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Jpn J Rehabil Med 2011 ; : HSP HSP HSP Heat Shock Protein HSP HSP HSP HSP 1962 Ritossa 1 HSP HSP 2 HSP 70,000 HSP 70 HSP 70 H

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(1)

ヒートショックプロテイン(HSP)と マイルド加温

1.ストレスから生物を守るHSP

我々はさまざまな外敵障害から身体を守るべ く,生体防御作用を備えており,日常的な外敵障 害から防御されている.例えば,さまざまな細菌 やウイルスの感染に対しては免疫系がこれを防御 し,ケガをして出血すれば血液凝固系が活性化さ れ止血する.

そして,ストレスに対しては,ストレス蛋白と も 呼 ば れ る ヒ ー ト シ ョ ッ ク プ ロ テ イ ン(Heat

Shock Protein:HSP)が誘導され,ストレス防御

に対応する.我々は

60

兆個の細胞から成り,そ の細胞の働きの中心を担うのは,10万種以上あ るといわれている蛋白である.HSPはさまざまな ストレス時に誘導され,ストレスで傷害を受け構

造異常を起こしたこれら蛋白を修復し,元の元気 な細胞にする.

2.HSPの発見

HSP

はショウジョウバエを高温環境下(熱スト レス)で飼育することで増加する蛋白として

1962

年,Ritossaによって報告された1).HSPは熱ス トレス以外にも物理的・化学的・精神的なさまざ まなストレスそして運動によって誘導され,ショ ウジョウバエ以外にも,動物,植物,細菌に至る あらゆる生物において

HSP

が合成されており,

種を超えて生物をストレスから守るための根源的 に必要な生体防御蛋白といえる2)

HSP

には分子量によりさまざまな種類が存在 し,最もよく知られ研究されている分子量

70,000

HSP 70

はさまざまなストレスの中でも熱スト

レスにより最大に誘導されることから,我々は

HSP 70

の誘導法として,安全で,容易に実施で

きるマイルド加温療法を確立した(本文では

HSP

HSP 70

を示す).HSPの生理作用にはストレ ス防御作用,免疫増強作用,分子シャペロン作用 などがある.

3.HSPを誘導させるためのマイルド加温療法3)

一般に温熱療法といえば,43℃以上に加温して 癌細胞を死滅させる癌の温熱療法を示す.我々の 温熱療法は

40

42℃のマイルドな温度で加温し

細胞に熱ストレスを与え,

HSP

を誘導させ疾患の 治療や健康に役立てるマイルド加温療法(HSP療 法)である.マイルド加温療法では,加温自体に よる免疫能の増強,痛み緩和物質エンドルフィン の産生および加温により誘導される

HSP

の生理 第47回 日本リハビリテーション医学会 学術集会/鹿児島

本稿は第47回日本リハビリテーション医学会学術集会 シンポジウム「温泉・温熱の先端科学をリハビリテー ションへ」(2010520日,鹿児島)の講演をまと めたものである.

《シンポジウム》

温泉・温熱の先端科学をリハビリテーションへ

座長/

田島 文博・前田 眞治

マイルド加温,運動によるヒート ショックプロテイン(HSP 70)の 誘導とストレス防御

愛知医科大学医学部 泌尿器科

伊藤 要子,山田 芳彰,本多 靖明

(2)

Jpn J Rehabil Med . 48 . 1 2011 伊 藤 要 子・他

作用の両効果が期待される.遠赤外線加温装置な どを利用し,全身を

20

30

分加温後(舌下温が

1

2℃上昇),10

20

分保温する(お風呂でも 利用できる)と

HSP

2

日後をピークに

1

4

日後に増加する.

4. 予 め の マ イ ル ド 加 温( 予 備 加 温 ) に よ り HSPを準備しておき,大きなストレスに備 える:ストレス耐性4)

ストレスにより

HSP

が誘導されるが,ストレ ス傷害があまりにも大きな時は,HSPで修復でき なかった損傷蛋白が細胞内に多数残り,細胞は死 滅または傷害を受ける.そこで,我々は,あらか じめ軽度なストレス(熱ストレス)を与え,HSP を十分に準備してストレス耐性とし,大きなスト レスに備える予備加温療法(プレコンディショニ ング)を提唱している.このとき,ストレス応答 を受けた際のストレスと,その後のストレスの種 類が異なる場合にも,ストレス耐性は得られる.

予備加温によるラットストレス潰瘍の抑制5),マ ウス腎不全の抑制,その他,ショック,放射線障 害6),疲労の抑制など既に報告している.また予 備加温により運動能力が向上することからスポー ツ界へも貢献している.

マウスのトレッドミル(30分以上/日を

2

週間)

でも有意な

HSP

の増加を認め,運動によっても

HSP

は誘導される.この運動による

HSP

の誘導 は,運動が健康やストレスの防御に有効な原因の

1

つと考えられる7)

5.HSPの分子シャペロン作用

HSP

はストレスのない平常時には,分子シャペ ロンとして,細胞内での蛋白の合成,運搬,分解 と蛋白の一生に深く関与している.多くの蛋白が 必要な細胞増殖,治癒過程では

HSP

が必須とな り,治癒過程に温めて

HSP

を増加させると治癒 が促進される(急性期は避ける).よって,マイ ルド加温および運動による

HSP

の誘導はリハビ リテーション(以下,リハ)医学の分野にも大い に貢献できるものと思われる.

ヒートショックプロテイン(HSP)と運動

1.日常生活では得られにくくなったHSP

成人の体重の

40

%は筋肉重量であり,数十年 前のように日常生活での多くの仕事が肉体労働

(筋肉の収縮運動)によってなされていた時代に は,それによって

HSP

も増加し,運動は健康の ためというよりはレクリエーション的意味合いが 強かった.しかし,現在のように生活の電化,自 動化によりほとんど身体を動かさない(筋肉の収 縮運動がない)時代では,あえて健康のため運動 す る こ と に よ り

HSP

を 増 加 す る こ と が 必 要 に なってきた.

2.HSPの増加と運動量

マウスに

0

分,

10

分,

30

分,

60

分,

120

分/日 と運動量を変えてトレッドミルでの運動を

2

週間 続けた後,HSPを測定した.その結果,1日

10

分の運動では

HSP

は増加しなかったが,

1

30

分の運動を

2

週間続けると

HSP

は有意に増加し た.よって,有意な

HSP

の増加を得るためには 少なくとも

30

分/日の運動を

2

週間継続すること が必要と思われた.

また,マイルド加温

2

日後,HSPを測定すると 共に,エルゴメータでの仕事量(PWC:心拍数

170

の時の

Watt)を測定した結果,HSP

と仕事量 に比例関係が認められた.よって,HSPの増加が 運動能力の向上につながるといえる.

3.やり過ぎるとHSPは減少8)

ボート選手がワールドチャンピオンシップト レーニングを

4

週間続けたときの選手の腹側筋の

HSP

の測定結果では,トレーニング

1

2

週間で

HSP

は急激に増加し,2〜

3

週間では僅かに増加 し,HSPとしては

3

週間後が最大であった.しか し,4週間トレーニングを続けると

HSP

は逆に減 少し,トレーニングのしすぎによる

HSP

の減少 が示された.よって,最高のパフォーマンスを望 む場合は,トレーニングは試合前

2

3

週間とし,

HSP

を最高にして試合に望むのがベストと思われ る.

トレーニングは長期間続ければ良いというもの ではなく,HSPなど科学的な運動の指標を利用し

(3)

最高のパフォーマンスを発揮すべきと思われる.

マイルド加温を併用した温熱トレーニング

2

週間のトレーニング(運動)のみでも

HSP

の増加は認められるが,これにマイルド加温を併 用すると,より

HSP

が増加するのみでなく疲労 の軽減,パフォーマンスの向上が得られる.

1.MRSでの予備加温による筋疲労の防御

予めマウスの下肢の筋肉を

42

℃でマイルド加 温(予備加温)し,その

1

日後,2日後,7日後

に下肢を

48℃で加温した時のリンの磁気共鳴ス

ペクトロスコピー(

Magnetic Resonance Spectros- copy:MRS)を測定した結果,図

1に示したよう に,下肢筋肉のエネルギー(PCrクレアチンリン 酸,

ATP

)は,予備加温しない場合は

40

分で枯 渇したのに対し,予備加温

1

日後では

55

分後に 枯渇し,2日後では

60

分後でもエネルギーは残 存していた.しかし,

7

日後では予備加温の効果 はなく

40

分で枯渇した.

予備加温により誘導された

HSP

により,疲労 物質(

Pi

:無機リン)の増加が抑制され,エネル

ギーが持続し,疲労が抑制された.

2. 予備加温でHSPを高めてパフォーマンスを 向上9)

クロスカントリー選手

10

人を加温群と非加温 群の

2

群に分け,加温前と

2

日後にトレッドミル でのランニングテスト(運動能力)を比較した.

加温群には,遠赤外線加温装置で顔だけ出して全 身を仰臥位

20

分,腹臥位

20

分,合計

40

分予備 加温し,加温前,加温後

2

日,

4

日に

HSP

を測定 した.その結果,図2に示したように,加温群は

2

日後に

2.6

倍,4日後

2

倍と有意に

HSP

が増加 したが,非加温群は変化しなかった.

トレッドミルでのランニングテストでは,3分 間ランニングして

1

分休息後トレッドミルの速度 を

1

ランク上げ(

30 m

/分高め),また

3

分間ラン ニング後

1

分間休息と続け,走れなくなるまでの 時間を測定した.その結果,非加温群(6〜

10)

5

人中

1

人がランクアップ,

1

人はダウンし,

走行時間は平均

9.8

秒増加した.加温群(1〜

5)

では,5人中

2

人が加温前よりランクアップし,

走行時間が平均

40

秒増加し,加温群の方が有意

図1 Protection from muscle fatigue of leg by mild hyperthermia (詳細は本文参照)

㼄㼉㼗㼈㼕㻃㻚㼇㼄㼜㼖 㼄㼉㼗㼈㼕㻃㻕㼇㼄㼜㼖 㼄㼉㼗㼈㼕㻃㻔㼇㼄㼜㼖 㻦㼒㼑㼗㼕㼒㼏

(4)

Jpn J Rehabil Med . 48 . 1 2011 伊 藤 要 子・他

にトレッドミルでの運動能力が向上した(表).

2. 温熱トレーニングでHSP, NK活性およびパ フォーマンスの向上

大学レスリング部の選手

10

人を加温群と非加 温群に無作為に分け,2週間のトレーニングを実 施した.トレーニング実施前と後に運動能力テス ト(腕立て伏せ,無酸素パワーテスト,3分間ペ タリングテスト)と

HSP,NK

活性,血中疲労物 質の測定を行った.加温群には毎トレーニング終 了後,低温ミストサウナで全身マイルド加温を実 施,更にトレーニング後の運動能力テスト

2

日前 に遠赤外線加温装置で全身マイルド加温を実施し た8)

その結果,加温群も非加温群も

HSP

NK

活 性が増加したが,加温群の方がより高い増加を認 めた.この結果は,2週間のトレーニングのみで

HSP,NK

活性は増加するがマイルド加温を加

えた温熱トレーニングの方がより効果的に増加す ることが証明された.

加温群では,運動能力(腕立て伏せの回数)も 非加温群より有意に増強された.非加温群では,

無酸素パワーテスト後および

3

分間ペタリングテ スト終了後の乳酸値および血中疲労物資が増加し たが,加温群では増加せず疲労が軽減された.ま た安静時(翌日)の乳酸値は非加温群では有意に 増加したが,加温群では増加せず疲労を翌日まで 残さなかった.即ち,温熱トレーニングでは,疲 労の回復が早いことが証明された.

3.温熱トレーニングで筋力増強11)

健康な男子大学生を加温群と非加温群に分け,

2

週間の筋力増強トレーニングを実施した.加温 群にはトレーニング終了後に毎回,ガス遠赤外線 低温サウナヒーターで全身マイルド加温を実施 し,

2

週間後に両群の

HSP

と最大筋力を比較し た.その結果,加温群は

HSP

と最大筋力が有意 に増加したが,非加温群は増加しなかった.即 ち,アスリートではない一般大学生でも温熱ト レーニングで

HSP

の増加と筋力増強が得られた.

4. 高校クロスカントリー選手のゴールデン データ9)

3

人の高校生が予備加温前(Cont.)と予備加温

2

日後(Mild Hyperthermia)にトレッドミルでの ランニングテストを実施した.テストではトレッ ド ミ ル 速 度 は

180 m/

分 か ら,1分 間 の 休 息 後 図2 HSP 70 induced by mild hyperthermia

(詳細は本文参照)

㻗㻑㻓

㻖㻑㻘 㻖㻑㻓 㻕㻑㻘 㻕㻑㻓 㻔㻑㻘 㻔㻑㻓 㻓㻑㻘 㻓㻑㻓

㻗 䟼

㻳䠎㻓㻑㻓㻘

㻰㼌㼏㼇㻃㻫㼜㼓㼈㼕㼗㼋㼈㼕㼐㼌㼄 㻦㼒㼑㼗㻑

表 Exhaustion time of treadmill running by mild hyperthermia (詳細は本文参照)

Test 1 Test 2

Exhaustion time Test 2−Test 1(sec)

Protocol up or down Subject Running velocity Exhaustion time Running velocity Exhaustion time

(m/min) (min:sec) (m/min) (min:sec)

Heat 1 330 (1:31) 330 (2:03) 32

2 330 (3:00) 350 (1:15) 75 up

3 330 (1:33) 330 (2:05) 32

4 330 (2:22) 350 (0:33) 71 up

5 330 (1:06) 330 (1:34) 28

Cont. 6 330 (1:19) 330 (0:55) −24

7 300 (1:35) 300 (1:43) 8

8 300 (1:20) 300 (1:28) 8

9 330 (2:03) 330 (2:10) 7

10 300 (3:00) 330 (0:50) 50 up

Mild hyperthermia

(5)

30 m

/分ずつ速度を速めた.

1

分間の休息時に乳 酸値を測定した結果,3人とも予備加温後に有意 に血中乳酸値が低下していた.特にその中の

1

人 は, 疲 労 が 始 ま る 血 中 乳 酸 値 濃 度(

4 mmol

L

) の 値 を 超 え る こ と な く ト レ ッ ド ミ ル を

180

330 m/分まで走り続け,最後に 350 m/分で 4

11 mmol

L

と急激に乳酸値が増加し終了した.予 備加温で増加した

HSP

が最後の最後まで疲労を 防いだ(乳酸値の増加を遅らせる)すばらしい理 想的な走りであった(図3).

5.オリンピックのクロスカントリーでも実証9)

当時富山医科薬科大学教授でクロスカントリー のスポーツドクターをしていた田澤賢次先生が,

ソルトレイクシティへの加温装置の持込をオリン ピック協会に承認していただき,オリンピック開 催地で,希望する選手にはマイルド加温を実施し て競技に出場してもらった.オリンピック前に開 催されたワールドカップおよびオリンピック後の 試合においては全選手ともマイルド加温を実施し ていなかった.よって

A)ワールドカップ,B)

オリンピック,C)オリンピック後の試合のそれ ぞれの選手の順位を比較した.男子

No. 1

選手は

A

39

.

B

28

.

C

37

位,

No. 2

選 手 は

A

48

.

B

31

位,No. 3選手は

A) 53

.

B) 47

.

C) 59

位,No. 4 選手はマイルド加温せず

A) 40

.

B) 41

位と変わら ず,女子の選手においても

No. 1

選手は

A

42

.

B

29

位,No. 2選 手 は

A) 36

.

B) 33

位,No. 3選 手

はマイルド加温せず

A) 48

.

B) 45

位とマイルド加 温した選手は男女ともオリンピックでの順位が向 上していた.特に,今井博幸選手はノルデイック スキー

50 km

に照準を合わせ,その試合の日の

3

日前(今井選手自身マイルド加温

3

日後が一番体 調がよいとのことであった)にマイルド加温を実 施し,見事

6

位に入賞した.メダルこそとれな かったがクロスカントリーの日本歴史上初の入賞 者であった.

HSP

の初めてのスポーツ界でのデ ビュー戦といえる.

6. 癌患者のトレーニング(リハビリテーショ ン)とマイルド加温

癌患者の入院生活は長く, 癌 という精神的 重圧も大きい.患者は早く治って仕事に,家事に 復帰したいと願っており,入院中の休薬期間など 比較的体調の良いときは自分でも運動を試みてい る.しかし,院内を歩いたり,階段の昇り降りが せいぜいであり,体力・筋力は激減する.そこ で,マイルド加温で温めたのち,体調の良いとき は,特に遅筋を主体とした筋力を鍛えるトレーニ ング(リハ)を短時間でよいので加えたいと考え ている.必ずや生活の質(QOL)の改善に役立つ と考える.

疾患を問わず,長期入院中の患者には筋萎縮が 起こってくる.筋萎縮予防と

QOL

の改善のため に,リハと併用してマイルド加温(下肢のみのマ イルド加温でも良い)を実施したいものである.

癌,その他の疾患とマイルド加温療法

(HSP療法)

1. さまざまな癌治療とマイルド加温療法との 併用

癌の

3

大治療法である化学療法,放射線療法,

手術療法は,全て患者にとっては大きなストレス であるとともに,これらの治療には必ず副作用が 不随する.よって,これらの治療のストレス防禦 のため,そして副作用の軽減のため,マイルド加 温療法の併用が効果的である.我々は,進行性膀 胱癌の化学療法にマイルド加温療法を併用させ,

83

%と高い奏効率と副作用の軽減を報告してい る12)

図3  Lactate in blood during treadmill running by mild hyperthermia (詳細は本文参照)

㻔㻗 㻔㻕 㻔㻓

㻔㻛㻓 㻕㻔㻓 㻕㻗㻓 㻕㻚㻓 㻖㻓㻓 㻖㻘㻓 㻦㼒㼑㼗㻑

㻰㼌㼏㼇㻃㻫㼜㼓㼈㼕㼗㼋㼈㼕㼐㼌㼄

(6)

Jpn J Rehabil Med . 48 . 1 2011 伊 藤 要 子・他

マイルド加温で誘導される

HSP

のストレス防 禦効果により副作用が軽減され,癌患者の

QOL

が向上する.また,HSPは癌抗原と結合し,非常 に安全な副作用の無い

HSP

.ワクチン(癌ワクチ ン作用)として免疫を増強させる.

2. 新しい病気(フォールディング病)とマイ ルド加温療法

従来の疾患は病原性の細菌,ウイルスが原因で あり,これらを死滅させれば回復し治療可能で あった.しかし,最近話題になっているフォール ディング病は病原性微生物が原因ではなく,蛋白 の構造異常(ミスフォールディング)によって,

蛋白が凝集し細胞が死滅する.プリオン病,アル ツハイマー病,パーキンソン病,筋萎縮性側索硬 化症(

ALS

),各種神経変成疾患などいわゆる難 治性疾患といわれていた多くの疾患がこれに含ま れる.これら蛋白の構造異常を修復するのが

HSP

である.マイルド加温療法で誘導される

HSP

の みでは明らかに不十分であるが,症状緩和が期待 される.また,これらに対するリハ治療にもマイ ルド加温療法の併用が期待される.

HSP

を誘導するマイルド加温療法の有効性は今 後さらに広がると思われる

1) Ritossa FM : A new puffi ng pattern induced by tempera- ture shock and DNP in Drosophila. Experientia 1962 ; 18 : 571.573

2) 永田和宏 編 : ストレス蛋白質―基礎と臨床―. 中外医

学社, 東京, 1994

3伊藤要子 : 温熱療法の新しい臨床応用(予備加温)加温 により誘導されるHSP 70の生体防御作用―. 放射線生 物研究 1998 ; 33 : 381.397

4) 伊藤要子 : プレコンディショニングとしてのストレス

蛋白 (HSP 70)―Heat (加温) とExercise (運動) のすす め―. 放射線生物研究2002 ; 37 : 431.445

5) Itoh YH, Noguchi R : Pre-treatment with mild whole- body heating prevents gastric ulcer induced by restraint and water-immersion stress in rats. Int J Hyperthermia 2000 ; 16 : 183.191

6) 伊藤要子, 一本木真也, 中野雅則, 倉部輝久, 風岡宜暁,

石口恒男 : マウス局所および全身予備加温による生体 防禦効果―口腔局所予備加温による舌熱傷の防禦と全 身予備加温による放射線障害の防禦―. 日本医学放射 線学会雑誌2005 ; 65 : 255.262

7) 伊藤要子 : 全身加温による運動能力の向上 温熱療法に

より誘導されるHSP 70を利用した温熱トレーニング.

日本温泉気候物理医学会雑誌2004 ; 68 : 28.29

8) Liu Y, et al : Human skeletal muscle HSP 70 response to physical training depends on exercise intensity. Int J Sports Med 2000 ; 21 : 351.355

9伊藤要子, 小川耕平, 田澤賢次, 中野雅則, 風岡宜暁, 口恒男 : マイルド加温により誘導されるHSP 70による 運 動 能 力 の 向 上. 日 本 臨 床 生 理 学 会 雑 誌2008 ; 38 : 13.21

10) 滝山將剛, 小川耕平, 伊藤要子, 田澤賢次 : レスリング選

手における加温と運動能力の関係〜加温前と加温2 後の運動能力の変動〜. 国士舘大学体育研究所報2003 ; 22 : 1.5

11) 稲見崇孝, 伊藤要子, 大須賀友晃, 井上雅之, 宮川博文 :

マイルド加温 (温熱ストレス) が筋力増強訓練の短期 効果に及ぼす影響. 日本臨床スポーツ医学2010 ; 18 : 428.434

12) Yamada Y, Itoh Y, Aoki S, Nakamura K, Taki T, Naruse K, Tobiume M, Zennami K, Katsuta R, Kato Y, Watanabe M, Nishikawa G, Minami M, Nakahira M, Ukai S, Sawada M, Kitamura A, Honda N : Preliminary results of M-VAC chemotherapy combined with mild hyperthermia, a new therapeutic strategy for advanced or metastatic transi- tional cell carcinoma of the urothelium. Cancer Chemother Pharmacol. 2009 ; 64 : 1079.1083

(7)

リハビリテーションにおける温泉療法

リハビリテーション(以下,リハ)において物 理療法の

1

つに温熱療法があるが,この温熱療法 と し て 温 泉 を 活 用 で き る. 温 泉 は 日 本 各 地 に

28,033

カ所(2009年

3

月)の源泉数があり,2009 年延べ宿泊利用人数が

132,677,295

人という温泉 大国である.その中で,温泉は温めるとすると浴 槽などに入浴するなどの手法が必要となる.この 治療に際し,温泉地に病院があれば容易にその豊 富な熱源として利用可能と考えられ,世界にまれ なる温泉大国の日本としては活用することは他の 国に比べると容易である.

温泉の効果には,物理的効果,化学的効果,刺 激に対する生体反応効果が存在し,その他,環境 による要因もある.温泉 = 温水 + 化学物質 + 環境要因といった考え方がある.

温水としては「熱エネルギーをもつ水」という ようにもとらえることができ,温泉のもつ温熱効 果,静水圧,浮力,粘性抵抗などの効果をもたら す.温泉は,含有成分が含まれる熱エネルギーの ある温水と考えることもできる.この含有成分に よって効果がもたらされるとすれば,これを再現 することは難しいことではない.

では,温泉であればどのような温熱効果に利点 があるのかを知ることから始める必要がある.

温泉の効果とその利用法

リハに利用できる温泉の効果として,

1

)温熱,

2)浮力,3)水圧(静水圧),4)粘性抵抗,5)含

有成分による化学的効果,6)心理的効果などが ある.

1.温 熱

温熱効果のメカニズムは,人間は体温の調整幅 が変温動物とは異なり非常に狭いことに起因する

(図1).体温が高くなる方では,38℃の風邪の熱

でも疲労感を覚え,39℃ではインフルエンザ程度 で動くことすらできなくなってしまう.さらに

40℃で熱中症に,41℃で 30

分程度で死の危険性

があるといわれる.低い方では,35℃でふるえが 生じ,

34

℃で健忘が,

33

℃で意識障害.幻覚など が現れ,32℃では低体温療法に使われるという.

この,わずかの変化域をもつ人間の体温は,正常 で

36

37

℃前後であり,

41

℃水道水全身浴

15

分で

1.0℃前後,41℃温泉水で 1.5℃程度上昇する

変化から刺激が得られる.

種々の化学成分を含んだ温水の中で,我が国に おいては塩化ナトリウム(食塩)や炭酸水素ナト リウム(重曹),硫酸ナトリウムなどの塩類を含 んだものが多い.このような塩類を含んでいる と,温水中の熱伝導度や単位体積あたりの熱エネ ルギーが,水道水に比べると大きく,身体に熱が 伝わりやすい性質をもつことになる.この性質は 温泉のほうが同じ湯の温度でも水道水に比べて早 く温まることを示し,実際にも早く温まりやすい ことが示される(図2)1)

この体温上昇に伴う,血液循環の改善は(図 3),人間が恒温動物であることに由来し,細胞活

図1  体温と生体反応(人間の体温の変化の 幅は狭い)

リハビリテーションにおける温泉医

国際医療福祉大学大学院リハビリテーション学分野

前田 眞治

本稿は第47回日本リハビリテーション医学会学術集会 シンポジウム「温泉・温熱の先端科学をリハビリテー ションへ」(2010520日,鹿児島)の講演をまと めたものである.

(8)

Jpn J Rehabil Med . 48 . 1 2011 前 田 眞 治

動をつかさどる酵素活性などが一定の温度で最も 良く働くことができることに起因する.湯に浸か ると,外から熱が皮膚に浸透し,組織は一定の温 度を保とうと防御反応をとる.

そのため他の場所にある血液を送り込み,熱で 温められた組織から熱を受け取り,温まった血液 を他の部位に移送して,熱を放散することで,そ の組織の温度を守ろうとする.その活動をより効 率よく促すために,血液循環が良好になる.そし て,そのことが組織に蓄積した老廃物や疼痛物質 などを洗い流すことにつながる.

つまり,温熱は人間にとって容易に得られる刺 激とも考えられる.そして,温泉入浴は温熱刺激 が容易に得られる媒体であると思われる.

図4に疼痛緩和作用を電流知覚閾値計を用いた

実験がある2).電流知覚閾値計は指先に感じる電 流の強さで神経が感じる閾値を見るものである.

知覚神経のうち敏感で危険を回避するような速い 伝導速度を持つ太い

Ab

線維や

Ad

線維は影響を 受けないが,にぶい痛みを感じる細い自由終末の

C

線維が,水道水に比較し炭酸温水でより値が大 きくなり,さらに鈍くなっている.この結果は鈍 い痛みが炭酸温水浴で改善することを示してお り,温熱効果で水道水でも多少は疼痛神経の閾値 が上昇するが,温泉水ではその温熱効果からより 大きな疼痛緩和作用が得られることがわかる.

さらに,温熱はg神経系にも作用し,末梢部の 筋紡錘のg系ニューロンの活動抑制から,脊髄レ ベルでa運動ニューロンが抑制される.加えて温 図2  塩化ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,二酸化炭素温水の体温

上昇効果

図3 体温上昇による血液循環の改善

図4 温熱による知覚神経の鈍化に伴う疼痛緩和

(9)

泉であれば全身加熱により視床下部−g経路さ れ,中枢経由でもg神経系の抑制がなされる.こ の

2

つの機序で痙縮が減弱する(図5).

そこで,g運動ニューロン活動低下によるa運 動ニューロンの抑制に基づくといわれている痙縮 の程度を定量できるとされる筋電図を用いた

H

波を用いて痙縮減弱効果の実験を行ってみた(図 6)3).その結果,痙縮のある下肢のみを

41℃ 15

分間温水の中に入れることで,痙縮の指標として の

H

波の振幅が,入浴前に

0.98 mV

であったも のが,0.20 mVと低くなっており,痙縮抑制効果 が確認できる.

この効果は温度依存性で

35℃や 38℃に比べる

と,一般に入浴することの多い

41℃で減弱する

ことから,温泉浴で痙縮も改善されること示され る.このことは

F

波でも調べられている.

さらに,温熱固有の作用として,筋・腱・靭帯 などを構成する軟部コラーゲン線維などの熱膨張 に伴う伸張から,筋肉の長さが増し,そのぶん筋 弛緩を得ることができることでの緊張抑制も

1

つ の疼痛緩和機序として働く.

これらの温泉の疼痛緩和作用を背景に実際の患 者を入浴させてみた.その結果,日本整形外科学 会の腰痛点数では入浴前で水道水

23.8,炭酸温水 24.0

と差がなかったものが,入浴後には水道水で も

25.5

まで上昇し腰痛が軽減するが,炭酸温水 では

27.1

と著明に改善し,温泉のほうがより疼 痛の改善に効果があることがわかる.

以上のような温熱効果から,①疼痛緩和(疼痛 に関連する知覚神経の閾値上昇),②コラーゲン 線維の伸張性の増加による筋・関節の柔軟化,③ 血行促進による効果:老廃物や疼痛物質(乳酸,

ブラディキニン,トロンボキサン

A

2)などの除 去,④g神経系抑制による筋緊張の低下などの相 乗効果が得られ,これらの効果がリハに貢献する 部分は大きい.

2.浮力(図7)

浴槽に浸かる深さによって異なるが,体重の負 担を軽減した運動が可能となる.およそ肩まで

図5 温熱によるg神経系抑制による筋緊張の低下

図6 温熱による痙縮(筋肉の突っ張り)の改善

(10)

Jpn J Rehabil Med . 48 . 1 2011 前 田 眞 治

90%,胸 70

%,へそ

50%の免荷が得られる.

主な利用法

1)体重免荷:骨関節疾患(関節リウマチ・変 形性関節症・骨折・椎間板ヘルニアなど)の関節 手術の術後あるいは回復期の早期免荷訓練(歩行 浴・運動浴など:図8,9).脳卒中,ギラン・バ レー症候群や糖尿病性末梢神経炎など各種神経疾 患の麻痺肢・筋力低下に対する訓練.安静臥床後 の不動性筋力低下に対するリハなど.

2)バランス訓練:バランス機能が低下した脳 性麻痺などのバランス訓練.脳卒中・各種神経疾 患に伴う小脳症状などに対するバランス訓練.

3.水圧(静水圧)

深さ

1 cm

体表面積

1 cm

2 あたり

1 g

で首から 下の体表面積

1.4 m

2,座位で平均深さ

25 cm

の浴 槽に入浴したとすると,14,000 cm2×25 g/cm2

350,000 g=350 kg

という大きな圧力が身体にかか ることになる.この水圧を利用してマッサージ効 果や抵抗として利用できる.

主な利用法

1)浮腫軽減:脳卒中などの麻痺に伴う浮腫,

乳癌手術後の上肢浮腫,末梢循環障害に伴う浮腫 の軽減

2)心臓の負荷軽減:心拍出量増加,心臓に負 担の少ない微温半身浴による訓練

3)呼吸筋増強:水中息吐き訓練(慢性閉塞性 肺疾患:COPD,喘息の訓練)

4.粘性抵抗

1)筋力増強を目的とするもの:水中で動くと 水の粘性抵抗により全方向の抵抗運動が可能であ り,動かす速度によって自由な強さの抵抗運動が 可能である.その摩擦抵抗を利用して筋力増強訓 練などを行うことができる(各種骨関節疾患,脳 卒中・脊髄損傷・脳性麻痺などの神経疾患による 筋力低下など).

2)バランス機能向上を目的とするもの:また 粘性抵抗は水中立位や動作時に倒れにくくなり,

バランス訓練やさまざまな体位での抵抗運動が可 能となる.

主な利用法としては,

1)疼痛性疾患:関節リウマチ・変形性関節症 などの関節痛,腰痛・肩痛・四肢の筋肉痛などの 改善

2)関節拘縮:脳卒中・神経疾患・運動器疾患 に伴う関節拘縮,不動性関節拘縮の改善

図7 浮力と荷重軽減

図8  人工関節置換術後の早期歩行浴訓練(1/2体重負荷許可の時点で の歩行が可能)

(11)

3)血流不全:末梢循環障害・閉塞性動脈硬化 症・レイノー現象を伴う疾患の血行改善.褥瘡・

火傷・皮膚外傷などに対して皮膚再生治癒促進

4)筋緊張亢進状態(痙縮):脳卒中・脊髄損傷・

脳性麻痺・各種神経疾患による筋緊張亢進(痙縮)

の改善

5)血管運動性神経の障害:手の浮腫・関節周 囲発赤などを伴う肩手症候群の改善

5.含有成分による化学的効果

1)保温効果:温泉に含まれる塩類は表皮蛋白 や脂肪と結合して皮膚表面を薄膜で覆う.これが 皮膚からの放熱を防ぎ保温効果を長引かせること で温熱効果を持続させている.

2)血管拡張作用:二酸化炭素や硫化水素は皮 膚から浸透し,強力な血管拡張効果をもたらす

(人工炭酸泉温足浴による閉塞性動脈硬化症の治 療など).この効果は血圧を下げ,入浴では温熱 効果を早期に発現し,温熱効果も大きくなる.

6.心理的効果

温泉地を訪れ,リラックス感などを得るだけで も心理的効果がある.神経症・うつ状態・各種心 理的ストレスの改善に用いることができる.

生体防御反応を誘導する温泉入浴

一方,温泉入浴には温熱刺激効果という側面が あり,この検証がされてきている.人間は環境か ら受ける刺激から身を守るために種々の生体防御 策を展開している.

人間は,外から熱を受けると元にもどろうとす

る.その熱が高すぎたり強すぎる刺激だと,組織 や細胞が壊れ,やけどをしたり異常な反応が生じ る.適度な刺激だと,次にそのような刺激が来て も大丈夫なようにかまえるように防御の準備をす る.その現れが,免疫力を高めたり,蛋白修復機 能を高めたりして生体防御能力の増強である.

1.免疫力増強

温泉での免疫力増強の指標として

NK

細胞活性 を用いた研究がある.

NK

細胞はおもに血液中に 存在し,リンパ球に含まれる免疫細胞の

1

つで,

生まれつき外敵を殺傷する能力を備えているため

「Natural killer(NK) 細 胞 」 と 呼 ば れ て い る.

NK

細胞は自らの体内を幅広く行動し,癌細胞や ウイルス感染細胞などの異常細胞を発見すると,

攻撃を仕掛ける.

図10は,温浴後の

NK

細胞活性を測定したも のである4).1日後も

2

日後も水道水温浴に比べ,

NK

細胞活性が亢進していることが認められ,免 疫能も炭酸温水によって何もしないものより,さ らに,水道水よりも高まることが認められる.こ のように,温泉に入浴するだけで,免疫力が高ま ることがわかる.

温泉入浴刺激後の免疫機能への関与について,

免疫能低下を示すとするものが,熱い草津温泉の

47

3

分での

CD4

CD8

の一過性上昇,冷たい寒 の地獄温泉

13℃連浴,熱く長い 42℃ 30

分硫黄泉 で の

HSP70

上 昇,TNFa,IL1a,IL1b,IL8の 遺伝子誘発などの報告がある.また,免疫能亢進 するのが,いずれも

41℃程度のマイルドな加温

図9  関節リウマチ患者の機能維持期

の水中歩行練習 図10 温浴後のNK細胞活性:免疫能亢進(CO2研 究会2005)

๑ೋẒ

Ề㐠ỀῺỀ

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(12)

Jpn J Rehabil Med . 48 . 1 2011 前 田 眞 治

によるもので,CD4/CD8の低下,NK細胞活性 上昇,インターロイキン(IL)6の減少が認めら れ,刺激が強いものは免疫能低下,マイルドで亢 進をもたらすことが報告されている(表).

温熱のストレッサーとしての適度な温度の温泉 は,抗炎症作用,免疫能亢進をもたらすばかりで なく,リハにも有用な素材である.このような温 泉を組み合わせた保健事業や介護予防事業は,運 動器疾患の疼痛軽減効果のみならず,現実的な国 民のニーズと合致し,より長期間の継続により,

介護予防効果や健康増進効果に相乗的な効果が期 待でき,温泉の利用価値は高いと思われる.

2.組織修復力増強

温熱という刺激が加わると,細胞組織はそれに 対応すべく種々のストレス蛋白を出して,刺激を 受けた身体を修復し,次に刺激が来た時に最小限 の被害で済むように構える.

細胞が損傷されても新しい蛋白が作られリフ レッシュするこんな働きが温泉にあり,その

1

つ が

Heat Shock Protein

(HSP)の反応である.温 熱刺激が過剰であれば生体は防御しきれず火傷な どとなり壊死を招くが,体温より

1

2℃程度高

い刺激だと防御可能な上昇であり,次回の刺激に も備えることが可能となる.温泉による効果はこ の温度の範囲内で通常行われることが多く,この 刺激防御機構の発現に寄与している.

そこで,健常人

6

名を用い,炭酸温水と水道水 温水を,ランダムに

10

日間の間隔をあけ,入浴 させ入浴前と

1

日後の

HSP 70

を測定してみた(図

11). そ の 結 果,HSP 70は 水 道 水 温 水 で,

3.31

4.35

に上がったのに比べ,炭酸泉温水で は

3.42

5.04

と有意に上昇し,水道水に比べて

HSP 70

はより多く産生されていると思われ,

温泉の方が組織修復力などは大きいものと考えら れる.

これらの作用を裏付けるように,温泉を利用し た健康増進での科学的根拠が得られている.例え ば,中高年女性を対象とした

RCT

で気分や有酸 素性作業能力,血液,腰痛に対する週

1

2

時間 の温泉入浴と生活・運動指導で,

3

カ月間介入で 直後〜

1

年以内,6カ月間介入で終了後

1

年後ま で効果が持続した報告11).また,座位仕事の男性 を対象に,2週間

1

回の温泉入浴と生活・運動・

食事指導を

6

カ月間実施すると,CD4/CD8低下 による免疫能増強と体脂肪率の減少が

1

年間みら れる12).さらに,1つの市の

65

歳以上全員に

2

週 間

1

回の水中運動と温泉入浴,生活・運動指導を 行ったコホート研究から,健康余命も長く,1人 あたりの医療費も低く介護予防効果に有効である という報告もある13)

お わ り に

以上より導き出せる結果として,ジョギングや ジムなどで筋肉を動かして汗をかき,体温を上げ るのと,温泉に入って,うっすらと額に汗をかい て体温を上げるのは,同じ体温を上げるというス トレスとして同じように働く,ストレッサーとし ての温熱は,温泉もスポーツも同じと思われる.

マイルドな温浴は適度なストレッサーとして働 き, 人 間 の 防 御 反 応 と し て,HSPが 産 生 さ れ,

表 温泉入浴刺激後の免疫機能への関与 免疫能低下

1草津温泉の473分,13回,21日間連続入浴 後にCD 4/CD 8の一過性上昇6)

2) 寒の地獄温泉13℃単純硫化水素泉3週間連浴後,

など強い刺激では免疫力が低下する7)

3) 42℃30分硫黄泉で培養皮膚細胞はHSP 70上昇,

TNFa,IL 1a,IL 1b,IL 8の遺伝子誘発した8) 亢進

1)41℃程度の入浴ではCD 4/CD 8の低下9) 2)NK細胞活性4)が上昇し免疫力が高まる.

3) 関節リウマチ患者の入浴2週間後や乾癬の4週間入 浴研究からIL 6の減少が認められ温泉による抗炎 症作用も認められている10

図11 温浴前,1日後のHSP 70の変化

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㻛 㻙 㻗 㻕 㻓

(13)

TNAa,IL 6 , IL 8,などを低下させ,NK

細胞活 性向上などに結びつく過程が形成される.

運動すると免疫系が活性化され,組織修復力を もつ

HSP

などが増え,健康増進は日頃からの運 動によってもたらされる.

温泉入浴は,運動をしなくても,黙って入れ ば,健康増進につながる要素をもち,高齢者や身 体障害者にとっても,容易に健康を手に入れるこ とのできる方法である.

温泉入浴好きの日本人の文化が,健康につなが るとできるすれば,欧米に先駆けて,健康増進の 手段を実践していることになりうる.

稿を終えるにあたり,「温泉は黙って入浴する だけでも健康につながる」ことを提言したい.

文  献

1) 前田眞治 : 温熱作用, 温泉の最新健康学. 悠飛社, 東京,

2010 ; pp 62.64

2) Maeda M, Tsuji T, Sasaki U, et al : Changes of current perception threshold on sensory nerve fi ber in thermo- therapy. 日本温泉気候物理医学雑誌2000 ; 63 : 143.150 3) Maeda M, Nakamura M, Tanaka Y, et al : Effect on body

temperature and H wave of affected side by local warm bathing of unaffected side in the hemiplegic stroke pa- tients. 日本温泉気候物理医学雑誌1999 ; 62 : 178.184 4前田眞治 : 免疫増強効果, 温泉の最新健康学. 悠飛社,

京, 2010 ; pp 68.70

5) Masaharu M, Yoko I, Mitsuharu S, et al : Changes in HSP (Heat Shock Protein) 70 due to CO2 warm water bathing. 日本温泉気候物理医学雑誌2007 ; 70 : 179.186

6) 白倉卓夫, 菅井芳郎 : 草津温泉の医学. 草津温泉 (白倉

卓夫 編). 上毛新聞社出版局, 前橋, 1997 ; pp 117.145 7) Nobunaga M, Tatsukawa K, Ishii H, et al : Balneotherapy

for patients with rheumatoid arthritis, especially the ef- fect of cold spring water bathing. in Frontiers in Health Resort Medicine (ed by Agishi Y, Ohtsuka Y). Kokubo printing, Sapporo, 1996 ; pp 109.116

8) Markovi㶛 M, Majki㶛-Singh N, Ignjatovi㶛 S : Beneficial effects of cellular stress response in traditional spa treat- ment of rheumatoid arthritis. Clin Lab 2009 ; 55 : 235.

241

9 Watanabe I, Ohtsuka Y, Noro H, et al : Immunological effect of balneotherapy in rheumatoid arthritis. in Re- cent Progress in Medical Balneology and Climatology

(ed by Agishi Y, Ohtsuka Y). Kokubo printing, Sapporo, 1995 ; pp 127.133

10) Tsoureli-Nikita E, Menchini G, Ghersetich I, et al : Alter- native treatment of psoriasis with balneotherapy using Leopoldine spa water. J Eur Acad Dermatol Venereol 2002 ; 16 : 260.262

11) Kamioka H, et al : Ef fectiveness of comprehensive health education combining hot spa bathing and lifestyle education in middle-aged and elderly women one-year follow-up on randomized controlled trial of three- and six-month investigations. J Epidemiol 2006 ; 16 : 35.44 12 Kamioka H, et al : Ef fectiveness of comprehensive

health education combining lifestyle education and hot spa bathing for male white-collar employees : a random- ized controlled trial with 1-year follow-up. J Epidemiol 2009 ; 19 : 219.230

13) Kamioka H, et al : Effect of long-term comprehensive health education on the elderly in a Japanese village : un- nan cohort study. Int J Sports Health Sci 2008 ; 6 : 60.65

(14)

Jpn J Rehabil Med . 48 . 1 2011 飯 山 準 一

は じ め に

温泉・温熱療法は物理療法の中でも古典的治療 法であり,研究テーマとして使い古されたイメー ジがある.しかし,温熱刺激はその強度,時間,

頻度といった因子によって生体の反応が異なり,

詳細な効果およびそのメカニズムの全貌は明らか になっていない.従来,重症心不全に対しては入 浴,サウナともに禁忌とされていたが,鄭らは温 熱刺激を低負荷とすることで循環動態の改善に有 用であることを見出した1).この画期的な試み は,現在,和温療法として,そのエビデンスが確 立されつつあり,重症心不全に留まらず動脈硬 化,閉塞性動脈硬化症,線維筋痛症とその適応を 拡大しつつある2〜4)

本稿では,筆者らが行ってきた

41℃,10

分間 の温水浴のもたらす胃排出,小腸での薬物吸収,

肝・腎機能に及ぼす影響と,グリセリン添加入浴 の皮膚への効果について述べる.

暑熱環境のハイパーサーミア研究

暑熱環境が内部臓器の血流分配に及ぼす影響に ついては

1960

年代から

1970

年代にかけて

Rowell

らを中心に精力的に研究されている5〜8).これら の研究は深部体温が

40℃あるいはそれに近い温

度に達し,しかも温熱の暴露時間が長時間にわた るものが多く,非常に負荷強度の強いものである.

この条件下では,皮膚血流が増加する一方で,

交感神経活動の亢進により内臓血流は減少する.

温水浴によるマイルドサーミア研究

一般的な温水浴が我々の身体にどのような影響 を及ぼし,それが習慣化することで慢性疾患の予 後に,あるいは健康維持にどう関わるか明らかで はない.運動習慣や食習慣を含め,ライフスタイ ルが健康維持や疾病の予後に大きく関与すること は自明である.さすれば日々の習慣化された入浴 スタイルも重要な因子として考えるべきであろ う.和温療法の基本である

60℃,15

分の低温サ ウナでは深部体温が概ね

0.8

1.0

℃上昇する.

41

℃,

10

分間の温水浴もほぼ同等の深部体温上 昇が得られ,このような刺激条件はマイルドサー ミアといえる.この刺激条件を基本とし,以下に 示すマイルドサーミア研究を行った.

胃・小腸に及ぼす影響

温水浴前後の胃排出能についてアセトアミノ フェン法を用いて検討した.空腹時に座位でアセ トアミノフェン(20 mg/kg)を混和した試験食 を速やかに摂取させ,摂取完了から

15

分,

30

分,

45

分,60分後のアセトアミノフェン血中濃度を 測定した.日を変えて,温水浴

10

分後に同様の 試験食を飲ませ,15分おきに採血したところ,

温水浴による血中濃度の有意な変化は認めなかっ

9)(図1).胃排出能は小腸胃神経反射や,コレ

図1 温水浴による胃排出能の変化

温熱の消化器・腎・皮膚への影響

熊本保健科学大学保健科学部リハビリテーション 学科

飯山 準一

本稿は第47回日本リハビリテーション医学会学術集会 シンポジウム「温泉・温熱の先端科学をリハビリテー ションへ」(2010520日,鹿児島)の講演をまと めたものである.

(15)

シストキニン,ガストリン等によって複雑な調節 を受ける.摂取した食物の脂質濃度や温度等が胃 排出にフィードバックをかける.各々の温熱によ る影響については不明であるが,温熱よりも胃内 容物の違いが胃排出により強く影響を与えるもの と考えられる.

アセトアミノフェン法はアイソトープ法と異な り,簡便な胃排出能検査である.しかし,アセト アミノフェンが胃で吸収されず,小腸へ排出後吸 収される性質を用いており,温熱が小腸吸収能へ 及ぼす影響を無視できない.そこで次に小腸のア セトアミノフェン吸収能への影響を調べた.カ テーテルをレントゲン透視下に十二指腸下行脚に 留置し,アセトアミノフェン

450 mg

を注入後,

血中濃度を測定した.次に日を変えて,温水浴

10

分後からアセトアミノフェンの注入と採血を 同様に行った.アセトアミノフェンの最大血漿中 濃度と,最大血漿中濃度到達時間どちらも有意に

短縮した9)(図2).入浴による心拍出量の増加に

伴い,腸管血流も増大するものと予測される.血 流増加による小腸絨毛の膨化は,絨毛面積つまり 吸収面積を増加させることになると考えられる.

肝・腎に及ぼす影響

肝特異的に排出されるインドシアニングリーン

(以下

ICG

)排泄能に対する温水浴の影響を調べ るために,ICGの血漿消失率を温水浴前後で測定

した.一方の肘静脈より

ICG(0.5 mg/kg)を速

やかに静注し,

3

分,

6

分,

10

分後に反対側の肘 静脈から採血し,血漿の吸光度(805 nm)より,

ICG

の血中濃度を算出した.一回目の血漿消失率 測定から

30

分後に温水浴を行い,再度

ICG

の消 失率を測定した.ICG血漿消失率は浴後有意に減 少した10)(図3).

ICG

消失率の低下は,肝血流量の減少を示す.

Koda

らの

42℃,5

分間の温水浴前後のエコーに よる検討でも,門脈血流量は健常人で

35%,肝

硬変患者で

25

%減少している11).小腸での薬物 吸収の結果からは腸管への血流も温水浴によって 増加していると考えられるが,門脈血流の減少と 矛盾することになってしまう.41℃,10分間の 温水浴で心拍出量は

1.5

倍増加するが,それに伴 い,肝血流量の

25%を占める固有肝動脈の血流

1.5

倍に増えても

25×1.5+75×0.65=86.25<100

と な り, 肝 血 流 量 の

75

% を 占 め る 門 脈 血 流 が

35

%減少する影響が大きい.加えて,健常者より 肝硬変患者で減少率が小さいことから,胃食道静 脈による門脈外血流シャント増大の可能性が考え られる.

腎機能に関しては,

10

%チオ硫酸ナトリウム

(以下

NTS)クリアランスによる糸球体濾過値と

図2 温水浴による小腸の薬物吸収能の変化

図3 温水浴によるICG血漿消失率の変化

(16)

Jpn J Rehabil Med . 48 . 1 2011 飯 山 準 一

10%パラアミノ馬尿酸(以下 PAH)クリアラン

スによる腎血漿流量を温水浴の有無で比較した.

30

分 安 静 臥 床 後,PAH(0.3 ml/kg) と

NTS

(80 ml)を混合し,約

10

分間で点滴静注した.

静注終了

25

分後に完全排尿し,排尿終了から正 確に

10

分後と

20

分後に採血を行った.30分後 に再び完全排尿し,PAHと

NTS

のクリアランス を算出した.別な日に温水浴後,保温安静を保ち 浴後

30

分から同様にクリアランスの測定を行っ た.その結果

PAH

のクリアランス,すなわち腎 血 漿 流 量 は 入 浴 後,1.5倍 に 増 加 し た. 一 方,

NTS

クリアランス,すなわち糸球体濾過値では有 意な変化は見られなかった12)(図4).

入浴後の心拍出量増加に伴い,腎血漿流量も増 加したと考えられる.しかし糸球体濾過値に有意 な変化は見られなかった.糸球体濾過値は糸球体 濾過圧,濾過膜の面積,濾過膜の透過係数によっ て規定される.温熱による濾過膜の面積や透過係 数の変化の可能性も否定はできないが,輸入細動 脈の拡張に伴う腎血漿流量の増加と同時に,輸出 細動脈の拡張により糸球体濾過圧は変わらず,結 果的に糸球体濾過値は変化しなかったものと考え られる.

皮膚への影響とグリセリン浴の効果

高齢者や障害者では,湿度の低下する冬季に乾 燥性皮膚炎,皮脂欠乏性皮膚炎が増え,皮膚コン ディションの悪化につながることが少なくない.

温水浴による皮膚水分蒸散量への影響を,重症心 身障害者で調べたところ,浴後水分蒸散量が前値 に復するまで

72

時間も要したが,ごく少量のグ リセリンを浴槽に添加することで,浴後の水分蒸 散が抑えられた13)(図5).次にグリセリン浴群

(以下

G

群)と非グリセリン浴群(以下

NG

群)

を設定し,長期連用(8〜

9

カ月)後の皮膚性状 の比較と皮膚疾患発生状況の比較を行った.両群 とも入浴は

2

回/週で,測定は浴後

4

日目の食後

12

時に,皮膚水分量,皮膚

pH,皮脂を各項目と

も前額部,前胸部,前腕外側部で測定した.水分 量はいずれの部位でも

G

群が高値を示した.皮 膚

pH

は両群でほとんど差は認めなかった.皮脂 もいずれの部位でも

G

群が高値を示した.皮膚 疾患発生状況では皮膚疾患発生数,処方薬数,部 位数はいずれも有意に

G

群が少なかった(図6).

処置期間は有意でないものの

G

群が短かった14). グリセリンの皮膜により保湿効果が得られたと考 えられる.特に衣服での擦過に伴い乾燥しやすい 部位で,皮膚の保湿に差が出たと考えられる.ま

図4 温水浴による腎血漿流量および糸球体濾過量の変化

(17)

た保湿のみならず,皮脂の保持にも役立っている 可能性がある.保湿や皮脂保持により皮膚疾患の 発生が予防できたと考えられる.

温泉・温熱研究の問題点と新たな展開 

温熱は研究テーマとして新規性や発展性が乏し く感じられ, いまさら と思われがちである.

ベッドサイドでの研究に適した全身温熱デバイス も少ない.しかし,例えば小腸における薬物吸収 の促進効果は,生物学的利用能の低いビスフォス フォネート製剤や,吸収に伴う血中濃度の変化が 機能的に大きな影響を与える抗パーキンソン病薬 のような薬剤に対して有効な解決手段となり得 る.ただ一日に複数回の入浴は現実的ではなく,

肢体不自由があればことさらである.これらの問 題を解決すべく,新たな発想の全身温熱デバイス を現在開発中である.特許申請の都合上詳細につ いてはまだ公表できないが,ベッドサイドでも在 宅でも使い勝手のよい全身温熱デバイスを開発す れば,研究者も増え,さらに臨床各科での様々な 応用法が編み出される可能性がある.プロトタイ プは近々完成するので,応用方法の具体的アイデ アとともに,共同研究を持ちかけていただければ 幸甚である.

温水浴は温熱+静水圧という

2

つの物理的条件 下の研究であるが,温熱+微弱電流の条件下での 興味深いデータがある.約

40℃の温熱刺激と感

覚神経を微かに刺激する程度の微弱電流の併用を 反復することにより,細胞内のプロテオソームに よる蛋白分解が抑えられ,細胞修復に役立つユビ キチン蛋白や熱ショック蛋白が相対的に増加し,

慢性炎症マーカーである腫瘍壊死因子aが減少す ることが明らかになった15).微弱電流と温熱の併 用が,細胞内活動に大きな変化をもたらす可能性 がでてきた.微弱電流の及ぼす細胞内メカニズム については現段階で不明であるが,新たな物理療 法の展開が期待されるインパクトのある研究であ る.日常の入浴習慣においても微弱電流の併用で 新たな作用が見出せる可能性がある.複合的な物 理刺激は,これから注目を浴びる重要なトピック となる可能性がある.

図5  温水浴後とグリセリン浴後の皮膚水分蒸散量の 変化

図6 グリセリン浴による皮膚疾患予防効果

(18)

Jpn J Rehabil Med . 48 . 1 2011 飯 山 準 一

お わ り に

身近な全身温熱療法であるサウナや温水浴が消 化器,腎,皮膚へ及ぼす影響について筆者のこれ までの研究を中心にまとめた.温熱の効果は非特 異的,多面的であり,視点を変えることで潜在的 利用価値は高い.運動習慣が健康の維持増進にも たらす多面的効果については,もはや一般常識と いえよう.しかし温熱の効果についてはそれほど 注目を浴びてはいないのが現状である.温熱のも たらす効果は熱ショック蛋白の合成促進や血管内 皮機能改善のように両者で共通するものも多い.

しかも温熱は重度の心不全や肢体不自由など,運 動ができない人でも楽しむことができる.心地よ くて治療効果があるものを放っておく手はない.

リハビリテーション領域においては重要なツール である.さらに今後,人類が環境温度の制御され た宇宙空間で生活するようになれば,重力のみな らず環境温度の変化が身体に及ぼす影響も,よく 検討する必要がある.温熱研究は,これからまさ に ホット な研究領域となりうる.

1) Tei C, Horikiri Y, Park JC, Jeong JW, Chang KS, Toyama Y, Tanaka N : Acute hemodynamic improvement by thermal vasodilation in congestive heart failure. Circula- tion 1995 ; 91 : 2582.2590

2) Imamura M, Biro S, Kihara T, Yoshifuku S, Takasaki K, Otsuji Y, Minagoe S, Toyama Y, Tei C : Repeated thermal therapy improves impaired vascular endothelial function in patients with coronary risk factors. J Am Coll Cardiol 2001 ; 38 : 1083.1088

3) Tei C, Shinsato T, Miyata M, Kihara T, Hamasaki S : Waon therapy improves peripheral arterial disease. J Am Coll Cardiol 2007 ; 50 : 2169.2171

4 Matsushita K, Masuda A, Tei C : Effi cacy of Waon thera- py for fi bromyalgia. Intern Med 2008 ; 47 : 1473.1476 5 Rowell LB, Brengelmann GL, Blackmon JR, Twiss RD,

Kusumi F : Splanchnic blood flow and metabolism in heat-stressed man. J Appl Physiol 1968 ; 24 : 475.484 6) Rowell LB, Detry JR, Profant GR, Wyss C : Splanchnic

vasoconstriction in hyper thermic man--role of falling blood pressure. J Appl Physiol 1971 ; 31 : 864.869 7) Eisman MM, Rowell LB : Renal vascular response to

heat stress in baboons--role of renin-angiotensin. J Appl Physiol 1977 ; 43 : 739.746

8) Hales JR, Rowell LB, King RB : Regional distribution of

blood fl ow in awake heat-stressed baboons. Am J Physi- ol. 1979 ; 237 : H 705.712

9) 飯山準一, 田中信行 : 温泉入浴と肝および消化管機能.

新温泉医学. 日本温泉気候物理医学会, 東京, 2004 ; pp 194.198

10 Iiyama J, Horikiri Y, Kawahira K, Tanaka N : Effects of whole body warm water immersion on indocyanine green (ICG) excretion test in healthy human. J Jpn Soc Balneol Climatol Phys Med 2007 ; 70 : 215.222

11) Koda M, Komori S, Nagami M, Minohara M, Murawaki Y, Horie Y, Suou T, Kawasaki H, Ikawa S : Effects of bathing in hot water on portal hemodynamics in healthy subjects and in patients with compensated liver cirrho- sis. Intern Med 1995 ; 34 : 628.631

12) Iiyama J, Horikiri Y, Kawahira K, Tanaka N : The effects of warm water bathing on renal function. J Jpn Soc Bal- neol Climatol Phys Med 2003 ; 66 : 85.90

13) 堀中ルナ, 山根朱美, 西 貴幸, 飯山準一 : グリセリン添

加入浴の効果〜1回入浴と4カ月使用後の皮膚変化〜.

重症心身障害療育学会誌2007 ; 2 : 183.185

14) 飯山準一, 川平和美 : グリセリン添加入浴による重症心

身障害者の皮膚性状変化と皮膚疾患予防効果. 日本温 泉気候物理医学会雑誌2008 ; 71 : 173.179

15 Morino S, Suico MA, Kondo T, Sekimoto E, Yano S, Mat- suda T, Matsuno T, Shuto T, Araki E, Kai H : Mild electri- cal stimulation increases ubiquitinated proteins and Hsp 72 in A 549 cells via attenuation of proteasomal deg- radation. J Pharmacol Sci 2008 ; 108 : 222.226

図 1 Protection from muscle fatigue of leg by mild hyperthermia  (詳細は本文参照)
表 Exhaustion time of treadmill running by mild hyperthermia  (詳細は本文参照)
図 3   Lactate in blood during treadmill running by  mild hyperthermia  (詳細は本文参照)㻔㻗㻔㻕㻔㻓㻛㻙㻗㻕㻓㻔㻛㻓㻕㻔㻓㻕㻗㻓㻕㻚㻓 㻖㻓㻓 㻖㻘㻓㻦㼒㼑㼗㻑㻰㼌㼏㼇㻃㻫㼜㼓㼈㼕㼗㼋㼈㼕㼐㼌㼄

参照

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