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図書紹介『「からゆきさん」――海外〈出稼ぎ〉女性の近代』 (嶽本新奈著、共栄書房、

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Academic year: 2021

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立教大学ジェンダーフォーラム年報第18

‐111‐

図書紹介『 「からゆきさん」――海外〈出稼ぎ〉女性の近代』

(嶽本新奈著、共栄書房、2015)

山下 芳典(ケント州立大学博士課程)

幕末の開国以降、海を渡って売春に従事した「からゆきさん」と呼ばれる女性達がい た。本書は、彼女らに焦点を置いて、日本の近代化の過程を振り返る。

からゆきさんを身売りの犠牲者とする研究動向と、それに対して能動的な選択をおこな う出稼ぎ主体と見る研究動向がある中で、本書の著者は、身売りか出稼ぎかを二者択一と する認識では、からゆきさんの置かれた歴史的状況を捉え損ねてしまうと論じる。近代日 本が資本制国家として編成される過程では、人が人を使役する様々な営為が奴隷制・封建 制時代から引き継がれつつ、それを正当化する制度が、あからさまな隷属から、個人の同 意を名目とするものへと、次第次第に置き換えられていった。からゆきさんが従事した海 外での売春もまた、その実践は人身売買や娼妓奉公との歴史的連続性の上に成立していた が、彼女らの境遇を正当化する人々の認識には、身売りの概念、年季奉公の概念と、近代 化を経た雇用契約と移住をも含意する「出稼ぎ」概念とが、矛盾を孕みながら併存してい たという。

前近代的秩序を引きずりながら進められたこの経済論理の近代化が、性規範の再編成と 切っても切れない関係にあったことも、からゆきさんの境遇に着目すると明瞭になる。困 窮した家庭から奉公に出る者を「孝女」とみなして売春を自然化した近世の性規範は、近 代化を進める知識人によって悪習と批判されるが、その代わりに、売春の成立要因をから ゆきさん個々人の選択に帰した上で、彼女らを、近代国家に相応しい女性性や家族観を脅 かす「醜業婦」と表象する言説が現れる。こうして一方で、近代化の過程でスティグマを 押される彼女らはまた、他方では、日本の海外膨張主義に巧妙に組み込まれてもいた。移 住する日本人男性に対して国家が管理する女性の身体を「供給」しようとする思考が、知 識人の言説、法令や制度設計を通じて具体化された。

このようにからゆきさんをとりまく言説と制度の変遷を分析する本書は、同時に、から ゆきさん研究の起点となった森崎和江と山崎朋子の仕事を再検討し、二人がそれぞれに取 り組んだ聞き書きによる渡航経験の記録の中に、日本の膨張主義へと組み込まれたからゆ きさんの軌跡を辿る。売られた者、出稼ぎ者、そして植民者である日本人という社会的位 置を揺れ動くからゆきさんと、植民地・占領地とされた地域で暮らす様々な人々との間に 生じた重層的な権力関係が、森崎と山崎の記述を対話させることで浮かび上がる。

緻密な言説分析によってからゆきさんを捉え直し、ひいては、近代日本のジェンダー編 成を、資本制国家の成立、性規範の歴史、植民地主義の展開を視野に入れて問題化する本 書は、様々な読者の学びへと開かれている。

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