BE
国際的環境政策における技術移転問題
一 貿易を介した環境技術の拡散効果 ‑
藤 田
Abstract:
Theinternationaltransferpoliciesoftechnologiestoreductcarbondioxideemis‑ sionsshouldbeconsideredaswellasusualtechnologytransferordiffusion.There aremanyinfiltrateroutesoftechnologicaldiffusionsandspillover.Theroutepass‑ esthroughtheimportproductswhichembodyforeignadvancedtechnologiesisim‑
portantwellasmuchastheroutespassthroughaids,forelgndirectinvestments andpurchasingroyaltiesandlicenses.Afteradditionalanalysis,thispapershows quantifiesimpactsoncarbondioxideemissionsbystmcturalandthesetechnologl‑ CalfactorsusingpaneldataCoveringlargesampleofworldwidecountries.
Thisissimilartotheargumentofpioneerstudiesaboutthehigh‑technological spilloverfrom outsidethecountry,butthetechnologleSandknow‑how which influenceforcarbondioxideemissioncontroldirectlyorindirectlyaregeneraland popularamongthewiderangeofindustriesindevelopedcountries.
Keywords:technologyspillover,trade,carbondioxidecontroll,enviroumental policy
1 はじめに
環境省の環境 自書[22]には,開発途上国に対する環境協力の意義(注1)として,経済成長 と 環境負荷の関係を論 じるにあたって,いわゆる 「環境 クズネ ッツ曲線」の議論を用いている。
これは,経済成長初期においては環境負荷は小さ く,経済成長の進展にしたがって環境負荷 を増大させ,一定程度の成長段階に至 った後には,環境対策の進展により環境負荷が低減 し てい くため,1人当た り国民所得 一環境汚染度のグラフは逆U字型のカーブを描 くとい う ものである(注2)。そ して,低開発国が高環境負荷であった先進国の発展経路を トレースする ことがないように,開発途上国自身の環境対策への積極的な取 り組みを重視するとともに, 先進国の協力によって開発途上国が後発性の利益を得 ることができ,ひいては持続可能な開 発を達成できるとし,援助の正当性に結びつ くというものである。
70
これに対 して,松岡 ・松本 ・河内[12]は,SON,NOR,CO2(各 1人当 り排出量),安全な 水及び衛生設備への各アクセス率 (人口比),森林減少率の環境指標を対象に,1980年,およ び1990年時点の29カ国のデータを用い,回帰分析を行 った。各国の環境指標の動向について 弾性値分析を行い,想定する関数形を決定 した結果,2次式で回帰させる妥当性があるのは SOxみであ り,NOx,CO2,安全な水,衛生設備は 1次式で回帰させ ることが妥当であるこ とが明 らか となった としている。す なわち,公害型環境汚染 とで もいうべ きSOx関 しては 逆 U字型 とみなす ことがで きて も,その他の環境指標について環境 クズネ ッツ曲線が成立 することは支持で きなかった とする。特 にC02に関 しては,独立 した環境指標 というより はエネルギー消費効率指標であ り,環境 クズネ ッツ曲線のような議論の対象にすること自体 が妥当ではない とする。
もし環境 クズネ ッツ曲線仮説に従えば,途上国の環境政策においては独 自かつ強力なオプ シ ョンを選択する必要はそれほどな く,経済成長 と適合的なモデレー トな政策でよく,むし ろ先進国による援助や投資による技術移転が有効であるということがいえるであろう。 しか しなが ら環境 クズネ ッツ曲線が成立 しない場合は もちろんのこと,その正否にかかわ らず援 助や投資による技術移転以外にも重要な技術移転のパスがあるならば,今 日の先進国による 国際的な環境政策の内容は問い直 しを迫 られる可能性がある。
国際的な技術移転のルー トは,援助や直接投資の他にも,知識の購入や国際貿易を通 じた 流入経路などが存在するにもかかわ らず,従来の議論ではでは,まず援助による発電などの エネルギー転換部門での設備ス トック更新や燃料転換を促進 させる政策を,また輸入を通 じ た効果について も先進国技術の導入によるエネルギー消費設備 ・機器の効率の向上 といった 直接的な一次効果のみに着 目してきたきらいがある。 したがってより普遍的かつ内発的な技 術移転 メカニズム,た とえば途上国内で模倣 (イミテーシ ョン)が可能になるような技術移 転ルー トやプロセスに着 目する必要があるのではないだろうか。
藤 田[8][9][10]は,この視点か ら各国 ・地域の二酸化炭素排出量およびエネルギー消費量 に影響を及ぼす気候,産業構造,エネルギー消費 ・生産構造 といった構造要因 とともに,こ れ らの技術流入経路に説明される技術要因を抽出して,技術移転効果を計測可能であるかど うかを分析 した。 ここでは構造的な要因 とあわせて,先進国および途上国に関 して,援助, 海外直接投資,製造業品 目の輸入,非製造業品 目の輸入,技術の購入による獲得,エネルギー 転換要素 (原子力,石炭のシ ェア) といった技術要素が二酸化炭素排出量抑制に与 える効果 について計測を行 っている. この結果,一般的な国外か らの技術スピルオーバーについて論 じた先駆的な研究 と同様,技術を含んだ製品の輸入を通 じて,二酸化炭素排出量抑制 という 特殊な技術領域においても同様な効果が生 じている可能性を示 している。
しかしなが ら,これ らの分析に用いられたデータは,多 くの国 ・地域において近年になっ て統計が整備 され始めた ものも多 く,データが追加された後 も同様の結果が安定 して得 られ るかどうかについての課題が残 っている。本稿は,藤田[8][9][10]の結果に対 して,さらに
国際的環境政策における技術移転問題
最近 までのデー タを追加することによって,追跡的な分析 を行 った ものである(注3)0 膿
2 各国 ・地域の二酸化炭素排出量 とエネルギー消費量
長期 にわたる時系列デー タの利用 には制約があるために,まず藤 田[10]によるクロスセク シ ョン分析の結果を もとに,各国 ・地域の二酸化炭素排 出量 とエネルギー消費量の概況 につ いて議論 を行 う.以下の分析 においては,デー タセ ッ トはWDI(TheWorldDevelopment Indicatws,TheWorldBank,2000年版お よび2002年版)[18][19]か ら加工 した ものを用い
ている(注4)0
2・1 クロスセクシ ョンでの対 GDP弾力性 (1) 対GDP弾力性の分析モデル
計測可能な二酸化炭素排 出量 自体は主 として商用エネルギー消費量 か ら算 出されるため, エネルギー消費量 とは密接 な関係があ る。 エネルギー消費効率 (対GDPな ど)は一種 の生 産性概念であ り,ス トック と運用 によって変化する。な らば二酸化炭素排 出量はエネルギー 消費 とパ ラレルに変動す るか といえば必ず しもそ うではない。転換部門以外の産業 における 消費や最終需要 として消費 され るエネルギーは転換部門で製造 される2次的な ものが大半で あ り,エネルギー源が含む炭素集約度 (carbonintensity)(注5)で大 き く変化す る。 このため の典型的な二酸化炭素排 出量削減技術が原子力であ り自然エネルギー利用であ り,さ らに水 素利用や天然ガス利用技術な どがある。
石油危機以後の1975,1980,1985,1990,1995の各年次 に関 して,各国 ・地域 のCO2排 出量 とエ ネルギー消費量の対GDP弾力性 (α1‑
ヨン ・モデルを用いてOLS音十測 した(注6)0 lnYi‑
a
o+allnGDPRi+uidYi/dGDPRi
Yi/ G D P Ri) を,・以下の クロスセ クシ
(1 )
Yi‑CO2TiまたはYi‑ENETi,ただ しi:国,地域の指標
CO2Ti:CO2排 出量 (CO 2Mt),ENETi:商用エネルギー消費量 (MTOE) GDPRi :実質GDP (constant199510億USS)0
また, この5期のデー タの うち最近の1985‑1995の3期 をプー リング したパネルデー タに対 して α1を推定 し,期 を超 えてその性質が共通 しているか どうかを調べた(注7)0
1nYit‑
a
o+allnGDPRii+eii eit=ai+vii(2)、対GDP弾力性の推定結果
なおデー タ制約か ら各期 に利用で きる国 ・地域が異なるので,.1975年 か ら利用可能な もの
72
を基準グループ とする。 クロスセクシ ョンで回帰 した場合の全体での GDP弾力性α1と,塞 準グループの GDP弾力性dlを併記 している(注8).二酸化炭素排 出量 およびエネルギー消費 量の対実質GかP弾力性の推定結果を,表1,および表2に示す。 また2端点でのデータの 相違 を図1,および図2にそれぞれ示す。
表1:CO2排出量のGDP弾性値 (藤田[10])
116カ国 .、地域 利用可能データ全体
d o
a‑1 R2 SE αo
α1 R2 SE N1975
1980 ‑‑‑‑‑(((((0.0.0.0.‑‑‑‑0.‑4.3.4.3.3.22111682927978502655758859)6)6)8)3) 1(1(1(1(1(331333.....00000.2.0.010.5230.08808842079)0)2)5)6) 0.0.888988 0.0.336474 ‑‑‑‑((((0.‑0.‑0.0.‑‑4.5.5.2.222109260041896795315)4)4)5) 11.11.((((3333..05.06.05012.542.8871954)226))95) 0.908 0.357 131 1985 0.903 0.336 0.907 0.361 141 1990 0.889 0.357 0.896 0.376 147 1995 0.891 0.358 0.860 0.428 169 panel:1985,1990,1995 ‑0.2562 1.0064 0.882 0.930 maX169
表2:エネルギー消費量のGDP弾性値 (藤田[10])
90カ国 .地域 利用可能データ全体
d o
all R2 PSE ‑ αo
α1 R2 SE n1975
1980 ‑‑(‑‑(‑‑(‑‑(‑‑(0.0.0.0.0.3.2.0.1.1.533112242970711809971636828)5))5)7) 0.0.0.0.0.(((((2221189.80.89.810.80.6330882299446705)9))4)6) 0.0.880215 0.0.870352 ‑‑(‑‑(0.0.((0.0.110.1.21..01768192513625331329)7) 0.)5) 0.0.0.((((1112819.78.78.70.964354553513)5)2)6) 0.797 0.765 97 1985 0..816 0.742 0.772 0.794 102 1.990 0.824 0.713 1̲0.743 0.815 117 1995 0.828 0.704 0.773 0.771 119 panel:1985‑1995 0.3050 0.7281 0.754 0.809 maX119
二酸化炭素排出量の対 GDP弾力性は,国 ・地域を基準グループのみで固定的に測 って も, 利用可能なデータをすべて測 って も,いずれ も1975‑ 1995の期間にわずかなが らの低下が見
られ る。 ただ し,標準誤差はやや増加気味であ る (表1)。 また,3期分のパネルデー タ (1985‑ 1995,最大169カ国 ・地域)に対する分析では,期別のクロスセ クシ ョン分析の結 果 と比較 して,やや二酸化炭素排 出量の GDP弾力性は低めに計測 されているが,同程度で あると見ることがで きる。 この結果か らは,総 じて変化は少ない と考 えられよう。
これに対 して,二酸化炭素排出量の直接的な原因であるエネルギー消費量については,そ の GDP弾力性は,基準グループのみで国 ・地域を固定的に測 って も,利用可能なデー タを すべて測 って も,いずれ も1975‑ 1995の期間に若干の低下が見 られる。 (表2)0
国際的環境政策 における技術移転問題 73 また,パネルデー タ′(1985‑1995,最大119カ国 ・地域)に対する分析では,エネルギー 消費量の GDP弾力性はクロスセクシ ョンでの結果 と比較 してかな り低めに計測 された。
エネルギー消費量,および関連が深い二酸化炭素排 出量の GDP弾力性 との相違 は,●以下 の ように整理で きよう。
二酸化炭素排 出量の GDP弾力性の方 がエネルギー消費量の GDP弾力性 よ り総 じて高 く計測 されている。
GDPRTCO2T(1975)
Ejmi;mrElヒrEE1
(東萩.SS⊃撃OLS66uE!1SuOCI)SOO!JdteweE1t2dQD
1∈‑02 1E‑01 1E+00 1E+01 1E+02
CO2emissions,industrial(Mt、対数)
GDPR‑CO2T(1995)
!5!︻ヒEE︹HトHrい‖■
(点在.SS⊃撃OLS66uelSuO3)
S器!JdlGIWt2∈1edQD
1E+03 1E+04
1∈‑02 1E‑01 ‥1E+00 1∈+01 1E+02
CO2emissions,jndustriaI(Mt、対数)
1E+03 1E+04
r;0116カ国 ・地域 (1975‑)
図1・:.実質GDPと二酸化炭素排出量の関係 :1975,1995(藤 田[10])
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二酸化炭素排 出量の GDP弾力性は,サンプルが数が多い利用可能なデー タをすべて用 いた方 (途上国を多 く含む)が高い値 を示 したが,エネルギー消費量の GDP弾力性は 逆にサンプルが多い方がかな り低い値 を示す。
二酸化炭素排 出量の GDP弾力性 よ りも,エネルギー消費量の GDP弾力性の方が期間 内の低下傾向が強い。
・パネル分析 とクロスセクシ ョン分析の比較では二酸化炭素排 出量の GDP弾力性 よりも
GDPR‑ENET(1975)
(点茶.山
0
トM)OSn岳LOuOIe!DJO∈∈00(
東萩.山O
IM)OSn岳LG'uOIe!。LaLuuJ.01.00E+03
1.00E+02
1.00E+01
1.00 E+00
1.00El)1 1.00E+00 1.00E+01 1.00E十02 1.00E+03 1̲00E+04
GDPatmarketprices(constant199510億usS、対 数)
GDPR‑ENET(1995)
1.00E+03
1.00E+02
1.00E+01
1.00E+00
1.00E‑01 1.00E+00 1.00E+01 1.00E+02 1.00E+03 1.00E+04
GDPatmarketprices(constant199510億USS、対数)
図2:実質 GDPとエネルギー消費量の関係 :1975,1995 (藤田[10])
( 垂 . t b L 2 L i i L 車 恒 7 9 T T = i i
国際的環境政策における技術移転問題 75 エネルギー消費量のGDP弾力性の方が差が大 きい (低い)0
これ らの傾向は散布図,図2でも明らかであ り,1975年 と1995年を比較すると低所得国の エネルギー消費量が増加 して,クロスセクシ ョンでの傾 きは減少 している。またパネル分析 の方がエネルギー消費量のGDP弾力性が低 く計測される, ということは平均的には時系列 的にエネルギーの消費増は抑制 されつつあるが,低所得国家でのエネルギー需要圧力が高い
と考えられる。
また,エネルギー消費量のGDP弾力性 (1以下) よりも二醇化炭素発生量のGDP弾力 性の方が大 きい (1以上)。 これはエネルギー消費効率の向上に比較 して,炭素集約度 l(炭 素含有度の高い燃料消費)が高まっている可能性がある(注9)0
この結果からは,エネルギー消費効率は高所得化すればすこしずつ改善 される可能性がめ るものの,二酸化炭素排出についてはあま り改善されていない という淡況がうかがわれる。
(3) エネルギー消費量と二酸化炭素排出量の関係
ここで藤 田[10]をもとに,1995年のク ロスセクシ ョンで,GDPとエネルギー消費量の関 倭,エネルギー消費 と二酸化炭素消費の関係を見てみる。図3は,1995年における,各国の エネルギー消費効率 (Commbrcialenergyuse(MTOE)/GDP,PPP(currentinternational10 億 番)) と,エネルギー消費に対する二酸化炭素発生比率 (CO2emissions,industrial(Mt)/ Commercialenergyuse(MTOE))の関係を示 したものである。グラフ内部の軸はそれぞれ の平均値を通過する位置にある。 ここでは1995年のGDPpercapita,PPPから,1000ドル未 港,1000ドル以上3000ドル未満,3000ドル以上10000ドル未満,10000ドル以上の各国をそれ ぞれ 低所得国群 (Low),下位中所得国群 (LowerMiddle),上位 中所得国群 (Upper Middle),高所得国群 (High)で分類 してある。
ここからは以下のことを読み取 ることができる。
'低所得国群は (対GDP)エネルギー消費効率は低い位置 (右方)にあるが,エネルギー 消費量に対する二酸化炭素発生比率は低い (下方)0
一・高所得国群,上位中所得国群はエネルギー消費効率は高い ものが多いが (左方),エネ ルギー消費量に対する二酸化炭素発生比率はやや高まっている (中 ・上方)0
・上位中所得国群は高所得国群 と比較 して,エネルギー消費量に対する二酸化炭素発生比 率がやや高めな国 ・地域がある。またエネルギー消費効率が低い国 も多い。ただ しグルー プ として,・エネルギー消費量に対する二酸化炭素発生比率に上位中所得国群は高所得国 群の明確な差はないム
・下位中所得国群は低所得国群 と比較 して,エネルギー消費効率は高いものが多いが (左 方),エネルギー消費量に対する二酸化炭素発生比率はやや高まっている。 しかし高所 得国群,上位中所得国群 よりも平均はやや低い位置にある。
この ことからは,経済発展に伴 って以下の ような変化が生 じることが類推で きる。
76
(山0トM)OSn
岳LauOJe!DJO∈∈OO\(TM)一eて}SnPu!.SUO!SSeuJ¢100称qT利水NOC)・叫琳禁‑叶q(ヰH夜
エネルギー消費量とCO2排出量(1995)
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 対GDP・エネルギー消費比率
commercialenergyuse(MTOE)/GDP,PPP(currentintemationa110億‡)
図3:エネルギー消費と二酸化炭素消費 (藤田[10])
∃AUpperMiddle i
i◆High ̲̲̲̲̲̲i
・低所得国群か ら中所得国に移行すればエネルギー消費効率は改善 される可能性がある。
・しか しさらに所得が向上 した場合,エネルギー消費量に対する二酸化炭素発生比率が上 昇する。
・さらに所得が向上 した として も,現在の高所得国水準の二酸化炭素発生比率は,上位中 所得国群 と比較 して特に改善 されているわけではない。
・所得が高い国の中にもエネルギー消費効率が低い ものがかな りある0
この結果,発展途上国が成長 した場合,エネルギー消費量に対する二酸化炭素発生比率の 上昇が,エネルギー消費効率の改善を上回る恐れや,各種要田か らエネルギー消費効率が改 善 されないままにエネルギー消費量に対する二酸化炭素発生比率が上昇するといった可能性 があ り,世界全体では二酸化炭素発生圧力が高ま りこそすれ減少 しない可能性がある(注10)0
いずれにして も,これ ら中所得国 ・地域の動向が将来の世界的な二酸化炭素排出量に大 き な影響を及ぼすであろうことは確実である。 また分析の結果は,松岡 ・松本 ・河内[12]の主 張を支持するものである。二酸化炭素発生量はエネルギー消費効率によってはぼ規定 され, 単独で環境指標 として議論する意義は希薄である。 これまでの分析結果では低所得国群を中 心 としてエネルギー消費効率が低 く,かつ二酸化炭素発生比率 も低い というグループ も存在 するが,中所得国家グループ以上では二酸化炭素発生比率にそれほどグループ間で差異があ るわけではな く,経済成長 したか らといって二酸化炭素発生比率が低下 していることはないo
したがって二酸化炭素排出の低減のためには,まず第一にエネルギー消費効率の向上が重
国際的環境政策における技術移転問題 l劃 要であろう。次には燃料転換やカーボン ・リーケージ(注11)の可能性があるが産業構造の転換
(産業連関表において国 ・地域間の投入係数の交換) といったこと程度 しか効果のある施策 は無い恐れがある。 このためには経済成長のある期間に援助するといった現在選択されてい るような国際環境政策ではな く,より根源的な技術移転方策を見出す,ないしは自立的な技 術移転の経路に新たに注 目するといっ・たことが必要になると考えられる。
2.2 エネルギー消費効率向上から見た二酸化炭素排出要因の抽出 (1) 構造要因
以上のデータ ・ファインディングでは,各国 ・地域の経済の発展段階別のグループ内でも エネルギー消費効率が異なっていること,また使用するエネルギーの炭素集約度 もそれぞれ の国 ・地域の事情から差異があることがうかがわれる。 これらの二酸化炭素排出要因は,経 済成長に関連するもの,また関係が薄い場合もある。エネルギー消費効率は技術要因に関連 し,発電などの転換部門や工場などの産業部門でのエネルギー消費技術ス トックも重要であ るが,究極は国 ・地域全域でのエネルギー消費に直接 ・間接に関連する広範な技術ス トック の状況にかかわって くる.このためにはどのように腎 ・地域内で技術がス トックされるのか, あるいはどのようなルー トで技術が国 ・地域内に流入するのかといったメカニズムの解明も 必要であろう。
ここで対象にしている産業起因による二酸化炭素の排出とは,化石燃料の燃焼による排出 およびセメン ト製造にともなう排出であるが,後者は前者 と比較 して小さいので, とりあえ ず前者が主であるとして分析する。
化石燃料起源の二酸化炭素排出量は,国内での生産活動に関連 したエネルギー消費量,さ らにそのエネルギーの炭素集約度の積で決定される。まず対 GDPエネルギー消費効率の変 化要因 (技術要因)を列挙すれば以下のものがある (藤田[10])0
(a)老朽化 した施設などに応急手当 (バン ドエイ ド)を行 うことを可能にする教育や管理力 (ち)国 ・地域に特有な条件の改善能力 (気候風土への対応や,エネルギー確保政策,機器
設備のカスタマイズ)
(C)低効率の老朽設備の運休 と高効率の新鋭設備への生産シフ ト (不況下),また逆に低効 率の老朽設備のフル稼働 (好況下)
(d)新鋭設備や高効率 ・省エネルギー技術の導入 (規模の効果,エネルギー転換,新プロ セス,新制御技術の導入 も含む)
(e)2次エネルギーの輸入 (国内 ・域内での転換ロスを減 らす)
(f)高付加価値部門への産業構造シフ ト (エネルギーの間接輸入を含む) (g)民生 ・運輸部門まで含む高効率設備 ・機器への リプレース
このうち, (e)2次エネルギーの輸入や(f)産業構造シフ トはカーボン ・リーケージの原因 にな りうる。 (d)や,またそれをさらに全体に敷術する(g)は単にス トック全体の効率向上
78
だけではな く,電力シフ トや天然ガス化のようにエネルギー転換を伴 うものであることは注 意する必要がある。すなわち,技術的なエネルギー消費効率の改善 と電力シフ トなどのエネ ルギー転換による炭素集約度の低下は独立に生 じるのではな く,技術水準の向上に ともなっ て複合的に生 じることが多い。 したがって交差的な効果 も考慮する必要がある。
また最初の 2点 (a)(b)はそれぞれの国 ・地域の社会が有する暗黙知に近い ものであ り, 気候条件による冷暖房用のエネルギー需要や国土の広さや配置による交通用エネルギー需要 などといったもの以外は,表面的なデータに現出することは難 しいであろう。また,経済が 発展すれば空調や 自動車の普及 も生 じるため,逆にエネルギー消費が分散化,群小化 して効 率が低下することもある。
また,さらに二酸化炭素排出量については,このエネルギー消費量に炭素集約度を掛けれ ば算出可能であることか ら,
(A)石炭のシ ェア
(B)水力 ・原子力のシェア
が基本的な要因 となる。 (A)は炭素集約度の高い化石燃料の使用度を示 し,また(B)は見か け上は化石燃料を消費することな く電力を供給で きる。石炭中心の国から石油中心へ,さら に天然ガスへ といった燃料転換 も低炭素化を実現するものであるが,藤田[10]における予備 分析では,(B)ほどの説明力は得 られていない。
なお,これ らの要因は産業構造またはエネルギー需給構造に関わるもの,あるいは社会構 造や地域特性に関わるものであ り,ほ とんどの ものが中期 レンジでは構造要因 として とらえ ることができる。本稿で主 として利用 したWDIにデータベース として直接用意されている もの としては,第2次産業比率 (GDPにおけるIndustryのシ ェア (%))程度であ り,そ の他はデータを加工 して作成する必要がある。入手できるエネルギーの炭素集約度あるいは 非炭素系エネルギーシ ェアの情報は,IEA/OECDのエネルギー統計[14][15],またエネル ギーバランス表[16][17]までブレークダウンすることが可能であるが,影響の大 きな発電電 源別のシ ェアのデータはWDIにも集約されている。また,エネルギー生産や発電量 と消費 量の関係について も,生産量および消費量に関するデータがWDI内に集約 されているもの を使 うことができる。
気候な どの影響によるエネルギー消費の構造要因については,冷暖房特性 として緯度や平 均気温などのデータは各種の理科資料から利用可能である。ただ し主要都市のデータに限定 されること(注12),またそれ らの地点がエネルギー消費の重心、であるかどうかは不明であるこ と,大半の入手可能なデータは長期の平均気温であ り時系列分析にはなじまない, といった 問題がある。 さらに空調用エネルギー消費に影響を及ぼすのは気温ではな く大気エンタル ピーなどの熱力学的性質 と建築物の平均的な構造などである胤 3)。 したがって,長期平均気 温データはクロスセクシ ョン分析で利用することに限定する。多 くの国々では一般的に冷房 用途のエネルギー需要 よりも暖房需要の方が大 きいため,気温はエネルギー需要に対 して負
国際的環塙政策における技術移転問題 の相関があることが期待される。
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(2) 技術要因
以上の構造要田 とあわせて技術要因の影響を考慮する。技術要因は構造要田 と異な り,容 易に変数 として用意できるものではない。技術ス トックの状況,技術水準の程度,いずれも 定量化することは難 しい。本稿では,二酸化炭素排出量抑制技術 自一体が比較的新 しい分野で あること,また蓄積はこれからであることなどから,ス トックデータではな くフローの技術 移転パスに注目する。すなわち,技術が各国 ・地域に流入するパスである,技術知識の直接 購入,援助や海外からの投資, といったものをまず技術要田 として とりあげることにする。
援助や海外からの直接投資,また特許やロイヤ リティなどの支出,人口当た りの科学者や技 術者の人数などのデータはWDIにおいて集約されて」いるので利用可能である。ただし,エ ネルギー消費量,二酸化炭素排出量,また実質GDPなどの基本データと比較 して,利用可 能な国 ・地域は極端に減少するため分析に制約が加わる。
また,上記の直接的な技術の移転 (技術移転を意図した政策によるという意味で)のみに 技術移転パスが限定されるわけではないことに注意する必要がある。二酸化炭素排出量の抑 制技術はエネルギー消費効率向上の技術や,より一般的にはエネルギー利用技術全体に密接 に関係する。エネルギーは全部門に投入されるものであ り,エネルギー利用技術に関する指 標はその国 ・地域のエネルギー消費機器ス トック全体および運用の状況の反映である。発電 所や工場 といったエネルギー消費や二酸化炭素排出にとって象徴的なポイン トだけでな く, 生活の場面全域が問題になる。極端な例 としては,衣類や住宅構造,庶民のライフスタイル
といったことまでも大 きく作用すると考えられる。
このような広範囲な技術の変化は,生産財だけではな く一般的な消費財の普及や,それを 使用するための情報を提供する大衆的なメディアや流通 といったインフラ ・ス トラクチャー の変化まで含めて生 じる。そしてこれらの技術はまず,貿易を通 じて輸入された商品 (Com‑
modity)に体化された国外技術の獲得 といった形から始まると考えられる。
しかしながらこういったCommodity領域については技術史や生活史的に定性的に取 り扱 われて きた。経済学において技術のスピルオーバー効果 として主 に着 目されて きたのは
R&D活動 と経済成長の議論であ り,Romer以来のモデルにおいては民間企業の利潤動機に 基づ くR&D活動によりイノベーシ ョンが生 じ,これを成長のエンジン として とらえている
(Jaffe[6],Bayoumi‑Helpman[1],Coe‑Help血an[2]など)。技術進歩が生産効率に影響を 及ぼすことについては,それがすべてであるかどうかの議論は別にして,おおよその研究に おいては異論が無いもの と考えられる。 しかしエネルギー消費効率 も一種の生産効率に他な らず,技術進歩や生産効率水準 とCommodityに体化 (embわdy)された技術 との関係につ いては議論が尽 くされてはいない と考えられる。
ひとつの答えは,途上国が輸入するCommodityといえども過去のR&D活動の成果の蓄