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超国家貨幣と国際通貨発行特権ee
一国際通貨の配分を中心として一
面 馬 敏 則
1 は じ め に 第2次大戦後に設立されたIMF(lnternational Monetary Fund)体制は, 金とアメリカのドルを中心とする国際金為替本位制であった。これは①金が世 界貨幣である,②金とともにドルを国際取引に使用する,③アメリカは公的機 関に対し金1オンス=35ドルでドルと金を交換するというものである。換言す ればIMF体制は金地金本位制度国であるアメリカを中心とし,金為替である ドルを対外麦払準備として保有する金為替本位国である周辺国から構成される 国際金為替本位制度であり,ドルはこの体制における基軸通貨であった。 国民通貨ドルは国際的に流通する国際通貨としての地位を付与され,アメ リカは国際通貨を発行する特権,すなわち「国際通貨発行特権(lnternational Seigniorage)」を保有することになった。しかしアメリカ経済の弱体化と金融 節度を顧慮することなく国際収支赤字を出し続けたため,アメリカは1971年8 月,ついにドルの金交換[生停止に追い込まれた。しかしドル以外に国際通貨と なる通貨が現われなかったため,各国は貿易決済手段として,また介入通貨と して不換紙幣ドルを保有し,1971年後もドルは世界に流通することになった。 ee本稿は財団法人日本証券奨学財団の補助金による研究の一部である。なお本稿作成に あたり田中金司名誉教授,則武保夫J藤田正寛,三木谷良一教授より有益な示唆を戴 いた。記して謝意を表する。なおありうべき過誤は,とうぜん筆者自身の責任である。 1) 則武保夫「金・ドル交換停止後の金問題」『国民経済雑誌」第142巻第4号,1980 年10月.p.20. 2) 拙著r園際通貨発行特権と国際通貨制度』滋賀大学経済学部研究叢書第5号,1979年。そこでアメリカは金の制約なしに,各国が受け取る限りドルを増発することが でき,過剰ドルの激増となった(1971年後,アメリカの赤字は激増した)。 金の裏付けを失なったドルは減価し,全世界の価格体系も不安定化し,世界 的インフレーションの要因となった。戦後のドル不足期には,国際通貨発行特 権によるドル供給でアメリカは金の節約とデフレーション防止に寄与し,世界 全体としても大きな恩恵を受けることができた。しかし,アメリカは金融節度 を守らず,国際通貨発行特権を乱用し続けた結果,IMF体制を崩壊させるに 至ったのである。前述したように1971年後もアメリカの国際収支赤字は続き, 二度のドル切下げに続いて1973年に主要諸国が変動相場制に移行せざるをえな くなり,世界経済に大きな不安定要因をもたらすことになった。したがってド ル不足期と異なり,ドル過剰期にはアメリカの国際通貨発行特権の行使により 世界全体として恩恵以上の犠牲を強いられたといえるだろう。 IMF体制が崩壊した今日,国際通貨制度改革については, S D R(Sp ecial Drawing Rights)が唯一の国際準備資産としてIMF改革要綱でうたわれてい る。しかしSDRの育成について種々の努力が払われながらも, SDR本位制 への道は険しいようである。変動相場制の下で「ドル離れ現象」や「複数基軸 通貨制度」の論議が高まっているものの,「事実上のドル本位制」といわれる ほど,ドルは確固たる地位を保っている。そして当面のところドルの準備通貨 の役割の一部を,SDRよりはドイツ・マルク,円,スイス・フラン等の他の 通貨が担っていかざるをえない状況にある。したがって国際通貨発行特権より 生ずる利益の大部分は,いぜんとしてアメリカに帰属することになる。 本稿では国際通貨発行特権から生ずる利益を特定国が独占することのない対 称的国際通貨制度構築のため,まず,どのような国際通貨制度が対称的なもの であるかを考察する。つぎに国際通貨発行特権から生ずる利益の配分闇題との かかわりで,対称的国際通貨制度への道である超国家貨幣創出案を検討し,現 行のSDRとの比較を行い,超国家貨幣を創出するSDR本位制実現のための 前提条件を考察し,国際通貨制度改革の詳細な提案は玉稿に譲ることにしたい。
28 皿 対称的な国際通貨制度 1. 金本位制度 古典的金本位制度においては自由金市場と金平価の存在により,金貨の額面 とコストの間に差が生じないので国際通貨発行特権による利益は生じないであ ろう。 この金本位復位論者としては,リュェフ(J. Rueff)やハイルペリン(M A. 3) Heilperin)が代表的であろう。彼等の主張の骨子はドル,ポンド残高の金によ る償還のため金価格を引き上げ,各国は自国の価格標準を決定して無制限の金 言換を保証し,金平価も固定される。また国内通貨発行量を金準備にリンクさ せる(比例準備制)。そこで新産金が不足すれば物価やコストが下落し,金生 産の利益が増して新産金が増加し,国際流動1生需要を満たすことができるであ ろうとする。また金価格引き上げにともなって国際流動性が過大に増加する場 合には,各国は金準備の一部を開発途上国援助に振り向けたり,国債の償還に あてればよいとする。 この提案は金為替本位制の脆弱性の指摘や国際収支調整メカニズムの欠如の 批判,現時点での過剰ドルの処理についての示唆等評価してもよい多くのメリ ットを持っている。とくに過剰ドル処理のための金の再評価は注目すべきであ る。現在アメリカは約2億6,600万オンスの金を保有し,1オンス=900ドルで 再評価するとアメリカの対外債務2,420億ドルを金でカバーすることができる。 4) しかし以上のメリットにかかわらず金準備の偏在や金生産の将来を考える と,金本位への復帰は長期的には世界的デフレーションを生じさせる可能性が 3)J.Rueff,“The West is Risking a Credit Collapse,”July 1961(鈴木浩次編『国 際流動性論集』東洋経済新報社,!964年所収) ,“Gold Exchange Standard, a Da. nger to the West,” World Mof7etarbl Reform, ed, by H. G. Grubel, 1963. M. A, Heilperin, “The Case for Going bacl to Gold,” in Grubel (ed.) ibid. 4)わが国は2,40Q万オンスの金準備しかなく,アメリカの約10分の!,西ドイツの4 分の1,オランダの約半分である。詳しくは,松村善太郎「国際通貨問題の帰すう」 『貿易と関税』1981年1月,p.41. IFS, Jan.1981参照。
ある。また諸物価や賃金が硬直化した現代では,デフレ政策によるすみやかな 国際収支調整効果は期待できないであろう。さらに必要輸入額に比して金準備 をほとんど保有していない開発途上国に金本位制のルールを守らせることは, 5) それらの国を破滅させかねないであろう。また黒字国が金を不胎化した場合の 調整機能の低下,国内均衡優先の考え方が定着しつつあることを思うとき,金 本位制への復帰は困難であろう。 2. 自由変動相場制度 自由に変動する為替相場制度下では,相場の絶えざる変動により国際収支は つねに均衡するので,公的機関は介入通貨や準備通貨(天災などの場合に備え る予備的動機の準備通貨を除いて)を必要とせず,国際通貨発行特権の問題は 生じないであろう。しかし民間取引にともなう決済通貨は,民間が独自の判断 で保有する。ドルを保有する民間の経済主体が多い場合,これぽ財・サービス や証券の輸出によって確保され,アメリカは民間に対して自由変動相場制の下 においても,額は少ないであろうがいぜんとして国際通貨発行特権による利益 を手に入れることができるのである。また政府が介入する現行の「管理された フロート」下では,介入通貨ぱいぜんとして必要であり,国際通貨発行特権の 問題は生ずることになる。 変動為替相場論はフリードマン(M.Friedman),ミード(」. E. Meade), らう ジョンソン(H.G. Johnson)等が詳細な議論を展開しているが,その概要は つぎのとおりである。つまり金価格の麦持政策を各国政府は行わず,金価格を 自由にする。また各国の為替当局は為替市場に介入せず,各国問の為替相場の 5)千田純一「国際通貨制度諸改革案の再検討(!)」『経済科学」第20巻第1号,1972年 10月, pp.12−13. 6) iLVI. Friedrnan, “fLi’1”te Case for Flexi ble :’xchan.cre Rates,” Essa.3“s in Poszk・ve Ec− o/20Mics, by M. Friedman,1953.(鈴木編前掲書.所収)」. E. Meade, “The Future of lnternational Payments,” in Grubel, ibid. H, G. Johnson, “The Case for Flexible F..xchange Rates, 1969,” ApProac/tes to Greater Flextbz/ity of Exchange Rates, eds , by F. Bergsten, G. N. Halrn, F. Machlup, & R. V. Roosa., 1970,
30 変動は市場の需給にまかせる。このような変動相場制下では国際収支問題や流 動性問題が解消し,公的準備保有の必要はなくなる。財政・金融政策を国際収 支均衡目的でなく,国内均衡達成のために使うことが可能となり,対外援助も 自由に行え,自由貿易も促進できる。また変動相場制は不安定的とは限らず, 不安定化的投機は示すに足るほどの規模の例を見つけることができないという ものである。 この議論は国際収支調整の重要性を示した点では先述の金本位復位論と同様 の寄与をしている。また旧平価から新平価に移る場合の一時的経過措置や経済 的不安定要因が多いときに変動相場制が採用されることは意味があるといえる だろう。 しかし世界全体が自由変動相場制を採用するためには,貿易,為替,資本の 完全な自由化が前提とされるが,現実の世界経済においてはそのようなことは ありえない。開発途上国においてはなおのことである。自由変動為替相場論者 の主張するように,変動相場制を採用することで国内均衡と国際均衡が同時に 達成されるならば,国際収支と外貨準備不足に苦しむ開発途上国こそ,その採 用に賛成するであろう。しかし現実には開発途上国のほとんどは厳しい為替管 理と固定相場制度を採用している。 また1973年の2月から3月にかけて主要先進国は変動稲場制に移行したが, 国際収支問題や流動性問題は解消されず,フリードマンのいうような合理的投 機のみではない為替投機が数多く行われ,各国の為替相場制度は大きく変動し た。さらに変動相場制の隔離効果も疑問視され,財政・金融政策を国内均衡目 的にのみ使うことは事実上できなかった。このような経験を踏まえ,IMFを ア 中心として,先進国の変動相場制を見直そうという気運がたかまりつつあるこ とは注目すべきであろう。 3. 世界中央銀行案 いままでの分析は国際通貨発行特権による利益が生じない通貨体制を念頭に 7)則武保夫「フリードマンの貨幣理論」『経済学研究,年報25』1978年3月,pp.7−8。
おいてきたが,つぎに国際通貨発行特権から利益が生ずる場合の対称的国際通 貨制度について考察しよう。 国際通貨発行特権の議論の最大の目的は,国際通貨発行による利益を特定国 だけが独占することなく,世界各国に公平に分配するような制度を構築するた めであった。したがって一国の国民通貨が同時に国際通貨となる制度を廃し て,超国家機関が超国家貨幣を発行し,その利益を適正な配分基準にしたがっ て移転し,各国の経済的厚生を高めようとする瞳界中央銀行案ぱ注目に値する ものである。 この議論はケインズ(」.M。 Keynes)やトリフィン(R. Triffin)の一連の 著作に展開されているが,その理論の検討は亙の1,2,3に譲り,ここでは超 国家貨幣を発行する世界中央銀行が存在すると仮定し,通貨発行特権による利 の益の配分方法についてグルーベル(H:.G. Grubel)の3:方式を検討する。 (1)中央政府方式(central government rc、ethod) この方式は一国の中央政府が財政支出の配分を行うのと同様に,国際通貨発 行特権による利益を各国に配分するものである。一国の政府が財政支出をどう 配分するかは政策担当者の価値観によるが,多くの諸国では社会的公正,公共 の福祉等が配分の基準とされている。これと同様に世界中央銀行に対して,世 界的公共財の購入や国際的所得再配分を行わせようとするものである。 世界的公共財の購入として国連,1MF,世界銀行,超国家的な平和維持部 隊国際司法裁判所,国際航空路陸路,海路の維持,経済,人口,気高等に の 関する統計の収集等への援助があげられる。また世界的な所得の再配分として は,国際通貨発行特権により新たに創出した国際通貨を豊かな国には相対的に. 少なく,貧しい国には相対的に多く配分しようというものである。この思想に 8) H, G. Grubel, “The Distribution of Seigniorage from lnternational Liqu2dity Creation,” in R. A. Mundell and A. K. Swoboda, eds,, Monetary Probgems of the internationaZ Eeonomy, Univ. of Chicago, 1969, pp. 269−282 一 , The lnternatzonal !−Ufonetary System, Penguin Books, 1970, pp. !56−166. 9) H. G. Grubel, The lnternationag Monetary S“iste’nt, ibid., p. 157.
32 ユの ユ
基づくものとしてスタンプ(M.Stamp)案やUNCTAD案がある。
スタンプ案の骨子はIMFが基金証券を発行し,国際開発協会がこれを開発 途上国に貸し付け,開発途.ヒ国はこの証券を先進国からの輸入決済代金にあ て,先進国はこの証券を対外準備として各国間で流通させ,国際貿易はさらに いっそうの拡大を図ることができるだろうとする。この提案は世界中央銀行に よる対外準備の創出や国家管理というトリフィン案の一環をなしているが, その中に開発途上国に対する多角的援助を制度化するという野心的なものであ るQ しかしこの中央政府方式は追加購買力に基づく世界的インフレーション加速 の恐れもある。また世界的公正基準による配分の強力な施行は各国主権や国家 目的の制限を必要とし,国際的合意が容易でないだろう。 (2)取引需要方式(transaction demand method) 一国内における貨幣は主として取引的動機により需要されるのと同様に,国 際通貨も各国の取引需要のために保有される。つまり外貨準備は国際決済のた めの取引動機貨幣である。取引需要方式はこの観点から各国に長期的・平均的 貨幣需要に応じて,新しく創出された準備を配分しようというものである。各 国はそれを国際収支赤字解消のために使い,あるときは国際収支黒字のもとで 受けとる。しかし平均すれぽ最初の発行額を維持しているようにする。こうす れば各国間の実物資源の移転をもたらさず,その意味で資源配分上の中立性を 保つことができるとする。 ユ ケインズの「国際清算同盟案」や至MFの一般引出権, SDRも基本的にぱ この方式によるものであり,クォータの拡大を通じて各国の準備を増加させよ うという諸提案は,この方式に含めることができるであろう。中央政府方式が 10) M. Stamp, The Stamp Plan−1962 Version, in H. G Grubel ed. World Monetary Reform,1963, pp.80−89.(鈴木編,前掲書,所収) 11) U. N., lnternational Monetary Jssues and the DeveloPing Countries, 1966. 12) J. M, Keynes, Proposals for an lnternational Clearing Union, in H. G. Grubel, ed. ibid., pp, 55−79.世界的公正さを配分の基準としているのに対し,取引需要方式は各国の必要の 程度や効用を配分の基準としているといえるだろう。しかし長期的・平均的需 要に関する配分基準に貿易額をとるか,国民所得をとるか,国際収支の変動幅 をとるかについては各国の利害がからみ,いろいろと困難な問題が含まれてい る。 (3)自由市場方式(free market method) この方式は自由市場すなわち競争的企業体制においては価格メカニズムを通 して消費者に利益を自動的に配分するように,国際間においても同様な配分効 果をもたらそうとするものである。 たとえば,一国内において多数の発券銀行が存在し,競争は自由であるとす る。各発券銀行は自行の発行する通貨を大衆に保有させるため預金に対して, いままで以上の利子を支払うようになるだろう。競争が激しくなるほど麦払わ なければならない利子は高くなる。その結果・超過利潤ゼロの水準で利子支払 いが行われるだろう。このときの利子支払いは通貨発行特権からの利益の社会 的移転,すなわち配分として考えることができる。これと同様に世界中央銀行 は金や各国通貨の払い込みを受けるとともに,国際通貨を発行し,その貸付 け・投資収益をえる。そして,その収益を銀行運営費(予備費を含む)と預託 国への利子支払いに配分しようとするものである。 ユヨ この方式に近いものとしてトリフィン案をあげることができる。それによれ ば各国は改革されたIMFへの預金という形で,金または各国通貨を払い込み 国際通貨をえる。改革されたIMFはその通貨を貸付けや投資に充当し,えら れた利益を預金残高にしたがって加盟国へ配分するというものである。この方 エの 法は後述するケインズの『貨幣論』の超国家銀行案に類似の構想であるといえ るだろう。 13)R・Triffin, Gold and the Do99ar Crzsts, Yale Univ・Press,/960, Chap.4(村野 孝・小島清訳『金とドルの危機』勤草書房,!96!年) !4) ∫M.Keynes, A Treatise伽Mo鰐ツ, Vo1.1[,Macmillan,1930. PP 395−402.(鬼 頭仁三郎訳『貨幣論』第5分冊,同文館,pp.250−259.)
34 この方式では各国が金の集中管理に果たして同意するか否かが問題である。 また過剰ドルの処理もこの方式の円滑な運営には欠かすことのできないことで ある。さらにこの方式は巨額の資産を世界中央銀行が管理・運営しなけれぽな らず,技術的にも困難な問題があり,運営当事者に対する政治的圧力も強くな り,投資資金をどのように運用するかにより不公平が生ずる難点も考えられ る。 以上の3方式はそれぞれ一一一一・長一短があり,いちがいにどの方式が勝れている とはいえないであろう。中央政府方式はインフレーションが生じない工夫が必 要であろうし,取引需要方式は資源の移転に中立的な影響を与える適切な配分 基準の決定が要請され,自由市場方式では南北問題の解決のために別の援助機 関をつくる必要がある。これらの改善がなされるとき3方式は,より公平な配 分基準となるであろう。 いずれにしても国際通貨発行特権から派生する利益の配分は,特定国の利益 に偏することなく,世界の各国が完全雇用と高い成長率を達成し,資源の最適 配分を促すことができるように,世界的な視野から決定すべきものであること はいうまでもない。 皿 超国家機関による流動性の国際管理 1. ケインズの超国家銀行案 ここでは新しい国際通貨と対称的な国際通貨制度を構築するうえでの問題点 を明らかにするためケインズとトリフィンの超国家機関による流動性の国際管 理案について考察していくことにする。 (!)超国家銀行案の概要 まず貨幣の超国家的管理を目指したケインズの超国家銀行(Supernational ユの Bank)案の概要はつぎのとおりである。 ① 超国家銀行は世界の諸中央銀行の加盟により設立され,発足のとき資本 金は不要である。しかし,その債務は加盟国中央銀行により保証されるものと 15)J.M. Keynes, A Treatise o7z Mone:y, ibid., pp.395−402。
する。 ②超国家銀行は諸中央銀行とのほか,いかなる取引も行うべきではない。 その資産は金,有価証券および中央銀行に対する貸出からなり,その負債は諸 中央銀行の預金からなる。このような預金を超国家銀行貨幣(Supernational Bank Money, SBM)とよぶ。 ③ SBMは2%の差を持つ一定の価格で金と売買される。 ④超国家銀行の金準備額は,それ自らの判断によって決定され,その負債 の固定された最小限の比率を超えることを強制されないものとする。 ⑤ 超国家銀行に加盟するすべての中央銀行の国民通貨は,金と同様な条件 で,すなわち売買が2%の差をもってSBMで強制的に売買される。さらに諸
国民通貨はSBMとのみ交換されることが望ましい。したがってSBMぱ第1
の国際本位となり,SBMが交換される金は最終本位となるだろう。 ⑥ SBMは茄盟中央銀行の法定準備の目的のために,金と同様に計上され る。 ⑦ 加盟銀行は最初にかなりの量の金を超国家銀行へ預け入れ,超国家銀行 預金勘定を開設することが期待される。その後SBM勘定は追加的金の預け入 れ,他の中央銀行よりのSBMの振替,超国家銀行よりの借り入れにより補充 される。 ⑧ 超国家銀行は一定の公定歩合(Bank Rate)を定めて,3ヵ月をこえな い期間で各中央銀行が割引きの便宜を利用できる範囲を(たとえば)それ以前 の3力年についての超国家銀行における,その銀行の平均預金残高を参照する ことによって,また最初はその銀行が預け入れた金の額によって決定される。 しかし割引きの最高許容限度は公定歩合と同様に,SBMの価値の安定のため に,その量を増減する必要に応じて,ときどき変更される。このようにして超 国家銀行は二つの方法によって,各中央銀行に対する信用供与の条件を調節す る。すなわち公定歩合と割引きの割当額(Quota)である。加盟中央銀行は, たんに緊急なときに借手となるだけでなく,平常から借手になることが望まし いであろう。36 ⑨ 超国家銀行は自らのイニシアティブに基づく長期または短期の証券の売 買によって,公開市場操作を自由に行うことができる。売却のときは必ずしも そうではないが,購入のときは当該証券が支払いを受ける国民通貨の中央銀行 の同意をうけてこれを行う。しかしSBMで表示された国際的公債の発行を防 げるものはな:くなり,時がたつにつれて,これはいつそう通常のものとなる傾 向があるだろう。その場合,超国家銀行は自らの判断によって自由に売買する であろう。 ⑩ 銀行憲章の細目は決定の段階にないが,加盟中央銀行の代表からなる管 理委員会(Board of Supervision)カミ設けられ最高管理機関となる。超国家銀 行の経営は独:立し,日常業務の処理には銀行の判断と自主性ができるだけ尊重 される。 ⑪銀行の利潤の配分は一部は準備に繰り入れられ,残りは平均預金残高に 応じて加盟銀行に配分される。 ⑫ 超国家銀行の経営の目標は2つある。これは目標であって義務規定では ない。第1は国際商業の主要財に基づく表計本位(Tabular Standard)で表示 された金(またはSBM)の価値の安定を維持すること,第2は国際的性格を もった利潤インフレーションとデフレーションを防止することである。これら の目標を達成するために公定歩合,割引きの割当額,公開市場操作等の方法に よって行われるが,政策の決定は加盟銀行との,また加盟銀行間の協議と協調 によることとし,また加盟銀行は超国家銀行管理局の月例会において,各国の 信用政策を討議し,合意された方針によって,できるかぎり行動するものと期 待される。 (2)超国家銀行案の評価 ケインズの超国家銀行とSBMの概要は以上のようなものであるが,つぎの ユの ような点に注目すべきであろう。 16) 則武保夫,r世界中央銀行案」『国民経済雑誌』第127巻第5号,1973年5月。松村 善太郎『国際通貨ドルの研究』ダイヤモンド社,!964年,前掲拙著,pp。50−57.参 照。なお本稿は,上記の則武論交に大きく依処している。
① SBMは「国際清算同盟案」のバンコールの金との一方的交換ではな く,金に対して双方的交換であり,各国通貨はSBMを媒介として金にリンク する超国家銀行貨幣である。したがってバンコールよりも信認の点ですぐれて いるといえるだろう。 ② SBMの創出は,当初,金準備の保有額しか許されないが3年後には平 均預金残高に応じ,超国家銀行の判断により決定され,また公開市場操作によ って信用創造に弾力性が与えられ,!00%の金準備を必ずしも必要とせず,「銀 行原理」に基づいた業務を営むことが可能である。
③ SBMの創出はSBMの安定維持を第1の目的として行われるので,国
際流動性供給は増加するものの,通貨の安定/生にも配慮されているといえるだ ろう。 ④ ケインズは金価値(正しくは金価格)の長期的トレンドが国際的表計本 位に一致するように管理しようとした。つまり当時の国際連盟経済財政部の生 計指教62の商品と海上運賃を加えたものが表計本位の内容であり,この表計本 位の考え方は貨幣の生成過程からは逆転している。しかし当時の物価の下落傾 向の中での物価対策からは,本質的議論を別とすれば考慮に値する政策であっ 27) たかもしれない。 ⑤ 各加盟中央銀行は緊急時だけでなく常時超国家銀行と貸借関係を結ぶこ とによって,煽盟国相互間の多角決済を促進することができるとともに,超国 家銀行は国際金融政策を行うことが理論的に可能であった。しかし平価調整メ カニズム,過剰SBM発生の危険,それにともなう国際的インフレーション回 避策が示されておらず,さらに検討する余地がある。また公開市場操作の対象 となる長・短期証券の性格も明白でない。 ⑥ ケインズは新たに超国家銀行を設立しようとは考えておらず,当時の国 際決済銀行(The Bank for lnternational Settlements, BIS)の改組を考えてお り,トリフィソがIMFの世界中央銀行への改組を考えたように現実に対して 17)則武保夫,前掲論文,pp.4−6.38 も配慮していたといえるだろう。 ⑦ SBMは超国家銀行により管理できる機構を持っているのに対し, IM F体制においてはドルを国際的に管理できる機構がなく,結果的に過剰ドルを 累積させた。その意味でSBMは, IMF体制よりも理論的にまさっていたと いえるだろう。 ⑧超国家銀行案はケインズの「国際清算同盟案」,トリフィンの「世界中央 銀行案」,rMFにおける「特別引出権(SDR)」の理論的根拠となっている といえるだろう。 ⑨ 超国家銀行案と国際通貨発行特権との関連で述べるならば,この案では 国際通貨発行特権による利益が生ずるが,IMF体制のように一Ptが独占する ことなく,各加盟国に分配されることになり,より公平なものであるというこ とができ,国際本位制の理想図がほとんど完全な姿で描かれているといってよ いだろう。 2, ケインズの国際清算同盟案 (1)国際清算同盟案の概要 超国家銀行案の国際本位の思想は,第2次大戦後の世界経済再建構想におけ る「国際清算同盟案(ケインズ案)」に引き継がれた。その概要はつぎのよう なものである。 ① バンコール(Bancor)という国際銀行通貨を創出する。バンコールは金 の一定分量で表示され,金はバンコールと交換されるが,バンコールは金に交 換されないという双方交換性を断ったものである。金表示されるパンコールの 価値は固定されるが変更は可能である。 ② バンコールによって各国の平価は表示される。 ③ 加盟国は清算同盟に勘定をおき,割当バンコール勘定を利用して多角的 な決済を行う。加盟国間の受取りと支払いは,この勘定の貸方と借方の振り替 え記帳により清算される。 18) J. M. Keynes, Proposals for an lnternational Clearing Union, tbid., pp. 55一一79,
④各国への割当額は世界貿易におけるシェアを基準として決定される。た とえば当初の割当額は戦前3年間の貿易平均額を基準にして決定され(たとえ ばこの額の75%),戦後5年たつと5年間の平均で決定する等である。 ⑤ 国際清算同盟は銀行原理によって国際流動性を供給しようとするもので あった。すなわち信用創造を行うことができ,加盟国に対して巨額の当座借越 わくを提供し,その総額は約260億ドルにもおよぶものであった。 ⑥ 債権と債務が一方的に累積しないように債権国,債務国ともに一定の課 金を支払う,いわば黒字国,赤字国手責任論の立場にあった。また平価の変更 は債権と債務の一定の累積額に応じて具体的に示されていた。 ⑦為替取引は自由に行われるが,資本移動の管理については各国にまかさ れていた。 (2)国際清算同盟案の評価 ① 金はバンコールと交換されるが,バンコールは金には交換されないとい う一方的交換性は,SBMとは本質的に異なったものである。したがってバン コールは金貨幣ではなく,一種の信用貨幣であり,金の非貨幣化を目指すケイ ンズの意図が如実に示されている。 ②ケインズは金の価値貯蔵機能を認めないので,国際清算同盟案第6章29 で「金とバンコール自体との聞には一方的交換性があるのみであり,これは戦 前いわゆるr金為替本位』制度のもとにあった諸国通貨につき,しばしば見ら れたものである」と述べている。しかし,「ケインズは戦前の金為替本位制の もとでは中央銀行は金を買うのみで金を売らない,金は一方的交換「生のみであ ったというけれど,戦前においても少なくとも国際的流通性のある通貨は,金 ユの 市場を通じて金に交換された」のであり,一方的交換性のみではなかったとい えるだろう。また国際通貨が信認されるか否かは国際通貨の金への交換性であ り,その逆の交換性でないことは明らかである。金との一方的交換性しか与え られないバンコールが,金と同様に一般的に受領され,国際通貨となることが 19)松村善太郎,前掲書,p.325,
40 できるかについては,はなはだ疑わしいといえるだろう。 ③ 金の節約から金の管理へと進められたケインズの考えは,国際清算同盟 案になるとバンコールが金の預託なしに発行され,金との交換性は断たれ,不 換紙幣となった。それとともに国際通貨発行特権からの利益は,配分め面では 公平さをある程度持っていたものの,金による歯止めのない制度につくり変え られるにつれて,その金額は大きくなっていったといえるだろう。 ④ 国際清算同盟案に対する主な反対論はトリフィンによると,つぎの3点 の である。第1はバンコールの累積を許す広汎な約束を受け入れる結果,将来債 権国になると見込まれる国が大きなインフレ圧力にさらされる。第2は清算同 盟により創出されたバンコールは,ポンド残高とドル残高がいっそう増加した 場合,それとからみ合って生ずる膨張力を排除するのではなく,膨張力を加重 する。金およびバンコールとともにドルおよびポンド残高が,国際経済の選択 的または補足的手段として存続することは,国際清算同盟案を実施しても金為 替本位制の運営にともなう危険性や脆弱性が完全に除去されなかったであろう ことを意味した。第3に国際収支の将来の赤字国に対して,巨額な借入権が自 動的に与えられることに対する反対論であった。これらの反対論で,国際清算 同盟案の核心的要点は放棄され,バンコール勘定は各国通貨による出資が大部 分を占めるIMFに対する出資割当額によって代位されることになったのであ る。すなわIMFは「基金原理」により運営されたのである。 3. トリフィンの世界中央銀行案 (1)世界中央銀行案の概要 トリフィソ自らが,国際清算同盟案に対する反対論を満足させ,同時に国際 清算同盟案の中核を継承しているというトリフィンの「世界中央銀行案」の概 要はつぎのとおりである。 ①世界中央銀行設立のため加盟国は改組されたIMFへ最低義務預託を行 20)R.Tr圭ffin, ibid., pp.!02−103,邦訳, pp.126−127. 21) R・Triffin・ ibid・・P・103,邦訳P・127.
う。 ② 最低義務預託は一国の準備のいちおう20%とし,それをこえる預託金は 任意預託というQ ③ 最低義務預託にあてられる資産としては現IMFに対する既存の純債 権,ドル,ポンドなどを主とする流動外貨資産,金である。 ④ 預託はバンコールで表示され,バンコールの価値は金で表示される。バ ンコールは国際決済,対外準備,国内通貨発行準備にあてることができる。 ⑤ 最低義務預託に相当するバンV= ・一ルには金交換性をつけないが,任意預 託分のバンコールには金交換性をつける。 ⑥改組されたIMFは清算と貸出活動を行う。貸出能力は加盟国から預託 された金と外貨に見合ったバンコール残高により決定されるが無制限ではな く,信用創造には二つの規制が課せられる。第1は最低義務預託による規制で あり,20%の最低義務預託の場合,信用創造能力はその5倍となる。第2の規 制として12ヵ月間の純貸出額を貨幣用金の増加と合わせ,世界の総準備を3∼ 5%増加させる限度にとどめる。また貸出方法は各国中央銀行が伝統的に実行 している2方法を踏襲する。すなわち債務国主導による前貸しや再割引きと, IMF主導による公開市場操作と投資である。 ⑦改組されたIMFの貸付け・投資収益は預託残高に応じて配分されるの で,利子が払われる。 ⑧各国の平価はバンコールで表示する。 ⑨ 金準備維持のため,改組されたIMFの債務国であるアメリカとイギリ スは,金でドルとポンドの償還を行う。たとえば年5%ずつ20年間で行ように する。 ⑩ ドル,ポンドの年賦償還により改組されたIMFの金準備が充実すれば, バンコールの安全性は増大するであろうが,金交換要求が殺到するような緊急 時に備えるため,3方法が設けられている。その第1は中期の金証券を発行す ることである。これは金や改組されたIMFの任意預託金で購入でき,利子率 は流動的な改組されたIMF預託金よりも有利にする。第2は最低義務預託率
42 20%を,25%あるいは30%に一飯に引き上げる権利を改組されたIMFに付与 することである。第3は最低義務預託比率をすえおくか,わずかに引き上げる に止め,加盟各国の準備が世界の輸入額に対する世界の貨幣用金の平均率をこ える超過分に対してのみ,さらに高率の最低義務預託比率を課すというもので ある。 (2)世界中央銀行案の評価 ① 世界中央銀行設立にあたっては,預金が先で貸出しが後で行われる点で 国際清算同盟案と異なり,超国家銀行案と同じである。 ② 最低義務預託は金交換i生がないが,振替性が完全な点ではケインズのバ ンコールと同じであり,しかも利子が付く点では勝れている。 ③任意預託に対しては金交換性があり,ケインズのバソコールよりも信認 が強い。 ④ 世界中央銀行案に対する批判は数多い。たとえば国際流動性不足の過大 視とか,国際流動i生の不足よりも特定国への資金偏在が考慮されねばならない とか,金の取り扱い方の不徹底性がかえって金への需要を増大するという疑問 や,各国の金融主権が制限を受けるとか,この案ではドル残高とポンド残高を 改組されたIMFが各国から肩がわりすることになりアメリカとイギリスにと って都合のよいものであるとか,具体的,技術的明細性に関する批判とか枚挙 にいとまがないほどである。 たしかにトリフィン案ではアメリカとイギリスが金でドルとポンドの償還を 行うことになっていたが,彼の主張する金価格引上げ反対の条件下では不可能 に近い。また任意預託については金交換が行われることになっていたが,現在 の海外ドル残高では,その実施は困難である。金との交換が保証されないバン コールに対しては,最低義務預託金を集めるのも困難であろう。 しかし世界中央銀行への道が閉されてしまっているわけではない。1979年3 月13日発足した「欧州通貨制度(European Monetary System,EMS」では「欧 州通貨単位(European Currency Unit, ECU)」の発給が,加盟中央銀行の保 22)拙稿「欧州通貨統合とEMS」『彦根論叢』第201号.1980年3月,参照。
有する金,ドル準備資産の20%を「欧州通貨協力基金」に預託することによっ て行われている。しかも金の評価は,最近6ヵ月間の市場価格の平均,または 最後の2営業日の市場価格の平均のいずれか低い方で時価評価されているので ある。アメリカの保有金約2億6,600万オンスを時価評価すれば,過剰ドルの 解消を行うことは可能である。またIMFが現在保有している1億オンスの金 を時価評価することによって,その評価益を超国家貨幣創出のための原資にす る道も残されているのである。
w SD段本位制度
!. SDRと国際清算同盟案 トリフィンの世界中央銀行案は現在のところ実現していないものの,トリフ ィン案への議論が大きな契機となり,1967年9月のIMFのリオ・デ・ジャネイロ総会でSDRの大綱が承認され,1969年7月に発効し,1970年からIMF
に特別勘定が設けられてSDRが発足した。 SDRは,その創出の準備過程で アメリカ,EC諸国,開発途上国の問で意見が対立し,最終的にはアメリカと EC諸国の妥協が成立したものの,開発途.E国はその配分方法でいぜんとして 不満を持っている。 (1)国際清算同盟案との類似点 このようにして発足したSDRではあるが,ケインズの国際清算同盟案と著 おうしく類似した点も多い。それを列挙するとつぎのとおりである。 ① 何らの払込みもなしに当座貸越形態で創出される。 ② その使用は振替方式により行われる。また決済は通貨当局間のみで行わ れ,民間には適用されない。 ③ 使用にあたっての事前審査や国内経済政策への勧告はない。 ④ 債権・債務の非人格性。すなわち国際機関への加盟国全体の信用を裏付 けに創出されるD 23)立場はちがうが,村本孜「SDRをめぐる諸問題ll『ビジネスレビュー』第23巻1号. !975年6月にもSDRとバンコールの比較が行われている。44 (2)国際清算同盟案の優位点 国際清算同盟案におけるバンコールがSDRより勝れている点は,つぎのと おりである。 ① バンコ・一一ルは,一定範囲まで自動的に振り替えられるが,SDRは国際 収支赤字や公的保有額ならびに基金における準備ポジションに問題がある場合 に使用可能で,その使用にあたってはIMFの指定にしたがってSDRを対価 に「事実上交換可能な通貨」を取得しなければな:らない。(IMF第2次改正 で,当事国間で合意があるとき指定は行われず,その場合は国際収支赤字でな いときもSDRが使用可能,当事国間で合意がなく指定をともなうときは国際 収支赤字の場合,使用可能と変更された)またバンコールは商業銀行原理によ り多角的決済を目指したのに対し,SDRは二国間取引で行われ,預金通貨で はなく,信用の拡大も生じない(信用乗数がない)Q ②SDRは純累積配分額をこえる部分が,その純累積配分額の2倍に等し くなるまで受領限度になっている。つまり純累積配分額の300%まではSDR 保有をしなければならない。この点は受領性の点からはバンコールより劣って いるかもしれないが,SDRを受け取らなければならない黒字国にとっては, 一応の歯止めがかけられていることになり,バンコールよりも勝れているとい えるかもしれない。しかし積極的にSDRを保有しようとする国がある場合, 相手国に働きかけない以上,SDR保有を増加させることができない点はバン コールよりも劣っているといえるだろう。 ③ SDRは復元(返済)の義務がある。すなわち当初赤字国が5年間を通 じて配分を受けるSDR累積総額の70%を超えて使用した場合は,その超過部 分を復元する義務があるという制約があった。逆にいえば70%以内の使用であ れぽ復元の義務はないことになる。なお1979年1月から復元の義務は85%に緩 和され,今後も復元義務緩和の動きが予想されている。 ④ SDRには選択的拒否権(opting out)を各国に認めており, S D Rの 受領限度拡大の支障となっている。 ⑤ バンコールは債権国,債務国ともに罰則的金利を課したが,SPRでは債
務国のみが金利を払い債権国は責任を問われず金利を受け取ることができる。 SDRの受領性に関するこれらの問題点は,現在検討されているところであ るが,バンコールに比べても,遜色のないものにする必要性があるといえるだ ろう。
2. SDRの通貨性
SDRの生成期においては, SDRは通貨か信用かの議論が数多く行われ た。SDRのファシリティー的性格に固執するフランスと資産的性格を強調す るアメリカの妥協の産物であり,それはしかたがないものであったかもしれな い(アメリカはドルの負担のみをSDRに肩がわりさせようとした)。 SDRの資産的性格が強まり,第3の国際通貨といわれるほどに成長すれ ば,現行の「ドル本位制」の変更,ひいては国際金為替本位制に続く新しい国 際通貨制度へとつながって行くことになる。その意味でSDRが持っている資 産的性格には注目しなければならないといえるだろう。しかしながら現行の「暫定SDR」は,発足当初のr旧SDR」のような資
産的性格は薄れ,信用的性格が強くなっている。その第1は名目的であったと はいえSDRの金価値保証を止め,1974年7月からは主要16力国通貨のバスケ ットで暫定SDRの価値を表示し,さらに1981年1月からは主要5強国通貨の バスケット表示に移行したことである。金価値保証が付けられていたため「ペ ーパー・ゴールド」と呼ばれていたときにも金との交換性はなく,事実上SD Rの価値はフロートしていたわけであるが,多数国通貨の加重平均による価値 保証は世界的インフレーションの場合,その価値を低下させ,インフレーショ ンへの歯止めはなくなったといえるだろう。ケインズのSBMは表計本位によ って購買力を保証し,パンコールは金価値保証をしていたが,暫定SDRは価 値を保証するものは何もないのである。 第2はSDRに対する金利が大幅に引き上げられたことである。すなわち旧 SDRの手数料と金利は1・5%であったが,1974年7,月にはSDR保有高の変 化分に対して適用される金利は5%とし,アメリカ,イギリス,西ドイツ,フ46 ランス,日本の5力国の短期金利の加重平均が9%∼11%の範囲を上回る(下 回る)ごとに,その差の%を5%に加える(差し引く)ことになった。その後 も金利の変更は続き,1979年1月前は5力国の短期市場金利の加重平均の%が 金利として決定され,追加的なSDRの保有国にSDR使用国から支払われた 金利の90%が報酬として配分されることになった。このように市場金利に近い 引き上げは,SDRの減価によって魅力と信認が低下したからであろう。市場 金利に近い金利がつくものは本来の貨幣とはいえないであろう。 第3は緩和されつつあるというものの,SDRの引受け額と使用額および使 用に種々の条件がつけられていることである。 このように考えるとき,現在の暫定SDRを国民通貨の上にたつ超国家貨幣 であるということはできないであろう。 3. SDRと国際通貨発行特権 (1)SDRの配分基準 現在SDRの配分に採用されている基準はIMFのクォータに比例するもの である。これは既述の取引需要方式に近い配分とみなすことができる。すなわ ち国際流動性の増分を,各国が国際流動性の保有を希望している割合と同じよ うに配分するのが取引需要方式である。 しかし取引需要を客観的に測定することは困難である。IMFのクォータは 国民所得や国際取引の大きさなどに基づいて決められるので,近似的に取引需 要に比例するであろうというのがSDRをIMFクrt・一国に比例して配分する 24) 根拠になっている。しかしながらSDRの使用国は,開発途上国や非産油先進 国に片寄っているのが現実である。その意味ではIMFクォータによる配分基 準を見直すことが必要であろう。 取引需要方式が目指していたものは,SDRが配分されてもそれを各国がそ のまま保有するなら実物資源の移動は生じず,国際通貨発行特権による利益は 生じないであろうというものであった。その目的を達成するためには多くの改 24)新開陽一「社会人のための国際金融論』日本経済新聞社,1972年.pp,188−189.
善が必要である。またSDRが無条件に赤字国だけでなく,どの国も自由に使 えるようになるならば,SDRは国内経済政策に幅をもたせ,急激な政策転換 をしなくてもよいことにより,社会的厚生を高めることができるであろう。 (2)SDRと開発リンク 現在の暫定SDRは前述のように真の意味の超国家貨幣ということはできな い。しかしながら復元の義務は純累積配分総額の85%を超えるまでは発生せず 85%まではSDR勘定が続く限り借り続けることができる。したがって85%ま では,資産的性格→通貨性を備えているということができるかもしれない。 このようにSDRはかなりの垣久性を有し,国際収支調整負担の対称性を確 保しないかぎり,それが過剰発行されればSD艮の信認がいっそう低下し,世 界的インフレーションの発生の危険もあるといえるだろう。 SDRと開発のリンク問題は,開発途上国がSDR=を保有するよりも費消す る傾向が強いので,総需要を直接増大させることによリインフレーションを加 速するとか,国際流動性の創出と開発金融は別個の問題である等の理由によ り,退けられてきたQ 国際流動性の創出を開発にリンクさせようとした最初の試みは,ケインズの 国際清算同盟案であろう。彼は赤字国の国際収支上の必要性に応じて,国際流 動性がバンコール勘定の当座貸越によって自動的に供給されるメカニズムを計 画したのである。また1958年と1962年にはスタンプ案と新スタンプ案が発表さ れた。そして1959年に発表されたのがトリフィンの世界中央銀行案であり,世 界中央銀行の投資は当初ドルとポンドに集中せざるをえないけれども,ドルと ポンド残高が償還されるにつれて,回収された資金の一部は世界銀行債やこれ に類する債券に投下されることによって,開発途上国の経済発展に不可欠な長 期投資に向けられることが予定されていたのである。 これらの諸提案とともに開発途上国の粘り強い主張により,1980年のIMF 第35回ワシントン総会では,いちおうSDRを開発に直接リンクする方法を採 らう干し,この早急な実現を促すことを合意するに至ったのである。 25) IMF Survey, Oct.13,1980, p.300.
48 (3)開発リンクと国際通貨発行特権 SDRと開発資金をリンクさせることにより,実物資源の移転が富の再分配 を促進するかどうかは,SDRの金利水準によるといえるだろう。開発途上国 が開発のために,直接配分されたSDRを使って入手した実物資源のもたらす
収益率をR,支払金利をプとすれば,SDR1単位あたりR−rの国際通貨発
行特権からの利益,つまり富の移転が開発途上国に帰属することになる。逆に 先進国側では実物資源の移転により,先進国の実物資源の収益率マイナス金利 収入だけの富の損失が生ずる。 そこでr==Oとすれぽ,開発途上国は国際通貨発行特権による利益を全額受 け取ることができ,実物資源の無償援助となる。r=Rならば,開発途上国の える国際通貨発行特権からの利益はtf pとなる。 SDRへの支払金利が低いほ ど,開発途上国の国際通貨発行特権からの利益が大きくなるといえるだろう。4. SDRと金廃貨
IMF体制が崩壊してからは, SDRに対して新しい期待がもたれ,多くの 提案が行われてきた。SDR本位制を推進する提案は,準備通貨(実質的には ドル)だけでなく金もSDRによって代替しようとする考え(金廃貨)と,準 備通貨だけをSDRによって代替し金廃貨を考えないものの2つに分けること がでぎるであろう。 SDRはそれ自体内在的価値をもたない信用的性格を強くもったものであ り,信認をえるために十分な配慮が必要である。現状のような金と結びつかな いSDRを創出しても,複雑な利害関係を持つ多数の主権国家から成り立って いる世界経済のなかでは,SDR金利を少々高くしたとしても信認を高めるこ とに限界があるといえるだろう。 インフレーションや戦争が消え去っていない現在,金からの離脱や金廃貨は 26) 1−1. G. Grubel, “The Basic Method for Distributmg Special Drawing Rights and Problem of International Aid, JournaZ of Fzflance, Dec.1972.伊勢田慧「SDR金 利に関する諸問題」『金融学会報告,41』1975年1!月,pp.3−/3。不可能であろう。金廃貨のためには,各国通貨当局が保有金を民間へすべて売 却し,貨幣用金が消滅することが必要であるが,そのような通貨当局はいまの ところ見当たらない。金廃貨は世界国家が誕生し,各国が金融主権を世界政府 に移譲する状況になってはじめて実現するであろう。 金は現在,国際的な価値尺度,最終的な決済手段,安定した価値貯蔵手段機 能を果たしている。SDRがこれらの機能を果たすためには,金とリンクされ 相互に交換性を持つか,強制通用力を付与することができる超国家的権限を持 った世界政府が樹立されるかの場合であろう。超国家的権限を持った世界政府 27) 成立の可能性の存在は,予見しうる期間内にはない。とすればSDRを国際的 に流通させ,信認を失わせないために金との交換性が是非とも必要である。 5. SDR本位制への道 超国家銀行および超国家貨幣の詳細な提案は,ここでば行わないが,すでに これまで議論してきた問題点を要約すると,つぎのようになるであろう。 (1)金価格の大幅引上げを世界各国同一基準で行い,加盟国が評価益の一部 を金でIMFへ預託する。またIMFへの金の集中を図る。 (2)SDRの信認低下と過剰発行を防止するため金との交換性をつける。金 との全面的交換が望ましいが,それが困難であれば部分的な交換【生をつける必 要がある。 ㈹ SDRの発行量は国際的に管理し,国際流動性の必要量と金集中の度合 いを勘案して慎:重に行う。 (4)各国の為替平価はSDRで表示し,すべての国がその平価を公的市場介 入により維持する義務を負う。市場介入は複数通貨介入方式とSDR介入方式 があるが,ドルの国際通貨発行特権を失わせ,金融節度を守らせるためにもS DR介入方式を採用する。したがってSDRは民問にも保有される。 (5> ドル残高とポンド残高は整理するとともに,これ以上増加させないよう な措置が必要である。ドル残高とポンド残高をSDRで代替することは, SD 27)則武保夫「SDRの運命」『国民経済雑誌」第130巻第2号,1974年8月, p.65.
50 Rの弱体化となり望ましいものではない。 ⑥ 市場介入や正当な取引により,外国に保有された自国通貨を当該国はS DRに交換する義務を負う。 (7) SDRの使用・受領・復元についての現行の条件を廃止し,自由に使用 できるようにする。 (8)SDRが民間の取引通貨や建値通貨となるようにIMF,各国政府・中 央銀行が強力な支援をする必要がある。 (9)世界中央銀行設立にあたって,銀行原理を導入する場合,上述したよう に無制限な信用創造が行われないような措置をとり,世界的インフレーション 問題にも十分配慮する。 以上の諸点を整合的に無理なくひとつの提案にするのは,なかなか困難な作 業であるといえるだろう。対称的国際通貨制度を樹立し,超国家貨幣を管理す るための通貨改革は,きわめて困難で険しい道であることは間違いない事実で ある。しかし,安定的な国際通貨制度を構築するためには,粘り強い努力が今 まで以上に必要である。 〔参考文献〕 (1) J. Aschheim & Y. S. Park, Artificial Currency Units: The Formation of Funct− ional Currency Areas, Essays in lnlernational Finance, No. !!4, April. !976. (2) S. W. Black, Exchange Policies for Less Developed Countries in a World ef Floating Rates, Essays in lnternational Fini ance, No. 119, Dec. 1976. (3) K. A. Chrystal, lnternational Money and the Future of the SDR, Essays in lnt− ernational .Fznance, No. 128, June !978. 〈4) C. F. Diaz−Alejandro, Less Developed Countries and the Post−197!, lnternational 昏 Financial System, Essays in lnternational Finance, No. 108, April 1975. (s) J. M. Fleming, “Towards a New Regime for lnternational Payments”, Journal of lnternational Economics, Sep. 1972, pp. 345−374. (6) 一, “F1oating Exchange Rates, Asymmetrical lntervention, and the Management of lnternational Liquidity”, lftiF Staff PaPers, July 1976, pp. 263−283. (7) J. Gold, “Special Drawing Rights: Renaming the lnfant Asset,” IA(fF Staff .Papers, July 1976, pp. 295−311.
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