保険契約法の現代化と保険事業
平成19年度大会共通論題
質 疑 応 答
[司会,井口]多くの方から質問を頂いている。他の学会では見られない傾 向である。本テーマが,会員各位にとって関心のある内容であるとともに,
保険学会の共通論題で取り上げる適切なテーマであった証でもある。時間の 許す限り,報告者からご回答を頂く(以下,敬称略。質問者の所属・氏名に ついては質問票のまま表示)。
[質問](元 戸大学・刀禰俊雄)海外旅行保険は現在第3分野の保険として 生損保両業界が取り扱えるが,同保険は 実損てん補 であることから,中 間試案では。傷害・疾病保険ではなくて損害保険として位置付けられ,実務 の変更を伴うことになるか。
[質問](㈱あいおい基礎研究所・島田公一)医療費を金銭でなく病院等の現 物給付で行う場合,損害保険と定義されているようである。このような規定 となると生命保険会社は医療保険の現物給付はできなくなるのか。保険業法 との関係はどうなるのか。
[洲崎]保険契約法上の定義が,保険業法の業際問題に影響を与えることは ない。保険契約法で損害保険契約と傷害・疾病保険契約の関係がどのように 定められるとしても,保険業法3条4項2号に該当するものであれば,第三 分野の保険であって,生損保両業界が行うことができる。金融庁も保険業法 のこのルールを動かすことを予定していないものと私は理解している。
[質問](福岡大学・佐野誠)損害てん補方式の傷害・疾病契約の位置付けに つき,中間試案のように損害保険契約と位置付けるのではなく,傷害・疾病 保険契約に位置付けるべきことを主張しておられるが,どちらの方式でも準 用規定が必要となることは同一と思われる。傷害・疾病保険契約に位置付け る方がいいとする根拠は何か。
[洲崎]保険法学における伝統的な考え方や諸外国の例を見ても,傷害・疾 病保険契約と位置づける方が一般的である。法律をつくる時にも一般的な理 解に従ってつくる方がよいと考えている。
[質問](慶応大・堀田一吉) 保険者が高い精査を掛けることは,かえって 不正・不実請求件数を増加させる… とあるが,そのロジックをもう少し説 明して欲しい。増加させる可能性があるという意味なのか,必ずそうなるの か。
[石田]レジメで,P1というかたちで不正・不実請求率という,定義してい る。均衡状態においてP1という値ですね,不正・不実請求率がどうなるの かという数式が書いてある。式を見ていただきますと,均衡状態において
(1−π分の
π
)×(β
−C分のC)となっている。Cが増えることによって P1のアフタリスク,不正・不実請求率が増加することがわかる。Cが高く なると必ず不正・不実請求率が高まるというロジックである。[質問](愛知学院大学・田畑康人)経済モデルでは保険者の危険中立性を前 提にするのが一般的である。しかし告知義務等でアドバースセレクションを 軽減,排除したいと考えることは,保険者も危険回避的と想定できるのでは ないか。
[石田]基本的にこれまで被保険者,契約者側が危険回避であり,保険会社,
保険者側は危険中立であるという前提が行われてきて,その後のモデルもこ
の前提を踏襲している。危険回避的であるというのは保険料に加えて取引費 用,リスクプレミアムを支払っていいということになるので,契約者が危険 回避的であれば公平な保険料にプラスして取引費用を払っても保険に加入す るという行動がとられる。それに対して,保険者,保険会社が危険回避的で あると考えると,その場合は同じようなかたちでリスクプレミアムを支払っ て何か行うかというと,たとえば再保険などを想定すると,保険の保険とい うことで,一般の保険者が危険回避的となってプレミアムを支払うという場 合もある。ただ現行の再保険制度を前提とすると契約者だけではなくて保険 会社,保険者側も回避的であるということは十分あり得る。ここでのモデル はあくまでも契約者側がプレミアムを払う,そして保険者,保険会社側の方 は再保険のようなことは行わないということを前提としている。
もう1つ,たとえばオプション取引においては両方がリスクをヘッジし合 うという取引も考えられる。保険がオプションの1種であると考えると,こ れからは保険者は危険に中立的であるということを前提にせずに,保険者側 も危険回避的であるということを前提にモデルを組み立てることはできるか もしれない。
[質問](全労済・出口)告知義務方式から質問応答方式に変わることにより,
現行の告知書にどのような変化が生じると考えられるか。
[小林]質問応答義務の告知事項については保険者の方からどういう事項を 告知してもらいたいのか,これも一種の情報提供というかたちで出すことに なるわけであるが,それが契約者側にとって曖昧に感じられるような内容だ と,告知義務違反が成立するかどうか,あるいは本当に解除できるかどうか になる。今日報告したのは情報提供義務違反の効果として損害賠償になるか どうかという話であり,ご質問については,告知義務の対象事項に関して情 報提供の仕方が曖昧になると違った効果の問題になるかと考えている。
[田口]今回の議論の背景には,過失によって告知義務違反をした方に対し
ても,できる限りの保険金をお支払いできないかという観点がある。そのた め,例えば,告知の質問事項をうっかり書き間違えた,あるいは勘違いする ような方をできる限り少なくするための努力が必要である。そういった観点 からの実務の点検が必要になるのではないかと考えている。
[質問](同志社大学・木下孝治)現状肯定が結論なのか。情報提供,クーリ ングオフや助言の問題が本来的に私益保護を目的とすることへの体系的関心 を感じられない。消費者契約法3条が努力義務という墓標となり,典型的に 情報格差のある類型で私法上の説明義務への道を示しているのではないのか。
[小林]今回の報告を通じて1ついえることは,私益保護というのは必ずし も保険契約法だけですべてまかなうということではなくて,そこからはみ出 してしまう部分を保険業法がすくい補完していくという,そういう保険業法 の機能に焦点を当てたらいいのではないか,ということである。
もう1つ,報告では情報提供に関して,契約法上,積極的な提言をしてい ないわけではない。レジメを見ていただければ分かるとおり,そこでは,契 約の基礎ともいうべき約款の交付については契約内容の詳細を厳密に認識,
検証し得る機会の保障という観点から契約法上で保険証券と一体として交付 したらいいのではないかということを述べている。これは保険証券と一体で あるから事後的な情報提供の必要性という観点から申し上げているわけであ り,この事後的な情報提供の必要性というのは,加入段階では, 契約概要 であるとか 注意喚起情報 であるとか,情報提供の対象事項をしぼること が情報提供のあり方として効率的であり,実効性の点から見ても望ましいと されているが,そこでは尽くされない情報提供を事後的になんらかのかたち で保障していったらいいのではないかということである。保険証券と約款と の一体的な交付,これは2005年の生命保険契約法の改正試案でも,このよう な提案がなされているが,その点については積極的な趣旨のことを述べてい るということである。
[質問](元 戸大学・刀禰俊雄)①高度障害保険は死亡保険の範囲内で高度 障害時に死亡保険が支払われて契約が消滅する保険である。 死亡後に高度 障害状態云々 という箇所がよく理解できない。②未成年者を被保険者とす る保険につき,1000万円を超える高額の学納金が必要となる医学部生の保護 者を契約者,受取人とするマーケットもかなり普及していることを付け加え て頂きたい。
[田口]保険法部会では,例えば死亡保険を200万円にして高度障害を2000万 円にした商品を販売すべきというご指摘もある。しかし,高度障害状態にな った以後に病状が悪化して死亡した場合で,かつ高度障害保険は未請求の状 況を考えて欲しい。その場合,200万円の請求をするのではなく, 死亡前に 高度障害状態になっていのだから2000万円支払って欲しい と請求される方 も想定される。保険会社は,高度障害保険の支払を,医師の診断書等に加え,
本人への確認を経た上で行う。 終身介護が必要なのか 視力の回復の可能 性はないのか 等,障害状態が固定しているか否かは本人に確認しなければ 分からない面もあるからである。しかし,死亡後となると本人に確認する術 がない。そのため死亡保険と高度障害保険は同額にせざるを得ないというの が私の認識である。
②は私も同意見である。学費という性質を考えると,リスクのある金融商 品によって準備することはできるだけ避けた方がいいと思う。リターンが相 応に高くて確実に満期保険金をお支払いできる商品として学資保険,養老保 険等を提供させていただいている。それぞれにメリット,デメリットがある が,一般論を言えばリターンを考えると子供の養老保険の方がより高いとい える。養老保険にはこのような意義があり,また活用されていると思う。
[質問](大阪大学・山下典孝)①専門職業人の職業リスクを担保する保険で ある専門職業人向け賠償責任保険については,片面的強行規定の適用除外と すべきだとのご発表であった。ところで,専門職業人が,必ずしも自己の加
入している専門職人向け賠償責任保険の内容を知っている訳ではないという 事実もあるが,それについてどうお考えか。②告知事項義務違反であっても,
因果関係不存在の場合には保険者は契約解除しかできないとなると,一定の 保険商品については保険者は今後販売をしなくなるのか。そうなると,かえ って消費者に不利益とはならないか。
[吉澤]1つ目のご質問でご指摘の事実については,まさにその通りである。
ご自身が加入されている専門職業人向け賠償責任保険の内容をよくご存じの 専門職業人も,あまりご存じではない方もいる。ただ今後どういう方向性を 考えていくのかということになると,ご自身が加入している専門職業人向け 賠償責任保険の内容を知らないこと自体がおかしいと,ぜひ知っていただき たいという方向で法制度は考えるべきである。
そもそも,専門職業人,プロフェッションといわれる人々の地位をこれか らどう高めていくのか,あるいは,消費者がプロフェッションといわれる人 達に安心して何か頼むことができるという制度をどう構築していくのか,こ ういう制度設計の問題である。万が一,専門職業人が間違ってしまった時に 依頼者に被害が生じても,専門職業人向け賠償責任保険できちんとカバーさ れること,こうしたことが須くどの専門職業人についても広まっていく,と いう方向を指向すべきである。また,そうした賠償資力の確保自体が,プロ フェッションと呼ばれる専門職業人の方々の地位向上にもつながっていくと 考えている。ちなみにドイツでは,この専門職業人向けの賠償責任保険,そ れも強制保険が広く普及していると聞いている。
2つ目のご質問は,告知義務違反について因果関係特則が片面的強行規定 になると,故意による告知義務違反があったとしても因果関係がなければ保 険金が支払われ,ペナルティとしては契約解除しか行われない。そうなれば,
保険会社は一定のリスク区分を設定した保険を売らなくなるのではないか。
したがって,消費者利益にマイナスになるのではないか,というご指摘であ る。この問題については私も損保業界も大変に憂慮している。たとえば,現
在,リスク細分型の自動車保険がかなり販売されているが,そのリスク区分 の1つに自動車の使用目的がある。すなわち,被保険自動車を日々業務でお 使いの方も,通勤通学にしかお使いにならない方もいる。こうした使用目的 によって保険料を分けたうえで,現在は,お客様の申告を基にお引き受けを している。虚偽申告をしても,保険事故が発生した時に,通勤だけではなく て業務にも使用していたことが判明すれば,告知義務違反として契約解除と 保険金不払というペナルティがある。ところが,因果関係特則が片面的強行 規定になりますと,意図的に嘘をついて安い保険料で入ったお客様であって も,自動車の使用目的と保険事故との間にはなかなか因果関係は認められに くいので,保険金は支払わざるを得ない。つまり,ペナルティは契約解除し かないということになる。契約を解除されたお客様は別の保険会社で改めて 加入すればいいだけの話であり,それほどのデメリットはない。また,虚偽 申告が判明しなければ,安い保険料を享受できて,かつ,契約を解除される こともないことになってしまう。したがって,こういうリスク区分を用いた 保険商品を保険会社は売らなくなる可能性があるかと思われる。
[質問](同志社大学・木下孝治)事業リスクの程度により強行規定の適用除 外が必要との一般論は同意するが,それを交渉力格差と同列に一律に除外す べきかどうかについても教示ください。リスク情報の偏在,事業規模に比し てハイリスクであるとの理由で情報格差是正や免責のルールは柔軟化できる としても,契約者がなお交渉上劣位にあるとき保険金の請求,支払い等のル ールまで契約自由には委ねられず,ルールごとの除外としなければうまくい かないと思うがどうか。
[吉澤]片面的強行規定の適用除外に関して今日お話した第3の論点,すな わち,リスク情報の非対称性についてのご質問である。リスク情報の非対称 性を考慮して,たとえば事業者のこれこれのリスクについては適用除外と考 えた場合には,次に,個々の片面的強行規定について本当に適用除外が必要
かどうかを1つ1つ吟味する作業が必要になるかと思われる。木下先生ご指 摘の保険金請求のルールについては,たとえば今回は保険金支払時期に関す るルールが設定されようとしているが,リスク情報の非対称性は関係ないと いうことになれば,保険金請求時期については適用除外としないという考え 方もあり得る。
[質問](明治大学・押尾直志)①新保険契約法の最重要課題が保険契約者=
消費者保護にあるとされる理由は,保険取取引の具体的形態である保険契約 が商行為として行われ,契約上消費者が弱い立場にあるからである。これを 単行法化することで共済契約まで適用対象とするのが自然であると述べられ ているところからすれば,保険契約を運営主体である保険会社の性質,保険 事業の商行為性を曖昧にすることにならないか。②保険監督法の契約者保護 に限界があり,保険契約法において契約者保護を図る必要性を指摘されてい るが,これは保険監督法の規制緩和を是認するということか。
[洲崎]保険契約者保護が必要とされる理由について,私と押尾先生とで理 解が異なっているように思う。私は保険契約が商行為として行われるがゆえ に保険契約者保護が必要になるとは考えていない。営利保険として行われる 場合,確かに株主と保険契約者の利益対立が制度的には問題になる。しかし,
新保険契約法で考えている契約者保護は株主との利益対立の問題ではなく,
保険者との関係での問題である。消費者にとっては,保険契約の内容を正し く理解することは難しく,また,契約の内容について交渉することも困難で ある。こういった保険の特色から契約者の保護が特に必要になる。このよう な特色は,営利保険だけではなくて相互保険でも,そして実質的に保険に近 い共済契約でもみられることであるから,同様に契約者の保護が必要になる。
したがって,営利保険,相互保険,共済契約を適用対象とする新法がつくら れることは,大変望ましいことであると考えている。
②のご質問についてであるが,保険監督上の規制がどうあるべきかは,
是々非々で考えていけばよい問題であって,ある面では規制緩和を図るべき ところもあり,また他のところでは規制を維持するところもある。少なくと も現時点では家計保険の分野での事前認可制については撤廃する必要はない,
むしろ維持すべきである。ただ将来にわたって事前認可制をずっと維持でき るかは分からない。また,現在事前認可制が取られてはいるが,実質的なチ ェックがどこまで細かくできているかとなると,保険商品が驚くほど多様に なった現在では,十分なチェックができていないかもしれない。そのような ことに備えて保険契約法できちんとしたルールをつくっておくべきだという ことを申し上げたのであり,契約法のルールを作る以上は規制緩和をすべき であると考えているわけではない。
[質問](大阪大学・山下典孝)情報提供を受ける対象をどこまでの範囲の人 に限定すべきか。団体保険の場合,団体である法人等の契約者のみに対して 保険者は情報提供すればよいとお考えか。
[小林]団体保険の被保険者については被保険者になるという意識が薄いと いわれている。そこで,保険金請求の機会を逸することのないよう,また遺 族に対しても,同様の観点から被保険者を通じて情報提供する必要がある。
この場合,望ましい情報提供のあり方は,1つは保険者から契約者に対して 被保険者証を発行して,それをさらに被保険者へと交付するというやり方,
もう1つは被保険者の同意を取る時に保険契約の概要について適切に情報を 提供した上で同意を取るというやり方がある。結局,情報提供の主体という ことになるが,被保険者証に関していえば単に被保険者証が契約者を通じて 被保険者に回っていくということではなくて,福利厚生目的ということで保 険が利用されているのであれば,その保険がその団体にとってどうして必要 なのかという観点から,たとえば就業規則等の位置づけ,雇用関係等の位置 づけも含めて契約者からの情報提供も保険者からの情報提供と並んで必要に なってくると考えている。そもそも加入する時に同意をきちっと取っておけ
ばいいのではないかということも考えられるわけであるが,そうであれば,
従来の674条の同意を求める趣旨として3つあげられているが,保険の賭博 化とかモラルリスクであるとか人格権といった問題にさらに,情報提供の必 要があるから同意を取るという,同意を求める趣旨があらたに加わると考え ている。
[質問](大阪大学・山下典孝)未成年者の保険の金額を制限する規律が設け られた時,実務上支払いにおいて重大な問題は生じないのか。生命保険のみ でなく,傷害保険,自動車保険における搭乗者傷害保険など生損保会社間の 状況まで,未成年者の契約状況を知る必要はないのか。
(日本生命・渡橋健)未成年者の保険金額制限は,既契約に遡及適用される として議論されているのか。また,同一の未成年者の他の保険者の保険も合 算して対象となるのか。
(住友生命・平尾正隆)未成年者を被保険者とする死亡保険の金融制限が法 定化された場合に,契約締結時もしくは請求時に超過の有無を確認する効果 的な手段はあり得るのか。
[田口]山下先生のご質問と同じ視点で日本生命の渡橋様,住友生命の平尾 様からもご質問を頂戴している。本件は監督法上の規制が問題となっている のではなく,あくまで契約法上の規律を問題としているので,規律違反には 契約無効という効果が生じる。無効という効果は,保険事故発生後に保険金 を免責とするだけではなく,契約継続中に保険金額が規律を超過していた場 合にも生じる。しかし,養老保険のような生存保険との混合保険,医療保険 等との混合保険,あるいは傷害保険や自動車搭乗者傷害保険等との混合保険 の死亡保険部分のみを無効にするということにはできないので,超過部分の 生じた保険の全てを解除,あるいは無効とするという実務が必要となる。そ の際,例えば自動車保険と養老保険では保険の加入目的が全然違うので,ど ちらの保険を優先して無効とすべきかという問題が生じる。これを保険会社
だけで決めていいのか。あるいは事前に何かルールを作れるかを考えようと しても,非常に難しいのではないか。価値判断としても非常に疑問を持って いるが,技術的にもかなり難しい問題をはらんでいると理解している。
[質問](日本生命・遠山優治)定額保険の現物給付について。①これは定 額・実損にかかわらず現物給付にあてはまる問題であると思われるが,その 点はいかがか。②損保方式との異動について,たとえば入院時の現物給付を 想定した場合,大部屋,個室,特別室など契約者がサービスを選択できるよ うな状況もある。事故にあたって内容を選べるようにして損害てん補方式の 現物給付を設計することは困難なように思われるが,商品性によって定額給 付は考えられないのか。
[吉澤]1点目は,その通りである。2点目のご質問であるが,病状が大部 屋で十分である,個室あるいは特別室の必要性はないという場合に個室でも 特別室でも選べるということであれば,必要性のないものについて好きに選 べるということで,これは定額給付型の現物給付になろうかと思う。ただ病 状が非常に悪くて,たとえば他の患者さんに感染する可能性がある,あるい は夜痛くて騒ぐかもしれない,個室がどうしても必要だという患者さんのこ とを考えると,その人が個室に入るということ自体は,これは損害てん補給 付ということになる。個室が空いていないのでやむを得ず大部屋になった,
その場合は損害てん補型の現物給付ということになると思う。たとえば総理 大臣のような著名な方が入院する時には,周りの人との関係でどうしても特 別室が必要であるというような場合,そのような方がご契約される時には特 別室の給付というのは定額給付というよりも損害てん補型の給付という性格 が強いのではないかと思っている。
[質問](神戸学院大学・岡田豊基)意向確認書面の作成について。 確認した い事項> 意向確認書面が導入された効果として,契約者側の自己責任の内容
が変わるのではないかとご報告されていた。つまり書面作成後,記載内容を 確認した上で締結しようとする契約が自分に適しているか否かを判断するこ とになるので,書面作成が求められていない状況と比較して契約者側の責任 の程度が高まるということかと思う。 質問事項> 消費者契約法等とのバラ ンスからして,この書面を保険契約法に規定することは妥当ではないとの見 解があるかもしれないが,保険契約法を消費者契約法の特別法と位置付ける か,契約者保護の観点からして規定することは妥当ではないだろうか。
[小林]まず,質問事項について。抽象的に契約者保護といえば契約法上な んでもできるかというと,そうではないと思う。特別法かどうかという点に 関しては,保険契約法を商法ではなくて単行法とする場合には消費者契約法 との関係でいくと特別法となるかもしれないが,私が報告した内容は消費者 契約法で規律されていない空白部分については保険契約法で規律を設けたら どうかということで,特別法の一般法の規定への抵触であるとか,優先関係 が生じるところではない。
もう1つ意向確認書面によって契約者の自己責任のレベルが高まるのかど うかということについて。意向確認書面が導入される前からも監督指針では 申し込み書面の写しを契約者に渡して確認させるというようなことがあるの で,今回の意向確認書面の導入により,たとえば過失相殺の際に今までより も斟酌されるということはあるかもしれないが,自己責任原則の基本的枠組 みが変わるほどに,格段に高まるというものではないと考えている。
[質問](三井住友海上・村田毅)保険者の説明義務について。①対等当事者 の法律関係を前提とすると,一方にのみ義務を課すことは適当でないため対 等でない人(=消費者など)を契約法で定義しないかぎり説明義務を課すこ とを規定できないのではないか。②義務の内容,違反の効果をどう規定する のか。▽具体性のない義務を規定しても意味に乏しい。▽効果として賠償
(損害の推定),取り消し,解除を定めるだけなら一般則通りでよいのではな
いか。
[小林]①について。たしかにもし契約法に情報提供義務を記定する場合に は議論しなければならない問題である。誰であっても契約者としての属性が あるから,誰に対して情報提供すべきかはその契約者の属性に着目すべきこ とになるかと思う。これは片面的強行規定の対象範囲とも関わる。契約の属 性とか契約者の属性,そこでは交渉力に格差があるということが議論されて いるが,その際,情報集収力の格差,あるいは理解力の格差といったものが 合わせて前提になる。そういったところの議論を踏まえて義務の相手方とな るべき,契約者の属性というものを考慮していく必要がある。
②について。効果については民事の一般法理でいくということで,その中 で損害賠償責任を考えていくと,因果関係の推定については,そこまでする 必要はないと考えている。
[司会]まだお答え頂いていないご質問があるが,予定の時刻がきたので申 し訳ないが省かせて頂く。今日は民事基本法の整備の一環としての商法改正 について,保険学会の特徴を活かして,さまざまな分野からの議論が行なわ れた。各報告は,それぞれの分野で用いられている特異な用語やツールを使 われており,異なった分野の研究者が一つのテーマについて議論することに は高い壁があるが,これから幅広い議論をしていくひとつのステップになれ ばと思っている。
(以下は当日,時間の関係で割愛した質問である。報告者から回答して頂いた。)
[質問](元 戸大学・刀禰俊雄)現物給付を世界一周旅行とする商品例1は 被保険利益があるとはいえず,賭博である。生命保険契約に被保険利益を必 要としない通説をもってしても,このような例はそもそも保険とはいえない ことは自明の理である。介護とか高度先端医療を受ける給付を現物給付とす
る例に限定して議論を進めてほしい。
[吉澤] 自明の理 と言えるかどうかを改めて議論する必要があると考える
(もちろん, 自明の理 が理論的な裏付けのないものであれば,あるいは,
反論可能性のない議論であれば,議論の余地はないが)。
たとえば,商品例1は, 被保険者をA,保険金受取人をB,現物給付を 世界一周旅行とする死亡保険 であるが,この商品が保険ではないとして,
どのような論理をもって 保険ではない とするのかが重要である。
また,その論理を,商品例3,すなわち, 保険契約者=被保険者=保険 金受取人をC,現物給付を世界一周旅行とする生存保険(70歳で保険給付) に当てはめてみた場合に,商品例3もやはり 保険ではない のか,それと も,商品例3は保険となるのかを考えてみる必要がある。
[質問](青山学院大学・本間照光)保険契約法の最重要課題は保険契約者の 保護ではなく,被保険者の保護ではないのか。今般の改正は 他人の生命の 保険契約 と同意主義の検証が求められる100年でもある。 中間試案 にお いても本シンポジウムの各報告においても,これについてほとんど言及され ていないのは何故か。
問題が起こるたびに 日本商法の同意主義のもとではやむを得ない とか 法的問題はない とされてきた。ところが,同意主義を採用した1911年
(明治44年)の 改正商法 も生命保険における被保険利益の存在を前提と している。同意主義の起草者である玉木為三郎氏自身が被保険利益と同意の 実質を不問にした形式論では,保険制度も日本社会も壊れてしまうと100年 前に警告している。また今田益三氏は1976年に 大森教授の説は誤解にもと づく 立法者の意図した目的が達成されないで歪められてしまう と指摘 している。
大森忠夫氏が唱えた①被保険者は 保険に付けられる目的(対象) にす ぎない,②生命保険は被保険利益を要しない,③同意があれば反公序良俗を
持たないとの説は戦後の 通説 となっている。これまで報告者及び学会,
保険法改正において,大森学説と 通説 の問題点,学説史が検証されたこ とがあるのか。ないとしたら何故か。
[洲崎]保険法部会では,他人の死亡保険の規整の在り方について,最初に 同意主義以外のルールも含めて根本的な検討がなされたが,同意主義を維持 することが適当であると判断された。現在は,同意主義のもとで具体的ルー ルをどのようにさだめるのがよいかが検討されているところである。
[小林]たしかに,最近の団体定期保険をめぐる裁判例やモラル・リスク事 案を念頭に,立法論的見地からは,同意主義と利益主義との併用を検討すべ きとの見解もあるとのことである。しかし,利益主義の利益概念はさまざま な場合に擬制されるなどして,その存在についてはかなり緩和して広く認め られるに至っていることから,利益主義を併用しさえすれば,上記のような 問題事案の根本的解決が容易に図られるわけではないと一般的には考えられ ているのであり,むしろ,同意主義のもとで,同意の手続きの実質化をどう 実現していくか,または,それと実務との折り合いをどうつけていくかが,
目下の議論の前提とされているように思われる。
[田口]保険契約者と被保険者のいずれに対しても,その利便性の確保と保 護のバランスが考慮され,保険法現代化を契機に,わが国の保険市場のより 一層健全な発展がなされることを期待している。
[石田] 生命保険は被保険利益を要しない との大森学説の解釈には異論も ある。またこれは必ずしも通説とは言えず,業界を含め一般通念になってい るとも言えないのではないか。現在までのところ,個別事例に則した判断が 現実的と考える。
[井口]保険が市場で取り引きされている現状を前提とすると,保険取引の 需要と供給の両面を考慮しなければならない。保険契約者の利益保護は,需 要者を保護すると言うことを意味しており,単に保険契約者だけを対象にし ているのではない。
◇なお,福岡大学・佐野誠(質問相手・吉澤)からも質問を頂いたが,報告の直接 の範囲ではないので割愛させて頂いた。