(様式第9号)
学 位 論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
氏 名 原本 雅昇
審 査 委 員
主 査 尾谷 浩 ◯印 副 査 前川 二太郎 ◯印 副 査 田中 秀平 ◯印 副 査 荒瀬 榮 ◯印 副 査 中島 廣光 ◯印
題 目 Studies on the Biological Property of a Novel Fungicide, Cyflufenamid
(新規殺菌剤 cyflufenamid の生物特性に関する研究)
審査結果の要旨(2,000字以内)
ムギ、果樹、蔬菜類など多くの農作物において、うどんこ病は重要病害の一つであり、その防除の ためにこれまで多くの殺菌剤が開発されてきた。しかし、既存の殺菌剤に対する耐性菌が出現し、効 力 の 低 下 が 問 題 と な っ て い る 。 Cyflufenamid ( シ フ ル フ ェ ナ ミ ド )、
(Z)-N-[ -(cyclopropyl-methoxyimino)-2,3-difluoro-6-(trifluoromethyl)benzyl]-2-phenylaceta mide は日本曹達が開発した全く新しい化学構造を持った新規殺菌剤で、各種植物うどんこ病に高い防 除効果を示す。本研究は、シフルフェナミドの有効殺菌スペクトラム、圃場効果、作用特性および作 用機構について詳細に検討し、本剤のうどんこ病防除剤としての特性を明らかにするとともに、各種 植物うどんこ病菌における感受性ベースライン、連続淘汰による感受性変動、既存殺菌剤との交差耐 性について検討し、本剤の耐性菌マネージメントについて考察したものである。
シフルフェナミドの殺菌活性について検討した。ポットを用いた各種植物病原糸状菌の接種試験に より病害防除活性を調べた結果、各種植物のうどんこ病に対し 0.8-1.6 ppm という低薬量で高い防除 効果を示した。また,各種病原糸状菌に対する殺菌活性を調べると、一部の子嚢菌類や不完全菌類に 殺菌活性が認められ、特にモモ灰星病菌(Monilinia fructicola)には、0.01 ppm まで活性を示すこ とを見出した。そこで、光学顕微鏡下でコムギうどんこ病菌(Blumeria graminis f. sp. tritici)
の感染過程に対する影響を観察すると、本剤は胞子発芽、付着器形成には影響せず、吸器形成以降の 過程を強く阻害した。また、モモ灰星病菌の胞子発芽および発芽管伸長に対する影響を観察した結果、
本剤は胞子発芽および初期の発芽管伸長には影響せず、処理 16 時間後以降の発芽管伸長を抑制した。
さらに、電子顕微鏡観察では液胞中の高電子密度物質の減少と未成熟な隔壁が認められた。以上の結 果から、シフルフェナミドは極めて低濃度で各種植物うどんこ病菌やモモ灰星病菌に殺菌活性を示し、
その作用は主に菌糸生育の阻害にあることが示唆された。
次に、シフルフェナミドの圃場における植物病害防除効果を検討した。シフルフェナミド顆粒水和 剤(10%)は、農業生産上問題となる各種植物のうどんこ病のほとんどすべてに対し、25 ppm という 低薬量で実用的な効果を示した。また、モモ、オウトウ灰星病に対しても高い防除効果を示した。そ こで、圃場におけるシフルフェナミドの高い防除効果を解析するため、ポット植キュウリを用いてキ ュウリうどんこ病に対するシフルフェナミドの特性を検討した。シフルフェナミドは根からの浸透移 行性は認められなかったが、高い予防性、治療性、残効性、葉表から葉裏への浸達性および揮散効果 を有しており、各種植物うどんこ病の防除薬剤として極めて有効であることが明らかとなった。
さらに、各種植物うどんこ病菌のシフルフェナミドに対する感受性モニタリングを実施した。日本 産コムギうどんこ病菌に対する平均 EC50 値は 0.029 ppm であり(ポット法)、日本産キュウリうどん こ病菌(Sphaerotheca cucurbitae)では、平均 EC50 値は 0.0019 ppm であった(リーフディスク法)。
また、ヨーロッパ産コムギうどんこ病菌では、0.0022 ppm から 0.0111 ppm(2000-2004 年)の間で 推移し、ヨーロッパ産オオムギうどんこ病菌(B. graminis f. sp. hordei)では、0.0249 ppm から 0.0457 ppm(2000-2004 年)の間で推移した(散布リーフセグメント法)。また、コムギうどんこ病 菌を用いて、ガラス温室および屋外圃場でシフルフェナミドによる連続淘汰試験を行ったが、シフル フェナミドに対する感受性に変化は認められず、シフルフェナミドの耐性菌発達リスクは比較的低い ものと思われた。一方、他の市販殺菌剤に対して耐性のキュウリうどんこ病菌を用いて、シフルフェ ナミドとの交差耐性を検定すると、いずれの耐性菌に対しても交差耐性は認められず、他殺菌剤の耐 性菌対策として使用できることが示唆された。
以上のように、本論文は、耐性菌の発達により殺菌剤の効力低下が問題となっている各種農作物の うどんこ病に対して、既存の殺菌剤とは作用が異なる低濃度で選択性の高い防除薬剤を開発した研究 として高く評価でき、学位論文として十分な価値を有するものと判定した。