博 士 ( 行 動 科 学 ) 李 光 五
学 位 論 文 題 名
視 覚 的 単 語 認 知 過 程 に お け る 表 記 体 系 依 存 的 情 報 処 理 : / ヽ ン グ ル , 仮 名 , 漢 字 の 比 較 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
本論文 は,人間の視覚的ヰ主語認知過程,就中,日本語と韓国語の単語認矢11過程の解明を 目 指し たも ので あ る. 全体 は4部か らな っており,第I部 では,英語に関する研究の展望と 考 察が なさ れて い る. 第II部お よび 第m部は , それ ぞれ 日本 語と 韓国語について著者が行 った独自の研究成果が報告されている.第W部はまとめである.
第1部・第1章では,りf究のEI的, 対象,具体的問題などを,英語に関する従来の形f究を 展 望し つつ ,整理している. 第2章では,様々な実験手法 の長所と短所について考察を加え て いる .第3章では,英語に関して得られている経験的事 実とその解釈について吟味してい る .第4章で は,従来提案されている単語認知過程のモデ ルを紹介し,かつ,それぞれの心 理学的妥当性について検討している.
第II部 ・第5章においては,日本語の単語lptJIIに関する先行研究の概観と知見の整理を行 っ てい る, 従米 の 支配 的見 解と は興 なり,著者は,仮名 表記語にも 直接的 な語彙アク セスの可 お旨性があることを指摘している.第6章に報告されている三つの実験はすべて,そ の可能性を検討するために行われたものである.
実験1:もし仮名表記‑吾による直接的語彙アクセスが可能であ るならば,仮名表記語をプ ラ イム とし ,漢 字 表記 語を ター ゲッ トとする語繁性判断 課題において,プライミング効果 と頻度の 効果が得られると予想される.味fJ激の呈示方法はMRP法が川いられた.また,刺激 の 条件 とし ては , 剛一 の漢 字語 ター ゲットに対してプラ イムがターゲッ卜語の漢字表記,
仮名表記 ,ゑほ関係な語,の3条件が 川意された.結果としては,頻度の効果と,単語ターゲ ットに対する表記差の効果が認められた.これらの結果は,仮名表記語にもi甑接l'YJなオ岳彙ア アセスの可能性があることを示唆するものと解釈された.
尖験2:メ劣災1と同じ刺激材料と条 件とが門jいられ,課題だけ が音読課題に変えられた.
ま占果は,尖験1の結果と矛盾せず,仮名表ricli;'liによるぬ接的語彙アクセスを示唆するものと 解釈された.
尖験3:もし仮名表iidi,Z':による血接的語彙アクセスが事実であるならば,色パッチに先行
する仮名表記色名語は色パッチの命名を妨害し,その効果は,仮名表記中立語による妨害 よりも大きくなる,と予想される.刺激の呈示方法は実験1および実験2とほば同じであっ た.手続きはStroop課題が採用された.結果は,色名と色パッチが一致しない場合,仮名 表記色名による干渉は大きぃが,漢字表記色名による干渉はなぃ,というものであった.
この結果も仮名表記語による直接的語彙アクセスの存在を示唆するものと解釈できる.
第7章では,日本語の単語認知現象を説明するための新たなモデルを提案している.モデ ルは,特徴,文字,単語の三っの処理レベルからなるコネクショニスト・ネットワークと して構築されている.著者は,文字レベルに,仮名モジュールと漢字モジュールの2種類を 仮定し,両モジュールはともに単語レベルと直接的にりンクされているものとしている.
また,文字レベルから単語レベルヘの活陸伝播の程度は,各単語の表記の頻度に比例して 異なるものとしている.このように特徴づけられたモデルは,第6章で得られた実験結果を 含んだ様々な経験的事実を,幅広く説明することができる・
第m部の第8章と第9章では,ハングルの表記体系と単語認知過程に関する考察を行って いる.ハングル字母による単語の表記は,左から右への直列式ではなく,まず 合字 を っくり,合字を直列する方法をとる.合字はハングル字母を平面的に配置することにより 作られる.合字は初声と中声と終声からなるが,終声のなぃ場合もある.中声は母音字母,
初声と終声は子音字母である.また,母音は形により横型,縦型,鈎型の3種類に分類でき る.組合せが可能なハングル合字の数は,全部で1l,172あり,そのうち実際に使われてい る合字の数は約2割である.第10章では,ハングル語の認知における合字の役割,さらには 合字の認知における処理単位,を確認するために行った3っの実験が報告されている.
実験4:組合せ可能なハングル合字11,172字の内の8割は使用されていなぃが,ほば自動 的に音読できる.それを説明する仮説のーっとして,字母一音素変換説が考えられる.実 験4はその仮説を検討するために行われた.刺激合字として,まず終声のなぃ合字が用意さ れた.その半数は使用合字であり,残りは非使用合字であった.これらの合字に適当な終 声を加え,終声のある合字の半数は使用 合字核 を含み,残りの半数は非使用合字核を 含むように用意された.この他に,終声のない合字も用意された.課題としては音読課題 が用いられた.結果の巾で最も注目すべきは,非使用合字の中で合字核が使用されている 場合は音読潜時が短い,というものであった.この結果は,字母一音素変換説だけでは充 分に説明できなぃ.著者は,この結果を,合字の認知においては合字核がーつの処理単位 となっていること,さらには終声の処理が初声や中声に較ぺて劣位にあることを示唆する ものとして解釈している.
実験5:合字あるいは字母が単位として認知される可能性を検討している.使用頻度の高 低,終声の有無,語彙性の三つの次元を考慮し,刺激合字が用意された.課題は音読課題 であった.結果から,合字が単語の場合には語彙性と合字核の頻度の要因が,また非t葎語 の場合には合字核の頻度の要囚が,それぞれ反応に影響することが明らかにされた.
実験6:ハンクンレ合字は6種類の類型に大男qされる,実験6では,この類型の心理的実在性 につ いて 検討 している.課題は,探索課題が採用された .ターゲット合字と背景合字の関 係として,類型の同異,終声の有無 ,母音の種類が用意された.結果から,合字の分類は,
終 声 の 有 無 に よ っ て , 続 い て 母 音 の 種 類 に よ っ て , 行 わ れ る こ と が 見 い 出 さ れ た ・ 第11章 では ,ハングル単語認知過程をよりよく説明す るモデルを提案している.その基 本的枠組みは,日本語のモデルと同 様に,特徴,文字,単語の三つの処理レベルからなる.
さら に, ハン グルの表記的特徴を反映するために,文字 レベルには合字核のモジュールと 終声 モジ ュー ルがあるとしている.文字レベルの処理結 果は単語レベルに伝播し,語彙ア クセ スが 行わ れる.その際,合字核の処理結果がより重 要であり,語彙アクセスは合字核 を基 礎に して 行われる.単語レベルからのフイードバッ クも同様で,合字核へのフイード バッ クに より 重みがかかる.著者は,合字核の概念をと り入れたこのモデルによって,第 10章 で報 告し た実験結果をはじめ,ハングル表記語に関 する多くの経験的データを,より よく説明することに成功している・
最 後の 第I部 は, 本論 文の まと めで ある.第12章では ,著者自身の実験研究や先行研究 の結 果を 参考 にしつつ,いくっかの表記体系における単 語の認知過程を比較し,その過程 の普 遍的 性質 と表記体系依存的な性質とについて考察し ている.第13章および第14章は,
本論文の第U部と第m部の内容の要約 が主となっている.
学 位論 文 審 査の 要旨 主 査 教 授 相場 覚 副 査 教 授 岡田 宏明 副 査 教 授 宮岡 伯人 副査 助教授 阿部純一
学位論文題名
視覚的単 語認知過程における表記体系依存的情報処理:
ハン グル,仮名,漢字の比較研究
本 論 文 は , 人iWの 視 覚 的 単 語 綛 知 過 程 , 就IfI, 日 本 語 とt睡I語 の 単 語 認 知 過 程 の 解 明 を 目 指 し た も の で あ る . 全 体 は4部 か ら な っ て お り , 第I部 で は , 英 語 に 関 す る 砂f究 の 展 望 と 考 察 が な さ れ て い る . 第U部 お よ び 第III部 は , そ れ ぞ れFI本 語 と 韓 周 諸 に つ い て 著 者 が 行 っ た独自の研究成果が 報告されている. 第IV部はまとめで ある.
第1章 で は , 研 究 の 目 的 , 対 象 , 具 体 的 問 題 な ど を , 英 語 に 関 す る 従 来 の 研 究 を 展 望 し つ つ , 整 理 し て い る . 第2章 で は , 様 々 な 実 験 手 法 の 長 所 と 短 所 に つ い て 考 察 を 加 え て い る . 第3章 で は , 英 語 に 関 し て 得 ら れ て い る 経 験 的 事 実 と そ の 解 釈 に つ い て 吟 味 し て い る . 第4 章 で は , 従 米 提 案 さ れ て い る 単 語 認 知 過 程 の モ デ ル を 紹 介 し , か つ , そ れ ぞ れ の 心 理 学 的 妥 当性について検討し ている.
第U部 の 第5章 に お い て は ,FI本 語 の 単 語 認 知 に 関 す る 先 行 研 究 の 概 観 と 知 見 の 整 理 を 行 っ て い る . 従 来 の 支 配 的 見 解 と は 興 な り , 著 者 は , 仮 名 表 記 語 に も 直 接 的 な 語 彙 ア ク セ ス の 可 能 性 が あ る こ と を 指 摘 し て い る . 第6章 に 報 告 さ れ て い る 三 つ の 実 験 は す ぺ て , そ の 可 能 性 を 検 討 す る た め に 行 わ れ た も の で あ る . 実 験 の 結 果 は , そ の 可 能 性 を 支 持 す る も の であった.第7章では,r.]ホオfiのli'ilIli;IPt'Ji.iiI)LL象をioiZilJiするための新たなモデルを提案して い る . モ デ ル は , 特 徴 , 文 字 , 単 語 の 三 っ の 処 理 レ ベ ル か ら な る コ ネ ク シ ョ ニ ス ト ・ ネ ッ 卜 ワ ー ク と し て 構 築 さ れ て い る . ま た , 文 字 レ ベ ル に , 仮 名 モ ジ ュ ー ル と 漠 字 モ ジ ュ ー ル の2種 類 を 仮 定 し , 両 モ ジ ュ ー ル は と も に 単 語 レ ベ ル と 直 接 的 に り ン ク さ れ て い る も の と し て い る . ま た , 文 字 レ ベ ル か らrIiオ 岳 レ ベ ル ヘ の 活 性 伝 播 の 程 度 は , 各1耳 語 の 表 甜 の 頻 度 に 比 例 し て 與 な る も の と し て い る . こ の よ う に 特 徴 づ け ら れ た モ デ ル は , 第6章 で 得 ら れ た 尖
験 結 果 を 含 ん だ 様 々 な 経 験 的 事 実 を , 幅 広 く 説 明 す る こ と が で き て い る . 第III部の第8章と第9章では,ハングルの表記体系と単語認知過程に 関する考察を行って いる.第10章では,ハングル語の認矢Ilに おける処r単位を確認するために行った3っの実験 が報 告さ れて いる.結果から,著者 は,合字の認知においては合字核がーつの処理単位と なっていること,さらにfま終声の処理が初声や中声に較べて劣位にあ ることを見い出して いる .第11章 では,ハングル単語認 知過程をよりよく説明するモデルを提案している.そ の基 本的 枠組 みは,日本語のモデル と同様に,特徴,文字,単語の三つの処理レベルから なる が, さら に,ハングルの表記的 特徴を反映するために,文字レベルには合字核のモジ ユー ルと 終声 モジュールを仮定して いる.著者は,合字核の概念をとり入れたこのモデル によ って ,第10章で報告した実験結 果をはじめ,ハングル表記語に関する多くの経験的デ ータを,よりよく説明することに成功して いる.
最 後の 第IV部は,本論文のまとめ である.第12章では,著者自身の実験研究や先行研究 の結 果を 参考 にしつつ,いくっかの 表記体系における単語の認知過程を比較し,その過程 の普 遍的 性質 と表記体系依存的な性 質とについて考察している.第13章および第14章は,
本論文の第n部 と第m部の内容の要約が主と なっている.
審 査委 員会 は,本論文において以 下の諸点カ滞に優れているので,博士号を授与するに 値すると判断した・
1.当 該の 領域 にお ける これ まで の研 究を 入念に調査し,問題の所在を明確にしている・
2.日 本語 の表 記体 系の 特殊 陸を ふま えて ,これまでに欧米で行われて来た英語に関する 諸研究からさらに一歩前進させている .
3.ハ ング ル表 記の 文字 およ び単 語の 認知 過程についてめ知見は過去に蓄積が少なく,研 究上価値の高いものとなっている.
4.す べ て の 実 験 は 綿 密 に 計 画 さ れ , 極 め て 注 意 深 く 実 行 さ れ て い る . 5.コンピュー タによるシミュレーションによって,理論をより精綱匸イヒし,かつ強固なも のにしている.
6.こ れら の研 究を 通じ て各 言語 の特 殊陸 を越えて,単語認知の普遍的な法則性に接近し ている.そこに独創性のあらわれを認 めることができる.