を も つ 西 日 本 鉄 道 が2008年5月 か ら 電 子 マ ネ ー サ ー ビ ス nimocaを ス タ ー ト さ せ て い る 。 そ の 後 、2009 年 3 月 か ら は JR 九 州 が 前 述 の SUGOCA、 福 岡 市 絵 地 下 鉄 が IC 交 通 乗 車 券 サ ー ビ ス 「 は や か け ん 」 の 発 行 を 始 め た 。 こ の う ち 「 は や か け ん 」 に つ い て は 現 状 で は 電 子 マ ネ ー 機 能 が 付 加 さ れ て い な い も の の 、2010 年 春 か ら は nimoca、SUGOCA、 は や か け ん ( お よ び Suica) が 相 互 乗 り 入 れ で 電 子 マ ネ ー サ ー ビ ス を 開 始 す る こ と も 決 ま っ て い る 。
本 ア ン ケ ー ト 調 査 は 、 福 岡 県 在 住 の 同 一 の 消 費 者 に 2 時 点 で 回 答 を 依 頼 す る パ ネ ル 調 査 と な っ て い る こ と が 特 徴 で あ る 。 こ の う ち 第 1 回 調 査 は 既 に 2009 年 3 月 に 実 施 さ れ た 。 一 方 、 第 2 回 調 査 は 福 岡 県 に お い て nimoca、 は や か け ん 、SUGOCA の 相 互 乗 り 入 れ サ ー ビ ス が 開 始 さ れ る 2010 年 春 を 待 っ て 実 施 す る 予 定 で あ る 。 こ の パ ネ ル デ ー タ セ ッ ト を 用 い た 実 証 分 析 に よ り 、 電 子 マ ネ ー の 利 用 頻 度 が 変 化 し た 消 費 者 に 着 目 し 、 そ の 背 景 に あ る 要 因 を 適 切 に 抽 出 す る こ と が で き る と 期 待 さ れ る 。 た だ し 、 現 状 に お い て は 第 2回 ア ン ケ ー ト 調 査 が 完 了 し て い な い こ と か ら 、本 節 で は 2009年 3 月 に 実 施 し た 第 1 回 ア ン ケ ー ト 調 査 の 結 果 の み を も と に 、 電 子 マ ネ ー 普 及 の 現 状 に つ い て 実 証 分 析 を 行 う こ と と し た い 。
本 調 査 の 実 施 機 関 は NTT レ ゾ ナ ン ト 株 式 会 社 で あ り 、調 査 方 法 は イ ン タ ー ネ ッ ト 調 査 で あ る 。具 体 的 に は 、同 社 の ネ ッ ト リ サ ー チ サ ー ビ ス「goo リ サ ー チ 」 に 登 録 し て い る お よ そ 58 万 人 の モ ニ タ ー の う ち 、福 岡 県 在 住 す る 人 向 け に 調 査 票 を 送 信 し た 。 調 査 票 の 送 信 に あ た っ て は 、 男 女 別 に 年 齢 階 級 を 5 つ 設 定 (16
~19 歳 、20~29歳 、30~39歳 、40~49 歳 、50 歳 以 上 ) し た う え で 、 原 則 と し て 各 階 級 で 同 数 の 調 査 票 を 送 信 し た 。た だ し 、10歳 代 は モ ニ タ ー 数 が 少 な い た め に 送 信 数 が 少 な く 、 こ れ を 補 完 す る た め に 20歳 代 へ の 送 信 数 を 多 め に し た 。
表 1に は 、 調 査 票 の 配 布 数 お よ び 回 収 率 が 性 別 ・ 年 齢 階 級 別 に ま と め ら れ て い る 。10歳 代 の 回 収 率 が 低 い も の の 他 の 年 齢 階 級 で は 男 女 と も に 回 収 率 の 差 は 小 さ く 、 全 体 と し て は 約 25% の 回 収 率 で 1145 の 標 本 が 得 ら れ た 。
表 1. 電 子 マ ネ ー の 普 及 実 態 に 関 す る ア ン ケ ー ト ( 第 1回 ) の 回 収 率
モニター数 配信数 回収数 削除
標本数
採用 標本数
最終 回収率
男性 243 243 36 2 34 14.0%
女性 223 223 47 2 45 20.2%
男性 1229 600 157 12 145 24.2%
女性 2163 600 161 5 156 26.0%
男性 1798 500 130 10 120 24.0%
女性 3058 500 130 4 126 25.2%
男性 1338 500 133 4 129 25.8%
女性 1404 500 134 5 129 25.8%
男性 1098 500 136 4 132 26.4%
女性 527 500 132 3 129 25.8%
男性 5706 2343 592 32 560 23.9%
女性 7375 2323 604 19 585 25.2%
13081 4666 1196 51 1145 24.5%
50歳以上 性別合計
全体合計 10~19歳 20~29歳 30~39歳 40~49歳
次 に 、 回 収 標 本 の 年 齢 構 成 を 示 し た も の が 実 際 の 福 岡 県 民 (2008 年 10 月 現 在 ) の 年 齢 構 成 と 比 較 し た も の が 表 2で あ る 。
表 2. 回 収 標 本 の 年 齢 構 成 と 福 岡 県 民 の 年 齢 構 成 の 比 較 2-A) 本 調 査 の 回 収 標 本
福岡県 標本
(人) 20歳未満 20~29歳 30~39歳 40~49歳 50歳以上
合計 1145 6.9% 26.3% 21.5% 22.5% 22.8%
男 560 3.0% 12.7% 10.5% 11.3% 11.5%
女 585 3.9% 13.6% 11.0% 11.3% 11.3%
2-B)2008 年 10 月 現 在 の 福 岡 県 民
福岡県 標本
(人) 20歳未満 20~29歳 30~39歳 40~49 歳 50 歳以上 合計 505 18.8% 12.7% 14.0% 12.0% 42.4%
男 239 9.6% 6.3% 6.9% 5.8% 18.7%
女 266 9.2% 6.4% 7.2% 6.2% 23.7%
[出 所] 総 務 省
本 調 査 で は 10 歳 代 へ の 調 査 票 の 配 布 数 が 少 な く 、回 収 率 も 低 い こ と か ら 、結 果 と し て 男 女 と も に 10 歳 代 の 占 め る 割 合 が 低 く な っ て い る 。 他 方 、 既 に 表 1 で 見 た よ う に 他 の 年 齢 階 級 に つ い て は 回 収 率 に 大 き な 差 が な い た め 、 こ れ を 反 映 し て 調 査 票 の 配 布 数 が 多 い 20 歳 代 の 構 成 比 率 が 男 女 と も に 高 く な り 、他 の 年 齢 階 級 で は 構 成 比 率 が 概 ね 等 し く な る 。 こ れ に 対 し 、 表 2-Bで 実 際 の 福 岡 県 民 の 年 齢 構 成 を 確 認 す る と 、50歳 以 上 人 口 の 占 め る 比 率 が 男 女 と も に か な り 高 い こ と が わ か る 。
し た が っ て 、(1) 調 査 手 法 の 特 質 と し て イ ン タ ー ネ ッ ト に ア ク セ ス で き る 消 費 者 が 母 集 団 と な っ て い る 点 、(2)50歳 以 上 人 口 の 構 成 比 率 が 現 実 の 人 口 構 成 と 比 較 し て 低 い と い う 点 に お い て 、 本 調 査 の 標 本 は 必 ず し も 福 岡 県 全 体 を 完 全 に 反 映 す る も の で は な い 。 以 下 で は 、 こ の 点 に 留 意 し な が ら 分 析 を 進 め て い く こ と に す る 。
電 子 マ ネ ー 普 及 の 現 状
本 調 査 で は 、 電 子 マ ネ ー の 利 用 頻 度 を 尋 ね る 質 問 に つ い て 「 ほ ぼ 毎 日 」 も し く は「 週 5 日 程 度 」と 回 答 し た 消 費 者 を 「 高 頻 度 利 用 者 」、同 じ 質 問 に「 週 2~
3 日 」 と 回 答 し た 消 費 者 を 「 中 頻 度 利 用 者 」、「 週 1 日 以 下 」 と 回 答 し た 消 費 者 を 「 低 頻 度 利 用 者 」、「 利 用 し な い 」 と 回 答 し た 消 費 者 を 「 非 利 用 者 」 と 分 類 す る 。表 3に は 、男 女・年 齢 階 級 別 に 電 子 マ ネ ー 普 及 の 現 状 が ま と め ら れ て い る 。
表 3. 福 岡 県 に お け る 電 子 マ ネ ー 普 及 の 現 状 ( 性 別 ・ 年 齢 階 級 別 集 計 )
標本数 中・高頻度
利用者
低頻度
利用者 非利用者
79 22.8% 24.1% 53.2%
男 34 32.4% 23.5% 44.1%
女 45 15.6% 24.4% 60.0%
301 19.9% 27.6% 52.5%
男 145 26.2% 24.8% 49.0%
女 156 14.1% 30.1% 55.8%
246 25.2% 24.4% 50.4%
男 120 32.5% 26.7% 40.8%
女 126 18.3% 22.2% 59.5%
258 23.3% 24.0% 52.7%
男 129 23.3% 21.7% 55.0%
女 129 23.3% 26.4% 50.4%
261 11.1% 22.2% 66.7%
男 132 10.6% 28.0% 61.4%
女 129 11.6% 16.3% 72.1%
1145 20.0% 24.6% 55.4%
男 560 23.6% 25.2% 51.3%
女 585 16.6% 24.1% 59.3%
50歳以上
合計 30~39歳
40~49歳 20歳以下
20~29歳
電 子 マ ネ ー を 週 に 2~3 日 以 上 の ペ ー ス で 利 用 す る「 中・高 頻 度 利 用 者 」が 占 め る 比 率 は 全 体 の20% 程 度 で あ る 。こ れ に 週 に1日 以 下 の ペ ー ス で 利 用 す る「 低 頻 度 利 用 者 」 を 加 え る と 、 電 子 マ ネ ー 利 用 者 は 全 体 の 44.6% 程 度 と な る 。 年 齢 別 に 見 る と 、50 歳 代 以 上 で は 男 女 と も に 「 中 ・ 高 頻 度 利 用 者 」 の 割 合 が 低 い 。 ま た 、30 歳 代 以 下 の 各 年 齢 階 級 で は 、男 性 の ほ う が 女 性 と 比 べ て「 中 ・ 高 頻 度 利 用 者 」 の 割 合 が 高 い こ と が 特 徴 で あ る 。
本 調 査 は 範 囲 を 福 岡 県 に 限 定 し て お り 、か つ 、50 歳 以 上 の 年 齢 階 級 の サ ン プ ル 比 率 が 低 い こ と か ら 、 図 4に 示 さ れ た 『 家 計 消 費 状 況 調 査 』( 総 務 省 統 計 局 ) の 結 果 と の 単 純 な 比 較 は で き な い も の の 、「 中・高 頻 度 利 用 者 」に 限 定 し た と し て も 、 本 調 査 に お け る 福 岡 県 で の 電 子 マ ネ ー の 普 及 率 は 『 家 計 消 費 状 況 調 査 』
( 総 務 省 統 計 局 ) に お け る 九 州 ・ 沖 縄 で の 「 電 子 マ ネ ー を 使 う 家 族 が い る 世 帯 の 割 合 」 よ り も 高 い 数 値 と な っ て い る 。
次 に 、 表 4 は 電 子 マ ネ ー の 利 用 状 況 に つ い て 就 業 形 態 別 に 整 理 し た も の で あ る 。 こ の 表 の み か ら 判 断 す る 限 り 、 常 勤 有 業 者 ( 会 社 員 、 会 社 役 員 、 公 務 員 、 自 営 業 ・ 家 族 従 業 者 ) で は 、 学 生 以 外 の 非 就 業 者 と 比 較 し て 「 中 ・ 高 頻 度 利 用 者 」 の 占 め る 比 率 が 高 く な っ て い る 。 こ れ に 対 し 、 非 常 勤 有 業 者 ( パ ー ト タ イ ム 労 働 、 派 遣 労 働 ) と 学 生 に つ い て は 男 女 間 で 電 子 マ ネ ー の 利 用 状 況 に 差 異 が 認 め ら れ る 。 具 体 的 に は 、 男 性 は 常 勤 有 業 者 に 似 た 利 用 状 況 を 示 し て い る 一 方 で 、 女 性 は む し ろ ( 学 生 以 外 の ) 非 就 業 者 に 近 い 比 率 構 成 と な っ て い る 。
表 4. 福 岡 県 に お け る 電 子 マ ネ ー 普 及 の 現 状 ( 性 別 ・ 就 業 形 態 別 集 計 )
標本数 中・高頻度
利用者
低頻度
利用者 非利用者
588 25.0% 24.8% 50.2%
男 411 24.6% 25.3% 50.1%
女 177 26.0% 23.7% 50.3%
143 14.0% 29.4% 56.6%
男 24 25.0% 29.2% 45.8%
女 119 11.8% 29.4% 58.8%
131 21.4% 24.4% 54.2%
男 68 29.4% 22.1% 48.5%
女 63 12.7% 27.0% 60.3%
283 12.0% 21.9% 66.1%
男 57 8.8% 26.3% 64.9%
女 226 12.8% 20.8% 66.4%
1145 20.0% 24.6% 55.4%
男 560 23.6% 25.2% 51.3%
女 585 16.6% 24.1% 59.3%
常勤有業者
非常勤有業者
合計 学生
学生以外の非就業者
図 2で 示 さ れ た 通 り 、 電 子 マ ネ ー サ ー ビ ス を 専 業 と す る ビ ッ ト ワ レ ッ ト 社 の Edy は 近 年 に な っ て 利 用 件 数 の 伸 び が 止 ま っ て い る 一 方 、 首 都 圏 の 交 通 系 電 子