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授受動詞文の獲得再訪 : コーパス分析

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Academic year: 2021

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(3) a.太郎が 花子に プレゼントを 買ってあげた。 b.太郎が 花子に プレゼントを 買ってくれた。 c.太郎が 花子に プレゼントを 買ってもらった。

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(4c)の「もらう」文は全く問題のない文である。1 これはつまり,先述 したように,「あげる」「くれる」文ではニ格名詞「花子」もヲ格名詞「荷 物」も V1と V2の共通の項であり,ガ格名詞「太郎」は V1と V2両方 の主語でもある一方,「もらう」文では「荷物」は V1のみの項であって V2の項ではなく,V1「持つ」の主語は「花子」,V2「もらう」の主語 は「太郎」である,というそれぞれの文の特性に起因していると思われる。 ここまで見てきた文法的特徴を踏まえると,(3)で示した授受動詞「あ げる」「くれる」「もらう」を V2とする complex benefactive のそれぞれ の統語構造は概略,以下の(5)および(6)のようなものであると考え る。2

どちらの構造においても,VP-internal hypothesis(Koopman & Spor-tiche 1991)に倣い,主語の「太郎」は VP の指定部に生起させている。

(5)「あげる/くれる」文の構造(V1=買う)

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3.子どもによる授受動詞文の獲得

前節では「あげる」「くれる」「もらう」を含む授受動詞文の意味的,構 造的特徴を見てきたが,本節では,これらの授受動詞文を子どもがどのよ うに発話したり解釈したりするのかという問いを追究した言語獲得に関す る3つの先行研究を概観する。 3.1 Uyeno et al.(1978) 子どもによる日本語の授受動詞文の獲得を調査した最初の実験研究はお そらく Uyeno et al.(1978)であろう。Uyeno et al.(1978)は,3∼6 才の子どもを対象として授受動詞「あげる」「くれる」「もらう」の獲得を 調査する3つの実験を行った。3つの実験の方法はそれぞれ,授受動詞を 含む刺激文と合致するものを4枚の絵の中から選択する sentence-picture matching task,実験者が発話した授受動詞文をそのまま繰り返す repetition task,刺激文の内容に合致する状況をぬいぐるみやおもちゃを用いて表す act-out task である。3つの実験の結果は概略次のようなものであった。 3才児はどの実験においても「あげる」「くれる」「もらう」の正答率は sim-ple benefactive であっても comsim-plex benefactive であっても,50%前後で あった。4∼6才児は「あげる」「くれる」文の理解は80∼90%の正答率 であるのに対し,「もらう」文の正答率は50%にとどまった。これらの実 験結果から Uyeno et al.(1978)は,授受動詞文の各名詞句の意味役割が 子どもの授受動詞文の理解に大きく関与しているとし,「もらう」文が「あ げる」「くれる」文よりも獲得が遅いのは,「もらう」文における主語が受 益者や着点の意味役割を持つのに対し,「あげる」「くれる」文では主語が 動作主や起点の意味役割を持つからであると結論付けた。つまり,Bever (1970)の Lexical ordering hypothesis4

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裏付けたと言える。しかし,それでも「もらう」文の理解は100%の正答 率にはならず,依然「もらう」文の難しさは残されたままである。また, Okabe(2005)では「くれる」文の獲得については扱っておらず,「あげ る」文や「もらう」文の獲得と比較するための実証的データは提供できて いない。

3.3 Ohba & Deen(to appear)

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の主語に置くことしかできないため,「くれる」文の獲得が遅れるが,6 才頃までにはそれも獲得されると結論付けている。

この結果は Uyeno et al.(1978)や Okabe(2005)とは異なるものであ るが,実験方法も刺激文として用いた授受動詞文も異なるため単純に比較 することはできない。しかし,もし Ohba & Deen(to appear)で「くれ る」文を解釈できなかった子どもが「話者の視点」の獲得が未発達であっ たのではなく,「くれる」を「あげる」と混同し間違って解釈していたと 考えると,この研究の実験結果も説明でき,Uyeno et al.(1978)による 「あげる」と「くれる」の混同という報告とも合致すると言える。

4.授受動詞文獲得に関するコーパス分析

前節では,これまで授受動詞文の獲得に関する先行研究を概観した。「あ げる」「くれる」「もらう」を含む授受動詞文のうち,「もらう」文の獲得 が遅いとする研究がある一方,「くれる」文の獲得が遅れるとする実験結 果も報告されており,授受動詞文のどの要素がこれらの動詞の獲得時期に 影響を与えているのかは未解決である。また,子どもの発話の中で実際に これらの授受動詞がどのように使われているのか,どのような時期に「あ げる」と「くれる」の混同が起こるのか等,包括的な自然発話の研究は乏 しい。

そこで,本節では CHILDES(Child Language Data Exchange System) (MacWhinney 2000)に収録されているデータから5人の子ども(Aki, Ryo,

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表1:CHILDES コーパス 子ども データ収録元 収録年齢 発話文数 Aki Ryo Tai Asato Nanami Miyaga(2004a) Miyata(2004b) Miyata(2004c)

Miyata & Nisisawa(2009) Nisisawa & Miyata(2009)

1;5―3;0 1;4―3;0 1;5―3;1 1;1―5;0 1;1―5;0 14,553 11,241 33,336 30,557 27,416 4.1 分析方法 本研究では,CHILDES に収められている以下の5人の子どもの発話を 分析の対象とした。それぞれの子どものコーパスデータに関する情報は表 1の通りである。6 CHILDES には他にも日本語児の発話データは収められているが,上記の 5人のデータはその収録の頻度が高く,したがって総収録時間も長く,発 話文数が分析に十分であることから,分析対象として選んだ。

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表2:simple / complex benefactive の発話数

あげる くれる もらう

simple complex simple complex simple complex

Aki(1;5―3;0) 10 0 1 0 0 0 Ryo(1;4―3;0) 8 4 3 9 14 1 Tai(1;5―3;1) 34 52 1 23 21 8 Asato(1;1―5;0) 24 26 1 25 10 7 Nanami(1;1―5;0) 29 52 1 27 13 6 獲得し発話したのか,さらに5人の子どもに共通する特徴や傾向は何かを 順に見ていく。 まず,「あげる」「くれる」「もらう」を含んだ発話文の数を,子ども毎 に simple benefactive(授受動詞を主動詞として用いた場合)と complex benefactive(V1‐て V2(授受動詞)の形を取る場合)に分けて示したの が表2である。

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表3:「依頼/命令」を表す complex「くれる」文の割合

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に替えると,容認可能な文となる。 (i)a.太郎が 花子のために 荷物を 持ってあげた。 b.太郎が 花子のために 荷物を 持ってくれた。 これは,「花子のために」がもはや「持つ」が要求する項ではなくなるからであると 考えられる。長谷川(2000)は,「NP のために」が生起する位置が「NP に」よりも 構造上高い位置であると想定することで説明している。 2 ここでは,「あげる」文と「くれる」文は,「話者の視点」という観点のみ異なるが 共通の統語構造を持っていると考え,(5)としてまとめて示している。

3 Hoshi(2000)ではさらに「もらう」文を2種類(direct benefactive と indirect bene-factive)に分けて分析を試みているが,本稿ではその区別にまで踏み込まないため,2 つに共通する統語構造を簡略化して用いている。

4 Bever(1970)は,英語話者は通常 NP-V-NP という語の並び対して,Actor-Action-Actee という意味役割を与える傾向が強いことを主張し,Slobin & Bever(1982)で は英語児に限らず他の言語を獲得中の子どももこの方略に従って文を解釈しようとす ることを指摘した。また,鈴木(1977)は「かき混ぜ文」の獲得について,日本語児 もこの方略に従うことを報告している。

5 Truth-value judgment task では,まず被験者に絵や動画等を用いて短いストーリー を見せる。その後にパペット等によって発話される刺激文がそのストーリーで語られ た内容に合致しているか否かを子どもに判断させる,という方法である。子どもは合っ ているか違っているかを答えれば良く,当該の構文の理解を検証するには有効な実験 手法であると考えられている。 6 表の中で(1;5)など,(x;y)と表記されているものは,子どもの年齢を表し,x 才 y ヶ月であることを意味する。これ以降も子どもの年齢はこのように表記する。 7 括弧内の数字は各発話時点での子どもの年齢を示しており,その後ろの括弧内には それぞれの発話で子どもが意図していたと判断される意味を示してある。以下(11) まで同様である。 引用文献

Bever, T.(1970)The cognitive basis for linguistic structures. In J. R.

Hayes(ed.)Cogni-tion and the Development of Language. New York: John Wiley, 279―362.

Crain, S. & C. McKee(1986)The acquisition of structural restrictions on anaphora.

NELS 16, 94―110.

Harley, H.(2008)On the causative construction. In S. Miyagawa & Saito, M.(eds.)The

Oxford Handbook of Japanese Linguistics. Oxford: Oxford University Press, 20―53. 長谷川信子(2000)「一致現象としての授動詞と謙譲語」井上和子(編)『COE 形成基

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and excorporation. Keio Studies in Theoretical Linguistics II, 19―72.

Koopman, H. & D. Sportiche(1991)The position of subjects. Lingua 85, 211―258. MacWhinney, B.(2000)The CHILDES Project: Tools for Analyzing Talk. Mahwah, NJ:

Lawrence Erlbaum.

Miyata, S.(2004a)Japanese: Aki Corpus. Pittsburgh, PA.: TalkBank. Miyata, S.(2004b)Japanese: Ryo Corpus. Pittsburgh, PA.: TalkBank. Miyata, S.(2004c)Japanese: Tai Corpus. Pittsburgh, PA.: TalkBank.

Miyata, S. & H. Y. Nisisawa(2009)Japanese: MiiPro-Asato Corpus. Pittsburgh, PA: Talk-Bank.

Nisisawa, H. Y. & S. Miyata(2009)Japanese: MiiPro-Nanami Corpus. Pittsburgh, PA: TalkBank.

Ohba A. & K. Deen(to appear)Children’s acquisition of perspective-taking benefactive verbs in Japanese. Poster to be presented at the 44th Boston University Conference on Language Development.

Okabe, R.(2005)Children’s acquisition of benefactives and passives in Japanese. The

Proceedings of the 29th Boston University Conference on Language Development, 436― 447.

Sawasaki, K. & M. Nakayama(2001)Remarks on Japanese benefactive V-te moraw con-structions. Gengo Kenkyuu[Language Research]17―2, 285―314.

Slobin, D. & T. Bever(1982)Children use canonical sentence schemas: a crosslinguistic study of word order and inflections. Cognition 12, 229―265.

鈴木情一(1977)「日本語の幼児における語順方略」『教育心理学研究』25巻3号,56― 61.

Uyeno, T., S. I. Harada, H. Hayashibe, & H. Yamada(1978)Comprehension of sen-tences with giving and receiving verbs in Japanese children. Ann. Bull. Research

Insti-tute of Logopedics and Phoniatrics12, 167―185.

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表 B:Ryo 年齢 あげる くれる もらう 2 ; 1 あげた もらったよ/もらった 2 ; 3 ※パパがりょうくんにあげる? 2 ; 4 りょうくん,あげるわ 2 ; 5 コーラあげる/あげた お姉ちゃんあげた ママくれた/お姉ちゃんくれたゆかりちゃんくれた ママにもらったから もらった?/もらってない? 2 ; 7 サンタクロースにもらった? 2 ; 8 シールあげるよ りょうくんが抱っこしてあげる パパ直してくれるって ミッキー抱っこしてくれた こうやって抱っこしてくれた ミッキー抱っこしてくれるっ
表 D:Asato 年齢 あげる くれる もらう 1 ; 9 あげる 1 ; 1 0 トトロあげる 2 ; 0 もらったの 2 ; 3 お団子作ってあげよう 2 ; 4 あげるよ 2 ; 5 取ってあげる/開けてあげる 蝶々にあげたの 付いてくれないよ※書いてくれる 2 ; 6 削ってあげる 2 ; 7 教えてあげる こっち連結してくれるんだよ 押してくれって/押してくれる やっつけてくれるんだよ かっかの電車ももらってきた 2 ; 8 ※かっかに貸してくれる きっと消防車来てくれるから あさとくんにも作っ

参照

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