• 検索結果がありません。

責任保険契約における防御費用のてん補

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "責任保険契約における防御費用のてん補"

Copied!
21
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

責任保険契約における防御費用のてん補

澤 本 百 合

■アブストラクト

一般的な責任保険商品においては,被保険者が受けた損害賠償請求に関す る防御費用がてん補される。防御により,賠償責任を負わず,又は賠償責任 の額を抑制できる点では,防御費用は,一見,責任保険契約の損害防止費用 に類する。しかし,保険事故を責任負担事故と定める契約において,責任な しとの結論に至る場合には,保険事故が発生していない。よって,その防御 費用は,保険事故による損害の発生拡大を防止するものではなく,保険法上 の損害防止費用には該当しない。それにもかかわらず,防御費用は,賠償責 任損害の発生又は拡大の防止に必要又は有益な範囲であることが求められる。

また,防御費用が費用保険契約のてん補対象損害であるから,損害賠償請 求を受けて防御する際,被保険者は,防御費用損害が不要に拡大しないよう 努めなければならない。

以上のことを確認したうえで,責任保険契約においててん補する防御費用 の範囲を合理的に画するために,約款に趣旨を明確に規定するとともに,防 御費用の合理化の動機付けを商品設計上織り込むことを提言する。

■キーワード

責任保険契約,防御費用,損害防止義務

関東部会報告による。

/

*平成24年12月21日の日本保険学会 年12月20日原稿受領

平成25

(2)

1.はじめに

損害保険会社が販売している責任保険契約の商品は,被保険者が損害賠償 責任を負担した場合の賠償金損害のてん補とともに,被保険者が損害賠償請 求を受けた場合の防御給付を約しているのが一般的である。防御給付は,通 常,自動車保険商品においては示談交渉役務の形で,自動車保険以外の一般 的な責任保険商品においては防御費用負担又は防御費用損害てん補の形で,

各々提供されている 。

防御費用損害は,被保険者が損害賠償責任を負うか否かにかかわらず,損 害賠償請求を受けることに伴って生ずるものである。これは,保険法(平成 二十年法律第五十六号)第17条第2項中の 責任保険契約 の定義にいう 被保険者が損害賠償の責任を負うことによって生ずることのある損害 で はない 。同法には,責任保険契約の保険者の防御義務又は防御費用負担も しくは防御費用損害てん補に関する規定は,設けられていない 。防御給付

1) 自動車保険商品の対人賠償責任保険部分及び対物賠償責任保険部分の示談交 渉役務について,東京海上日動火災保険株式会社・損害保険の法務と実務38 頁・39頁(金融財政事情研究会,2010),事業者向けの賠償責任保険商品の防 御費用損害てん補について,同155‑156頁参照。なお,家計向けの火災保険商 品の賠償責任補償特約条項でも示談交渉役務が提供されている場合がある(同 71頁)。

2) 防御費用に関する保険給付請求権は,責任保険契約に基づき保険給付を請求 する権利(保険法第22条第1項)に該当しないので,責任保険契約についての 損害賠償請求権者の先取特権の対象ではない。山下典孝 判批 保険法判例百 選102頁(有斐閣,2010)参照。

3) 法制審議会保険法部会第4回会議(平成19年1月17日)の保険法部会配布資 料 5

http:

//

www.moj.go.jp

/

content

/000005152

.pdf

8頁には,防御給付を保 険者の責任の内容として法定すべきという考え方がある旨紹介されている。同 会議では, 責任保険契約の本質は損害のてん補であり,防御給付は付随的な ものにすぎないと考えられること,防御給付にはさまざまなものがあり,当事 者間の約定にゆだねるのが適当であると考えられること等から,防御給付を保 険者の責任の内容として法定する必要はないとの指摘 がある旨,事務局から 紹介されている(同会議議事録

http:

//

www.moj.go.jp

/

content/000012308 .pdf

 

→文章とHP とのアキを揃 えるため、イ レジュラー処 理しています。

訂正時は全角 固定になるよ うに訂正する こと

(3)

は責任保険契約に不可欠の要素ではなく,防御に関して保険者がいかなる給 付をいかなる基準により提供するかは,保険法のもとでも,責任保険契約固 有の規定のなかった商法 下におけると同様に,約款に委ねられている。

一般的な責任保険商品の防御費用損害てん補の対象の典型は,被保険者が 受けた損害賠償請求を防御するための訴訟代理人又は訴外の代理人の弁護士 報酬である。

責任保険契約とは別個のものであるが,弁護士報酬損害をてん補する損害 保険として,弁護士費用保険がある。この保険は,侵害された権利を回復す るために弁護士に委任して損害賠償請求を提起する者の弁護士報酬損害をて ん補対象とする。損害賠償請求を提起された責任保険の被保険者とは反対の 立場にある被害者側の保険である 。

弁護士費用保険については,弁護士報酬の適正化に関する議論が最近活発 であり,保険金支払いをめぐる紛争に関する仲裁機関の設立も検討されてい る 。他方,責任保険契約の防御費用てん補に関して公表されている判決例

37頁)。保険法部会においては,直接請求権又は先取特権の導入に関する議論 が重ねられ,その中で防御給付に関しても論じられたが,独立した論点とはな らなかった。

損害保険法制研究会 損害保険契約法改正試案 理由書(1995年確定版) 第 672条の3には,保険者が被保険者に代わって自己の費用で防御する権限の法 定が提案されていた。落合誠一 損害保険契約法改正試案 理由書(1995年確 定版)の解説―責任保険(新設)― 損害保険研究59巻4号3頁(1998年)参 照。この提案が保険法研究会 損害保険契約法改正試案(1973.7.21) に義務 代行から権限代行に修正して盛り込まれていたことにつき西島梅治 責任保険 契約法改正試案の成立過程 財団法人損害保険事業研究所創立四十周年記念損 害保険論集322頁(損害保険事業研究所,1974)参照。

4) 保険法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律(平成二十年法律第五十七 号)に基づく改正前の商法である。

5) 自動車保険には,賠償責任保険部分では被保険者が加害者の立場になった場 合の防御の示談交渉役務を,費用保険部分では被保険者が被害者の立場になっ た場合の権利回復の弁護士報酬損害てん補を各々約する商品もある。東京海 上・前掲注1)49頁参照。

6) 2013年6月2日日経新聞朝刊社会面には,弁護士報酬の高額請求によるトラ

(4)

は,弁護士賠償責任保険に関する下級審判決数件にとどまる 。防御費用に 関する紛争が世間に顕在化している状況にもない 。しかし,弁護士費用保 険についても,二,三年前までは,社会的には問題が顕在化していなかっ た 。加えて,弁護士報酬の対象となる事件の種類の多様性を前提とすると,

弁護士費用保険に比して,責任保険商品において問題が深刻となり得る。

さらに,責任保険契約の防御費用てん補については,損害賠償責任認諾の 保険者事前承認要件又は免責事由等との関係で保険者と被保険者の利益相 が問題となるが,被保険者とその代理人との間にも利益相反が想定さ れる局面がある。第一に,損害賠償請求の防御の代理人弁護士が防御費用損 害てん補の保険者への請求についても被保険者を代理する場合である。第二 に,損害賠償請求の防御の代理人弁護士と被保険者が弁護士報酬の金額につ いて 保険により認定される金額 とする旨合意した場合である。これらの ブルの例が報道されている。弁護士費用保険のうち,日弁連リーガル・アクセ ス・センターと協定した損害保険会社が販売する権利保護保険に関して,加納 小百合・佐瀬正俊 権利保護保険の課題と今後の展望 現状の問題点 適正な弁 護士報酬と紹介弁護士の質の確保の観点から 自由と正義64巻7号(2013年7 月号)33頁以下には,弁護士報酬の適正性確保に関する課題が論じられている。

仲裁機関の設立については35頁に喫緊の検討課題として掲げられている。

7) 後掲4章に取り上げる。

8) 米国では,保険者の負担と関連づけて,弁護士報酬の合理性に関して古くか ら 議 論 さ れ て い る。た と え ば,Pierce, J.S.& B.A.Brand(1994)

, Recent Developments in Attorney Fee Disputes,  

7

U.S.F.Mar.L.J

参照。D&O

険における被保険者の防御費用の合理性について,

Monteleone, J.P.(2012) , Directors and  Officers Liability― Exposures, Risk Management and  Cov- erage 2 Edition, The National Underwriter Company, at164に は,古

くからの懸念事項の一つである旨記載されている。

9) 山下典孝 わが国における弁護士費用保険に関する一考察 保険学保険法学 の課題と展望 大谷孝一博士古稀記念496頁(成文堂,2011)は, 保険会社が 著しく弁護士報酬を抑えるとか,弁護士側が不適切な弁護士報酬を請求すると いうことも 現実的ではないが 理論的には問題となる と指摘していた。

10) 山下友信・保険法433‑435頁(有斐閣,2005)参照。なお,保険者が防御の 現物給付義務を負う場合の被保険者との利益相反の問題については,原和朗 責任保険者の防御義務と利益相反 損害保険研究59巻3号93頁(1997)参照。

(5)

弁護士と依頼者との間の問題に,次のいずれかの保険に関する問題が重なる と,被保険者とその代理人との利益相反が生じ得る。1番目の問題は,損害 賠償請求に係る紛争の解決に先立って防御費用損害てん補給付がなされた後 に,約款上の免責事由に該当することが明らかになり,被保険者が保険者に 対して不当利得返還債務を負うことである。2番目の問題は,防御費用損害 と賠償金損害のてん補限度額が共通の保険契約 において,両損害の合計 額がてん補限度額を超過することである。被保険者と防御弁護士との間で合 意された弁護士報酬について保険による防御費用損害てん補がなされること により,被保険者の弁護士報酬債務は履行され,防御弁護士は報酬債務を回 収しているが,被保険者は,自らの資金をもって保険者への不当利得返還債 務又は賠償請求者への賠償債務を履行しなければならないのである。

保険によりてん補される防御費用は,被保険者が弁護士との間で合意した 金額どおりであるべきとはいえず,合理的な範囲に画される必要がある。

そこで,本稿では,責任保険契約において防御費用がてん補される趣旨に 照らし,防御費用てん補の合理的な要件の設定及び範囲の画定の方策を考察 する。

具体的には,まず,責任保険契約において防御費用をてん補する趣旨につ いて,保険者の意図と過去の議論から,賠償責任損害の損害拡大防止の側面 があることを確認する。次に,防御費用てん補のための保険者事前承認要件 に関する学説に対して問題提起を行う。そして,防御費用の適正妥当な範囲 の特定が容易ではないことを示し,約款に判断の目安となり得る定めを設け る選択肢を提示する。最後に,防御費用損害てん補給付が費用保険契約の性

11) 一般の責任保険契約においては,保険契約者が契約締結時に選択するてん補 限度額は,賠償金損害についてのみ適用され,防御費用損害については適用さ れない(ただし,賠償金損害がてん補限度額を超えた場合には,両者の金額の 比率に応じた縮小てん補となる。)。これに対して,会社役員賠償責任保険のよ うに防御費用が主たるてん補対象として想定される特殊な責任保険契約におい ては,保険契約者が契約締結時に選択するてん補限度額は,賠償金損害のみな らず防御費用損害との合計額に対して適用される商品設計となっている。

(6)

質を有することから,防御費用損害の損害拡大防止の観点の動機付けを約款 上組み込む選択肢を提示する。

2.責任保険契約において防御費用をてん補する趣旨

⑴ 保険者の意図

保険者は,防御費用のてん補が責任保険の本来的給付か付随的給付か という理論的な争い を離れて,被保険者が賠償責任を負担するか否かを 問わず,責任保険に求められる実際上の必要に応えるべく,防御費用をてん 補する責任保険商品を提供してきた 。実際上の必要とは,賠償請求を受け た当該被保険者にとっての必要である。これに加えて,賠償責任損害のてん 補額を不合理に拡大させないことについての被保険者全体の利益も勘案され ている。防御費用てん補義務のみならず防御義務をも保険者が負担する場合 の防御機能については,経済的実質的にはむしろ保険者の利益に寄与する とも言われる。これは,個別の被保険者の利益よりも被保険者全体の利益に 資するという趣旨と考えられる。

⑵ 保険事故との関係

賠償請求に対して防御することが賠償責任の負担を回避し,又は軽減する

12) 西島梅治 責任保険の被保険利益 保険学雑誌432号28頁(1966)は, 防禦 給付及び訴訟費用の給付を単なる第二次的給付として軽くみのがすか,それと も,これは本来の責任保険給付の中の重要な一部を構成するものであって,こ の権利保護給付と免脱給付とが一体となって統一的な責任保険給付であると構 成するか,の点において鋭い見解の対立があ るとする。

13) 学説の対立の詳細は,西島梅治・責任保険法の研究42‑99頁(同文館,1968)

参照。この理論的な争いにつながる保険事故の捉え方に関する学説の整理は,

金光良美 判批 損害保険判例百選〔第二版〕146‑147頁(有斐閣,1996)参 照。

14) 東京海上火災保険株式会社編・損害保険実務講座第7巻 新種保険 (上)280‑

282頁(有斐閣,1989)。

15) 西島・前掲注13)46‑47頁。

(7)

ために必要又は有益であるならば,防御費用を賠償責任損害に関する損害防 止費用と位置付けることも考えられる。しかし,損害防止義務は,保険事故 による損害について求められるものである。賠償責任負担を保険事故と定め る保険契約においては,被保険者が損害賠償責任を負わないことが確定すれ ば,保険事故が発生しておらず,防御費用は損害防止費用にも該当しないこ とになる 。

かつては,結果的に被保険者が責任を負わないこととなった場合の防御費 用てん補を整合的に説明することを主眼にして ,賠償責任負担ではなく賠 償請求を責任保険契約の保険事故とすることが理論的に正しいと主張する考 え方もあった 。現在は,何を責任保険契約の保険事故と考えるにせよ,賠 償責任損害のてん補と併存する独自の保険給付として防御費用をてん補する ことができると考えられている 。

16) 大森忠夫・保険法〔補訂版〕220‑221頁(有斐閣,1985)は,敗訴して被保 険者の責任を認める判決が確定した場合においては,その応訴のための費用は,

損害防止のために必要又は有益な費用と認められる限りにおいて,保険者がこ れを填補することを要する(商法660条)とし,勝訴して責任なしとの判決が あった場合は,保険者は填補義務を負うことはなく,応訴のための費用も当然 にはてん補を請求しえず,保険事故が発生していないと解する以上,損害防止 費用と解することもできない,とする。ただし,後掲注19)のとおり,保険給 付対象とすることを否定するものではない。

17) 大森・前掲注16)219頁は,損害賠償請求を保険事故とする見解は,主として 応訴費用の負担の問題に重点を置く考え方であるとする。

18) 山下・前掲注10)423頁は,保険事故としていずれが理論的に正しいかを決定 することは意味がないと決着させている。

19) 大森・前掲注16)221頁は,勝訴して責任なしとの判決があった場合の応訴費 用の損害についての保険もそれ自体としては可能であって,保険者が責任保険 契約に附随してとくにかかる損害についての保険をも引受けることはもとより 差支えないとする。

石田満・商法Ⅳ(保険法)〔改訂版〕235頁(青林書院,1997),甘利公人・

会社役員賠償責任保険の研究263頁(多賀出版,1997)は,保険者が争訟費用 をてん補するのは,保険者の利益にもなることであり,責任保険本来の給付と は別の判断に基づく負担であるとする。

(8)

⑶ 賠償責任損害の発生拡大防止の観点

上述のような議論を経て,損害保険会社は,責任保険商品に防御費用てん 補を組み込んでいる。防御費用が保険によりてん補されることは,賠償請求 を受けた被保険者にとって有益であるとともに,保険者にとっても,てん補 する賠償金損害を合理的な範囲に抑える点で一般に有益である。

第三者による賠償請求が正当な根拠のあるものか否かを問わず,その請求 に対して被保険者が防御することにより,賠償責任損害の発生又は拡大を防 止できる可能性がある 。賠償請求に正当な根拠がなく,客観的には賠償責 任がない場合であっても,被保険者が防御を適切に行わなければ,賠償責任 を負担する結論に至りかねない。防御して,負う必要のない損害賠償責任を 免れなければならない。

損害防止義務が法定される理論的根拠は,保険契約上の信義則の要請 とされる。責任保険契約の被保険者が受けた損害賠償請求について適切な防 御を行うことも,信義則上要請されると考えられる。保険事故との関係にお いて,保険法上の損害防止義務に直結はしないが,保険者に請求する防御費 用は,賠償責任損害の防止軽減に必要又は有益なものであることが求められ る。保険者としては,賠償金損害のみならず,賠償金損害と防御費用損害の 合計額を勘案する必要がある。

たとえば,賠償請求が客観的に妥当であり,被保険者が請求どおりの賠償 責任を負うと考えられる場合に,賠償請求について争うために弁護士報酬を 支出することは,賠償責任損害の防止軽減に当然に必要又は有益であるとは 言えない。しかし,賠償請求者が必要な主張立証をできないことにより被保

20) 西島梅治 責任保険者の防御権 大森先生還暦記念 商法・保険法の諸問題 512頁(有斐閣,1972)。

21) 山下・前掲注10)412‑413頁。野口夕子・保険契約における損害防止義務―モ ラルハザード防止機能という観点から―70‑71頁(成文堂,2007)は,商法660 条1項本文について,商法641条の趣旨を損害の範囲にまで拡張したものと考 えるのが通説的見解であるとする。

→脚注が入らないため、アキを作成しています。注意

(9)

険者が防御に成功することもあり得る 。そのような損害賠償請求について 防御費用損害をてん補できるか否かは,賠償請求が提起された時点で被保険 者からの申し出を受けて具体的な事情をもとに保険者が検討することになる。

3.防御費用をてん補する条件

⑴ 賠償責任損害のてん補条件との関連

防御費用てん補は,被保険者の賠償責任の有無以外の点において保険金支 払要件を満たし,かつ,免責事由に該当しないことを前提として提供されて いる。この点は,防御費用を損害賠償金と並列して保険金支払対象となる損 害として掲げる約款においては,明確になっている。

なお,賠償責任損害と共通のてん補条件及び免責事由に従うことは,保険 者がそのように約款に定めたということであって,防御費用損害てん補を賠 償責任損害てん補に附随する従属的なものと位置付けたことを意味するもの ではない 。約款上自明とは言えないが,被保険者が賠償責任を負担しない 場合においても,それによって防御費用がてん補対象外となるものではない。

⑵ 損害賠償請求事件の解決前の支払保留

賠償請求の内容に照らし免責事由に該当する蓋然性が高いと考えられる場 合,損害賠償請求事件の解決に至るまで,保険者は,防御費用のてん補の可 否の判断を保留する。損害賠償請求事件の解決前に防御費用を支払った場合 において,訴訟記録又は判決理由中の判断等により免責事由に該当すること が判明したときは,不当利得返還請求権を行使しなければならない。

防御費用保険金請求権を行使できる時期は,これを防御費用の額が確定し た時とする約款の定めがある場合,損害賠償請求事件の解決後となる。よっ て,それ以前に防御費用保険金の請求がなされたとしても,約款上の保険金

22) 西島・前掲注13)89頁。

23) ただし,大阪地判平成5年8月30日(判時1493号134頁)の被告損害保険会 社の主張は,この考え方とは異なる。

(10)

請求権行使可能時期まで保険者が支払を保留することができる。少なくとも 免責事由に該当する蓋然性が認められる状況においては,支払保留が是認さ れるべきである。

⑶ 防御費用損害の拡大防止

責任保険商品に防御費用てん補部分が組み込まれている場合,契約として は一つであるが,防御費用てん補部分は,責任保険契約の性質を有するもの ではなく,費用保険契約に属する。保険法の責任保険契約の要件を満たす契 約と,被保険者が賠償請求を受けたことにより負担し,又は支出する防御費 用損害をてん補する費用保険契約とが合体した商品と考えることもできる。

この費用保険契約部分をとりあげて独自の保険給付と考えれば,防御費用 損害についての損害防止義務も観念し得る 。保険法第13条の損害防止義務 の規定の適用を当該約款が排除していると解されないかぎり,任意規定であ る同条が適用され,被保険者は,防御費用損害の拡大防止義務を負う。被保 険者には,代理人弁護士との間で合理的な防御活動とそれについての合理的 な報酬の合意をなすことが損害防止義務の観点から要請される。

⑷ 保険者の事前の承認

約款には,防御費用の支出について被保険者が事前に保険者の承認を得た ものを保険給付対象とする旨,定められている。

防御費用の中心は,被保険者が損害賠償請求訴訟を提起された場合の被告 訴訟代理人の弁護士報酬である。弁護士報酬は,被保険者と弁護士との合意 により定められるものであり,被保険者の防御費用損害を直接コントロール できるのは,弁護士である。

タイムチャージ制など,弁護士報酬の算定方式によっては,弁護士の利益

24) 責任保険契約の損害防止費用についての損害防止義務を主張するものではな い。坂口光男・保険契約法の基本問題101頁(文眞堂,1996)参照。

→脚注が入らないため、アキを作成しています。注意

(11)

と依頼者の利益が相反することがある 。保険契約とは離れて,弁護士と依 頼者との関係においてである。ところが,損害賠償請求訴訟の代理人弁護士 が防御費用てん補についても被保険者代理人として保険者に請求することが めずらしくない。

日本弁護士会連合会の会規 弁護士の報酬に関する規程(平成16年2月26 日会規第68号) 及び 弁護士職務基本規程(平成16年11月10日会規第70 号) によれば,弁護士は,報酬について受任の時点で依頼者に説明し,報 酬に関する事項を含む委任契約書を作成しなければならないものとされてい るが,保険者が認定する金額をもって報酬とする旨の口頭の合意のみと伝え られる例もある。

代理人弁護士が選任され,防御活動が開始された後になって,損害賠償請 求を受けた旨の通知及び防御費用てん補請求が被保険者から保険者に対して なされることがある。防御費用の支出について保険者の事前の承認を得るべ き旨の約款規定は,硬直的に運用することには問題があるとしても,その存 在を否定するような解釈をすべきものとは思われない。

被保険者が損害賠償請求を受けた場合には,それに関して保険者に通知す ることが約款上求められている。防御費用の額のみならず,代理人弁護士の 選任と防御戦術についても検討して防御費用てん補を承認するか否かを保険 者は判断する。被保険者が選任した代理人の防御方針,専門分野,資質等を 勘案して,保険者が防御方針及び弁護士報酬について意見を述べる。

弁護士賠償責任保険においては,被保険者が弁護士であることから,被保 険者による弁護士の選任に保険者が従う旨,約款に定められている。他の責 任保険の約款には,通常,そのような定めはなく,被保険者に他の弁護士を 推薦することもあり得る。そのような一般の責任保険契約においては,防御 費用に関する保険者の事前の承認の必要性も高い。

25) 太田勝造 弁護士報酬をめぐって ジュリ1112号31‑36頁(1997)。

(12)

4.防御費用(争訟費用)のてん補に関する事前承認要件

⑴ 大阪地判平成5年8月30日の争点

保険者に対する防御費用てん補請求について公表されている判決として,

大阪地判平成5年8月30日(判時1493号134頁) がある。弁護士賠償責任 保険の被保険者が応訴のため選任した訴訟代理人との間で合意した着手金に ついて防御費用(本件判決に合わせて本章において以下 争訟費用 とい う。)のてん補を請求したものである。この判決の争点は,第一に,被保険 者は,賠償責任保険金から独立して争訟費用のみの給付を請求することがで きるか,第二に,約款文言どおり,保険者の事前承認を得たうえで,かつ,

負担したにとどまらず支出したものでなければ給付を請求できないか,第三 に,損害賠償請求に対する防御を始める段階において,保険約款の免責事由 に該当する可能性がある場合に,保険者が争訟費用の給付を拒むことができ るか,第四に,争訟費用の給付の履行期はいつか,である。この争点に関し て公表されているその後の判決例は見当たらず ,問題は必ずしも解決され ていない。

4つの争点のうち,本稿に特に関連するのは,第二点の事前承認の要否の 問題である。

26) この判決の解説,判批として,甘利・前掲注19)257頁,落合誠一 判批 ジ ュリ1098号133頁(1996),金光・前掲注13)146頁,山下・前掲注2)102頁,山下 典孝 弁護士賠償責任保険契約に関する一考察 保険学雑誌606号139‑143頁

(2009)。

27) 山下典孝・前掲注26)144‑146頁に論じられている東京地判平成18年10月31日 及びその控訴審東京高判平成19年2月28日は,弁護士賠償責任保険の被保険者 である弁護士本人が訴訟活動を行った場合に,弁護士報酬相当額について保険 金を請求できるか否かが争われたものである。この控訴審判決に対する上告受 理申立理由書は,判例研究として,矢澤曻治 弁護士賠償責任保険契約におけ る填補の対象 専修大学ロージャーナル3号41頁(2008)に掲載されている。

→タイトルのみになってしまうので、アキを作成しています。注意

(13)

⑵ 事前承認要件に関する批判

事前承認要件に関して,次の見解が示されている 。第一に,被保険者が 不要な費用を支出して応訴し,それを保険者に転嫁することを防止する趣旨 を確保するには,争訟費用の妥当性をチェックする機会が保険者に与えられ る必要があること,第二に,争訟費用損害てん補請求権の発生には,争訟費 用が客観的に妥当と判断できることを被保険者が主張立証する必要があるこ と,第三に,被保険者がそれを主張立証した場合に,保険者には,適正妥当 な争訟費用の範囲を決定する裁量権はないが,承認についての裁量権がある こと,である。争訟費用の額が客観的にみて適正妥当かという観点から判断 されるべきであり ,保険者が争訟費用の客観的な妥当性を判断できるにも かかわらず,事前承認がないとの理由で支払を拒むことは,保険者の承認権 の濫用であり,許されないとする点は,評者の見解 が一致している。

大阪地判平成5年8月30日の事件で被保険者が請求した争訟費用は,弁護 士会の報酬規程の標準に従って算定された着手金であり,その額はその取引 界において合理的なものとして承認されている客観的なものであるのに,こ れについて保険者が他の要素を考慮しててん補範囲を決定できるのか の指摘もなされている。

⑶ 事前承認要件を課す意義

弁護士賠償責任保険契約には,他の責任保険契約とは異なり,弁護士であ る被保険者による代理人弁護士の選任に保険者が従う旨の約款上の定めがあ る。そのため,争訟費用に関する事前承認の対象が金額の問題に絞られると 考えられる。これに対して,他の責任保険契約においては,保険者による事 前承認の対象には,金額のみならず,代理人弁護士の選任及び防御戦術の内

28) 落合・前掲注26)134‑135頁。

29) 甘利・前掲注19)266頁。

30) 甘利・前掲注19)266頁,落合・前掲注26)134頁,山下・前掲注2)103頁。

31) 甘利・前掲注19)265‑266頁。

(14)

容も含まれる。

保険者としては,事前に通知があれば,被保険者が選任した代理人弁護士 の防御方針を確認し,意見を述べることができる。また,同種の訴訟に経験 の深い,より適任の弁護士を推薦することができる。

金額についても,被保険者が既に委任契約を締結して弁護士報酬の金額又 はその算定方法を合意した後に,初めて保険者に通知され,争訟費用損害て ん補請求がなされた場合には,事前に承認を求められた場合に比して,保険 者の裁量の範囲が事実上狭められるように思われる。被保険者が弁護士と委 任契約を締結した後になっては,本来の相当性判断とは別の次元の交渉にな る。自己負担を避けたい被保険者にとって,弁護士に報酬の変更を求めるよ りも,保険者に全額のてん補を求めるほうがたやすい。

第一審敗訴判決に対して,保険者が控訴審逆転勝訴の可能性が低いと考え,

控訴せず判決金額を賠償すべく賠責保険金を支払う提案を行い,控訴しても 控訴審の争訟費用をてん補しないと通知したのに対して,被保険者が控訴し て敗訴したとする。このような場合,控訴審の争訟費用は,追及されている 賠償責任損害の防止軽減に資するものではなく,てん補しないことに保険者 の裁量の逸脱があるとは評価されないケースが多いと思われる。第一審敗訴 及び控訴について保険者への報告なしに被保険者が控訴し,控訴審敗訴判決 後に控訴審訴訟代理人弁護士報酬について防御費用てん補請求がなされた場 合に,事前承認がないことをもっててん補しないと判断することはできず,

客観的に適正妥当な争訟費用か否かを基準にしなければならないであろうか。

客観的に適正妥当な争訟費用の範囲を画することが容易ではない中で,保 険者の事前承認要件を事実上無意味とする解釈には疑問が残る。

仮に,旧弁護士会基準に従った内容の報酬が弁護士と依頼者の関係におい て一般的に適正であるとしても,争訟費用として保険でてん補する金額につ いては,追及されている賠償責任損害の防止軽減のために適正な防御内容と それに見合う対価であるかという観点から相当性を評価する余地がある。

(15)

5.弁護士報酬の妥当性

⑴ 依頼者と弁護士の間における報酬額の妥当性

日弁連の 弁護士の報酬に関する規程(平成16年2月26日会規第68号) 第2条には, 弁護士の報酬は,経済的利益,事案の難易,時間及び労力そ の他の事情に照らして適正かつ妥当なものでなければならない。 と定めら れている。

当事者である依頼者と弁護士との間に報酬に関する別段の定めがなかった 場合に,裁判所は,事件の難易,訴額及び労力の程度ばかりでなく,依頼者 との平生からの関係,所属弁護士会の報酬規程その他諸般の状況を審査し,

当事者の意思を推定して相当な額を算定すべき(最判昭和37年2月1日民集 16巻2号157頁)とした。

所属弁護士会の報酬規程は,平成16年に廃止された後においても, 旧日 弁連基準 と呼ばれ利用されているが,同規程により依頼者の経済的利益を もとに算出した金額が当事者間において当然に適正妥当というわけではない といえる。

⑵ 弁護士報酬相当額の第三者への請求

次に,当事者間において適正妥当な報酬であっても,これについて第三者 に負担を求める場合に,全額を請求できるとは限らない。

不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起した被害者が相当因果関係に立 つ損害として加害者に賠償請求できる弁護士報酬は,事案の難易,請求額,

認容額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる範囲内のものに限られ

(最判昭和44年2月27日民集23巻2号441頁), 実際に賠償が認められている のは弁護士費用の2割から3割程度 である 。交通事故の被害者の弁護士 費用の場合は,賠償認容額の1割程度を事故と相当因果関係のある損害とし

32) 奥田昌道・新版注釈民法 Ⅱ債権 ⑴ 債権の目的・効力 ⑵ 296頁〔北川善太 郎・潮見佳男〕(有斐閣,2011)。

(16)

て加害者側に負担させている 。

各々の趣旨目的により,第三者が負担すべき範囲の考え方は当然異なる。

責任保険の被保険者が弁護士と合意した報酬についても,防御費用としてて ん補されるのは,賠償責任損害の防止軽減のために相当な範囲に限定されて も不思議ではない。

⑶ 時間制(タイムチャージ方式)報酬の問題点

時間制報酬は,弁護士報酬の総額の予測可能性が低い。ドイツの弁護士報 酬が訴額と訴訟手続段階とにより固定されて予測可能であるのに対して,英 国の弁護士報酬が時間制で予測可能でないことが被害者を被保険者とする訴 訟費用保険の普及を阻む原因の一つと指摘されていた 。

法と経済学の分野で分析されているように,弁護士は,遂行した法的サー ヴィスごとに報酬を請求する報酬システムにおいては,できるだけ多くの法 的サーヴィス項目をできるだけ時間をかけずに遂行するインセンティブを持 つ一方,時間単位で報酬を請求する報酬システムにおいては,仕事に過剰に 時間をかけるインセンティブを持つ 。

時間制で算出される弁護士報酬は,役務の対価としての適正性,妥当性の

33) 日弁連交通事故相談センター東京支部・民事交通事故訴訟 損害賠償額算定 基準 上巻(基準編)2013(平成25年)版55頁。

株主代表訴訟で勝訴した株主が会社法(平成17年改正前商法)の規定に基づ き相当な額の弁護士報酬の償還を会社に請求したのに対して,請求額の一部の みを認容した判決(大阪地判平成22年7月14日判例時報2093号138頁)もある。

住民訴訟で勝訴した住民の地方自治法の規定に基づく請求に関する最判平成21 年4月23日民集63巻4号703頁が地方自治体の回収額を考慮したのと同様に,

会社の回収額が考慮要素として重視されている。弥永真生 判批 ジュリ1408 号113頁(2010),後藤元 判批 ジュリ1437号103‑104頁(2012)は,回収額 を基準とすることに賛成し,金子宏直 株主代表訴訟における弁護士報酬の問 題(2・完) 民商113巻3号404頁(1995)は批判する。

34) 長谷部由紀子 法律扶助 ジュリ1170号83・85・86頁(2000)。

35) ロバート

D

クーター,トーマス

S

ユーレン著,太田勝造訳・新版 法と経 済学429頁(商事法務,1997)。

(17)

検証が難しい。たとえば,原告準備書面に反論する主張立証を行うために 100のレベルで十分であるのに160のレベルの主張立証を行うために要する弁 護士報酬は妥当か。時間単価100の資質の弁護士で十分勝訴できる訴訟を160 の資質の弁護士に委任することは妥当か。以上のことは,委任したうえは,

委任した弁護士の裁量に任せるほかないかもしれない。他方,以下のような 問題は,弁護士業務が効率よく遂行されているか否かに関わる。100の時間 で完成させるべき成果物を完成させるために160の時間をかけていないか。

5名の弁護士で防御できる訴訟に8名の弁護士が従事していないか。多数で 分担することにより,矛盾の解消や意見の調整のための会議に余分な時間を 費やしていないか。

時間制報酬が累積して訴額をはるかに上回るような場合には,賠償責任損 害を防止軽減するために必要又は有益な防御費用といえるかどうか問題にな る。もちろん,被保険者にとって,損害賠償責任を負わないことを裁判で明 らかにすることが通常は重要であり,防御費用てん補を惜しんで防御を止め るよう保険者が求めることはできないが,賠償責任を負わないという結論を 効率の良い防御活動によって得ることが必要である。

6.てん補対象とする防御費用の範囲に関する約款の定め

⑴ 現行の責任保険商品の防御費用の定め

てん補対象とする防御費用(争訟費用)の定義は,約款によって異なる。

必要性又は妥当性の要件は,規定されている約款もあれば,規定されていな い約款もある。費目以外には約款に内容面の要件が規定されていないとして も,被保険者が負担したものを漫然と承認するほか保険者に選択肢がないと はいえないが,単に事前承認という手続面の要件のみを規定している約款は,

被保険者の誤解を招くおそれがある。

⑵ 指針の提示

被保険者の防御費用のてん補に関して米国に参考を求めると,米国の

(18)

D& O保険の保険者は,被保険者及びその代理人に,てん補対象とする防御

費用に関する包括的で詳細なガイドライン又は正式な訴訟管理プログラムを 提示している 。米国の賠償責任保険においては,保険者が防御義務を負う のが一般的であるが,D& O保険においては,防御義務を負わないのが一般 的である 。そもそも防御義務を負わないのが,被保険者が防御について保 険者の統制を避けて 自ら管理することを望むためであるから,保険者に よる防御費用の統制は難しい。約款に定める必要性,妥当性又は合理性の要 件を満たすと保険者が考える弁護士報酬及び弁護士立替実費を示し,保険者 に対する報告の内容と頻度も定める ガイドラインは,事前の明確な指示 がないことによる紛争の軽減に資する 。

ガイドラインに合致するもののみをてん補対象とすると宣言しても,ガイ ドラインを約款の一部として組み入れていなければ,被保険者が拘束される わけではない。また,弁護士の役務の対価としての必要性妥当性も,賠償責 任損害の防止軽減の観点での必要性妥当性も,個別具体的に判断しなければ ならず,ガイドラインがあるからといって一律に判断できるものではない。

しかし,抽象的な要件にとどめず,詳細なガイドラインを契約締結時に提示 しておくことにより,同種の事件の弁護士報酬との比較対照をする機会のな い被保険者に目安を示し,てん補対象についてある程度の予測を可能にする ことができ,紛争回避に役立ち得る。保険でてん補される範囲に弁護士報酬 をおさめて自己負担が生じないようにしたいと考える被保険者が訴訟代理人 と委任契約を締結するにあたり,保険者が提示するガイドラインの内容を契 約に組み込むこともあり得る。

36)

Monteleone, Supra n.8 , at122‑123,199‑209 .

37)

Bishop, J.W.(2012) , The Law  of Corporate Officers and  Directors, Indemnification and Insurance, 2012‑ 2013 ed. Thomson Reuters, at940 .

38)

Monteleone, Supra n.8 , at120 .

39)

Monteleone, Supra n.8 , at164 .

40)

Monteleone, Supra n.8 , at122 .

→タイトルが入らないため、アキを作成しています。注意

(19)

⑶ 必要性,妥当性の意味

防御費用てん補の対象についての約款の定めが単に,保険者が 認めたも の 又は 必要かつ妥当なもの となっている場合には,どのような基準で 認めるのか,どのような観点で必要かつ妥当なものなのかをたとえば, 防 御の内容が賠償責任損害の防止軽減のために必要又は有益であって,かつ,

その役務の対価として妥当なもの のように約款に規定することも選択の余 地がある。

7.責任保険商品のてん補限度額と縮小てん補割合

⑴ 防御費用損害の枠内てん補方式

賠償責任保険普通保険約款に特別約款(又は特約条項)を付帯する約款構 成の商品は,防御費用損害についててん補限度額を設定せず,賠償責任損害 がてん補限度額を超えた場合の縮小てん補(外枠比例てん補方式と呼ばれ る。)を定めていることが一般的である。これに対して,賠償責任損害より も賠償請求を受けた際の防御費用損害のてん補を主として想定する独立の普 通保険約款には,賠償責任損害と防御費用損害に共通のてん補限度額を設定 する(枠内てん補方式と呼ばれる。)ものがある 。

防御費用てん補は被保険者が責任の有無を積極的に争うことを目的とする ものである のに,枠内てん補方式では,賠償請求額がてん補限度額を超 える場合に防御費用の全額が被保険者自己負担となるため,被保険者が責任 を争う意欲を失うおそれがある と指摘される。

不当な損害賠償請求訴訟であっても被保険者が防御しなければ敗訴して保 険者が賠償責任損害をてん補することになり,逆に正当な損害賠償請求訴訟 であっても被保険者が巧みに防御すれば勝訴して保険者が賠償責任損害のて

41) 前掲注11)。

42) 甘利・前掲注19)111頁。

43) 甘利・前掲注19)110頁。

→脚注が入らないため、アキを作成しています。注意

(20)

ん補を免れることもあり得る 。被保険者が賠償責任を負うことは免れられ ない場合においても,当事者の攻撃防御の巧拙により賠償責任額が変動し得 る 。被保険者は,賠償責任を負う旨の裁判所の判断を避けることに重大な 関心を有することが多く,防御の意欲を持ちやすいであろう。

その状況で枠内てん補方式であれば,防御費用により限度額が費消されて 万一賠償責任を負うときに賠償責任保険金のてん補が十分に受けられない事 態に陥らないよう,防御費用をコントロールするインセンティブが被保険者 に働きやすい 。

防御費用損害の拡大防止の観点からは,外枠てん補方式よりも枠内てん補 方式が望ましいといえる。

⑵ 防御費用損害の損害拡大防止義務と縮小てん補割合

防御費用と弁護士の役務の対価関係が不相当とならないように,被保険者 は,弁護士の役務の内容,成果物の内容及び報酬金額の合理性を確認する必 要がある。その合理性は,保険によっててん補されない場合であっても,同 様の防御費用の負担を被保険者が容認できるか,という観点から吟味される。

被保険者が弁護士と防御に関する報酬の額又は算定方法を合意するにあた り,保険によるてん補がなく弁護士報酬を支払う場合に行うのと同程度の合 理性のチェックを行うことは,被保険者の損害防止義務として求められるの ではないだろうか。もちろん,一般の依頼者には,弁護士報酬の合理性の判 断は難しいが,具体的な成果物もなく単に 検討 と記載された膨大な時間 制報酬の請求に対しては,報酬額に見合う役務が提供されたのか否かを確認 することが期待される。

被保険者が防御費用損害の拡大防止に関心を持ってチェックを行うよう促 44) 東京海上・前掲注14)281頁。

45) 西島・前掲注20)512頁。

46)

Monteleone, Supra n.8 , at124 .

ただし,賠償請求額がてん補限度額をは るかに超え,又ははるかに下回る場合には,外枠方式と同様に,被保険者に防 御費用をコントロールするインセンティブが働かない。

(21)

す手段として,縮小てん補割合設定方式の一部保険制度 を約款に規定す ることが考えられる。たとえ1%でも一定割合の自己負担が被保険者に生じ るものとすることは,被保険者が防御費用の総額に関心を払う動機付けとな り得る。

8.おわりに

責任保険の被保険者に対する損害賠償請求が被保険者訴訟代理人の適切な 防御により棄却されることは,保険者にとって望ましいことであり,その点 で,被保険者とその代理人と保険者の利害は一致している。

防御費用損害についての保険者の事前承認要件とそれに関する保険者の裁 量は,客観的に合理的に行使されなければならない。被保険者代理人の防御 戦術について保険者が異議を唱え,防御費用てん補の全部又は一部を承認し ない場合において,保険でてん補する損害賠償金と防御費用との総額を圧縮 するために不合理な主張をしているとの疑義を被保険者に抱かれるようなこ とがあってはならない。一方,責任保険は,保険契約者及び被保険者のため の保険であり,訴訟代理人のための保険ではない。保険によりてん補される 防御費用の合理性は,責任保険の保険料水準を安定的に抑制するうえでも必 要なことである。被保険者と訴訟代理人の間の利益相反と被保険者と保険者 の間の利益相反の双方の問題を解決できる効果的な方策を立てることを今後 の課題としたい。

(筆者は東京海上日動火災保険勤務)

47) 野口・前掲注21)119‑120頁に掲げられているインセンティブ = コントロー ル・システムの一種である。同110‑147頁は,損害防止義務を履行させるため の同システムとして保険者による損害防止費用負担の必要性を説く。

参照

関連したドキュメント

死亡保険金受取人は、法定相続人と なります。ご指定いただく場合は、銀泉

はじめに ~作成の目的・経緯~

 保険会社にとって,存続確率φ (u) を知ることは重要であり,特に,初 期サープラス u および次に述べる 安全割増率θ とφ

[r]

2 環境保全の見地からより遮音効果のあるアーチ形、もしくは高さのある遮音効果のある

会  議  名 開催年月日 審  議  内  容. 第2回廃棄物審議会

また、各メーカへのヒアリングによ って各機器から発生する低周波音 の基礎データ (評価書案 p.272 の表 8.3-33

翌月実施).戦後最も早く制定された福祉法制である生活保護法では保護の無差別平等