〈論 文〉
関係的経験価値(RELATE)に着目した経験価値分析
-消費者が求める「繋がり感」の本質-
長 沢 伸 也1 大 津 真 一2
A Study on Marketing Communications for Experiential Marketing
─ The essence of 'sense of connection' demanded by consumers ─
NAGASAWA, Shin’ya OTSU, Shinichi
Abstract
Experiential marketing, which attracts attention in recent years, classifies experience values into five modules (Strategic Experience Modules). The relational customer experience (hereinafter RELATE) in this is the experience that consumers relate themselves to ideal images, other people, specific groups, specific cultures. In this paper, we tried to classify the value of RELATE, which was not necessarily clear as compared with the other four modules. Specifically, we examine RELATE from the viewpoint of consumer behavior theory and brand theory and from the analysis of the applicable cases. We classified them into three types: 1) unilateral identification, 2) bidirectional equality, 3) external recognition. The three types of RELATE presented in this paper helps understanding when marketers create RELATEs.
要 約
近年注目されている経験価値マーケティングは、経験価値を 5 つのモジュール(経験価値モ ジュール)に分類している。この中の関係的経験価値(RELATE)とは、消費者が自分を理 想像、他の人、特定のグループ、特定の文化と関連付ける経験のことである。本論文では、他 の 4 つのモジュールに比べると必ずしも明確ではなかった関係的経験価値(RELATE)につ いて、その価値の類型化を試みた。具体的には、関係的経験価値(RELATE)を消費者行動 論とブランド論の立場から検証し、該当する事例の分析から 1 )一方的同一視、 2 )双方向同 一視、 3 )外部認知グループ、の 3 つのタイプへの類型化を行った。本論文で示された関係的
早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター 早稲田国際経営研究
No.5₀(₂₀₁₉)pp.15-26
1 早稲田大学大学院経営管理研究科・商学研究科 教授
2 早稲田大学大学院アジア太平洋研究科 国際経営学専攻 修了(現、日本アイ・ビー・エム)
経験価値(RELATE) 3 つのタイプは、マーケターが関係的経験価値(RELATE)を創り込 む際の理解の助けになる。
1 .はじめに
1.1.問題の背景
「経験価値」とは、過去に起こった個人の経験や体験のことを指すのではなく、顧客が企業やブラン ドとの接点において、実際に肌で何かを感じたり、感動したりすることにより、顧客の感性や感覚に訴 えかける価値のことである(長沢2005)。
経験価値の企業事例については、早稲田大学ビジネススクール長沢研究室において継続的に研究が行わ れている(Nagasawa and Otsu 2015a, 2015b, 長沢2005, 2006, 2007, 2009、長沢・染谷2007、長沢・大津 2008, 2010、長沢・石川2010、大津・長沢2012, 2013、長沢・小宮2015、長沢・西村2015、長沢・坂東2019)。
原義的に立ち返れば、経験価値とは価値ある経験のことである。経験価値を提唱したシュミットは Experiences を以下のように説明している。
Experiences are private events that occur in response to some stimulation (e.g., as provided by marketing efforts before and after purchase). [経験価値とは、何かの刺激(例えば、購入前後のマー ケティング・エフォートにより提供されるもの)に対する反応として起こる個人的な出来事である]
(Schmitt 1999, p.60)
つ ま り、Experiences と は、 個 人 的 な 出 来 事(private events) で あ る と 述 べ て い る。 こ の Experiences の日本語訳が「経験価値」である。原語では、価値に相当する単語は含まれていないが、
経験自体に価値があるというニュアンスを表現するために日本語では「経験価値」という訳が当てられ ている。このような経緯から、「経験価値」は「価値ある経験」と理解するとわかりやすい。また「心 地よい経験」と言い換えることもできる。
シュミットは、認知科学の概念を基に、経験価は幾つかのタイプに類型化できるとしており、表 1 に 示すような 5 つの戦略的経験価値モジュール(Strategic Experiential Modules: SEM)に分類した
(Schmitt 1999)。
表 1 シュミットの戦略的経験価値モジュール
分類 経験価値の内容
SENSE (Sensory) 五感に働き掛ける感覚的経験価値 FEEL (Emotional) 感情や気分に働き掛ける情緒的経験価値 THINK (Cognitive) 創造性や認知に働き掛ける知的経験価値
ACT (Behavioral) 肉体的経験価値とライフスタイル全般に働き掛ける行動的経験価値 RELATE (Relational) 準拠集団や文化との関連付けに働き掛ける関係的経験価値
出所:シュミット、B.H.(嶋村和恵他訳):経験価値マーケティング、ダイヤモンド社、2000, pp.92-98を基に筆者作成
これら 5 つの戦略的経験価値モジュール(SEM)の中で、感覚的経験価値(SENSE)、情緒的経験価 値(FEEL)、知的経験価値(THINK)は比較的容易に理解されるのに対して、行動的経験価値(ACT)
と関係的経験価値(RELATE)は理解しにくく、まして行動的経験価値(ACT)と関係的経験価値
(RELATE)がどうやって創り込むことができるのかという点については、十分には明確になっていな い(長沢2007)。
また、競争環境における経験価値を考えた場合、競争優位となる経験価値、つまり模倣困難な経験価 値をどうやって創り出せるのかという課題もある。
1.2.本論文の目的とアプローチ
上述のような問題背景を受けて、前報(長沢・大津2010)では行動的経験価値(ACT)について検 討した。そこで本論文は、シュミットが提案した 5 つの戦略的経験価値モジュール(SEM)の内の関 係的経験価値(RELATE)について、これまで必ずしも明確ではなかったその価値の内容を明らかに しようとするものである。
まず、関係的経験価値(RELATE)について、関連する行動的経験価値(ACT)とともに再定義を 行い、消費者行動論およびブランド論からの検証を行う。そして、関係的経験価値(RELATE)の事 例を分析・分類することによって関係的経験価値(RELATE)自体の類型化を試みる。
2 .関係的経験価値(RELATE)に関する理論研究
2.1.関係的経験価値(RELATE)とは
関係的経験価値(RELATE)とは、消費者が自分を理想像、他の人、特定のグループ、特定の文化 と関連付ける経験のことである(シュミット2002)。消費者にとっては、これらの対象に自分を関連付 ける経験が心地良いのである。
図 1 は、関連付けのイメージを図示したものである。
図 1 消費者と関連付け対象のイメージ(筆者作成)
理想像
グループ
他の人
文化
(自分) 消費者
(1) 理想像:理想像との関連付けとは、例えば、ティーンエイジャーが自分もそうなりたいとアイドル やモデルに憧れることである。あるいは、大人でも、理想のライフスタイルを実践している人や、
ビジネスで成功している人に憧れるケースがある。ベンチャービジネス起業家で成功者は、一時期、
学生の憧れであったし、さまざまな趣味の世界でも「カリスマ」と呼ばれるような憧れの対象がそ れぞれ存在する。
(2) 他の人:他の人との関連付けとは、文字通り他の人との 1 対 1 の関係である。友達や家族・恋人、
同僚・同期・クラスメイト、先輩・後輩、師匠・弟子、ライバル・戦友など、人の関係を示す言葉 の数だけ種類が存在し、またその経験が存在するといえる。古くはアリストテレスが「人間は社会 的動物である」とも述べたように、他人と関係を持つことは人間の根源的な欲求に近いと考えられ る。
(3) 特定のグループ:特定のグループとの関連付けも、非常に多く存在する。学会に所属するというこ ともそうであるし、会社や学校に所属する、サークルに所属するということもグループとの関連付 けである。実際に所属していなくても、「BMW を買ったので富裕層の仲間入りができた」とか、「京 都の一力でお茶屋さん遊びをしたので、これで京都通(ツウ)だ」とかいうような、いわゆる仮想 グループへの所属意識もグループとの関連付けといえる。
(4) 特定の文化:特定の文化と関連付けるケースでは、例えば海外旅行がまだ一般的ではなかった高度 成長期の日本におけるマクドナルドが挙げられる。欧米の文化への憧れが強かった当時、マクドナ ルドはアメリカ文化の象徴でもあり、マクドナルドを利用することは、アメリカ文化と自分を関連 付ける意味もあったのである。現在でも、京都文化であったりパリの文化であったりと、人々が魅 力を感じ、興味を持っている文化が存在する。また地元の文化を愛する地元意識・地域意識も、文
化との関連付けの一つであると解釈できる。さらに、企業視点で見ると、WACOAL DIA のケー ス(長沢2007, pp.100-101)のようにフラッグシップショップ(旗艦店)を銀座 7 丁目の並木通り(現 在は銀座 6 丁目の西五番街)に置くことも、消費者の銀座という特定の文化との関連付け欲求に訴 求しているといえる。
2.2.顧客接点のマネジメントとの違い
関係的経験価値(RELATE)とは、顧客接点のマネジメントのことではない。しかし、言葉の持つ イメージから、売り手と買い手の関係性に関連すると解釈されることがある。例えば、リレーションシッ プ・マーケティング(関係性マーケティング)と混同されることがある。
リレーションシップ・マーケティングの目的は、顧客、供給業者、流通業者といった重要なグループ との間に、長期間にわたってお互いに満足のいく関係を築くことである(コトラー2002, p.10)。しかし、
関係的経験価値(RELATE)についてのシュミットの主張はそれとは異なり、買い手とリファレンス(理 想像、他の人、特定のグループ、特定の文化)との関連性を扱っている。この点が、関係的経験価値
(RELATE)とリレーションシップ・マーケティングとの違いである。
2.3.行動的経験価値(ACT)
関係的経験価値(RELATE)と関連する行動的経験価値(ACT)についても確認しておく。シュミッ トも、感覚的経験価値(SENSE)/情緒的経験価値(FEEL)/知的経験価値(THINK)を個人的な 経験価値、行動的経験価値(ACT)/関係的経験価値(RELATE)を共有された社会文化的な価値と 呼び、区別している(シュミット2000, pp.264-265)。
行動的経験価値(ACT)は、今までとは違うライフスタイルにより消費者の経験が豊かになる経験 のことである(シュミット2000, pp.96-97)。ライフスタイルは、他の人の目に触れるものであり、消費 者は自分たちのライフスタイル行動を使って自己イメージと価値観を示している。
2.4.消費者行動論からの検証
消費者行動論から、関係的経験価値(RELATE)/行動的経験価値(ACT)を説明することができる。
消費者行動論において、ライフスタイルとは、個人の価値観とパーソナリティを明示する具体的な行 動と説明されている(平久保2005, p.34)。また、準拠集団(Reference Group)は、個人が態度や価値 観を形成する拠り所となる、あるいは自分の態度や価値観、行動と照らし合わせてみるグループのこと と説明されている(平久保2005, pp.185-189)。さらに、消費者行動論ではセルフイメージという概念が あり、消費は理想の自分に近づくために購買をし、他人の目に映るセルフイメージも消費者にとっては 大切であると説明されている(平久保2005, pp.55-59)。
これらを経験価値の点から分析すると、消費者の購買理由の一つにセルフイメージの実現欲求があり、
そのセルフイメージ実現手段が、行動的経験価値(ACT)の概念の基本となる「ライフスタイル」と、
関係的経験価値(RELATE)の本質である「準拠集団」であると解釈できる。
以上のように、消費者行動論のセルフイメージ概念によって、関係的経験価値(RELATE)/行動 的経験価値(ACT)を説明することができる。
2.5.ブランド論からの検証:情緒的便益
ブランド論からも、関係的経験価値(RELATE)/行動的経験価値(ACT)を説明することができる。
タイボーらは、ブランドの提供する便益には、機能的便益と情緒的便益とがあり、情緒的便益の中に は「自己実現や自分の成長」や「他者との関係」が含まれると述べている(タイボー- 他2006, pp.22- 24)。「自己実現や自分の成長」の例としてスターバックスを、また「他者との関係」の例としてハーレー ダヴィッドソンを挙げて、それぞれ以下のように述べている。
自分の好みに応じて注文した一杯のラテを、座り心地の良いソファーで、BGM のジャズを聴きなが ら飲むひとときに価値を見出している。彼らにとって自分へのご褒美であり自分のライフスタイルの一 部なのだ。
ハーレーダヴィッドソンは、顧客を「ワイルドで逞しい、自立した男」であり、ハーレーオーナーズ クラブのような仲間たちとの出会いの場を楽しむ人たちだと規定している(タイボー- 他2006, p.23)。
これらを経験価値の点から分析すると、スターバックスで珈琲を飲むライフスタイルは行動的経験価 値(ACT)であり、ハーレーダヴィッドソンのオーナーズクラブでの仲間との繋がりは関係的経験価 値(RELATE)に相当する。
以上のように、関係的経験価値(RELATE)/行動的経験価値(ACT)は、ブランドが提供する情 緒的便益に該当すると説明することができる。
3 .関係的経験価値(RELATE)の類型化と事例
前章では、関係的経験価値(RELATE)/行動的経験価値(ACT)について定義を確認し、消費者 行動論およびブランド論から説明した。
続いて本章では、関係的経験価値(RELATE)の具体性を高めるため、事例を分析した結果から表 2 に示すような「一方的同一視(One-way overlap)」、「双方向同一視(Sympathy)」、および「外部認 知グループ(Symbol Group)」の 3 つのタイプに類型化することを提案する。
表 2 関係的経験価値(RELATE)の類型化: 3 つのタイプ
類型 内容
タイプ 1 一方的同一視(One-way overlap)
タイプ 2 双方向同一視(Sympathy)
タイプ 3 外部認知グループ(Symbol Group)
出所:筆者作成
3.1.関係的経験価値(RELATE)のタイプ 1 :一方的同一視
関係的経験価値(RELATE)の 3 つのタイプのうち、タイプ 1:一方的同一視(One-way overlap)は、
消費者が特定の対象に対して自分を一方的に同一視することである。一方的という意味は、対象からは 消費者を同一視していないということである。図示すると図 2 のようになる。
図 2 関係的経験価値(RELATE)のタイプ 1 :一方的同一視(One-way overlap)(筆者作成)
消費者 対象
(自分)
栗原はるみ 高倉健 安室奈美恵 主婦
中高年男性 若い女性
一方的同一視の具体的感情としては、憧れ・共感・同情・代理・代弁などがある。
シュミットが取り上げているカリスマ主婦「マーサ・スチュアート」の事例は、日本で言えば「栗原 ひとみ」に相当する存在で、主婦の一方的同一視「憧れ」となっている。片付けコンサルタントの「コ ンマリ(近藤麻理恵)」、中高年男性における「高倉健」やパンツェネッタ・ジローラモに代表される「チョ イ不良(ワル)おやじ」、若い女性における「安室奈美恵」なども憧れのケースといえる。カリスマに よるノウハウ書を読んで実践したり、東映ヤクザ映画主演の高倉健のように肩で風を切って歩いたり、
安室奈美恵のファッションを取り入れたりするなど、消費者が「彼、彼女のようになりたい」と思い、
部分的であっても取り入れたり真似をする対象に、この価値がある。
また、一時期の阪神タイガース球団のようになかなか勝てないチームを応援するのもこれに当たる。
阪神タイガース球団は、セントラル・リーグでは唯一関西に本拠地をおく球団であり、関西圏において 圧倒的な人気を誇る。その一方で、球団内の内紛が多く、リーグ優勝や日本一となったこともあるにも かかわらず、なかなか本来の力を発揮できないので、熱心なファンは「贔屓の引き倒し」的に苛立ちな がらも応援を続ける。また、時代劇や映画などでの斬られ役専門俳優で「 5 万回斬られた男」「代表作 なし」という福本清三に共感したりするのもこれに当たる。たとえ陽が当たらなくても、真面目にコツ コツと働いている下積みや裏方の人を「いつかは評価される」といって、なかなか上手くいかない自分 の人生と重ね合わせることは、憧れとはまた違う判官贔屓的な「同情」や「共感」による一方的同一視 である。
自分ができないことを代わりに実行してもらうことも、「代理」や「代弁」による一方的同一視のケー スである。「007ジェームズ・ボンド」のように知力・体力と秘密兵器を駆使して悪者をやっつけ、かつ
女性にもてる映画のヒーローは、その典型である。また、日本人初のノーベル賞受賞者「湯川秀樹博士」、
外国人プロレスラーを空手チョップで薙ぎ倒していった「力道山」、日本人野球選手が本場のアメリカ 大リーグで通用することを示した「野茂英雄」や「イチロー」、クラシック界の「小澤征爾」、ファッショ ン界の「森英恵(ハナエモリ[HANAE MORI])」、「川久保玲(コム・デ・ギャルソン[COMME des GARÇONS])」、「山本耀司(ヨウジヤマモト[Yohji Yamamoto])」なども、日本・日本人における一 方的同一視のケースといえる。
3.2.関係的経験価値(RELATE)のタイプ 2 :双方向同一視
関係的経験価値(RELATE)の 3 つのタイプのうち、タイプ 2 :双方向同一視(Sympathy)は、消 費者が特定の対象に対し自分を同一視し、かつ対象も自分を同一視していることである。図 3 のように 双方向的関係であることが、タイプ 1 とは異なる点である。
図 3 関係的経験価値(RELATE)のタイプ 2 :双方向同一視(Sympathy)(筆者作成)
消費者 対象
(自分)
旅の仲間 X系スポーツ愛好者
新潟人 クラブツーリズム参加者
X-TRAILオーナー アルビレックスファン
この関係では、仲間であることの心地良さを求め、仲間同士の連帯感が第一の価値観であり、外部か らどのように見られるかにはそれほど関心がない。
例えば、「仲間旅」をコンセプトとするクラブツーリズム、友人との繋がりを可視化したフェイスブッ クなどの SNS、X 系スポーツ(スノーボード、サーフィン、マウンテンバイクなどの野外スポーツ)
愛好者という仲間感を持たせた日産 X-TRAIL、地元密着のサッカーチームであるアルビレックス新潟 などの事例が該当する。
クラブツーリズムは、そのロゴそのものに「仲間が広がる、旅が深まる」というフレーズを入れてい るように、仲間との旅であることを価値の中心にしている。日産 X-TRAIL も「Join the X-TRAIL」「Join the X-session」といった「Join」をキーワードにしたプロモーションを展開しており、「Join =仲間に なる」という点を強調して消費者に訴求している(長沢2005, pp.136-165)。
クラブツーリズム、日産 X-TRAIL ともにタイプ 2 :双方向同一視の事例といえる。
3.3.関係的経験価値(RELATE)のタイプ 3 :外部認知グループ
関係的経験価値(RELATE)の 3 つのタイプのうち、タイプ 3 :外部認知グループ(Symbol Group)
は、タイプ 2 の連帯感を持ったグループやコミュニティー、あるいは社会的カテゴリーが、外部からも 認知されて、認知されることに価値が発生する場合である。図 4 に示す通り、消費者と対象の双方向関 係がさらに外部から認識される点が、タイプ 2 と異なる。
図 4 関係的経験価値(RELATE)のタイプ 3 :外部認知グループ(Symbol Group)(筆者作成)
消費者 対象
(自分)
認知 認知
外部
ハーレー仲間 ヒルズ仲間 ハーレーオーナー
ヒルズ入居者
双方向的関係
他の消費者、友達、
家族、ライバル
ここでの外部とは、消費者と対象がつくるグループの外側にいる消費者であり、ハーレーダヴィッド ソンの例でいえば、ハーレーに乗っていない消費者のことである。
このタイプ 3 は、外部からも一つのカテゴリーのメンバーとして認識されることが心地良く、そのた め価値がある。商品が、消費者のアイデンティティーを外部へ示すシンボルとなっているのである。
例えば、ポルシェ、ハーレーなどのブランドが該当する。あるいは、ヒルズ族、シロガネーゼなどの 社会的カテゴリーも外部からそう認知されることに価値があり、タイプ 3 に該当する。
4 .関係的経験価値(RELATE)の類型化に関する考察
以上、必ずしも明確ではなかった関係的経験価値(RELATE)について、 3 つの具体的なタイプへ の類型化を行った。
ここでは、それぞれの特徴と価値創造のポイントについて考察する。
なお、この 3 つのタイプは、どれが良いというものではなく、どれを目指すかという違いと捉えるこ とができる。マーケターにとっては、商品に対しどのような関係的経験価値(RELATE)を創り込む かを検討する際に、このタイプ分類を参考にすることができる。
4.1.関係的経験価値(RELATE)のタイプ 1 :一方的同一視
関係的経験価値(RELATE)の 3 つのタイプの内、タイプ 1:一方的同一視(One-way overlap)では、
その対象の魅力がどれだけ持続するかが関係的経験価値(RELATE)の持続性に繋がる。いわゆるア イドルは、一方的同一視の典型例ということができる。一人のアイドル(同一視の対象)の魅力が持続 すればそれだけ価値が続くが、魅力が持続しない場合、新しい魅力を持ったアイドルを次々と生み出し ていく、あるいはイメージチェンジを図るという戦略が考えられる。グループであれば、メンバーを入 れ替えるという戦略が考えられる。
4.2.関係的経験価値(RELATE)のタイプ 2 :双方向同一視
関係的経験価値(RELATE)の 3 つのタイプの内、タイプ 2 :双方向同一視(Sympathy)は、同じ 価値観を持った消費者を結び付けることにより、関係的経験価値(RELATE)を創り出す。タイプ 3 に比べて外部からの認証は必要ないため、比較的容易に創り出すことができる。
ここでのポイントは、同一視の軸となる価値観が、どれくらい共有・共感できるかにある。
日産 X-TRAIL のケースでは、商品と X 系スポーツの価値観を結び付けたことに関係的経験価値
(RELATE)創造のポイントがある。また、アルビレックス新潟という地域密着スポーツは、地元意識 という価値観の共有・共感を軸にしている。
4.3.関係的経験価値(RELATE)のタイプ 3 :外部認知グループ
関係的経験価値(RELATE)の 3 つのタイプの内、タイプ 3:外部認知グループ(Symbol Group)は、
そのグループ・カテゴリーが、社会的認知を受ける必要がある。価値のある社会的認知を創り出し維持 できれば、関係的経験価値(RELATE)も持続していく。ただし、認知をコントロールできず、社会 的認知がマイナスのイメージになってしまった場合、関係的経験価値(RELATE)も下がってしまう。
エルメス[Hermès]やルイヴィトン[Louis Vuitton]などのラグジュアリーブランドは、社会的認知 を維持している例といえる。トヨタによるレクサス[Lexus]ブランド導入時の苦戦は、販売店を一挙 に150店舗と拡大し過ぎたために、認知度自体は上がったものの、タイプ 3 のような社会的認知の価値 を構築できなかった例と分析することができる。
5 .まとめ
以上、本論文では、関係的経験価値(RELATE)について、理論面で検証を行い、事例から 3 つの 具体的なタイプへの類型化を試みた。
その結果、消費者行動論/ブランド論から、関係的経験価値(RELATE)の意味を説明することが
できた。また、関係的経験価値(RELATE)には、 1 )一方的同一視、 2 )双方向同一視、 3 )外部 認知グループ、の 3 つのタイプがあることが示唆された。この類型化によって、必ずしも明確ではなかっ た関係的経験価値(RELATE)の具体性を高めた点が新しいといえる。
また、今回示された関係的経験価値(RELATE)の 3 つのタイプは、マーケターが関係的経験価値
(RELATE)を創り込む際の理解の助けになると考えられる。
なお、本論文では、関係的経験価値(RELATE)がどのような経験価値プロバイダーから生み出さ れるのかという点、および、競争優位な経験価値とは何かという点までは踏み込むことができなかった。
これらの点については今後の課題としたい。
なお、本稿は、以下の学会発表を加筆修正したものである。
・大津真一・長沢伸也(2007):RELATE(関係的経験価値)に着目した経験価値分析─消費者が求 める”つながり感”の本質─、商品開発・管理学会第 8 回全国大会(平成19度春季)講演論文集、
pp.65-70, 商品開発・管理学会、2007.6.16
本稿は平成30年度日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(B)18H00908の補助を受けた。
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Schmitt, Bernd H. (1999), Experiential Marketing: How to Get Customers to Sense, Feel, Think, Act, and Relate to Your Company and Brands, Free Press(バーンド・H・シュミット(嶋村和恵、広瀬盛一共訳)(2000)『経験価 値マーケティング』ダイヤモンド社)
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青木幸弘、恩藏直人共編(2004)『製品・ブランド戦略─現代のマーケティング戦略〈 1 〉─』有斐閣
大津真一・長沢伸也(2007):RELATE(関係的経験価値)に着目した経験価値分析─消費者が求める”つながり感”
の本質─、商品開発・管理学会第 8 回全国大会(平成19度春季)講演論文集、pp.65-70, 商品開発・管理学会、
2007.6.16
大津真一・長沢伸也(2012):消費者の行動経験による差異化戦略─身体性認知(Embodied Cognition)と行動的 経験価値─、早稲田国際経営研究、42, 145-152
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長沢伸也編著、早稲田大学ビジネススクール長沢研究室共著(2006)『老舗ブランド企業の経験価値創造─顧客と の出会いのデザインマネジメント─』同友館
長沢伸也編著、早稲田大学ビジネススクール長沢研究室共著(2007)『経験価値ものづくり─ブランド価値とヒッ
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長沢伸也編著、早稲田大学ビジネススクール長沢研究室共著(2009)『地場・伝統産業のプレミアムブランド戦略
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平久保仲人(2005):『消費者行動論』ダイヤモンド社