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投稿論文 ポーランド経済と EU ファンド Contribution of EU Funds to Economic Growth in Poland Matsuura, Mitsuyoshi Doctoral Student, Graduate School of Economic

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ポーランド経済と EU ファンド

松 浦 光 吉

(神戸大学大学院経済学研究科博士課程後期課程)

Contribution of EU Funds to Economic Growth in Poland

Matsuura, Mitsuyoshi

Doctoral Student, Graduate School of Economics, Kobe University

Abstract

Poland has shown strong economic growth for 20 years since 1995, and is also the only EU country that achieved positive GDP growth in 2009 during the global recession.

Several studies have looked at the causes of this good economic performance, and attribute it to such as the effective utilization of EU Funds, stimulus by macroeconomic policy, devaluation of Polish currency, prudential control or regulation in the financial system and so forth.

Poland is a country well favored with foreign aid both before and after its accession to the EU from international institutions including the EU. When the focus is given to EU Funds after joining the EU on May 1, 2004, it is easy to understand that such funds play an important role as key driver of economic growth in Poland.

Poland enjoys a comparatively big allocation of EU Funds, indeed it was the top recipient of funds when the Multiannual Financial Framework (MFF) was in effect (2007–2013). The financial transfer of EU Funds is 3.7 times greater than the Polish con-tribution to the EU, and this amounts to 4% of Polish overall GDP (3% by Structural Fund and 1% by Common Agricultural Policy (so called CAP)) according to 2013 sta-tistics. Furthermore the ratio of EU Funds to the governmental budget is 10-20%. The G20 members at the London Summit 2009 agreed to a financial stimulus of around 3% of GDP to mitigate the global recession. Thus the 4% of GDP from EU Funds should contribute greatly to Polish GDP growth.

EU funds can be classified by 2 main categories, one is Structural Funds and the other is CAP payments mentioned above. Structural Funds are used to support the mod-ernization of infrastructures by member states or between member states. Therefore it can be utilized as fiscal investment to promote GDP growth. Most CAP payments are al-located to farmers as direct-aid payments, which may result in an expansion of domestic demand (as household consumption). In fact, GDP ratio of the construction industry in Poland is 2% higher than in other EU member states, and the consumption propensity is also 5% higher.

EU Funds are costless financial grants from the EU without any fiscal burden falling

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on the Polish government. Hence there is no serious concern about crowding-out in the financial market, nor about rising interest rates of government bonds. EU Funds are, therefore, a very effective tool for Polish authorities to control economic growth. As they fully understand its function and importance in their national economy, Poland had tried as much allocation of EU Funds as possible under the current MFF regime.

In the recent economic forecast by the EU, Poland is expected to continue its good economic performance in the coming years mainly due to robust domestic demand. But there is fear that the Polish economy may fall into the Middle-income trap over the long-term, if they continue to depend on EU Funds for the progress of their economy.

は じ め に ポーランドは,1995 年より 20 年間に亘りプラス成長を続け,更に,世界同時不況発生時, 欧州連合(EU)諸国においてポーランドのみが 2009 年 GDP 成長率プラスを達成し,EU の 優等生との賞賛を浴び,堅調な経済成長が評価されている(図 1)。 かかる経済成長のマクロ分析として,1)MG 2010,40&60,2)OECD 2012,11,3)Orlowski 2011,15,4)家本博一 2014,97–121,5)三菱東京 UFJ 2011,3–5 がある。これらの研究で 指摘されている要因を整理・列挙すると, ・ 「相対的に大きい国内市場」が需要サイドの落ち込みを抑制し ・ 「国内マクロ経済政策による経済刺激策及び危機対応策」が景気の下支え効果をもたらし ・ 「通貨ズウォティの減価」が輸出競争力を維持し 図 1 実質 GDP 成長率

(出所)GDP Growth Rate: EUROSTAT, http://ec.europa.eu/eurostat/tgm/table.do?tab=table&init=1&languag e=en&pcode=tec00115&plugin=1 (accessed 2015-08-11).

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・ 「相対的に低い輸出比率」が EU 諸国(特にドイツ)向け輸出減少による景気後退を抑制し ・ 「金融システムのプルーデンシャル規制」や「相対的に少ない家計部門の負債」が金融市 場の混乱を防止し ・ 「対内海外直接投資,海外労働者からの所得移転や EU ファンドの流入と増大」が供給サ イドの投資拡大効果をもたらした等が挙げられる。 更に,全ての研究で言及されているのが,EU ファンドの流入とその活用が果たした役割の重 要性である。 ポーランドは,1989 年市場経済移行を開始した。コウォトコ 2005,270,354 によると,「そ の際にポーランドは国際機関より多くの支援を受けており,1994 ∼ 1996 年の年平均の一人当 り支援額 US$72 は最も多い金額であった」と説明している。 ポーランドは,2004 年 EU 加盟前は PHARE,加盟後は EU ファンドの形で多額の資金援助 の獲得に成功している。先期 2007 ∼ 2013 年の EU 予算年度において最大の受益国であったが, 2014∼ 2020 年の今期予算年度においても最大の受益国となっている(1)。この様に,ポーラン ドは,市場経済移行開始より現在に至るまで 25 年以上海外よりの支援を継続的に受けている。 又,2013 年 11 月には地域開発省と運輸・建設・海事経済省を統合し,インフラ(基盤)・開 発省を設立しているが,これは,ポーランド政府が自国の経済成長に対する EU ファンドの貢 献度が大きく重要である事を認識しているからであろう(2) 筆者の知る限りにおいて,EU ファンドがポーランド経済に与えた影響を大きく取り上げた 日本の論文は多くは見受けられない(3)。又,EU ファンドを一括りにしてその重要性を訴えつ つも,個々のファンドの内訳に言及した分析は見つけられない。従って,本稿では,個々のファ ンドの把握に努めつつ,EU ファンドが,金額,政策継続期間何れの観点からもポーランド経 済発展にとって重要な政策の一つであることを再認識したい。それと同時に,EU ファンドの 負の貢献も分析してみたい。 ポーランド経済の力強さを理解するにはヨーロッパで唯一プラス成長を達成した2009年に注 目するのが適切と判断する。従って,2009年を含むEU先期予算年度(2007∼2013年)における EUファンドがポーランド経済に与えたインパクトを主にマクロ経済の視点で分析してみたい。 1 EU ファンドとは 先ず EU 予算の概略に付いて述べておきたい。EU 予算は中期(多年度)予算枠組み(MFF) として欧州委員会で原案が策定され,理事会,欧州議会に承認を求めて成立する。MFF の一 期間は現状では 7 年間となっている(最低 5 年間)。先期予算は 2007 ∼ 2013 年 9,800 億ユーロ (現行価格),今期予算は 2014 ∼ 2020 年 9,600 億ユーロ(2011 年価格)であり,GNI 比 1% で ある。今期 MFF の予算項目は,政策内容別に金額の大きなものから列挙すると,知的・包括 的成長,持続可能な成長:天然資源,安全と市民権,グローバル・ヨーロッパ,行政,補正と

なっている(4)。MFF とは別途,緊急援助準備金(Emergency Aid Reserve),欧州グローバル化調

(1) CAP関連を除き,先期 670 億ユーロ,今期 780 億ユーロの割当額を得ている。 (2)『JETRO 通商弘報』2014 年 2 月 10 日及び MG 2010, 60.

(3)田中信世 2003 及び上述の家本 2014, 110 が挙げられる。 (4)『JETRO 通商弘報』2013 年 2 月 12 日,EU 2013, 8.

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整基金(European Globalisation Adjustment Fund),団結基金(European Union Solidarity Fund), 柔軟性制度(Flexibility Instrument),欧州開発基金(European Development Fund)がある。

EUレベルでの合意に基づき,欧州委員会と加盟各国は MFF の各国レベルでの執行枠組み を定めるためのパートナーシップ協定と優先各分野の実施プログラムに関する協議・合意を得 ることになっている。 尚,これ以降においては,特段の但し書きが無い場合,執行金額が確定している 2007 ∼ 2013年の先期 MFF をベースに述べることとする(5) EUファンドは,大きく二つのカテゴリーに分けられる。第一は,1986 年調印の単一欧州議 定書で枠組みが策定された結束(地域)政策(Cohesion Policy)に基づくもので,「域内地域 間の経済的・社会的不均衡の是正・拡大予防を図る」のが目的である(6)。EU は 6 ヶ国の原加 盟国から始まり,6 回の拡大を経た現在 28 ヶ国で構成されている。拡大と共に,域内格差が 増大し,諸富徹 2010,135 によると,大きな流れとしては,結束政策の方策は地域間再配分の ための政策手段から,地域の競争力と雇用を高める投資政策の為の手段へと変化しているが, 現行では,「欧州 2020」の目的である成長と雇用の創出,気候変動とエネルギー対策,貧困と 社会的排除の削減に関わる施策を積極的に展開している(7)。 第二は,1962 年に開始した共通 農業政策(CAP)に基づくもので,優先事項は,「食品の質と安全を保障する」,「環境と動物 福祉を順守する」,「世界貿易をゆがめることなく,EU の農家が世界で競争力を持てるように する」,「農村地域を保護し,活力と持続可能性を高める」との 4 点である。CAP 制度は二つ の柱からなりたっており,一つは農家への所得補助,二つには農村開発である(8) 各々のファンド(結束政策と共通農業政策に基づくファンド)の規模は次の通りである(9) 結束政策(Cohesion Policy)に基づくもの, ・ 欧州地域開発基金(ERDF):2,000 億ユーロ(26.5%) 地域間の不均衡を補正することで,EU における経済と社会的結束を強化する。優先分野 は,技術革新・研究,デジタル課題,中小企業支援,低炭素社会実現である。 ・ 欧州社会基金(ESF):760 億ユーロ(10.0%) 人的資本に対する投資で,雇用と教育機会の改善に焦点を置いている。又,貧困リスクに 対して脆弱な人々の状況改善に資する目的を持っている。 ・ 結束基金(CF):700 億ユーロ(9.3%) 一人当たり GNI(総国民所得)が EU 平均の 90% より少ない加盟国・地域に適用される。 目的は,経済・社会的不均衡を減少して持続可能な発展を促進する為である。 共通農業政策(CAP)に基づくもの, ・ 欧州農業保証基金(EAGF)及び欧州農村開発基金(EAFRD):4,100 億ユーロ(54.2%) EAGFは,農家への所得補助,EAFRD は,農村開発・振興を目的としている。 計:7,560 億ユーロ(100%) (5)今期予算は,先期よりも 3.4%(340 億ユーロ)削減されている。 (6)地域政策は,田中素香 2015, 246–258 が詳しい。 (7)国 土 交 通 省 国 土 政 策 局 http://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/international/spw/general/eu/index.html (accessed 2016-01-21) (8) EU 2014a.

(9) European Commission, “Cohesion Policy Data”, https://cohesiondata.ec.europa.eu/ (accessed 2015-08-14)

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2 ポーランド向け EU ファンドの内容 構造基金(ERDF,ESF,CF と EAFRD の一部を含む)の各国別割当額は,ポーランドが第 1位(19%)で,第 2 位スペインの倍近い配分がなされている(CAP 関連ファンドは含まず)。 EU加盟国は,EU への拠出金(分担金)負担義務を負っているが,ポーランドは EU 分配金 が拠出金を上回る受取超過国である(10) 尚,上位 10 位以内に,中東欧が 4 ヶ国(ポーランド,チェコ,ハンガリー,ルーマニア) が含まれている。これは,CF が一人当たり GNI(総国民所得)が EU 平均の 90% より少ない 加盟国に適用される点と,相対的に遅れている中東欧諸国の道路等インフラ整備に予算が優先 的に割り当てられているためであろう(中東欧諸国への結束基金の配分が多くなっている(11))。 上述のポーランドに割り当てられた EU ファンドは,総額 670 億ユーロで(12),1 年度当り約 96億ユーロとなり(総額を 7 年で除した金額),GDP 比 2.4% である(因みに,ポーランドの 2013年 GDP は現行価格ベースで 3,960 億ユーロ)。更に,CAP 関連でのポーランドの受取が 2013年 50 億ユーロあるので(13),EU ファンドとの合計は GDP 比 3.7% と相対的に大きな存在 となっている。 図 2 は,EU ファンド(構造基金と CAP 資金)の各国別一人当たり割当額を示している。ポー (10) 2012年を例にとると,負担金の 4 倍を受け取っている(EU 2014b, 3)。2007 ∼ 2013 年通期では 3.7 倍。 (11)ポーランドへの 2013 年結束基金支出は 160 億ユーロで,EU の中で最も多い(結束基金総額の 23%)。 (12) GDP比 3.8% を占め,EU-27 の中で第 2 位(1 位はラトビア)である。 (13) EU 2015a. 図 2 2007∼2013年MFF予算における一人当たりEUファンド(構造基金とCAP資金)割当額

(出所)EU Funds: European Commission, https://cohesiondata.ec.europa.eu/dataset/Bar-Chart-Total-EU-allocations- per-MS-2007-2013/swzn-t7x2?(accessed 2015-08-15)及び図 4 と同じデータを利用して筆者が作成。 EU人口データ:EU 2015b.

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ランドは人口が多いため,一人当たり割当額は,2,436 ユーロと 11 番目となっているが, EU-28平均額 1,442 ユーロ(総割当額を EU 総人口で除した金額)の 1.7 倍である。図の如く, 割当額は小国の方が相対的に有利な立場にある。 図 3 は,先期 MFF 予算からポーランドへの政策項目別歳出割合を示す。総額 830 億ユーロで, 9.4%を占める。ポーランドの EU-28 における人口比は 7.6% であるので,一人当たり割当額 は相対的に多くなされていると言える。 「成長と今日の為の結束政策」と「天然資源の保全と育成政策」で,97% であり,ほぼ 100%である。図の中でも記載しているが,前者は構造基金,後者は CAP が財源となっており, 構造基金はハード面への投資が中心となっている。 ポーランドにおける EU ファンド別の歳出内訳を表すのが図 4 である。ERDF が全体の 36% と最も大きく,CF は 18%,そして ESF 10% の順番となっている。これらのファンドは,主 に固定資本形成を目的に投資されるもので,景気刺激策として運用可能なものである。

上記以外に,CAP(EAGF & EAFRD)分野が 36% を占めている。CAP で最も大きなシェ アを占めるのが農家に対する直接支払である(CAP には,EAGF と EAFRD の資金源(ファ ンド)があるが,直接支払は EAGF からである)。2013 年ポーランドの場合 64% が直接支払 となっている(2007 ∼ 2013 年平均をとると 60%)。2014 年のポーランド農業所得は 2005 年 と比べ 80 ポイント上昇している(EU 2015a, 7)。農業所得好転の要因は,農産物価格の上昇 と言われているが,CAP 直接支払の農家所得に対する貢献度もかなり高いものと推定される。 ポーランド農業の対 GVA(Gross Value Added)比は,3.5% だが農業人口は総雇用者数の 12%

を占めており(14),ポーランドの家計部門消費性向 GDP 比 60% を考えると,個人消費に対す

図 3 2007 ∼ 2013 年 MFF 予算におけるポーランド向け歳出(政策項目別)

( 出 所 )European Commission, “EU expenditure and revenue 2007–2013 data download”, http://ec.europa.eu/ budget/financialreport/2013/foreword/index_en.html(accessed 2015-08-16)より筆者作成。

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る農業所得の貢献度は高いものと推定される。実際に,統計による家計部門消費の伸び率は, 2005年を 100 とすると,2009 年以降 120 以上の指数であり堅調な消費傾向を維持しているこ とが示されている。尚,農業部門に関しては,別途研究を続けたい。 3 EU ファンドのポーランド経済に対する貢献 経常収支,金融収支,EU ファンドの動きを示しているのが次の図 5 である。 ポーランド経常収支は徐々に改善の傾向を示しているが,恒常的に 5% 程度の赤字となって いる。2012 年までは金融収支(対内直接投資が殆どを占める)が,経常収支の赤字を補填し ていたが,2013 年には経常収支 −1.3% に対して金融収支 0.8% と金融収支だけではカバーで きず,EU ファンドと合わせてプラスを維持する状態となっている。対内海外直接投資(FDI) は,経常収支赤字の補填する役割を果たしていたが,近年減少傾向を示している。更に,FDI の内訳が「直接投資」から「ポートフォリオ投資」にシフトしているとの分析がある(15)。「ポー トフォリオ投資」は「直接投資」と比べ,流出入の変化が激しく,国際収支の均衡維持の観点 図 4 ポーランドへのEUファンド別支払明細(2007∼2013年度予算,支払ベース)及びGDP比

(出所)EU Paid Fund: European Commission, “EU payments to Member States with a breakdown by program-ming period, Member States, Funds, and years”, http://ec.europa.eu/regional_policy/en/policy/evaluations/data- for-research/ (accessed 2015-08-17).

EU CAP: European Commission, “Financial reports: EAGF and EAFRD”, http://ec.europa.eu/agriculture/ cap-funding/financial-reports/index_en.htm (accessed 2015-08-17).

GDP: Central Statistical Office, “Annual Macroeconomic indicators”, http://stat.gov.pl/en/poland-macroeconomic- indicators/ (accessed 2015-08-17).

Exchange rate: National Bank of Poland, http://www.nbp.pl/homen.aspx?f=/kursy/kursyen.htm (accessed 2015-08-17).

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からは,EU ファンドの様な相対的に安定資金の存在価値は今後とも高まってゆくと考える(16) EUファンドのポーランド・マクロ経済へのインパクトに付いて,EU 2014c, 232 は,先期 MFF結束政策によって当該期間の GDP 成長率を(EU ファンドが無かった時と比べ)年平均 1.7%,雇用率を 1% それぞれ上昇させたと評価している。 2009年を取り上げると,CAP を除く EU ファンドのポーランドへの歳出額は,52 億ユーロで, GDP比 1.6% を占める。各国の財政投資乗数は,当該国の状況によって,その数値は異なるが, 最近の研究では「1」が有力な推定値の一つではないかと言われている(17)。この推定値を参考

にすると,CAP を除く EU ファンドの GDP 比 1.6% に CAP(EAFRD)0.3%,及び CAP 直接 支払(EAGF)の貢献度 0.36%(CAP 直接支払 GDP 比 0.6% に消費性向 60% を乗じたもの) を加えると 2.26% となり,2009 年 GDP 成長率 2.6% の 90% を説明できることとなる。 図 4 の如く,2008 年より EU ファンドは右肩上がりで伸びており,2009 年以降経済成長の 下支えとして貢献したと言えよう。尚,ポーランド建設業の GDP 比は 7.4%(2009 年)で, EU-28と比べ概ね 2% 高い。これも GDP の大きな項目の一つである建設投資に対する EU ファ ンドの貢献度を示しているのではなかろうか。 ポーランド中央政府歳出に対する EU ファンドのインパクトを検討したい。図 6 の如く,EU ファンドの予算(歳出)比は,2007 年と 2008 年は何れも約 10%,2009 年 13%,2011∼2013 年 ほぼ 20% であり,決して無視できる数値ではない。又,2008 年から上昇傾向を示しているのが 図 5 ポーランドの経常収支,金融収支, EU ファンドの流入の GDP 比推移

(出所)経常収支,金融収支:Narodowy Bank Polski (National Bank of Poland), http://www.nbp.pl/homen. aspx?f=/en/statystyka/bilansplatniczy.html (accessed 2015-08-16).

EUファンド:前図 4 と同じ。

(16)ポーランド国立銀行 Balance of Payment によると,2013 年の対内海外直接等はマイナスとなったが,

これは市場経済移行後初めての事と言う。対内海外直接投資に関しては,別途詳細を研究したい。

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注目される。世界同時不況において,2009 年 G20 ロンドンサミットにおいて,参加国は協調 した財政出動を行うことを確認しあった(GDP 比,日本 15%,米国 5.5%,ドイツ 3.4%,EU 3.3%等)(18)。ポーランド政府も 2009 年は歳出を拡大しているが,前年比伸び率では減少して いる(2008 年 10.1% から 7.3%)。歳出伸び率が前年比減少傾向であることは,景気刺激策とし ての財源を自国の財政ではなく EU ファンドに依存していることを示唆していると言えよう。 EUファンドは,使途が制限されているが,自国の申請を基にその使途が決定されているも ので,ファンド受領国(地域)の自由度は高い。EU からの借入ではなく資金移転(格差是正 の為の再配分)であり,国債を発行する必要もなく,税負担や資金負担なし,返済不要で確保 できる資金であり,予算上貴重な歳入源である。一方で,注目したいのは,ポーランド予算が 2009年からほぼ 3,000 億ズウォティでほぼ一定であることである。世界同時不況対策として, 各国は GDP 比 3% 以上の財政出動を行った。ポーランド 2009 年歳出 3,000 億ズウォティは 2008年度 2,800 億ズウォティと比べ 7.2% の増加(GDP 比では 1.5% の増加)となっているが, 前年伸び率 10.1% と比べると前年比約 3% マイナスとなっている。これらから,ポーランド は政府の財政出動には大きく依存せず経済成長を遂げたことになる。 ポーランド外務省によると(19),EU ファンド関連の事業は 177,800 プロジェクトで,金額は 図 6 ポーランド中央政府歳出額の推移と前年比伸び率及び EU ファンドの歳出比

(出 所)Budget 及 び 伸 び 率:CSO Macroeconomic indicators, http://stat.gov.pl/en/poland-macroeconomic-indicators/ (accessed 2015-08-20).

EU Fund:図 5 データを使用して筆者が作成。

(注)EU ファンド流入額には,2000 ∼ 2006 年予算分も含む(同期予算で,2007 ∼ 2013 年期に支払いが 実行されたもの)。

(18)経済産業省 2009, 7.

(19) Ministry of Foreign Affairs, http://polska.pl/en/business-science/investments-projects/eu-funds-poland/

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5,600億ズウォティ(内 EU 負担 56%)に上り,国民一人当たり 8,000 ズウォティ(約 1,780 ユー ロ)が配分されていることになる(20)。主な使途は,インフラ・環境,地域振興,人的資本投資, 新規開拓分野で,具体的には,道路建設・整備(2,600 km まで拡張),鉄道近代化・駅整備, 環境改善(上水道整備等)が挙げられる。事業内容を見ると約 70% がハード面での投資である。 ハード面に対する投資は,短期の経済成長に対しては有効である。実際に,上述の如く EU ファ ンドの GDP 成長率への貢献は大きいものがある。但し,長期的な経済発展を図るには,研究 開発及びその為の人的資源の向上を実施してゆくことが重要である。一方で,ポーランドの研 究開発投資は相対的に少ないことが知られている(21)。従って,現行の GDP 比 0.57%(2005 年) を 1.5% まで増加させる事が求められている(22)

一人当たり GDP(2014 年)を PPS(Purchasing Power Standard)ベースをみると,EU-28 を 100 として,ポーランドは 68 と相対的に低い。2004 年の 49 と比較すると 19 ポイント向上 しているが,ここ数年足踏み状態になっている。経済成長率をハンガリーと比較すると,ポー ランドの方がはるかに高いにも関わらず,一人当たり GDP は同じ 68 であり,EU ファンドが GDPの底上げに寄与しているとは言い難い。雇用率は上述 EU 2014c, 232 にもある如く,2007 ∼ 2013 年の間に 3% 上昇している。しかしながら,失業率は,2007 年 11.82% から 2013 年 6.04% へと 5.78% 低下すると推定されていたが(23),結果は 8.5% から 9.8% へと 1.3% 上昇(悪化) している。EU ファンド活用によるインフラ整備が進展する事で,更なる対内 FDI 増加を期待 するのが一般的だが,実際には FDI 流入額は減少している。この点を考慮すると,EU ファン ドに依存するあまり,経済発展の為のインフラ,とりわけ民間部門の投資拡大の為の環境整備 がおろそかになっていないかが懸念される。MG 2015, 249 によると,外資企業のポーランド 経済に占めるシェアは,会社数 16%,売上 39%,利益 14%,輸出 66%,従業員数 31%(2013 年統計)である。これより,外資企業は規模が大きい事,輸出貢献度が高いことが判る。更に, 外資企業はアッセンブリ―を中心とした機械・輸送機産業が多いものと推定される。この様に, 外資企業のプレゼンスは大きいが,FDI に伴う新規技術導入・移転が期待通りになされている のか,自国中小製造業者のクラウディングアウトが発生しなかったのかが懸念される。この点 では,EU ファンドは,ミクロ経済に対しての貢献は少ないのかもしれない。ミクロ経済成長 には,中小企業育成が重要である。その為にも,上述の如く中長期に亘る発展を見据えた,政 府主導の研究開発を積極的に進め,中小企業支援を実施する必要がある。 時期的に少し古いが,EUファンドに関して悲観的な論調の論文がある(Kozak 2011, 11–13)。 これによると,「EU ファンドは,マクロ経済にはプラスの影響を与え,ほぼ全産業にメリット を与えているが,これが EU ファンドのみによるものか判断できない。ポーランド経済好調の 要因は,石炭,銅,食料等の天然資源の交易条件改善とドイツ向け輸出の拡大に求められるの かもしれない。又,EU ファンドが終了すればインパクトは皆無に帰す。」との警鐘をならして いる。尚,ミクロ経済への貢献に付いては,ポーランド経済における外資企業の貢献が相対的 に大きいことを考慮して,FDI の果たしている役割を含めた検証・研究を続ける必要がある。 (20)主に,5 つの国家プログラムと 16 の地方プログラムに対して予算配分がなされている。 (21) EUROSTAT統計によると,EU-28 GDP 比 2% に対してポーランドは 0.9% と少ない。 (22) EU 2009. (23) MRD 2008, 23.

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お わ り に 欧州委員会は,2015 年年 11 月 5 日秋季景気見通しを発表した(EU 2015c, 154)。ポーランド 経済成長率は,EU-28 平均より 2015 年 1.6%,2016 年 1.5% 大きく上回っている(24)。相対的に 好調と言われるドイツを当然の如く上回り,ポーランドを上回るのは発展途上のルーマニアの みである。ポーランドは今回の予想でも各年 3.5% と良好な成長率で他国を牽引する立場を堅 持し,一貫して黒字成長となっている。本稿で取り上げている EU ファンドだが,ポーランド に対しては,(CAP 関連を除いた)先期(2007 ∼ 2013 年)670 億ユーロに対し,今期(2014 ∼ 2020年)予算は780億ユーロと16%増額されており(25),今期もEUの中で最も多額の受領国と なっている。従って,EU ファンドのポーランド経済に対する貢献度は当面高いものとなろう。 世界同時不況時 EU 諸国の中でポーランドのみが 2009 年プラス成長を維持できた要因を, EUファンドのみに求めることはできないが,大きな下支えとなったと判断できる。経済成長 貢献の経路としては,構造基金が財政出動の役割を果たした点と CAP 基金が消費需要を下支 えした点が挙げられる。EU ファンドが国内需要を拡大し経済成長後押しをした役割は大きい。 EUファンドは EU からの資金移転(財政支援)であり,ポーランド政府の財政負担になる ものではない。従って,国債の金利上昇等には影響を与えず,クラウディングアウトの懸念も 少ない。ポーランド金融市場が相対的に健全であったのはかかる背景があったのではなかろう か。又,健全な金融環境が経済の冷え込みを抑え,プロシクリカルな循環を維持可能にしたと 言えよう。更に,CAP によるポーランド農家に対する直接支払は,農家の収入を増加させ国 内消費の落ち込みを抑制する効果があったものと考える。 上記の如く,EU ファンドはマクロ的にポーランド経済に対し大きな貢献をしている。一方 で,今後,更なる検証が必要だが,ミクロ的には限定した効果しか与えていない懸念があり, 短期的(一時的)効果に費える恐れもある。将来にわたり持続的な発展に活用できるよう,中 長期的な施策を構築・実施すべきである。ポーランド経済が EU ファンド依存体質に傾いてい るとすると,TFP 成長が抑制され将来の発展に負の影響を与えないか懸念されるためである。 参 考 文 献 家本博一(2014),「ポーランド経済変動と直接投資―1990 年代初め∼ 2010 年代初め―」池本修一・ 田中宏編著『欧州新興市場への日系企業の進出:中央・ロシアの現場から』文真堂。 経済産業省(2009),平成 21 年版通商白書 概要,経済産業省通商政策局。 コウォトコ(2005),グジェゴシュ・W・コウォトコ(著)家本博一・田口雅弘・吉井昌彦(訳)『「ショッ ク」から「真の療法」へ』三恵社。 田中素香(2015),「地域的不均衡と地域政策」田中素香他(著)『現代ヨーロッパ経済[第 4 版]』有斐閣。 田中信世(2003),「EU拡大と新規加盟国への資金移転」『季刊 国際貿易と投資 Spring 2003/No. 51』(一財)

国際貿易投資研究所。

内閣府(2012),経済財政モデル(2010 年版)内閣府計量分析室,http://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/ ef2rrrr-summary.pdf(accessed 2015-08-25)。

三菱東京 UFJ 銀行(2011),「グローバル金融危機後も堅調に推移するポーランド経済」BTMU Focus London (Economic Research), 5, August, 2011.

(24)輸出 GDP 比率は 46% で(2013 年),大宗は EU 向けなので,EU の経済動向はポーランド経済に大

きな影響を与える。EU 経済動向に注視する必要がある。

(12)

諸富徹(2010),『地域再生の新戦略』中公叢書。

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図 3 2007 ∼ 2013 年 MFF 予算におけるポーランド向け歳出(政策項目別)

参照

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