博 士 ( 農 学 ) 玉 置 宏 之
学 位 論 文 題 名
チモシー主要形質の効果的育種方法の構築 学位論文内容の要旨
チモシー(」Phleum pratense L.)は、北海道の草地面積58万haの約70%に栽培されている道内の最 重 要イネ 科牧草で ある。北海道立北見農業試験場はこれまでに、道内での安定栽培が可能な6品種を 育成した。しかし近年、酪農家のチモシーに対する要望は、作りやすさ、低コスト化を求める水準へ と 高度化 、多様化 してい る。本研 究は、 特に改良の要望が強い1番草での耐倒伏性、1番刈後の競合 カおよび種子生産性の効果的な育種的改良法を明らかにし、さらにチモシーや他の他殖性、多年生牧 草 におけ る諸形質 の改良 を、従来 よりも 効率的に行える新しい手法を考案、提示したものである。
1. チモシ一主要形質の効果的な育種的改良法の考察
(1)1番草における耐倒伏性
採 草用チ モシーの1番草での倒伏は、収量の減少、品質の低下および草地の荒廃を招く。親栄養系 と その後 代系統に 対する1番草の耐倒伏性の調査結果から、生育段階が互いに異なる場合の耐倒伏性 は、互いに異なる形質として取り扱われるべきものであること、および、各生育段階における耐倒伏 性 の狭義 の遺伝率 が高いこと、の2点を見出した。したがってチモシーの耐倒伏性は、それが生育段 階 別に調 査されて いれば、1回の個体選抜でも相当程度の育種的改良が可能であることが明らかとな った。
(2)1番刈後の競合力
採草用 チモシーの1番刈後競合カの不足は、チモシー割合の低下、雑草の侵入を通じ、草地の荒廃 を招く。親栄養系とその後代系統とを、シロクローバとの競合条件と単播条件とで調査した結果、競 合カの狭義の遺伝率が高いこと、および、単播条件での試験結果では競合カを的確に推定できないこ と、の2点を 見出した 。した がってチ モシーの競合カは、それが競合条件で検定されていれば、1回 の個体または後代系統に対する選抜でも、相当程度の育種的改良が可能であることが明らかとなった。
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(3)種子生産性
チモシーの種子生産性 は、優良品種の早期普及と増殖コストの削減を図るために重要である。栄養 系および後代系統を用い た採穏試験から、種子収量は1穂種子重、さらには穂1 cmあたり種ナ数と密 接に関連していること、 および、種子生産性の序列の年次間変動はやや大きいが、その狭義の遺伝率 は高いこと、の2点を見出した。したがってチモシー の種子生産性は、それが複数の環境条件下で検 定されていれば、1回の個体選抜でも相当程度の育種 的改良が可能であることが明らかとなった。ま た、温室内で行えるチモ シー栄養系の種子生産性の簡易検定法を開発した。圃場での実際の採種試験 をこの簡易検定と組み合わせることにより、種子生産性の育種的改良が加速されることが期待できる。
2.チモシーおよび他の他殖性、多年生牧草における新形質 の効率的改良法の提示
前述した 研究結果を基に、チモシーにおいてこれまで改良されたことがない形質を、従来よりも効 率 的 に 改 良 で き る 新 手 法 を 、 各 試 験 で 得 ら れ た 知 見 を 基 に 考 案 、 提 示 し た 。 従来の新形質改良法は、(1)個体に対する調査と選抜、(2)優良個体間での交配、(3)後代検定試験に おける選抜 効果の確認、という3段階の 手順で行われていた。しかしこの方法には、労カと時間が掛 かること、 および狭義の遺伝率が低かったり、環境の影響を受けやすい形質では、必ずしも選抜効果 の確認ができないこと、などの問題点がある。
これに対 し新手法では、親栄養系とその後代系統を同一圃場で調査する「親子同時検定」を最初に 行う。これ により、当該形質の効率的改良法の検討に不可欠な3要素、すなわち広義、狭義の遺伝率 および環境 に対する安定性を、早期にかつ正確に把握できる。したがって、従来の手法では選抜効果 が確認でき ない場合があった形質、具体的には、狭義の遺伝率が低い、または環境の影響を受けやす い形質にっ いても、常に効率的な選抜を行える。またこの新手法はチモシー以外の他殖性、多年生牧 草の育種にも適用できる。
これまで に北見農試では、耐倒伏性と競合カにっいて、前述した効果的改良法に従った育成経過を 経て、両形 質に優れるチモシ一系統が育成された。これらの系統は、今後生産力検定試験、系統適応 性検定試験 を経て、優良品種として登録される可能性が高い。
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学位論文審査の要旨
主 査 教 授 中 嶋 浩 副 査 教 授 由 田 宏 一 副 査 教 授 佐 野 芳 雄 I 系 特 定 産 業 技
副 査 室 長 山 田 敏 彦 ( 鶲 1 鏃 | 騰 錢 ! 議 ! 研 究 セ ン タ ー
学 位 論 文 題 名
チモシー主要形質の効果的育種方法の構築
本 論 文 は6章 か ら 構 成 さ れ 、 表34, 図18、 引 用 文 献130編 を 含 む137頁 の 和 文 論 文 で あ り 、 別 に5編の参 考論文 が添え られ ている 。
本研究 は北海 道で 最も重 要なイ ネ櫚牧 草チ モシー(Phleum piratense L)の効率的な璃種法の構築と、そこ から導 きださ れる 他の他 殖性、 多年生 牧草 の育種 均改良 法を提 示した ものである。育種の目標は良質多収 である が、具 体的 には近 年特に 要望が 強い 、一番 草の耐 倒伏性 、―番 刈後の競合力、およぴ睦子生産性の 改 良 に 焦 点 を あ て た 研 究 で あ る 。 得 ら れ た 結 果 は 、 っ ぎ の よ う に 要 約 さ れ る 。
1. チモシ ー主要 形質の 効果 的な育 種的改 良法
(1)1番草に おける 耐倒伏 性
採草用 チモシ ー1番草の 倒伏 |ま丶 収量の 減少、 品質 の低‑lお よび草 地の 荒廃を 招く。 親栄養系とその後 代 系統 に 対 す る1番 草 の 刷 翻 ヴ准 の儲曜 鋳嗣ゝ ら、生 育段儷 勁蠍 る場合 の耐倒 伏性は 、そ ゎぞ期 異なる 形質と して取 り扱 われる ぺきも のであ るこ と、お よび、 各生育 閏砦における耐飼伏性の狭義の遺伝率が高 い こと 、 の2点 を見 出 し た 。 した がって チモシ ーの耐 倒け准 は、 そゎが 生育段 傭1Jに 調査さ れてい れほ 1回 の 個 体 選 抜 で も 相 当 程 度 の 育 種 的 改 良 が 可 能 で あ る こ と を 明 ら か に し た 。
(2)1番刈後 の競合 カ
採草 用チモ シ・ー の1番刈後 競合カ の不泥 は、チモシー害恰の低下、雑草の侵入を通じ、草地の荒廃を招 く。親 栄養系 とそ の後代 系統と を、シ ロク ローパ との競 合条件 と単播条件とで調査した結果、競合カの狭 義の遺 伝率が 高い こと、 および 、単播 条件 での試 験結果 でt弼暁合 カを的確に推定できないこと、の2点を 見出し た。し たが ってチ モシー の競合 カは 、そゎ が競合 条件で 検定さ れて いれば 、1回の個体または後代 系 統 に 対 す る 選 抜 で も 、 相 当 程 度 の 育 種 的 改 良 が 可 能 で あ る こ と を 明 ら か に し た 。 (3)種 子生産 性
チモ シーの 種子生 産性は 、優良 品種 の早期 普及と 増殖コ スト の削減を図るために重要である。栄養系お
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よび 後 代系 統を 用 いた 採種 試 験か ら、 種 子収 量は1穂種 子 重、さらには聴lcmあたり 種子数と密接に関 連 して い るこ と、 お よび 、種 子 生産 性の 序列の年次間変動 はやや大きいカIその狭義の 遺伝率は高いこと 、 の2点 を 見 出 し た 。 し た が っ て チ モ シ ー の 種 子 生 産 性 は 、 そ わ が 複 数 の 環魔 条件 下 徽さ れて い れは 1回の 個体 選 抜で も相 当 程度 の育 種 的改良が可 能であることを明ら かにした。また、 温室内ー哘えるチ モ シー栄養系の 種子生産性の簡易 検定法を開発した。圃場での実際の採種試験をこの簡易検定と細み合オ:)せ ることにより 、種子生産性の育 種離改良カcVJIl遠される。
2.他殖f生丶多年生牧草に おける新形質の効 率的改良法の提示
前述 し た研究結果を 基に、チモシーにお いてこれまで改良 されたことカ淞い 形質を、従来よりも 効率離 に 改 良 で き る 新 手 法 を 、 こ れ ま で の 多 く の 試 験 で 得 ら ゎ た 知 見 を 取 り 入 わ 考 案 、 提 示 し た 。 従来の 新形質改良法は、(i)個体に対する調 査と選抜、(2)優蘭鬮体間で の交配、(3)後代検定試験における 選抜効 果の確認、という3段階の手 −オで行わゎていた。しかしこの方法には、労カと時間ガ礙いかること、
お よび 狭 義の 遺伝 率 が低 いな ど 、環境の影響を受 けやすい形質でi出けしも選 抜効果の確認ができ ない、
などの 問題点がある。
新 手法 で は、 親栄 養 系と その 後 代系 統を 同 一圃 場で 調 査す るr驀 抒伺 時 検定Jを最 初に 行 う。 これ によ り 、当 該 形質 の効 率 的改 良法 の 検討に不可欠な3要素、すな わち広義丶狭義の 遺伝率および環境に 対する 安 定性 を 、早期にかつ 正確に把握できる。 したがって、従来 の手法では選抜効 果カ瀧認できない場 合があ っ た形 質 、具体的には 、狭義の遺伝率が低 い、または環境の 影響を受けやすい 形質についても、常 に効率 的 な選 抜 を行える。ま たこの新手法はチモ シー以外の他殖性 、多年生牧草の育 種にも適用できるこ とを提 示した 。
提案 した効果er<J浪法に 従った育成綴愚を 経て、耐fり准と競合カに優 れるチモシー系統 が育成されフヒ こ れら の 系統は、今後 生産カ検定試験、系 統通疏牲検定試験 を経て、優良品鍾 として登録される予 定であ る。
以上のように、 本研究は実際の喃 礦囲馳羇から得ら わた知見と育種理論 とを融合させ、ま た牧草類の効率 的な新形質改良法 を構築したもので 学術的にも高く評 価できる。よって審 査員一同は、玉置 宏之が博士(農 学)の学位を受け るのに充分な資賂 を有するものと認 めた。
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