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博士学位論文審査報告書

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Academic year: 2021

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2015年 1月5日

博士学位論文審査報告書

大学名 早稲田大学

研究科名 スポーツ科学研究科 申請者氏名 谷澤薫平

学位の種類 博士(スポーツ科学)

論文題目 Effects of the interaction between physical exercise, genetic predisposition, and aging on cardiometabolic risk

心血管代謝リスクに及ぼす身体運動・遺伝素因・加齢の相互作用

論文審査員 主査 早稲田大学教授 樋口 満 教育学博士(東京大学)

副査 早稲田大学教授 坂本静男 医学博士(聖マリアンナ医科大学)

副査 早稲田大学教授 村岡 功 博士(医学)(東京医科大学)

副査 東京都健康長寿医療センター研究所 部長

田中雅嗣 医学博士(名古屋大学)

心血管代謝疾患の発症には、身体活動・食事などのライフスタイルや加齢のみならず、個々の 遺伝素因が強く関わっていることが明らかとされている。心血管代謝疾患の発症およびリスクフ ァクターに及ぼす、身体運動・加齢・遺伝要因のそれぞれの影響については一定の理解が得られ ているが、“心血管代謝疾患の遺伝的なリスクが高い者でも習慣的に運動を行い、体力を高めれ ば、心血管代謝疾患のリスクが弱まるかどうか”というような、これら要因の相互作用はほとん ど明らかとされていない。これらの相互作用を理解することにより、個々の遺伝素因を考慮した、

心血管代謝疾患予防のための効果的な運動処方の開発や、身体活動量・体力の目標値の提案に貢 献できる可能性がある。

本博士学位論文では、心血管代謝リスクに及ぼす身体運動・遺伝素因・加齢の相互作用を明ら かとするために、以下に示す3つの研究課題が精力的に実施された。

研究課題1では、冠動脈疾患のリスクファクターである血中脂質濃度に及ぼす遺伝素因の影響 が、心肺体力レベルにより異なるかどうかを明らかとするため、20〜79 歳の日本人男性 170 名 を対象とした横断的検討が行われた。心肺体力の指標として最大酸素摂取量を測定し、対象者を 低心肺体力群と高心肺体力群に分類された。これまでにゲノムワイド関連解析(GWAS)により 同定されている、血中の中性脂肪濃度と関連する一塩基多型(SNP)を9個、LDLコレステロー ル濃度と関連するSNPを5個、HDLコレステロール濃度と関連するSNPを7個分析し、各SNP におけるリスクアレルの保有数に基づき、各血中脂質指標に関する遺伝的リスクスコア(genetic

risk score::GRS)を算出し、個人の遺伝的リスクが評価された。そして、GRSの三分位に基づ

き被験者を、低・中・高GRS群に分類し、各群間で血中中性脂肪濃度が比較された。

低心肺体力群においては、中・高GRS群は低GRS群と比較して有意に高い血中中性脂肪濃度 を示したが、高心肺体力群においては、各GRS 群間で血中中性脂肪濃度に差は認められなかっ

(2)

た。一方、心肺体力レベルに関わらず、高GRS群は低 GRS 群と比較して有意に高い血中LDL コレステロール濃度を示した。GRS に関わらず、高心肺体力群は低心肺体力群と比較して高い 血中HDLコレステロール濃度を示したものの、低心肺体力群と高心肺体力群のいずれにおいて も、高GRS群は低GRS群と比較して有意に低い血中HDLコレステロール濃度を示した。

以上の結果から、高い心肺体力を保つことにより遺伝的な血中中性脂肪の上昇リスクは弱まる ことが示唆された。また、高い心肺体力を保つことにより遺伝素因に関わらずHDLコレステロ ール濃度を高められるが、遺伝素因とLDLコレステロール濃度およびHDLコレステロール濃度 との関連は心肺体力が高い者においても残ることが示唆された。

本研究はすでに以下に示す米国生理学会が出版する国際学術誌に原著論文として掲載されて いる。

Tanisawa K, Ito T, Sun X, Cao ZB, Sakamoto S, Tanaka M, Higuchi M: Polygenic risk for hypertriglyceridemia is attenuated in Japanese men with high fitness levels. Physiological Genomics 46(6):207-215, 2014.

研究課題2では、糖代謝指標に及ぼす遺伝素因の影響が、心肺体力レベルにより異なるかどう かを明らかとするため、20〜79歳の2型糖尿病に罹患していない日本人男性174名を対象とし た横断的検討が行われた。心肺体力の指標として最大酸素摂取量を測定し、対象者は低心肺体力 群と高心肺体力群に分類された。また、これまでのGWASで同定された2型糖尿病関連SNPを 11個分析し、2型糖尿病リスクに関するGRSが算出された。

低・中・高GRS群の間で、長期の血糖コントロールの指標であるヘモグロビンA1cと膵β細 胞機能の指標である HOMA-β を比較したところ、心肺体力レベルに関わらず、高 GRS 群は低 GRS群と比較して有意に高いヘモグロビンA1cと低いHOMA-βを示した。また、重回帰分析の 結果、GRSはヘモグロビンA1cと独立に関連していたが、心肺体力もまた、GRSとは独立にヘ モグロビンA1cと関連し、その関連性の強さはGRSとヘモグロビンA1cの関連性より強いこと が明らかとなった。

以上の結果から、2型糖尿病に罹患していない男性において、高い心肺体力を保つことにより、

遺伝素因に関わらずヘモグロビンA1cの上昇を抑制できるものの、2型糖尿病リスクに関する遺 伝素因とヘモグロビンA1c およびβ 細胞機能との関連は心肺体力が高い者においても残ること が示唆された。

本研究はすでに以下に示す国際学術誌に原著論文として掲載されている。

Tanisawa K, Ito T, Sun X, Ise R, Oshima S, Cao ZB, Sakamoto S, Tanaka M, Higuchi M:

High cardiorespiratory fitness can reduce glycated hemoglobin levels regardless of polygenic risk for Type 2 diabetes mellitus in nondiabetic Japanese men. Physiological Genomics 46(14):497-504, 2014.

研究課題3では、肥満に及ぼす遺伝素因の影響が、加齢により弱まるかどうかを明らかとする ため30〜64歳の日本人中年男性84名、65〜79歳の高齢男性97名を対象とした横断的検討が行 われた。これまでにGWASで同定された肥満関連SNPを10個分析し、肥満に関するGRSが算 出された。そして、低・中・高 GRS 群間で各肥満指標(BMI、腹囲、内臓脂肪面積、腹部皮下 脂肪面積および腹部総脂肪面積)が比較された。

その結果、中年男性においては、各肥満指標は低GRS群と比較して高GRS群で有意に高かっ たが、高齢男性においては、各GRS群間で各肥満指標に差は認められなかった。重回帰分析の

(3)

結果、中年男性においてはGRS が各肥満指標と最も強く関連していたが、高齢男性においては GRS ではなく高強度身体活動時間や脂質摂取エネルギー比率などがより強く各肥満指標と関連 していた。

以上の結果から、加齢により肥満関連遺伝子多型と肥満指標との関連は弱まり、身体活動量や 食事などのライフスタイルが肥満指標に及ぼす影響が強まることが示唆された。

本研究はすでに以下に示す国際学術誌に原著論文として掲載されている。

Tanisawa K, Ito T, Sun X, Ise R, Oshima S, Cao ZB, Sakamoto S, Tanaka M, Higuchi M: Strong influence of dietary intake and physical activity on body fatness in elderly Japanese men: age-associated loss of polygenic resistance against obesity. Genes and Nutrition 9(5):416, 2014.

以上3つの研究課題より、いくつかの心血管代謝リスクに及ぼす遺伝素因の影響は、高い心肺 体力を保つことや加齢により弱まることが示唆された。また、高い心肺体力を保つことにより、

遺伝素因の影響に関わらず好ましい心血管代謝プロファイルを獲得できる可能性が示唆された。

本博士学位論文における一連の精力的な研究は、健康スポーツ科学という新しい分野の進 展に大いに貢献できるものと期待される。

よって、谷澤薫平が申請した博士学位論文は、博士(スポーツ科学)の学位を授与するに 十分値するものと認める。

以 上

参照

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