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第2節美術館における幼児期の鑑賞体験の望ましい援助

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Academic year: 2021

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1)文部科学省:『幼稚園教育要領』,2008年.

第2節 美術館における幼児期の鑑賞体験の望ましい援 助

Ⅰ.遊びを通した鑑賞

『幼稚園教育要領』(2008)に示される通り、「幼児の自発的な活動としての遊びは、心 身の調和のとれた発達の基礎を培う重要な学習であることを考慮して、(幼児期の教育は) 遊びを通しての指導を中心として」行うことが基本であり 1)、幼児は遊びを通して環境と 相互に関わり合いながら学び、発達する。このことに参照すれば、幼児が美術館で鑑賞す る際の援助も、遊びを通して美術作品や美術館と相互に関わり合うことができるものであ るべきだろう。

また、『幼稚園教育要領解説』(2008)は、「幼児期における遊び」について、「遊びの本 質は、人が周囲の事物や他の人たちと思うがままに多様な仕方で応答し合うことに夢中に なり、時の経つのも忘れ、そのかかわり合いそのものを楽しむことにある。(中略)(周囲 の環境に対する)意味やかかわり方の発見を、幼児は、思考を巡らし、想像力を発揮して 行うだけでなく、自分の体を使って、また、友達と共有したり、協力したりすることによっ て行っていく(下線は筆者による)」とし、「自発的な活動としての遊びにおいて、幼児は 心身全体を働かせ、様々な体験を通して心身の調和のとれた全体的な発達の基礎を築いて いくのである。その意味で、自発的活動としての遊びは、幼児特有の学習なのである」と、

幼児期の遊びの特質と意義を説明している。

以上を参照すると、望ましい援助は、幼児が美術作品や美術館と多様な仕方で応答し合 えるものであり、その応答の中で思考を巡らすことができるもの、想像力を発揮できるも の、体を使うもの、友達と共有・協力できるものであると言える。

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Ⅱ.遊びを通した鑑賞の具体的方法

幼児対象プログラムでは、幼児が美術作品や美術館と相互に応答し合える遊びの方法と して、(1)幼児による他表現形態への転換と、(2)演出による体感を試みている。前者は、

言語表現への転換を行った絵画鑑賞プログラム「対話」・彫刻鑑賞プログラム「対話」・

絵画鑑賞プログラム「お話作り」と、造形表現への転換を行った絵画鑑賞プログラム「模 写」・彫刻鑑賞プログラム「模刻」「自由制作」であり、後者は、五感を使い体感する「全 体鑑賞」と、探検という演出を用いた「美術館探検」である。前者は、「美術作品を鑑賞 する」ことを主眼にし、後者は、「美術館を知る」ことを主眼にしたプログラムである。

方法と各プログラムの対応は、次の図1のようにまとめることができる。

図1.幼児期の美術鑑賞の望ましい援助方法と幼児対象プログラムの対応

遊び

相互の応答 美術作品

美術館

幼児

具体的方法

幼児による他表現形態への転換 演出による体感

身体表現 言語表現 造形表現 直接体験的演出 想像体験的演出

「対話」 「対話」 「お話作り」 「模写」

「模刻」「自由制作」 「全体鑑賞」 「美術館探検」

身体表現 発話 物語 幼児の作品 五感による体感 探検による体感

方法

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Ⅲ.幼児対象プログラムにおける遊びの諸要素の確認

前章で見た各鑑賞プログラムでの援助方法、即ち幼児と美術作品や美術館との遊びを、

[1]相互の応答、[2]思考、[3]想像、[4]体を使う、[5]友達との共有・協力、の観点から 見てみよう。

1.言語表現への転換

幼児による言語表現への転換を行っているのは、絵画鑑賞プログラム「対話」、彫刻鑑 賞プログラム「対話」、絵画鑑賞プログラム「お話作り」である。

[1]相互の応答:「対話」において、進行役からの発話は、人的環境からの言語的応答で あると同時に、美術作品という物的環境からの応答に代わるものとなり、対話は幼児と美 術作品の相互作用を促す役割を果たしていた。彫刻鑑賞においては、進行役からの発話は、

絵画鑑賞と同様、幼児に対する職員と作品からの言語的応答であることに加え、彫刻の物 的応答性を引き出すものとなっていた。「対話」そのものが相互の応答である。

[2]思考:対話の進行に伴い、幼児は、絵画に描かれた内容物の発見や、彫刻が何の形を 表しているかなどの指摘に留まらず、それらを詳細に観察して特徴を述べたり、自らの見 方に合理的な説明を加えたり、作品の特徴を指摘したりするようになる。そのことは、相 互の応答である対話の中での思考の現れである。

[3]想像:幼児は、物事の理解を自らの経験に照合して行おうとする。経験には、直接体 験のみならず絵本などを通した間接体験も含まれるため、幼児の発話には想像的な内容が 含まれる。対話の中においても同様のことが言える。また、言語表現への転換において、

想像活動を意図的に取り入れた活動は「お話作り」であった。幼児は、作品に描かれた内 容物同士の関係などを、自らの経験と照合させながら理解し味わっていた。その結果とし て、表現物として幼児が作った「お話(物語)」があった。

[4]体を使う:絵画鑑賞は作品の前に座るなどして行うことが多いため、運動のように体 を使うことはないだろう。しかし、対話の中で「この人のポーズを真似してみよう」など と声をかけ、幼児の身体表現を促すことがある。また、幼児は、伝えたい内容を言葉で十 分表現できない場合に、自ら身体表現により伝えようとする。一方、彫刻鑑賞では、身体 表現が行われることが多い。同じ空間に質量を持って存在する立体として、形態を真似る など身体表現を通して理解し、思考したり想像した内容を伝えることが、より有効となる。

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[5]友達との共有・協力:プログラムは保育施設と美術館との連携により行われているた め、幼児は友達と一緒に活動することとなる。プログラムの中で、列などにならず自由に 鑑賞する活動を設け、幼児一人ひとりが作品と関わりを持ち、自分にとっての「好きな作 品」を見つけることを重視すると同時に、皆で1つの作品を見て、友達との相互の関わり の中で鑑賞することも行っている。自分の思いばかりでなく、友達の意見も聞きながら共 に探求することで、作品への多様な見方へ発展していたことが、事例に認められた。

2.造形表現への転換

幼児による造形表現への転換を行っているのは、絵画鑑賞プログラム「模写」、彫刻鑑 賞プログラム「模刻」「自由鑑賞」である。

[1]相互の応答:幼児は作品を見ての気付きや思いを、画材や粘土を使い表す。その成果 と原作品を見比べ、さらなる気付きや見落としていたものなどを確認し、次の表現を行う。

再度その成果と原作を見比べ、再度表現し、という循環の中に、制作という活動を通した、

幼児と原作品の応答を見ることができる。

[2]思考:制作という活動の中で時に幼児は、原作品と同じ色彩を表現できない、原作品 と同じ形態を再現できないなどという葛藤を感じるだろう。こうした葛藤をも含む応答の 中で、幼児は思考を巡らせ、いかに表現するかに苦心する。そのことを通じ、絵画や彫刻 といった表現形態の特質や独自性を認め学んでいく。

[3]想像:「模写」の活動が進む中で、例えば、1人の人物が描かれた肖像画に、背景や 友達となる人物を描き加えるなど、幼児は「模写」を通した作品との応答の中で、想像活 動を行っている。「模刻」においても、前章の事例で見たように、模刻作品が、偶然の表 現を契機に、自由な想像をもとにした表現に転換するなど、幼児は作品との応答の中で、

原作品に規定されることなく、自由に想像活動を行い独自の表現をしている。

[4]体を使う:手により画材や粘土を使った痕跡が、造形表現として現れる。幼児と作品 の相互の応答は、幼児の手により現前のものとなると言える。また、描画や造形の際に、

幼児は思考を助けるものとして、自らの身体を使う。原作品を見ながら、形態を真似てみ ることで、どのように描くべきか、あるいは形作るべきか、思考を巡らせる様子が見られ る。「模写」「模刻」を通した相互の関わりの推進に、体を使うことは有効に働いている。

[5]友達との共有・協力:「模写」「模刻」「自由制作」は、いずれも幼児と作品との個々 の関わりが重視される活動である。パーソンズの鑑賞の発達段階に参照すれば、高次の鑑

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2)Michael J. Parsons: How We Understand ArtA congnitive developmental account of aesthetic experience, Cambridge

University Press, 1987. (尾崎彰宏・加藤雅之/訳:『絵画の見方―美的経験の認知発達』,法政大学出版局,1996年.)

3)有馬知江美は、美術鑑賞とは本来個人的な活動であることから、「模写」を最も重要な活動と位置付けている。

賞は、鑑賞者が自らの人生に美術作品を独自の価値観で位置付けることができるかに拠る ものであるので 2)、鑑賞という行為において個人と作品との関わりは最も重要であるとも 言える。幼児期の鑑賞においても同様で、幼児一人ひとりの見方が尊重されるべきである。

その点で、これらの活動は美術鑑賞の本質に迫るものとして、意義あるものと言える 3)。 また、言語表現への転換を意図した活動では、言葉の発達過程や発言に対するためらいか ら、対話に十分に参加できない幼児もいるだろう。そうした幼児への配慮という点におい ても、プログラムの中で個人と作品との関わりが中心となる活動が設定されていることは 重要である。しかし、ここでは保育施設と美術館との連携による一斉の活動という形式の 中で自然発生する、幼児同士の関わりにも注目しておこう。友達の模倣も、幼児にとって は学びの機会になる。「模写」で、原作品を前にどのように描き始めるかためらう幼児が、

隣の友達の描画を模倣することを契機に、独自の模写作品に至る様子はしばしば見られる。

「模刻」「自由制作」においても同様で、造形表現への転換を意図した活動の中で、幼児 と原作品が相互に応答するのみならず、幼児同士の関わりがあることは、環境との関わり の中で総合的に発達する幼児にとり、活動が機能していることを示していると言えよう。

3.演出による体感

幼児と美術作品が、演出による体感により相互に応答できる活動として行われているの は、直接体験的演出による「全体鑑賞」と、想像体験的演出による「美術館探検」である。

両プログラムは、美術館には独自の様態があるということを、演出による体感を通して、

理解できる内容となっていた。

[1]相互の応答:「全体鑑賞」では、素足になるという身体に直接働きかける演出を中心 に、幼児が五感を通して美術館と関わることができる、直接体験的演出が取り入れられて いた。素足で歩くという幼児からの働きかけに、美術館は床の素材の違いなどを触感を通 し幼児に伝える。幼児は、その驚きや楽しさから次の探求に進み、床を歩く際の音の響き や、壁や天井の素材や、構造の違いによる音響の違い、展示室ごとの照度の違いなど、美 術館が展示のために行っている建築構造や空間構成の工夫や独自性を、五感を通し学んで いた。「美術館探検」では、美術館が通常公開していない空間、すなわち一般来館者には

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4)実際には、幼児の依頼により警備職員が解錠する。

非日常的空間であるバックヤードを、探検という想像体験的演出の中で見学することによ り、美術館の機能の一部を学んでいく。幼児が扉を開けると 4)、美術館からの応答として 未知のものが現れ、その事物を探求するうちに次の扉が現れるという、基本構造による相 互の応答を通し、幼児は美術館の機能を学んでいた。

[2]思考:「全体鑑賞」の「美術館探検」も、進行役の様々な問いかけの中で活動が進む。

発問を受けて幼児は、例えば、「全体鑑賞」では、床の素材は何なのか、なぜそんな素材 が使われているのかなどを思考する。「美術館探検」では、空調設備や浄化機能などを、

実際の設備を見たり、通風口での空気の流れを見たりしながら、発問に応じ思考を巡らせ、

その意図や美術館の機能を学んでいた。

[3]想像:「美術館探検」では、探検という想像的なごっこ遊びを意図的に設定し、幼児 はその中で遊びながら学んでいく。「全体鑑賞」も、美術館の多様な展示室を見て回ると いう探検的な要素がある。ある回で、幼児が「僕たち帰れるのかな」とつぶやいたことが あった。展示室を次々に探求するうちに、非日常的空間へ迷い込んだような錯覚を覚えた と推測できる。幼児は、「全体鑑賞」という遊びに没頭し、思考を巡らすと同時に想像活 動を行い、美術館への探求を行っていたと言えよう。

[4]体を使う:既に見てきた通り、「全体鑑賞」と「美術館探検」で、幼児は五感を通し、

全身体的に美術館と相互の応答を行い、様々な学びを行っている。

[5]友達との共有・協力:感覚や想像は、本来個人的なものである。これらが演出の中核 となる「全体鑑賞」と「美術館探検」は、幼児と美術館との個々の関わりが重要な位置に あると言える。しかし、同時に個々の感覚や想像を友達と共有することにより、活動がよ り躍動的な様相や展開に至っていたことも注目に値する。

Ⅳ.美術館における幼児期の鑑賞体験の望ましい援助

幼児対象プログラムを、[1]相互の応答、[2]思考、[3]想像、[4]体を使う、[5]友達と の共有・協力、の観点から再度確認した。いずれの活動にも、幼児の遊びの諸要素が確認 でき、幼児の学びのために機能していることが分かった。

以上から、美術館における幼児期の鑑賞体験の望ましい援助は、以下の要素を含むもの

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が有効であると結論付けられる。[1]幼児が美術作品や美術館と、遊びににより多様な仕 方で応答し合えるもの。その応答の中で[2]思考を巡らすことができるもの、[3]想像力を 発揮できるもの、[4]体を使うもの、[5]友達と共有・協力できるものである。具体的方法 としては、幼児による言語表現、造形表現、身体表現など他表現形態への転換と、直接体 験的及び想像体験的な演出による体感が有効であった。

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