平場 誠示 (Seiji HIRABA) 2018 年 5 月 3 日
目 次
1 計量ベクトル空間(metric vector space) 1
1.1 内積,複素内積(inner product, complex inner product) . . . . 1
1.2 直交基底,随伴行列とグラム行列(orthogonal basis, adjoint matrix and Gram matrix) . . . . 2
1.3 直交行列とユニタリ行列,対称行列とエルミート行列(orthogonal matrix and uni- tary matrix) . . . . 4
2 直和(direct sum) 6 2.1 直積,部分空間の和(product, sum of subspaces) . . . . 6
2.2 直交補空間(orthogonal complement) . . . . 8
2.3 線形変換の安定部分空間(stable subspaces of linear transforms) . . . . 8
3 固有値(eigen values) 9 3.1 固有値と固有空間,固有多項式(eigen value and eigen space, eigen polynomial) 9 3.2 ケーリー・ハミルトンの定理とフロベニウスの定理(Cayley-Hamilton’s theorem and Frobenius’s theorem) . . . . 11
3.3 代数学の基本定理(fundamental theorem in algebra) . . . . 12
4 対角化(diagonalize) 13 4.1 対角化可能行列(diagonalizable matrix) . . . . 13
4.2 ユニタリ行列とエルミート行列の固有値(eigen values of unitary matrix and her- mitian matrix . . . . 14
4.3 正規行列(normal matrix) . . . . 15
4.4 直交行列の標準形(norma form of orthogonal matrix) . . . . 16
5 2次形式(quadratic form) 17 5.1 2 次形式の定義(definition of quadratic form) . . . . 17
5.2 正定値2 次形式(positive definite quadratic form) . . . . 17
5.3 2 次形式の同値性(equivalence of quadratic forms) . . . . 19
5.4 平面2次曲線,空間 2次曲面(quadratic curve, quadratic surface) . . . . 21
1
6.2 対角化可能性の判定条件. . . . 22 6.3 2次行列の標準形,3次行列の標準形(normal forms of 2-dimensional matrix and
3dimensional matrix) . . . . 23 7 ジョルダン標準形(Jordan normal form) 24 7.1 ジョルダンの定理(Jordan’s theorem) . . . . 24 7.2 直既約分解,一般固有空間,フィッティングの補題( Fitting’s lemma, general eigen
space, direct irreducible decomposition ) . . . . 25 7.3 中山の補題,べき零変換(Nakayama’s lemma, nilpotent tranform) . . . . 27 7.4 ジョルダンの標準形の一意性(uniqueness of Jordan’s normal form) . . . . 29
本テキストでは数ベクトルは縦ベクトルとして,数ベクトルと行列を次のように表す.
a=
a1
a2
... an
, A=
a11 · · · a1n
a21 · · · a2n
... am1 · · · amn
.
またスペースの関係で縦に書くのが面倒なときは転置の記号を用いてa=t(a1, . . . , an)と表すこ ともある. また添字の範囲が分っているときは簡単にa= (ai), A= (aij)と表す.
1 計量ベクトル空間 (metric vector space)
1.1 内積,複素内積 (inner product, complex inner product)
V をR上のn次元ベクトル空間とする.
ちなみにベクトル空間とは和とスカラー倍が定義されていて, 和の結合則と可換性,零元と逆元
(マイナス)の存在, 1によるスカラー倍とスカラーの結合則と分配則がみたされている集合として
定義される.
定義 1.1 (·,·) :V ∋a,b7→(a,b)∈Rが内積(inner product)
⇐⇒def ∀a,b,c ∈ V, x ∈ R に対し, (1) 対称性 (a,b) = (b,a) (2) 線形性 (a,b+c) = (a,b) + (a,c), (xa,b) =x(a,b) (3)非負性 (a,a)≥0,「(a,a) = 0 ⇐⇒ a=0」
問 1.1 上の定義から次を示せ. (a+b,c) = (a,c) + (b,c), (a, xb) =x(a,b)
内積(·,·)が与えられたベクトル空間V を(正確には(V,(·,·))と表し,)計量ベクトル空間(metric vector space)という. また∥a∥=√
(a,a)をaの長さという.
例 1 (1)Rn の内積=標準内積 a= (ai),b= (bi)∈Rn, (a,b) =a1b1+· · ·anbn. (2)C(I)区間I= [a, b]⊂R上の連続関数全体の内積f, g∈C(I),(f, g) =
∫ b a
f(x)g(x)dx.
(3)R[x]≤n n次以下の多項式全体にも上と同じ内積が定義できる.
(4)Mm×n(R)実m×n行列全体の内積 A= (aij), B= (bij)∈Mm×n(R), (A, B) = tr(AtB) =
∑m i=1
∑n j=1
aijbij
補題1 (1)シュワルツの不等式 (Schwarz’s inequality) |(a,b)| ≤ ∥a∥∥b∥ (2) 三角 不等式 ∥a+b∥ ≤ ∥a∥+∥b∥
(1)は任意のx∈Rに対し, (xa+b, xa+b)≥0とxについての2 次式とみて,判別式から容 易に分り, (2)は(1) から得られる.
cosθ= (a,b)/(∥a∥∥b∥)によって決まるθ∈[0, π]をa と bのなす角という. またθ= 0, i.e., (a,b) = 0のときaと bは直交するという.
補題2 a1,a2, . . . ,an∈V \ {0}: 互いに直交⇒これらは一次独立.
(証明) x1a1+· · ·+x1an =0とする. a1 との内積をとると x1(a1,a1) = 0. a1 ̸= 0 より x1= 0. 同様にしてxi= 0 を得て,一次独立となる.
V がC 上のn次元ベクトル空間のときにも同様に内積が定義できる. まず複素数について必要な性質を挙げておく.
虚数単位をi=√
−1とし,複素数z=x+iy (x, y∈R)に対し, Rez=x: 実部, Imz=y: 虚 部,|z|=√
x2+y2: zの絶対値,またz=x−iy: 複素共役に対し,次が成立する.
補題3 複素数z, z1, z2に対し,次が成り立つ.
(1)z=z,zz=|z|2, Rez= (z+z)/2, Imz= (z−z)/(2i), (2)z1+z2=z1+z2,z1z2=z1z2,
(3)z∈R ⇐⇒ z=z.
問 上の補題を証明せよ.
定義 1.2 (·,·) :V ∋a,b7→(a,b)∈Cが複素内積orエルミート内積(hermitian –)
⇐⇒def ∀a,b,c ∈ V, z ∈ C に対し, (1) 対称性 (a,b) = (b,a) (2) 線形性 (a,b+c) = (a,b) + (a,c), (za,b) =z(a,b) (3)非負性 (a,a)≥0,「(a,a) = 0 ⇐⇒ a=0」
問 1.2 上の定義から次を示せ. (a+b,c) = (a,c) + (b,c), (a, zb) =z(a,b)
内積 (·,·) が与えられたベクトル空間 V を複素計量ベクトル空間 (complex metric vector space)といい, ∥a∥=√
(a,a)をa の長さという.
実計量ベクトル空間のときと同じように次が成り立つが,証明は少し工夫が必要である.
補題4 (1)シュワルツの不等式 |(a,b)| ≤ ∥a∥∥b∥ (2)三角不等式 ∥a+b∥ ≤ ∥a∥+∥b∥ (証明) (1)任意のz ∈C に対し, (za+b, za+b)≥0なので,展開し, z=−(a,b)/∥a∥2 を 代入すれば良い.
(2)は(1)とさらにRe(a,b)≤ |(a,b)|を用いれば得られる.
例 2 Cn の内積=標準内積 a= (ai),b= (bi)∈Cn, (a,b) =a1b1+· · ·+anbn.
またc1>0, . . . , cn>0に対し, (a,b) =c1a1b1+· · ·+cnanbn と定義しても内積となるので,必 ずしも内積は一つではないことに注意.
1.2 直交基底,随伴行列とグラム行列 (orthogonal basis, adjoint matrix and Gram matrix)
以下,V をRorC 上の計量ベクトル空間とし,内積を(·,·)で表す.
定義 1.3 {a1, . . . ,an} ⊂V \ {0}が直交系 (orthogonal system) ⇐⇒def [i̸=j ⇒(ai,aj) = 0]
更に全ての長さが1のとき, 正規直交系(orthonormal system =ONS)という.
また{a1, . . . ,an} ⊂V \ {0}が直交基底 (orthogonal basis)or正規直交基底 (orthonormal basis = ONB) ⇐⇒def 基底であり,かつ, 直交系or正規直交系.
定理1 n次元計量ベクトル空間V のONB を{e1, . . . ,en}とする. ∀a∈V, a= (a,e1)e1+· · ·+ (a,en)en
∥a∥2=|(a,e1)|2+· · ·+|(a,en)|2 (パーセバルの等式 (Parseval’s equation)) (証明) 殆ど明らか. 実際{ei} が基底なので,a=x1e1+· · ·+xnen と表せて, 正規直交系で あることから(a,ei) =xi と∥a∥2=|x1|2+· · ·+|xn|2 を得る.
実はこの定理の証明から,次の正規直交基底の作り方も分る.
定理2 (シュミットの直交化法) n次元計量ベクトル空間V において,正規直交基底(ONB) はいつでも存在する.
(証明) まずn次元であることから基底{a1, . . . ,an} ⊂V が存在. そこで be1=a1, b1=be1/∥be1∥, be2=a2−(a2,b1)b1, b2=be2/∥be2∥,
· · ·
fbn =an−(an,b1)b1− · · · −(an,bn−1)bn−1, bn =bfn/∥bfn∥. とおけば,{be1, . . . ,bfn} がONSで, {b1, . . . ,bn}がONB となる.
実際,各bei̸= 0は {ai} の一次独立性から明らかで, まず,
(be2,b1) = (a2,b1)−(a2,b1)∥b1∥2= 0.
i < j のとき, {b1, . . . ,bj−1}が正規直交系であることを仮定すれば, (bei,bej) = 0 も容易に確かめ られるので帰納法により,証明が終わる.
例題 1 R4 の基底a1 =t(1,−1,1,−1),a2 =t(0,2,0,2),a3 =t(0,0,1,2),a4 =t(0,0,0,5) から 正規直交基底を構成せよ.
[解] 順次公式に当てはめていけば,∥a1∥= 2より,b1=t(1,−1,1,−1)/2,be2=t(1,1,1,1)より, b2 =t(1,1,1,1)/2,be3 =t(−1,−2,1,2)/2 より, b3 =t(−1,−2,1,2)/√
10, be4 =t(2,−1,−2,1)/2 より,b2=t(2,−1,−2,1)/√
10. (→この計算を確かめよ.)
定義 1.4 複素行列A に対し, A∗ =tAを A の随伴行列 (adjoint matrix) という. (A が実行 列なら A∗=tAは転置行列と同じである.)
明らかに(AB)∗=B∗A∗. またAが正方行列ならdet(A∗) = det(tA) = detA= detA.
定義 1.5 計量ベクトル空間 V において, a1, . . . ,an ∈ V に対し, 行列((ai,aj)) ((i, j) 成分が (ai,aj)である行列)をa1, . . . ,an のグラム行列 (Gram matrix)という. その行列式をグラム行 列式という.
定理3 計量ベクトル空間V の n個のベクトルa1, . . . ,an に対するグラム行列をAとする と,∃B: n次行列; A=BB∗. 特にdetA=|detB|2(≥0). また
「a1, . . . ,an が基底 ⇐⇒ detA >0」
(証明) V の ONBを{e1, . . . ,en} とすると,
ai= (ai,e1)e1+· · ·+ (ai,en)en=
∑n k=1
(ai,ek)ek
より,
(ai,aj) = ( n
∑
k=1
(ai,ek)ek,aj
)
=
∑n k=1
(ai,ek)(ek,aj) =
∑n k=1
(ai,ek)(aj,ek).
従って, B= (bij)をbij= (ai,ej)ととれば, (ai,aj) =∑n
k=1bikbjk となり,A=BB∗をみたす. さらにdetA= detB·detB∗= detB·detB=|detB|2. 次に,a1, . . . ,an が基底なら上の式から,
tB は基底e1, . . . ,en から基底a1, . . . ,an への変換行列となるので,正則で, detA=|detB|2>0.
逆にdetA >0 なら, 上で定めたB に対し, detB ̸= 0で,正則となり, このtB で基底e1, . . . ,en
を変換すれば,∑n
k=1bikek=ai より,a1, . . . ,an が得られて,基底となる.
1.3 直交行列とユニタリ行列,対称行列とエルミート行列 (orthogonal matrix and unitary matrix)
まずn次元抽象ベクトル空間 U =Un からm次元抽象ベクトル空間 V =Vmへの線形写像 f と表現行列A= (aij) (m×n行列)との関係について確認しておく.
まず普通の数ベクトルのときは{e1, . . . ,en} を Un = Rn の標準基底とし, {e′1, . . . ,e′m} を Vm=Rm の標準基底とすると
f(ej) =Aej=
a11 · · · a1j · · · a1n
a21 · · · a2j · · · a2n
...
am1 · · · amj · · · amn
ej =
a1j
a2j
... amj
=a1je′1+a2je′2+· · ·+amje′m
最後の式はaj = t(a1j, . . . , amj), i.e., A = (a1, . . . ,an) として(e′1, . . . ,e′m)aj と表すことも出 来る.
これを抽象化して,{e1, . . . ,en} を Un のある基底とし,{e′1, . . . ,e′m} を Vm のある基底として 考えて,f(ej)∈Vmをこの基底で展開する時の係数を次のようにおけば良いことになる.
f(ej) =a1je′1+a2je′2+· · ·amje′m=
∑m k=1
akje′k= (e′1, . . . ,e′m)aj
ej をf で写したベクトルの係数がAの第j 列となる. 即ち,
(f(e1), . . . , f(en)) = (e′1, . . . ,e′m)(a1, . . . ,an) = (e′1, . . . ,e′m)A これにより,f =fAとなる. (但し,これを縦に並べて書くと
f(e1) = a11e′1+a21e′2+· · ·am1e′m f(e2) = a12e′1+a22e′2+· · ·am2e′m
...
f(en) = a1ne′1+a2ne′2+· · ·amne′m となり,係数の配置がA の転置になってしまうことに注意.)
基底を変えると表現行列が変わることに注意. 例えば実n次正方行列Aに対し,f =fA:Rn→ Rn を考え,ある正則行列P = (p1, . . . ,pn)に対し,基底を {p1, . . . ,pn}に変えて考えると,
(f(p1), . . . , f(pn)) = (Ap1, . . . , Apn) =AP =P(P−1AP) = (p1, . . . ,pn)(P−1AP).
このとき表現行列は P−1AP に変わる.
定義 1.6 計量ベクトル空間V 上の線形変換f が∀a,b∈V,(f(a), f(b)) = (a,b)をみたすとす る. V が実計量ベクトル空間のときf を直交変換(orthogonal transform)といい,V が複素計 量ベクトル空間のときf をユニタリ変換 (unitary transform)という.
定義 1.7 n次実行列Aが直交行列(orthogonal matrix) ⇐⇒def tAA=En, i.e.,∑
kakiakj=δij. n次複素行列Aがユニタリ行列 (unitary matrix) ⇐⇒def A∗A=En, i.e., ∑
kakiakj=δij.
実はtAA=En ならAtA=En も成り立つ. A∗A=En ならAA∗=En も同様. (これは後で述 べる正規行列(normal matrix)に含まれる.)
問 何故か答えよ.
問 1.3 Aが直交行列(orユニタリ行列)なら|detA|= 1, A−1=tA(orA−1=A∗)を示せ.
問 1.4 A, B が直交行列orユニタリ行列ならABもそうを示せ.
定理4 計量ベクトル空間V 上の線形変換f に対し,V の一組の正規直交基底についてのf の表現行列を Aとする.
[f がユニタリ変換 ⇐⇒ Aがユニタリ行列]. 同様に [f が直交変換 ⇐⇒ A が直交行列].
(証明) ユニタリ変換のときのみ示す. {e1, . . . ,en} を一組のONB とし,f(ei) =∑n
k=1akiek としてA= (aij)とする.
(f(ei), f(ej)) = ( n
∑
k=1
akiek,
∑n ℓ=1
aℓjeℓ
)
=
∑n k=1
∑n ℓ=1
akiaℓj(ek,eℓ) =
∑n k=1
akiakj.
従って f がユニタリ変換ならδij =∑n
k=1akiakj となり,これはA∗A=En を意味する. 逆に A がユニタリ行列とすると, (f(ei), f(ej)) = ∑n
k=1akiakj = δij が成り立つ. そこで x = ∑
xiei,y = ∑
yiei とすると(x,y) = ∑
xiyi. 一方, 一つ上の式から(f(x), f(y)) =
∑
i,jxiyj(f(ei), f(ej)) =∑
ixiyi となり, (f(x), f(y)) = (x,y)を得る.
定義 1.8 計量ベクトル空間 V 上の線形変換 f が対称変換 (symmetric transform) ⇐⇒def
∀a,b∈V,(f(a),b) = (a, f(b))
定義 1.9 n 次正方行列A = (aij) が対称行列 (symmmetric matrix) ⇐⇒def tA = A ⇐⇒
aij =aji. 特に A が実なら実対称行列という. またA = (aij)がエルミート行列 (hermitian matrix) ⇐⇒def A∗=A ⇐⇒ aij=aji.
問 1.5 A: エルミートならdetAは実数,また逆行列があればそれもエルミートを示せ.
問 1.6 Aが正方行列なら∃1B, C: エルミート;A=B+iCを示せ. (A∗=B−iC) 定理5 (1)n次実行列Aとその線形写像fA:Rn →Rn について,Rn に標準内積を入れて 実計量ベクトル空間とみるとき, [fA が対称変換 ⇐⇒ Aが対称行列].
(2)n次複素行列Aとその線形写像fA:Cn→Cn について,Cn に標準内積を入れて複素計量 ベクトル空間とみるとき, [fA が対称変換 ⇐⇒ A がエルミート行列].
(証明) (2) のみを示す. A = (aij) とすると(fA(ei),ej) = (Aei,ej) = aji, (ei, fA(ej)) = (ei, Aej) =ajiより明らか.
2 直和 (direct sum)
2.1 直積,部分空間の和 (product, sum of subspaces)
定義 2.1 ベクトル空間U, V に対し, [a,b]∈U×V ⇐⇒def a∈U,b∈V とおく. [a,b],[a′,b′]∈ U ×V に対し
[a,b] = [a′,b′] ⇐⇒def a=a′,b=b.
また和とスカラー積を次で定義する.
[a,b] + [a′,b′] = [a+a′,b+b′], x[a,b] = [xa, xb].
これによりU×V はベクトル空間となり,これをU とV の直積空間(product space) という.
さらに一般に n個のベクトル空間U1, . . . , Un の直積空間U1× · · · ×Un ∋[a1, . . . ,an]が同様に 定義される.
定理6 dimU ×V = dimU+ dimV.
(証明) Uの基底e1, . . . ,erとV の基底e′1, . . . ,e′sにより, [e1,0], . . . ,[er,0],[0,e′1], . . . ,[0,e′s] がU ×V の基底となることから明らか.
定義 2.2 ベクトル空間 V の部分空間U1, U2 に対し, a1+a2∈U1+U2
⇐⇒def a1∈U1,a2∈U2
と定義し,U1 とU2の和 (sum)という.
この和U1+U2 はU1, U2 を含むV 最小の部分空間である.
例 U1=L(a1, . . . ,ar), U2=L(b1, . . . ,br)ならU1+U2=L(a1, . . . ,ar,b1, . . . ,br).
補題5 V の部分空間U1, U2 の直積U1×U2を考える.
(1) 自然に定義される線形写像f :U1×U2→U1+U2 があり,これは全射.
(2) (1)の写像f が同型 ⇐⇒ U1∩U2={0}.
(証明) (1) [a,b]∈U1×U2 に対し,f([a,b]) =a+bとおけば,線形性も全射性も明らか. (2) (1)より,f: 単射 ⇐⇒ U1∩U2={0}を示せば良い. まずもしf: 単射ならKerf ={[0,0]} で,a∈U1∩U2 に対し, [a,−a]∈Ker f ={[0,0]} より,a=0. ゆえにU1∩U2={0}. 逆にこ のとき, [a,b]∈ U1×Uw に対し, 0=f([a,b]) =a+b ならa =−b∈ U1∩U2 ={0} となり, [a,b] = [0,0]. よってKerf ={[0,0]}となり,f: 単射.
定義 2.3 V の部分空間U1, U2 がU1∩U2={0} をみたすとき,その和U1+U2 をU1⊕U2と表 し,U1, U2の直和(direct sum)という.
定理7 V の部分空間U1, U2 に対し,以下は全て同値.
(1) U1+U2=U1⊕U2.
(2) U1+U2 はU1×U2と同型.
(3) U1∩U2={0}.
(4) dim(U1+U2) = dimU1+ dimU2.
(5) a+b∈U1+U2 (a∈U1,b∈U2)の表現は一意的.
(6) a∈U1,b∈U2 に対し,a+b=0=⇒a=b=0.
(証明) 定義と前の補題から (1), (2), (3) の同値性は明らか. さらに前定理からdim(U1× U2) = dimU1+ dimU2 なので, (2) から (4) をえる. 逆に (4) を仮定すると, 前の補題の写像 f :U1×U2→U1+U2 に対し,次元公式から
dim(U1+U2) + dim Kerf = dim(U1×U2) = dimU1+ dimU2
で, (4)からdim Kerf = 0, i.e., Kerf ={0}となり,f は単射で,全射性は前の捕題で示されてる ので, 同型となり, (2)をえる. 次に (5)⇒(6)⇒ (3)⇒(5)を示す. (5)はa,a′ ∈U1,b,b′ ∈U2
に対し,a+b=a′+b′ ⇒a=a′,b=b′ が成り立つことを意味するので,∀a∈U1,∀b∈U2に対 し,a′ =0∈U1,b′ =0∈U2 とすれば, a=0,b=0を得るので, (6)が成り立つ. (6)を仮定す るとa ∈U1∩U2 に対し, a+ (−a) =0 より,a =0となり, (3)を得る. 最後に (3) を仮定し, a,a′ ∈U1,b,b′∈U2 に対し,a+b=a′+b′ とするとa−a′ =b′−b∈U1∩U2={0} となり, a=a′,b=b′ を得て, (5)が成り立つ.
n個の直和についても同様に定義できて,上の定理と同様な結果が成り立つ.
定義 2.4 V の部分空間U1, . . . , Urに対し,その和U1+· · ·+Ur が次をみたすとき,U1⊕ · · · ⊕Ur
と表し,U1, . . . , Ur の直和(direct sum)という.
1≤∀i < r,(U1+· · ·+Ui) +Ui+1= (U1+· · ·+Ui)⊕Ui+1 定理8 V の部分空間U1, . . . , Ur に対し,以下は全て同値.
(1) U1+· · ·+Ur=U1⊕ · · · ⊕Ur.
(2) U1+· · ·+Urは U1× · · · ×Urと同型. (3) 1≤∀i < r,(U1+· · ·+Ur)∩Ui+1={0}. (4) dim(U1+· · ·+Ur) = dimU1+· · ·+ dimUr.
(5) a1+· · ·+ar∈U1+· · ·+Ur (ai∈Ui,1≤i≤r)の表現は一意的. (6) a1∈U1, . . . ,ar∈Urに対し,a1+· · ·ar=0=⇒a1=· · ·=ar=0.
V の部分空間U1, . . . , Ur を選んで,V =U1⊕ · · · ⊕Ur とできるとき, これを V の直和分解と いう.
2.2 直交補空間 (orthogonal complement)
定義 2.5 V を計量ベクトル空間とする. V の部分空間U に対し, U⊥ ={a∈V;∀x∈U,(a,x) = 0} とおき,これをU の直交補空間 (orthogonal complement)という.
問 U⊥ が部分空間であることを確かめよ.
定理9 計量ベクトル空間V の部分空間U に対し,直和分解V =U⊕U⊥が成り立つ. 従っ てdimV = dimU+ dimU⊥ も成り立つ.
(証明) U のONBを{e1, . . . ,er}とすると, [c∈U⊥ ⇐⇒ ∀i≤r,(c,ei) = 0]. そこでa∈V に対し,b=∑
i≤r(a,ei)ei∈U を考えると, (a−b,ei) = (a,ei)−(b,ei) = (a,ei)−(a,ei) = 0, 即ち, a−b ∈ U⊥ となるので, a = b+ (a−b) ∈ U +U⊥, i.e., V = U +U⊥ を得る. また a∈U∩U⊥ なら(a,a) = 0 となり,a=0をえるので,U ∩U⊥={0}. よって V =U⊕U⊥. 前 の定理から最後の次元についての式も成り立つ.
問 2.1 計量ベクトル空間V の部分空間U に対し, (U⊥)⊥ =U を示せ.
U ⊂(U⊥)⊥ は容易で,逆は次元から分る. 問 2.2 C3 の標準内積で,a=t(1, i,0)に対し,部分空間U =L(a)の直交補空間を求めよ.
U⊥=L(t(i,1,0),t(0,0,1))
2.3 線形変換の安定部分空間 (stable subspaces of linear transforms)
この節での内容は4 章の対角化の中の正規行列の対角化可能定理の証明と7 章のジョルダンの 標準形の定理の証明で必要となる.
以下ではV は計量ベクトル空間である必要はない.
定義 2.6 ベクトル空間V 上の線形変換f とV の部分空間U に対し,U がV のf 安定 (stable) (部分空間) ⇐⇒def f(U)⊂U.
明らかにV や {0}は f 安定である.
定理10 V の基底e1, . . . ,en を初めのr個が部分空間U の基底となるようにとっておく. こ のとき V 上の線形変換f のこの基底に関する表現行列をAとすると,U がf 安定 ⇐⇒
A= (
A1 ∗ O A2
)
但し,A1は r次正方行列で,A2 はn−r次正方行列.
(証明) Aが(f(e1), . . . , f(en)) = (e1, . . . ,en)A, i.e.,f(ej) =∑n
k=1ekakj をみたしているこ とに注意すれば,ほぼ明らか. 実際Aが上の形のとき, 1≤i≤rに対し,f(ei)はe1, . . . ,erの一 次結合として表されるので, f(ei)∈U, i.e.,f(U)⊂U. よって U は f 安定. 逆にU が f 安定な ら, 1≤i≤rに対し, f(ei)を e1, . . . ,en の一次結合として表したとき, er+1, . . . ,en の係数は0 でなければならないので,Aは定理の中の形で与えられる.
上と同様にいくつかの部分空間についても次が証明される.
定理11 ベクトル空間V の部分空間の列W1⊂W2⊂ · · · ⊂Ws=V があるとき,V の基底 e1, . . . ,en を1≤i≤sに対し,初めのri個がWiの基底となるようにとっておく. このときV 上 の線形変換f のこの基底に関する表現行列をA とすると,各 Wi が全てf 安定 ⇐⇒
A=
A1 ∗ ∗ ∗
A2 ∗ ∗
O . .. ∗ As
但し,各 Ai はri−ri−1 次正方行列(r0= 0).
問 上の定理の証明を与えよ.
定理12 V がV =U1⊕U2 と直和分解されているときr= dimU1, n−r= dimU2 とする. またV の基底e1, . . . ,en を初めのr個が部分空間U1 の基底となるようにとっておく. (当然,後 ろの n−r 個はU2 の基底となる.) このときV 上の線形変換f のこの基底に関する表現行列を A とすると,U1, U2 がf 安定 ⇐⇒
A= (
A1 O O A2
)
但し,A1は r次正方行列で,A2 はn−r次正方行列. (証明) まず前の定理からU1 が f 安定 ⇐⇒ A=
(
A1 B O A2
)
. 更にU2 も f 安定なら, r+ 1≤i≤nに対し,f(ei) をe1, . . . ,en の一次結で表したとき, eq, . . . ,er の係数は 0 なので, B =O. 逆にB=O ならU2が f 安定なることも同様.
ここから先, (2次形式までの)主な目標としては,『正定値実対称行列は正の固有値をもち,適当 な直交行列によって対角化でき,その対角成分は固有値となる』という結果の証明の流れを理解す ることであるが, 当面,前期後半の目標として,実対称行列やエルミート行列,直交行列,ユニタリ 行列を含む『正規行列がユニタリ行列によって対角化できる』ことを理解してもらいたい.
3 固有値 (eigen values)
3.1 固有値と固有空間,固有多項式 (eigen value and eigen space, eigen polynomial)
定義 3.1 ベクトル空間 V 上の線形変換 f に対し, λ∈C が f の固有値 (eigen value) ⇐⇒def
∃a∈V \ {0};f(a) =λa. またこのaを固有値λに属するf の固有ベクトル(eigen vector)と いう.
またn次正方行列Aに対しても,同様に,λ∈CがA の固有値 ⇐⇒def ∃a∈C\ {0};Aa=λa.
またこのaを固有値λに属するAの固有ベクトルという.
定義 3.2 ベクトル空間 V 上の線形変換f の固有値λ∈Cに対し, Vλ={a∈V;f(a) =λa}= Ker (λ·idV −f)
を固有値λに属するf の固有空間 (eigen space) という. これはV の部分空間である. (→ 確 かめよ.)
例 3 (1)A= diag (λ1, . . . , λn) (λ1, . . . , λn を対角成分にもつ対角行列)なら,Cn の基本ベ クトル ej によって,Aej =λjej.
(2)C[x]≤n: n次以下の複素係数の多項式全体において, f =xdx:p(x)7→xp′(x)を考えると明 らかに線形変換で(→確かめよ.) 0≤k≤nに対し,f(xk) =kxk より,固有値 k,固有ベクトル xk となる.
定理13 n次正方行列Aに対し,次が成立する.
(1) λが Aの固有値 ⇐⇒ det(λEn−A) = 0.
(2) λが Aの固有値のとき,それに属する固有空間は
Vλ={a∈Cn; (λEn−A)a=0}= Ker (λEn−A).
(3) 固有値λに対し, dimVλ=n−rank (λEn−A).
(証明) (1) ∃x ̸=0;Ax =λx ⇐⇒ (λEn−A)x = 0 ⇐⇒ rank (λEn−A) < n ⇐⇒
λEn−Aが正則でない ⇐⇒ det(λEn−A) = 0.
(2)f =fA とすれば定義より明らか.
(3) g = gλEn−A とすれば, Vλ = Ker g. よって次元公式からdimVλ =n−dim Im g. また dim Im g= rank (λEn−A)なので求める式を得る.
上の定理により,xについての n次方程式det(xEn−A) = 0の解が固有値となる. 従って, 固 有値は高々n個しかない.
定義 3.3 n 次正方行列 A に対し, 次の x の n 次多項式 χA(x) をA の固有多項式 (eigen polynomial) といい,χA(x) = 0をAの固有方程式 (eigen equation)という.
χA(x) = det(xEn−A) =
x−a11 −a12 · · · −a1n
−a21 x−a22 · · · −a2n
... ... . .. ...
−an1 −an2 · · · x−ann
.
三角行列Aの対角成分がa11, a22, . . . , annなら,固有多項式はχA(x) = (x−a11)(x−a22)· · ·(x− ann)で,対角成分が固有値となる.
定義 3.4 正方行列A, B に対し,
A≈B: AとB が相似(similar) ⇐⇒def ∃P: 正則行列;A=P−1BP.
定理14 A≈B のとき, χA(x) =χB(x). 従って Aと B の固有値は一致する. さらに固有 値をλ1, . . . , λn とするとtrA= trB=λ1+· · ·+λn, detA= detB=λ1· · ·λn.
(証明) A=P−1BPならxEn−A=xEn−P−1BP =P−1(xEn−B)P より, det(xEn−A) = det(P−1) det(xEn−B) detP = (detP)−1det(xEn−B) detP = det(xEn−B).
後半はdet(xEn−A) = χA(x) = (x−λ1)· · ·(x−λn) より, 両辺で xn−1 の係数を考える と, −(a11 +· · ·+ann) = −(λ1+· · ·+λn). また定数項を考えれば, (−1)ndetA = χA(0) = (−1)nλ1· · ·λn. さらに固有方程式が同じなのでAを B に変えても同じ結果を得る.
3.2 ケーリー・ハミルトンの定理とフロベニウスの定理 (Cayley-Hamilton’s theorem and Frobenius’s theorem)
定理15 (フロベニウスの定理) n 次行列A の固有値を(重複も込めて)λ1, . . . , λn とする.
このとき任意の多項式p(x)に対し,n次行列p(A)の固有値は(重複も込めて)p(λ1), . . . , p(λn)と なる. 特に
trp(A) =p(λ1) +· · ·+p(λn), detp(A) =p(λ1)· · ·p(λn), 定理16 (ケーリー・ハミルトンの定理) n次行列Aに対し,χA(A) =O.
これらの定理の証明に次の三角化定理を用いる.
定理17 (三角化定理) 任意の n次行列 Aは上三角行列と相似である. 即ち,A の固有値を λ1, . . . , λn として∃P: 正則行列;
P−1AP =
λ1
λ2 ∗ O . ..
λn
(証明) nについての帰納法で示す. n= 1なら明らかに成り立つ. そこでn−1 次では成り 立つと仮定する. A の固有値λ1 と対応する固有ベクトルq1 ̸=0をとる. これに適当にベクトル を加えて,基底q1, . . . ,qn を作り,Q= (q1, . . . ,qn)とおく. Aq1=λ1q1 より,この基底に関する fAの表現行列を考えると,ある(n−1)次行列 A1があり,
AQ=A(q1, . . . ,qn) = (q1, . . . ,qn) (
λ1 ∗ O A1
)
, i.e, Q−1AQ= (
λ1 ∗ O A1
) .
ここで A1 に対し, 帰納法の仮定から∃R1: (n− 1) 次正則行列; R−11A1R1 は上三角行列.
そこで R= (
1 O
O R1 )
とし, P = QR とおけばこれが条件を満たすことが分る. 実際, R−1=
(
1 O
O R−11 )
より,
R−1Q−1AQR= (
1 O
O R1−1 ) (
λ1 ∗ O A1
) (
1 O
O R1
)
= (
λ1 ∗
O R−11A1R1
) .
[フロベニウスの定理の証明]
三角化定理のB=P−1AP をとると
Bk=
λk1
λk2 ∗ O . ..
λkn
.
これから多項式p(x) =c0xm+c1xm−1+· · ·+cm−1x+cm に対し,
P−1p(A)P = P−1(c0Am+c1Am−1+· · ·+cm−1A+cmEn)P
= c0Bm+c1Bm−1+· · ·+cm−1B+cmEn
=
p(λ1)
p(λ2) ∗ O . ..
p(λn)
.
従ってP−1p(A)P の固有値はp(λ1), . . . , p(λn)で,相似なp(A)の固有値も同じとなる. 後半も前 の定理から従う.
[ケーリー・ハミルトンの定理の証明]
上と同じ上三角行列B=P−1AP をとる. 固有多項式は一致するχA(x) =χB(x)から χB(B) =χA(P−1AP) =P−1χA(A)P.
従って,初めからAをλ1, . . . , λn を対角成分に持つ上三角として考えれば良い. このとき χA(A) = (A−λ1En)· · ·(A−λnEn)
で,Ci =A−λiEn とおくと, (i, i)成分が 0 の上三角なので, C1 の第 1 列は0, C1C2 の第1, 2 列は0,C1C2C3 の第1〜 3列は0,というように計算してC1· · ·Cn =O を得る.
3.3 代数学の基本定理 (fundamental theorem in algebra)
定理18 (代数学の基本定理) 変数xについての複素係数のn次多項式 f(x) =c0xn+c1xn−1+· · ·+cn−1x+cn (c0̸= 0) に対し,∃λ∈C;f(λ) = 0.
この定理から,f(x)を x−λで割り,商と余りを考えることにより,次の系をえる.
系 1 変数 xについての複素係数のn 次多項式はn 個の一次式の積に因数分解する. 即ち, f(x) =c0(x−λ1)· · ·(x−λn) (λi∈C).