売買契約解除後における不動産仲介業者の報酬請求 権
その他のタイトル Provisionsanspruch des Maklers bei Auflosung des provisionsauslosenden Vertrages im
japanischen Recht
著者 福瀧 博之
雑誌名 關西大學法學論集
巻 55
号 3
ページ 566‑618
発行年 2005‑09‑30
URL http://hdl.handle.net/10112/12064
るが
︵商
法五
四一
︱一
条︶
︑
一︑宅地建物取引業者︵不動産仲介業者︶は︑不動産取引︵宅地︑建物の売買︑交換または貸借︶の媒介を業とする︒
媒介とは︑他人間の法律行為の締結︵成立︶に尽力する事実行為のことであり︑宅地建物取引業者は︑依頼者のため にこの事実行為をすることを引受けるのである︒商法五
0二条︱一号に﹁仲立に関する行為﹂とあるのは︑このよう
な他人間の法律行為の媒介を引受ける行為をいうものに他ならず︑営業として﹁他人間の法律行為の媒介を引受ける
( 2 )
行為﹂は︑﹁仲立に関する行為﹂として商行為になる︒したがって︑宅地建物取引業者は商人となる︵商法四条一項︶︒
右にいう仲立に関する行為には︑媒介される法律行為が商行為である場合と商行為以外の法律行為︵たとえば︑居 住用不動産の売買周旋など︶である場合とがある︒商法は︑他人間の商行為の媒介を業とする者を仲立人といってい
一般に︑これを商法上の仲立人︵商事仲立人︶と呼んで︑商行為以外の法律行為の媒介を業 序
とする者︵民事仲立人︶と区別している︒宅地建物取引業者は︑その媒介の対象となる法律行為が商行為に限られな
福
瀧
博
之
売買契約解除後における不動産仲介業者の報酬請求権
四六
︵ 五
六 六
︶
なる
売買契約解除後における不動産仲介業者の報酬請求権
四七
︵ 五
六 七
︶
いから︑民事仲立人であると解されている︒宅地建物取引業者は商行為に限らない不動産取引の媒介を行なう民事仲 立人であって︑他人間の法律行為の媒介を業とするものとして商人に当たる︒
二︑さらに︑宅地建物取引業者と依頼者︵媒介行為の当事者︶との関係は︑非法律行為的事務の委託として準委任と
︵民法六五六条︶︒宅地建物取引業者に対する不動産取引の仲介または媒介の委託は準委任の性質を有する︒こ のことにも争いはない︒そうすると︑委任は原則として無償であり︑特約のあるときにのみ有償となりうるものであ るから︵民法六四八条一項︶︑受任者である宅地建物取引業者が報酬請求権を取得するためには︑特約のあることが 必要である︒もっとも︑ここで取り上げている宅地建物取引業者は︑前述のように商人であるから︑商法五ニ一条に
( 4 )
よって相当報酬の請求権があると解されている︒
しかし︑委任が受任者の責に帰すべからざる事由によって履行の途中で終了したときは︑受任者はすでにした履行 の割合に応じて報酬を請求しうるとする民法六四八条一二項︵委任の半途終了と割合報酬︶
の規定は︑宅地建物取引業
者の場合には適用がないと考えられている︒すなわち︑宅地建物取引業の場合には︑委任︵準委任︶といっても︑不 動産取引が成立しない場合には報酬が取れないのであり︑その意味においては︑宅地建物取引業者に対する委任︵準
委任︶には請負的な側面があるとされているのである︒
︱︱‑宅地建物取引業者は︑その媒介行為によって︑不動産取引︵売買︶の成立に尽力し︑売買契約の締結までの﹁世
話﹂をするものであり︑報酬請求権の発生には︑媒介した当事者間に売買契約が成立しなければならないと考えられ
( 6 )
ている︒前述のように︑判例通説は︑基本的に業者と媒介の依頓者との間の関係は︑非法律行為的事務の委託として 準委任であると解しているから︵民法六五六条︶︑そのことから考えても︑報酬を請求するためには売買契約の成立
第五五巻三号
︵民六四八条二項︶︒報酬請求権の発生に売買契約の成立を必要とする根拠として︑右のほか︑さ
らに商法五五0条一項の類推適用によるべきであるとするかどうかに関しては争いがある︒しかし︑依頼者と宅地建
物取引業者との間の契約︵媒介契約︶においては︑依頼者は︑﹁媒介の対象となった契約の成立に対して受任者であ
る業者に報酬を支払う義務を負う﹂とする結論には異論がないようである︒
問題は︑売買契約が成立した後に解消されるに至った場合の取扱である︒宅地建物取引業者が媒介した光買契約が
成立した後に︑解約手付による解除が行なわれ︑あるいは︑当事者の間︵売主と買主︶の合意によって解除され︵合
意解除︶︑または当事者の一方の債務不履行によって解除される場合︵債務不履行による解除︶などである︒いずれ
も宅地建物取引業者が媒介して不動産の売買契約を成立させたが︑契約が履行されなかった場合てあり︑このような
場合にも︑なお︑本来の報酬を請求できるのかどうか︑という問題である︒本稿においては︑この﹁売買契約解除後
における不動産仲介粟者の報酬請求権﹂という間題を取り上げ︑下級審の判例の検討を通して若干の考察を試みたい
と考
える
︒
( 1
)
宅地建物取引業とは︑宅地もしくは建物の売買もしくは交換︑または宅地もしくは建物の売買︑交換もしくは貨伯の代理
もしくは媒介をする行為を業として行なうことてある︵宅地建物取引業法︱一条二号︶︒したがって︑宅地建物取引業者︵宅地建物取引業法二条二言げ)は、自ら売買•交換を行なうこともあれば、代理業務を行ない、あるいは媒介業務を行なうこと
もある︒本稿は︑宅地建物取引業者の媒介行為に焦点を当てて者察を加えるものである︒(2)西原寛一・商行為法(有斐閣•昭和四八年〔こ版・増補〕〔初版、昭和こ五年〕)八四貞、二八七頁参照。(3)宇野栄一郎「宅地建物取引業者の報酬請求権」中川善之助
II
兼f
〗監修・遠藤浩編・不動産法大系第1
巻(売買)(青林書院新社・昭和四五年︶行F万頁以卜所収︑打打五頁以卜︒もっとも、西原•前掲書二八七頁は、宅地建物取引菜者に間して、このように差別する坪由は乏しいとして、「仲立営業 を要するといえる 関法
"
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売買契約解除後における不動産仲介業者の報酬請求権
四九
︵五
六九
︶
の規定も︑媒介行為たる性質そのものに重点がある以上︑これを宅地建物取引業の媒介行為に類推適用してよい﹂とされる︒(4)幾代通"広中俊雄編・新版注釈民法⑯(有斐閣•平成元年)―-五
0
頁〔明石三郎執筆〕参照。( 5
)
幾代通
1 1
広中俊雄編・新版注釈民法⑯二六0頁︹明石三郎執筆︺および遠藤浩I I
川井健I I
原島重義I I
広中俊雄1 1
水本浩
"
山本進一編・民法⑤契約各論︹第4版増補補訂版︺︵有斐閣・︱
‑0
0二年︶二ニ六頁参照︒
( 6
)
明石一二郎・不動産仲介契約の研究二粒社・昭和五︱一年︶一四頁および三九頁以下参照︒なお︑本稿二︑二参照︒(7)これを肯定するのは、明石•前掲書四
0
頁であり、反対するのは、宇野•前出、前註(3)五五六頁以下である。(8)宇野•前出、前註(3)五五七頁参照。一︑右に見たように︑宅地建物取引業者︵不動産仲介業者︶に対する不動産取引の仲介委託︵仲介委託業務︶が準委
任の性質を有するものであること︑仲介業者は商行為に限らない不動産取引の媒介を行なう民事仲立人であって︑他
( 2 )
人間の法律行為の媒介を業とするものとして向人に当たることは判例•学説において異論のないところである。
しかし︑他方︑不動産取引の媒介契約︵仲介契約︶をめぐる法律間題に関しては相当判例が蓄積されており︑研究
も少なくないにもかかわらず︑依然として問題も多いとされている︒関連する問題は多岐にわたる︒ここでは︑議論
の全体に立ち入る準備に欠けるが︑本稿は︑いわばその序説として︑﹁売買契約解除後における不動産仲介業者の報
酬請求権﹂の問題を取り上げ︑下級審の判例の検討を通して若干の考察を加えるものである︒
︱一︑宅地建物取引業者︵仲介業者・仲介人︶が︑依頼者に対して報酬を請求しうるためには︑仲介業者の報酬請求権
の発生要件および根拠について︑前述のいずれの見解を採るにせよ︑①仲介業者と依頼者との間において︑媒介契
問 題 の 所 在
して取り上げる問題である︒
第五
五巻
︱二
号
成立が必要なことを宅地建物取引粟者︵仲介業者︶
︵ 五
七
O )
約︵仲介契約・仲介委託契約︶が成立し︑②依頼の趣旨に則った媒介行為があり︑③媒介契約期間内に︑売買契約
が成立し︑しかも︑④媒介行為と売買契約の成立との間に相当因果関係が認められることが必要である︒
本稿で取り上げる問題は︑このうち︑右の③の要件に関係する︒仲介業者が仲介の労をとり︑尽力しても︑仲介し
た当事者間に売買契約が成立しなければ︑仲介業者は報酬を請求できない︒この結論に争いのないことは︑右に述べ
( 6 )
たとおりである︒ただ︑その根拠に関しては争いがあった︒従来のオーソドックスな見解は︑報酬請求に売買契約の
に対する不動産取引の仲介委託︵仲介委託業務︶が準委任の性質
を有するものであることの当然の帰結として説明し︑民法六四八条二項を根拠条文として掲げるとともに︑併せて︑
( 9 )
商法五五0条一項︑五四六条に言及している︒ただし︑これに対しては︑売買契約の成立を必要とする根拠は商法上
の仲立人に関する商法五五0条一項の類推に求めるぺきではない︑と説く見解も有力に主張されている︒仲介業者が
報酬を請求するためには媒介により当事者間に売買契約が成立することが必要であるが︑このことは仲介契約の性質
によるものである︑とする見解である︒興味深い論点ではあるが︑いずれにしても︑仲介人が依頼者に報酬を請求す
るためには売買契約の成立が必要であるとする結論には違いがないので︑ここではこれ以上立ち入らないことにする︒
このように︑不動産仲介業者が報酬を請求するためには不動産売買の成立を必要とするとして︑次に︑それでは︑
いったん売買契約が仲介人の仲介によって成立した後︑その売買契約が解除されて消滅に帰した場合に報酬請求権は
消滅するかどうか︑が問題となる︒これが本稿において﹁売買契約解除後における不動産仲介業者の報酬請求権﹂と
三︑仲介業者による売買契約成立後︑売買契約が解除された場合に仲介報酬を請求できるか︒本稿においては︑次の 関法五〇
売買契約解除後における不動産仲介業者の報酬請求権
段落︵本稿︑三︶
五
において︑この問題に下級審の判例の検討を通じて考察を加えることにするが︑ここでは︑それに
先立って︑この問題をめぐる議論の枠組みに関する従来の学説をこの問題を詳論する明石三郎﹃不動産仲介契約
の研究』(一粒杜•昭和五―一年)の見解を中心に見ておきたい。
1.わが国の従来の学説は︑この間題に関しては︑仲介業者の媒介行為によって﹁売買契約が成立すれば︑その後売
買契約が解除されても仲介報酬には影響がない﹂とする見解を軸にして︑あるいは︑そのような見解を基準にして︑
それでよいかどうか︑という問題設定のもとで議論を整理し︑あるいは︑下級審の判例を分析して議論を展開してき
たようである︒それによれば︑わが国の判例の多数は︑﹁いったん売買が成立した以上は︑以後債務不履行によって
( 1 4 )
解除されても仲介報酬に影響がない﹂としており︑合意解除の場合も同様である︑というように説明されている︒さ
( 1 5 ) ( 1 6 )
の場合にも︑報酬に影響がないとするのが判例である︑と解されている︒らには︑﹁手附契約による解除﹂
もっとも︑このようにいう学説が直ちにこのように理解された判例を全面的に支持するかといえば︑必ずしもそう
ではない︒たとえば︑﹁売買当事者間の解除や債務不履行をめぐってはいろいろなケースがあり︑
い﹂というのである︒具休的には︑﹁他人の物の売買では︑履行を仲介報酬請求権の前提とすべきではないか﹂とか︑
﹁売買当事者の一方の債務不履行や契約解除が︑契約に内在する瑕疵にもとづくときは仲介人︹仲介業者︺の責任と
して報酬を請求しえないが︑そうでない場合には報酬請求権を妨げないと解するのが妥当﹂であるなどとされている︒
手付による解除の場合に関しても︑﹁手附を放棄した側﹂に対する報酬請求は︑﹁手附を失った側への報酬請求は酷な
ので︑これを否認すべきである﹂とされることがある︒﹁手附契約があるときは︑それに甚づく解除がありうること
は予め仲介業者も予想できるので︑仲介業者にとって不測の損害とはいえない﹂というのである︒
︵五
七一
︶ 一概に断定しがた
れがこのような見解の一応の結論であろうか︒
第五五巻三号
2.この問題を詳論する前述の見解に従って︑右のような事情をより詳しく見ておきたい︒これを要するに︑このよ
うな見解は︑先ず︑﹁原則論からいえば︑仲介業者は売買当事者を引き合わせてその間に売買契約が成立すれば仲介
業務はいちおう完成しているのであるから︑その時に報酬請求権が発生する﹂と解すべきことは認めざるを得ない︑
( 2 0 )
とするものである︒このような前提のもとでは︑その後︑売買契約の不履行や契約解除があっても︑それによって仲
介報酬の請求権には影響はないことになる︒
( 2 2 )
しかし︑他方︑わが国においては︑判例からもその傾向が窺われるように︑売買成立後︑履行完了に至るまで仲介
( 2 3 )
業者が面倒を見る責任があるように解する向きがある︑とされる︒そして︑そうであれば︑売買契約が履行されない
と︑﹁約定の報酬の全額は請求することができない﹂とする考え方が︑むしろ︑今日の民事仲立たる宅地建物の取引
( 2 4 )
の仲介を依頻する一般大衆の意識には合致するとまで言われるのである︒
ただ︑この立場にも問題がある︒仲介に骨折って契約成立にやっと漕ぎつけた仲介業者の利害を考えると︑それで
( 2 5 )
は︑報酬を請求できないとすると︑不衡平だからである︒そこで︑結局︑﹁折衷的に契約成立のとき正規の
に規定するのがよい︑と主張して︑ 報酬の半額︑完全履行のとき残り半額を給付せしめる実務のやり方が妥当﹂であるとして︑この実務のやり方を法的
( 2 6 )
いわば立法による解決を示唆される︒
解釈論としてはどうか︒かかる規定のない今日の段階では︑原則は売買成立と同時に報酬請求権が発生するが︑そ
の後︑不履行または解除があったときは︑仲介人︹仲介業者︺の注意の程度と売買当事者の責に帰すべき事由とを勘
( 2 7 )
案して相対的に決すべきであり︑いずれか一刀両断に決するのはどちらかに酷になるきらいがあるとされている︒こ 関法
五
︵ 五
七 二
︶
売買契約解除後における不動産仲介業者の報酬請求権
五
3.より最近の学説︑あるいはその他の学説はどうか︒仲介業者の報酬請求権の発生に関して特約がない場合には︑
仲介業者の報酬請求権は︑媒介した売買契約が成立したときに発生すると解すべきか︑それとも取引代金の授受︑所
有権移転登記手続︑目的物の引渡等が完了しなければ報酬を請求できないのか︒このような基準で議論されているこ
とは従来と異ならない︒また︑売買契約が成立した後に︑それが合意解除とか手付の放棄などによって消滅し︑履行
されなかった場合に報酬請求権がどうなるかをめぐっても引き続き議論があるようである︒
これを図式化すれば︑①﹁仲介業者は売買当事者を引き合わせてその間に売買契約が成立すれば仲介業務はいちお
う完成しているのであるから︑その時に報酬請求権が発生すると解すべきで︑その後の不履行や契約解除によって仲
( 2 9 )
介報酬の請求権には影響がない﹂と説く見解︵以下︑①説︶と︑②﹁取引代金の授受および所有権移転登記手続ない
( 3 0 )
し目的物の引渡等が完了しなければ報酬金を請求できない﹂とする見解︵以下︑②説︶との対立である︒段落をあら
ためて行なう判例の検討も︑基本的には︑この図式からスタートすることになる︒
もっとも︑原則として前者の見解に立つ者も︑解除などにより契約が消滅した場合に契約が履行された場合に認め
られるのと同じ︹同額の︺報酬を認めるとは限らず︑また︑基本的に後者による見解も︑売買契約が解除などで消滅
( 3 2 )
した場合にも仲介業者の報酬請求を全面的に排除するとは限らない︒議論は錯綜している︒
( 1
)
ここで用語の問題に付言する︒前述のように︑わが国の商法において︑﹁仲立に関する行為﹂とあるのは︑他人間の法律
行為の媒介を引受ける行為をいうものであることもあってか︑下級審の判例をはじめとして︑学説・判例においては︑宅地
建物取引業者に関しては︑﹁取引の媒介﹂ということばと︑﹁取引の仲介﹂ということばが互換的に用いられている︒さらに︑
本稿︳においては︑宅地建物取引業︵者︶と表示したが︑これを﹁︵不動産︶仲介業︵者︶﹂と呼ぶことも少なくない︒また︑
﹁媒介行為﹂と﹁仲介行為﹂も︑同義に用いられている︒
︵ 五 七 一
︱ ‑ ︶
関法 第五五巻三号
(2)
島田禍介「不動産取引業者の報酬請求権をめぐって」木村保男組・現代実務法の課題(有信堂•一九七四年)一頁以下所
収︑五頁︑宇野栄一郎﹁宅地建物取引業者の報酬請求権﹂中川善之助
(3) (売買)(青林書院新杜•昭和四五年)五五五頁以下所収、五五五頁。
I I
兼子一監修・遠藤浩編・不動産取引法大系第1巻ここでは、特に代表的な研究である、明石一二郎・不動産仲介契約の研究(一粒社・昭和五二年)(以下、明石•前掲書と いう︶︑明石三郎・判例不動産仲介契約論︵一粒社・一九九四年︶︑明石一二郎・不動産仲介契約論︵信山社・一九九四年︶を 挙げておきたい︒
( 4
) これは︑一には︑宅地建物取引業者と依頼者との間の媒介契約の特殊性にもよるのではないかとの指摘がある︒たとえば︑
佐藤栄一﹁不動産売買仲介契約の解除と不動産取引業者の報酬請求権﹂本井典
I I
賀集唱編・民事実務ノート︵第3巻︶
︵判
例タイムズ社・平成四年︹復刻版︺︹初版︑昭和四四年︺︶九四頁以下所収︑九六頁は︑宅地建物取引業者と依頼者との間の 媒介契約は︑不動産取引の性質上︑商事仲立ではなく︑民事仲立として構成されており︑しかも︑民法と商法にまたがって︑
これを越える特殊な法的形態を有しており︑特約や慣習にも依存しているのであって︑それは一種の無名契約的要素が強い︑
と指
摘し
てい
る︒
( 5
) 各種の問題に関しては︑たとえば︑古典的な研究ともいうぺき︑前掲の明石三郎・不動産仲介契約の研究︵一粒社・昭和
五一
一年
︶参
照︒
( 6
)
本稿︳︑註
( 7
) を伴う本文参照︒
( 7
) 一般的には︑媒介行為の対象となった不動産取引を問題にすべきであるが︑代表的な取引である売買を例に採ることにす る︒売買契約が成立しないと報酬請求は認められない︒これは︑不動産仲介業者の尽力が功を奏さない場合である︒これと 峻別すべきは︑物件の紹介を受けた当事者が︑仲介業者を排除して︑直接取引によって報酬の支払を免れようとする場合で ある︒あるいは仲介委託契約︵媒介契約︶を解除して直接取引する場合であり︑あるいは仲介委託契約は解除しないで直接
取引する場合である︒このように当事者が報酬を免れるために直接取引する場合には︑種々の理由付けによってたとえ
ば︑民法一三0
条による説︑商法五︱︱一条による説︑慣習を根拠とする説︑信義公平の原則による説などーー'仲介業者に報 酬請求権が認められることが多い。この間題には、ここでは立ち入らない(たとえば、明石•前掲書―
10頁以下参照)。(8)明石•前掲書一二六頁以下、島田•前出、前註(2)―二頁参照。
五四
︵五
七四
︶
売買契約解除後における不動産仲介業者の報酬請求権
五五
(9)明石•前掲書三九頁は、民法六四八条二項はこの趣旨であり、また商法五五
0
条一項(「五四六条ノ手続〔結約書の交付〕ヲ終ハリタル後﹂︶も同様であると述べている︒さらに︑山崎悠基﹁判批﹂ジュリストニ︱
‑ 0
号七六頁︑鴻常夫﹁判批﹂ジュリストニ六四号一――10頁、西原寛一・裔行為法(有斐閣•昭和四八年[-――訂•増補〕〔初版、昭和一二五年〕)―-八九頁参
照 ︒
(10)宇野•前出、前註(2)五五七頁は、「媒介の成立の対象となった契約の成否と報酬請求権との関係は、商法五五
0
条一項の直接規定するところではない︒同条項は︑報酬請求権の要件として︑媒介による当事者間の契約の成立を前提とするもの
ではあるが︑商法五四六条に定める結約書の作成交付義務の履行を要するとする規定である﹂︑﹁したがって︑取引業者が報
酬を請求し得る時期は︑媒介により当事者間に契約が成立することを要すると解すべきであるが︑それは商法五五0条一項
の類推適用によるものではなく︑仲立契約の性質によるものにほかならない﹂と説明している︒これに対して、明石•前掲書四
0
頁は、商法五五0
条一項の規定は「仲立契約の性質から由来するものだと考えるので、通説にしたがってよい」と説いている。また、明石•前掲書四0
頁は、①商法五五0
条一項、五四六条の規定から「売買契約の成立﹂を要求する判例として︑東京高判昭和三九年五月一九日東京高民時報一五巻五号一〇︱一頁︵不動産取引︹ビル
の賃貸︺が不動産仲介業者の媒介によって成立したものでもなければ︑媒介によって成立したのと同視すぺき事情もないと
された事例である︶︑東京地判昭和四九年二月四日ジュリスト五八八号六頁︵不動産売買の仲介を業とする者は︑いわゆる
民事仲立人であるにとどまるけれども︑﹁民事仲立も商事仲立も共に仲介により仲立人間の契約を成立させるという仲立行
為の本質においては同じであるから︑商事仲立人の報酬請求権に関する商法五五0条一項の規定は民事仲立人の報酬請求権
についてもこれを類推適用すべきもの﹂であると判示している︶および大阪地判昭和四四年︱一月一九日判時五九九号六〇
頁︵売主︑買主の双方から委託を受けた不動産取引仲介業者が買主を案内して物件を見聞させ︑当事者双方に相手方を紹介
し︑売買交渉の端緒を与えたが︑当事者が仲介業者を介することなく直接売買条件を取り決め︑売買契約を締結したという
場合
に︑
民法
︱︱
︱
1 0
条を根拠に仲介業者の媒介により契約が成立したものとみなして報酬の請求を認めたものであるが︑そ
の前提として︑商法五五0条︑五四六条の類推適用により︑不動産取引仲介業者に報酬請求権が認められるためには︑原則
として仲介業者の媒介により売買契約が成立したことが必要であるとしたもの︶を挙げている︒②これに対して︑商法五
五0条︑五四六条の適用を排して︑蔽法五︱︱一条を根拠に︑売買は成立しなくても報酬請求件が生じるとする判決もあると
︵五
七五
︶
関法 第五五巻三号
して︑広島簡判昭和二八年︱二月ニ︱日F民集四巻︱二号一九0七頁を引用している︵事案の場合には︑商人たることを明
示していなかったので︑報酬請求権はないとされた︶︒商法五︱︱一条は︑媒介委託に当たって報酬の特約がなかったという ような場合に報酬請求を認める根拠にはなるであろうが︑同条を根拠に﹁売買は成立しなくても報酬請求権が生じる﹂と解
する論理には疑問がある︒(11)ここで述ぺるところは、幾代通
11
広中俊雄編・新版注釈民法⑱(有斐閣•平成元年)―-五四頁以下〔明石三郎執筆〕および明石•前掲書四三頁以下の説くところに従ったものである。もっとも、前者の説明は、必ずしも、宅地建物取引業者に限
定するものではなく︑民法六四八条の注釈において行なわれたものである︒
本文の説明は、明石•前掲書四二頁以下および一八一頁以下の説明に大きく依拠している。このように、いささか詳細に わたって、明石•前掲書の見解を紹介するのは、この見解の主張には、ー—とりわけ、その判例の理解には、疑間を懐 くところもないではないが︑しかし︑大きな議論の枠組みとしては︑この見解は︑本稿の作業にとって︑きわめて有意義で あると考えるからである︒さらにいえば︑結局︑この見解の説く方向において最近の判例理論は展開しているといって過言
ではないと考えるからである︒なお︑前註
3 (
) 参
照︒
(12)なお、明石•前出、前註(11)、二五五頁は、「停止条件付または解除条件付売買で、条件の不成就または成就によって売
買の効力が失われた場合に報酬請求権はどうなるか」という問題も取り上げている。専任•一任媒介契約約款を引用して、
それによれば︑﹁停止条件の場合は成就のときに報酬を請求できる﹂こと︑また﹁融資の不成立を解除条件とした場合は︑
条件成就のとぎ︑既に受領した報酬金額を返還すると規定﹂されていることに言及して︑﹁融資の不成立にかぎらず︑すべ ての解除条件について条件不成就が確定したときに報酬を請求できるとすべきだと考える﹂とされている︒さらに︑仲介業 者の重要事項告知義務︵宅地建物取引業法三五条︶違反その他業者の責に帰すべき契約の瑕疵による解除の場合にも言及し て︑そのような場合に報酬を請求できないのは言うまでもない︑としている︒これらは︑いずれも本稿で取り上げる間題の 延長線上にある問題ではあるが︑本稿の議論は︑売買契約が債務不履行により解除される場合︑合意解除される場合︑およ
び﹁手附契約による解除﹂の場合に限るものである︒(13)明石•前出、前註(11)、―一五四頁以下は、そのような趣旨の判例として、大阪高判昭和五六年一
0
月三OH
判夕四五七号九九頁︵本稿三︑︹六︺判決︶︑東京地判昭和五六年六月二四日判時一
0ニ︱一号八五頁︹仲介手数料請求事件︑反訴請求事
五六
︵五
七六
︶
売買契約解除後における不動産仲介業者の報酬請求権
五七
件︺を挙げる︒後者の判決も︑明確に﹁売買契約が解除されたとしても仲介人の仲介手数料支払請求権には何らの消長を及 ぼすものではない﹂としている︒また︑仮に︵事実認定はしていないようである︶債務不履行による売買契約の解除があっ ても︑当初予定されていた報酬額の支払が認められるとしたもののようである︒事実関係が明瞭でない部分もあるが︑本文 後述の①説による判決と解される︒
(14) 明石•前出、前註
(11)
、二五四頁以下は、合意解除に関しては、大判大正一四年三月=――一日新聞二三八九号一八頁など多 数の判例があるとする。さらに、明石•前掲書四三頁は、事案の特殊性を指摘したうえ、函館地判昭和四二年九月五日判時
五0四号八二頁︵本稿=︳
︹‑︺判決︶にも言及する︒大判大正一四年三月︱︱二日新聞一︱︱︱︱八九号一八頁︹報酬金請求上告 事件︺は︑不動産売買契約の当事者が﹁合意解約﹂したという事案であり︑原判決は︑当該﹁報酬契約ハ売買ノ履行ヲ完結 シタル時即︹本件︺不動産ノ所有権移転登記終了シテ始メテ其ノ効カヲ発生スヘキモノナリ﹂としたが︑大審院は︑当該報 酬契約は︑所有権移転登記終了を条件とする趣旨であって︑本件不動産売買契約が当事者間において合意解除されており︑
被上告人が故意に条件の成就を妨げたものであるから上告人はその条件を成就したものとみなして報酬金の支払を請求でき ると判不した︒原判決は︑民法一三
0
条に違反するというのである︒(15) 明石•前出、前註
(11)
、二五四頁以下は、手付契約による解除に関する同趣旨の判例として、大阪地判昭和四一一年―二月
六日金判二0
一号一三頁︹報酬請求事件︺を引用される︒この判決は︑最判昭和四五年︱一月二六日民集二四巻︱一号八九頁
︵昭
和四
四年
田第
一
f
六三号︶および最判昭和四五年二月二六日民集二四巻二号一0
四頁︵昭和四四年①第三六四号︶の第一 審判決である︒判決は︑﹁売買契約の成立︑契約書の作成が終了したとぎにはその段階で相当の報酬を請求できる﹂として いるので︑本文後述の①説によるものとしてよく引用される︒しかし︑これは︑不動産仲介業者は売買契約の当事者が手付 を放棄して売買契約を解除した場合でも一定額の報酬の支払を受ける旨の契約があったという事案に関するものであり︑手 付放棄による解除があっても︑当初の報酬額が支払われるとしたものではない︒
(16) 明石•前掲書四一二頁以下は、ドイツの学説
l
ドイツ民法(吻
653
B G
B )
に 関 す る 説 明 に 言 及 し て︑ ド イ ツ で は
︑ 売 買成立後に債務不履行による解除があっても仲介報酬には影響がないとされていることを紹介される︒仲立人に依頼するの は売買の成立であって︑契約の履行にまで仲立人の影響はないからである︒もっとも︑ドイツでも︑契約の解除が契約締結 の不完全性に由来するときは仲立報酬も請求できず︑さらにそのために売買が無効とか取消されたときも報酬の請求はでき
︵五
七七
︶
関法 第五五巻三号 ない︑とされているようである︒なお︑わが国においても︑たとえば︑東京地判昭和五七年二月ニ︱一日判夕四八二号一︱二 頁︹仲介手数料請求事件︺においては︑仲介行為に﹁仲介業者としての義務を履行したといえない瑕疵﹂があったために
﹁その瑕疵が原因﹂となって︑当該契約が無効となり︑取消され︑解除された場合には︑仲介業者の報酬請求権は成立しな
いと
され
いて
る︒
ドイツにおける議論は︑別の機会に取り上げることにする︒
V
g l .
A l t m e p p e n , P r o v i s i o n s a n s p r i i c e h b e i
V
e r t r a g s
a u f l o s u n
g │
B e i t r a g e z u m M a k l e
, , r
z u m H a n d e l s v e r t r e t e
r ,
u n
d z
u m o K m m s i s i o n s r e c h t │ ︵
1 9 8 7 ) .
(17)明石•前掲書四六頁。
(18)
明石•前掲書四六頁。もっとも、本稿で正面から取り上げているのは、売買契約の合意解除、債務不履行による解除、さ らには︑手付による解除などであり︑他人の物の売買や︑仲介行為に瑕疵があった場合ではない︒本文の記述は︑いろいろ なケースがあるとして言及されている場合をそのまま紹介したものである︒
(19)明石•前出、前註
(11)
、二五四頁および明石•前掲書四六頁。
(20)明石•前掲書一八二頁。なお、報酬請求権の成立に売買契約の成立を要するとしても、売買の成立時期が問題である。明 石•前掲書一八四頁は、「売買の成立時期について、わが民法上、合意成立の時と解するのが通説判例であるが、土地のよ うな高額な財産については︑売買契約書の作成とか内金の授受があった時と解するのが一般の慣行だとしてこれを認める判 決﹂︵東京高判昭和五
0年六月三0
日判時七九
0号六一二頁︶に言及している︒この判決は︑﹁売買契約書を作成し︑内金を授
受することは︑売買の成立要件﹂であると判示した︒この判決は︑﹁売買契約書を作成し︑内金が授受されない以上売買は 不成立というべきである﹂としたが︑仲介業者の提供した売買の仲介を受領しないで︑第三者に対して土地を売却した委託 者の行為は、信義則に反するものであるとして、仲介業者には割合報酬の請求を認めた。また、明石•前掲書一八四頁は、
他人の物の売買︵民法五六
0条︶の仲介においては︑報酬請求権が認められるには︑売買契約成立のみでは足らず︑履行が
あった時と解するのが妥当であるとしている︵東京地判昭和五一年一月二八日判時八三二号七八頁参照︶︒
不動産売買契約の成立時期に関する判例については︑明石三郎・判例不動産仲介契約論︵一粒社・一九九四年︶一頁以下 および鎌田薫﹁不動産売買契約の成否﹂判夕四八四号一七頁︑鎌田薫﹁売渡承諾書の交付と売買契約の成否﹂ジュリスト八 五七号一︱四頁など参照︒この問題と本稿の取り上げている問題は密接に絡むと考えるが︑ここではこの問題には立ち入ら
五八
︵五
七八
︶
売買契約解除後における不動産仲介業者の報酬請求権
五九
一応、これを前提として、ー~ブラック・ボックスとして、
I
考察するものとする。筆者
ず︑売買契約の成立の間題は︑
の今後の課題として残る︒(21)
明石•前掲書四三頁は、本文で述べた見解を補強するために、そのように判示する判例が多いとしている。函館地判昭和
四二年九月四日判時五0
四号八二頁︵本稿三︑︹一︺判決︶︑大阪高判昭和四三年︱一月二八日下民集一九巻︱
‑11
︱二
号七
五三頁︵本稿三︑︹二︺判決︶︑さらには︑前掲大阪地判昭和四二年︱二月六日︵前註
( 1 5 )
参照︶などが︑﹁契約成立後の合 意解除の如きは報酬請求権に消長を来たさない﹂﹁仲介報酬請求権の発生には売買契約の成立をもって足る﹂とした判例で
あるとして引用されている︒(22)
明石•前掲書一八二頁においては、東京地判昭和三四年三月一――一日判時一八四号一――頁、大阪地判昭和二八年――一月ニニ 日下民集四巻︱二号一九一九頁が引用されている︒東京地判昭和三四年三月三一日判時一八四号ニ︱頁︹仲介料請求事件︺
は︑土地の売買の仲介を依頼した被告が不動産仲介業者である原告の紹介を受け︑土地に案内されるなどしながらその後の 交渉段階において原告の介入を排除して虹接取引を成立させたという事案において︑原告の報酬請求権を認めるとともに︑
その報酬額の算定に当たっては︑仲介業者が売買契約の履行のための一連の事務処理をする必要がなかったことを指摘して︑
その点を配慮して報酬額を判断したものである︒後者の判断の前提として︑わが国では︑﹁売買成立後︑履行完了に至るま で仲介業者が面倒を見る責任がある﹂との見解があるとされたのであろう︒また︑大阪地判昭和二八年︱二月二二日下民集 四巻︱二号一九一九頁︹手数料請求併合事件︺も︑右と同じく︑宅地建物取引業者から紹介を受けた後︑その業者の仲介を 排して直接売買取引を完了した場合でも︑業者に対して相当額の報酬を支払わなければならないものと判示した︒その際︑
やはり︑﹁業者が宅地建物の売買の委託を受けた場合は︑売買の相手方の誘引︑売買条件の決定︑契約書の作成︑代金の授 受並に所有権移転登記手続等売買完結に至る迄一連の事務を処理するのが通例であつて報酬もそれによって支払われるのが 普通である﹂と判示している︒なお︑この判決においては︑仲介業者を排除して直接売買契約が成立したことをもって報酬 をそれに応じて減額するものとはされていない︒
(23)
明石•前掲書一八一一頁は、このようなわが国の傾向からすれば、「この点が商事仲立と異なり、民事仲立には商法五五〇 条をそのまま適用でぎないともいえる﹂としておられる︒
(24)
明石•前掲書一八三頁。なお、そこでは、このような見解に繋がる判例として、「みぎ粟者の業務上の契約中の報酬に関
︵五
七九
︶
関法 第五五巻三号 する約定は︑契約中に別段の定めがなければ︑報酬額は取引代金の授受および所有権移転登記手続ないし目的物件の引渡等 が完了するまでの業務に対する報酬として約定されたものと認むべきであって︑これら業務が完了しなければみぎ約定の報 酬金の全額を請求することができない趣旨の約定であると解すべきである﹂とする大阪高判昭和四三年︱二月=︱‑︱‑日金判二
0
一号︱︱頁︹報酬金請求双方控訴事件︺が引用されている︒この判決は︑前掲大阪地判昭和四二年︱︱一月六
H
︵ 前
註 (
1 5
) 参照︶の控訴審判決であり︑最判昭和四五年二月二六日民集二四巻二号八九頁︵昭和四四年困第一二六三号︶および最判昭和
四五年二月二六
H
民集二四巻二号一
0四貞︵昭和四四年困第一
1一六四号︶の原審判決である︒しかし︑この判決もまた︑﹁仲
立営業者が仲立契約中に定めたこのような契約終了の場合の報酬額の約定はもとより有効であ﹂ると判示しているのであっ て︑﹁取引代金の授受および所有権移転登記手続ないし目的物件の引渡等が完了しなければ﹂︑およそ報酬は請求できないと 判がしたものではない︒なお︑後註
( 3 2 )
を伴う本文参照︒
(25)
明石•前掲書一八一二頁。
(26)
明石•前掲書一八二頁、一八三頁、四六頁。
(27)明石•前掲書一八四頁。なお、明石•前掲書一八一頁以下などは、「報酬の支払時期」の問題として、それは「売買成立 のときか︑それとも移転登記完了ないし目的物引渡など一連の手続が完了したときか﹂という問題を設定される︒しかも︑
同時に、明石•前掲書三六頁以下、三九頁以下は、「仲介報酬請求権の発生要件」として、「売買契約の成立」を取り上げ、
その関係において︑﹁売買が成立した後に解除された場合﹂を問題にされる︒加えて︑前者の叙述においても︑﹁売買成立と 同時に報酬請求権が発生する﹂といった説明が行なわれている︒法的構成または法的位置付けの問題として議論がありうる と考えるが︑本稿においては︑﹁報酬の支払時期﹂というよりも︑﹁報酬請求権の発生要件﹂という視点から整理しておいた︒
(28)
牛山積「判批」民商六四巻五号二
0
四頁、二0
八頁〈一九七一年〉、明石三郎•前掲書一八二頁〈一九七七年〉、野口恵三
判 ﹁
批 ﹂
NBL
五七
一号
六八
︑頁
六九
頁︿
一九
九五
年﹀
︑野
口恵
︱︱
‑﹁
判批
﹂
NBL
七九五号六四頁︑六七頁︿二
0
四年﹀な0
ど︑いずれもそのような基準または枠組みで考察しているようである︒その限りでは︑大体︑本文で述べたような議論の枠 組みのもとで考察されてきたといってもよいであろう︒
(29)
明石•前掲書一八二頁は、原則論はそうなると説く。野口恵――-「判批」
NBL
五七一号六八頁、六九頁。
( 3 0 )
野口恵三﹁判批﹂
NBL
七九五号六四頁︑六七頁は︑近時︑本文にいう①説から②説へと見解を変更して︑﹁契約が解除さ
六〇
︵ 五
八
O )
(1)
下 級 審 の 判 例
一
ノ
れてしまえば︑依頼者の目的は達せられない︒何らの利益ももたらされない︒その依頼者に報酬の支払いを求めることは不 合理というほかはない﹂と説いている︒
(31)明石•前掲書四六頁参照。
(32)
たとえば、野口•前掲
NBL
五七一号六八頁、六九頁参照。
以下においては︑前段の末尾に掲げた見解の対立の図式︑すなわち︑①﹁仲介業者は売買当事者を引き合わせてそ の間に売買契約が成立すれば仲介業務はいちおう完成しているのであるから︑その時に報酬請求権が発生すると解す べきで︑その後の不履行や契約解除によって仲介報酬の請求権には影響がない﹂とする見解︵①説︶
金の授受および所有権移転登記手続ないし目的物の引渡等が完了しなければ報酬金を請求できない﹂とする見解︵② 説︶の対立の図式を緩やかな一応の基準として︑この問題に関する下級審の判例を概観することにしたい︒
この問題に関する判例に言及する際に︑①説による判決として引用されるものには︑次のような判決がある︒
︹一︺函館地判昭和四二年九月四日判時五
0四号八二頁︹報酬請求事件︺においては︑宅地建物取引業者である原告
等
( X
および
x )
は︑建物の売主である被告
Yか
ら 少 な く と も 黙 示 で 建 物 売 却 の 委 託 を 受 け た
︒ 原 告 等 の 媒
介に
より
︑
Yと訴外A
との間において売買契約が成立し︑買主
Aは︑原告等を介して︑売主
Yに手付金︵三
0
万円0
の小切手︶を交付した︒しかし︑その後︑売主
Yは︑買主A
に売
買契
約の
解約
を申
入れ
︑折
衝の
結果
︑金
一︱
︱ 10
万円
売買契約解除後における不動産仲介業者の報酬請求権
と︑②﹁取引代
︵五
八 一
︶
れ を
金 一
︱
‑ 0
万円とするのが相当である﹂と判示している第 五 五 巻 三 号
︵ 五
八 一
一 ︶
﹁次に︑原告等がいずれも北海道知事の免許をえてそれぞれ宅地建物取引業を営むものであることは当事者間に争いがなく︑
又先に判不したように被告から媒介の委託を受けていたのであるから︑その際黙示的にもせよ報酬金の支払約束がなされたこと が推定され︑この点の反証はないので︑その媒介により本件売買契約が成立した以上︑原告等は被告に対し相当額︵約定があれ ばこれによる︒︶の具体的な報醐請求権を取得したものといわなければならない︵第一項閻で認定した事後の合意解除の事実は︑
この請求権に消長をきたすものではない︒︶︒﹂
この判決は︑明確に︑﹁売買契約が成立した以上﹂︑原告等は︑具体的な報酬請求権を取得しており︑﹁事後の合意 解除の事実は︑この請求権に消長をきたすものではない﹂と判示している︒なお︑事案においては︑少なくとも︑黙 示の報酬金の支払約束があったとされているが︑報酬金額︵およびその支払期日︶
に関しては︑明示的に定められて いなかったので︑判決は︑宅地建物取引業法およびこれに基づく建設省告示が定める報酬金の最高額に言及して︑こ れを一応の参考金額としながら︑取引金額がかなり高額であること︑取引金額決定の経緯︑具体的な売買契約成立の 事情︑さらには﹁被告︵依頼者︶
としては所期の目的を十分には達しえなかったこと﹂などの﹁事情を勘案して︑こ
︵一部認容︶︒この判決においては︑売買契約が合意解除さ れたために︑被告が﹁所期の目的を十分には達しえなかったこと﹂をも考慮して報酬額が決定されており︑売買契約 が履行され︑目的が達成された場合と同じ報酬が認められたものではない︒﹁合意解除の事実は︑報酬請求権に消長 をきたすものではない﹂といっても︑その報酬額は︑解除を前提として判断されているのであって︑︹一︺
意味において①説によった判決といえるかどうか疑問である︒ を買主
A
に交付して︑売買契約を合意解除した︒ 関法
六
は厳密な
売買契約解除後における不動産仲介業者の報酬請求権
としている
法は
ない
︒﹂
大阪高判昭和四二年︱一月一一八日判タニニ九号一七四頁︑下民集一九巻︱
‑ 1 1 ‑
︱一
号七
五一
二頁
︑判
時五
五
0号
( 3 )
六八頁︹周旋手数料請求上告事件︺
Y所有の宅地および建物の売買契約が成立し︑即日︑
判 決
︶ は ︑
Xの報酬請求を認容︒
1
ヽ
Jノ
においては︑宅地建物取引業者である
Xの媒介により依頼者Yと訴外Aとの間に
Xはその旨の契約書を作成してY
に交付した︒原判決︵控訴審
Yは︑事案の場合には︑﹁被上告人X
は契約はせしめたがその取引は上告人
Yが売
買残代金請求の訴を以つて取引が完了したのであり被上告人
Xは取引を完成させたものとはちがい宅地建物取引員の
業界に於ける慣習法からして被上告人
X
の請求は失当と言わねばならない﹂と主張して上告した︒上告棄却︒
﹁宅地建物取引業者の依頼者に対する報酬請求権は︑業者と依頼者との間に特約がないかぎり︑業者の媒介により当事者間に 売買等の契約が有効に成立することにより発生するもので︑その契約が履行されたか否かは間うところでなく︑業者はその旨の 契約書を作成して当事者に交付したときは報酬を請求できると解するのが相当である︒
しからば︑原判決が︑宅地建物取引業者である被上告人
Xの媒介により上告人YとA間に上告人Y
所有の宅地および建物の売 買契約が成立し︑即日被上告人
Xはその旨の契約書を作成して上告人
Yに交付した事実を確定したうえ︑右と同旨の判示理由に
より上告人Y
の所論抗弁を排斥し︑被上告人
X
の本件報酬請求を認容したのは︑正当であって︑原審の右判断になんら所論の違
この判決も︑﹁報酬請求権は︑業者と依頼者との間に特約がないかぎり︑業者の媒介により当事者間に売買等の契 約が有効に成立することにより発生するもので︑その契約が履行されたか否かは問うところでな﹂い︑と明確に判示 している︒また︑この判決は︑売買契約は︑業者が﹁その旨の契約書を作成して当事者に交付した﹂ときに成立する
︵原
審は
︑商
法五
五
0条一項を適用しているようであるが︑本判決は︑商法の規定は引用せず︑同じ内容
︹ 二 ︺
︵ 五
八 三
︶