八一年商法改正の法社会学的一考察︵覚書︶
二 一 三 四
池
島
はじめに1全面改正から再緊急改正へ
改正商法成立の経過概観
法務省法制審議会商法部会等審議と私法学会商法部会シンポジウムとの関係
大会社法制と中小会社法制との法規制格差分野の出現?
宏 幸
一 はじめに 全面改正から再緊急改正へ
︵1︶
一九七四年︵昭四九︶からの会社法の全面改正の進展は︑同時平行的に生起したつぎのような緊急改正によって︑
その進路の軌道を補填されつつも︑当初予定の五年間を過ぎ︑諸般?の事情により七九年︵昭五四︶七月には急拠︑
︵2︶株式会社法の﹁早期改正﹂方針への切り換えによって︑緊急かつ切り離し改正で︑いわば﹁途中下車﹂的かつ全面改 ︵3︶
正の﹁前編﹂と称される本一九八一年︵昭五六︶商法大改正を結.果することとなった︒すなわち当初まず︑大株式会社法の資金調達に関する核心部分である社債法の部分に︑一九七六年︵昭五一︶ ﹁特
︵4︶ ︵5︶例法﹂︑ついで翌年七七年︵昭五二︶﹁暫定措置法﹂などの形式で︑緊急的な展開をみた︒これと相前後して︑全面改
正作業の一里塚とされた法務省民事局参事官室﹁株式制度に関する改正試案﹂が同年公表された︒等々の事情につい
115
ては︑羅で述べてあ・ので︑本稿では︑その成立前後の経過を楽し︑交一年改正法の問灌の法社会学的検討聡
1の一考察︵覚書︶を試みようと思う︒注︵1︶ 同年六月一九日に︑法務省法制審議会商法部会は会社法の全面改正に着手を決定し︑同部会に幹事を補充して新陣容とな る︒商事法務六七〇号︒同年九月一一日同部会は改正主要事項について審議を開始した︒商事法務六七七号︒
︵2︶ 元木伸﹁株式会社法の早期改正方針の決定について﹂商事法務八四四号三頁︒このような立法促進決定の理由として︑ ①企業の非行防止のために企業の自主的監視制度の強化︑②一応完結的な形をとる︑③四年以上の歳月︑④株式制度︑会社
の機関︑会社の計算・公開を他の部分より﹁実質的に中核的な部分の問題点の審議が終了したという事実をふまえて︑その
旨を部会において自覚し︑立法の最終段階に入るための審議を行おうという意思を確認⁝⁝﹂して︑﹁一見唐突とも見・寄る﹂
重大な審議の変更として︑切り離して一括審議し︑翌年の通常国会に提出する方針が︑一九七九年七月一八日︵水︶商法部
会で決定された︒
︵3︶ その全体的な特質と動向については︑池島宏幸﹁資金調達の多様化・企業の国際化と商法改正﹂法律時報五三巻一〇号
︵八一年九月号︶特集/昭和五六年商法改正二四頁以下︒
︵4︶ ﹁一般電気事業会社及び一般ガス事業会社の社債発行限度に関する特例法﹂
︵5︶ ﹁社債発行限度暫定措置法﹂
︵6︶ 池島宏幸﹁現代株式会社における企業金融法制の新たな展開−会社法全面改正と関連して一﹂早稲田社会科学研究一八号 一七五頁以下︒同﹁会社法全面改正と企業金融法制の新たな動向とくに社債法制から﹂法律時報五一巻二号一〇八頁以下︒
二 改正商法成立の経過概観
前述の株式制度の改正試案の公表以後︑
八一年商法改正の法社会学的一考察(覚書)
︵1︶
翌七八年︵昭五三︶ ﹁二月二五日法務省民事局参事官室﹁株式会社の機関に関する改正試案﹂の公表︒︵2︶ 翌七九年置昭五四︶七月一八日商法部会︑株式会社法の早期改正方針を決定︒同年末一二月二五日法務省民事局参
︵3︶事官室﹁株式会社の計算・公開に関する改正試案﹂の公表︒︵4︶ 翌八○年︵昭五五︶七月一日︑日本証券業協会︑新株引受権附社債制度創設を緊急要望︒同七月一七日企業会計審
︵5︶ ︵6︶議会︑商法計算規定に関する意見書を提出︒同一一月一九日︑商法改正法律案要綱案︵案︶︑同一二月一七日︑監査特 ︵7︶例法改正要綱案︵案︶が︑それぞれ商法部会で審議され︑とりまとめられて︑同年末一二月二四日に︑商法部会とし
︵8︶て商法一部改正法律案要綱案を決定︒︵9︶
翌八一年︵昭五六︶一月二六日法制審の総会で同法律案要綱を決定︑法務大臣へ答申︒ついで︑同法律案要綱は︑法務省事務局での立法作業の最終段階を迎えて︑同改正法案となり︑同三月二四日によ
うやく第九四通常国会に提出された︒
その間︑同要綱から同法案さらに四月一七日国会審議への過程では︑政府は︑従来から商法改正に強く反対してい
︵10︶る日本税理士会連合会の﹁反発を和らげるため﹂として︑任意監査規定を削る等四項目の修正案の提示等の紆余曲折
︵11︶を経ながらもなお見切り発車的に商法改正法案提出に踏み切ったと伝えられる︒ ︵12︶爾後︑衆議院本会議︑同法務委員会で附帯決議︵=二項目︶を付けられて可決︑五月一五日同本会議で原案可決︑
︵13︶参議院本会議︑同法務委員会で附帯決議︵一〇項目︶を付けられて可決︑六月三日同本会議で原案可決︑成立し︑同
︵14︶月九日商法等一部改正法︵法七四︶︑同整理法︵法七五︶として公布された︒117
注 18︵1︶ 商事法務八二四号︒朝日新聞七九・一・四︒日経新聞同日︒ 1
︵2︶ 日経新聞七九・七・一六︑同七・一九︑同八・二〇︒ロッキード航空機疑惑︑大光相銀粉飾決算等を背景とする緊急改正
となったものといえる︒前章注︵2︶参照︒
︵3︶ 商事法務八五八号︒朝日新聞七九・一二・二六︒日経新聞同日︒
︵4︶ 商事法務八八○号︒
︵5︶ 商事法務八七九号︒
︵6︶ 商事法務八八九号︒
︵7︶ 商事法務八九二号︒
︵8︶ 商事法務八九三号︒朝日新聞八○・一二・一八︒
︵9︶ 商事法務八九六号︒
︵10︶ 例えば︑東京税理士会パンフ・特集商法改悪阻止に向けて︵改訂版︶﹁商法︵会社法︶︑監査特例法改正の問題点﹂1中小
企業の活力奪い︑過重な負担もたらす法改正︵昭和五六・四︶一〇頁の決議文︒
われわれは︑商法改正反対決起大会の名において次のとおり決議する︒
一︑特別法で規制すべき大会社の規制を商法で規定することに反対する︒
二︑会計監査人の監査を商法に導入することに反対する︒
三︑監査制度の形骸化を招く監査強制会社の範囲拡大に反対する︒
四︑インフレに逆行する監査強制会社の資本金基準の引下げ等に反対する︒
五︑中小会社に過重な負担をもたらす業務報告書︑附属明細書︑半期報告書の強制に反対する︒
六︑中小会社に無用な混乱を招く計算書類の登記所提出の強制に反対する︒
七︑連結納税申告制度につながる連結決算制度の商法への導入に反対する︒
八︑少数株主の権利を侵害する単位株制度の導入に反対する︒
九︑大会社に対する規制の強化に逆行する株主総会の権限の縮小に反対する︒
入一年商法改正の法社会学的一考察(覚書)
↓○︑大会社の横暴を助長する取締役会の権限強化に反対する︒
右決議する︒
昭和五五年一〇月一日
商法改正反対決起大会
東京税理士会
共催 東京税理士政治連盟後援 日本税理士会連合会
︵11︶ 日経新聞八一・三・一九︑同市・七︑二四・一八︒その間の事情は︑関本秀治﹁商法改正と日経のデマゴギー﹂蔵経新報
二四〇号三五頁以下︒
︵12︶ 衆議院法務委員会−附帯決議一︵昭和五六年五月二二日︶
商法及び監査特例法は︑株式会社についての基本的な骨格を定め︑かつ︑その公正な運営を図るものであることにかんが
み︑今回の改正に伴い︑政府は︑次の事項について格段の配慮をすべきである︒
一 法改正の趣旨及び内容を︑社会とくに適用される株式会社に周知徹底し︑法の円滑な施行を確保するとともに本法違
反について適切に処置すること︒
二 大会社の社会的責任がますます強調されることにかんがみ︑業務及び会計に関する情報については進んで公開するよ
う指導するとともに︑更にこの点について法改正を検討すること︒
三 法改正に伴う省令中︑営業報告書及び附属明細書については︑法制審議会の答申とその審議の内容を尊重し︑社会的
責任が明示できるよう十分な内容のものとすること︒
四 単位株制度の導入が零細株主の利益を害し︑ひいては株式市場における大衆投資の減退及び株主の法人化を招くこと
とならぬよう零細株主の権利保護について格段の配慮をすること︒
五 中小株式会社における株主提案権が︑かえって経営の安定・発展に弊害を及ぼすことのないよう中小企業の実情に即
した行政指導措置を講ずること︒ 19 1 六 多国籍企業の行動の適正化を図るため︑商法上の諸制度の改善について検討すること︒
七 公正なる会計監査人の独立性と監査の的確性を一層高めるための方策について積極的な検討を行うこと︒
八監査法人の国際的能力を高めるとともに・他方個人公認会計士の霧を覆するなど蕩な指導を行うこと・ 拗
九公認会計士と税理士の職務上及び制度上の調整を図り︑相互の職域侵害が起こらぬようにするとともに︑監査対象会
社の範囲についても十分に検討すること︒
十 会社にかかる犯罪の防止を徹底させるため︑更に実効ある制度の検討をすすめるとともに︑いわゆる総会屋について
は︑あらゆる角度からその絶滅を図り︑株主総会の民主的運営が行われるよう指導すること︒
十一 政府が認可し︑その監督下にある公益法人については︑会計基準を法制化し︑公認会計士の監査を義務づけること
を検討すること︒
十二 商法上の商業帳簿については︑マイクロフィルムによる記録も正規の帳簿として取扱うことができるよう検討する
こと︒
十三 今後の商法改正に当たっては︑企業の社会的責任︑企業の結合・合併・分割︑中小企業に適切な規定の新設︑株式
相互保有等について︑経済社会の進展に即応した検討を行うこと︒
︵13︶ 参議院法務委員会−附帯決議t︵昭和五六年六月二日︶
政府は︑次の事項について格段の配慮をすべきである︒
一︑今次の法改正が国民一般に与える影響︑とりわけ単位株制度の導入が株主等に与える影響の大きいことにかんがみ︑
その趣旨及び内容の周知徹底を図ること︒
二︑今次株式会社制度改正の趣旨及び経緯にかんがみ︑すみやかに︑企業結合・合併・分割及び大小会社の区分等につい
て検討すること︒
三︑株主︑債権者等の保護を図るとともに︑企業の社会的責任を明らかにするため︑株式会社の業務及び財務に関する公
示・公開の制度をより一層充実強化すること︒
四︑営業報告書及び附属明細書の記載事項に関する省令の制定に当たっては︑国会における審議の内容を尊重し︑大会社
の社会的責任を明らかならしめる内容のものとすること︒
五︑株主総会の形骸化を防止し︑その適正な運営を図るため︑いわゆる総会屋の絶滅に一層の努力をすること︒
八一年商法改正の法社会学的一考察(覚書)
六︑会社の業務及び財務の適正を期するため︑監査役の権限を強化し︑その独立性を確保した法改正の目的を達成するよ
う︑引き継ぎ︑関係団体と密接な連携のもとに︑﹁層の努力をすること︒
七︑大会社に対する監査業務の重要性にかんがみ︑会計監査人の独立性と監査の的確性を確保するための方策を検討する
とともに︑監査法人の国際的競争力を高めるため必要な措置を講ずること︒
八︑新株引受権附社債制度の創設は︑証券市場の国際化の進展に即応し企業の資金調達方法の多様化を図ることを目的と
するものであることにかんがみ︑早期に実務面の調査検討を行い︑その円滑な実施を期すること︒
九︑いわゆる外国会社の企業活動の適正化を図るため︑すみやかに︑その実態を調査し︑商法上所要の措置を講ずるこ
と︒ 十︑商法及びその関連諸法令については︑経済その他諸般の情勢を考慮し︑必要に応じ所要の改正措置について検討する
こと︒
右決議する︒
︵14︶ 商事法務九〇二号︑九〇四号〜九〇七号︒朝日新聞八一・五・=二︑日経新聞同日︒朝日新聞同月一六︑日経新聞同日︒
読売新聞同六・三︑朝日新聞同日︑日経新聞同日等︒
三 法務省法制審議会商法部会等審議と私法学会商法部会シンポジウムとの関係
他方︑商法の専門研究者の学会である日本私法学会商法部会では︑全面改正が緒について︑前述の各界への意見照
︵1︶ ︵2︶
会による各界の意見の回収と集計によるとりまとめの初期の段階で︑つまり全面改正に着手して三年目の一九七六年
︵3︶︵昭五一︶秋一〇月一一日に︑ ﹁会社法の根本的改正﹂の第一回シンポジウムを開催︵於 成険大学法学部︶したのをはじめとして︑その後︑最初の試案︵株式制度改正試案︶の段階から翌七七年︵昭五二︶一〇月一〇日に︑ ﹁株式
︵4︶ 21 会社法の根本改正﹂のシンポジウムの開催︵於 関西大学法学部︶と以下︑毎年秋︑即ち︑七八年︵昭五三︶一〇月 −
︵5︶
七日に︑同テーマ﹁株式会社法の根本改正﹂のシンポジウム︵於 青山学院大学法学部︶︑七九年︵昭五四︶一〇月
へ6︶七日﹁役員の責任﹂のシンポジウム︵於 龍谷大学法学部︶︑昨年八○年︵昭五五︶一〇月一一日午後︑=百午後
︵7︶にわたって︑ ﹁株式会社法改正の諸問題﹂のしめくくりの第五回目シンポジウム︵於 中央大学法学部︶まで︑五年間にわたって︑議論がなされている︒
もっとも︑これらの積年の学会レベルでの討論も︑必ずしも充分に立法に反映されているか疑問が感じられるよう
である︒詳細な検討は別の機会にゆずり︑ここでは︑そのシンポジウムにおける問題性を指摘しておくに止める︒
とくに前述のしめくくりのシンポジウム﹁株式会社法改正の諸問題﹂では︑当日の主報告者側と参加者側との事前
の改正作業関連の情報量レベルで︑その量的な少なさの点のみならず︑質的な違いが︑圧倒的かつ決定的ではなかっ
たかという点である︒したがって︑参加当事者の真摯な努力にも拘らず折角のまとめのシンポジウムも真のシンポジ
ウムたりえなかったのではないか? ともいわれている︒
すなわち︑例えば︑参加者にも︑商事法務︵八八四号︶所掲のシンポジウム資料が事前に配付されてはいたが︑当
局および商法部会の改正作業の進捗の実態は︑もっと急速に新展開していたのであった︒つぎの事実は︑その一端を
示すものといえないだろうか︒
前掲の改正三試案︵株式︑機関︑計算・公開︶にもとずく討議を期待した大方の参加者の情報レベルに対して︑法
︵8︶務省による要綱案概要︵二月二七日付?︶をふまえての討論を展開する参加者の情報レベルと︑ところがさらに当日
の主報告者からの最新案というか︑要綱案概要よりもっと先へ修正されたものというか︑もっとも内容的には試案よ
りもっと後退? したもの一︑この最新案が︑一報溢者から口頭で提案紹介されて︑参加者は︑一瞬あぜん? と
122
八一年商法改正の法社会学的一考察(覚書)
させられた︒
つまり︑﹁試案﹂︑﹁要綱案概要﹂︑﹁最新案﹂の三つの案?を︑それぞれ前提にして入りみだれての討議となった経
過が何を物語るかは︑極めて興味深いものと感じるのは︑筆者一人の憂慮に過ぎなかったのであろうか?
︵9︶さらにしかも︑一か月後の=月一九日付で突如として︑商法改正法律案要綱案︵案︶の一部が新下等に発表さ
れ︑ついで一二月一七日置で監査特例法改正要綱案︵案︶と追加項目︵新株引受権附社債の創設︶要綱案︵案︶とが
出され︑そして商法と監査特例法改正の二本建の構成の最終決定−商法一部改正法律案要綱案という形で一二月二四
日商法部会で確定されてゆく︒これでは物理的にもシンポジウムの成果が充分反映しえたか︑疑問視されよう︒
その問題性の根本は︑とくに法制審商法部会の審議の非公開性・その議事録の非公表にあるのではないかといえな
いだろうか? そのタイムリー・ディスクロージャーやフーリー・ディスクロージャーが要求される以前の問題性が
伏在していなかったのだろうか?
注︵1︶ 池島・増補商法学の現代的課題︵一九七六年四月刊︶二五五頁以下︒
︵2︶ 例えば商法部会資料三四︵意見集−全文六七六頁ガリ版刷︶として︑法務省民事局参事官室昭和五十一年一月﹁会社法改
正に関する法務省民事局参事官室の照会に対する意見︵その一︶﹂が公表されている︒商事法務七二五号〜七二八号︒
︵3︶ 私法三九号九五頁以下︒商事法務七四七号︒
筆者も全面改正に多大の関心を持って︑一九七六年〜八○年毎回そのシンポジウムに参加し発言して︑その改正問題につ
き専ら商法学・会社法学の理論的な側面からその問題性を指摘してきた︒以下の注欄で学会誌私法により各回の筆者の発言
とその応答を今後の参考までに掲げておく︒一九七六年目池島発言は左の通り︒私法三九号一四五頁以下︒ 23 1 ﹁司会︵矢沢惇東大教授︶ 時間を超過しましたが︑さらにもう一人出ておりますのでお許しを願って︑最後に︑早稲田大
学齢島難大学の豊宏幸であ 壽禦ゾ﹂ざいま蒙二曹総論および前提問題ξいて・それぞれ;以
ずつお伺いしたいと思います︒立法が技術の問題であるという点ではミクロの問題でありますが︑またマクロの問題も含ん
でいると思います︒私が質問します点は若干その点に偏っているかと思いますが︑お許し願いたいと思います︒
鈴木教授には︑H 一般会社の社債発行限度の枠拡大の緊急改正をおやりになるということを﹁総論﹂のところで述べら
れましたけれども︑その具体的な内容をお聞かせ願えればと思います︒特に︑全面改正が進行している現在︑緊急改正はや
らない予定だというふうにおっしゃいましたが︑これに踏み切られた政策的な判断は何か︒
口 大会社の特例法の方法あるいは商法の特例法方式がとられるものと思われますが︑小会社とのバランスはどうである
かということです︒この特例法によって大会社の一部には︑特に資金調達の面から社債の発行限度枠を拡大される︒不況
の波というものは大会社︑小会社を問わず同じように襲っていると思います︒むしろ小会社の方がもっとひどいのではない
か︒一方では社債発行限度枠の拡大の方向であり︑他方におきましては︑つまり小会社はこれを禁止の方向で規制へという
点︑これの矛盾点についての感想でもお聞かせ願えればと思います︒
それからもう一つは︑日 全面改正問題についてこのような学会に諮られるということを述べておられましたが︑これら
の緊急改正についても学会でどういうふうに処置なさるかという点もつけ加えてお伺いしたいと思います︒
それから︑竹内教授につぎましては︑e レジュメの二の﹁問題の性質﹂というところの②で﹁政策的問題﹂で現状と将
来ということを述べられましたけれども︑できましたらもう少し詳しい内容を伺わせていただけたらと思います︒政策的内
容あるいは政策的判断とおっしゃっておりますが︑政策という意味は私は恐らく立法政策という意味に使われているという
ふうに了解したわけでございますが︑その内容とかまたその根拠︒たとえば大会社︑小会社というものを一定線で切った場
合の効果というものを数量的にメジャーされていると思われまずけれども︑それについての一定の傾向なりをお聞かせ願え
ればと考えております︒
目 それから︑レジュメの四の﹁会社法における規制の分化﹂というところで︑伺っておりますと︑こういう方向が私の
誤解であれぽ幸いなのでございますが︑当然の前提として会社法の全面改正問題が進行しているような﹁感触﹂を受けまし
た︒したがいまして︑そういう方向づけの判断となる資料とか根拠をできますれば︑具体的にお聞かせ願えればと思いま
八一年商法改正の法社会学的一考察(覚書)
す︒これはもちろん商法改正問題の研究上の判断のためにお聞かせ願えればということでございます︒
日 特に竹内教授は︑おのずから大会社︑小会社の内容が明らかになるというふうにおっしゃられましたけれども︑たと
えば立法作業に敏感に反応したある当該企業︑具体的企業の方では︑自分たちの企業がどんな基準で交通整理されるかとい
うことは︑当該企業の存続および将来の経営計画に重大な影響を与えているように思われます︒特に高度経済成長をする際
には︑中小企業などの法人成りを奨励するような方向あるいは推進するような方向でなされてきたわけでございまずけれど
も︑経済的な基盤の変化によって︑先ほども問題になりましたが︑いわゆる﹁足切り﹂するための法的な基準というものの
模索の状態にあるわけですけれども︑それには若干ないし相当に矛盾をはらんでいるようにも感ぜられます︒したがいまし
て︑現状について私法学会の会員としまして︑そういう﹁足切り﹂基準でもその他の基準など何でも結構でございまずけれ
ども︑立法に関する公的な調査資料というものがわれわれには非常に不足しております︒でぎますれば︑研究上︑私法学会
の会員としまして︑株式会社の最低資本金は︑あるいは五〇〇万円とか一︑○○○万円というふうな判断をする場合に︑そ
ういう調査資料を全然私どもは持っておりませんので具体的判断が非常にむずかしいおけでございます︒暗中模索の状態で
ございますので︑この点も御感想なりをお聞かせ願えればと思います︒
司会 順序は逆になりまずけれども︑竹内教授に先にやっていただいて︑最後に︑鈴木教授からお答えと同時に総論の締
めくくりをしていただいて︑本日のシンポジウムを終わりたいと思います︒
竹内︵東大教授︶ 第一点でございますが︑政策的問題というのはまさに立法政策的問題という意味で申し上げたわけであ
りまして︑言葉をかえて申しますと︑論理必然的に答えが出てくる問題じゃないということを申し上げたかったからであり
ます︒ そこで︑大小会社を区切った場合の効果︑これは今後もっとつめて検討していかなければならないと思っています︒しか
しそれを︑数量的にメジャーしているはずだろうからそれを出せと言われましても︑そんな大それたことをやるほどの研究
費をもらった覚えもありませんし︑人手もありませんから︑私は全然そんなことはやっておりません︒私の方からお願いし
たいのは︑レジュメに添付した資料︵九六一九七頁︶にも資本金別の会社の分布が︑ごく簡単なものではありますが︑出て
おります︒こういう会社の分布状況をみて︑区別する線を︑この辺で区切ったらどうか︑もう少し下げたらどうか︑という 25 ユふうなことについて︑私も暗中模索を続けているわけであり︑ほかの方もおそらくそうではないかと思います︒しかしもし
池島さんがこういう点について数量的にはっきり算出できるような研究をなさったとか︑あるいはそういう研究の具体的方 26法について御存知だというのであれば︑ぜひ教えていただぎたい︒私としても︑そういう研究成果を示していただければ︑ 1
暗中模索の気持ちではなしに︑もう少しはっきりしたものをつかまえて提案ができるだろうと思います︒私は︑池島さんに
してもそんな研究が簡単にできるとは思っておりませんが︑何かそういう研究成果がまとまりましたら︑ひとつぜひお教え
いただきたいと思います︒
それから二番目の公的資料があるかどうかという問題ですが︑最初に鈴木教授が既にいわれましたように︑この問題につ
いては︑法制審議会においても︑ごく簡単に問題を一度なでただけで︑すぐ株式の問題に入ってしまいました︒したがっ
て︑今日のレジュメも︑法制審議会の議論とは関係なしに︑また商法改正研究会でもほとんどこの問題については突っ込ん
だ議論をしておりませんので︑そこでの議論とも関係なしに︑私が皆様方の御論稿などを参考にしながら︑この段階で御議
論いただくとすれば︑こんなことをお話ししてそれを土台にして議論していただいたらどうかというふうに考えて︑作った
ものであります︒したがってここに並べてある項目も︑私個人がいわば検討課題と考えているところを討議資料として出し
たというものであって︑従来の検討結果をまとめた公的資料などというものは︑残念ながらありません︒そういうものがあ
れば︑今日の報告も︑もっとしゃすかったとは思いますけれども︑遺憾ながらそういうものはないというのが現状です︒
鈴木︵東大名誉教授︶ 社債の発行枠の拡大の問題について御質問がありました︒大会社についての特例にするつもりだろ
うというお話ですが︑そんなことは別に考えておりません︒仮に立法するとしても︑大小といったようなことを表面にうた
うようなことはなく︑株式会社全体の特例になるだろうと思います︒ただ︑実際問題としては︑午前に竹内教授も言われた
ように︑社債という方法で資金の調達をするものは大会社の若干のものに限られるので︑小会社の場合には恐らく借入れの
方法でやっていくことになるだろうと思います︒それでは︑そのような一握りと申しますか︑株式会社全体に比べればわず
かなものについてそんな立法を緊急にしなければならないのか︑ことに︑部分的な改正はなるべくやりたくないと考えてい
るおまえがなぜ賛成するのかと言われると︑勿論私もその点についてさらに考えなけれぽならないとは思っていますが︑現
在︑鉄鋼業とか︑化学工業とか︑ないしは私鉄などでは︑社債の発行枠が非常に窮屈になってしまっているが︑資金の需要
からいって社債の発行をできるようにしてもらわないと困るという要求があるわけです︒現在のような不景気の時代︑ある
いは経済成長が非常に鈍化している時代に設備の拡張などする必要はないのではないかということも当然考えるわけです
八一年商法改正の法社会学的一考察(覚書)
が︑公害防止設備をするためにも莫大な費用がかかるので︑その資金の調達もできないのでは困ると言われると︑これはや
はりほうっておくわけにも行かないのではないかという考えが出てくるわけです︒しかし︑仮にそういう方向をとるとして
も︑法的技術は非常にむずかしいということを午前に一言しましたが︑先ほども申し上げましたように︑たとえばガス会社
について商法の発行枠の二倍というところで押さえている︒そして︑行政官庁の一般的監督のほか︑社債発行の際︑確認と
いう手続をとることによって社債権者の保護を図っている︒そうすると︑一般の会社について︑商法発行枠の二倍がいいの
か︑一倍半がいいのか︑これも問題ですが︑とにかく単純に発行枠を拡大するだけでは︑社債権者の保護が図れないのでは
ないかという問題が出てまいります︒そうすると︑担保付にしなければ出せないことにするのはどうかという考えがでてき
ますが︑外債まで担保付にしなければならないという必要はあるまいとか︑転換社債も無担保でいいのではないかといっ
たようなことで︑若干の例外を置かざるを得ないような問題が出てくるのではなかろうかというふうなことで︑現在苦心し
ているところです︒つまり︑全般的な問題についても︑また技術的な問題についても苦慮しているというのが現状でござい
ます︒
それから︑今度︑きょうのシンポジウムのために問題を二つ選んだのは︑発債の発行枠拡大の問題が出てくるずっと以前
に︑決まっていたのであります︒したがって︑今後もし社債の発行枠を私法学会で取り上げるとしても︑一番早い機会は来
年ということになるでしょう︒しかし︑それでは︑もう勝負はついてしまっている後になるだろうと思います︒したがっ
て︑私法学会を軽んずるつもりもありませんし︑社債の発行枠拡大は緊急問題だから私法学会にお諮りするのを故意に避け
たといったようなことは何にもありません︒私としては︑前に申しましたように︑今後︑株主総会や取締役の問題さらに︑
会計の問題︑ディスクロージャーの問題等に順次取りかかっていかなければなりません︒そして先ほど申したように︑五年
がかりになるか︑あるいはそれ以上になるかわかりませんが︑各問題についての考えがある程度まとまったら︑私法学会に
お諮りをすることを私自身としては希望している次第です︒﹂
︵4︶ 私法四〇号九一頁以下︒一九七七年の池島発言は同一二三頁以下で左の通り︒なお商事法務七七九号︒
﹁司会︵鴻常夫東大教授︶ ⁝⁝最初に総論的な問題について早稲田大学の池島教授から質問が出ております︒株式会社法改
正の立法政策に関する全般的な問題でございます︒これは私の記憶に誤りがなければ︑昨年のシンポジウムの際にも︑池島 27 1 教授からややそれに近い御質問なり御意見の開陳があったのではないかと思いますが︑もし重複でなければということで︑
最初に全般的な問題として御発言をお願いいたします︒
池島 最初に時間をいただきまして恐縮でございます︒二点につきまして質問し︑御意見を伺いたいと思います︒
第一点は︑株式会社法の根本改正のフレームと立法政策という点︑それからもう一点は︑具体的に株式制度改正試案︑特
に無額面株式へめ移行体制というようなことの方向性について若干予測の問題も絡めてお伺いできたらと思っております︒
最初の点は︑全面ないし根本改正と並行して部分かつ緊急改正が着実に進展している︒立法政策と﹁実定法としての商
法﹂のあり方は関係すると思いますが︑具体的に︑たとえば実定法としての商法の二九七条のフレームの例外として電気・
ガスについて特例法︑さらには本年︑一般会社について暫定据置法というような形で︑ ﹁一般法的なフレームに対する例外
法的なフレーム﹂が続々と着実に進展しているわけです︒はたまた本日︑有価証券振替決済法案︵仮称︶というものを御提
案になられたわけでありまずけれども︑こういう法案︵仮称︶を拝見いたしまして︑法案というよりも︑内容的にはむしろ
要綱のような気もいたしまずけれども︑その提案の主体は法務省︑したがってこれは商法の特別法なのかどうか︑あるいは
御報告の中で大蔵省︑したがって証取法の特別法という印象も受けましたし︑そこら辺︑今後の法案の形式とか国会上程な
どの御予定についての︑できれぽ若干の御意見を伺えればと思っております︒
とくに︑商法の規定には︑例外的なフレームが大量に増大しております︒現行商法典の一般法としてのフレ:ムというも
のが徐々に崩れてきておりまして︑いつの間にか順次的な移行によって︑大会社法というものが出現してゆき︑あるいは残
った部分が小会社法というような形で小じんまりとまとまっていくような印象がないわけではないのです︒これが第一点で
す︒ 第二点は︑全体の立法を予測ないし計画する問題でございますが︑デノミ議論が出ておりまして︑法制審商法部会のある
委員をして︑株式制度というものは株式会社のルーツであるということを言わしめている︑そういう具体的な状況が今日出
ているが︑なにか試案の本当のねらい︑真の理由があるのではないか︒したがいまして︑こういう試案の真のねらい︑無額
面株式制度への移行体制︑これは立法というものは本来予測の問題でもありますが︑予測の具体化の立法政策としましてい
ろいろな点︑例えば河本報告で単位株は読み替えの技術であると述べられたが︑単なる技術であるか否か? また矢沢報告
では技術革新によるコンピューター化を強調された点などが出ておりまずけれども︑日本経済の現代化国際化について︑一
つのうわさ? または路線なのかについて︑巨視的な観点の例示として︑実は福田首相が八月二日のデノミの肯定発言をさ
128
八一年商法改正の法社会学的一考察(覚書)
れたわけであります︒五万円札︑十万円札という高額紙幣の発行のうわさもありませんし︑五月大蔵省企業会計審議会でも
物価変動会計の導入の諮問︵企業取得原価から時価への評価替え︶が出されまして︑デノ︑ミの実施を前提にした資産評価の
ねらいがあるのではないかといううわさが飛んでおります︒具体的にはデノミによります株券関係の額面表示にしまして
も︑例えば︑①額面を一〇〇分の一とか一〇〇〇分の一に読みかえるが︑株数はそのままにするというような方法とか︑
②額面はそのままにして株数を併合し減らして︑ 一〇〇株を一株︑ 一〇〇〇株を一株というような方法がありまずけれど
も︑③それ以外に一斉に無額面株式に全部移行させるというようなこともうわさされております︒さらに昭和五四年掛は資
産再評価の時期とほぼ一致する可能性もあるということがありまして︑そういうこととの関連で︑このような点も立法作業
において指向されている範囲なのかどうかという点についても質問したいのであります︒
それらのことも含めまして︑本来商法が﹁裁判法たる実定法﹂として存在しているわけでありますが︑これら若干の点を
指摘しましただけでも︑経済政策あるいは金融財政政策に従属するフレーム? と思われる﹁会社法典の政策法化﹂が激し
い︑そういう点について御感想なり伺えればと思います︒
司会池島教授の御質問の点は︑二点あったかと思うわけですが︑メモによりますと総論的質問は鴻と矢沢教授へという
あて先になっております︒
私がその両方をお答えするのは適当でないと思いますので︑第一の方の︑しかも半分だけお答えいたします︒
近時株式会社法の周辺というか︑あるいは部分的な改正が特別法の形で行われているということは︑池島教授の御指摘の
とおりであります︒しかし︑そういう問題が株式会社法の全面的改正の問題に対してもつ意義等につきましては︑先ほども
私がちょっと言及いたしましたことですが︑昨年のシンポジウムにおきましても同様の問題が出されまして︑それに対して
鈴木先生が的確にお答えになっておられたのではないか︑今度発行になりました﹁私法﹂三九号の一四七ページにその点の
お答えが出ているように思います︒私も︑その点については︑鈴木先生と全く同じように受けとめているわけであります︒
ただ︑この時期から後︑株券振替決済制度の問題というものの立法化がまた緊急に上がってきておりますから︑そういう点
について︑その問題がどうなるかという点は︑より御専門の矢沢教授にお願いした方がよろしいのではないかと思います︒
矢沢︵東大教授︶ いま振替決済を例にとって︑緊急立法あるいは暫定立法のお話が出ましたが︑私もいまの御引用になつ 29 1た鈴木先生の御意見のように︑緊急改正はなるべくしないで︑ともかく根本改正全部をまとめて早くやりたいという気持ち
には変わりはありません︒
それでは・振替馨ξいては・な藁急に立法しなければならないかという疑問が出ると思います・これは先ほどもう蜘
すでに内容的には申し上げましたが︑一部商法改正にかかわっております︒株主の権利の移転と権利の行使については︑そ
の方式は確かにそうでありますが︑それから債権の権利の移転それから行使︑これも商法の一部には違いないのですが︑社
債登録法の問題がひっかかってきます︒
しかし︑ともかくこの二つは商法の問題ですけれども︑同時に国公債について︑これは全く商法の問題ではないと言い得
ると思いますが︑有価証券一般を商法が規制していると抽象的に言えばそうですけれども︑実質的には違う分野の問題が入
ってくるわけです︒それからもう一つは証券取引法上の監督︑ことに受寄機関あるいは名義書換代行機関あるいは参加者
︵証券会社︶を特別の見地から規制しない限りは動かないという意味で︑ある意味では半分商法︑半分証券取引法です︒
実質的には証券取引法は商法の特別法と言えば︑それまでですけれども︑そういう意味でやや特殊性を持っているというこ
とと︑もう一つ急ぐ理由は振替決済はもうすでに契約ベーシスで現在行われつつあります︒しかもこのべ!パー.パニック
と申しますか︑ぺーパ!・クライシスと申しますか︑これがアメリカほどひどい形ではありませんが︑起こっているわけで
す︒アメリカは御承知のとおり一九六〇年にこの問題のために証券会社が一〇社以上倒産するというところに追い込まれた
わけで︑日本では株式についてはやや日本人が無理して働くという点もありましょうけれども︑やや小康を得ているとはい
うものの︑債券についてはこれはまさにペーパー・クライシスにありまして︑これは新聞でも報道されておりますが︑何ら
かの形の改正をしない限り︑現在困っています︒これはほっておいたら︑アメリカと同じような状態が出ないとは言えない
のです︒以上のような理由で緊急性があるわけであります︒
一つは︑そういう特殊な法律の性格と緊急性のために急ぐ必要があります︒私の方のこの委員会は全く私的な委員会であ
りまして︑三月中にできればそういう緊急性からいって︑中間報告なりあるいはもう意見がまとまらなければ︑反対意見併
記で出して︑あとはこれはむしろ法制審議会で立法するよりも︑証券局の主宰で︑証券取引審議会専門委員会に法務省ある
いは銀行局等から委員が入って緊急に立法すべきものだろうと思います︒もちろん法制審議会商法部会の了承が必要です︒
これは緊急性あるいは特別法性の説明ですが︑同時に見のがしてならないのは︑これから議論になるであろう単位株制度あ
るいは株式の単位の引き上げという問題は非常に技術的な問題で︑よくよく考えてみると︑多くの点で振替決済制度を施行
八一年商法改正の法社会学的一考察(覚書)
することによってその大半が解決されると思われます︒たとえば株券の交換とか端株の整理それから端株を売るだけではな
くて︑いわゆる買い増し請求というのもありますが︑そういうものがすべて解決されるという点にいわば試案の下準備をす
るという面があるということを申し添えておきます︒
司会 それでは第二の点については河本教授の方からお答えをお願いします︒
河本︵神戸大教授︶ デノミと株式制度の関係でございますが︑少なくとも私どもが関係している範囲では︑そういう話は
一言も出ませんし︑デノミとは全く無関係に仕事を進めております︒﹂
︵5︶ 私法四一号=一九頁以下︒とくに一九七八年の池島発言の一四八頁以下を左に掲げる︒なお商事法務八一四号︒池島﹁株
主総会の運営と贈収賄罪﹂ジユリスト増刊商法の争点一七六頁︒
﹁司会︵鴻常夫東大教授︶ ⁝⁝最初に︑株主総会に関連いたしまして︑全般的な問題として︑早稲田大学の池島教授から株
主総会のあり方についての御質問が出ております︒大きな問題でございますので︑要点だけに絞った形で︑ひとつお願いい
たします︒
池島 早稲田大学の池島宏幸でございます︒
株主総会のあり方.1運営1の点につきまして︑龍田教授からいろいろ御指摘がありまして︑御提案などを承ったのでござ
いますが︑何ヵ所かにわたりまして感じた点でございますが︑﹁株式会社における民主主義﹂としまして︑閉ざされた株主
総会及びその運営という方向ではなくて︑できるだけ﹁開かれた株主総会﹂が必要ではないかというふうに感じておりま
す︒特に︑東京証券取引所からの大衆ないし個人株主の増大策という要請もございまして︑それとも合致するのではないか
と思います︒少なくとも︑公開会社についてだけでも︑株主総会というのは最大限のディスクロージャー︵企業情報の公開︶
の要請される場としての機能を果させるべきではないかと思っております︒大企業の社会的責任など︑いろいろな点で効果
が大きいものだと思いますので︑せっかくの質問権・提案権などを抑えるあるいは歯どめをかけるような形で﹁事実上利用
不能﹂となるような改正立法とならないようお願いできたらと思っております︒
その点とくに﹁開かれた総会の必要性﹂に関連しまして︑ ﹁会社と総会屋の一体化の問題性﹂につきまして︑従来︑いろ
いろな点が問題になっております︒今回の改正試案では︑罰則の強化の点としてだけで問題になっておりますが︑基本的に 31 1 は総会運営の前提問題だと思います︒
つまり︑本来︑議事の進行の権限と職責というものを議長が持っておるわけであります︒それなのに他の者に議事進行に
ついて協力方を依頼する︑そういうことさえも︑その当否が疑問であるということが指摘されております︒田中教授他のコ
ンメンタール︵田中誠二他・再全訂コンメンタ:ル会社法一四八五頁︶でもそういうことが指摘されておりますように︑ま
して会社役員の望む方向への議事の取りまとめ方︑進行の依頼というものは︑その議決の結果いかんを問わず︑そういう請
託自体が公正な議事の進行の妨害になる︑したがって︑それがまさに﹁不正ノ請託﹂になるのではないかということが指摘
できると思います︒
また︑竹内教授は﹁商事法務﹂におきまして︑ ﹁総会屋の横行を招いた責任は︑経営者にある︒総会屋に金品を与えてい
る経営者は︑総会屋の被害者ではなく︑総会屋とともに会社に対する加害者にほかならない﹂ ︵竹内昭夫﹁株主総会制度改 コ正の諸問題下﹂商事法務七八七号一七頁︶というような指摘がありまして︑独禁法九五条の二のような法人の代表者の責 し任罰の強化などを提案されております︒少なくとも被害者でなくて加害者であるという点はまさに至言であると思います︒
そしてさらにこの背景となる事態には︑資本対資本の関係もございましょうし︑まさに経済的な複雑なものがあると存じま
す⁝⁝︒ ごく簡単にまとめますと︑最後の点に関して︑一言だけ申し上げたい点でありますが︑経営者が少なくとも大衆株主を軽
視し︑むしろ総会屋を使って﹁大衆︑一般株主の監視機能﹂というものを封ずる防波堤にしている現状があるのではないか
と思われます︒したがって︑一般株主の自覚はもちろんのこと︑むしろ経営者の責任によっていわゆる開かれた株主総会︑
敗戦直後から言われております﹁ピープルズ・キャピタリズム﹂というものを成熟させるような方向で︑株主総会の規定を
改善されるように切望したいと思います︒その点につきまして︑前向きの御意見なりを承りたいと存じます︒以上でござい
ます︒ 司会龍田教授何かお答えいただけますか︒
龍田︵京大教授︶ ご意見はしごくもっともだと思います︒どのような制度をつくりましても︑姿勢が問題であるというご
趣旨であろうと思います︒ただ︑姿勢だけをとり上げていたのでは問題の解決にはならず︑法律的な制度を改善することに
よって︑少しでもそういう姿勢が正されるような︑正しやすいような方向に持っていくにはどうしたらよいかを模索して︑
こういういろいろな改正案が考えられているのだろうと思います︒議事進行を他の者に依頼するのはいけないというような
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八一年商法改正の法社会学的一考察(覚書)
ことは︑現行法ですと﹁不正ノ請託﹂の要件がありますので︑それが不正かどうかということがまず第一のネヅクになりま
すけれども︑改正法では単に﹁請託﹂としていますので︑そこのところは非常にとらえやすくなるのではないかと思いま
す︒﹂
︵6︶ 私法四二号七七頁以下︒一九七九年の池島発言は同一一七頁以下左記の通り︒なお︑商事法務八四七号︑同八五一号三三
頁︒ ﹁司会︵川又良也京大教授︶ ⁝⁝早稲田大学の池島教授から上柳教授と河本教授のお二人に対して︑取締役の責任の加重の
必要と法人取締役ということについて御発言の申し出がございます︒
池島 早稲田大学の池島宏幸でございます︒質問あるいは御教示いただく点が若干ねじれている一つまり平面的でなく
立体実証的な側面に焦点をおいているという意味で︑ずれているかもしれませんが︑お許し願いたいと思います︒
8 お話を伺っておりますと︑取締役の責任が形式的には非常に厳しくなっているということを承っておりますが︑内容
的に果たしてその実質が伴っているかどうか私自身疑問に思っております︒本日は自分自身も具体的な提案などは持ち合わ
せておりませんけれども︑少なくても現状においては取締役の責任を加重する必要があるのではないかと思っております︒
その場合に︑いわゆる取締役というのは複数存在しておりまして︑これの実体は︑現実のミーティングとしての取締役会と
いうよりも︑むしろそういう経営陣としての重役の一団であって︑これが経営を担当されているわけであります︒その場合
に︑取締役は自然人に限らないというのが日本法の建前でありまして︑親子会社のような場合には派遣重役あるいは社外重
役というような形で︑広い意味での法人の取締役は︑形式的にも実質的にも︑ともにそういう現状があるわけであります︒
国 そこで︑上柳教授のお話を伺いまして︑現在︑取締役の責任をどのように追及していくかという点︑現状で到達し得
る︑裁判所で判断を下される最高の基準というものをティピカルに︑非常に具体的に御教示いただきまして︑その取締役の
責任が今後加重の方向に向かって行くのでしたら非常にいいのではないかと私自身思っておりまずけれども︑その法的責任
は形式的には重くなるようにみえても︑これが将来だんだん内容的には軽くなっていくのではないかというようなことを危
惧いたしております︒特に立法によって規定を整備していくよりも︑判例︑学説の展開に待つのだということをおっしゃら
れまして︑いわゆる判例の集積によるある意味での法的ガイドラインの蓄積を待つという御教示をいただいたように思って 33 1 おります︒
日 ついで︑特に河本教授にお伺いしたいと思いましたのは︑ω 現状でもかなり厳しい責任が商法上の規定に設けられ 34ている︒非常にラジカルなお言葉でありましたけれども︑ ﹁常に脅しがかけられているという現状﹂なのだという御説明で 一
ございまずけれども︑ある場合にはそういう責任がそういう責任追及の網の目の間からだんだん雲散霧消していくような現
実がなくはないのではないかというふうなことでお教えいただきたいと思っております︒
② 特に現代の大企業体制といいましょうか︑しかも単なる大企業体制ではなくて︑連結決算が導入されまして︑連結経
営一企業集団i体制のもとにおきまして︑いわゆる広い意味での﹁子会社﹂︑一〇〇%子会社︑五〇%以上の商法上の完
全子会社のようなものを含めまして︑そういう法人から派遣されます派遣重役と申しましょうかあるいは派遣社長と申しま
しょうか︑そういう取締役の制度を利用した子会社制度の活用︑ある場合にはそれが濫用の場合もあったようですけれど
も︑そういう群小株式会社の氾濫の現状を前にしまして︑現実にいま会社制度を利用している親会社︑これは支配会社と言
ってもよろしいのではないかと思いますが︑そういうものと︑それを経営している経営者︑いわゆる役員の方たち︑いわゆ
るカッコづきでありまずけれども︑ ﹁経営者支配﹂と言われる現況下におきまして︑その経営担当者の責任を有限化したり
限定させるような方向よりも︑むしろ加重してこれを負担させるべきではなかろうかというふうに考えております︒そうい
う理論の構築が必ずしも不可能ではないのではないかというふうに感ずる次第であります︒
㈲ 会社役員というものは︑言うまでもなく従来は重役︑重い役と言われておりましたけれども︑最近は軽い役である︒
いわゆるサラリーマン重役が非常にふえておりますが︑現実におきましてはその重役たちはそれ相応の報酬とか特別利益を
取得しておりますので︑それに対応するような責任を課すべきような方向で整備していかなければいけないのではないかと
思っております︒
㈲ また特に取締役会の承認の点などが触れられておりましたけれども︑強行規定の解釈をめぐりまして︑たとえぽ二八
○条ノニの取締役会の承認というのは効力規定なのだという説が従来ありましたけれども︑最近では命令規定と解するとい
うようなことになりまして︑責任追及というような面が全然歯どめがなくなっていくというようなことにもなっていきま
す︒責任問題がそういうような形で進展しております現状に対して︑たとえぽこれも理論化の試みとしましては︑ ﹁利潤の
あるところには責任があり﹂︑しかもその﹁利潤の再分配によって取締役の報酬その他が分配されておりまずけれども︑そ
れにはやはり同じように損害とか責任の再分配が伴う﹂べぎである︒しかもそれが衡平かつ厳格に︑これは形式的に厳格と
八一年商法改正の法社会学的一考察(覚書)
いうよりも実質的に厳格に分担するよう配慮されなければならない時期に来ているのではないかと感じております︒
㈲ 先ほどの倒産の事例などをめぐりまして御教授いただいたわけでありますが︑﹁倒産保険﹂︑また倒産ないしはそれに
準ずる事故の﹁事故保険﹂による経営者責任のカバー問題tこれははっきり言いまして責任の転嫁でございます︒あるい
は軽減化の方向が打ち出されているとも申せましょう︒事実上としましてサラリーマン重役の多い今日におぎまして︑現代
経営者の責任論の一つの趨勢は︑考えようによっては軽減化というまことに憂慮すべき感じを抱いております︒
㈲ 特に取締役の対第三者責任をめぐって︑株式会社が社会的活動体であることから︑いろいろな第三老に損害をかける
ことがあると思います︒そういうものを含めまして︑現代責任論として︑従来の形式的でしかも平面的な法の建前に︑特に
歯どめとしましては﹁悪意︑重大過失﹂という言葉が出ておりまずけれども︑これは広くも狭くも解釈できますし︑結局は
立証の問題になってしまうというような点の御指摘もあったような気がいたしますが︑そういう形式的でしかも平面的な法
のたてまえに対しまして︑実証的に立体的な現状の企業体制を十分取り入れて合理的な修正を加えていくことも相当現実的
な議論ではないかというふうに思われます︒少なくとも広義の法人取締役の責任は加重すべきでありましょう︒
ω その点参考になりますのは︑法人取締役がとにかく存在するという現実から︑コンツェルン︑小コンツェルンも含め
まして︑そういう問題は今回外されるというような御指摘がありましたけれども︑そういうコンツェルンとか企業結合に関
する規定の新設の問題につきまして︑西ドイツの株式法の政府草案理由書は︑ ﹁そういうものと結びついた危険と不利益か マハトら株主と債権者を守って︑力の存在と責任の帰属とを一致させる必要がある﹂︵私法三七号九二頁︶ということを述べてお
りまずけれども︑これもワソ・オブ・ゼムとしまして一つの方向ではないでしょうか︒実質責任が軽減されるような方向と
いうのは問題があるのではないかという点を強調しつつ︑その点お教え願えたらと思っております︒
上柳︵京大教授︶ いま法人取締役ということをおっしゃいましたが︑そのおっしゃっている意味は︑法人そのものが取締
役になるということを認めるという御趣旨ではなくて︑親会社から子会社あるいは関連会社に取締役を派遣するというよう
な場合のことをおっしゃっているんだと思いますが︑そういう広い意味の企業結合の問題は︑確かに現段階において取締役
の責任というようなものを問題にするならば当然取り上げられるべきテーマの一つでありまして︑それが本日の報告では全
くと言っていいほど省略されておるのは︑われわれの研究の範囲が狭過ぎたと言われればそうであるかもしれないと思いま 35 1す︒実はそれは非常に問題がむずかしゅうございますし︑のみならずこの私法学会では数年前に企業結合の問題をシソポジ
ウムで取り上げたこともございますので︑本日はその問題を報告から外させていただいたわけでございます︒そして︑私自 36身はそのことについて本日全然準備をいたしておりませんので︑ただいまの点につきましては何ともお答えのしようがない 一
というのが正直なところでございます︒
あとは河本教授︑お願いします︒
河本︵神戸大教授︶ いま上柳先生がおっしゃった点については︑実は︑最初はそれも今回の報告の中でやろうと言ってお
ったのです︒しかし︑これはとてもやれない︑今回のシンポジウムではちょっと無理だということで落としたわけでござい
ます︒ それから︑池島さんの御質問の内容が非常に大きくて︑ちょっとポイントをしぼりにくいという感じを︑私自身お答えす
るに当たって思うのでありまして︑ピントはずれの答になるかも知れませんが︑いちおうお答えします︒現行の実定法のも
とで︑経営者に対して民事責任という制度が︑私がかつて使いました表現を使わせていただきますと︑脅しとして十分きい
ておるかという点につきましては︑先ほどの報告の中でも申しましたように︑小さな企業にはこれは相当きいている︒現
に︑商法二六六条ノ三によって︑取締役はずいぶん責任を負わされておるわけです︒しかし︑つぶれないような大きな会社
の場合には︑この二六六条ノ三は働くことはないだろうと思います︒全体の私のトーンはそういう隆々と栄えておる大企業
の場合には︑この民事責任というのは︑余り脅しになっておらぬのではないかと思います︒ただ︑一〇年に一遍ぐらい出て
くる代表訴訟というようなものがどれだけの効果を持っているか︑その評価はむずかしいですが︑私はいまのところ悲観的
であることを申し上げたわけです︒
なお︑この民事責任の在り方について︑形式的︑平面的な現状を立体的なものに直せ︑ということですが︑これは︑別の
機会にそれだけを取り上げて議論されるべきことであろうと考えます︒:::﹂
﹁司会 いまの森田さんの御発言と少し関連したことが池島教授のお話しの中にも出ていたと思いますけれども︑保険につ
いて河本さんはどういうふうにお考えか伺わせていただきたいと思います︒
河本 これはむしろ西島さんの方が御専門なんでありまずけれども︑例の公認会計士の民事責任が︑証券取引法の四六年
改正によって入ったときに︑やはり同じような議論があって︑竹内教授︑龍田教授なども論文をお書きになっているわけで
すけれども︵竹内﹁取締役の責任と保険﹂東京株懇会報二四二号︑龍田﹁公認会計士の責任と保険の対象﹂大森記念論文
八一年商法改正の法社会学的一考察(覚書)
集︶︑結論的には︑いま森田君の言おれたように︑故意︑重過失の場合にまで保険金が払われるということは許すべきでな
いと思います︒しかし︑他方で︑被害者の救済のための保険の機能を考えなけれぽなりませんから︑民事責任の警告的抑止
的機能との兼ね合いを旨く考える必要があると思います︒
さらに︑保険料自体を会社が払っておるということになれば︑これは池島さんがさつきおっしゃったように︑それこそ民
事責任制度を雲散霧消させるというようなことになると思います︒そのようなことにならないような歯どめは十分しなけれ
ぽなりません︒その点でアメリカのまねをすることはないと思います︒﹂
なお︑池島﹁連結決算・連結経営と商法・経済法上の問題点﹂労働法律旬報九三八号︑同﹁子会社倒産と親会社の責任−
商法・経済法の視点からl﹂税理ニ席巻一号五頁︑同﹁共同子会社の法構造31商法・企業法の側面﹂ジユリスト六九八号
一一一頁︒田中誠二他﹁結合企業法の研究﹂金融・商事判例増刊五九四号参照︒
︵7︶ 私法四三号一二九頁以下︒一九八○年の池島発言は同一八八頁以下左の通り︒なお︑商事法務八八四号︑同八八五号三三
頁以下︒
﹁司会︵鴻常夫東大教授︶⁝⁝それでは引き続いて︑あるいは︑いまの竹内教授の御意見に関係のある問題かと思います
が︑計算書類の確定と総会の権限ということでしょうか︑早稲田大学の池島宏幸教授から御発言の申し出がございます︒
池島 早稲田大学の池島宏幸でございます︒
計算書類の確定と株主総会あるいは株主総会の権限ということでも結構なのでございますが︑これは昨日の御報告でも︑
レジュメのシンポジウム資料の前半の前田教授の御報告のところで︑八ページの一段目に﹁ω株主総会の権限﹂ということ
を項目に挙げられておられまして︑これは﹁株式会社の計算・公開﹂で竹内教授が取り扱うということで︑竹内教授にお伺
いできればと思っております︒
実は竹内教授のレジュメでいきますと一五ページの二段目ですが︑こういう計算書類の確定︑利益処分ということについ
て権限を分離して︑実務界・財界からの強い要求によってかどうかは存じませんが︑そういうことが﹁商法部会でも現在は
圧倒的に支持されているといえよう︒したがってもはや覆ることはない﹂とおっしゃられておりまずけれども︑ ﹁理論的に
は問題の余地がある﹂ということで︑私もぜひお伺いしたいと思っております︒ 37 特に︑会社法の規制にもとづき会社が設立されまして後には︑ゴーイング・コンサーソとして法規制さるべき大事な時点 1