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高岡仲行高岡仲行

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(1)

ビジネスの正統性とイノベーションドライブに向けた ステイクホルダーの統合様式:その正当化と組織化の次元

高 岡 仲 行

(2)

Abstract 

T h i s  p a p e r  c o n s i d e r s  t h e  r e l a t i o n  w i t h  t h e  s t y l e  o f  s t a k e h o l d e r  i n ‑ t e g r a t i o n  t o  t h e  c h a r a c t e r  o f  l e g i t i m a c y  o f  b u s i n e s s  and i n n o v a t i o n s .   I t  i s   t h a t  t h e  s t y l e  o f  s t a k e h o l d e r  i n t e g r a t i o n  m i g h t  i n f l u e n c e  t h e  c h a r a c t e r  o f   b u s i n e s s  a s  s u c h .   R e c e n t l y ,  i t   i s   t h o u g h t  t h a t  s t a k e h o l d e r s  g i v e  t h e   l e g i t i m a c y  t o  b u s i n e s s e s .  

However ,  t h e r e  a r e  two l o g i c s  t o  i d e n t i f y  s t a k e h o l d e r s .  T h e r e f o r e ,  t h e   c h a r a c t e r  o f  l e g i t i m a c y  g i v e n  t o  t h e  b u s i n e s s e s  i s   d i f f e r e n t  a c c o r d i n g  t o   w h e t h e r  t h e  r e l a t i o n  t o  what s t a k e h o l d e r s  i s  a s s u m e d .  Moreover ,  t h e  n a ‑ t u r e  o f  t h e  r e l a t i o n  t o  s t a k e h o l d e r s  i n f l u e n c e s  n o t  o n l y  t h e  l e g i t i m a c y  o f   t h e  b u s i n e s s e s ,  b u t  a l s o  t h e  c h a r a c t e r  o f  t h e  i n n o v a t i o n  t h a t  i s   p r o d u c e d   by t h e  b u s i n e s s e s .  

To  c 1 a r i f y  t h e s e ,  t h i s  p a p e r  e x a m i n e s  t h e  f o l l o w i n g  t h r e e  t a s k s ;  t h e   c o n c e p t  o f  l e g i t i m a c y  o f  b u s i n e s s ;  t h e  l o g i c  o f  i d e n t i f i c a t i o n  o f  s t a k e h o l

d e r s ;  t h e  way o f  s t a k e h o l d e r  i n t e g r a t i o n .  

F i n a l l y ,  t h i s  p a p e r  p o i n t s  o u t  t h a t  t h e  way o f  s t a k e h o l d e r  i n t e g r a t i o n   o r  o r g a n i z i n g  s t a k e h o l d e r s  i n f l u e n c e s  a  g i v e n  l e g i t i m a c y  and a  d r i v e n  i n ‑ n o v a t i o n s .  

Key words: s t a k e h o l d e r  i n t e g r a t i o n / i n v o l v e m e n t ,  s t a k e  a s  r i s k ,  s t a k e   a s  b o n d s ,  l e g i t i m a c y  o f  b u s i n e s s ,  i n n o v a t i o n  t y p e  and s t a k e h o l d e r  e n ‑ gagement 

1 節 は じ め に

近年ステイクホルダーを意識した経営が現代企業の必須のごとく語られる ように,社会的存在としての現代企業の役割は,現実にも理論的にも多様な ステイクホルダーとの複雑な関係によって規定される。

そもそもステイクホルダーとの何らかの関係形成はビジネスの必須であ

る。企業は単独では事業体としては業をなし得ない。 Poste t   a l .   ( 2 0 0 2 ) は ,

ビジネスとは法人もしくは組織という制度としての企業と多様なステイクホ

(3)

ルダーとのネットワークであるとさえ指摘している。また正統性を持たない 企業は制度としても組織としても存続できない。正統性を持たない企業にス テイクホルダーはその資源を積極的に投入し,関係を構築‑継続したりはし ないからである ( M i t c h e l le t  a l .   p .  8 6 4 ) 。すなわちステイクホルダーとの関 係形成はビジネスが成立し,存続する必要条件であり,企業の正統性がその 前提となる。そして多様なステイクホルダーの相互作用によって成り立つ社 会の期待に合致した役割を果たした企業にこそ,正統性が付与される。

しかしステイクホルダーとの関係形成はビジネスの成功や発展にとっては 十分条件ではない。成長や発展,そしてそのための競争優位の獲得にはビジ ネスへのステイクホルダーの巻き込み,もしくはビジネスにおけるステイク ホルダーの組織化のあり方を工夫しなければならない ( H a r tand Sharma  2 0 0 4 ,  p . 7 ) 。

たとえば企業にとって自己の権限が完全には及ばない領域にある資源の入 手可能性やコントロールはビジネスの効率や競争優位に多分に影響を与え る。さらに近年著しい,ビジネスセクターを超えたステイクホルダーとのパー トナーシップやコラボレーションは新しい企業の正統性やビジネスの成功の ルールの標準を産み出すきっかけにもなりつつある。そこでは失墜した企業 の評判を回復したり,社会的批判の隆起などの不確実性を事前に回避すると いう意図にとどまらず,相互学習やイノベーションの喚起が期待されている

(Heugens e t   a l .   2 0 0 2 ;  Johnson‑Cramer e t  a l .   2 0 0 3 ) 。

こうした巻き込み方や組織化の差異こそが競争優位の獲得やイノベーショ ンドライブを喚起し,ヲ│いてはビジネスのスタイルそのものを決定づけるの かもしれない。

このビジネスへのステイクホルダーの巻き込み,もしくはビジネスにおけ

るステイクホルダーの組織化の差異は,企業の主体的・戦略的なステイグホ

ルダーの統合 ( s t a k e h o l d e ri n t e g r a t i o n ) によって作り出される。このステ

イクホルダーの統合のあり方が,企業の正統性マネジメントを左右すること

(4)

になる ( S u c h m a n1 9 9 5 ;  D r i s c o l l  a n d  C r o m b l e  2 0 0 1 ;  B e a u l i e u  a n d  P a s q u e r o   2 0 0 2 ;   。 )

本稿は,ステイクホルダーの統合という企業による主意的なステイクホル ダーとの特定の関係様式がビジネスの正統性の獲得やイノベーションの喚起 にどのように関係しているのかを検討し,社会的存在としての企業の正統性 の獲得や創造とイノベーションドライブにつながるような,ステイクホル ダーエンゲージメントのあり方を明らかにすることを課題とする。

まず次節では本稿の考察の基盤となる企業の正統性概念を鳥敵する。組織 の正統性マネジメントを構想している Suchman ( 1 9 9 5 ) の見解に依拠して,

企業の正統性という概念の類型やそれが当該組織以外の社会によって付与さ れる,企業という存在やその行為に対する妥当性であるという基本的性質を 確認する。

次に 3 節ではステイクホルダー概念の隆盛によって,理論的に企業に正統 性を付与する主体が<社会>からステイクホルダーやそのグループの集合 に置き換えられつつあること,つまり企業の正統性マネジメントの一環とし てステイクホルダーへの応答のあり方が重要視されつつあることを指摘す る。しかしステイクホルダー概念は多義性を苧んでいる。したがって,どの ようにステイクホルダーを規定するか,またどのようなステイクホルダーと の関係から企業の正統性を考察するのかによって,想定される企業の正統性 の意味が大きく異なることを指摘する。

そして 4 節では,ステイクホルダー統合を企業の正統性マネジメントの一 環と捉え,伝統的なステイクホルダー統合の論理と,それとはパラドキシカ ルな論理を提唱する H a r ta n d  S h a r m a  ( 2 0 0 4 ) のステイクホルダー統合の構 想を対比し,社会的存在としての企業にとってのステイクホルダー統合のあ り方を検討する。その統合様式は単に受け身的な正統性の獲得だけではなく,

新しいビジネスの正統性の創造やイノベーションドライブの喚起にも関係し

てくる。

(5)

2 節企業の正統性概念の位相

企業もしくは組織の正統性という概念は,経営学の多様な文脈において,

パワーという概念と表裏一体の概念として用いられ,各論の企業理解や論考 を左右してきた ( M i t c h e l le t  a l .   1 9 9 7 ,  p p . 8 6 3 ‑ 4 . ;  Key 1 9 9 9 ,  p . 3 2 0 ;  A n ‑ d r i o f  a n d  Waddock 2 0 0 2 ,  p .  3 1)。にもかかわらず Suchman ( 1 9 9 5 ,  p .  5 7 3 )   は,正統性という概念は定義されるよりも,マジックワードとして記述され るだけの,暖味な概念でもあったと指摘する。

Suchman ( 1 9 9 5 ,  p p . 5 7 3 ‑ 5 . ) や B e a u l i e ua n d  P a s q u e r o   ( 2 0 0 2 ,  p  . 1 0 2 )   によると,それには,正統化(1 e g i t i m a t i o n ) という正統性構築プロセスが 大きく関わっている。企業の「正統性とは何か」という問題設定においては,

常に「何のための正統化か」という問題設定を伴うが,正統化の目的は一様 ではなく,故に企業の正統性という概念の意味の規定を困難にしてきたと指 摘する。

しかし Suchman( 1 9 9 5 ,  p . 5 7 3 ) は,その正統化という側面に着目し,企 業の正統性という概念の基本的な性質を以下のように規定している。かれは Maurer ( 1 9 7 1 ,  p . 3 6 1 ) の「正統化(1 e g i t i m a t i o n ) とは組織が同位システ ムもしくは上位システムに,当該組織が存在する権利を有しているというこ との妥当性を正当化(j u s t i f i e s ) しようとするプロセスである」むという指 摘から,①正統性概念が階層構造をもつこと,そして②自己正当化ではなく 文化的同調もしくは当該システムの外部との同調を必然、とすると主張する。

そして正統性という概念を「社会的に構成された規範,価値,信念,そして 規定の体系の中で,実体の諸行為が望ましく,適切もしくは妥当であると判 断 さ れ る 一 般 化 さ れ た 認 識 も し く は 仮 定 ( a s s u m p t i o n ) J と定義する ( S u c h m a n  1 9 9 5 ,  p . 5 7 4 ) 。つまり企業の正統性とは,正義に適い支持する に足る価値があるという,当該企業以外の第三者による判断であり,それが

注 l この ~aurer ( 1 9 7 1 ,  p . 3 6 1 ) の記述は Suchman( 1 9 9 5 ,  p .  5 7 3 ) からの引用に依る。

(6)

当 該 企 業 の 存 立 や 権 力 に 対 す る 社 会 に よ る 承 認 を 意 味 す る こ と に な る

( D o w l i n g  a n d  P f e f f e r  1 9 7 5 参照)。

さらに S u c h r n a n( 1 9 9 5 ,  p . 5 7 2 ) は企業の正統性研究には資源依存論と制 度化論の 2 つの伝統があると指摘する。資源依存論において正統性は,パワー 概念と一対になった,操作可能な認知的資源と位置づけられる ( S u c h r n a n

1 9 9 5 ,  p p . 5 7 6 ‑ 7 . ) 。それを物的資源を獲得・蓄積するための基礎資源と捉 える ( S l a n c i ka n d  P f e f f e r  1 9 7 4 ) 。ここでは伝統的にパワーは一般に P f e f f e r

( 1 9 8   , 1 p . 3 ) がいうように,他者に自己が望む何かをさせる能力や影響力 と規定され,諸資源の保有をパワーの源泉と捉える。したがって当該組織が 必要としている諸資源をコントロールしている主体にパワーが蓄積すると考 える。ここでは資源やそのコントロールをめぐるパワーを獲得することが正 統化の目的となる。しかもその正統性は当該組織のコミュニケーション戦略

によって変化する。

それに対して制度化論においては,正統性は社会的に構成された信念とし て捉えられる ( S u c h r n a n1 9 9 5 ,  p p . 5 7 6 ‑ 7 . ) 。ここでは正統性とは社会的善 を判断する広く共有された認識と規定されるので ( S u c h r n a n1 9 9 5 ,  p . 5 7 4 ) ,  その認識を得るに合致する特徴を備えた,外部の制度に同調すること,その 制度の備えた特徴と同形化することが正統化の手段になる ( B r u r n r n e r1 9 9   , 1

C h a p .   , 7 ; スコット 1 9 9 8 参照)。ここでの正統化の目的は,既に正統性を認 められた上位のシステムに,下位システムである企業が同形化することによ る,当該組織の存立基盤の確保であり,その欠如は当該組織の淘汰を意味す る ( M i t c h e l le t  a 1 .   1 9 9 7 ,  p . 8 6 4 ) 。

S u c h r n a n   ( 1 9 9 5 ) は資源依存論や制度化論を中心とした論者の見解の考

察から,企業の正統性という概念の基本的な型として 3 つの正統性概念を

示している。それらは ( 1 ) 実利的正統性, ( 2 ) 道徳的正統性,そして ( 3 ) 認知的正

統性である。また各正統性にはそれぞれサブタイプがあり,図 1のような正

統性概念の構成を指摘している。

(7)

出典: S u c h m a n   ( 1 9 9 5 ,  p p .   5 7 3 ‑ 8 5 . ) より作成。

図 企 業 の 正 統 性 概 念 の 構 成

各正統性概念の構成やそれぞれの特徴などは以下の通りである。

( 1 )   実利的正統性:これは当該組織とかかわりのあるステイクホルダーによ る利己的な評価に基礎づけられ,付与される妥当性を意味する C S u c h m a n 1 9 9 5 ,  p . 5 7 2 ,  p . 5 7 8 ) 。そのかかわりの範囲としては大きし直近関係と 社会的相互依存関係の領域がある。前者は直接的な経済的交換関係にある 関係者であり,後者は当該組織とそれよりも上位の社会諸システムの領域

(社会的,政治的,経済的領域)との聞の相互影響を指す。

ここでの正統性は当該組織のある活動が,組織の正統性の評価者たる交 流関係主体に便益を与えるかどうか,それを便益と認識するかどうかにか かっている。

ごの関係領域の違いから,実利的正統性は以下の 3 つのタイプに細分化

される C S u c h m a n1 9 9 5 ,  p p .  5 7 8 ‑ 9 . ) 。

(8)

‑交換の正統性:これは直接的な財物の取引関係(直近関係)において,当 該組織のステイクホルダーが,その組織にインプットを投入する際に抱い た期待に見合う対価を当該組織が提供した場合に付与される正統性を意味 する。 S u c h r n a n ( 1 9 9 5 ,  p . 5 7 8 ) は交換の領域が直接的な経済取引に限定 される場合,そこでの組織の正統性規定は実利的なパワー依存関係に変形 すると指摘している。

‑影響の正統性:これは相互影響の領域に相当し,領域が広範であるため,

交流の存在は経験的に導きだされ,具体的な交流関係者を必ずしも想定し ない。ここでは組織と具体的なステイクホルダーとの間での便益に基づく 評価ではなく,当該組織が相互影響しあう,より上位システムの利益(た

とえば社会福祉の向上など)に資する存在であり,それを志向していると いうことを前提に,組織の行為が上位の社会に好影響を与えている,つま り先の前提を充たしていると評価される場合(功利的であるとの判断に近 似),直接的な関係を有さない一般評価者としての社会によって正統性を 認められる,と考える。

‑処遇の正統性:この正統性の評価基準は,組織が明確な配慮をしているの かどうかに価値を置く。ここでは組織を自然人と同様,道徳的に責任ある 行為主体と捉える。したがって組織の特定の行為が社会的善に適ったもの であるかどうかの,社会の判断が当該組織に正統性を認める条件になる。

善悪の判断は極めて文化や規範に左右されるため,この正統性は次の道 徳的正統性とも深く関わる。

( 2 ) 道 徳 的 正 統 性 : こ の 正 統 性 は 当 該 組 織 の 位 置 す る 社 会 の 向 社 会 的 ( s o c i o t r o p i c ) または親社会的 ( p r o s o c i a l)な規範と照らして,組織とそ の諸活動が評価される結果付与される。すなわち当該組織の諸活動が効果 的に社会福祉を促進するかどうかに関する信念によって評価される。

この類の正統性と処遇の正統性の区別は前者が社会的善へのコミットは

必然で目的であるのに対して,後者は正統性を獲得する手段としての意味

(9)

合いを持つ点にある。

道徳的正統性の構成は以下の 4 つに細分化される C S u c h m a n1 9 9 5 ,  p p .   5 7 9 ‑ 8 2 . ) 。

‑結果としての正統性:これは当該組織の成し遂げた成果が社会規範と照ら して妥当かどうかによって評価される。つまり社会構成者による当該組織 の活動結果の産物の社会的有効性を判断の中身とする。

‑手続き上の正統性:これは結果としての正統性とは対照的に,結果の有用 性だけではなく,プロセスの妥当さを重視する。つまり,組織の特定の活 動が社会的に受容される<正しい>手法や手続きに則って行われたかどう かを判断の基準にする。結果如何ではなく,少なくとも適切な手段や手順 に則ろうとする努力が重視されるのは,全ての結果やその成果が必ずしも 常に明確になるとは限らない,という前提に立つからである。いくら結果 が価値あるものでも,それを得る過程の諸活動が社会的規範と合致しない 場合もあり,この正統性は過程における行為の妥当性を正統性の要件とし て重視する。

‑構造的正統性:これは特定の社会システムにおいて,その社会システムで 妥当と見なされている形態的もしくは可視的な諸要件を,下位システムと しての当該組織が備えていれば,その存在が道徳的に正統性を持つと推察 されることを意味する。これは制度化論でいう同形化と同義である。つま りアプリオリに道徳的に妥当であるとの信頼を得ている制度と当該組織が 構造的に同形であるとアイデンティフィケーションされる要件が備わって いるかどうかが正統性の付帯(承認)を左右する注 20

‑個人的正統性:これは組織そのものではなく,組織のリーダーのカリスマ 注 2 手続き上の正統性が個別の組織の中の無数の活動の内の個別の行為を対象にするの

に対して,構造的正統性は,個別組織の全体の形状,一定期間の一連の活動全体を対象

にする。したがって個別の組織ではなく,たとえば株式会社という形態をとる法人はそ

の制度において想定されている構造的要件を備えているかどうかによって,正統性の有

無が判断される。

(10)

性に由来する正統性を意味する。つまり個人の行いの波及,その個人への信 任の増幅に依存する。

これら 4 つの道徳的正統性はおおよそ,ウェーバーの正当な権限の議論 と対応している。結果的正統性や手続き上の正統性は共に法的合法性の権 限と符号し,前者は(特定の目標を追求することに基づいた)手段合理性 を,後者は(適切な行動のルールと合致することに基づいた)価値合理性 を正統性の本質としている。構造的正統性は伝統的な権限と符号し,権力 の行使に足るものとしての行為者の長年に渡る指示 ( d e s i g n a t i o n ) に基 づいている。そして個人的正統性は,カリスマ的権限に相応している。

( 3 )   認知的正統性:実利的正統性と道徳的正統性が利益関心に基づく便益的 か,規範的に妥当とされるものとの整合性の違いはあるものの,特定の行 為者・観察者による評価を判断基準としていたのに対して,この認知的正 統性は,正統性が社会的に蓄積された経験の意味づけによって,ある種ア プリオリにもしくは瞬時に振るいに掛けられる。すなわち前二者が評価的 な承認としての正統性であったのに対して,ごれは経験的事実に基づいて 当然のこととして鵬に落ちること,もしくは落ちるという中で感覚的に知 覚している意味のことを指す ( S u c h m a n1 9 9 5 ,  p .  5 7 5 ) 。

したがって,認知的正統性は言葉にされない正しさを判断するためのス キーマと必然的にもしくは暗黙の内に関係している ( S u c h m a n1 9 9 5 ,  p .   5 8 5 ) 。

この正統性の構成もしくはタイプとして以下の 2 つが指摘される。

‑了解に基づく正統性:ここでは世界を混沌とした認知的環境として捉える

ことを前提とする。正統性は組織やその活動を理解するのに妥当な説明を

もたらす,文化的モデルの有用性に起因すると考える。すなわち,特定の

組織の活動を正統であるとセンスメイクする聴衆はその際に,みずからの

(11)

諸経験を凝集性のある理解可能な説明に調整する結果,自らのスキーマの 中でその行為が理解され,納得がいくという認識の中で,正統性があると いう判断を下す C S u c h m a n1 9 9 5 ,  p .  5 8 2 )

3 。

‑当然性に基づく正統性:ここでいう当然性とは問主観的な既成事実を意味 する C S u c h m a n1 9 9 5 ,  p . 5 8 3 ) 。了解に基づく正統性が比較的相対的な関 係での意味の了解を対象にしていたのに対して,この正統性は,その意味 が集合性を呈していることを特徴とし,制度として埋め込まれた意味との 整合が重要になる。すなわち個人の経験ではなく,社会もしくは集団に共 有されたスキーマがセンスメーキングの土台となる。そして制度の作り手 の意図が当然性の具体に影響を与えている。構造的正統性が善悪や規範的 な成否であったのに対して,これは善悪ではなく,認知的な外見性や客観 性を介して,特定の行為のその社会における意味の妥当性によって正統性 を判断する C S u c h m a n1 9 9 5 ,  p . 5 8 3 ) 。

さて Suchrnan ( 1 9 9 5 ,  p p . 5 8 4 ‑ 5 . ) に よ れ ば , こ れ ら 3 つ の 正 統 性 の 型 は 以 下 の よ う に 特 徴 づ け ら れ る 。 実 利 的 及 び 道 徳 的 正 統 性 は 正 統 化 の 要 件 と し て ス テ イ ク ホ ル ダ ー の < 評 価 > と い う 判 断 を 必 要 と す る 。 実 利 的 正 統 性 は 費 用 対 効 果 的 も し く は 功 利 主 義 的 な , そ し て 道 徳 的 正 統 性 は 倫 理 的 な 判 断 に 基 づ く 評 価 に よ っ て 企 業 の 正 統 性 が 正 当 化 さ れ る 。

し か し 認 知 的 正 統 性 は , 言 葉 で は 表 現 さ れ に く い 妥 当 さ を 判 断 す る ス キ ー マ を 暗 黙 の 前 提 と す る の で , 評 価 と は 異 な る ニ ュ ア ン ス に な る 。

注 3 これは共感という感覚に,もしくはその中で起こる心的な同一化に,近似している

といえるのかもしれない。同じ体験をしたもの同士は,その経験を体験したことの享楽

や苦悩などを一瞬にして察することができる。またその経験後にどういった行動を起こ

すのかを予測できるし,それが,たとえばその経験から得た症状を緩和するのに有効

(妥当)かいなかを判断できる。また経験を共有していない場合,未経験者は経験者と

の対話から,経験者の中で構成されたスキーマを自らの中に疑似形成し,心情を察する

ことができる。セラピストやカウンセラーがクライアントの治療の中で,善悪の判断で

はなく,あるクライアントの行動やその心情を理解し,察する中で体験する合点のよう

な了解である。共感という概念に関しては,ディピス著,菊池章夫訳[1 9 9 3 J ~共感の社

会心理学~ J I I 島書庖を参照。

(12)

また道徳的及び認知的正統性はその必然として,当該組織を凌駕した文化 的もしくは規範的なルールとの照合を伴うのに対して,実利的正統性は主と

して,直接交流のある関係者間の相互利益に依存する注 4 。

3 つの正統性はその妥当性の判断が評価という性質かどうか,しかもその 評価基準が損得であるのか善悪であるのかが異なり,さらに,評価者が特定 の具体的な関係者か,不特定多数を代表する観察者もしくは社会かによって,

正統性概念が区別される。また正統性を操作可能な資源と捉えるか,つまり 正統性を得ょうとしている当事者の操作可能性を認めるか,あくまでも当事 者以外の外部への適応的同調の範聞で捉えるかなど,正統性獲得の手段性に

は相違がある。

しかし正統性概念の基本的特質である自己正当化ではなく,何らかの社会 という参照軸を要する点では共通する ( B r u r n r n e r1 9 9 1 ,  p p . 7 3 ‑ 7 . ) 。さら にそこでは実利を善悪を基準には判断しないように,妥当視される企業の正 統性の質とその参照軸となる評価者たる社会やその構成主体との関係の質は

同質であることを想定する。

3 節 ステイクホルダー概念の位相

3  ‑ 1  i 企業と社会」論における正統性概念の位相

社会が企業に正統性を付与するという構図を取りながら,その構図にステ イクホルダー概念を積極的に媒介させ,理論的な精級化を図ってきたのが,

「企業と社会」論を枠組みとする諸理論である。

たとえば企業の社会的責任論 ( c o r p o r a t es o c i a l  r e s p o n s i b i l i t y ) は , CSR1  と呼ばれるが<責任>という概念を介在されることで,企業の正統性と権

注 4 Suchman  ( 1 9 9 5 ,  p . 5 8 5 ) によれば,実利的正統性から道徳的正統性,そして認知的 正統性に移行するに伴い,正統性概念は複雑さを増し,捉えどころがなくなると同時に,

操作化することが困難になるという。

(13)

力(パワー)の問題を説明してきた。 CSR1 は企業を権力主体と捉え,現代 企業が権力の源泉でもある,その資源(財物,技術力などなど)の蓄積とコ ントロールの点で,他の社会制度よりも強大な影響力を持つが故に,その権 力に見合った責任を果たさなければならない,という考え方を提唱してきた。

つまり企業という制度が権力に見合う責任を社会に対して果たした時に,正 統性が付与されると考えるのである (McGuire1 9 6 3 ,  p . 1 4 4 ;   D a v i s  1 9 7 3 ,  p .   3 1 4 ;   Brummer 1 9 9 1)。そこで重視されるのが社会契約やモラルエージェン

トいう概念であった。

CSR1 においては,制度としての企業(株式会社法人)は,社会の期待に 応え,権利主体として自然人と同等の義務を負い,社会秩序に関する規範を 遵守・尊重し,そうした考えの経営を実践することを受託責任者としての経 営者に求めることが,社会に対する責任を意味するが ( A n d r i o fand Wad‑

dock 2 0 0 2 ,  p p . 1 9 ‑ 2 2 . ;  Logsdon and Wood 2 0 0 2 ,  p p . 1 5 7 ‑ 8 . ) ,この社会に 対する責任という構想は,制度化論でいう同形化を意味することになる。そ

して企業権力の保持とそれによる発展が正統化の目的となる。

また個別の企業組織一般が,その正統性をいかに獲得・維持するのか,そ のための管理のあり方を議論するのが,企業の社会的応答論 ( c o r p o r a t es o

c i a l  r e s p o n s i v e n e s s ) である。これは CSR2 と呼ばれている。たとえば S e t h i

( 1 9 7 5 ) は,企業の正統性には制度としての次元だけではなく,行為のそれ

もあることを示唆する。かれは正統性ギャップという表現で,企業の正統性

をめぐる諸問題は,企業行動に対する社会の期待と実際の企業行動に対する

社会の認識との聞にズレが生じた場合に発生するという ( S e t h i1 9 7 5 ,  p . 6 0 ;  

M a t t i n g l y  and G r e e n i n g  2 0 0 2 ,  p . 2 6 9 ) 。またかれは企業の社会的パーフォー

マンスを普遍的に評価する基準はなく,それは常に文化的な制約を受け,時

限的でもあると指摘する。この点で企業の正統性を制度化論的に捉え,様々

な社会的要請や批判への応答という形での同調(社会への適応)を提唱する

のである。

(14)

しかし,その応答のあり方を構想する際に,かれは企業の行為の正統性を 資源依存論的な操作可能な資源と捉える ( S e t h i 1 9 7 5 ,  p . 6 0 ) 。当然ここで の正統性をめぐる企業と社会のズレを解消する,つまり正統化の意図は企業 権力の維持を目的に想定する。

制度化論や CSR1 は制度としての企業のあり方,その妥当性を規定するこ とを議論の主題とするのに対して,資源依存論や CSR2 は基本的に個別の企 業組織の正統性とその獲得や維持をめぐる方法を議論の主題とする。制度化 論でいわれる同形化は,正当な要件を備えた同種体の模倣であり,正統性を 獲得する方法に関する示唆であるが,その正統性を判断する基準は社会的コ ンテクストに依存する。したがって CSR1 や CSR2 においても,企業の正統 性とは,企業という制度や組織,そして行為の妥当性に関する判断を意味す

る。そこでは必ずある種の社会という参照軸が想定されていた。

この CSR1 や CSR2 の理論的な精微化に貢献したのがステイクホルダー概 念である。そもそもステイクホルダーという捉え方が,これらの枠組みの諸 理論において頻繁に援用されたのは,ステイクホルダーという捉え方が,企 業が負うべき責任対象の把握や,そのための応答対象及び管理のあり方を具 体化し,その手順を一般化することに寄与すると考えられたからである。た とえば A l k h a f a j i ( 1 9 8 9 ,  p .  3 6 ) は,ステイクホルダーとは企業が責任を負 うべき集団であり,ステイクホルダーへの応答が企業責任を果たすこと,し たがって企業権力に対する正統性の承認になることを示唆する。

ステイクホルダー概念を援用して,この CSR1 や CSR2 を精徽化しようと

したのが C l a r k s o n ( 1 9 9 5 ,  p  . 1 0 3 ) の<ステイクホルダー問題>への対応と

そのパーフォーマンスの管理を課題としたステイクホルダーマネジメントモ

デルである。それは社会的責任をより効率的,効果的に果たすための経営資

源の配分枠組みと位置づけられ,社会的責任とはステイクホルダーグ、ループ

に対する特殊な責任と定義される ( C l a r k s o n 1 9 9 1 ,  p . 3 4 5 ) o そこでかれは

企業の社会的責任をより効果的に遂行するために,社会問題への応答という

(15)

発想を放棄し,ステイクホルダー問題という分析次元を設定する。企業がそ の正統性の堅持のために対処すべき諸々の社会問題や要請は根本的にはステ イクホルダーの活動や結びつきに起因すると考えたからである ( N a s ie t   a 1 .   1 9 9 7 ,  p . 2 9 8 ) 。そしてそれに対処することを社会的責任の遂行・管理と同 義と位置づけたのである。

C 1 a r k s o n   C 1 9 9 8 b ,  p p .  2 5 4 ‑ 6 . ) によると,社会問題とステイクホルダー問 題の差異は突き詰めれば,前者が法的な規制のある項目に関係する問題であ り,後者は立法化されていない,社会的な問題というように区別される注 50

そこでかれはステイクホルダーグ、ループごとに,ステイクホルダー問題の細 目を設定し,それをステイクホルダーマネジメントの管理項目とし,そ の各項目に対する社会的パフォーマンスの高低を社会的責任の遂行度の善し 悪し(高低)とした ( C 1 a r k s o n1 9 9 8 b ) 。たとえばステイクホルダーとして,

従業員,株主,顧客,供給業者,そしてパブリックステイクホルダーという グループを設定し,かっその企業自身をも利害調整の対象として,法人とい

う項目をも設定する。そして従業員というステイクホルダーグループに関し ては,キャリアプランニング,雇用・昇進上の公正,デイケアープログラム など 2 0 項目,顧客に関しては,製品の安全性,コミュニケーションなど 6 項

目をステイクホルダー問題として設定している注 60

注 5 ただし,かれのステイクホルダー問題のリストには,社会問題と思われるものも含 まれている。例えば従業員というステイクホルダー問題群の中には,雇用上の平等な取 り扱い,職場の健康と安全に関する問題,さらに顧客というステイクホルダー問題群の 中には,製品の安全性という項目があるが,これらに関する法制度は当然ながら北米に はある。

注 6 C l a r k s o n   ( 1 9 9 5 / 1 9 9 8 ) がステイクホルダー問題という次元の設定に拘る背景には,

実証研究とのからみがある。社会問題という設定では,何が社会問題でなにがそうでな

いのかを判定しにくい。それでは企業の社会的パーフォーマンスに関するデータを測定

したり,またクラスター化して,ステイクホルダーへの対応,それは根本的には社会的

責任の遂行は経済的にもベイする,ということ,つまり経済的パーフォーマンスと社会

的パーフォーマンスとの因果関係を実証的に検証することができない,との判断に基づ

いていると考えられる。

(16)

このステイクホルダー問題への対応という発想は,ステイクホルダー概念 を単に責任を果たしたり,そのために応答すべき具体を特定するためではな く,ステイクホルダーへの応答の仕方やその要望などを意思決定に統合する ことが,企業の正統性マネジメント(獲得や創造及びそのための操作)にも 寄 与 す る と い う 着 想 を も 喚 起 す る こ と な る 。 た と え ば Beaulieuand  P a s q u e r o   ( 2 0 0 2 ,  p . l 0 2 ) は企業の正統性とはステイクホルダーによって付 与される資源であると断言し, D r i s c o l l  a n d  C r o m b l e   ( 2 0 0   , 1 p .  4 6 3 ) は企業 の正統性マネジメントの一環としてステイクホルダーの正統性マネジメント の必要性を主張する。

こうした見解の背景には,ステイクホルダーという存在が,企業との関わ りに何らかの利害の正統性をもっていることを理由に特定されることが関係 する。正統性をもったステイクホルダーの集合的な要望に応答することが,

既に正統性を付与された対象への同形化であるかのように解されるのであ る。つまり正統性をもったステイクホルダーとの関係形成もしくは統合によ る,かれらの承認が企業の正統性の確保につながるという構図である注 70

しかしステイクホルダー特定の鍵となる,ステイクホルダーの正統性もし くは企業との関わりにおける利害の正統性は,極めて多義的であり,どのよ うなステイクホルダーとの関係を企業の正統性マネジメントの参照軸とする かによって,獲得もしくは承認される企業の正統性の性質が大きく異なるこ

とになる。

3  ‑2  ステイクホルダー分析の論理とくステイクホルダーの正統性>の多義性

そもそもステイクホルダーとは,経済活動の領域のみならず社会的,政治 的,文化的,そして自然的な領域において,ビジネスという企業の行為全体

注 7 しかしそこでは単にステイクホルダーの要望に同形化するというよりは,諸ステイ

クホルダーとの資源依存関係を調整することで,操作性を多分に持つ ( D r i s c o l land 

C r o m b l e  2 0 0 1 ) 。

(17)

に何らかの関わりを持ち,その関わりに正当な利害を認めらるが故に,ステ イクホルダーとして峻別される関係もしくは行為主体と捉えられる ( C a r ‑ r o l l  and B u c h o l z  1 9 9 9 ,  p p .  7 4 ‑ 8 8 . ;  Waddock 2 0 0 2 ,  p . 3 6 参照)。

企業環境構成主体一般からステイクホルダーを峻別し,そのステイクホル ダーが企業に対してどのような影響をもっているのかを検討するのが,ステ イクホルダー分析であり,そのステイクホルダーそれぞれの特性に応じて,

その管理のあり方を議論するのがステイクホルダーマネジメントである ( C a r r o 1 1 1 9 9 3 ,  p p . 6 0 ‑ 2 .   ;  H a r r i s o n  and S t .  John 1 9 9 8 ,  p . 1 4 ) 。

こうしたステイクホルダーの分析や管理を展開する基盤になるのが<ス テイクホルダーの正統性>と<ステイクホルダーのパワー>という 2 つの基 準である ( M i t c h e l le t  a 1 .   1 9 9 7 ,  p p . 8 6 2 ‑ 5 ;  A n d r i o f  and Waddock 2 0 0 2 ,  p .   7 ) 。ステイクホルダーの正統性とは,環境構成主体一般の内で,企業との関 わりにおいて正当化され得る利害を有していることを指す。そしてステイク ホルダーのパワーとは,行為者の企業に対する影響力を意味し,それは企業

目的の達成や活動への直接的な影響力と経営者や社会の注目を喚起する影響 力に分けられる(乱1 i t c h e l 1 e t   a l .   1 9 9 7 ,  p p .  8 6 3 ‑ 4 . ) 削。つまり企業と特定 の行為者聞の力関係を意味する注 9 。

ステイクホルダーの特定段階において,この 2 つの基準が複雑に作用しあ い,利害を正当化する要件(条件)は多岐に及ぶ。しかし利害を正当化する 次元は機能次元と意味次元の 2 つに大別される。前者においては企業がステ イクホルダーに依存(ステイクホルダー優勢)するか,ステイクホルダーが

注 8 次節で詳しく触れるが, Mitche l 1   e t   a l .   ( 1 9 9 7 ,  p .   8 6 7 ) は,この経営者や社会の注 意を喚起する力を<緊急性>と捉え,ステイクホルダー分析/マネジメントのより実効 的な展開のための第三の基準に設定している。その緊急性は時間敏捷性と臨界性という 要素から構成されると指摘する。

注 9 したがってステイクホルダーとは,そう峻別された時点で,論理的には正当化され

得る利害と企業に対する何らかの影響力を有しているという認識を前提にするので,ス

テイクホルダーの正統性やパワーという表現は厳密には適切ではない。

(18)

企業に依存(企業優勢)するというパワーの作用形態が,後者においては相 互影響というパワーの作用形態がステイクホルダーの特定における<ステイ クホルダーのパワー>の表れとなる。

機能次元における利害の正当化は ( a ) < リスクとしての利害>,意味次元に おけるそれは ( b ) < 紐帯としての利害>という論理を正当化の論拠とする注 1 0 0

以下ではそれぞれの論理を簡単にまとめてみよう。

( a )   <リスクとしての利害>/機能次元における利害の正当化

C a r r o l l  and B u c h h o l z   ( 1 9 9 9 ,  p p . 7 4 ‑ 8 8 . ) はステイクホルダーを特定する 4 つの要因を指摘している。それらは i )利益関心Ci n t e r e s t ) ,  i i ) 共同所 有物に対する共同所有者各自の分割的権利としての持分, i i i ) 諸権利に基づ く請求権,そして i v ) 財産権に基づく法的請求権,である。また Andrioi and VVaddock  ( 2 0 0 2 ,  p . 3 2 ) は図 2 のように,ステイクホルダー特定の構 図を指摘する。 i )から i v ) の要因を充たすのが,つまり利害を正当化する 根拠が図 2 の( 1 ) の契約や( 2 ) の交換・取引という関係の存在であったり,そう

出典: A n d r i o f = W a d d o c k  ( 2 0 0 2 ,  p .   3 2 ) に加筆修正して作成。

図 2 :ステイクホルダー分析の基準と諸要件の構成

注 1 0 V V a d d o c k  ( 2 0 0 2 ,  p p . 7 ‑ 8 . ) は主として①請求権としての利害 ( S t a k ea s  c l a i m )   ,② 

<リスクとしての利害> C S t a k e  a s   r i s k )   ,そして③<紐帯としての利害> C S t a k e  a s   b o n d / t e t h e r ,  t i e ) という 3 つの利害の正当化の論理もしくは次元を指摘している。そし

てこれらの利害が産み出した④関係性としての利害を提示しているが,ここでは彼女の いう請求権としての利害と関係性としての諸利害を<リスクとしての利害>と<紐帯

としての利害>にそれぞれ分割して包含している。

(19)

した関係を秩序化/調整づける, ( 3 ) や( 4 ) の制度化された法的・道徳的な権利 である,というのである。

しかし図 2 ではステイクホルダーの正統性とパワーとの関係が不明確なま まであり,かつ, ( 5 ) のリスクの享受が, ( 1 ) か ら ( 4 ) とは同次元に並列な利害の 正当化の根拠と位置づけられている。

ステイクホルダーの特定もしくはステイクホルダーの正統性の多義性を解 く鍵が,このリスクの享受という考え方である。 C l a r k s o n C l 9 9 8 a ,  p . 8 ) は , ( 5 ) にあるように,自己の所有する財物の投下に伴う<リスク>を自発的に享 受するという意志こそが契約や交換・取引など異なる側面で捉えられる利害 の正当化に通底する共通の基盤であり,ステイクホルダーを特定する基準の 本質であると主張する。そしてリスクを享受しているかどうかが,諸々の請 求の権利の基盤であるとする。このリスクの自発的な享受によって利害が正 当化される,つまりステイクホルダーに特定されるのは,財物や資金,そし て労働力や専門能力及びノウハウなどの物的,金融的,人的・知識的資本の ような資源を企業との間でやり取りしている関係(者)ということになる

C C l a r k s o n  1 9 9 8 a ,  p . 2 ) 。

一方で C l a r k s o n ( 1 9 9 8 ,  p . 8 ) はリスクの享受には非自発的/結果的享受 があると指摘している。非自発的リスクとは,企業活動の意図せざる結果と して,損害や悪影響を被ってしまった関係者を対象とする。自発的にリスク を享受し,財物を企業との間でやり取りする関係者は,企業やビジネスの存 続にとって欠かすことができない不可欠な資源を提供する。こうした,いわ ゆる一次的ステイクホルダーは,主として経済主体であるが,諸々の権利を 行使して,利害(の正統性)を主張しなくとも,企業側から主体的な配慮を 得る存在となる。ビジネスがステイクホルダーの継続的なコミットを,つま り資源投入を得られない限り存続できない以上,こうしたステイクホルダー は企業との力関係において<ステイクホルダー優勢>という立場にあるこ

とになる。

(20)

それに対して企業活動によって,結果的にリスクを享受した関係者は,事 後的にリスクの享受という利害の正当性が認定される。しかし損害の回復や 補償を求める権利をもっ,つまりステイクホルダーとして特定されることに なる。

ところが,その利害が自発的なリスクの享受者と同等に企業側に十分に考 慮されるかどうかは,特定されるステイクホルダーの影響力に多分に依存す る。法的な諸権利を行使しでも,その要求が聞き入れられるかどうかは企業 との力(資源依存)関係に多分に依存する。よって非自発的/結果的リスク の享受者と企業との関係は<企業優勢>を一般的な関係に想定できるのかも しれない。

( b )   <紐帯としての利害>/意味次元における利害の正当化

VVaddock  ( 2 0 0 2 ,  p p .   7 ‑ 1 0 . ) は,社会資本,価値観や意味のやり取りに おける相互影響,そしてそれらにおける心理的な相互影響を,利害を正当化 する基盤に据えて正当化される利害を<紐帯としての利害>と捉えている。

この正当化の次元では図 2 の(3)や( 4 ) ,それに i i i ) の諸権利に基づく請求権な どは,経済的な権利というよりは,社会秩序や関係を維持・調整するための 倫理的な権原やつながりを,正当化の要件(条件)とする傾向を強くする。

たとえば Evanand Freeman  ( 1 9 8 8 ) や Donaldsonand Dunfee  ( 1 9 9 4 ) は社 会契約を, Hopkins  ( 1 9 9 9 ) は地球契約を,そして M i t r o f f ( 1 9 8 3 ) や S t a r ‑ i k   ( 1 9 9 4 ) ,  V V i c k s  e t  a l .   ( 1 9 9 4 ) は,ヒトとしての意識や価値観,心的な交 流をも交換する資源もしくは相互影響の対象物として,ステイクホルダー

(の範囲)を特定づけようとする。

社会契約という概念は,企業の諸活動と社会の諸目標を合致させるための

媒介概念と位置づけられ,企業の正統性を規定する参照軸とされてきた

( V V a r t i c k  and Cochran 1 9 8 5 ,  p . 7 5 9 ) 。それは一般には社会秩序を構築する

ための協定であり,企業との関係では,法人としての企業が自然人と同様の

権利の付託と引き替えに社会に対して果たすべき義務や,役割に関する社会

(21)

の期待であり,その義務が法制度や社会・文化的なルールに埋め込まれてい ることを想定する (Brummer1 9 9 1 ;  A n d r i o f  a n d  Waddock 2 0 0 2 ,  p p . 2 1 ‑ 2 . ) 。

また H o p k i n s ( 1 9 9 9 ) は,社会契約を越えて,地球契約 ( p l a n e t a r yb a r ‑ g a i n ) という概念を想定する。社会契約という概念は,生きている人間実在

を対象にするだけで,それ以外を除外することを批判する。そして,エコロ ジーという共通土台での相互連関的な<つながり>を根拠に,地球契約とい う概念を提起し,人間以外の生命体や自然環境までをも考慮されるべきステ イクホルダーに包含しようとする。

さらに,主観的な価値観や心的交流をも交換・取引の対象に包含するとい う考え方に関しては,ケアーの倫理 ( e t h i co f   c a r e ) やつながりの倫理 ( e t h i c  o f   c o n n e c t i o n ) という概念が提起される。一般に,近代西欧合理主 義における倫理や道徳は独立した個人の自由を担保するためのルールであ り,自己と他者は切り離された存在であることを前提とするのに対して,ケ アーやつながりの倫理は,自己という概念を他者とは切り離せない関係のネ ットワークに位置づける。つながりの倫理は人間の私的な領域におけるコミ ュニケーション関係の中で生まれる自然な思いやりや配慮によってつながっ た紐帯関係,そこでの身体的な交わりを通じた感覚的な相互理解や経験に蓄 積された意味が正統性を判断する要件(正当化の基盤)になる ( W i c k se t   a 1 .  

1 9 9 4 ,  p . 4 8 4 ) 。

こうしたステイクホルダー特定の論理は,一見無際限で,無意味に思える かもしれないが,以下のように整合づけられる。ここで企業とステイクホル ダーという行為者相互に影響を与える交換物として想定される資源は,信頼 や倫理観などの社会資本としてのモラルリソースである ( A n d r i o fa n d  Wad‑

d o c k  2 0 0 2 ,  p p . 2 7 ‑ 3 0 . ) 。このモラルリソースとは,もともとはハーシュマ

ンによって提起されたものであるが,誰かが使うことで,その供給量が減る

のではなく逆に増えるような,そして使わなければ朽ちていくような資源と

定義され,信用による協働 ( c r e d i tc o o p e r a t i v e ) や相互信頼などがその具体

(22)

として指摘されている (Putman 1 9 9 3 ,  p  . 1 6 7 ;   A n d r i o f  and Waddock  2002 ,  p.28 ,  p.40) 。

S t a r i k   ( 1 994 ,  p .  9 2 ) は既存のステイクホルダー像は,政治的・経済的領 域の人間実在に限定される傾向にあるが<影響一被影響>という要因がス テイクホルダーを認める利害の正当化の理由になるのであれば,人間(経営 者)が精神世界において,心的に意識の交流をする対象(人間以外の生命体,

非生命体,人工作為物)や自然環境すらも,かれらの決定や行動に影響を与 えるという理由でステイクホルダーで足り得る,ということを主張する

( S t a r i k   1994 ,  pp.94‑5.)o  S t a r i k   ( 1 9 9 5 ) は自然環境は人間主体という存 在ではないが,原材料の生産・供給という役割を担う点でまさに企業の存続 に間接的ながら,しかし根幹として影響を与えうるし,自然の神秘性が経営 者や社会の意識性に影響を与え,それが企業戦略を左右するのであれば,相 互影響の対象に,したがって利害の正統性を認めるに足ると指摘する注 1 1 0

この<紐帯としての利害>という正当化の前提として,企業とステイクホ ルダーとして認定される行為者との間に,特定の価値や意味を了解し,相互 に尊重することを妥当視するスキーマの共有を要することなる。

3  ‑3  ステイクホルダー思考の特性

ステイクホルダーを特定する 2 つの利害化の論理は,必ずしも同じ枠組み において活用されるわけではない。ステイクホルダー概念を援用する思考の 様式には大別して,包含的ステイクホルダー思考Ci n t r i n s i cs t a k e h o l d e r   t h i n k i n g ) と戦略的ステイクホルダー思考 C s t r a t e g i cs t a k e h o l d e r  t h i n k i n g )  

注 1 1 C r a g g  ( 2 0 0 2 ,  p p . 1 2 3 ‑ 6 . ) は法人という制度そのものが,自然人と同様の権利を付

与するという,共同体としての利益を考慮した社会とその構成員の協定であり,人工作

為物なのであり,こうした考え方そのものが本質的には特殊ではないことを示唆する。

(23)

という 2 つの様式がある注 1 2 。この 2 つのステイクホルダー思考において採 用される利害化の論理もしくは構成は同じではない。

戦略的ステイクホルダー思考はステイクホルダーの特定においてもつばら くリスクとしての利害>の次元を単元的に採用する。したがって,企業との 間で物的,金融的,人的及び知識資本を自発的にやり取りする関係者,つま り経済主体を主たるステイクホルダーとする。こうしたステイクホルダーは 企業もしくはビジネスの存続や継続にとって不可欠の資源を投入するという

ことから,一次ステイクホルダーと呼ばれるが,その利害請求の権利を行使 しなくとも,企業からの配慮を得られることになる。一方,非自発的リスク の享受者は,その利害の請求や権利を行使することによって,その要求や存 在に対して配慮を得ることができる。また非自発的リスク享受のステイクホ ルダーやそれ以外のステイクホルダーの要求は,自発的リスクの享受者,と りわけ株主利益に適う場合にのみ配慮することが正当化される。ここでは新 古典派経済学の企業観を前提とするからである。すなわち「企業の本務とは 利益を上げること」もしくは「株主利益に資することが企業の最大にして唯 一の役割」である, というような考えである。

それに対して包含的ステイクホルダー思考は<リスクとしての利害>の 次元だけではなく<紐帯としての利害>の次元をも同じ枠組みの中に並列 的に位置づける。したがって,社会資本のやり取りや非人間的もしくは非実 在的対象との意味や価値のやり取りの対象を正当な利害の認められるステイ クホルダーと位置づけ,ステイクホルダーの特定される次元は異なるとはい え,それによって優劣をつけることなく,各ステイクホルダーを対当に処遇

注目 前者は包含的ステイクホルダーコミットメントモデルCi n t r i n s i cs t a k e h o l d e r  com‑

mitment mode l)やモラルステイクホルダー理論 ( m o r a ls t a k e h o l d e r  theoη) と,後者 は戦略的ステイクホルダーマネジメントモデル ( s t r a t e g i cs t a k e h o l d e r  management  mode l)や手段的ステイクホルダー理論Ci n s t r u m e n t a ls t a k e h o l d e r  t h e o r y ) とも呼ばれ

る ( C a r r o l l1 9 9 3 ,  p p . 6 2 ‑ 6 . ;   D r i s c o l l  and Cromble 2 0 0 , 1 p . 4 4 3 ) ステイクホルダー思考

に関しては高岡 ( 2 0 0 4 a ) を参照。

(24)

することを肯定する注 1 3 0 その意味で<社会>との関わりから,企業のあり 方やその社会的役割を考察する「企業と社会」論にとっては,なじみやすい のかもしれない注 1 4 0

ただし包含的ステイクホルダー思考は,伝統的な企業に対するオルターナ ティブとしての,いわゆる企業のステイクホルダーモデルという企業観を正 当化しようとする企業論指向の展開であり,その企業観に適ったステイクホ ルダ一統合に関わる規範的なマネジメント原則を合意としては提示するが,

具体的なステイクホルダーの異なる利害調整の枠組みに関しては言及しない (高岡 2 0 0 2 ; 高岡・谷口 2 0 0 3 , p p . 1 6 ‑ 8 . ) 1 5 0

それに対して戦略的ステイクホルダー思考は,環境構成者たるステイクホ ルダーへの働きかけ方を議論する管理論指向において援用される思考様式で あり,ステイクホルダー統合の枠組みとして系譜づけられるのは,こちらの ステイクホルダー思考になる。

次節ではこの戦略的ステイクホルダー思考をベースとした,ステイクホル ダ一統合の議論を考察し,企業の正統性マネジメントとのかかわりを検討す る 。

4 節 ステイクホルダー統合と正統性マネジメン卜

4‑1  ステイクホルダーマネジメントの管理観とステイクホルダー統合の様式

注目 したがって,自発的リスクの享受者も非自発的/結果的リスクの享受者も,そして 紐帯としての利害の次元において特定されるステイクホルダーをも,ステイクホルダー として正当化する論拠は異なるにもかかわらず,同位・同列化する(高岡・谷口 2 0 0 3 ,

p p . 1 8 ‑ 2 0 .   。 )

注 1 4 ただし利害を正当化する 2 つの次元を並列的に包含しているだけで 2 つの正当化 次元の関係を構造的に整合づけているわけではない。

注目 2 つのステイクホルダー思考の企業とステイクホルダーとの関係観の違いはそれら が用いられる理論枠組みにおける企業環境観もしくは社会との関係観の違いと関連づけ

られる(高岡 2 0 0 3 , p p . 1 7 5 ‑ 8 5 . 参照)。

(25)

ステイクホルダーマネジメントはステイクホルダー統合のプリミティブと 位置づけられ得る。ステイクホルダーマネジメントに込められた管理観は,

伝統的な管理観と比べて理念的には大きく異なる。しかしその理念的な特徴 はステイクホルダー統合の様式としては,反映されているとは言い難い。

ステイクホルダーマネジメントという管理観の特徴は理念的には以下の点 にある。 P r e s t o nand S a p i e n z a   ( 1 9 9 0 , p p . 3 6 6 ‑ 7 2 . ) や Wartick ( 1 9 9 4 ,  p .   1 1 2 ) は , E t z i o n i   ( 1 9 8 8 ) の <1 &  We パラダイム>という見解を援用しつ つ,伝統的管理観が「われわれ対かれら」パラダイムに基づいていたのに対 して,ステイクホルダーマネジメントの管理観は「われわれとかれら」パラ ダイムに立脚しようとする点に基本的な特徴があると指摘する。すなわち従 来,管理という概念や営為は,計画と執行を明確に分離していたのに対して,

ステイクホルダーマネジメントの管理観は,その計画 組織化一指揮という 管理過程をステイクホルダーと共に遂行していこうとするところに管理観と

しての規範的核があるというのである ( W a r t i c k1 9 9 4 ,  p . 1 1 6 ) 。

この違いの意義を理解するのに,金井(1 9 9 4pp . 1 8 ‑ 3 4 . ) のいう表マネジ メントと裏マネジメントという管理観が役に立つ。かれは既存の管理概念 (厳密には経営管理)は目的所与性と他者依存性という二つの要素から構成 されているという

O

前者は管理という概念・行為そのものには目的設定の機 能がなく,所与としての目的をいかに効率的に達成するかという性質を指し,

後者はその目的を達成するためにいかに他者を働かせるか, リードするかと いう性質を指す。目的設定はより上層のエグゼクティブや経営者が担い,そ れを達成するために誰かを働かせることが管理者の仕事=経営管理であった というのである。そこでは明確に計画立案と実施が分離している。これが表 マネジメントの管理思想、である。

それに対して裏マネジメントの管理思想は,この計画と作業実施の聞きを

狭め, (特定の組織内部を想定しているのであるが) r みんなで一緒になって

物事を進める」という発想を指す(金井 1 9 9 3 , p p .  2 6 ‑ 7 . ) 。ここでは管理者

(26)

は命令者・監督者というよりは,部下の仕事を支えるサボーターであり,そ こでは計画の立案とその作業実施の明確な区別よりは,管理者も作業者と一 緒に進め方や実施をも担うような協働的な調整の概念として示されている。

ステイクホルダーマネジメントの管理観は理念的には,この裏マネジメン トの考えを肯定するものであるといえる。そしてこの「かれら」の範囲の特 定を巡って,ステイクホルダー理論は「ステイクホルダーとは誰か J という 議論を繰り返してきた。企業目的や事業の進め方及びガパナンスにおける

「われわれとかれら」か,あくまでも設定された目的の遂行における「われ われとかれら」のどちらを想定するのかによって,ステイクホルダー統合の あり方は大きくことなる注 1 6 。伝統的にステイクホルダーマネジメントとは 後者を意味し,前者の議論は比較的近年の動向である,それはステイクホル

ダーエンゲージメントと呼ばれる。

いずれにしても,こうした共益性・協働性はビジネスの必須ともいえる (高岡 2 0 0 2 , p .  1 1 2 ) 。企業が存立し,ビジネスを継続するためには多様な ステイクホルダーのコミットメントを要する上に,単なる存立を超えて,ビ ジネスを成功や発展に導くためには,ステイクホルダーの組織化や巻き込み 方において,他社とは異なる工夫を講じなければならないからである。

こうした問題を従来議論してきたのが,戦略的マネジメント論である。戦 略的マネジメント論は,競争優位の獲得を念頭に,企業環境の把握やそれへ の働きかけの枠組みや手順をしてきた ( H a r r i s o nand S t .   John 1 9 9 8 ;   F r e e ‑ man and McVea 2 0 0 0 ,  p . 1 9 9 ) 。その戦略的マネジメントの方法として,企 業環境構成主体をステイクホルダーという形で明確に照射しようとしたの

注 目 これは分析者が,組織の内と外の境界をどのように設定するかという問題ともかか わる。企業と各ステイクホルダーとの関係をあくまでも独立した主体同士の関係と認識 するのか,ビジネスシステムという概念のように企業とステイクホルダーとの関係体を 一つの分析対象として設定するのか,どちらが戦略的マネジメントとして有効かという 見方にである。 AndriofandWaddock ( 2 0 0 2 ,  p . 4 0 ) や Posteta 1 . ( 2 0 0 2 ,  p . 5 4 ) は企業

とステイクホルダーとの関係の特殊性を重視する。

(27)

が , Freeman ( 1 9 8 4 ,  C h a p .   2 参照)であった ( F r e e m a na n d  McVea 2 0 0 0 ,  p p . 1 9 2 ‑ 5 . ) 。

かれはステイクホルダーを「企業目的の達成に影響を与える,もしくは企 業 目 的 の 達 成 に よ っ て 影 響 を 被 る グ ル ー プ も し く は 個 々 人 」 と 定 義 し ( F r e e m a n  1 9 8 4 ,  p . 2 5 ) 注 1 7 以下のようなプリミティブなステイクホルダー 統合の基本的アイデア(枠組みや手順)を提示した。

Freeman ( 1 9 8 4 ,  p . 9 2 ) はまず戦略立案の枠組みとして,エンタープラ イズ戦略という考えを提示する。それは次の 3 つの分析課題から構成される。

それらは, ( a ) 利害の正統性とそれによって特定されたステイクホルダーのパ ワーという点から,ステイクホルダーとそれへの企業の影響力を把握しよう

とするステイクホルダー分析注 1 8 , ( b ) 組織や経営陣の主要な価値観とステイ クホルダーの価値観やそれらの合致を把握する価値分析,そして( c ) 今後予想 される社会変革や社会問題が経済的,政治的,技術的変化及び当該企業やス テイクホルダーに与える影響を把握しようとする社会問題の分析,である。

この考えのモデルになったのが伝統的な戦略的計画論の枠組みであった。

それは,自社やそのビジネスの存在意義やアイデンティティーとの兼ね合い の下に,自社のミッションや方向性の設定と,それに基づいた資源の割り振 りを考える枠組みであった ( F r e e m a n1 9 8 4 ,  p .  6 9 ;   Freeman a n d  Mc  V  e a   2 0 0 0 ,  p  . 1 9 0 ) 。

そしてそのプロセスとして環境スキャニングを経て提起されるのが,図 3 のような企業と諸ステイクホルダーとの関係を象徴する,いわゆるステイク ホルダーマップである。かれは環境スキャンの中で,単なるステイクホルダー の保有する物理的資源の企業への重要性だけではなく,今日でいうステイク

注目 すなわち, r 企業目的に影響を与える」に該当するのが自発的リスクの享受者であり,

「企業活動によって影響を被る」に該当するのが非自発的/結果的リスクの享受者に該 当する。

注目 ここでいうステイクホルダー分析においては, Freeman  ( 1 9 8 4 ,  p.45 ,  p . 8 4 ) はス

テイクホルダーの特定(かれは利害の特定と述べているが)において,正統性をより重

視している。

(28)

ホルダーのネットワーキング、,つまりステイクホルダーから別のスデイクホ ルダーへの影響力をも考慮して,敵対的ステイクホルダーを留意することこ そが,企業目的の達成や不確実性の回避に重要かっ効果的であることを主張

した ( F r e e m a n1 9 8 4 ,  p . 3 8 ;  H a r t  a n d  Sharma 2 0 0 4 ,  p . 9 ) 。

① 

出典: F r e e m a n   ( 1 9 8 4 ,  p .   2 5 ) 。 図 3 :企業のステイクホルダー観 C S t a k e h o l d e rV i e w  o f  F i r m )  

しかし,このステイクホルダーマップに象徴される関係観は,ステイクホ ルダーセットと呼ばれるが,企業と各ステイクホルダーとの関係をダイアド 的に,しかも二元論的に捉え,企業目的の達成に貢献する機能充足性から,

ステイクホルダーを優先順位付けるようなステイクホルダー統合の様式と解 され,展開していった ( R o w l e y1 9 9 7 ,  p . 8 9 0 ;  Key 1 9 9 9 ; 高岡・谷口 2 0 0 3 ,

p p . 1 8 ‑ 2 0 . ) 。

ステイクホルダーマップの関係観は組織間関係論でいわれる,組織セット

の考え方をベースにする (Key1 9 9 9 ,  p . 3 1 9 参照)。つまり企業とステイク

ホルダーとの関係を,焦点組織の目的を充足‑達成するインプット‑アウト

プットの役割関係から説明する。これに象徴されるように, Freeman  ( 1 9 8 4 , 

(29)

p p .  4 2 ‑ 3 . ) の構想を支えた知見には,組織間関係論やその中の資源依存観 があった。つまり伝統的なステイクホルダー統合の論理は,資源依存観など の影響を多分に受けている ( F r e e r n a n1 9 8 4 ,  p p . 4 2 ‑ 3 . ) 。つまり焦点組織に とっての「かれら」は<リスクとしての利害>の次元において想定される諸 資源をめぐる依存関係によって設定及び優先順位づけられるのである。

4  ‑2  伝統的ステイクホルダー統合の論理と企業の正統性の次元

H a r r i o s n  a n d  S t .  J o h n   ( 1 9 9 8 ,  p .  6 2 ) は,資源依存関係を前提として,ス テイクホルダー統合の手順や方法を示している。当該企業にとってのステイ クホルダーの戦略上の重要性(=ステイクホルダーの優先順位づけ)を判断 する要因として以下の 3 つをあげる。それらは①当該企業が対峠する環境不 確実性への当該ステイクホルダーの寄与,②当該企業にとっての環境不確実 性を低減することに対して当該ステイクホルダーが保有している能力,そし て③企業の戦略的選択,である。そしてバッファーリングとブリッジングと いう 2 つの統合の指針(原則)を提示する。

前者は当該企業にとってのステイクホルダーの戦略的重要性が低い場合,

そして後者がその重要性が高い場合に企業が取るべきアプローチとなる。

H a r r i o s n  a n d  S t .  J o h n   ( 1 9 9 8 ,  p p . 6 1 ‑ 2 . ) によると,バッファーリングは外

部ステイクホルダーに対するステイクホルダーマネジメントの伝統的な手法

で,キーステイクホルダーの要望やニーズ、を満たし,不確実を緩和すること

を,そしてブリッジングは相互依存関係の相互コントロールを高めることを

意図した統合様式であるという。したがってブリッジングにおいては,共通

の目標を設定しようとする。これらは資源依存関係をベースとした組織間関

係論においていわれる,伝統的な方法であることはいうまでもない。たとえ

ば P f e f f e ra n d  S a l a n c i k   ( 1 9 7 8 ,  p  .  4 3 ) は「相互依存や不確実性の問題を解

決する典型的な方法は,お互いの活動の相互コントロールを高めること」と

表 2 :ファンアウ卜の第一段階 1 &lt; コアからフリンジへのネットワーキング&gt;の諸課題及びそのプロセス 目 標 敵対者の一群の包囲連携を避けるためにステイクホルダーの憂慮している事柄についての知識を発展づけ るためのステイクホルダーの特定とステイクホルダーイシューの理解(j n t e l l g e n c e ) 。 当該企業の活動やその供給業者及び顧客の活動がどのように環境(廃棄物,汚染,生物多様性など)や社 1  会的(不公正賃金,労働条件,地域経済の能力と文化の浸食など)影響をもたら
表 4 :ファンインの第一段階/く複雑な相互作用を作り出す&gt;の諸課題及びそのプロセス 目 標 新しい製品アイデアやビジネスイノベーションを産み出すための,そして暗黙知を転換(移転)するため の,遠く離れたコンテグストにおける周辺ステイクホルダーとの緊密な相互作用。 「最後を最初にする」ことによって特定されたコンテクストに対する経営者・管理者の文化的な敏感性の 訓練。 2  最初を最後に据えることによって特定された興味(関連)のあるコンテクストの目録に基づいて,研究開 発担当管理者や生産管理などのライン

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