著者 水島 洋平
雑誌名 同志社政策科学研究
巻 8
号 1
ページ 181‑193
発行年 2006‑07‑25
権利 同志社大学大学院総合政策科学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000010982
あらまし
テレワークの一形態である在宅ワークは、高 度情報化社会が生み出した新しいワークスタイ ルといえる。情報通信機器と情報通信技術を最 大限に活用することにより、これまでは大規模 組織の中で遂行されてきた企業行動であったが、
自宅でもそれが可能となった。在宅ワークは組 織に属して働くという今日ではあまりに一般化 したワークスタイルとは異なる職業スタイルを 描き出している。情報通信機器を活用して在宅 で自営的に行われる働き方のうち、請負等に よってサービスの提供を行うものが「在宅ワー ク」である。
在宅ワークは新しい働き方であるだけに、在 宅ワーカーに関する統計整備は遅れており、そ の社会的な位置づけがまだ明確ではなく、法的 な整理も十分ではない。また、経済の変化に伴 い、在宅ワークの職種も広がり、その類型も分化 してきている。そうしたなかで、契約条件の不明 確さをめぐるトラブルや契約の一方的な打ち切 り等、契約面や仕事の確保等についての問題点 が指摘されており、新たな働き方としての整備 を図っていく必要がある。また、自分のペースで 仕事ができる反面、発注先からの要請により長 時間労働になってしまうことも多く、健康面で の不安もみられる等、課題も多い。
本稿では、在宅ワークの概観を整理し、弾力的 な働き方としての可能性、従来からの働き方で ある家内労働とオフィス勤務との比較検討、在 宅ワーカーの労働者性と事業者性の整理、政策 ニーズと支援政策課題について明らかにしてい く。
1.問題の所在
1980 年、トフラーが『第三の波』を出版し、農 業革命、産業革命、そしてそれに続くコンピュー タ産業等の時代が到来したが、その当時、実生活 において変化を感じさせるものではなかった。
しかし、近年 IT 化が進展し、情報通信技術の発 達と企業のみならず家庭への情報通信機器の普 及に伴い、職場環境や就業形態等についても大 きく変化してきている。このような状況下で、情 報通信機器を活用して、労働者が時間と場所を 自由に選択し、仕事と家庭の調和を図りつつ働 くことができるテレワークが普及し、次世代の ワークスタイルとして期待されている。
テレワークには、事業主と雇用関係にある働 き方として、在宅勤務以外に、労働者が属する部 署があるメインのオフィスではなく郊外の住宅 地に近接した地域にある小規模なオフィス等で 業務に従事する、いわゆるサテライトオフィス 勤務、ノートパソコン、携帯電話等を活用して臨 機応変に選択した場所で業務に従事する、いわ ゆるモバイルワークがある。また、在宅勤務と似 通っているが、事業主と雇用関係にない請負契 約等に基づく働き方として、非雇用の就業形態 である「在宅ワーク」がある。
本稿では、テレワークの一形態であり、非雇用 型の「在宅ワーク」に焦点を当てて論じている。
会社依存から脱却し、個人主導型のワークスタ イルである在宅ワークは、とりわけ育児や介護 等の家庭的責任の負担を担いがちな女性の就労 機会の創出を促進する可能性が期待される。
請負あるいはフリーの仕事を在宅で行う働き 方としては、従来から家内労働という働き方が 存在している。しかし、家内労働の場合は、職種
在宅ワーク支援政策に関する一考察
水 島 洋 平
1 1998年に公表された米国商務省の報告書『The Emerging Digital Economy』では、インターネットを中心とした情報技術革命によっ て、労働構造に変化をもたらすことが指摘されている。
2 国土交通省・総務省・厚生労働省・経済産業省『企業のためのテレワーク導入・運用ガイドブック』社団法人日本テレワーク協 会,2005 年,7ページ。
3 日本労働研究機構編『調査研究報告書№ 113 情報通信機器の活用による在宅就業の実態と課題』日本労働研究機構,1998 年,2 ページ。
内容は製造工程関連の業務であり、また原材料 の提供や成果物の回収・納入、仕事の指示・打ち 合わせの手法に関しては、委託者が労働者の自 宅を直接訪問する傾向が強い。情報通信機器の 活用による在宅ワークは従来型の在宅就業とい える家内労働とは、職種内容やコミュニケー ションの手法などの面でかなりの違いが想定さ れる。
在宅ワークは新しいワークスタイルであるだ けに、在宅ワーカーに関する統計整備は遅れて おり、その社会的な位置づけがまだ明確ではな く、法的な整理も十分ではない。また、経済の変 化とともに在宅ワーカーの職種も拡がり、その 類型も分化してきている。そうしたなかで、仕事 の中途打ち切りや報酬の保障が明確でない等の トラブルも発生している。また、自分のペースで 業務遂行ができる反面、発注先からの要請に よって、長時間労働になってしまうこともあり、
健康面での不安もみられるなど課題も多い。こ のため、政府においても、在宅ワーカーに対する 支援政策の充実を図っている。
本稿は、同志社大学大学院総合政策科学研究 科に提出した修士論文『少子高齢社会における 在宅ワークと女性労働―在宅ワーク支援政策の 現状と課題―』の第2章、第3章、第4章に加筆 し、修正を加えたものであることに留意された い。
2.在宅ワークとは何か
在宅ワークという働き方は、テレワークの一 形態であるので、まずは、テレワークについて概 観していくことにする。
テレワークは、1970 年代のオイルショックに よるエネルギー危機で、自動車通勤の代替策と して位置付けられたことに端を発する。1980 年 代に入ると、情報通信技術の発達および労働力 の多様化を受けて、テレワークは人材管理戦略 として位置付けられた。1990 年代において、テ レワークに関する見方はより成熟したものとな
り、ビジネス界で起きているさまざまな多様化 に対応を促す戦略的なツールとして位置付けら れた1。
わが国でのテレワークの歴史は、1984 年、東 京都三鷹市で NTT の ISN 実験の一環として実験 に参加した日本電気が開設した、吉祥寺サテラ イトオフィスでの勤務実験がはじまりといわれ ている。
テレワークには、多様な概念に基づく定義が ある。ここで、明確にしておかなければならない ことがある。それは、テレワークは就業形態の一 つであり、就業手段であるということである。?
日本テレワーク協会では、「IT を活用して、場所 や時間にとらわれない柔軟な働き方」と定義し ている2。すなわち、固定された勤務場所と固定 された勤務時間に基づく従来の働き方に対して、
テレワークは情報通信技術を活用することによ り、働く場所と時間を労働者が柔軟に選択でき るようになった働き方であるといえる。
テレワークの類型分類については、定義の多 義性と同様に、雇用・就業形態、労務・役務提供 場所の二つの基本軸で類型化される。労務・役務 提供場所を基準として分類すれば、①在宅型、② サテライトオフィス型、③モバイル型の三類型 になる。また、雇用関係では、「雇用」型と「非 雇用」型の二つに分類される。
本稿では「非雇用」型のテレワークを扱うが、
この「非雇用」型のテレワークを、「在宅ワーク」
と呼ぶことにする。日本労働研究機構では、在宅 ワークを「パソコン、ワープロあるいはファック スなどの情報通信機器を使って自宅で請負・フ リーの仕事を行うこと」と定義している3。また、
旧労働省『在宅就労問題研究会報告書』(2000 年 3月)では、「雇用の形態を取らずに、請負・フ リーの形で、自宅を中心に主としてコンピュー タなどの情報通信機器を用いた作業に従事する 者」と定義している。
以上を踏まえ、本稿では、在宅ワークを「情報 通信機器を活用して在宅で請負・フリーの仕事 を行うこと」と定義する。
4 事業所におけるインターネット利用状況をみると、2003 年末において、事業所(常雇従業員規模5人以上)の 82.6%がインター ネットを利用している。事業所における情報通信機器の利用状況をみると、パソコン保有率が 93.6%となっている。総務省編『平 成 16 年版情報通信白書』,192 ページ。
5 福留恵子「テレワークにみる女性の「仕事と家庭の両立」」『季刊家計経済研究』第 53 号,2002 年,25 ページ。
6 W.A.Spinks『テレワーク世紀:働き方革命』日本労働研究機構,1998 年,35 ページ。
7 日本労働研究機構編『調査研究報告書№ 113 情報通信機器の活用による在宅就業の実態と課題』日本労働研究機構,1998 年,64
− 65 ページ。
8 日本労働研究機構編『調査研究報告書№ 113 情報通信機器の活用による在宅就業の実態と課題』日本労働研究機構,1998 年,35
− 36 ページ。
9 堀眞由美『テレワーク社会と女性の就業』中央大学出版部,2003 年,58 ページ。
10 厚生労働省雇用均等・児童家庭局編『家内労働等実態調査結果報告:情報通信機器の活用による在宅就業実態調査』平成 13 年度,
48 ページ。以下、厚生労働省調査(2001)と略記する。
11 厚生労働省調査(2001),49 ページ。
3.弾力的な働き方としての在宅ワーク 3.1 女性就業と在宅ワーク
女性がテレワークに高い関心を持つ理由とし ては、企業における情報化の進展4、個人ユース の情報通信機器保有の促進等があげられる。情 報ネットワーク社会の進展のなかで、女性の高 学歴化に伴う労働観、仕事観の変化と相まって テレワークという就業形態への関心は高まりつ つある。また、研究機関や白書などにおいて、時 間と場所に拘束されないテレワークが本格的に 取り上げられ、女性の就業の主要な阻害要因と なっている育児や介護等の家庭的責任を軽減す る可能性をもたらす就業手段として注目されて いる。
女性の就業における仕事と家庭責任の調和に ついては、これまで IT 化の進展に直接関わるこ となく議論されてきた。福留(2002)では、近年 の IT 機器・設備やサービスの普及により、IT 機 器が就業者にとっての公的領域(就業場所)にと どまらず、私的領域(家庭)へも普及・拡大し、
就業をめぐる公私領域の区分を消去したことを 指摘している。また、仕事と家庭の両立の可能性 を示唆するとともに、テレワークがもたらす従来 の女性負担の軽減可能性についても触れている5。 W.A.Spinks(1998)は、テレワークという働き 方の弾力性は、出産・育児期に有効に働くだけで なく、一時的な看病や両親の介護が必要となっ た時など、通常の勤務形態だと会社を休む、もし くは辞めることを余儀なくされかねがいが、そ うした場合も弾力性は機能を発揮する6と述べて いる。
在宅ワーカーは、出勤勤務が難しい 30 歳代の
育児期の女性が中心であり、彼女たちの学歴は 高校を超えるものが多く、高い傾向にある7。在 宅ワークの働き方としての特性は、一つには育 児期の女性のための弾力的な就業形態という点 にみられる。日本労働研究機構(1998)では、「従 来、年齢別にみた女性の労働力率を示す M 字型 カーブの底を形成し、女性にとって働きにく かったライフステージにマッチした働き方と なっている」8と述べている。
また、堀(2003)は、M 字型カーブ克服の解決 手段として、在宅ワークを有効化した場合、女性 労働力率の推移にどのような変革をもたらすの かを検討している。これによると、労働力率の カーブが在宅ワークの拡充により出産・育児等 で就業中断することなく継続しフラット化され、
既婚の子供のいる女性や中高年者の就業継続を 実現する可能性を示している9。
3.2 パートタイム勤務との比較
在宅ワーカーの今後の希望についてみると、
「仕事の確保」や「単価の安さ」等の問題はある が、大半の者が今後も継続していくことを希望 している10。
在宅ワークの選択理由として「育児をしなが ら仕事ができる」という回答があるが、高学歴で かなりの期間の会社勤務経験を有する経歴から は、育児期間中でも「社会と繋がりを持ちたい」
「自分の能力を発揮したい」という意欲もうかが える。また、末子年齢が6歳以下の未就学児童が いる育児期の女性に限定して、子育て期後の出 勤希望について尋ねた結果、「できれば(絶対に)
出たくない」は6割近くに及び、「勤めにでると 思う」と回答した者は約 36%であった11。
現在のところ、家庭責任を有する 40 歳代の主 婦層の最も一般的な雇用就業形態は、パートタ イム勤務である。現在、30 歳代の子供を抱えた 在宅ワーカーが 40 歳代になり、どのような働き 方を希望するかについては、子供に手が掛から なくなると、仕事の確保が容易ではない在宅 ワークよりもパートタイム勤務に出たほうが安 定した収入が得られる可能性が大きい。しかし、
現在、在宅ワークを行っている者は、「自分の ペースで柔軟・弾力的に働ける」というメリット を重視しているとともに、「パソコンを使うなど 自分の好きな仕事をやりたい」というこだわり が強い傾向にある12。
在宅ワーカーが働いている理由(複数回答)
は、女性子供有では「家計を補助するため」が最 も多く過半数で指摘されている。また、「副収入 を得るため」も少なくなく、経済的な要因が大き い。同時に「自分の能力、経験を活かすため」、「社 会との繋がりを持つため」といった非経済的要 因も少なくなく、育児期の女性の働く背景の多 様さがうかがえる。
3.3 在宅ワークの進展と今後
日本労働研究機構(1998)では、在宅ワークを 希望している者は、調査回答者合計504名のうち 501 名が「在宅ワークをやってみたい」という希 望を持っていることが示されている13。希望する 在宅ワークの形態としては、男性では専業型が 多い。一方、女性ではアルバイト型が多く、特に 子供有では約8割を占め、顕著である。これは、短 時間の在宅ワーク志向が強いものとみられる14。 在宅研究会報告では、在宅ワークの今後にお ける拡大の見通しとして、「今後における在宅 ワークの拡大の程度は、在宅ワークに影響を及 ぼし得る次の諸点に係る動向等にも関わる面が あり、なお明らかではないものの、相当増加する 可能性も大きいといえる。」とし、次の諸点をあ
げている15。
①企業におけるアウトソーシングがどの程度進 展するか。
②在宅ワーカーを活用する業種がどの程度拡大 するか。
③在宅ワーカーへの発注形態がどの程度変化す るか。
④今後の情報通信機器・技術の普及が仕事の外 注にどのような影響を及ぼすか。
⑤わが国企業における仕事の進め方がどの程度 変化するか。
⑥わが国において、雇用労働者になる方が、独立 事業主になる場合に比し、有利である面(労働 関係法令の下での保護、労働・社会保険料負担 等種々の面)がどの程度変化するか。
在宅ワーカー側としても、特に大容量の情報 が安価に交換できる環境が整ったことは、今後、
在宅ワーカーが大きく増える要因になると考え られる。以上のようなことから考えて、全体とし て、今後も在宅ワーカーは増加を続ける可能性 が高いと思われ、在宅ワーカーに対する施策の 重要性は高まっていくものと推察される。
4.従来の労働形態との比較 4.1 家内労働との比較
近年の情報通信技術の進展とそれに伴う情報 通信機器の普及が、在宅ワークの実態にどのよ うな影響を及ぼしているのか。情報通信機器の 活用による在宅ワークが、そうした機器の使用 を必要とせず、従来の在宅就業形態である家内 労働とどのような違いを有しているのかを考察 していく。
家内労働とは、委託者から委託を受け、主とし て家庭内で賃加工等の仕事に従事することを指 す。この場合の委託者と家内労働者の関係は、請 負であり雇用ではないので、労働法の適用はな
12 在宅ワークの主流である文章入力、データ入力、テープ起こし、プログラミング、デザイン等の仕事は、現在のパートタイム勤 務の中心である店頭販売、一般事務、製造作業等とは違いが大きい。将来にわたり、仕事へのこだわりが強いと、専門的な仕事 内容のパートタイムの職場が増えない限り、パートタイム勤務への転換は難しいと思われる。
13 日本労働研究機構編『調査研究報告書№106 パソコンネットワークに集う在宅ワーカーの実態と特性』日本労働研究機構,1998 年,117 ページ。
14 同書,118 ページ。
15 労働政策研究・研修機構『労働政策研究報告書№5 欧米における在宅ワークの実態と日本への示唆:アメリカ、イギリス、ド イツの実態から』労働政策研究・研修機構,2004 年,18 ページ。
16 労働政策研究・研修機構編『労働政策研究報告書№5 欧米における在宅ワークの実態と日本への示唆:アメリカ、イギリス、ド イツの実態から』労働政策研究・研修機構,2004 年,38 ページ。
17 日本労働研究機構編『調査研究報告書№ 106 パソコンネットワークに集う在宅ワーカーの実態と特性』日本労働研究機構,1998 年,22 ページ。
18 厚生労働省調査(2001),42 ページによると、「困っていること」として同時に「大きな仕事を引き受けるための仲間・人材の確 保」が1割強で指摘されており、少なからざる在宅ワーカーが他の在宅ワーカーとともに業務を行っている可能性もある。
19 家内労働法は 1970 年に制定され、製造業を対象に組み立てられた法律である。原材料の提供と加工品の回収といった製造工程の 賃加工業務の特性に着目している。それに対し、在宅ワークはパソコンを使用したデジタル情報の加工処理で事務処理やソフト ウェア関連の非製造業が主体である。発注者から原材料の提供はなく、その加工品の回収も行われず、その代わりに、仕事の成 果物を通信回線を使用して納入している。この点が、家内労働と在宅ワークの大きな相違点である。
20 厚生労働省調査(2001),31 ページ。
い。しかし、現実には、家内労働者は委託者に対 して経済的に従属的な地位にあることが多く、
実質的には雇用と変わらない側面もある。そこ で、1970 年に家内労働法が制定された。「在宅 ワーカー」は家内労働法でいう「家内労働者」に 該当せず、同法に基づく法的保護等を受けられ ない。現在のところ、在宅ワーカーに関しては、
『在宅ワークの適正な実施のためのガイドライ ン』による保護に止めている。
家内労働法では、「家内労働者」とは、「物品の 製造、加工等若しくは販売又はこれらの請負業 者その他類似行為業者(中略)から、主として労 働の対償を得るために、その業務の目的物たる 物品(中略)について委託を受けて、物品の製造 又は加工等に従事する者であって、その業務に ついて同居の親族以外の者を使用しないことを 常態とするもの」(第2条)をいう。
委託者は家内労働者に家内労働手帳を交付
(第3条)するとともに、都道府県労働局長にも 家内労働者数や業務の内容等を届け出る(第 26 条)こととなっている。また、委託者は家内労働 者に対し、①就業時間への配慮(第4条)、②委 託の打ち切り予告(第5条)、③1ヶ月以内の工 賃の支払い(第6条)、④工賃の支払い場所(第 7条)、⑤最低工賃(第8条)、⑥安全及び衛生(第 17 条)等を遵守することとされている。
家内労働者の推移をみると、1970年には180万 人以上いたが、2002年には257,270 人にまで減少 している16。家内労働者は、家内労働法により規 定された労働者であるが、大きく次の三点を要 件としているといえる。
①発注者(家内労働法上では委託者と呼んでい る)から物品の提供を受けて、その物品を部品 若しくは原材料とする物品の製造、またはそ の物品の加工等を行うこと。
②主として労働の対償を得るために働いている こと。
③業務について同居の親族以外の者を使用しな いことを常態としていること。
これらの要件は、家内労働者は、労働基準法上 の労働者とは異なり、使用者と使用従属関係(労 働の提供過程における労働時間、作業場所、服務 規律等についての使用者の指揮監督)に立たな いが、実態的には発注者から原材料の供給を受 けて賃加工に従事し発注者に経済的に従属して いるため、使用者と労働者の関係に準じた関係 にあることを規定しようとしているものである。
家内労働者に対して一定の労働者保護策を講じ る根拠もこの経済的従属性に基づいていると理 解される17。
上記の三点の要件が在宅ワーカーに当ては まっているかどうかを検討してみる。まず、「今、
困っていること」の指摘として、「仕事の確保」
(53.3%)が最多であげられていることから18、一 般的な在宅ワーカーの場合、同居の親族を含め 他の人を使用して業務を遂行することはあまり 多くないものと考えられる。次に、「報酬の労働 対価性」については、年収水準は労働時間数と比 例関係が強い。また、初期投資額も全体の4割近 くが 30 万円未満と大きくない傾向にあり、おお むね在宅ワーカーにも当てはまるものとみられ る。
以上のように、②と③の要件については、在宅 ワーカーにも当てはまると考えられる。しかし、
①の「原材料の提供性」については、一般的に在 宅ワーカーには当てはまらないものといえる。
この状況の違いは、家内労働と在宅ワークの職 種内容の違いを反映したものである19。 厚生労働省調査(2001)では、使用している情 報通信機器として大半がパソコンを活用してい る状況が示されている。そして、この情報通信機 器の広範な活用が職種の内容に結びついている20。 個人調査から、対象の在宅ワーカーが行ってい る職種を男女別にみると、男性では「設計、製図、
21 同書,30 ページ。
22 労働省女性局『平成9年家内労働実態調査』
23 厚生労働省調査(2001),7ページ。
24 これは、情報通信機器の活用による在宅就業との比較による相対的、全体的傾向を述べているわけで、家内労働のなかに高い専 門性や技能レベルを求められる仕事が存在していることを否定しているわけではない。
25 厚生労働省調査(2001),7ページ。
26 同書,10 ページ。
27 仕事部屋については、専用・独立的な部屋(59.3%)が最も多く、男性では大半(82.3%)を占める。しかし一方では、居間(36.7
%)というケースも少なくない。特に子供がいる女性では居間(49.3%)が半数を占めることに加え、台所(9.7%)という場合 もみられる。こうした仕事部屋の条件は机にも影響を与えており、子供のいる女性では専用の机ではなく、食卓や座卓で仕事が
デザイン」(38.2%)、「システム設計、プログラ ミング」(20.9%)が多く、女性では「文書入力」
(30.4%)、「設計、製図、デザイン」(15.6%)、「デー タ入力」(14.8%)が多い21。いずれにしても、パ ソコンやワープロ等を使用して仕事成果を情報
(データ)の形で加工処理していく、あるいは仕 事そのものが情報(データ)の加工処理である傾 向が強い職種である。全体として、情報関連サー ビス職種といえよう。
情報通信機器の活用による在宅ワークと家内 労働の相違点は、職種内容に加え、仕事の専門性 に関しても指摘できる。家内労働の場合の委託理 由(二つまでの複数回答)としては「手作業であ るから」が最も多く、次いで「コストが安くて済 むから」、「仕事量が変動するから」等が上位を占 めている22。これに対し、情報通信機器の活用に よる在宅ワークの場合は(同じく二つまでの複 数回答)として「専門的業務への対応」(40.0%)、
「繁忙期への対応」(38.3%)、「人件費コストの削 減」(29.2%)等の理由が上位を占めている23。 両者を比較すると、コストの安さや業務量変 化への対応といった側面は共通しているが、業 務の専門性という側面では違いがみられる。家 内労働のトップの理由である「手作業であるか ら」は、直接的には機械では対応できないという 意味を含意していると考えられるが、他方、「高 い技能が必要であるから」との理由の指摘は1割 程度にとどまっていることを勘案すると、家内労 働には仕事の専門性や高い技能水準を求める傾向 があまり強くない側面が浮かび上がってくる24。 これに対して、情報通信機器を活用する在宅 ワークでは、上記の「専門的業務への対応」のほ かに「労働力の確保」(24.8%)、「退職労働者の 能力・経験の活用」(15.7%)がかなりの水準で あげられている25。また、採用や仕事発注に当 たっての選考基準(複数回答)をみると、「責任 感、信頼性」(71.0%)、「当該職種の経験」(63.8
%)、「高度な能力、高い熟練度」(55.9%)が半
数以上で指摘されており26、退職者を含めた一定 以上の専門的能力を有する労働力の確保という 側面が強い状況がうかがえる。
家内労働と比較した情報通信機器を活用した 在宅就業の特徴を整理すれば、製造工程の加工 業務に対して情報関連サービス業務、または相 対的に専門性の高くない業務に対して相対的に 専門性の高い業務という二点があげられる。こ うした対照的な特徴から、情報通信機器の活用 による在宅就業は、従来からの在宅就業である 家内労働に対して、一般的に新しい在宅就業「在 宅ワーク」と呼ぶことができるであろう。
4.2 オフィス勤務との比較
最も主要なイシューは労働時間の自己管理で ある。在宅で仕事ができるということは、自己の 都合に合わせて柔軟・弾力的に働けるというメ リットを有する反面、労働時間管理は自らが行 わなければならない。オフィス勤務では明確で ある就業時間も、自宅では家事や休憩等の生活 時間との区別が曖昧になる可能性がある。また、
育児期間中の女性の場合、家事や子供の世話を 優先する結果、就業は深夜の時間帯になりがち ということも考えられる。就業時間の区切りを 自己管理していくことが、不可欠な課題となる。
(1)仕事環境
通常、オフィス勤務の仕事環境としては、職場 に専用の机と椅子が用意され、照明や空調も相 当程度に十分に行われた状態で、パソコン等の 情報通信機器を使用しながら業務を遂行する姿 が描ける。在宅ワークの場合も、基本的にはオ フィス勤務と似通った環境といえるが、仕事に はあまり適さない環境で業務が遂行されている ケースや、オフィスの環境に較べて劣りがちな 側面もみられる27。調査対象の9割超の在宅ワー カーは、仕事でパソコンあるいはワープロを使
用しており、情報通信機器の装備が在宅ワーク のほぼ必須の条件という状況にある。こうしたな か、在宅ワークを行うにあたって、現在困っている こと(複数回答)として「ハード・ソフトウェア のレベルアップ」(26.7%)が指摘されている28。 オフィス勤務においては、ハードやソフトウェ アのレベルアップは事業主の責任、費用で行わ れるが、在宅ワーカーの場合はそうではない29。 (2)仕事の進捗管理
仕事の進捗段階での管理問題を考えてみると、
「発注の後は完成まで在宅就業者の自己管理に任 せる」(63.0%)が主流である。離れた場所で仕 事を行うため、仕事の進捗は基本的に本人に任 せられる傾向にあるという、オフィス勤務とは 異なる特徴が見出せる。ただ一部には、「仕事の 途中段階で報告を求める、チェックする」(26.9
%)や「定期的に報告を求める、チェックする」
(9.3%)もみられる30。いずれにせよ、仕事の進 捗は自己管理下で行われる場合の問題は、「納 期」と「仕事の質」という仕事の成果の確保に帰 着する。
在宅ワークに関し、困っていること(複数回 答)の一つとして「病気など納期間際のトラブル への対処」が 11.7%で指摘されている31。「納期 が守られない」との問題点は、発注者側からも指 摘されている32。また在宅ワーカーのトラブルが ある場合、その内容(複数回答)としては「仕事 の出来具合」(72.3%)に次いで、「仕事の納期」
(53.6%)が多い33。こうした背景には、納期の設 定は「管理者と在宅ワーカーが調整、合意の上、
設定」する(33.9%)で行われるよりは、発注者 側の「業務上の要請に合わせ設定」するものが半
数を超え、後者に合わせる傾向が強いという事 情があるものと思われる34。
(3)コミュニケーション
在宅ワークは、情報通信機器やその機能を活 用することにより、自宅にいても発注者と相当 程度にコミュニケーションを図れるため、在宅 での仕事が可能になっているという側面がある。
(4)労働時間
在宅ワークは、労働時間帯に関する決まりは 一般的には存在しない。家族のいる在宅ワー カーの場合は、家族全体の生活リズムに合わせ て自分の労働時間も設定するのが普通と考えら れ、現実的にも働いているのは(二つまでの複数 回答)、「12 時〜 17 時」(68.8%)や「8 時〜 12 時」
(49.9%)といったオフィス勤務の労働者が通常 働いている時間帯が中心となっている。しかし、
「20 時〜 24 時」(38.7%)あるいは「0 時〜 4 時」
(14.9%)といった時間帯も少なくない。また、「20 時〜 24 時」に関しては、女性でとりわけ多い特 徴がみられる35。
(5)労働環境
末子6歳以下の未就学児童を抱えた女性は
「子守をしながら」(36.5%)働く場合も少なくな い36。このことは、確かに在宅ワークのメリット の一面ではあると考えられるが、「仕事の効率や質 の確保」の面から考えると課題があると思われる。
在宅ワーカーは決して労働時間管理から解放 されるのではなく、納期の設定により効率的な 作業管理が必要となってくる。また、仕事と生活 時間との調和を図ることが求められている。も し、それらがうまく進まなかった場合には、仕事 と家庭生活との両立が困難になる等、当初の就業
行われているケースも決して少なくない。また、育児や家事責任を抱えた女性がそれとの両立を図る必要も含めて変則的な部屋 や机で仕事をしている傾向が少なくない状況がうかがえる。日本労働研究機構編『調査研究報告書№113 情報通信機器の活用に よる在宅就業の実態と課題』日本労働研究機構,1998 年,25 ページ。
28 厚生労働省調査(2001),42 ページ。より高度な仕事への対応という側面とともに技術革新が激しいなか、使用機器やソフトの 陳腐化が進みがちという側面も考えられる。
29 在宅ワーカーの使用している情報通信機器を「会社が無料貸与」しているのはわずか 8.7%で、大半は「在宅ワーカーの所有」で ある。
30 日本労働研究機構編『調査研究報告書№ 113 情報通信機器の活用による在宅就業の実態と課題』日本労働研究機構,1998 年,27 ページ。
31 厚生労働省調査(2001),42 ページ。納期が迫った段階で、突発的な事情により仕事の継続が難しくなった際、肩代わりをして もらえないことが在宅ワークの問題であると考えられる。
32 同書,23 ページ。
33 同書,24 ページ。
34 同書,17 ページ。
35 厚生労働省調査(2001),35 ページ。在宅ワークは育児や介護、家事との両立を可能とする柔軟で弾力的な働き方ではあるが、現 実的には、仕事に先立ち育児や家事が優先されている結果、労働時間はそれらが終わった後のものとして位置づけられている。
36 日本労働研究機構編『調査研究報告書№ 113 情報通信機器の活用による在宅就業の実態と課題』日本労働研究機構,1998 年,29 ページ。
目的と食い違ってしまうようなケースもみられる。
(6)仕事能力の維持向上
在宅ワーカーの仕事能力は、かつての勤務先 で獲得されたものが中心であるが、在宅ワーク 開始後は自ら能力の維持向上を図っていかなけ ればならない37。しかし、能力の維持向上のため の取り組みを行っていない在宅ワーカーが約 35
%を占めている38。「時間的余裕がない」(約45%)
や「費用がかかる」(約 20%)等、能力の維持向 上の必要性を感じながらも、時間や費用面の制 約で行うことが出来ないでいるケースも少なく ない39。また、何らかの取り組みを行っている場 合も、その内容は「書籍、雑誌、関連情報などに よる自己学習」(8割強)など、自分自身で行っ ているケースが多くみられる40。
一方、発注者側は約9割弱が、在宅ワーカーの 能力開発に「関心がある」としている。そのうち、
能力開発は「会社が行う必要がある」が26.5%と 関心が低く、「個人で行うべきである」が 75.5%
と多数を占めている。また、「行政のサポートが 必要である」(12.1%)との回答もある41。
5.在宅ワーカーの事業者性と労働者性 5.1 事業者性と労働者性の併存
在宅ワーカーには、事業者という側面と労働 者という側面との二つの観点から、その特質を 論じることができる。ここで問題になるのは、そ の事業者性と労働者性の二側面が混在している ことである。在宅ワーカーに関する政策課題を 考えるにあたっては、事業者としての側面から の問題と、労働者としての側面からの問題に分 ける必要がある。そのうえで、対象となるべき
ワーカーについて、事業者的性格が強いか、労働 者的性格が強いかによって、政策の具体的な方 向付けを図っていくべきである。
実際に在宅ワーカーが携わっている仕事とし ては、比較的単純・定型的なものである場合が多 い。手書き原稿等をワープロ入力する「文章入 力」や、「設計、製図、デザイン」が中心となっ ている。また、「システム設計、プログラミング」、
「編集、電算写植」、「ライター、翻訳」といった専 門性の高い非入力系の仕事も実施されている42。 厚生労働省調査(2001)によれば、「在宅就業 に関し、いま困っていること」を尋ねているが、
この設問の解答肢をみると、事業者的側面のも のと労働者的側面のものが混在している。調査 結果によると、「仕事の確保」(53.3%)や、「単 価が安いこと」(35.2%)という点が圧倒的に多 く43、収入の安定性や水準を確保することが最大 の関心事であることがわかる。
「単価が安いこと」「大きな仕事を引き受ける ための仲間・人材の確保」「取引先とのトラブル」
「税務問題」「ハードウェア・ソフトウェアのレベ ルアップ」「仕事をする場所の確保」が事業者的 性格を持つもの、一方、「忙しすぎる、体力的に きついこと」「能力・知識の不足」「病気など納期 間際のトラブルへの対処」が労働者的性格を持 つものと分類することにより、支援ニーズの違 いをみることができる44。
5.2 事業者性と労働者性の判断
日本労働研究機構(2003)によると、事業者性 や労働者性は、受注スタイルの特質によって判 断することができるとしている45。これによれ ば、責任感、経験、能力等はいずれの仕事におい
37 在宅ワークは、職場や取引先との接触が少なくなりがちであり、オフィス勤務に比べて仕事に関する情報を得にくくなるため、情 報の収集や能力の維持向上の必要性が仕事継続のために必要不可欠になると考えられる。
38 厚生労働省調査(2001),44 ページ。
39 日本労働研究機構編『調査研究報告書№ 113 情報通信機器の活用による在宅就業の実態と課題』日本労働研究機構,1998 年,32 ページ。
40 厚生労働省調査(2001),45 ページ。
41 厚生労働省調査(2001),20 − 21 ページ。
42 同書,30 ページ。
43 同書,42 ページ。
44 日本労働研究機構編『調査研究報告書№ 159 在宅ワーカーの労働者性と事業者性:在宅ワーカーへの対応・支援をめぐって』日 本労働研究機構,2003 年,84 ページ。以下、日本労働研究機構(2003)と略記する。
45 同書,85 ページによると、発注者との従属性が強い場合には「労働者的」性格が強くなるが、それが弱まるにつれて「事業者的」
性格が強まるという見方であるとしている。事業者的性格が強まるほど、自らの経営戦略への関心が高まるとともに、発注者と の交渉においても立場が強くなってくることを前提としている。
46 日本労働研究機構(2003),前掲書,85 ページ。
47 同書,86 ページによると、事業者性と労働者性の強さの判断について、事業者性の強い在宅ワーカーは非入力系の仕事に多く従 事しており、発注者は複数、資本的機能に問題意識を持っている。それに対し、労働者性の強い在宅ワーカーは入力系の仕事に 多く従事しており、発注者は単独、労働者的問題(時間管理、健康管理、能力開発)に問題意識を持っている、としている。
48 同書,87 ページ。
49 厚生労働省調査(2001),29 ページ。
50 厚生労働省調査(2001),7ページ。
51 在宅ワークの仕事の確保は必ずしも安定的ではなく、この点が在宅ワーカーの大きな問題点となっている。これは、需給調整シ ステムの未整備や発注が平準化されないことが大きな要因であるが、個人にとっても繁閑の差が大きいことと、受注する仕事量 の個人間の格差が大きくなっている。
52 厚生労働省調査(2001),42 ページ。
53 同書,23 ページ。
54 同書,29 ページ。
ても重視される点であることがうかがえる。特 に注目すべき点は、自己管理能力であり、非入力 系の方が総じて重視されており、自律的に仕事 を進めてもらうことが大きな前提となっている ことが考えられるとしている46。
以上のようなことから考えれば、事業者性と 労働者性の高さを大まかに整理すれば、具体的 なメルクマールとしては、仕事の種類(入力系・
非入力系)、取引する発注者の数、問題意識の違 い等で判断していくことが考えられる47。
5.3 事業者としてみた在宅ワーカーの特質
在宅ワークには、労働者的側面が強くなって いるとしても、一般の企業勤務者とは明らかに 異なる就業パターンを持ち、独立自営業者とし ての特質もあわせ持っている点に注意する必要 がある48。在宅ワークを始めた理由(複数回答)をみる と、「自分のペースで柔軟・弾力的に働けるため」
(48.3%)、「育児や介護等、家事と仕事の両立の ため」(44.8%)、「自分がやった分だけ報われ、働 き甲斐があるから」(30.9%)等が上位を占めて いる49。このように全体の傾向として、雇用関係 から独立して在宅ワークを始めるという自立心 を持ってというよりは、「家庭や個人の事情」に より在宅ワークを始めたとする者が多い。特に 女性の場合は、「家庭と仕事の両立」という動機 づけが強く働いており、そういった制約の中で、
時間的な柔軟性を前提にして、在宅ワークを就業 機会として選択したという点が最も重要である。
5.4 在宅ワーカーの抱える問題点
(1)仕事の確保の安定性
調査結果からは、発注業務の性格として(二つ 以内の複数回答)、「専門的業務への対応」(40.0
%)、「繁忙期への対応」(38.3%)が上位にあげ られている50。このことは、発注者側からみれば、
常に発生するものではない情報関連サービス分 野の専門的な業務を、必要な時に必要な量だけ こなしてもらうというシステムであり、それは 自分の得意分野の仕事を自分の生活パターンや 収入の必要性に応じて弾力的に引き受けるとい う意味で、在宅ワーカーにとってもメリットが ある。しかし同時に、在宅ワーカーの仕事の確保 状況をみると、「途切れる時がある」(45.3%)、あ るいは「ない時の方が多い」(10.1%)が過半数 を占め、仕事の確保の不安定さ51もつきまとう。
こうした仕事発注の部分性・断続性のなかで、
在宅ワークの問題点(複数回答)としては、それ に起因すると考えられる内容があげられている。
在宅ワーカー側は「仕事の確保」(53.3%)をトッ プにあげている52。一方、発注者側は「仕事成果 に個人差が大きい」(50.6%)のほか、「優秀な人 材の確保が難しい」(42.2%)、「必要なときに必 要な仕事量をやってもらえない」(34.4%)等が 上位を占めている53。在宅ワーカーにとって「仕 事の確保」は最も大きな課題である。今後の在宅 ワーク継続を「迷っている」「やめたい」場合の 理由としても「収入が少ない、不安定だから」
(78.6%)が大半で指摘されている。
(2)発注者と在宅ワーカーの思惑の乖離
厚生労働省(2001)では、在宅ワークを始めた 理由として「自分のペースで柔軟・弾力的に働け るため」(48.3%)をはじめ、「育児や介護等、家 事と仕事の両立のため」(44.8%)等の理由が上 位を占めている54。つまり、在宅ワーカー側から みた在宅ワークのメリットは、自律的な働き方
ができるという点に集約される。
その反面、発注者の立場からは、同調査による と、「仕事成果に個人差が大きい」(50.6%)のほ か、「優秀な人材の確保が難しい」(42.2%)、「必 要な時に必要な仕事量をやってもらえない」
(34.4%)、「納期が守られないことがある」(17.6
%)等が問題点としてあげられ55、両者の思惑は 必ずしも一致していない。
このように、在宅ワーカーとしては、時間面で の自律性が最大の魅力の一つになっているのに 対し、発注者にはその点が人材確保の点での不 安定要因と受け止められている。また、直接に進 捗管理ができないことで、納期が守られるかど うかへの不安を持つとともに、その出来栄えに ついても「個人差」や「優秀さ」によって質の違 いを余儀なくされるというリスクがあると述べ ている56。
(3)報酬の支払い等の問題
厚生労働省調査(2001)によれば、発注者に聞 いた在宅ワーカーとのトラブルは、「仕事の出来 具合」(72.3%)が最も多く、次いで「仕事の納 期」(53.6%)、「仕事の発注量、頻度」(26.8%)の 順となっており、「報酬の支払い」(21.4%)は比 較的少ない57。しかし、同じく在宅ワーカーに対 する調査結果では、依頼主(発注者等)とのトラ ブルで圧倒的に多いのは「報酬の支払い」に関す ることとなっている。次いで、「仕事の納期」、「依 頼される仕事の量」、「仕事の出来具合」となって おり58、発注者側と異なった側面を見せている。
契約方法は、厚生労働省調査(2001)によれば、
初回の契約方法が何らかの書面とするもの(「契 約書方式」22.2%、「伝票方式」15.0%、「メモ程 度」9.5%)は半数近くあるが、「口頭契約」も40.7
%に及んでいる。また、二回目以降は、「口頭契 約」が半数を超え、また「電子メール」も増えて おり59、簡便化していることがうかがえる。
また、発注が突然打ち切られるということも トラブルの原因になるが、打ち切りの事前予告 を行っていない企業は少なくない。こうした契
約の実態が不安定な就労条件となっていく恐れ もある。
報酬の決め方については、在宅ワークは請負 形態であるため、「出来高払い」とする場合が8 割近くと多いが、単価設定の主導権は発注者側 が持っているのが通例とされている。
厚生労働省調査(2001)によれば、年収・年商の 概算は男性では高所得層に、女性では低所得層 にピークが存在しており、大きな格差が開いて いる。報酬面だけでみるかぎり、男性の在宅ワー カーに比べて女性の方が内職アルバイト的な位 置づけで就業している者が多いと推察される。
このことが事業者としての意識や行動の面にも 影響を与えているものと考えられるが、こうし た副業的な就業を志向する者の多くは、報酬よ りも時間、あるいは自宅で働けること自体に強 いインセンティブを感じていると考えられると している。
(4)従業員福祉の問題
在宅ワーカーには、年次有給休暇をはじめと した各種の休暇制度がなく、一般従業員に比べ て処遇が大きく異なる60。在宅ワーカーにとっ て、病気や怪我等で就業中断を余儀なくされた 場合、仕事の穴埋め等をどのように対処してい くかどうかという問題が浮上してくる。また、復 帰後に仕事が継続する保障がないことや好条件 の仕事を得るチャンスを逃すという意味での損 失、万が一失業した場合、雇用保険の適用がない 者がほとんどであることから、失業中の生活保 障が問題となる61。
6.政策ニーズと支援政策課題 6.1 政策課題
日本労働研究機構(2003)では、以下の8点を 政策課題としてあげている。
①事業の安定的確保とその受注の安定化を図る
55 同書,23 ページ。
56 日本労働研究機構(2003),前掲書,88 − 89 ページ。
57 厚生労働省調査(2001),24 ページ。
58 同書,41 ページ。
59 同書,13 ページ。
60 病気や負傷した時など、突発的な事由で就業中断しなければならない場合、代わりを務めてくれる者がいないことに問題点があ る。
61 日本労働研究機構(2003),前掲書,105 ページ。
62 労働省『在宅就労問題研究会報告書』2000 年3月を参照。
63 日本労働研究機構(2003),前掲書,103 ページ。
こと。
②契約内容の明確化とその社会的な妥当性、取 引の安全を確保していくこと。
③事業の実施に伴って生じたトラブルの処理や リスクの負担。
④運営資金の確保や施設設備を増強するための 資金確保など金融面の対応。
⑤在宅ワーカーの能力開発やスキルアップを図 り、事業成果の質の向上と受注獲得力を高め ること。
⑥就業時間の適正化と休日の確保。
⑦健康管理や日常的な作業安全。
⑧老後生活等、将来的な生活の設計や失業や疾 病等、生活上の諸問題への対処
また、「E ラーニングシステムの充実」を新た に政策課題として提案したい。
6.2 契約内容の明確化
在宅ワークの安定化のためには需給の調整に 加えて、在宅ワーカーと発注者との関係が「業務 請負契約」であることを踏まえて、両者間の契約 を明確な形にしていく必要がある。
在宅ワークを安心して行うためには、まず報酬 額、納期等の契約内容を明確にしておく必要が ある。具体的には、以下の五つの課題に対応して いくことが求められるとされている62。
①契約締結時に、報酬額、その支払時期・方法、
納期等契約の基本的な内容が明示されていな いことが多い。
②継続的な契約関係の一方的打ち切り、長時間 就労が必要となる無理な納期設定など、在宅 ワーカー側が一方的に不利となる契約内容の 事案が少なくない。
③報酬が必ずしも当事者の交渉によらず、発注 者が決定することが多く、報酬の決定にあた り考慮されるべき要素についても社会的認識 の一致がない。
④ VDT 作業対策や腰痛防止対策等、健康管理対 策に取り組む発注者は少なく、就労時間に関 する指示や配慮もほとんど行われていない。
⑤在宅ワークに係る個人情報の不正使用やプラ イバシーの侵害等が生じやすい。
『在宅ワークの適正な実施のためのガイドライ ン』によると、発注者が守るべき事項のうち、契 約条件の文書明示及びその保存に関する事項と して、注文者は在宅ワーカーと在宅ワークの契 約を締結するときには、在宅ワーカーと協議の 上、在宅ワーカーに対して、以下にあげる①から
⑦の事項を明らかにした文書を交付すること。
ただし、契約関係が一定期間継続し、受発注が繰 り返されるような場合、各回の受発注に共通す る事項を包括的な契約とし、納期等各回の個別 の事項をその都度の契約内容として、それぞれ 明示することも可能であること、としている。
①注文者の氏名、所在地、連絡先
②注文年月日
③注文した仕事の内容
④報酬額、報酬の支払期日、支払方法
⑤注文した仕事にかかる諸経費の取扱い
⑥成果物の納期、納品先、納品方法
⑦成果物が不完全であった場合やその納入が遅 れた場合の取扱い(補修が求められる場合の 取扱いなど)
また、契約の条件の適正化に関する事項につ いては、報酬の支払、納期、継続的な注文の打切 りの場合における事前予告等があげられている。
6.3 能力開発・スキルアップ
在宅ワーカーは、能力開発を実施する機会が 少ないため、知識・技能を維持・向上させ、より 高度な職種へのステップアップを図ることが難 しくなっている。また、在宅ワークに関する能力 を評価できる客観的な基準がないため、在宅 ワーカーが自らの能力を対外的にアピールした り、発注者が在宅ワーカーの能力を確認したり することが難しくなっている。このことは、在宅 ワーカーがよりよい仕事を確保するチャンスを 得るうえで障害となるが、発注者にとっても優 秀な人材を安定的に確保していくことに困難を きたすものと考えられる63。このため、在宅ワー ク希望者が良質な仕事を確保するには、在宅 ワーカーの能力開発とスキルアップを積極的に 進めていくことが重要になってくる。とりわけ、
在宅ワークを始めたばかりの者に対しては、よ
64 厚生労働省調査(2001),45 ページ。
65 日本労働研究機構(2003),前掲書,103 ページ。
66 詳しくは、坂手康志『E ラーニング』東洋経済新報社,2000 年を参照。
67 堀(2003),前掲書,59-60 ページ。
68 日本労働研究機構(2003),前掲書,108-109 ページ。
り積極的な関与が必要になるであろう。
わが国では、セミナーが行政機関をはじめ、仲 介機関等、民間レベルでも実施されてきている。
また、さらに技能を向上させていくうえでは、個 人の能力開発の取り組みが重要であるが、厚生 労働省調査(2001)では、「書籍、雑誌、関連情 報などによる自己学習」が大部分で行われてい るという結果が出ている64。このように、自己学 習を支援する社会的な施策に対するニーズが強 いと考えられる。
一方で、自らの技能レベルを把握することが 能力開発にあたっての基本になるが、そうした 能力評価制度の整備を進めることが、在宅ワー カーの就業支援にもつながることになる。こう した考えの下、厚生労働省では在宅ワーカーの スキル診断システムを開発し、インターネット 上で自分の基礎的な職業能力を確認するととも に、必要な学習などの援助を行う体制を整備し ている65。
6.4 E ラーニングシステムの充実
在宅ワークの収入の安定と向上のためには、
仕事の成果を高めることが重要である。すなわ ち、能力開発に係る支援を積極的に進めていく ことが期待される。具体的には、知識・技能のレ ベルアップを図るための情報、教育研修の機会 等が積極的に提供されることが考えられる。と りわけ、在宅で学習できるような「E ラーニング システム」66の整備が有効であると考える。依然 として、仕事と家庭の両立を担うケースが多い 女性在宅ワーカーにとって、時間と場所の制約 を受けずに学習することができる E ラーニング システムは有効な教育システムといえるだろう。
堀(2003)では、中高年層に達しても、個々の ニーズに応じた IT 教育が享受できることや、こ れまで培ってきた経験をもとに、Eラーニングで 引き続き学んだ専門知識や高度なスキルを、後 輩や教育ニーズを持つ個々の在宅ワーカーに合 わせて IT 育成指導にあたることが可能になる、
と指摘している67。
7.おわりに
在宅ワーカーにとっての大きな問題の一つに、
「仕事の安定的確保」と「報酬の適正な支払い」が ある。この問題を解決していくためには、仕事の 需給マッチングの円滑化、適正な報酬単価決定 等、在宅ワーク市場を整備していくことの必要 性が求められる。日本労働研究機構(2003)では、
以下に示す検討すべき3つの課題を提示してい る68。
(1)各種の仕事(求人)情報のサーチエンジンへ のアクセスが一本化されるようなポータルの 整備と、職種名などこれらに用いる言語の共 通化が図られる必要性。一方で、在宅ワー カー(求職)側の応募様式(履歴書等)の統 一化。
(2)市場のルールの設定とその事後的監視という 問題。また、経験の浅い在宅ワーカー等、市 場において十分な活動ができる状態でない者 に対する援助やインフラストラクチュアとし て社会的に支援する体制を考える必要性。
(3)仲介機関の役割の重要性。仲介機関は、需給 のマッチング機能を持つだけでなく、発注先 の開拓や在宅ワーカーの発掘という点でも一 定の役割を果たすことが期待される。仲介機 関の持つ、在宅ワーカーに対する支援機能を 拡充し、在宅ワークの諸類型に即した展開が 図られるような誘導策を検討する必要性。
このように、今後の在宅ワークの健全な発展の ためには、在宅ワーク市場の整備が不可欠であ り、在宅ワークの社会的・経済的メリットを支持 しつつ、条件整備を進めていくことが必要であ る。
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