1.はじめに
新型コロナウイルス感染症(
COVID-
19)の拡大によって,社会情勢が大きく変化して いる。教育現場においてもこれまで経験したことのない事態を迎えており,児童生徒には,予測困難な時代に対応できる資質・能力を身につける必要性が一層急務となっている。
中央教育審議会答申(平成 28 年 12 月)では,こうした社会の変化に主体的に関わり,
より良い社会と幸福な人生の創り手となる力として「生きる力」をより具体化し,教育課 程全体を通して育成する資質・能力として「知識・技能」,「思考力,判断力,表現力」,「学 びに向かう力,人間性等」の三つの力に再編した。そして,その力を捉えるために観点別 学習状況の評価についても,目標に準拠した評価の実質化や教科や校種を越えた共通理解 に基づく組織的な取り組みを促す観点から「知識・技能」,「思考・判断・表現」,「主体的 に学習に取り組む態度」の3観点に整理することにした。
これまで学習評価といえば,指導要領が正式に改訂されたあとで検討が始められてきた が,そのため今回は改訂の方針と同時に,学習評価の大枠についても中央教育審議会答申
(平成 28 年 12 月)で示されている。これにより,教科の独自性を優先して,学力の3要素 を4観点(国語は5観点)で分析してきたこれまでの観点別学習状況の評価を改め,すべ ての教科に共通した3観点に整理し,教科横断的な視点から学力の3要素と学習評価との 関係を単純・明快化して社会に開かれた教育課程を実現しようとしていることが分かる。
一方,その達成状況については,指導要録の改善通知(平成 31 年3月)によって,学 習状況を分析的に把握することが可能な「観点別学習状況の評価」と学習状況を総括的に 捉え,教育課程全体における各教科等の学習状況を把握することが可能な「評定」の双方 を用い,指導の改善等を図ることが重要とした。観点別学習状況の評価については大幅な 改善が図られる一方,これを総括した評定については従前のまま用いることになったので ある。
しかしながら,評定についてはさまざまな課題が指摘されており,学校現場でも評定を
新教育課程における評価活動に関する一考察
─中学校における評定の現状と課題─
安部 賢一
めぐる問題を掲げれば事欠かない。本稿ではこの「評定」についての現状と課題を整理し,
今後の在り方について考察した。
2.指導要録における「評定」の史的変遷
はじめに,学習評価としての評定が,これまで指導要録にどのように位置付けられ,認識 されてきたかを指導要録に関する国の通知文等をもとに確認しておきたい。(表1)
戦後,現行の新制中学校になった直後の草創期の指導要録(小学校では学籍簿,昭和 24 年から指導要録と改名)では,学習の状況について「学習成績の発達記録」に教科ご とに所見欄と評価欄が設けられ,評価欄には教科ごとに3〜4個の目標を設けて5段階で 相対評価を行うようになっていた。教科を総括的な視点から評価した「評定」の概念はな く,1教科多評定方式であった。
しかし,指導要録の最初の見直しとなった昭和 30 年改訂では,この様式を大きく改め,
中学校と高等学校の指導要録を分離して様式を簡素化し,教科ごとの学習成績として5段 階で総括する評定欄が設けられた。現在に至る「評定」の始まりである。また,客観性を 確保する視点から,集団に準拠した評価(相対評価)としたが,機械的に正規分布に当て はめないよう注意を促している。
一方,その位置付けは徐々に変容していった。評定はしばらく学習評価の中心的役割を 担ってきたが,昭和 52 − 53 年改訂の学習指導要領において学習指導要領の目標に準拠した 評価を一層重視する視点が示され,昭和 55 年改訂の指導要録から,「観点別学習状況の評 価」欄が新設された。また,結果だけでなく学習の過程を大切にし,指導と評価の改善の 契機とすることが重視され,現在の学習評価の在り方につながる転換が図られた。
これ以降も評定の位置づけはさまざまな変遷を辿り,平成3年改訂の指導要録において は「Ⅰ.観点別学習状況の評価」,「Ⅱ.評定」とそれまでの順序が逆になり,観点別学習 状況の評価を先に表記することになった。
そして,平成 10 年改訂の学習指導要領では,集団に準拠した評価(相対評価)から目 標に準拠した評価(絶対評価)に大きく転換し,評定は,学習指導要領の目標に照らして 評価した「観点別学習状況の評価を総括」したものと位置付けられた。これにより,昭和 30 年から一貫して目標に準拠した評価(いわゆる絶対評価)だった高等学校と,小・中 学校がこのとき統一されたのである。
表1.指導要録の改訂に伴う学習評価欄の変遷(中学校の場合)
学習指導要領 指導要録における教科の学習の記録(中学校) 評価規準
S22
学習指導要領(試案)の実施 評価 所見
S22 年度 ・各教科の 3 〜 4 分析項目につ いて評価(1教科多評定)
・各段階ごとに一定の比率(正 規分布)とする
・項目ごとに 5 〜 1 の5段階
・教科ごとに記入 指導要録の通知
小:S23 年 11 月(学籍簿)
中・高:S24 年 8 月 S26 〜 28
S30 〜 31改訂 一部改訂
学習指導要領の実施 評定 所見
S26 年度〜 ・各教科を総括的に評価したも
・各段階ごとに一定の比率を機の 械的に割り振らないよう留意
・5〜1の5段階
・各教科の分析的評価として参 考になることがあれば記入
・観点ごとの 3 〜 5 観点を◯ ,
×で表記 指導要録改訂の通知
小・中・高:S30 年 9 月
S33,35 改訂
学習指導要領の実施 評定 所見 備考
小:S36 年度 中:S37 年度 高:S38 年度
・学習指導要領に定める目標に 照らして学級又は学年におけ る位置づけを評価(絶対評価 を加味した相対評価)
・各段階ごとに一定の比率を機 械的に割り振らないよう留意
・5〜1の5段階
・他の生徒との比較ではなく,
その生徒自身の特徴を参考と
・教科ごとの 4 〜 5 観点を◯ ,して記録
×で表記
・教科の学習について特記すべき事項 がある場合に記入
指導要録の通知 小・中:S36 年 2 月 高:S38 年 1 月
S43 〜 45 改訂
学習指導要領の実施 評定 所見 備考
小:S46 年度 中:S47 年度 高:S48 年度
・学習指導要領に定める目標に 照らして学級又は学年におけ る位置づけを評価(絶対評価 を加味した相対評価)
・各段階ごとに一定の比率を機 械的に割り振らないよう留意
・5〜1の5段階
・学習において認められた特徴 を他の生徒との比較ではな く,その生徒自身について記
・観点について,各教科の指導録 の結果に基づいて評価
・教科ごとの 3 〜 6 観点を◯ ,
×で表記
・教科の学習について特記すべき事項 がある場合に記入
指導要録改訂の通知 小・中:S46 年 2 月 高:S48 年 2 月
S52 〜 53 改訂
学習指導要領の実施 評定 観点別学習状況 所見
小:S55 年度 中:S56 年度 高:S57 年度
・学習指導要領に定める目標に 照らして学級又は学年におけ る位置づけを評価(絶対評価 を加味した相対評価)
・各段階ごとに一定の比率を機 械的に割り振らないよう留意
・5〜1の5段階で表記
・学習指導要領に定める目標の 達成状況を観点ごとに評価
・各教科に共通する観点として
「関心・態度」を追加
・教科ごとの 3 〜 5 観点を +,- で表記
・教科の学習について総合的に見た場 合の児童の特徴や指導上留意すべき 事項を記入
指導要録改訂の通知 小・中:S55 年 2 月 高:S56 年 12 月
H 元改訂
学習指導要領の実施 観点別学習状況 評定 所見
小:H4 年度 中:H5 年度 高:H6 年度
・学習指導要領に定める目標の 達成状況を観点ごとに評価
(絶対評価)
・観点の順序を入れ替え, 「関 心・意欲・態度」を最初に記
・教科ごとの4観点を A, B, C載 の3段階で表記
・学習指導要領に定める目標に 照らして学級又は学年におけ る位置づけを評価(絶対評価 を加味した相対評価)
・各段階ごとに一定の比率を機 械的に割り振らないよう留意
・5〜1の5段階で表記
・教科の学習について総合的にみた場 合の生徒お特徴及び指導上の留意す べき事項を記入。その際,生徒の長 所を取り上げることが基本となるよ 指導要録改訂の通知 う留意。
小・中:H3 年 3 月 高:H5 年 7 月
H10 〜 11 改訂
学習指導要領の実施 観点別学習状況 評定 総合所見及び指導上参考となる諸事項 「評価規準の作成 , 評価方法の工夫改 善のための参考資 料 −評価規準 , 評価方法の研究開 発(報告)−」国 立教育政策研究所
(H14 年 2 月)
小・中:H14 年度 ・学習指導要領に定める目標の 達成状況を観点ごとに評価
・国語5観点 , 他の教科 4 観点 を A, B, C の3段階で表記
・学習指導要領に定める目標に 照らして,その実現状況を総 括的に評価(目標に準拠した 評価,いわゆる絶対評価)
・5〜1の5段階で表記
・生徒の状況を総合的にとらえる。そ の際,生徒の優れている点や長所,
進歩の状況などを取り上げることを 基本となるように留意。
・学級・学年の集団の中での相対的な 位置付けに関する情報も必要に応じ て記入。
高:H15 年度 指導要録改善の通知 小・中・高:H13 年 2 月
H20~21 改訂
学習指導要領の実施 観点別学習状況 評定 総合所見及び指導上参考となる諸事項 「評価規準作成の ための参考資料」
国立教育政策研究 所(H22 年 11 月)
小:H23 年度 中:H24 年度 高:H25 年度
・学習指導要領に定める目標の 達成状況を観点ごとに評価
・観点の表記内容を一部変更し
・国語5観点 , 他の教科 4 観点た を A, B, C の3段階で表記
・学習指導要領に定める目標に 照らして,その実現状況を総 括的に評価(目標に準拠した 評価,いわゆる絶対評価)
・5〜1の5段階で表記
・生徒の状況を総合的にとらえる。そ の際,生徒の優れている点や長所,
進歩の状況などを取り上げることを 基本となるように留意。
・学級・学年の集団の中での相対的な 位置付けに関する情報も必要に応じ て記入。
指導要録改善の通知 小・中・高:H22 年 5 月
H29 〜 30 改訂
学習指導要領の実施 各教科の学習の記録 総合所見及び指導上参考となる諸事項 「指導と評価の一 体化のための学習 評価に関する参考 資料」国立教育政 策 研 究 所(R2 年 3 月)
小:R2 年度 中:R3 年度 高:R4 年度
<観点別学習状況>
・学習指導要領に定める目標の 達成状況を観点ごとに評価
・すべての教科で観点の表記を
・3観点を A,B,C の3段階で表揃えた 記
・学習指導要領に定める目標に<評定>
照らして,その実現状況を総 括的に評価(目標に準拠した 評価,いわゆる絶対評価)
・5〜1の5段階で表記
・教師の勤務負担軽減の観点から「総 合所見及び指導上の参考となる諸事 項」については,要点を箇条書きと するなど記述の簡素化を図る 指導要録改善の通知
小・中・高:H31 年 3 月
3.「評定」に関する問題認識
こうして「評定」は学習評価の位置付けを変えながら,さまざまな改善を重ねて今日に 至っているが,生徒や保護者にとってその存在意義は昔も今も大きく変わっていないよう に見える。次に,中央教育審議会教育課程部会による「児童生徒の学習評価の在り方につ いて(報告)」(平成 31 年1月)が指摘した評定に関わる直近の問題認識を整理する。
(1)国が認識している「評定」の役割と課題 ①評定の役割と意義(要約)
◯評定には,各教科等における児童生徒一人一人の進歩の状況や教科の目標の実現状 況を的確に把握し,学習指導の改善に生かすことが期待されている。
◯観点別学習状況の評価を総括的に捉える評定は,児童生徒が教科の学習状況を明ら かにし,教育課程全体を見渡した学習状況の把握と指導や学習の改善に生かすこと が可能である。
◯評定は,各教科の観点別学習状況の評価を総括した数値であり,児童生徒や保護者 が学習状況を全般的に把握できる指標として捉えられる。また,高等学校の入学者 選抜や奨学金の審査等で広く利用されている。
②現状と課題(要約)
◯評定本来の趣旨が十分浸透しておらず,児童生徒や保護者の関心が学校における相 対的な位置付けに集中し,評定を分析的に捉えた観点別学習状況の評価の役割が十 分発揮されていない。
◯評定が高等学校の入学者選抜や奨学金の審査等に利用される際に,学校によって観 点別学習状況の評価から評定への総括方法が異なるため,観点別学習状況の評価の 活用が重要。
③改善の方向性
◯国においては評定を引き続き指導要録上に位置付けた上で,観点別学習状況の評価 と評定の双方の本来の役割が発揮されるようにするため,今後発出する指導要録の 改善通知において,様式等の工夫を行う。
◯高等学校入学者選抜や大学入学者選抜等において用いられる調査書を見直す際に は,観点別学習状況の評価の活用が考えられる。
◯評定の決定方法は今後も引き続き各学校で定めることとするが,国立教育政策研究 所が作成する学習評価の参考資料において,その取扱いの考え方を示すことが適 当。
◯通知表における評定の扱いは各学校で,入学者選抜における扱いについては選抜を 行う大学や高等学校等において適切な在り方を検討する。
これらを俯瞰すると,各教科の評定には,教科ごとの目標の実現状況の把握ができ,教 育課程全体を見渡した学習状況の把握と改善が可能であり,高校や大学の入学者選抜等で 用いられ広く認知されているので,引き続き必要だとの認識である。
一方,児童生徒の関心が観点別学習状況の評価よりも評定に偏り,本来の役割が果たせ ていないとし,そのため,もっと観点別学習状況の評価を啓発,活用することで,現状を 改善しようとしていることが分かる。また,啓発が進まないのは,高等学校の入学者選抜 における評定の扱い方にも一因があると分析している。
この報告では,高等学校の入学者選抜に対する問題点も指摘されているので同様に整理 しておきたい。
(2)高等学校入学者選抜において中学校の学習評価を利用することについて ①中学校の学習評価を利用するメリット
◯学力検査を実施しない教科等の学力を把握することができる。
◯学力検査当日の一時点での成績だけでなく,中学校の一定期間における学習評価を 踏まえることで,当該生徒の学力をより正確・公平に把握できる。
◯学力検査では把握することが難しい観点も含め,「知識・技能」,「思考・判断・表現」,
「主体的に学習に取り組む態度」の各観点が把握できる。
②中学校の学習評価を利用するデメリット
◯厳格な公平性が求められる入学者選抜に利用されるため,教師が評価材料の収集や 記録,保護者への説明責任を果たすことに労力を費やす一方,学習評価を児童生徒 の学習改善や教師の指導の改善につなげていくという点がおろそかになっている。
◯中学生が「内申点をいかに上げるか」を意識した学校生活を送らざるを得なくなっ ている。例えば,授業中の話合いや生徒会で意見を述べるときに教師の意向を踏ま えたり,本意でないまま授業中に挙手したり,生徒会の役員に立候補したりするな ど,自由な議論や行動の抑制につながっている場合もある。
◯入学者選抜では調査書が大きな比重を占めていることから,中学校における学習評 価やひいては学習活動に大きな影響を与えている。
③高等学校入学者選抜の改善の方向性。
◯入学者選抜の方針や選抜方法の組合せ,調査書の利用方法,学力検査の内容等につ いて見直し,質的改善を図る。
◯調査書については,学力検査の成績との比重,学年ごとの学習評価の重み付け等に ついて検討すること。また,各高等学校の入学者選抜の方針に基づいた適切な調査 書の利用となるよう改善することが必要。
◯働き方改革の観点から,調査書の作成のための過重な負担や生徒の主体的な学習活 動に悪影響がないよう,市町村教育委員会及び中学校等との情報共有・連携を図る ことが重要。
これらを俯瞰すると,中学校の学習成績を入試選抜に用いることは,入学者の学習の達 成状況を正確に捉える意味で肯定的に捉える一方,中学生の学校生活に不健全な影響があ り,中学校の学習活動に大きな影響を与えていると認識している。そのために,高等学校 側の入学者選抜の見直しや質的改善を図るべきだと分析している。
中央教育審議会教育課程部会による「児童生徒の学習評価の在り方について(報告)」(平 成 31 年1月)において,このような指摘がなされたのは興味深い。なぜなら,こうした 問題は学校現場で以前から認知されてきた内容であるが,前回(平成 20 年改訂)の学習 指導要領の改訂にともなう「児童生徒の学習評価の在り方について(報告)」(平成 22 年 3月)では,「異なる学校段階の間での児童生徒の学習状況を円滑に伝達するため,評価 の結果が進学等において活用される都道府県等の地域ごとに一定の統一性を保つことも考 えられる。また,そのような評定の決定の方法を対外的に明示することも求められる。」 と提言されてはいるものの,具体的な問題点に踏み込んでいなかったからである。
今回の改訂に際して,中学校における「評定」の問題点についてこれほど踏み込んで議 論した点は評価できるが,その利便性ゆえに引き続きこれまで通りとしたことは,中学校 における学習評価の妥当性・信頼性の確保だけでなく,「観点別の学習状況の評価」より も改善を図ることが難しい背景が「評定」にあることを伺わせる。
4.設置者による「評定」の信頼性を確保する取組
これまで見てきた通り,中学校における学習評価の妥当性・信頼性の確保は,常に高等 学校の入学者選抜と表裏一体であった。集団の特性に依らず学習指導要領が目指した目標 と評価規準に基づいて評価されるはずの本来の役割は,前出の「評価の結果が進学等にお いて活用される都道府県等の地域ごとに一定の統一性を保つこと」とされたことによって,
自治体ごとにさまざまな解釈がなされていった。
そこで,学習評価の妥当性・信頼性の確保が,高等学校の入学者選抜とどのように関係
しているのか,自治体における「評定」の取り扱いについて東京都と千葉県を例に見てみる。
(1)東京都の場合
東京都教育委員会では,学習指導要領の目標に準拠した評価の客観性・信頼性を確保す ることを目的に,都内公立中学校第3学年及び義務教育学校第9学年の評定状況の調査 を,目標に準拠した評価が導入された平成 14 年度より実施しており,毎年度末の3月に 都のホームページで公表されている。(令和元年度時点)妥当性には言及せず,客観性を 高めることに力点が置かれているのは,高等学校の入学者選抜を意識したものだからであ ろう。
調査対象の公立中学校は中等教育学校,義務教育学校を含む。都内 623 校(平成元年度 の場合)である。調査している「評定の状況」とは,12 月末現在の9教科の「評定」の人 数であり,高等学校に送付する調査書記載の評定の人数と同じである。1,2年生の評定 は調査対象となっていない。
このうち,調査対象 623 校を合計した評定分布(割合)。調査対象人員が 40 人以下の学 校等を除いた 579 校の個別の評定分布,すなわち,各学校が教科ごとに何人の生徒に「5
,
4,
3,
2,
1」をつけたかの割合。さらに,特定の教科で「5が 50%以上」,「1,
2がまっ たくない」など評定割合における特異な評定状況を示している教科のある学校を公表して いる。(令和元年度時点)ただし,公表しているのは学校名ではなく,市町村名とこの公表のために任意に割り振 られた学校番号である。
都では,この調査によって管下の各中学校等における評定分布状況を分析して課題を把 握するとともに,その課題を踏まえた指導・助言を継続的に行い,そのうえで入学者選抜 において,成績一覧表及び調査書に記載されている目標に準拠した評価の客観性・信頼性 の確保と適正な実施を担保するとしている。
また,学習評価に関する基本的な考え方から実践に至るまで網羅した「子供たちに未来 の創り手となるために必要な資質・能力を育む指導と評価の一体化を目指して」(令和2 年9月)を作成して,新学習指導要領への対応を示しているものの,「観点別学習状況の 評価」から「評定」への総括方法については,国の例示に倣って基本的な考え方を例示す るにとどめている。
(2)千葉県の場合
千葉県教育委員会でも東京都教育委員会と同様に,各中学校の3年生における評定分布 を調査してホームページで公表しているが,その有り様は大きく異なっている。公表され
ている情報は高等学校の入学者選抜目的に特化されており,中学校における学習評価の改 善を目的している等の趣旨は,少なくとも公表されている資料からは読み取れない。(令 和2年7月時点)
公表は 「千葉県公立高等学校入学者選抜における学習成績分布表等の公表について」
と題し,各中学校の実名入りで第3学年の各教科の評定分布が「学習成績分布表」と称し て公表されている。
また,9教科3学年分の評定合計の学校平均値も公表されており,千葉県の高等学校入 学者選抜において選抜資料の補正に使用されている。具体的には,「算式1」と称し,千 葉県教育委員会が設定した標準値と学校平均との差を志願者個人の評定合計に加算,また は減算している。
例えば,多数の生徒に「5」や「4」の評定を付けた中学校では,学校平均が県が示し た標準値より高くなることから,当該校の生徒は,評定合計からその差を減じられたもの が高等学校入学者選抜資料になるのである。
にわかには信じ難いが,入学者選抜で自校生徒に有利に働くよう評定が恣意的に高くさ れるといった批判等が背景にあったことも考えられる。こうした問題は絶対評価導入初期 にいずれの自治体でもあったことであり,生徒の学習成績とは別にその学校の評定分布表 の提出を求めて,志願者の相対的な位置を知ろうとする動きもあった。
なお,同県では令和3年度入学者選抜よりこれを改め,志願者の評定合計を補正せずに そのまま用いるとしている。
これらの取組によって,学習評価の在り方そのものに大きく踏み込まず,各学校の評価 結果(評定合計等)を公表することにより,各中学校および教員に他校や他の教員と大き く外れないように意識させていることが分かる。東京都は「学習指導要領の目標に準拠し た評価の客観性・信頼性を確保することを目的」とはしつつも,調査対象は第3学年であ り,調査書に記載される評定であることを見れば明白であるし,公表の際の注釈にこの評 価が高等学校の入学者選抜に使用されたことを記載していることからも明らかでいる。
一方,千葉県は東京都のように客観性や信頼性の確保といった目的は明示,中学校の実 名を付して評定分布を公表している。東京都のように(名目とはいえ)学習評価の改善の 意図はここからは伺えない。
こうしたことは,前出の中央教育審議会教育課程部会による「児童生徒の学習評価の在 り方について(報告)」(平成 31 年1月)で指摘された「中学生が内申点をいかに上げる かを意識した学校生活を送らざるを得なくなっている。」といった指摘もさることながら,
そもそも中学校教員の評価活動そのものに疑義が呈され,高等学校の入学者選抜が大きな
影響を与えていることが分かる。
それは,「学習評価の公平性と信頼性の確保のための調査」と称しながら,その調査項 目が観点別の評価にまでは及ばず「評定」に限っていること。また,調査対象が高等学校 入学者選抜で活用されるものである点からも明らかである。すなわち,学習評価の信頼性 の確保を高等学校入学者選抜の公平性を「名目」として歪めてしまっているとも言えるの である。
5.観点別学習状況の評価から「評定」への総括に関する取組
神奈川県においても,客観的で公正な評価となるよう工夫・改善に役立てるためと称し て,かつて「公立中学校の学習評価に関する調査」が実施され,前出の東京都や千葉県の ように中学校3年生の評定配分を,学校名を含めて県教育委員会のホームページに公表し てきた。しかし,平成 24 年度を以って調査自体を終了し,現在では公表していない。
一方,同県では「観点別の学習状況の評価」から「評定」への総括方法についてモデル を示すことにより,中学校における評定の客観性を確保しようとしてきた。
そこで,観点別学習状況の評価から評定に総括するモデルについて,国の考え方と神奈 川県のケースを確認しておきたい。
(1)国が示した「評定」への総括モデル
目標に準拠した評価(いわゆる絶対評価)が導入された平成 10 年学習指導要録の改訂 による平成 13 年指導要録の改善通知以降,評価規準の作成や学習評価の手順等について は,国立教育政策研究所が参考資料を公表することによって,学校における学習評価の具 体策について支援している。
最初の参考資料は平成 14 年2月に公表され,以後,学習指導要領の改訂,指導要録の 改善通知に伴って示されてきた。直近では令和2年3月に公表されている。各学校や教師 はこの参考資料,またはこれを基に作成された教育委員会のガイドライン等を参考に運用 していると考えられる。
この平成 13 年指導要録に基づく参考資料(平成 14 年2月)において,「観点別学習状況 の評価」から「評定」への総括方法については次のように述べられている。(要約)
◯ 観点別学習状況の各観点が,各教科の評定を行う場合において基本的な要素となる ものである場合,観点別学習状況の評価結果を総括していけば,評定に至ると考えら れる。
◯ 観点別学習状況の評価の評定への総括においては,4観点の重点の置き方にかかわ
らず,「A
,
A,
A,
A」であれば「4」又は「5」,「B,
B,
B,
B」であれば「3」,「C,
C,
C,
C」であれば「2」又は「1」になる。◯ 上記の場合を除き,各観点のA,B,Cが決まれば評定も必然的に決まるというも のではない。同じ「A」「B」「C」という評価結果についても,それぞれの評価結果 が示す実現状況には幅があり,このことが評定への総括に反映されることも想定され る。
◯ 評定への総括については,各学校において自校における指導の重点や評価方法等を 踏まえ,評定への総括について検討し,適切な方法を定めておくことが必要である。
また,3観点に整理された平成 31 年指導要録に基づく参考資料(令和2年3月)では,
次の通りとなっている。(要約)
◯ A,B,Cの組合せから評定に総括する場合,「BBB」であれば3を基本としつつ,
「AAA」であれば5又は4,「CCC」であれば2又は1とするのが適当である。そ れ以外の場合はあらかじめ各学校において決めておく必要がある。なお,観点別学習 状況の評価結果で表された学習の実現状況には幅があるため,機械的に評定を算出す ることは適当ではない場合も予想される。
◯ 評定は中学校学習指導要領等に示す各教科の目標に照らして,その実現状況を「十 分満足できるもののうち,特に程度が高い」状況と判断されるものを5,「十分満足 できる」状況と判断されるものを4,「おおむね満足できる」状況と判断されるもの を3,「努力を要する」状況と判断されるものを2,「一層努力を要する」状況と判断 されるものを1という数値で表される。しかし,常にこの結果の背景にある児童生徒 の具体的な学習の実現状況を思い描き,適切に捉えることが大切である。
これによれば,国おける観点別学習状況の評価から評定への総括の考え方の基本は4観 点から3観点に整理されてもほとんど変わらないことがわかる。
(2)神奈川県の場合
神奈川県教育委員会では,学習評価に関する連絡会議において,「総括に至るモデル(平 成 16 年6月 23 日)」を開発し,「評価資料集-評価活動の参考資料として」を示して県内 の公立中学校に示している。したがって,県内の公立中学校においては,「観点別学習状 況の評価」から「評定」への総括の方法については,これに準拠していると考えられる。
その特徴は3段階の「観点別学習状況の評価」を「A」は「A 」と「A」,「C」は「C 」 と「C」に分けて,5段階にしたことである。なお,指導要録への記入はこれらを区別せ
ず3段階としている。
これは,観点別学習状況の評価を初めから「評定」に総括するための手段として捉えた ものである。したがって,Aと判定された評価をAとA に,Cと判定された評価をC と Cにするための基準が必要になる。もとより中教審においても「同じ「A」「B」「C」で も実現状況には幅があり,このことが評定への総括に反映されることもある。」と見解を 示しており,「AAAA」で評定4,「AAAB」で評定5といった見た目の逆転現象は想 定されることである。
神奈川県では観点別学習状況の評価を5段階にしてこの逆転現象を防ぎ,また4観点別 学習状況の評価のすべての組み合わせで自動的に評定に換算することで客観性と信頼性を 確保しようとするものである。(図1)
このことは,令和3年度からの新しい学習指導要領の全面実施に合わせて,4観点から 3観点に整理された場合でも同様の方法で換算することが,県が発出した「カリキュラム・
マネジメントの一環としての指導と評価」神奈川県教育委員会(2020 年3月)で示され ている。(図2)
東京都や千葉県とは異なるアプローチであると同時に,高等学校の入学者選抜だけでな く,各学校で検討すべき総括の具体的な方法まで踏み込んだ点が特徴である。
図1.「平成 22 年度 評価資料集4-評価活動 の参考資料として-中学校」神奈川県教 育委員会委員会(平成 23 年2月)より
図2.「カリキュラム・マネジメントの一環とし ての指導と評価-学習評価資料集(小学 校・中学校)」神奈川県教育委員会委員 会(令和2年2月)より
6.考察
ここまで,中学校における「評定」の取り扱いについて,その変遷や取り扱いの問題点 とその背景について現状と課題をみてきた。
東京都や千葉県では,高等学校の入学者選抜資料となることを前提に,公表という手段 で各中学校の評価活動の適正化を図ろうとする意図が見える。一方,神奈川県では評定へ の総括方法を例示して同様の目的を果たそうとしている。
神奈川県の評定への総括方法まで踏み込んだモデルは,経験の少ない教師にも分かりや すく扱いやすい方法である。一方で,評価活動の当初より序列化を念頭におく教師も少な くないと考えられる。また,評定に総括する方策として唯一無二のものと考えて思考停止 し,評価の妥当性の検証を疎かにしてしまうことも考えられる。
一例を挙げれば,観点別学習状況の評価から評定に総括する場合の各観点の比重であ る。4観点を評定に総括する従来の評価方法では,学力の3要素のひとつである「基礎的・
基本的な知識・技能」を「知識・理解」及び「技能」の2観点で評価しており,4観点を 等価で総括すると「基礎的・基本的な知識・技能」の力を自動的に2倍の重みで総括した ことになる。また,5観点で評価する国語ではさらに事情が複雑である。
一方,3観点を評定に総括する新しい評価方法でも,学習評価の基本構造(図3)から 考えたとき,学力の3要素のうち「学びに向かう力や人間性等」には個人内評価で行う要 素も含まれており,3観点のひとつ「主体的に学習に取り組む態度」を他の2観点と等価 で総括するのであれば,その考え方について生徒や保護者に合理的に説明できるようにし ておく必要がある。
そもそも評定に関する信頼性の問題は,評定の総括方法ではなく,個々の観点別学習状 況の評価における評価資料の収集や評価のあり方から始まっている。
学習評価の問題は,保護者が消費者意識をもって学校教育を捉えている傾向が年々強 まっている現状では,観点別学習状況の評価という質的評価を数値化して評定に総括して いる時点で目が向かないのは当然ともいえる。
しかし,カリキュラムマネジメントの視点からも学校教育における学習評価の本来の役 割はこれから一層重要になってくるであろう。各教科の学習評価が学校教育目標の実現に 直結するからである。学校現場では個々の教師がこれまで以上に学校組織の一員としての 自覚を持って評価計画を立てる必要があり,また,その結果を担当教科の教員だけでなく,
全教員で検証する必要がある。
また,妥当性・信頼性のある学習評価のためには,積極的な情報開示が必要である。前 出のように自治体が各学校の評定分布を開示することは,客観性を担保するためと称しな
がら,学校間に過度の横並び意識を植え付ける点で課題が多い。学習評価の本質を歪める ことにもなりかねない。しかし,各学校が評価規準のみならず評価資料の収集方法やその 評価結果について,主体的かつ積極的に生徒や保護者に開示することは,学習評価の妥当 性や信頼性を高めることに直結するであろう。学習評価に限らず,カリキュラムマネジメ ントの成功はこの情報開示にかかっていると言っても過言ではいない。
7.おわりに
ここまで,新学習指導要領における評価・評定について,国や教育委員会の取組や考え 方を確認してきた。カリキュラム・マネジメントの視点からも学力の3要素をすべての教 科で「知識・技能」,「思考・判断・表現」,「主体的に学習に取り組む態度」の3観点に整 理したことは画期的であり,これまでに比べて圧倒的に児童生徒や保護者にも分かりやす くなったといえる。指導要領改訂の方針と同時に,学習評価の大枠を示してきた中央教育 審議会の強い意図が感じられる。
一方で,分析的に捉えた観点別の学習状況の調査を総括した評定については,さまざま な課題があることが中央教育審議会でも議論されたが,広く認知され教科ごとの学習達成 度を理解しやすいことを主な理由として,引き続き用いることになった。学習評価の本来 の役割への軌道修正はすべて学校現場に委ねられたのである。
図3.児童生徒の評価の在り方について(2019 年文部科学省)
なお,高等学校の入学者選抜はこれまで数々の工夫や改善が重ねられ,自治体によって は年を追うごとに複雑化している。特色検査の実施や面接シートによる全受検者の面接試 験の実施(神奈川県),調査書に記載された中学校1年生から3年生までの内申点(評定)
の取り扱いの高等学校独自の重み付け(埼玉県)など,評定の取り扱いについては,高等 学校でもまた中学校側でも年々教職員の大きな負担になっている。その背景を考えれば,
入学者選抜に評定だけでなく観点別学習状況の評価を用いたとしても入学者選抜を煩雑化 するだけで,受験産業を賑わせても評価の本来的な役割を回復できるわけではないことだ けは押さえておきたい。
目標に準拠した評価(いわゆる絶対評価)になったことで,評価・評定の作業が学校現 場の負担となっていることはかねてから指摘されているが,それは高等学校の入学者選抜 資料として用いられているからだけでない。ペーパーテストだけなくポートフォリオやパ フォーマンステストなど,評価作業そのものにも一因があるのである。今後は妥当性や信 頼性だけでなく,効率的な評価活動についても議論や検討が必要だろう。
指摘されているように5段階で数値化された評定には,各教科の目標に対する達成状況 を生徒や保護者に分かりやすく示すことができるという点で確かに有益ではあるが,メ リット・デメリットを考えたときに,少なくともその表記のあり方については再考を要す る時期にあると思われる。
また,今回の改訂によって学力の3要素を教科横断的に整理された3観点で示すことが できるようになったことで,評定に頼らずとも当該教科の達成度は俯瞰しやすくなってい る。評定について改めてその役割を検討する良い機会ではないだろうか。
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・「小学校
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中学校,
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・「指導と評価の一体化のための学習評価に関する参考資料」国立教育政策研究所(2020 年3月)
・「カリキュラム・マネジメントの一環としての指導と評価」神奈川県教育委員会(2020 年3月)
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