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「太平洋通貨圏」について一小島教授の構想をめぐって一

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「太平洋通貨圏」について

一小島教授の構想をめぐって一

国  野  尚  典

1 はじめに  一問題の提起一

  「太平洋通貨圏」Pacific Currency Area(以下PCAと略記)とは太平洋をとりまく アメリカ・カナダ・日本・オーストラリア・ニュージランドの先進五ケ国を構成メンバー とし、この決済機構に参加することに共通の関心をもつ環太平洋低開発諸国を加えてつく られる地域的通貨ブロックのことである。今日EECをはじめ地域的共同市場や決済同盟 の結成が盛んだが、PCAはもちろん未だ制度化された存在ではなく、単に論理的構想の 域を出ない。その点ではアジア決済同盟(APIJ)案やアジア・太平洋自由貿易地域(P AFTA)案と同様である。しかし後述するように、太平洋、エカフエ地域の地域協力の 諸機構は1960年代後半になって多数の構想を生みまた一部には定着化しつつあって、PC A構想もこうした歴史的かつ現実的背景のなかに生まれたものといえる。

 そして、われわにとっては、PCA構想の内容の検討もさることながら、その論理とこ の論理の生まれる歴史、現実的背景が問題である。

 ともあれここに直接とりあげるのは「太平洋経済圏」の諸構想の一環としてPCAの論       ①

理と具体的プランを提起される小島清教授の見解である。

 ところで通貨圏構想といえば、1963年の「ブルッキングス報告」 (通称サラント報告)

      ②

が注目される。同報告はドル危機の進行するなかで、大統領経済諮問委員会の委嘱によっ て、米国の国際収支の現状と見透しに関する分析をおこない、同年7月に打ち出されたケ ネディの「国際収支特別教書」とそれにもとつく強力なドル防衛策に対して、いわば資料 を提供する役割を果したものだが、その結論は「問題は米国国際収支にあるのではなく、

国際通貨体制の不備にある」として新体制の必要を提起したのであった。そして新体制と して各国支払準備の国際勘定単位表示の債権保有をもってする国際決済同盟の結成を説い たが、それには金融、財政のみならず、賃金・物価・通商等各方面にわたる政策協調を伴 うところの通貨協力が必要とされ、若しも合意がえられない場合の次善の策として、固定 為替レート制に代え、ドル・ポンドブロックとEECブロックからなるブロック相互間の 屈伸レート制の採用を提案した。この通貨ブロック・屈伸レート制については、ローザ財       ③

務次官の反対声明が直ちに出されるなど多くの反論を呼んだが、そこに貫ぬく「国際収支

(2)

よりも経済成長」との基本理念は、両者のジレンマに悩む資本主義世界経済のチャンピオ ンとしてのアメリカの立場を代弁するものということができるであろう。すなわち同報告 は、国際通貨制度をして、(1)国内経済の安定と完全雇用下の経済成長の達成、(皿)自 由世界の軍事力の保持、(皿)低開発国の経済発展の促進と援助および他国の経済成長に 対する阻害の回避i、(IV)自由世界の経済活動についての最大限の自由の四項目の目的を 実現しうる方式をとるべきものとし、国際収支調整政策の安易な採用がこうした目標の達 成を阻害することに強い警戒を払っているのである。そうだとすれば、こうした政策追求 のなかから生ずる収支赤字を国際通貨協力によって一定期間棚上げする通貨機構をとる か、それともブロック化によって収支不安をなくすかのいずれしかないことは明らかで、

ここに自由世界のチャンピオンをもって任ずるアメリカの政策意図が端的に表明されてい るとみなければなるまい。

 小島教授の構想は論理においてサラント報告のこうした基本理念をもってするブロック 化、屈伸レート制についての示唆の延長線上にあるとみられるが、その構想の重要なメリ ットとして低開発諸国に対する開発創出効果を具体的プランとして示している点に特徴が ある。現行の国際通貨制度の抱える困難な問題の一つに南北問題への対処如何ということ があるが、教授のプランでは、これを組み入れた通貨制度の形成が目指されている。

 ともあれ今日の国際通貨問題を考える際、基調となるのはドル危機という背景であろ う。というのは、戦後の国際通貨機構の主軸はドル体制であり、ドル危機はこの体制を上 部構造とするアメリカ資本主義の世界市場支配の展開とその矛盾の結果、すなわちアメリ カを中核とした戦後世界経済の構造的変化の集中表現とみられるからである。ところで注 目すべきは「南北問題」がこのようなものとしてのドル危機と歩調を合わせて大きくクロ ーズアップされて来たという事実である。「南北問題」がどのような立場から意識せられ るかによってこの点の評価は異なって来ようが、少くともそれが先進諸国家母での重要な 関心事の一つとなって来る場合、上記の世界資本主義の構造変化に伴う戦略要因としての 低開発国市場の意義についての認識が絡んでいることを否定することはできないように思 われる。いまこうした観点に立つとき、小島教授の構想は、教授の論理構造の一貫した主 軸をなす赤松教授以来の「構造理論」、に照らし合わせて、アメリカをチャンピオンとする 先進国グループと低開発国グループを上記のような構造変化のなかで通貨面で結びつける 新しいブロック化構想とみることができる。いうなれば、PCAの結成は、先進国特にア メリカと低開発国を結合する戦略上の鍵の役を果さしめるものとなっているとみられる。

この場合問題は如何なる論理と現実認識のなかからこのような構想が出てくるのかという ことである。

       ④

 他方1964年のジュネーブでの国連貿易開発会議におけるプレビッシュ報告は、南北問題

について低開発諸国側からの新しい問題提起として論壇を賑あわすこととなった。そこに

は、南と北の国際的不平等の存在を先進国のエゴイスティックな国家利益追求の結果であ

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るとの意識が底流に横たわっていて、周知の「援助より貿易を」と叫ばれ特恵要求が打ち 出されて来るに至った点に示される以上に鋭い北への対立が南によって示されているとみ られるのである。この観点に立つとき、「構想」が、小島教授の意図にも拘わらず重大な 限界を示すことになるのではないか、それが問題である。すなわち第二次大戦を経て崩壊 の一途をたどって来た植民地体制のなかから生まれた南の諸独立国が、帝国主義体制批判 の立場を貫ぬこうとするとき、PCAの論理をそのままうけ入れることが出来るものかど うか極めて問題ではないのか、と思うのである。

 ④ 小島清「太平洋通貨圏一国際通貨制度改革の新方向一』「世界経済評論」1969年5月号所収。以   下小島論文①と略記する。なお太平洋経済圏構想については、同r太平洋経済圏とアジア開発途   上国一開発・援助・特恵一』同上誌1969年2月号所収(以下小島論文②と略記)及び同r南北問   題と日本』 同上誌1968年8月号所収参照。

 ② Walter S. Salant and Assoiations, The United States Balance of Payments   in 1968・The Brookingg Institution・1963・

③ たとえばハンセンは「報告」の検討のなかで「陰気な最後の覚書」と称して、事態のこうした発   展が「自由世界の団結を破壊することになるであろう」とのべている。A. H. H:ansen, The   Dollar and the International Monetary System,1965.鈴木浩次訳「ドルと国際通   貨制度」194頁。

④R.Prebisch, Towards New Trade Policy for Development:U. N. Conference   on Trade and Development, Geneva,1964. New York,1964.

H 「構想」の要約

 さて小島教授のPCA構想は次のように要約できる。

 〈アウトライン〉

 α)環太平洋先進五ケ国を構成メンバーとし、これに共通関心をもつ環太平洋低開発国 を連合メンバーとして参加せしめ一つの最適通貨圏を結成する。

 この場合最適通貨圏Optimum currency areaとは、擬似的な「国」とも規定され、

単一の共通通貨とまでは行かずとも固定レートで圏内各国通貨が結合され、商品および生 産要素の移動が域外に較べ相対的に自由であり、完全雇用、適正な経済成長、物価安定等 の経済建議的の達成および対圏外収支調整に共通の関心をもち協調的政策をとるという連 帯感をもつ地域と規定されている。

 (2>圏内ではドルを基軸通貨とし、固定為替相場制を維持し、金免震および金による決          ⑤

済はおこなわれない。

 (3)構成メンバーは、金・ドル外貨準備を共通にプールする。この場合もちろん上記に

よって金はもっぱら対圏外決済準備として保有される。

(4)

 (4)対圏外収支の調整は、プールした金による為替平衝操作を伴う小幅な帯の中での自 由変動為替相場制によっておこない、したがって最終決済は共通にリザーブ・プールした

金・外:貨による。

 以上のアウトラインに示されるようにPCAのねららいは、あたかも一つの国と同じよ うに経済統合された通貨及び政策の協調地域の形成にある。そこで当然のことながら、圏 内と対圏外とでの大なり小なりの差別待遇を伴うことになり、通貨面でいえば、決済及び 収支調整について圏内と対圏外とで異なった機構を必然化する。

 〈そのメカニズムとメリット〉

 上記のようにそのメカニズムは圏内と対圏外とで異なる。

 (1)対  圏  外

 対圏外の問題としては決済準備及び収支調整の問題がある。

 (a)決済準備:決済準備はプールされた金外貨をもって当てる。ここでのメリット は、圏内決済に必要とされた金及び外貨が節約されることにより、一方で対外決済用の準 備金の量が増加することであり、一工955年〜67年の資料によれば先進五ケ国の域内決済準 備の41%の節約が可能と試算されている(小島①)一一他方これによってドルの対陣外信         ⑥

用が強化されることになろう。

 (b)収支調整:収支調整は為替相場の小幅な変動によって有効化される。もちろん 相場変動そのものの調整は金および外貨の売却による平衡操作による。

 最適通貨圏としてのPCAにとって為替レート変動による収支調整効果の根拠は次の三 つとされる。すなわち、(i)一つの国の場合に較べて輸入需要の価格弾力性が大きいこ

 ⑦

と。それは各商品についての国一圏内自給率が高くなり、したがって輸入依存度が小さく なるからである。ちなみに1965年冬PCA先進五ケ国の域内貿易比率は39.3%と58年の32

.5%に較べ上昇傾向を示している。加えてPCA構成メンバー国の垂直的分業構造の形成 が有利に作用する。したがってわずかの相場変動でもって収支調整が可能となる。(ii)

レート変動に伴うマネー・イルージョンが大きく(国内にくらべ圏内では貿易依存度が小 さいから)、実質賃金の引上げ圧力が弱まり、為替切下げによる収支赤字の調整効果が大   ⑧ となる。(iii)対圏外の浮動レートが、圏内の固定レートに対して差別待遇となり、対圏外

貿易の圏内貿易への転換効果を生む。

 (2)対  圏  内

 以上のよよな対圏外決済及び収支調整のメカニズム、メリットに対し、圏内のメカニズ ムは、一つの国内の場合により近くなり、そこに積極的なメリットを見出そうとされる。

さらにいえば、PCAの対圏外機能は以下のような圏内機構をまって初めて達成される し、逆にそのことによって圏内の諸経済政策目標を或程度自由かつ有効に達成しうること

となる。

 (a)決済機構:教授は圏内の決済機構について具体的には触れて居られない。その

理由は次に述べるように圏内の資本移動がその諸障害をとりはずされ極めて自由であり、

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長期にはこれによる圏内諸地域間の均衡した経済構造を生み出すべき開発効果を期待しう ること、また短期的には諸政策の協調による利子率の均等化及び為替レートの固定性によ って投機的資本移動がチェックされ、補整的短期資本移動の自動的発生を;期待しうること によるものと思われる。

 ともあれ、後述のレソト・カレンシー構想の中に示されているところがら推測するに、

共通の準備銀行を窓口とする決済同盟を結び相互預金勘定の振替え決済を考えて居られる ものと思われる。けだし、固定レートにより結ばれた為替の自由取引を前提する限り、私 的な商業及び銀行信用の相互援受による各国間の日常的決済業務の展開は必然的に、集中 決済機構としての為替決済中心市場及び割引市場としての国際金融中心市場と最:終決済銀       ⑧

行の発生を促すと思われるからである。

 しかしながら、これをスムースに運営して行く必須の条件は圏内の収支調整がうまくゆ くことでなければならない。なぜなら、いかに最適通貨圏として経済統合をはかったとし ても、所詮は国家主権を異にする国々の結合体としてのみPCAは存在するからである。

 (b)収支調整:この点について教授はまず固定レート制による為替取引コストの節 約による直接的為替決済市場の育成強化の可能性をあげておられる。だがこうした貨幣取 引技術の発展を軽視することは出来ないとしても、ここでの基本的な問題は、収支均衡の 条件如何であろう。これについて教授は「最適通貨圏内では生産要素とくに資本の移動が 自由にされ促進されるので、それが圏内諸国相互間の国際収支調整の役割を十分に果す」

とする見解に立つ。ただしその根拠は、圏内における証券投資市場の統合が進み資本の適 正配分移動が期待されること、また各国の通貨価値安定政策一生産性の上昇分に限って貨 幣賃金を引上げ物価安定を保持するという所得政策一が資本移動を一層スムースにするこ とへの期待にある。つまりそこには圏内における共通の連帯性をもってする管理通貨政策 が期待され、収支調整が期待されているのである。

 (c)開発創出効果とレソト・カレンシー:さてPCAに対しては以上のような決済 及び収支調整の諸効果のみならず、より積極的に次のような効果が;期待されている。すな わち通貨ブロック結成による対圏外差別の効果は投資条件についてもみられることから、

圏内投資が促進され、これが連合メンバーとしての近隣低開発国へも適用されうるところ がら経済開発創出及び転換の効果が生み出される。それはさらに、援助のヒモ付きを一国 から圏内複数国に拡げ、その効果を高めることにもなる。その場合、圏内から圏外への資 金の循環の漏出を防ぐためのレソト・カレンシー案の適用を提唱して居られるのである。

 レソト・カレンシー構想とは、先ず太平洋準備開発銀行(PRDB)を設立し、圏内の ある国から長期投資、借款、贈与が与えられたとき、受入れ国がその一定割合をPRDB に預ケ入れ、たとえばレソト・ドル預金口座を開設し、必要物資の支払にこれを当てる。

このレソト・カレンシーは、(i)口座振替えにより、輸入代金の支払いにあてられるが、

(ii)それは収支赤堀の場合に限り、(iii)金党換はもちろん当初の資金供与国以外は通常

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の圏内通貨に交換されえず、(iv)したがって圏内黒字国は、支払われたレソト・カレン シーを保有する形でクレジットの追加供給を行う、ということになる。こうして、資金の 流れは黒字国によるレソト・カレンシーの自動的保有のシステムを通じて、金引出しをチ ェックされつつ、圏内の物資の逆の流れに対応するというPCA全体としてのヒモ付きを 現出することになる。

 さてPCA構想は上に要約したように、一方で圏外との差別機構を生み出し、他方域内 の決済・収支調整・開発の有効化をはかり、対圏外収支を懸念することなしに半ば独立に 圏内の経済成長・開発など諸経済目的達成の政策を打ち出し、経済統合の実質化をはかる 通貨機構であるということができる。

 ではこうした構想の拠りどころは如何なるものであろうか。その論理と歴史条件につい て次に検討しなければならない。

註⑤ これは圏内においては国内の場合のように確定量の金との結合を欠くいわゆる「管理通貨制」を    とるというのである。しかし金価値保証は例えばドルについておこなわれているのであって、そ    の意味では金為替本位制の変形ということができよう。

 ⑥PごA構想は現行のいわゆる「ドル体制」をこの点で強化する意図を含んでいる。

⑦轍霰の価騨雄・は次式で求められる・・一・(Pe+_⊆LdM  M)・P/Mは国内生酬   輸入の比率、C/Mは国内消費対輸入比率(C−P+M)、eは国内生産の価格弾力性、 dは国    内需要の価格弾力性、θは、輸入品価格変化に対する国内価格の変化を示す弾力性、θ・e・d    をコンスタントとすると、自給率が高ければP/M・C/Mは大となりηも大となる。

 ⑧ マネー・イルージョンとは次のように説明される。「貨幣賃金の引下げに対しては敏感に強く抵   抗するのに、為替切下げによる実質賃金の低下には気がつかないでいること。」(小島①)。

⑧ 巧実にはニューヨーク市場のそうした機能に信頼と期待が寄せられている(小島①)。

    III論理的根拠

 (1)信認と連帯意識

 小島構想の発想の論理的な拠りどころは、この通貨圏における国際通貨の価値について の信認confidenceとこれを支えるこの国際社会の連帯意識solidarityにおかれてい る。このことは現行国際通貨制度についての次のような認識と批判のなかから導さ出され  ⑨

る。

 (a) 「金為替本位制」

 現行制度は米ドルにみるように直接にか、またドルを通じて間接的にか各国通貨が上下

わずかの変動幅(上下1%)での固定平価をもって金に結びつき、対外支払準備を金また

は金為替としてのドル及びドルへの交換可能通貨で保有し、したがって「究極の国際貨幣

準備を金においている」金為替本位制である。したがって、それはその形式上アメリカの

金保有に大きく依存している。

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 しかし実際上は、この制度はIM:Fによる信用供与、 GAB、連邦準借制度と他の中央 銀行間のスワップ取決め、ローザ・ボンドの七飯、バーゼル協定、金不換の伸士協定その 他私的ないし半公的の国際信用の相互供与による「あんどうの見合い」mutual accomo−

dationによって支えられていて、これなしには急速に増大する流動性需要に応じえな

い。

 かくして相互信用供与による「めんどうの見合い」がこの制度の実体である以上、そこ には構成メンバーの相互信頼ないし連帯意識が制度存立の基本的条件となる、とされてい る。この点でいえば、現制度の改革策として最大の希望を託されているSDRも、本質的 にGABと同じく「IMFにあ.る僅かの金を基礎にした国際信用網の拡大策にすぎず」

(その論拠はSDRの返済義務規定一復元条項一におかれている)、したがってその供給 が流動性需要を満足するに足りうるものとなるかどうかはIMFの保有金武に拘わらず相 互信用をどれだけ拡大しうるかにかかっており、結局連帯感ある国際社会を前提とするの でなくてはならない。

 ところが現実のグローバルな国際社会の連帯感は一面できわめてあてにならないもので あって、その意味で現制度は「砂上の楼閣」にすぎないものとなり、したがってまた「金 の如き確実な基礎」が必要とされざるをえない、ということになる。

 (b) 流動性ジレンマ

 ところで現実には発展の不均等性を内包し、崩壊の不安をもつところの連帯感に支えら れた国際社会のなかで、実体としては連帯性を前提条件とした相互信用供与に依りつつ も、形式的に金に基礎をおく現行制度のもとで、キー・カレンシー国としてのアメリカの

リーダーシップによる世界的国際流動性の増強政策が展開されて行くとき、そこには必然 的に国際通貨ドルおよびそれと結びつく各国通貨の信認の問題が生じてくる。いわゆる流 動性ジレンマの問題である。流動性の増大はドル債務の累積を意味し、それが最:終の決済 手段たる公的金保有高を上回るに至るや、ドルー国際通貨不信を生じ、ドル危機一国際通 貨制度の危機が生まれる。そうなると一面ではドルの過多現象を緩和する役割を演じてい たユーロ・ダラー形態等の余剰ドルが今度は投機的浮動資金と化して危機を破局的なもの とする。      1  他方本来景気変動および成長政策のバッファーの役割を演ずべき国際流動性は、キー・

カレンシー国にとっては放鳥政策の具と化しうるし、他の国にとってはインフレの輸入の 具となる危険をもつ。金融節度の弛緩の問題である。

 これらは、国際通貨価値の信認を逆転させ国際社会の連帯感を弱めることになる。それ は「制度」の実体そのものの破壊にほかならない。かくてその帰結するところはドル防衛 策の発動と強化であり、それは世界貿易および資本移動の自由と拡大の阻害を生み、

「就中低開発国への援助、その経済開発の促進に大きな打撃を与えることになった。」

 とすれば、国際社会の連帯意識を構築し、それに支えられた国際通貨制度を作りあげる

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道はないのか。教授はそれを地域的通貨圏の結成に求めたのである。

 しかし信認といい連帯意識といわれるもの、それは一体何であろうか。これについての 教授の追究は全く不充分であり、そこに論理上の致命的欠陥が存在するように思われる。

 (C) 信認と連帯意識一その実体一

 国内にせよ国際間にせよ通貨価値の信認とは本来確定金量との結合の保証以外ではな い。それは第一に諸商品相互の間で、また国際間において絶えず無政府的かつ不均等に価 値変革を生ずる商品世界において価値尺度は社会の共同行為の結果として貨幣となったと ころの貨幣商品金以外になく、第二に支払手段としての貨幣金の存在が信用貨幣の必須の 前提だからである。しかし小島教授においては信認は社会的信頼の関係というはなはだあ いまいなものに解されているように思われる,たとえば次のように云われる。「一つの 国、或は十分に経済統合された地域(欧州共同市場のごとき)ならば、通貨の価値は結局 信頼であるから、金準備は名目的僅小額であってもよい。」また最大限に具体化の歩を進 めてもそれは物価水準の逆数にすぎない。したがって物価安定のための所得一物価政策へ の信頼とそれを言いかえることもできる。次のように云われる。「最適通貨圏というのは 圏全体の管理通貨制であるから、通貨価値は各国の生産力そのものを信頼するということ をおいて外にない。メンバー諸国が各国の生産性の上昇分だけに限って貨幣賃金を引上げ 物価水準を安定に保つという、賢明な所得政策を遂行することに信頼をおくよりしようが ない。」かくてまた国際通貨の価値またはPCA内部では金子換は停止されているが故に 同じことになるのだが構成国の通貨の対外価値は通貨の交換比率すなわち為替レートであ       ⑩

り、信頼はその固定性によって示されることとなる。それは決して法制上にせよ事実上に せよ金平価の固定性ではないのである。

 もちろん今日国内的には各国通貨は不換制の下にある。したがって通貨の確定金量との 結合は保証されていないし、不確定であり、現象面についていえば、通貨価値は物価を通 してしか把熾しえない(金の自由市場価格の問題についてはここでは一応不問に付してお く)。しかしだからといって論理の次元において商品世界に必須の貨幣金と通貨の関係を 不問にすることは、何故に不官制がとられるのか、の問題を不問にすることになり現代資 本主義の基本的問題から目をそらさしめる結果となる。すなわち国家独占資本主義の政策

(最:大限の利潤確保)遂行の制度的条件としてのその意義を不問に付さしめる結果を招 く。このことはPCAという国際社会について不換制をとることについても同様にいえる ことである。

 もちろんこうしたことは対圏外の関係にまで押しつける訳にいかぬ。従ってそこには金 が最終決済手段として登場し、圏内で施行される諸政策の結果は金の流出入となって現わ れよう。したがってまた、為替相場の変動によってこれを減殺し、政策の独自性を保とう

とするのである。

 国際社会の連帯性は文字通り「協調的政策をとるという連帯感」と規定されている。そ

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れは「協調的な金融・財政政策、対圏外国際収支調整のめんどうの見合い、より自由な商 品と資本の移動、さらに政治的・軍事的目的をも含めた広汎な連帯性」である。それはま さに商品・資本関係の保持とその運動の条件についての協調政策であり、決して人間関係 の連帯ではない。しかしながら、第一に、商品および資本関係の展開に本質的に内在する 無政府性こそが国際間の対立と矛盾を生み出したのではなかったのであろうか、そして第 二に若しこの無政府性を統制するというのであれば、そのリーダーシップを誰が握るとい うのであろうか、教授の連帯意識はまさにこの点が不問に付されることになっているので

ある。

 商品世界の連帯性とはまさに通貨価値の信認について教授と管理通貨制論者の否定する ところの、貨幣金に表象される価格と支払(実現)の博愛平等主義および利潤率を唯一の 拠りどころとする資本の博愛主義なのではないのだろうか。

 (2)最:適通貨圏

 小島構想の論理的よりどころの第二は、前項の通貨信認と国際的連帯意識を基礎として 実現される最適通貨圏の理論である。すでにみたように最適通貨圏概念は擬似的な「国」

と規定せられている。すなわち「あたかも一つの国と同じ程度に、よく経済統合された地 域」とされる。しかしそれは決して一国そのものではない。教授はこれを「(1)単一の共通

々貨をもつのでなくてもよく、固定的為替相場制で結び合わされた地域。(2)(3圏外とくら べれば、商品と生産要素の移動が明らかにより自由であり、一物一価と通貨の均一購買力 の傾向がより強い地域。(4)圏内の完全雇用、適正な経済成長、物価安定などの経済諸目的 の達成と対圏外国際収支の調整につき、共通の関心をもつ協調的政策をとるという連帯感 solidafityをもつ地域」といい、圏外との対比における相対的規定をおこなっている。し たがってそこでは国際間に特有の為替レート、収支調整、資本移動等の問題が起ってく

る。

  (a)固定レート制       ゐ

 最適通貨圏の第一の条件は為替レートの固定性である。しかしIMF体制も保有してい るこの性質は、それ自体決して各国通貨の安定性を保証するものではない。それは究極に おいて、対外支払準備としての金および外貨に依拠すべきことは、前項でみた通りであ る。それが最適通貨圏の条件としての固定性と示されるゆえんは、したがって、金・外貨 準備に依存せざる通貨の対外的安定性というにあるとみられねばならぬ。それはただ単に 商品及び資本の圏内流通が完全に自由であるということでは保証されない。結局何らかの 形で短;期・長期の収支調整がはかられることが必要とされる。その具体的内容は短;期およ び長期の資本移動をおいて以外にない。つまり収支の一時的赤字を黒字国の自動的かつ一 時的な短資移動により補い、長期的には対外投資と援助によって各国の産業構造を変革し 有機的一体の経済圏をつくりあげ収支問題のない国際社会をつくりあげようというのであ

る。

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 b 資 本 移 動

 このようにみてくると、最適通貨圏の鍵は資本移動にあることが分る。教授はこれを、

資本移動は通貨価値安定の函数であり、逆に通貨価値安定は資本移動によって強められる 相互関係にあるとされる。この関係において圏内の経済統合すなわち地域的均衡化が累積 的に強められる社会を最適通貨圏と規定している、といってもよい。しかし、今日わが国 においてみる地域的発展の不均等性ないし発展の格差増大の傾向を、どのようにここで評 価すればよいのであろうか。資本移動は決して無意志の生産要素の移動なのではない。

それはすぐれて私的資本の論理に従っておこなわれるものなのである。それが収支均衡化 作用を生みだすかどうかは必ずしも保証されないといわねばならない。とすればこの構想 のメリットはどこにあるというのだろうか。それはむしろ結果の如何に拘わらず資本移動  (長期)の条件を整えることにあるのではないだろうか。そうだとすれば固定レート制は

その重要な条件としてのみ意義ずけられる。

  (c)開発創出効果

 最適通貨圏は決して完成された姿態をもって存在するのではない。それはこの圏内の各 国産業構造の変化を促しつつ、そのなかでより統合された国際社会を形ち造ることを期待 されている社会とみることができる。その目標に向って、少くとも各国間で政策協調をお こなうことが出来ればよい。しかしそうした効果は、貨幣および商品形態の資本の循環を 一定の意志のもとに統括する以外に望みえない。その意味で、ここには国家独占資本主義 の意識が強力に反映されているのであって、産業及び市場の圏内構造のそのもとでの組織 化が企てられている、とみることができる。レソト・カレンシー構想は、その通貨制度面 からの保証機構と解されよう。

 そこに生れる開発創出効果は、実は投資一産業開発と市場創出との有機的結合を保証し つつ、資本の流れを圏内に留めることによって生れるものなのである。

 しかし果して国独文の意識としての組織された資本主義構想の国際版が成功する歴史・

現実的根拠があるというのであろうか。

 ともあれ、以上の論理的よりどころによる小島構想は、「実は、無限の発展潜在力を秘 める太平洋一アジアーラテン・アメリカ地域(に)、太平洋通貨圏と太平洋自由貿易地域 の結成を通じて、これまでとかく西欧だけに眼を向けがちなアメリカをして、この太平洋 地域に関心を転換させ、開発創出効果と開発転換効果が促進されることを待望して」 (小 島①)生まれたものであった。

註⑨ 小島論文①、以下本節の註記なき引用は同論文による。

 ⑩ これは丁度現行ドルの立場と同じである。ちがいは、その対内価値と対外価値の矛盾が、α)国内

  価値、回圏内価値そして困対圏外価値という三重の構造になるところにある。この(イ)と回の矛盾

  を政策協調によってなくそうというのである。

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聾 歴史・現実的背景

 (1)地:域化と差別主義の傾向

 PCA構想は究極において統合された世界経済の形成を期待しつつも、当面極めて差別 主義の強い地域経済ブロックの通貨機構をねらいとしたものであることは上にみたところ で明らかであろう。そうしたねらいが、サラント報告にも示されていたことは既に述べた が、地域化ないし差別主義の傾向はPCAに限らず最近の世界経済の傾向的特徴:をなして

いる。

 すなわち、1958年遅欧州共同体EECの成立発足をはじめ、エ960年には欧州自由貿易連 合EFTAの発足、同年ラテン・アメリカ自由貿易地域LAFTA、1966年中部アフリカ 関税同盟UDEAC、同じく西アフリカ諸国関税同盟UDOA、1967年東アフリカ経済協 同体EAECの成功をみている。1960年頃を境としてのこうした流れは、戦後の世界経済 をリードしたブレトン・ウッズ体制に示される多角・無差別主義の原則に対立するもので あり、その意味では戦後世界経済の転換を意味するものとも考えられる。なかでもEEC は地域化の代表例とみられ、差別化への傾向を拡充強化し、1966年にはヤウンデ協定によ って、アフリカ旧植民地関係諸国との結合を基盤とする垂直的分業体制をも包摂するに至 っているのである。

 一方アジア地域においても、1966年東南アジア閣僚会議ASPAC、同年アジア開発銀 行の創設、ユ967年パキスタン・イラン・トルコ三国内の「地域協力、同盟」RCDおよび 東南アジア諸国連合ASEANの形成など一連の動きを生じている。

 小島教授もさらに具体的に、最近における大平洋地域の貿易の緊密化と援助および貿易 拡大への共同政策の強化さらに政治・軍事的連帯性の高まりやドル防衛についての協力体 制とその際のアメリカによる地域的例外措置などを示しつつ、PCAをそうした背景にお いて実現可能としている。

 しかしながら問題はそれが可能かどうかということよりも、何故にこのような背景が生 まれ、こうした背景がどのような性質をもち、したがってPCA構想がなぜに生み出され るに至ったかということであろう。これについて最:後に若干の検討を加えておこう。

 これに関連して小島教授はかって戦後の世界経済の構造変動を、①貿易中心のイギリス からアメリカへの移動、②先進国間貿易の拡大、③資本と技術を中心とする同質的分業構 造への変化として特徴ずけ、このために世界経済の不安定化要因が増加したこと、したが って何らかの形での合意的分業の形成が不可避となり、この原理を、「規模の経済」をめ        ⑪

ざしての低開発国間の共同市場形成の必然性の論理へと適用された。PCA構想はこれを さらに進あて、先進国共同市場と低開発共同市場との結合形態の形成に発展させることを 意図したものとみれる。

 ところでこの場合、中西教授も指摘される如く、共同市場の形成そのものは、生産力の

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推進者としての巨大独占資本によるその競争力強化のためのスプリング・ボードとしての 安定市場の確保とそのための国際カルテルを意味する「合意」にほかならない、と考えら   ⑫

れる。とすれば、PCAはまさにそうした国際カルラルとそのもとへの低開発市場の分割 確保のたあの通貨機構として、位置づけられるであろう。

 (2)1960年代の世界経済

 1960年代の世界経済の特徴は「ドル危機」と「南北問題」によって先ず示されている。

ドル危機は1951年以来慢性的国際収支赤字を続けてきたアメリカが、工958年の世界的景気 後退を転機に、収支赤字の大幅増を経験し金の大量流出の結果保有量が対外公的ドル債務 を下回るに至って顕在化した。その収支悪化の原因を検討してみると、貿易収支面では対 EECおよび日本の製造工業製品の進出に押され、資本収支面ではヨーロッパへの大量の 資本流出が、また政府支出面では極東への軍事および経済援助の増大が総合されて収支悪 化を来たしている。そこには大まかに云ってEECの拾頭とアメリカ巨大資本の世界企業 化傾向および「資本主義世界の憲兵」としてのアメリカの立場が如実に反映されている。

 その結果とられたドル防衛政策はふたつの側面を有している。一つはIMF融資をはじ め一連の国際金融協力の体制であって、1967年末のポンド切下げに始まるゴールド・ラッ シュによって金プール制は崩壊したとはいえこの体制そのものはなお維持されているとみ るべきであろう。他は地域的例外措置でありその中にカナダ、ラテンアメリカ、日本など 大平洋地域への優遇措置が含まれている。ところでこの両者は表面上は矛盾しているよう にみえるが、すなわち一方はグローバルな立場を示し他は地域的立場を示しているが、根 本において異なるものではないとみなければならない。というのは、もともと戦後のブレ

トンウッズ体制そのものが、対立と妥協の産物であり、その背景にアメリカ資本主義の圧 倒的生産力の優位とそのもとへの資本主義世界の集中編成の流れが存在したものであった

とみるべきだからである。そうだとすれば、アメリカ巨大資本を中心とする世界市場の再 編成過程の具体的容姿をこの二つの面にみるとすべきであって、1960年代に入ってグロー バリズムから地域主義への転換が生じ資本主義にとって段階を画すべき転機が生まれたと すべきではあるまい。もともとグローバリズム自体がそのような差別と対立をうちに含む

ものであったからである。ただ云えることは、1960年代に入って世界資本主義の矛盾が著 しく激化した、ということである。

 (3)南北問題

 むしろ1960年代を新しい段階と規定するとすれば、南北問題にその根源を見出すべきで

あると思われる。もちろん小島教授も指摘されるように戦後世界経済の特徴の一つに一貫

して低開発国貿易の相対的おちこみがあったことは事実である。しかし、この段階に至っ

て低開発諸国の外貨危機が著しく激化し、ことに1958年の景気後退を期に交易条件の著し

い悪化が加わり、他方インドにみるような食糧危機の激化が低開発諸国の経済を甚しく悪

化せしめ、かくして1964年のプレビッシュ報告が出されたとみるべきである。それはアジ

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アについてみるなら、1945〜49年の10年間に14ケ国の独立が示され、古い植民地体制が 解体し、1955年のバンドン会議ではこうした新興諸国の著しい拾頭が示されたにも拘わら ず、資本主義世界体制に組み込まれたこれら諸国の経済が、一つの行き詰りの段階に達し        ⑬

た姿であるとみることができる。

 PCA構想はまさにこうした状況の中で生まれ来たったものであることを注目すべきで ある。それは一方で不均等に発展する資本主義のなかで激化する市場分割斗争が、アメリ カを中心にその絶えざる再編成がも索されるなかで、こうした状況下の低開発諸国を如何 に自己の体制下に組み入れて行くか、という問題意識の上に立つ一つの試案であるといえ よう。しかし、こうしたことは、もとはといえば、社会主義世界体制の圧力と植民地の

         

実質的独立運動の激化によってもたらされる資本主義の全般的危機の通貨制度上の表現形 態にすぎない。

註⑪ 小島清「世界経済と日本貿易」1962、第二章  ⑫ 中西市郎「国際経済論と日本」1961、第二篇第三章

 ⑬ 小島教授は、今日南北問題が転換点に至っているとして、これを三つの面、先進国側での「余剰

   の吐け口」としての援助や貿易の終息と低開発諸国側の外貨ギャップの拡大再生産傾向によって

   示される。小島論文②。そこで新しい援助の理念を打ち出すべきとし、特恵制を含む先進国お

   よび低開発国相互の産業構造政策を押し進めることを示されている。しかし、この構造政策その

   ものが問題であって、それはアメリカの巨大企業を中心とする産業再編成そのものであるかぎ

   り、南北問題を激化こそすれ、解決の転機とはなしがたいと思われる。

参照

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