博 士 ( 薬 学 ) 田 村 雅 史
学 位 論 文 題 名
新規不斉配位子の設計・合成と触媒的不斉反応の 開発に関する研究
学位論文内容の要旨
触 媒的不斉 反応の 開発は現 在の有機 合成化 学の中心課題のーつである。高工ナンチ オ選択性獲得には有効な不斉空|問の構築が必須であり,その不斉空間を規定する配位 子 が重要な 役割を担 う。そ こで有効 な配位 子の創製 を目的 とし,1位に第 四級不斉炭 素 を持っイ ンダン骨 格を基 盤とする 一連の 新規不斉配位子を設計・合成し,それらを 用いた不斉触媒反応の検討を行´〕た。
1.新規スピロ型ジホスフんイト配位子の合成
ス ピロ骨格 を持つ 配位子は その剛直 な構造 から高い不斉誘起能を持つことが期待さ れ るが,そ の合成の 困難さ から不斉 触媒反 応への応用例は極めて少ない。一方,ホス フ んイトを 官能基と する配 位子は, 現在汎 用されているホスフイン配位子と比べて合 成 が容易で あると同 時に電 子的・立 体的に 異なる特徴を持つ。そこで,ホスフんイト を 官 能 基と し て 組み 込んだ新 規不斉 スピロ配 位子を 設計し, その合成 に着手 した。
当 研究室で はキラ ルなロジ ウム錯体Rh2(S‑PTTL)4を用 いた芳香 環C‑H挿入反応によ り高工ナンチオ選択的に1位に角′;四級不斉炭素を持つ2‑インダ丿ンが得られることを 報 告してい る。そこ で光学活性2‐インダノンを重要中間体とし,光学的に純粋な新規 Cす 称 ジオ ー ル を合 成 し た。 こ れ らを 中 間 体と しビ ス(ジフ ウニルホ スフん イト)
およびモノホスファイトを合成した。
2.新規スピロ型ジホスファイト配位子の不斉触媒反応への応用
一 連の新規 スピ口 型ホスフ ァイト配 位子の 機能を見積もることを目的とし,パラシ ウム錯体を用いた1,3‐ジフェニルプ口ペニルアセタートに対するマ口ン酸ジメチルの 不 斉置換反 応を検討 した。c2対称ジホ スファ イトは高いエナンチオ選択性で生成物を 与 えた。な お,本反 応にお いてりチ ウムカ チオンの共存は高工ナンチオ選択性に必須 で ある。芳 香環のな いスピ ロ配位子 では良 好な結果が得られなかったことから,イン ダン骨格上の芳香環がりン原子.トのフェノキシ基を効果的に配座固定した結果として 理 解できる 。なお, その他 のC2対称ジ オール やビナフトールから誘導したホスフんイ ト を用いた 場合のエ ナンチ オ選択性 は極め て低く,ホスファイト配位子におけるスピ ロ 骨格の有 用性が示 された 。立体反 応経路 解明のために配位子と兀一アリルパラシウ ム 錯体のX線結晶 構造解 析を行な ったと ころ,リ ン原子上 のフウ ノキシ基 が反応部位 に向かって効果的に張り出していることが明らかとなった。
また基質である1,3‑ジフェニルプロペニルアセタートが配位したバラジウム錯体の31p
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NMRに より本反 応にお いては単 一の兀一 アリル 中間体が 形成さ れている ことが判明し たこと から,他 の求核 剤の反応 において も高い 選択性が得られると考え,求核剤の検 討を行 なった。 炭素求 核剤,窒 素求核剤 いずれ の場合にも良好なェナンチオ選択性で 対応する生成物が得られた。
また, 本反応は 求核剤 上に不斉 を誘起 するアリ ル化反応にも有用である。例えば,
シンナミルアセタートとアセチルグリシン誘導体の反応では97 010 eeで目的物が得られ た。こ れらの結 果は, スピロ型 ジホスフ んイト の不斉配位子としての高い可能性を示 すものである。スピ口型ホスフ7.イト配位子を他の反応系に適用することを検討した。
ホスファイトが配位子として機能することが知られているPaus on―Khand反応、及びヒ ドロホルミル化反応について検1寸したところ,それぞれ32% ee,38ワ。eeのエナンチオ 選択性が観測された。現在反応粂件の最適化を検討中である。
3.新規オキサゾリン配位子の合成とその不斉触媒反応への応用
Pf altzのセミコリン配位子を原!I!として開発された一連のビスオキサゾリン配位子は,
極めて 汎用性に 富む不 斉配位子 のーつで ある。 さらに高度な不斉空間を規定するため に,1‐フェニル‐l‑メチルインダン骨格を組み込んだ不斉オキサゾリン配位子を合成す ることとした。
Rh2(S‑P ITL)4を用いた 芳香環不 斉C‑H挿入反応 を鍵段階としてアミノアルコールを 合成し ,続く官 能基変 換を経て ビスオキ サゾリ ン配位子を合成した。本配位子の機能 を評価 するため に,シ クロペン タジエン とN‑アク リ口イルオキサゾリジンとの銅触媒 による不斉Diels ‑Alder反応について検討したところ,期待通り,ほぽ完璧なエンド選 択性か つ98% eeとぃ う高いエ ナンチオ 選択性 で生成物が得られた。これは,本化合物 の不斉 配位子と しての 高い有用 性を示す もので あり,様々な反応系への広い応用が期 待できる。
次に不 斉オキサ ゾリン 窒素とホ スフイ ンを併せ 持つP‑Nハイブ リッド配 位子の合成 を行な った。P‑Nハイ ブリッド 配位子は ,異な る電子環 境を持 つニつの 元素が配位す るため ,ジホス フイン ,ビスオ キサゾリ ン配位 子とは異なる特徴を持つ。特にパラジ ウム錯 体を触媒 とする アリル化J乏応において有効であることが報告されていることか ら,基質として1,3−ジフェニル‑/口ペニルアセタートを,求核剤としてべンジルアミ ンを用いてアリル位アミノ化反応を行なったところ高いエナンチオ選択性が得られた。
また,従来高い選択性を得ることが困難であった3‐ベンテン‐2 ‑イルアセタートを基質 とした場合にも,65%eeのエナンチオ選択性が得られた。反応の立体化学は,1,3‐、ン フェニ ルプロペ ニル基 が配位し たPd錯体 のX線 結晶構造 解析の 結果から 説明できる。
本錯体 は不斉ヒ ド口シ リル化J疋応においても有用である。例えば,アセトフェノン を基質とすると95%ぼの高い選択性が得られることが分かった。
結語
1位 に第四級 不斉炭 素を持っ インダン 骨格を 基盤とす る新規 不斉配位 子を設計・合 成し, それらを 用いた 不斉触媒J支応の開発を行なった。選択性に改善の余地は残され て い る も の の , い く つ か の 反 応 系 に お い て そ の 有効 性 を 見出 す こ とが で き た。
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学 位 論 文 審 査 の要 旨 主査
副査 副査 副査
教授 教授 助教授 講師
橋 本 俊 一 森 美和子 中 島 誠 佐 藤 美 洋
学 位 論 文 題 名
新 規 不 斉 配 位 子 の 設 計 ・ 合 成 と 触 媒 的 不 斉 反応 の 開 発 に 関 す る 研 究
本 論 文 は 新 規 不 斉 配 位 子 の 設 計 ・ 合 成 並 び に そ れ ら を用 い た 触媒 的 不 斉反 応 に 関 す る も の で あ る 。 不 斉 反 応 に お い て 高 い エ ナ ン チ オ 選択 性 を 獲得 す る には 有 効 な 不 斉 空 間 の 構 築 が 必 須 で あ り 、 不 斉 空 間 を 規 定 す る配 位 子 が重 要 な 役割 を 担 う 。 著 者 は 、 有 効 な 配 位 子 の 創 製 を 目 的 と し 、1位 に第4級 不斉 炭 素 を持 つ イ ン ダ ン 骨 格 を 基 盤 と す る 一 連 の 新 規 不 斉 配 位 子 を 設 計 ・合 成 し 、そ れ ら を用 い た 不 斉触 媒 反 応に つ い て検 討 し た。
ス ピ ロ 骨 格 を 基 本 骨 格 と し た 配 位 子 を 不 斉 触 媒 反 応 へ応 用 し た例 は 極 めて 少 な い 。 一 方 、 ホ ス フ ァ イ ト を 官 能 基 と す る 配 位 子 は 、 現 在汎 用 さ れて い る ホス フ イ ン 配 位 子 と 比 べ て 合 成 が 容 易 で あ る と 同 時 に 電 子 的 ・立 体 的 に異 な る 特徴 を 持 つ 。 そ こ で 、 ホ ス フ ん イ ト を 官 能 基 と し て 組 み 込 ん だ新 規 不 斉ス ピ ロ 配位 子 を 設 計 し 、 そ の 合 成 に 着 手 し た 。 著 者 の 所 属 す る 研 究 室で は 、 キラ ル な ロジ ウ ム(n)錯 体Rh2(S−PTTL)4を 用 い た 芳 香 環C―H挿 入 反 応 によ り 高 工 ナン チ オ 選 択 的 に1位 に 第4級 不 斉 炭 素 を 持つ2‐ イン ダ ノ ン誘 導 体 が得 ら れ るこ と を 報告 し て い る 。 著 者 は 光 学 活 性2‐ イ ンダ ノ ン 誘導 体 を 重要 中 間 体と し 、 光学 的 に 純粋 な 新 規 ス ピ ロ ビ イ ン ダ ン ジ オ ー ル を 合 成 し た 。 こ れ ら を 中 間 体 と し ビ ス ( ジ フ ェ ニ ル ホ ス フ ァ イ ト ) 及 び モ ノ ホ ス フ ァ イ ト を 合 成 し た 。 一 連 の 新 規 ス ピ ロ 型 ホ ス フ ん イ ト 配 位 子 の 機 能 を 見 積も る こ とを 目 的 とし 、 パ ラ ジ ウム 錯 体 を用 い た 酢酸1,3‐ シ フ ェ ニル プ ロ ペニ ル に 対す る マ ロン 酸ジメ チ ル の 不斉 ア リ ル位 置 換 反応 に つ いて 検 討 し た。 そ の 結果 、02対 称aS, CIS‑ス ピ 口 ビ イ ン ダ ン ジ ホ ス フ ァ イ ト を 配 位 子 と し た と き99%の 高 い エ ナ ン チ オ 選 択 性 で 生 成 物 を 与 え た 。 な お 、 本 反 応 に お い て り チ ウ ム カ チ オン の 共 存は 高 工 ナン チ オ 選 択 性 獲 得 に 必 須 で あ っ た 。 ス ピ 口 骨 格 に べ ン ゼ ン 環が 縮 環 して い な いス ピ 口 ジ オ ー ル や そ の 他 のC2対 称 ジ オ ー ル 、 ビ ナ フ ト ー ルか ら 誘 導し た ホ スフ ァ イ ト を 用 い た 場 合 で は 良 好 な 結 果 が 得 ら れ な か っ た こ と から 、 ホ スフ ん イ ト配 位 子 に おけ る ス ピ口 ビ イ ンダ ン 骨 格の 有 用 性 が示 さ れ た。