• 検索結果がありません。

筆者らは NOx に関する統合アセスメントモデル開発の第一歩としてその枠組みを提案した (Yamashita et al., 2007) が, その各ステップの詳細はまだ開発されていなかった. 本論文では, この NOx に関する統合アセスメントモデルの ii),iii) について, 酸性物質の沈着

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "筆者らは NOx に関する統合アセスメントモデル開発の第一歩としてその枠組みを提案した (Yamashita et al., 2007) が, その各ステップの詳細はまだ開発されていなかった. 本論文では, この NOx に関する統合アセスメントモデルの ii),iii) について, 酸性物質の沈着"

Copied!
10
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

GIS-理論と応用

Theory and Applications of GIS, 2009, Vol. 17, No.1, pp.43-52

【原著論文】

アジア地域における窒素酸化物の排出による

酸性雨の生態系への影響

山下 研・伊藤史子

Adverse effects of acid deposition on ecosystems by the emission of nitrogen oxides in Asia

Ken YAMASHITA, Fumiko ITO

Abstract: The purpose of this study is to estimate the adverse effects on ecosystems by

the acid deposition of nitrogen oxides (NOx) in the Asian region. The source-receptor relationships of the model of long-range transportation, ATMOS-N, were used to calculate the wet/dry deposition of the nitrogen (N) in Asia with the emission inventory, REAS. Critical loads of N deposition in Asia were calculated from the relationships between the critical load of sulfur (S) and balance of N in and out using the data of critical load of S of RAINS-ASIA, the digital vegetation data of Global Land Cover Characteristics Database of USGS and the digital soil data of FAO Digital Soil Map of the World. In order to assess the environmental impact, the gaps between N deposition and critical load of N were calculated.

Keywords: 酸性雨(acid deposition),窒素酸化物(nitrogen oxides),発生源インベントリ(emission inventory),生態系(ecosystem),臨界負荷量(critical load) 1.はじめに  欧州や北米では,1960年代頃より,酸性雨による 森林の衰退や湖中の生物の消滅などの生態系に対す る深刻な影響が明らかになり,酸性雨等の観測体制 の整備や原因と結果を解析するシミュレーションモ デルの開発と併せて,原因となる大気汚染物質排出 量の削減等の対策が,国際条約・協定などの国際的 な枠組みが設立される中で行われてきている(環境 庁,1997).一方アジアでは,急速な経済成長によ る化石燃料の燃焼の増加に伴い,今後酸性雨の原因 となる二酸化硫黄,窒素酸化物などの大気汚染物質 排出量の増大が予想されており,その影響が深刻な ものとなる恐れがあることから,対策が急がれてい る.  欧州地域では,酸性雨などの越境大気汚染問題対 策のための議定書締結の過程において,その原因物 質である二酸化硫黄(SO2),窒素酸化物(NOx),ア ンモニア,揮発性有機化合物(VOCs)などを費用効 果的に削減するための科学的根拠となる統合アセス メントモデルとして RAINS が使用された(Alcamo et al., 1990).このモデルは,i)原因物質の発生状況 を示す発生源インベントリ,ii)原因物質の化学変 化を含む長距離輸送と沈着,iii)生態系への影響評 価,iv)原因物質の排出削減方法とその費用,を統合 的に解析するためのツールである.アジアにおい ては,SO2に対する統合アセスメントモデルとして

RAINS-ASIAが開発されているが(Downing et al.,

1997),その他の物質については開発されていない.

山下:〒950-2144 新潟県新潟市西区曽和1182 ㈶日本環境衛生センター酸性雨研究センター Acid Deposition and Oxidant Research Center E-mail:kyamashita@adorc.gr.jp

(2)

筆者らは NOx に関する統合アセスメントモデル開 発の第一歩としてその枠組みを提案した(Yamashita et al., 2007)が,その各ステップの詳細はまだ開発 されていなかった.  本論文では,この NOx に関する統合アセスメン トモデルの ii),iii)について,酸性物質の沈着量と 生態系影響の将来推計を含む詳細な地域分布の算 出を行い,アジアにおける統合アセスメントモデル の開発に資することを目的とする.以下,第2章で NOxの排出状況の地域分布を示し,第 3 章では拡 散・長距離輸送された NOx の沈着量を計算する. 第4章と第5章で酸性物質の沈着量の生態系影響が 現れる閾値(臨界負荷量)の推定と超過量の推計を 行い,最後に第6章でまとめを述べることとする. 2.窒素酸化物の発生状況  酸性雨の原因となる大気汚染物質等がどこからど れだけ排出されているかを表す発生源インベントリ については,これまでいくつかの研究成果が発表さ れているが,ここでは Regional Emission Inventory in Asia :REAS(Ohara et al.,2007)の 窒 素 酸 化 物 (NOx)の2000年,2010年及び2020年の発生源イン ベントリを利用して,解析を行った.  REAS は緯度経度0.5°×0.5°のグリッド毎の,燃 料の燃焼と産業活動による発生源からの SO2,NOx, 一酸化炭素(CO),非メタン炭化水素(NMVOC),ブ ラックカーボン(BC),有機炭素(OC)の発生源イ ンベントリであるが,本研究で使用した長距離輸送 モデルは1°×1°のグリッドに対応したモデルなの で,REAS の NOx データを1°×1°のグリッドデータ に変換して使用した.また2010年,2020年の排出量 予測は経済成長や汚染物質の排出規制によって大き く変化するが,REAS では中国に関して次の3つのシ ナリオが想定されて,計算されている.

1. 対策強化型 : Policy Success Case (PSC)

2. 持続可能性追求型 : Reference Case (REF)

3. 現状推移型 : Policy Failure Case (PFC)

 このうち,持続可能性追求型シナリオは,エネル ギー節約,クリーンエネルギーへの転換,新エネル ギー技術の穏やかな展開や新しい排出抑制技術に 伴った抑制されたエネルギー消費による中程度の排 出率の持続可能なシナリオとされている.  図1は,2000年,2010年及び2020年(PSC,REF, PFCシナリオ)の発生源インベントリである.2000 年から2020年にかけて,PFC シナリオでは特に中 国東部と南部,日本の関東関西地域,東南アジアの 大都市地域とインドの一部で排出量が増大すること がわかる.しかし,PSC シナリオにおいては,2010-2020年にかけての増大は PFC シナリオに比べて顕 著ではない.また2010年と2020年の図では,それ ぞれの年で PSC,REF,PFC シナリオの順に,排出 量が増大していることが示されている. 3. 長距離輸送モデルによる酸性物質沈着量 分布推計  酸性雨と総称される酸性物質の地表への沈着は、 雨等に含まれて降下してくる湿性沈着とガスやエア ロゾルとして沈着する乾性沈着に分けられる.一旦 排出された SO2,NOx,アンモニア等の物質は,湿 性沈着或いは乾性沈着として地上に戻ってくるま でに,大気中を時には数千キロも輸送される.大気 中での輸送の間には,複雑な化学的,光化学的過程 が存在する.NOx は一酸化窒素(NO),二酸化窒素 (NO2),硝酸(HNO3)として地上に到達する.長距 離輸送モデルは排出源情報,気象情報,地理情報を 入力データとして,大気中に排出された大気汚染物 質が長距離輸送され,化学反応を経て到着地に沈着 するまでを推定・予測するためのモデルである.  ATMOS-N1)は,アジア地域において NOx が化 学反応をしながら発生源から沈着地へと運ばれる 長距離輸送をシミュレーションするモデルであり (Holloway et al.,2002),気象場としては1990年の アメリカ環境予測センター(NCEP)のデータを使 用して、緯度1°×経度1°のグリッド毎に発生源 - 沈 着地関係(Source-receptor relationships: SRRs)が示 されている.前章の発生源インベントリから,この ATMOS-Nを用いて,アジア地域の N の沈着量分布 を推計し,図示した結果が図2である.

(3)

 図2は湿性沈着量と乾性沈着量の合計であるが、 ATMOS-Nでは地域全体としてはその比は概ね1:1 となっている.ここでは前述の3つのシナリオ別に 年次変化の将来推計を行うため,ATMOS-N の SRRs 及び REAS とも年間値ベースでの結果を使用して年 間総量を算出している2).またガス状窒素酸化物の 乾性沈着は直接測定による研究事例は少なく,特に 東アジアにおいてはほとんど報告されていない(松 田他,2007).しかし 2000 年 4 月から 2001 年 3 月ま で蟠竜湖(島根県)と伊自良湖(岐阜県)において NO3(硝酸)の湿性沈着量と乾性沈着量が測定され ており(酸性雨対策検討会,2004),湿性・乾性沈着 量の合計値は蟠竜湖と伊自良湖でそれぞれ990eq/ ha/yrと 1,010eq/ha/yr で あ っ た. 図 2 で 計 算 さ れた2000年の蟠竜湖と伊自良湖が含まれるグリッ ドの窒素酸化物沈着量はそれぞれ 533eq/ha/yr と 553eq/ha/yrであり,図2の計算結果の方が小さい 値となっている.  図2によると,PFC シナリオでは2000年から2020 年へと沈着量が増加していくが,PSC シナリオでは 増加の割合が緩やかである.また図1と比較して, 発生源の周囲にも沈着が拡がっていく様子が示され ている.

図 1 2000 年,2010 年,2020 年の NOx 排出量(REAS(Ohara et al., 2007)データより作成)

2000 年 2010 年 2020 年 PFC PSC REF PSC:対策強化型シナリオ REF:持続可能性追求型シナリオ PFC:現状推移型シナリオ

(4)

4. 生態系への影響の推定:窒素酸化物の臨界 負荷量  酸性雨の環境への影響には,i) 大気汚染物質の直 接的な影響,ii) 土壌と地表水の酸性化,iii) 窒素循 環の歪み,に分けられる.酸性物質沈着の臨界負荷 量とは,ii)について,それ以上の酸性物質の沈着が あると生態系に悪影響が現れるとされる境界値の ことであり,地形・土壌・生態系の特質によって定 まるので地域毎に異なる値となる.臨界負荷量は, その地域の土壌が酸性化している度合いを示して いるものではなく,土壌の緩衝能力の限界を示して いる.例えば,低い臨界負荷量の地域は,他の地域 に比べて早く土壌の緩衝能力を使い果たし,酸性化 する高い危険性があるということを意味している. RAINS-ASIAは,アジアの硫黄酸化物による酸性雨 の生態系への影響と,その対策として二酸化硫黄の 排出削減費用を解析する統合アセスメントモデルで あるが,筆者らは RAINS-ASIA で計算された硫黄酸 化物の臨界負荷量マップから,アジアにおける窒素 酸化物の臨界負荷量マップを作成する方法の概略を 示した(Yamashita et al.,2007).本章ではさらに植 生と土壌のデジタルデータを利用して,臨界負荷量 図 2 2000 年,2010 年,2020 年の窒素沈着量(REAS(Ohara et al., 2007))データ及び ATMOS-N(Holloway et al., 2002)の SRRs より算出した値をもとに作成) 2000 年 2010 年 2020 年 PFC PSC PSC:対策強化型シナリオ REF:持続可能性追求型シナリオ PFC:現状推移型シナリオ REF

(5)

分布の地域毎の詳細を算出する.

4.1.窒素酸化物沈着の臨界負荷量の計算

 硫黄沈着の臨界負荷量(CLmax(S))と窒素沈着の

臨界負荷量(CL(N))の間には,式(1)~(3)で示さ れる関係がある(Posch et al., 1995).

CLmax(N)=CLmin(N)+CLmax(S)/(1-fde) (1)

CLmin(N)=Nu+Ni (2)

CLnut(N)=Nu+Ni+Nle(crit)/(1-fde) (3)

ここで, Nu:植物による正味窒素吸収量(Nu(net)) Ni:腐食などの安定な有機物としての窒素の長期的 な不動化量 CLmin(N) :窒素に対する最小臨界負荷量 CLmax(N) :窒素に対する最大臨界負荷量 CLnut(N) :窒素の富栄養化に対する臨界負荷量 CLmax(S) : 硫黄に対する最大臨界負荷量 (RAINS-ASIA) Nle(crit) :窒素の臨界浸出量3) fde :脱窒係数(0~1)  一般に貧栄養で酸性的な環境(例:高層湿原)では, 大気からの窒素負荷は酸性化よりも富栄養化におい て重要な影響を及ぼすと推定される.しかし,アジ アにおける窒素の臨界浸出量(Nle(crit))の推定に関 する情報が少ないことから,本研究では窒素負荷の 酸性化の側面のみを考慮することとし,(3)式の窒 素の富栄養化に対する臨界負荷量(CLnut(N))は扱 わないこととした.富栄養化の影響については,対 象となる地域の特性によって大きく異なることなど から東アジアでは研究が進んでおらず,詳細な調査 研究は今後の検討課題である.

 CLmax(N)と CLmin(N)を求めるが,CLmin(N)を求

めるためには(2)式より Nu+Ni が必要であり,CLmax (N)を求めるためには(1)式より CLmin(N),fde及び CLmax(S)が必要である.以下の4.2では植生データ より Nu と Ni を,4.3では土壌データより fdeを算出 する. 4.2.植生データによる窒素バランスの推定

 Nu と Ni については,RAINS-ASIA PhaseII(Shindo et al.,2000)より,主に日本国内の植生データを以下 の森林分類毎に平均したものを使用した.欧州では,

Niは2~5kg/ha/yr (Posch et al.,1995)としている

が,アジアでは同様な情報は見当たらないので,日 本での計算例(林他,2003)を参考にして,欧州の最 低値2kg/ha/yr を採用した.また,Nu(total)-リター 量4)=Nu(net)の関係より,リターについても森林分 類毎の平均値(Shindo et al.,2000)を使用した.結 果を表1に示す5) ここで,森林分類は次のとおりである.

EB(Evergreen broad-leaved forest): 常緑広葉樹 DB(Deciduous broad-leaved forest): 落葉広葉樹 EN(Evergreen needle-leaved forest): 常緑針葉樹 DN(Deciduous needle-leaved forest): 落葉針葉樹

表 1 森林分類毎の窒素吸収量(Nu),リター及び不動化量(Ni) 窒素 収支 森林 分類 Nu︵ to ta l︶ ︵kg /h a/ yr ︶ Li tte r ︵kg /h a/ yr ︶ N u︵ ne t︶ ︵kg /h a/ yr ︶ N i ︵kg /h a/ yr ︶ N u︵ ne t︶ +N i ︵kg /h a/ yr ︶ EB 103.7 71.0 32.7 2.0 34.7 DB 77.8 54.0 23.8 2.0 25.8 EN 44.0 33.8 10.2 2.0 12.2 DN 108.5 - 7.4 2.0 9.4 平均 83.5 (52.9) 18.5 2.0 20.5  アメリカ地質調査所(USGS)では,1km×1km の解像度で世界の植生デジタルデータ(GLCC)が いくつか用意されている6).これらのうち最も区 分の単純な Vegetation Lifeforms(VL)(Running et al., 1994)を使用して,1°×1°の各グリッドにおける 植生区分の最頻値を求め,それを図示したのが図3 である.図3から,日本では常緑針葉樹が主な植生 であることや,東南アジアでは常緑広葉樹が主な植 生であり,中国では様々な植生が見られるが1年生 草地がかなりの面積を占めていることなどがわか る.ここで,VL の植生の区分分類コード7)は1~7 まであるが,表1の森林分類にそれぞれ表2のよう に対応させ,Nu+Ni の値を決定した.

(6)

表 2 VL と森林分類(表 1)の対応 VL 1 2 3 4 5,6,7 森林分類 EN EB DN DB - Nu(net)+Ni (kg/ha/yr) 12.2 34.7 9.4 25.8 2.0 4.3.土壌データを利用した脱窒係数の推定  fde(脱窒係数)は,欧州では土壌型ごとに固定値と して設定している例が多い(Posch et al.,1995他).本 研究では,(1)式の fdeを決定するために,欧州と日本 での研究例を参考にして,国連食糧農業機関(FAO) の The Digital Soil Map of the World(FAO/UNESCO, 2003)を利用して,各グリッド毎に最も面積の大きい 土壌の型をそのグリッドの土壌型とした.  この結果を表示したものが図4である.ここでは, 土壌の最上位の分類型(表3に示す26型)で色分け を行っている(例えば Af:鉄質アクリソル,Ah:湿 潤アクリソルは A:アクリソルにまとめて分類して いる).  図4を見ると,北日本ではリソゾル,西日本では アクリソルが主な土壌型であり,中国の南部から東 南アジアにかけてもアクリソルが多いが,中国の北 部はリソゾルに加えて様々な土壌型が混在してい る.インド近辺はヴァーティソルやルビソルなどの 土壌型が混在する様子がわかる.  ここで,参考文献(林他,2003)等から,fdeについ て表3のとおり,湿潤な種類の土壌については0.5, そうでない土壌については0.1と決める. 4.4.窒素の最大臨界負荷量の計算  RAINS-ASIA では,アジア地域の1°×1°のグリッ ド毎の CLmax(S)が作成されており(Hettelingh et al., 1995),対象とするグリッドの生態系の何パーセ ントがダメージを受けるかによって数値が異なって いる.各グリッドの中には CLmax(S)の値に影響を 及ぼす植生,土壌型その他の多くのファクターが存 在するが,ここでは25%値(25%の生態系がダメー ジを受ける,すなわち75%の生態系を保護)を使用 した.前 2 節では各グリッド毎に Nu+Ni の値と fde の値を決定したので,(1)式により,各グリッド毎 の CLmax(N)が計算できる(図5).図5より,中国南 東部,インドシナ半島,マレー半島などで,臨界負 荷量が小さい,すなわち窒素の沈着に対して感受性 が高い地域が存在することがわかる. 図 3 アジアの植生分類 図 5 窒素の臨界負荷量マップ 図 4 アジアの土壌分類

(7)

5.生態系への影響:窒素(N)の超過沈着量  臨界負荷量を超過した S(硫黄)と N(窒素)の 沈着量(以下「超過沈着量」:Ex)の関係は,次のよ うに表すことができる. Ex(S+N)=Sdep+Ndep-CL(S+N) (4) ここで、 Ex(S+N): 臨界負荷量を超過した S と N の沈着量 Sdep:S の沈着量 Ndep:N の沈着量 CL(S+N):S と N の臨界負荷量  図6では,(4)式の Ex≦0となる領域がハッチン グされて表されている.Sdepと Ndepの値の組合せ がこの領域内にあるとき(E0),生態系への影響は

ない.本研究では,Sdep>CLmax(S)の場合は Ndepの

CLmin(N)ま で の 削 減 量(E2 ⇒ E2'),Sdep≦ CLmax

(S)の 場 合 は Ndepの Ex≦ 0 の 領 域 ま で の 削 減 量

(E1⇒ E1')を臨界負荷量からの超過量とする(E1,

E2からの Sdepの削減(E1⇒ E1'',E1''',E2⇒ E2'')

は考慮しない).ここで,Sdepは RAINS-ASIA で計算

した値を使用した(SO2の発生源インベントリシナ

リオ:Base line,current emission and fuel standards in all countries).  2章で計算された各グリッド毎の N の沈着量が, 4.4で設定された各グリッド毎の臨界負荷量を越え ていれば,生態系に影響が出ることになる.窒素沈 着の臨界負荷量からの超過量を計算した結果を図7 に示す.PFC シナリオでは中国南東部,朝鮮半島, 東南アジア及びインドの一部等で N の沈着量が臨 界負荷量を超過している地域とその超過量が年を追 うごとに増加するのが明らかであるが,REF シナリ オではその増加がより穏やかであり,PSC シナリオ では2010年から2020年への地域的な拡がりは顕著 ではない.いずれの年,シナリオにおいても,中国 における超過地域と超過量が最も多いことがわかる が,これは窒素酸化物の排出量に関係して沈着量が 多いことと,臨界負荷量がそれに比べて低い地域が 多いことが理由である.  なお,図8は図1,2,7のそれぞれ NOx 排出量, 窒素の沈着量,窒素の臨界負荷量に対する超過沈着 量を対象領域全体で積算した結果である.2010年, 2020年と排出量の増加とそれに伴う沈着量の増加 に従って臨界負荷量を超過する窒素酸化物の量が増 加し,生態系への負荷が高まっている.特に2020年 においては,PFC シナリオと PSC シナリオを比較 すると,臨界負荷量を超過する窒素酸化物の量は約 3倍程度の差が生じている. 表 3 土壌型分類別の脱窒率(fde) fde=0.5 fde=0.1 シンボル 土壌型 シンボル 土壌型 C CHERNOZEM A ACRISOL D PODZOLUVISOL B CAMBISOL E RENDZINA I LITHOSOL F FERRALSOL N NITOSOL G GLEYSOL Q ARENOSOL H PHAEOZEM R REGOSOL J FLUVISOL S SOLONETZ K KASTANOZEM T ANDOSOL L LUVISOL U RANKERT M GRYZEM V VERTISOL O HISTOSOL X XEROSOL P PODZOL Y YERMOSOL W PLANOSOL Z SOLONCHAK 0 0 100 200 300 400 500 600 100 200 300 400 500 CLmax(S) CLmin(N) CLmax(N) Sdep Ndep E1 E2 E2' E1' E2'' E1'' E1''' E0 図 6 N と S の沈着量と臨界負荷量の関係 (Posch et. al.,1995 より作成)

(8)

6.まとめ  本稿では,2000年から2020年までのアジア地域 における窒素酸化物の排出・沈着により生態系への 影響がどのように変化するかを,GIS を用いて解析 を行った.本研究の結果により,窒素酸化物排出が 増加するに従って,生態系への影響が現れる地域が 増大していき,有効な対策が取られない場合のシナ リオでは,さらに生態系への影響が現れる地域が広 がることがわかった.また地域の特性によって,影 響が表れやすい地域とそうでない地域の分布が,明 らかにされた.今後は,気象条件等の将来予測を含 むより精密な輸送モデルの結果による分析,硫黄酸 化物などの酸性物質全体と窒素による富栄養化を含 2000 年 2010 年 2020 年 PFC PSC REF PSC:対策強化型シナリオ REF:持続可能性追求型シナリオ PFC:現状維持型シナリオ 図 7 2000 年,2010 年,2020 年の窒素酸化物の臨界負荷量に対する超過沈着量 図 8  シナリオ別の地域全体の NOx 排出量,窒素酸化物 沈着量及び臨界負荷量を超過した窒素酸化物沈着量

(9)

めた解析,解像度の精緻化などと併せて,原因物質 の削減を視野に入れた検討が課題である.同時に, 容易ではないこれらの科学的な課題を克服すること は,アジア地域の酸性雨等の地球環境問題の解決の 確かな第一歩となるものと思われる.  欧州では,臨界負荷量を利用した統合アセスメン トモデル(RAINS)が,長距離越境大気汚染条約に基 づく排出規制の科学的根拠となっており,さらに最 近では,地球温暖化ガスも含めたモデル(GAINS)が 開発されている.アジアでは,酸性雨問題に対処す るために,東アジア酸性雨モニタリングネットワー ク (Acid Deposition Monitoring Network in East Asia: EANET)の活動が1998年から開始され,必要な対策 への第一歩として,東アジアの酸性沈着及び生態系 への影響のモニタリングを実施してきている8).ア ジア地域でも有効な対策を早急に実施するために, 統合アセスメントモデルの開発・利用が望まれるが, 本研究がその一助となれば幸いである. 謝辞  本研究をおこなうにあたり,国立環境研究所 大原利眞研究室長,ウィスコンシン大学 Tracey Holloway教授からはそれぞれ発生源インベントリ データ(REAS)と長距離輸送モデル(ATMOS-N) の計算結果を提供いただいた.農業環境技術研究所 林健太郎主任研究員からは臨界負荷量について,㈱ 中央グループ GIS 事業部からは GIS の利用につい て重要な示唆をいただいた.また新潟大学芹澤伸子 教授からは貴重なコメントをいただいた.ここに謹 んで感謝の意を表します.なお,本研究は平成18年 度住友財団環境研究助成金の交付を受けた. 注 1) ATMOS-N の元になったモデルの ATMOS の フ ル ネ ー ム は、“Atmospheric Transport and Deposition” 2) 年内の季節変動については SRRs に関する月別 値等の詳細な時系列データを入手することによ り推定が可能となろう(REAS には年内の時間 変動のデータはない).例えば東南アジアでは 湿性沈着量は雨季には多く乾季には少ないこ と、季節により偏西風の影響が強く現れる地域 があることなどの詳細な状況が表現できると考 えられる. 3) 生態系に影響を及ぼさないと考えられる最大の 窒素浸出量 4) 植物の葉などが地面に落ちる量.一旦植物に よって取り込まれた窒素等は,リターによって 地表に戻る.

5) EB は EB と EBN(Natural evergreen broad-leaved forest)を,DB は DB,DBN(Natural deciduous broad-leaved forest),DBS(Substitutional deciduous broad-leaved forest)を,EN は EN と ENP(Planted evergreen needle-leaved forest)を 合わせた分類とした.また DN のリターのデー タはなかったので,EB と DB の比を EN にかけ たものを DN の Nu の値とした. 6) USGS GLCC の web-site http://edc2.usgs.gov/glcc/glcc.php 7) 1:常緑針葉樹,2:常緑広葉樹,3:落葉針葉樹,4: 落葉広葉樹,5:1年生広葉植物,6:1年生草地, 7:植物のない土地,8:水 8) EANET の web-site http://www.eanet.cc/jpn/index.html 参考文献 環境庁地球環境部編 (1997) 『酸性雨 : 地球環境の行方』, 中央法規出版. 酸性雨対策検討会 (2004) 『酸性雨対策調査総合とりまと め報告書』. 林健太郎・岡崎正規 (2003) 酸性沈着による森林衰退の可 能性に関する地域スクリーニング手法の開発- BC/ Al比を指標とした南関東におけるケーススタディ-. 「環境科学会誌」,16(5),377-391. 松田和秀・高橋章・林健太郎・反町篤行 (2007) 東アジア における乾性沈着フィールド研究.「大気環境学会 誌」,42(5),261-270.

Alcamo, J., Shaw, R., Hordijk, L. (1990) The RAINS Model of Acidification: Science and strategies in Europe. Dor trecht/ Boston/ London: Kluwer Academic Publishers.

(10)

RAINS-ASIA: an assessment model for acid deposition in Asia. The World Bank, Washington, 1-67.

FAO/UNESCO (2003) Digital Soil Map of the World and Derived Soil Properties. CD-ROM.

Hettelingh, J.-P., Sverdrup, H., Zhao, D. (1995) Deriving Critical Loads for Asia. Water, Air and Soil Pollution, 85, 2565-2570.

Holloway, T., Levy II, H., Carmichael, G. (2002) Transfer of reactive nitrogen in Asia: development and evaluation of a source-receptor model. Atmospheric Environment, 36, 4251-4264.

Ohara, T., Akimoto, H., Kurokawa, J., Horii, N., Yamaji, K., Yan, X., Hayasaka, T. (2007) An Asian emission inventory of anthropogenic emission sources for the period 1980-2020. Atmospheric Chemistry and Physics, 7, 4419-4444.

Posch, M., De Vries, W., Hettelingh, J.-P. (1995) Critical

Loads of Sulfur and Nitrogen. In: Posch, M., De Smet, P.A.M., Hettelingh, J.-P., Downing, R.J. (Eds.), Calculation and Mapping of Critical Loads in Europe, Status Report 1995 , Coodination Center for Effects (RIVM) Bilthoven, The Netherlands, 31-41.

Running, S.W., Loveland, T.R., and Pierce, L.L. (1994) A vegetation classification logic based on remote sensing for use in Global Biogeochemical Models. Ambio, 23 (1), 77-81.

Shindo, J., Hettelingh, J.-P. (eds.) (2000) IMPACT Module, RAINS-ASIA Phase II Workshop, Tsukuba, 2000. Yamashita, K., Ito, F., Kameda, K., Holloway, T., Johnston,

M.P. (2007) Cost-effectiveness analysis of reducing the emission of nitrogen oxides in Asia. Water, Air and Soil Pollution: Focus, 7, 357-369.

(2008 年 7 月 9 日 原 稿 受 理,2009 年 2 月 20 日 採 用 決 定, 2009年4月27日デジタルライブラリ掲載)

図 1 2000 年,2010 年,2020 年の NOx 排出量(REAS(Ohara et al., 2007)データより作成)
表 1 森林分類毎の窒素吸収量(Nu),リター及び不動化量(Ni) 窒素 収支 森林 分類 Nu︵total︶ ︵ kg/ha/yr︶ Litter ︵ kg/ha/yr︶ Nu︵net︶ ︵ kg/ha/yr︶ Ni ︵ kg/ha/yr︶ Nu︵net︶+Ni ︵ kg/ha/yr︶ EB 103.7 71.0 32.7 2.0 34.7 DB 77.8 54.0 23.8 2.0 25.8 EN 44.0 33.8 10.2 2.0 12.2 DN 108.5 - 7.4 2.0 9.4 平均 83.
表 2 VL と森林分類(表 1)の対応 VL 1 2 3 4 5,6,7 森林分類 EN EB DN DB - Nu (net)+Ni (kg/ha/yr) 12.2 34.7 9.4 25.8 2.0 4.3.土壌データを利用した脱窒係数の推定  f de (脱窒係数)は,欧州では土壌型ごとに固定値と して設定している例が多い(Posch et al.,1995他).本 研究では, (1)式の f de を決定するために,欧州と日本 での研究例を参考にして,国連食糧農業機関(FAO) の The Dig

参照

関連したドキュメント

その詳細については各報文に譲るとして、何と言っても最大の成果は、植物質の自然・人工遺

題護の象徴でありながら︑その人物に関する詳細はことごとく省か

に関して言 えば, は つのリー群の組 によって等質空間として表すこと はできないが, つのリー群の組 を用いればクリフォード・クラ イン形

実際, クラス C の多様体については, ここでは 詳細には述べないが, 代数 reduction をはじめ類似のいくつかの方法を 組み合わせてその構造を組織的に研究することができる

したがって,一般的に請求項に係る発明の進歩性を 論じる際には,

Amount of Remuneration, etc. The Company does not pay to Directors who concurrently serve as Executive Officer the remuneration paid to Directors. Therefore, “Number of Persons”

欄は、具体的な書類の名称を記載する。この場合、自己が開発したプログラ

都調査において、稲わら等のバイオ燃焼については、検出された元素数が少なか