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現代企業と存続目標

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現代企業と存続目標

桜井克彦

1 序

2 企業目標と理論的アプローチ 3 ドラッカーの企業目標論

4 企業とその価値的環境 5 現代企業における究極的目標

1 序

射℃企業(modernbusiness)なる言葉が現代の代表的な企業たる巨大 株式会社企業に対してしばしば適用されているが、かかる現代企業の本質的 性格の解明への努力が経営学をはじめとするさまざまな学問分野で試みられ ていることは周知の如くである○それにも拘らず、現在までのところでは、

そのような試みは末だ十分に成功していないといわねばならない0

企業の本質は、それが指向する目標もしくは目的のうちに端的に表明され ており、それ故、現代企業の目標を尋ねることはその本質的性格の理解のた

めの有力な手掛りの一端を提供するであろう。企業目標に関する主張には多 様なものがみられるが、多くの支持を集めている主張の一つに企業存続目標 説が存在する。本稿では、そのような存続目標説を取り上げその意味すると ころを検討することによって、現代企業の本質解明への手掛りとしたい0

2 企業目標と理論的アプローチ

現代企業の目標がなんであり、またなんであるべきかをめぐって多くの見 解が提出されるに到っており、企業ないし経営者のいわゆる社会的責任なる 問題に対する社会的関心が増大するにつれ企業目標に関する論議は発展の傾 向にある。ところで、かかる論議は、少くともそれが科学的なものたらんと するならば、企業目標についての事実ないし木質的動向に温点を当てるもの

(2)

でなければならない。即ち、科学としての経営学の名の下に企業目標K関す る主張を試みんとするならば、主題に対する非客観的角度からのアプローチ は排除される必要があるのであるoこのことは、第ーに、企業の理想的目椋 をめぐるいわゆる規範論的な主張が退けられるべきことを、第二に、企業目 標の実態把握が企業経営者によって窓識されるいわば主観的な目標を問題と するという形においてでなく企業の客観的目標の把握の形において試みられ

るべきことを意味する。

むろん、企業目標の取り上げかたをめぐるこのような見解は、いわゆる経 営学方法論、社会科学方法論においてつとに主張されているところであり、

本節ではこの点について簡単に眺めようc

(1) 

ヴォJレトマン (M. S.  Wortman, ]r.)は管理の科学 (management) を、組織の諸目的の達成にあたって組織の諸活動を計画・組織・統制するこ とに関する応用科学であると定義するO かれは科学には基本的には二程のタ イプ、即ち形式的(概念的)科学(これは純粋論理や数学の如き分野であ り、高次の確実性を要求する)と事実科学 (factual science) (これは社会 科学を含んでおり、経験的証拠に依存する)とが存在し、管理の科学は事実 科学の応用であって、その主張 ("truthc1aimsつもしくは原則は、それが 実践可能でありその後の展開によって論駁されない限りにおいてのみ正当で あるとする。そして、かかる管理の科学の第一次的な目的は記述、説明、お

(2)  よび予測であり、後の二者が強調されるというO

管理の科学を事実科学とみるヴォJレトマンのこのような見解が、かつてサ

(3) 

イモン (H. A. Simon)によって主張されたものと同一であることはいう までもない。サイモンは管理の諸原則が科学的命題たりうるかを尋ねつつ、

科学は理論的なものと実践的なものに分けうるが実践的命題(["しかじかの 事態を生ぜせしめるには、しかじかのことが行われるべきであるo)と理 論 的 命 題 (["しかじかの事態はつねにしかじかの条件を伴うロ J)とはその 命題を使用する人間の動機に関して異なるにすぎないとし、管理の過程につ いての命題は事実的な意味においてその真偽を断定しうるときにのみ科学的 であって、この点では社会科学と自然科学との聞に差異はないとするoそし

(3)

て、管理の科学は他の科学と同様、純粋に事実的な叙述にのみ関連し、科学 には倫理的主張の入る余地は存在しないこと、また、管理の科学は理論的な

(4)  形態と実践的な形態のいずれもとりうることを指摘するのであるo

ヴオノレトマンのいうような管理の科学として経営学が展開されねばならな いとするならば、企業目標を対象とする論議は事実命題の提起の形で進めら れねばならない。つまり、目標に関する主張は、それが一見したところ規範 論的な形態をとりうるとしても、かかる主張は目標についての事実もしくは 本質的動向によって基礎づけられていなければならない。それはともかくと して、次に企業目標に関する事実ないし実態の把握に際しては、客観的な目 標が把握の対象とされねばならぬことはいうまでもない。

(5) 

ラ ド ナ ー (R. S.  Rudner)はその著「社会科学方法論」において、すべ ての社会科学が目的的行動 (purposive behavior)と目標指向的(goal directed)もしくは目的論的 (teleological)なシステムに共通な関心を抱 いており、社会的ャと名づけられる現象は殆んどの場合、目的的、と呼ばれ る現象であることを指摘し、かかる目的論的体系といえども自然科学におけ ると同ーの方法論(正当化の論理)によってその理論を確立しうるとするo

即ち、体系的に関連する実体としてのシステム(厳密には、非言語的実体

<extralinguistic entities>としてのシステム)というものは、それが非目 的論的なシステム一例えば太陽系ーであれ、目的論的なシステム一例えば社 会的集団、動物、ある程の機械ーであれ、同ーの方法でその科学的な説明を

(6) 

なしうるとみるのである。

即ち、かれの所説の一端を極く概念的に論ずるならば、かれは、システム

(7) 

の科学的説明というものは、少くとも次のことを含まねばならないとする。

1、そのシステムの諸構成系ないし諸要素の確認。

2、その諸構成系の諸局面ないし諸特性ーそれらに関連して、システムの 諸状態の記述が与えられるーの明確化。

3、一組の諸法則一それらに従ってシステムの諸状態が相互に継起もしく は先行するか、または、システムの諸要素が2で明確化された諸特性 をもって相互作用するo

(4)

そしてラドナーは、システムの諸状態のうちのある状態を選好しているよ うなシステムが目的論的システムであり、かかる選考された状態がシステム

(8) 

の目標 (goals)もしくは目標状態を意味しているというG この場合の被選 好性 (preferredness)なる概念は大ざっぱにいって、キシステムがすべて の可能な状態のうちから、ある一つの状態(またはあるー集合の状態)に向 って運働する傾向にある、ないしは、より大きな傾向性を示すーあるいは、

既に達成されたならば、そのような状態に止まる傾向がある、こととして表

(9) 

現されうるとされるのであるD

以上の如きラドナーの見解は、企業というすぐれて目的論的なシステムに おける目標というものが客観的に把握しうること、そしてそのようにして把 握される目標がシステムの真の目標であることを示唆しているD 現代企業の 目標ないし目的として提示されるべきものは、かくの如き客観的なそれでな ければならないのである。

(1) Max S.  Wortman, Jr."A Philosophy for  Management" Adva

nced Management, October, 1961 (in Wi1liam T. Greenwood ed.,  Issues in  Business and Society  Readings and Cases, 1964)  .  (2)  W. T. Greenwood ed., op.  cit.  p. 434. 

(3)  Herbert A.  Simon, Administrative  Behavior, 1955 (松田、高柳、

二村訳「経営行動」、昭和42年)

(4)  H. A. Simon, op.  cit., pp. 248253 (前向訳吉、 322......328頁) (5)  Richard S.  Rudner, Phi1osophy of Social  Science, 1966 (出原勉沢

「社会科学の哲学J、昭和43年)

(6)  R.  S.  Rudner, op.  cit., p. 84ff. (前掲訳者、 129頁以下) (7)  Ibid., p. 89 (同訳書、 137.....138

r :

O . 

(8)  Ibid., p. 95 (同訳者、 145頁) .  (9)  fbid., P. 96 (同訳書、 147.....148頁)

(5)

ド ラ ッ カ ー の 企 業 目 標 論

それでは、現代企業において追求されるところの目標もしくは目的の実態 はどのように解されうるであろうか。現代企業の目標が伝統的な企業理論に おける利潤最大化の概念によってもはや説明しえなくなりつつあることは、

多くの論者の主張するところである。かれらは、利潤最大化なる伝統的な単 一目標説に替わって、多目標説や非営利単一目標説、等さまざまのものを主 張する口これらの目標説のうちの有力なものの一つに存続 (survival)をも

って企業の客観的・必然的な目標とみる見方が存在するD

存続をもって企業の目標ないし目的とみる見方が、いわゆる組織論学派 に属する企業理論の論者を中心に出現してきていることを、マクガイヤー

(1)  (2) 

(J. W. Mcguire)は次のように指摘するO 組織論的な諸企業概念はその 細部に関してはかなりの相違がみられるが、しかしながらそれらの大多数 は、少くとも三つの局面を共通に有しているようにみえるo即ち、 (1)その中 で行為者が行劫するフレームワークとしてよりも、むしろ個人の諸関係の複 雑なパターンとしての企業概念、 (2)厳格な合理性なる伝統的仮定を排除しそ れに替えるに合理性についての数稜のタイプの修正された仮定のいずれか一 つをもってしていること、 (3)企業は存続なる目標をその底にもつ恒常的な社 会経済的組織 (ahomeostatic socioeconomic organization)であるとい

う想定(しばしば、暗示的に存在するにすぎぬが)が、それであるとo

このように、存続目標説が組織論学派の論者を中心に提唱されつつある が、むろん、組織論学派には必しも分類されえないようなひとびとによって も同様の目標説が主張されているD かかる論者の一人にドラッカー (P. F.  Drucker)を挙げることができょう。かれの企業目標論は、存続目標説の一 例を示しているのみならず、かかる存続目標の真の怠味に対する有力な手掛

(3)  りを提供しており、本節では、かれの所説を眺めることにしたいD

(4) 

ドラッカーがその主著のーったる「経営の実践」で「顧客の創造J、つま り、社会が要求する財伎と用役の供給をもって企業の目的 (purpose)とし て間定していることは、周知の如くであるo かれはいうo企業 (business)

(6)

とはなにかという質問に答えるためには、われわれはまず企業の目的を考察 する乙とから出発せねばならぬoそして、その目的は企業それ自体の外部に 存在せねばならぬ。実際、企業が社会の機関である以上、それは社会の中に 存在せねばらない。企業の目的についての唯一の正しい定義が存在するの

(5)  であり、それは顧客の創造 (tocreate a customer)であるとo

ところで、ドラッカーはまた、同じ著書において次のことも指摘してい o r企業を経営することは、多様な必要とゴーノレをノイランスさせる乙とで あるO このことは判断を必要とするO 一つの目標 (objective)を求めるこ とは、判断を不必要たらしめるような魔法の公式を求めることであるO 公式 をもって判断に置きかえんと試みることは、常に非合理的である。判断の範 囲および利用可能な代替案を限定することで、ならびに、判断に対して明確 な焦点、健全な事実的基盤、行為と決定の効果と正当性に関する信頼しうる 測定を与えることで、判断を可能ならしめることが、なしうる全てであるO

そして、企業の性質上、このことは多元的な目標を必要とするD しからば、

乙れらの目標はなんであるべきか。ただ一つの答が存在するO 目標は、業績 と結果が企業の存続と繁栄に直接かっ霊大な影響を与えるような領域の全て

(6) 

において必要である。 J

r

少しみたところでは、具った企業は全く異る主要 領域一一般理論を作りえない程に具るそれーをもつようにみえるかもしれ D 異った企業において異る重要領域が、強調を具にしており、また、各企 業の発展段階の相違によって強調を具にしていることは、事実である。しか し、企業がなんであれ、経済的条件がなんであれ、企業の規校もしくは成長 段階がなんであれ、領域は同じであるD 業績と結果についての目的が設定さ れねばならぬ八つの領域が存在するO 市場の地位、草新、生産性、物的なら びに財務的資源、収益性、経営者の能力と開発、労働者の能力と態度、およ

(7) 

び公共的責任であるo

ドラッカーは、以上のように、 「経営の実践」においては、企業の目的 として顧客の創造を、また、企業の目標として市地の地位をはじめとする八 程の多元的な目標を挙げているo更に、かかる多元的な目標が、企業の存続 と繁栄に密接に係わりあう諸領域において必要とせられることを指摘するこ

(7)

とによって、存続と繁栄なる目標の存在をも示唆するのであるo存続と繁栄 という場合、存続は繁栄の基本条件をなすから、両者を存続として一括する とすれば、ドラッカーにおいては、企業の目的および目標として、創客創 造、多元的目標、および存続が考えられていることになる。これら三種の目 的もしくは目標はいかなる関連にあるのか。

まず八つの諸目標というものが存続目標に従属していることは、多元的諸 目標の存在理由をめぐるかれの文意のうちにほぼ明らかであるo即ち、八つ の多元的目標は存続目標の実現のためのいわば必要条件とされているといえ ようo多元的目標と存続目標との関係はひとまずこのように解されるとし て、顧客創造目的と存続目標との関係はどのように理解されているのであろ うか。存続目標が顧客創造目的の上位概念として位置するようにもみえるo

そうであるならば、多元的目標と顧客創造目的との関係はどのように解しう るであろうか。結局、 「経営の実践」にあっては三種の目的もしくは目標の 相互関係は必しも明瞭ではないのであり、この問題についてのドラッカーの 理解は、企業の理論の確立の必要性を説いている後述の論文をも検討するこ

とのうちに明らかとなるといわねばならない。

r

経営の実践」の出版後四年 をへて著わされたその論文においてかれは、存続目標を企業の究極的な目標 と措定するとともに、前記の多元的諸目標および顧客創造目的の位置づけに ついても有力な手掛りを提供しているのであり、次に、そ乙でのかれの見解 の一端を眺める必要がある口

存続を企業の究極的目標とみるドラッカーの見解は、 「企業の諸目標 (Objectves)と存続のための諸要求一企業学 (aDiscipline of Business 

(8) 

Enterprise)に関するノート」と題する論文のうちに明確に示されているo

かれは、企業学、即ち「自分自身の理論、自分自身の概念、および、仮説、

分析ならびに論証に関する自分自身の方法論を兼備するような組織的・体系

(9) 

的な知識休」が現在のと乙ろ殆んど確立されていないこと、しかしながら企 業行動に関する理論が必要となっていることを指摘するo かれはかかる必要 性の理由として、第一に、現代の企業およびその行動をひとびとが理解しえ ないところから例えば利潤に対する普遍的な抵抗がみられ、産業社会の存続

(8)

および自由企業体制の存続にとってもまた個々の企業の成功にとっても障害 となっている乙と、第二に、経済の巨視的経済学と、この経済における最も 主要な立役者たる企業の微視的経済学との聞に、理解の橋渡しが行われてお らず、その結果、利潤極大化の概念の観点から企業行動を把握しそれに基い て形成せられる政府政策が合理的たりえなくなっていること、第三に、企業 組織内部にお,ける諸職能の高度の専門化は組織の内部統合の問題をますます 重大なものとしていること、第四に、すぐれた実践の基礎をなすものは理論 であり、企業と経営者の決定の社会的街撃の大きさを考えるなら企業学が必

( 10)  要であることを挙げているo

そして、ドラッカーは、現在の段階においては真の企業学はその絡につい たばかりであるとともに、そのような企業学の確立に寄与しつつある諸研究 がいずれも、企業が存続するための諸要求はなにかという問題、換言する と、企業は存立するためにはいかにあり、いかになし、いかに達成せねばな らぬかという問題から出発しているということを指摘するoまた、そのよう な諸要求のおのおのに対しては、それぞれ一つのも目j票、がなければならな

(11) 

いとするo かくて、かれは存続のための諸目標の探究のうちに企業学の確立 の可能性を認めるのである。1"このようにして、存続のための諸目標という 概念は、真の「理論」に対する第一の要詰一理論は形式的なものであるとと もに、具体的に適用しうるもの、すなわちも実際的なもの、でなければなら

( 12)  ないということーを充足するものである。」

ドラッカーによると、企業には五つのも存続のための諸職古島が存在する とされるo 1"それらはともに、企業が存続するためには、各企業が、そこにお いて、ある基準の業絞に到達し、また最低水準以上の結果を実現しなければ

(13} 

ならないような諸分野を確定するoJのであるD かかる職能は次のように説 (

14)  明されるD

1.  第ーに企業は「協同的な業績のために設計せられた人間組織、しかも (

15) 

みずから永続しうる人間組織を必要とするo J企業は人間の集合体であり、

乙れらのひとびとは協同的業績のために組織せられねばならず、有効な人間 組織が第ーに存在せねばならないが、しかるに経営決定の大部分は長期的性

(9)

格をもち、ここから、人間組織としての企業は人間の寿命をもこえて存続し えねばならないのであるO

2.  I存続のための第二の目標は、企業が社会と経済のうちに存立するも のであるという事実にもとづいて発現する。経営学部や経営学的思考におい ては、われわれは、しばしば、企業がそれ自身で真空のなかに存立するもの であることを仮定する傾向にあるO われわれは、企業を内側から考察するo

けれども、企業は社会と経済の生きものなのであるD もしも、われわれの知 るべきものが、一つだけ存在するとするならば、それは、社会および(また は)経済が一夜にして、いかなる企業をも滅亡させうるーこれほど簡単なこ とは他にもとめえないーということであるo企業は黙認せられることによっ て存立する。しかも、社会と経済とが、企業は一つの役割を、すなわち必要 で、有用で、生産的な役割を果しているということを信用しているかぎりに

( 1 おいて、企業は存立するのである。」

3.  さらに「企業の特殊目的の領域、すなわち、企業の貢献の領域が存在 する。目的は、明らかに、経済的な財および用役を提供することであるo れこそは、企業存立の唯一の理由であるo経済的な財および用役の、生産的 で、経済的で、そして能率的な提供に関する、よりすぐれた方法を、われわ れが、他に見出しえなかったという事実がないならば、われわれは、乙の複 雑で、困難で、そして議論の多い制度を、そのままにしておくことはないで あろう。然り、われわれが知るかぎりでは、よりすぐれた方法は他に存在し ない。しかも、この乙とは、企業の唯一の正当化であり、企業の唯一の目的

( 1 をなすのである。」

4.  ]1の目的が存在するが、これは、 「すべて変動する経済および変動す (

18) 

る技術のうちに発現するものであるという特性のものである。」要するに、

企業は変動に対して迎応しうるものでなければならず、また、それが存続す るためには、革新を行うことに努めなければならないのであるD

5.  I最後に、存続のための絶対的要請、すなわち利潤性 (profitability) の要請が存在するO け'だし、それは、われわれがこれまで論じてきたことと

ωすべてが、危険にとり組むものであるという、簡単な理由によるoわれわ

(10)

れがこれまで論じてきたことのすべては、危険を負担し、危険を創造するこ とが、この制度の目的であり、本性であり、また必然であることを、明らか にしているo しかも危険は真の賀用であるoそれらは、会計士が手を下だし うるすべてのものと同様に、真の費用をなすのであるo唯一の差異は、将来 が過去になったときでなければ、われわれは、賀用の額がどれだけであるか を知りえないということに見出される。しかもそれらは賀用であるo もしも われわれが、賀用に対して備えないとするならば、われわれは、資本を破壊 しつつあるわけであるO もしもわれわれが、損失ーそれは将来の賀用に関す る別個の表現法であるーに対して備えないとするならば、われわれは、富を 破壊しつつあるわけであるD もしもわれわれが、危険に対して備えないとす るならば、われわれは、生産能力を破壊しつつあるわけであるD そして、そ れゆえに、われわれが必然的に負担し、また創造する危険に対する、適正 な、最小限度の利潤性は、企業が存続するためのみならず、また社会が存続 するためにも、必要な絶対的条件をなすのであるo

ドラッカーは、 「これら五つのものは、それぞれ、企業全体に関する正し )

い見方」なのであり、もしもわれわれが、これら五つのもののすべてを限中 におくならば、その場合にはじめて、われわれは、企業の実践を基礎づけう

(21) 

るような企業の理論をもつこととなるoJとして、以下のように結論する。

まず、 「このことから出てくる第一の結論は、各企業が、これら五つの分 野のそれぞれにおいて、目標一それは明示的であると否とを問わないーを必

(22) 

要とするということであるo

r

そこで、企業学の第一の課題は、ここにも とめられるo これら五つの分野のそれぞれにおいて目標を設定し、また業績 を測定するために、明瞭な概念と便利な尺度とを発展させることが、すなわ

3) ちそれであるo

「第二の結論もまた、同様に重要なものであるoいかなる単純な目標も、

一つでは、企業の目標もそのもの、ではなく、いかなる尺度も、一つでは、

企業の業績・進歩および成果の尺度もそのもの、ではなく、また、いかなる 分野も1つがももっとも、重要な分野をなすわけではない、というのが、す

凶) なわちそれであるo

(11)

第三に、 「けれども、このことはさらに、別の重要な要求をもたらすこと となるO 企業の存続と成長とのために最善の備えをなしうるように、諸目標 を選択し、これらを均衡させることに対する合理的・体系的な研究が、すな わちそれである。」

ω 

以上において知られうる如く、ドラッカーは、企業の理論をめぐる論文の 中で存続ということが企業のいわば究極的目標であることを明示しているO

のみならず、この論文は、 「経営の実践」にあっては必しも明瞭ではなかっ た存続目標、多元的諸目標、および顧客創造目的の関係をも明らかにしてい るのであるo

「経営の実践」においては存続目標のための下位的ないし手段的目標とし て、市場の地位、革新、生産性、物的ならびに財務的資源、収益性、経営者 の能力と開発、労働者の能力と態度、および公共的責任が挙げられていた が、上記の論文にあっては、存続のための諸職能ならびに目標に関して、適 切な組織、社会に対する配慮、財と用役の提供、革新、および収益性が指摘 されていた。 r経営の実践」における八目標と企業理論に関する論文中の五 目標との対応関係を眺あるならば、五目標のうちの社会に対する配慮、革 新、および収益性は、それぞれ八目標のうちの公共的責任、革新、および収 益性に相当するが、適切な組織なる目標と財および用役の提供なる目標と は、八目標のうちにその対応部分を必しももたない。むしろ財と用役の提供 なる目標は、顧客の創造なる目的に直接に対応することは明らかであるとと もに、前者についてドラッカーが、これこそ企業存立の唯一の理由であると 述べていること、および後者に関連してかれが、その存在根拠を企業の社会 的機能のうちに求めていることは、財と用役の提供もしくは顧客の創造が多 元的な諸目標の次元には位置せしめられていないことを示しているo即ち、

前記の著書と論文に関するかぎり、ドラッカーにあっては、存続なる究極的 目標を達成するためには企業は八つの目標(適切な人間組織なる目標も加え れば九種)を追求せねばならぬこと、ならびに、これら八程の目標の追求に あたっては財と用役の提供ないし顧客の創造への配慮が不可欠であることが 想定されているといえようo要するに、かれに従うならば、企業は究祁的な

(12)

目標たる存続を実現するためには、なによりも、社会が企業に諒していると ころの顧客の創造もしくは財貨と用役の提供なる責務を呆たさねばならず、

また、かくの如き責務の履行のためには八程の多元的な目標を設定せねばな らない乙とになるのである。

これが、企業の目的ならびに目標についてのドラッカーの所説の主要内容 である。ドラッカーの所説は、その内容において必しも明確とはいえない が、以上のような解釈が適切と思われるo高田教授もドラッカーの目標論に 関して次のように述べておられる[""私の解釈では、顧客創造目棋は八つの 領域の諸目標を正当化し統合する役割を果たすものである。とくに、この統 合作用は実は諸目標の均衡化作用として具体化するO さきに企業の存続と成 長という根本目標が主要諸領域の諸目標を決定しその諸目標の均衡をとる基 礎となると述べたが、この作用は実は顧客創造目標を媒介として行われると みなければならないD なにが重要な領域であり重要な目標であるかの具体的 決定は顧客創造目標を基準としてこそできる口もちろん、顧客創造目椋の達

(26)  成によって企業の存続・成長目標は達成されることは前提となっているo

(1)Joseph W. McGuire, Theories of Business Behavior, 1964.  (2)  [bid., pp. 3031. 

(3)  ドラッカーの所説の検討はわが国の多くの学者によってなされており、そのー

例として藻利重|在「ドラッカー経営:~f~hl~の研究(第二増補版) J、昭和45 をあげうる。

(4)  P.  F.  Drucker, The Practice of  Management, 1954 (現代経営研先 会>RI現代の経営、上・下」、昭和45年)。

(5)  P.  F.  Drucker, op.  cit., p.  37.  (6)  fbid., 63. 

17)  fbid., p. 63 

(8)  P.  F.  Drucker, "Business Objectives and Survival Needs: Notes  on a Discipline  of  Business  Enterprise"  Journal  of Business,  April, 1958 (in  W  T.  Greenwood ed., op.  cit.).11::)の訳が藻利教 授によってなされている UNi利市降、前掲丹、 301325頁)

(13)

(9)  W. T.  Greenwood, op. cit., p.  415 (涼利、前掲書303頁) (10)  Ibid., pp. 415'""'418 (向者、 303'""'309頁)

(11)  Ibid., p. 418 (向者、 309'""'310頁) (

12)  Ibid., p. 419 (同書、 310頁)•

(

1i 3Ibid., p. 419 (同苫、 311'""'312頁) (14)  Ibid., pp.  149'""'412 (同書、 312'""'316頁) .  (

15)  Ibid., p.  419 (向者、 312頁)•

(

1 Ibid., p.  420 (同吉、 313頁) (

1 Ibid., p.  420 (同書、 314頁) (18)  Ibid., p.  420 (同書、 314頁) (

1) 9 Ibid., p.  421 (向者、 316頁) (

1) Ibid., p.  422 (:3318頁) (21)  Ibid., p.  422 (向者、 318頁) (22)  Ibid., p.  422 (同書、 319頁) (23)  Ibid., p.  422 (同苫、 319頁) .  倒) Lbid., p.  422 (向者、 320頁) (25)  Ibid., p.  423 (: 320頁)

(26)  高田智「経常の目的と立任」、昭和45 5051

企業とその1lIi!1U¥的環境

存続をもって企業目標とみる見解が台頭しつつあることは、前節でも触れ た如くであるO ところで、かかる見解に対しては、存続なる概念が基本的l な味するところがなんであるかが改めて問題とせられねばならないと思われ

D なぜならば、ある芯味では生物的有機体に類似した局面を有するとはい え企業は、生物と呉り社会の制度として人工的な産物に過ぎず、そのな味で はそれは社会の用具としての性格を依然として担っているといいうるからで ある。また、システムとしての企業が指向するところの状態をもってそω 在日的な目標として理解するならば、その存続の過程に際して企業が示す傾向 状態がむしろ企業目標としては問題になると考えられるからであるD この芯

(14)

味で、存続目標を主張しつつもそれを顧客の創造なる目標との有機的な関述 のうちに措定せんとしている前述のドラッカーの所説は、存続目標の真の意 味を示唆している点で興味深いものがあるように思われる。

ドラッカーは、企業の究極的な目標を存続ひいては成長として理解する一 方、かかる存続目標の達成が顧客の創造を通じてはじめて可能となるとみ D 顧客の創造とは直接的には財貨と用役の提供を意味するが、それは要す るに企業に対する社会の基本的な要求の充足を意味するのであって、かれの 所説は、社会の要求の充足こそ企業の究極的目標であり存続目標の真の意味 であるとする見解に到達するための手掛りを提供するといえようo

現代の大企業は、複雑な社会環境のただ中にあり、その内外をめぐる多様 なインタレスト・グループと錯綜した関係を有しているoそれは、さまざま な種類の価値が存在する価値的環境の中に位置しており、かかる価値の充足 を不可避たらしめられている。現代企業ないしその主体としての経営者が充

(1)  足すべき諸価値の体系的な整理がパーンサノレ (W. F.  Bernthal)によって なされており、本節では以下、かれの所説を眺めることによって存続目標の 意味の解明への一助としよう口

ノイーンサノレは、意思決定に際して経営者がいかなる価値によって導かれて おり、また導かれるべきかという問題が、専門経営者ならびにビジネス・ス クーJレにとっての重要な探究課題となっていることを指摘し、 「そこから経 営者もしくは経営の学徒が、自己のもつ価値をより良く導き出しうるよう な、ならびにその経営決定に際してかれを導く基準に関して一応の判断をな しうるような、経営決定のための価値階層 (ahierarchy of values)につ

(2) 

いてのモデノレ」を提示している。

かれはまず、経営の目的 (objectives)について次のようにみる口経営の 目的は通常、も所与令とされ、も組織やのそれら、即ち企業のそれらとして 暗示もしくは明示されているのであり、事業家や多くの経営学徒はそれらが 利潤(およびこれと関連して存続と成長)であると答える。しかしながら、

かかる見解は、企業をば広い視野 (perspecti ve)のうちに置かせしめるに 十分なほど広いであろうか。それは、利潤追求が経営の目的であるという主

(15)

張において暗示されている仮定を認識しているであろうか。利潤目的は、自 由企業と競争とを想定しており、また、完全競争についてのスミス・モデル (事業家によるその利得の最大化の追求は社会の利益をもたらすという見 解)を想定しているのであるo しかるに、事実は競争は企業行動の規制者と してさほど作用していない。しからば、競争が有効な規制を行なっていない 場合に、それに替わるものとしてなにが考えられるであろうか。開明的な自 由企業が考えられるであろうが、かかる開明が事業家の視野lこない場合、そ の程度において、政府の規制と他の大グループの対抗力という規制者が自由

(3) 

企業の自由を制限するにちがいないのである。 Iたとえ経営教育に際して は、企業の活動においていかにして効率を最大化すべきかが最も強調されね ばならぬとしても、切iJj問、なる目的をばも所与、にしても有徳、のものと想 定することは十分でない。経営者の眺望は、それへの奉仕のうちに企業の存 在が正当化されうるところの経済システムの目標 (goals)を考慮するに足

(4) 

るほどに広くなければならない。」

かくて、パーンサノレは企業をば経済システムの中で眺望すべきであるとす D かれは論ずる。

「企業をば経済的システムの文脈のうちで眺めるにあたっては経営の学徒 は諸価値の階層に直面することになるO自由企業(ならびに利潤追求)はそれ が経済的システムのより高次の諸目標に、即ち希少な資源を生産と配給とを 通じて配分するというそれらに奉仕する限りにおいてのみ正当化されうるo

これらのより高次の諸目標を促進しえぬ、もしくは促進しようとはしない程 度に従って、それ自身の存在は短命なものであろうcそれは購入について顧 客が選択の自由をもっ場合にはかれの支持を失うかもしれぬし、顧客がかか る自由をもたないならば企業の利潤追求は社会(政府)によって規制される であろうo もし顧客が価格協定によって搾取されたり労働者が差別的あるい は搾取的な人事実践によってみだりに使用されるならば、社会は労働者もし くは消費者の組織を通じて、あるいは政府の干渉を通じてキ自由、企業の自 由を効果的に奪うのであるo

アダム・スミスの経済モデノレに基いてその行為のより広い経済的影響に対

(16)

する事業家の非責任性を合理化することは、事実上、その行為の無責任さに 対する弁解に他ならぬD もしも企業の怠思決定者がミクロ的な観点から企業 をば社会的真空の中にあるとみ、システムが自動的に存続すると考えるな ら、かれの行為はかれが長期的な存続と成長を依存している自由企業の腐食

(5)  に寄与するであろう口」

「企業がその中で活動している経済的文脈を無視するような、経営者によ る眺望は、私企業が普遍的たらんとするならば、近視眼的であり不適切であ

(6) 

る口」

パーンサjレにあってはこのように、企業と経済システムとの関述が問題と されるべきことになるが、しかしながら、かれは経済という文脈の中で企業 を眺めるのみでは不十分であり、社会それ自身というより広い文脈の中で企 業がとり上げられねばならないとみており、以下の如くいう。

消費者の諸価値を保障する経済的システム内での利潤追求を基盤とするよ うな、経済的諸価値の階層のモデルは、開明的な経済的利己の見地から正当 化しうるO しかしながら、経営教育のための広い眺望は、経済的なものと並 ぶ他の諸価値を認める。人間社会の目的はその経済的な存続と繁栄よりも偉 大であるロなるほど、経済的な存続と快適さとは、より広い社会的進歩のた めの必要条件であり、生活維持に必要な部分を超える財貨のサープラスは、

(7) 

自由・自己表現・文化の偉大な高みに到達しそれを守るために重要であるO

「だが、経済的プロセスをばそれ自体目的として不当に重視することは、そ れがそもそもその可能ならしめた、 も人生におけるこのようなより素晴らし

(8) 

きものかの創造を知らず知らずに妨げる乙とになるのであるo

価値の階層にあって社会の諸目標は、経済的システムのそれらよりもかな りに主観的なものとなる。文明の実質的な要素たる、創造的達成・正義・秩 序・審美的価値・幸福・美に対して個人が与える価値は大いに異なるo が、経済的福祉が行きわたり当然のこととされるようになるとき、多くの経 営決定において直面するものは、もより高次、の諸価値に関するこれらの問 題であるD 最低限において価値システムは、より高い文化の発展を妨げない ように企業がその枠内で活動すべき限果についてなんらかのガイダンスを与

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