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組織形態計測時における面積補正について

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Academic year: 2021

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(1)

組織形態計測時における面積補正について

- ホルマリン系固定液における組織の変形(膨化・収縮)-

松下 隆寿 小岸久美子 京都大学再生医科学研究所 技術部

1.

【はじめに】

組織形態計測学では特定の細胞の長さや幅、組織の面積や体積といった数量的なパラメ-タ-が研究の対象となり、

しばしば面積の補正や体積の補正を行わなければならない場合がある。特に組織標本作製時においては細胞や組織の 収縮や膨化等の組織が変形することが知られている。

そこで各種ホルマリン系固定液を使用して、マウスの脳と腎臓に対する標本作製時における面積補正のための組織変 形(膨化、収縮)について検討を行った。

2.

【材料及び方法】

.

材料

10

%ホルマリン(局方ホルマリン

1

:水

9

);

20

%ホルマリン(局方ホルマリン

1

:水

4

);

Lillie

中性緩衝ホルマリ ン(ホルマリン原液

100ml +

1

燐酸ナトリウム

NaH2PO4

H2O4g +

2

燐酸ナトリウム

Na2HPO46.5g +

900ml

pH7.2

);等張ホルマリン(

10

%中性ホルマリン

100ml +

塩化ナトリウム

NaCl0.85g)

の固定液

4

種類を使用した。

.

方法

各ホルマリン系固定液

(10ml)

の入った標本瓶

1

個に対し

4

5

週齢

SAMR1

系マウス(雌)の脳(平均

437mg

)と腎

臓(平均

282mg

)左右

2

個を皮膜を剥がして入れた。

.

組織計測

実験では短期間固定(実験①)と長期間固定(実験②)を室温で行なった。実験①では

24

時間毎に

1

週間計測を行 なった後包埋、計測し、実験②では固定

24

時間目に計測した後、

1

週間毎に

8

週間の計測、さらに

24

週間後に計測 後包埋し、再び計測を行なった。又各固定液について

7

匹を計測した。固定液は実験前にそれぞれ

1L

作成し、なく なれば新に作成、更新しながら出来るだけ毎日交換し、その後自動包埋器(

Histomatic. M odel166 Fisher

)

を使用 して常法通り脱水、透徹、パラフィン包埋(

60

63

℃)を行った。

.

計測方法

1

2

のように臓器の長径(

A

)短径(

B

)をノギスで測定し形態学的投撮法を使用して

Leatherland

らの簡便法で 面積を求めた。面積の計算式はπ×

4 B A ×

で求め、膨化、収縮率は固定前の値を

100

%とし、計算した。

(2)

3.

【結果】

脳の組織変形(膨化・収縮)(表1)

24

時間後

10

%ホルマリンでは

42±12

%の膨化を示した。

20

%ホルマリンは 実験①で

34±15

%、 実験②で

25±9

%膨 化した。等張、中性緩衝ホルマリンは実験①で

16±4

17±8

%の膨化を示したが、実験②では等張ホルマリンが

9±4

%、

中性緩衝ホルマリンが

13±9

%と実験①と比して膨化の数値が低かった。実験①の

10

20

%ホルマリンでは最大

57

%も の膨化を示したものもあった。一週間固定では固定前の大きさにならなかったが、等張ホルマリンで

2

週間、

20

%ホル マリンで

6

週間かかって固定前の大きさに戻った。しかし

10

%ホルマリンや中性緩衝ホルマリンにおいては

24

週間固 定でも固定前の大きさに戻るものが少なかった。また中性緩衝ホルマリンでは

7

週目を境に少しずつ膨化を示した。

1

週間目でパラフィン包埋を行なうと

37±7

44±3

%の収縮が認められ

24

週間固定を行なった後、パラフィン包埋を行な

うと

33±10

46±4

%の収縮が認められた。

腎臓の組織変形(膨化・収縮)(表2)

実験①で

4

種類の固定液とも

24

時間固定時、

14±8

19±12

%、一週間固定で

10±7

14±5%

の膨化となり大差はなか った。しかし実験②では

10

%ホルマリン、中性緩衝ホルマリンで

13±6

15±5

%の膨化を示し、

20

%ホルマリン、等張 ホルマリン

3±3

8±7

%の膨化となり、実験①と実験②ではその膨化率に差が認められた、

1

週間固定時には、

1±5

8±7

% となり、固定液間の差は認められなかった。また

1

週間固定では固定前の大きさにならず、等張ホルマリンは

2

週間、

10

20

%ホルマリンは

4

週間かかって固定前の大きさに戻った。中性緩衝ホルマリンは脳と同じように

7

週間目以降再 び膨化傾向を示した。

1

週間固定後包埋を行なうと

34±8

42±4

%の収縮、

24

週間固定で包埋を行なうと

38±5

42±10

% の収縮が認められた。

4.

【考察】

パラフィン包埋法を用いて組織の形態計測を行う場合、出来るだけ組織変形の少ない方法を使用することが望ましい。

しかし組織は固定、脱水、透徹、パラフィン包埋に至る過程のそれぞれで膨化、収縮等の組織変化を起こす。

そこでホルマリン系固定液によるマウスの脳と腎臓を使用した組織の面積補正を試みた。

実験①・実験②共

24

時間で最大の膨化を示し、その後漸次収縮した。

Wustonteld

はホルマリン系固定液による体 積変化を詳しく調べ、組織は固定後数時間は膨化傾向を示し、その後収縮するとしている。そのメカニズムについては ふれられていないが、ホルマリン系固定液において、固定液に入れた直後は、固定液中の大部分をしめる

H

2

O

が、浸 透圧の関係で組織内に浸潤して膨化を起こし、その後ホルマリン液中に含まれる主成分のホルムアルデヒドによるタン パク質分子間及びアミノ基間のメチレンブリッジの形成により収縮が始まると推察される。・・・

ホルマリン液の組織内への浸透速度に関して

5

3の肝臓(人体)で

10% . 20%

ホルマリン、および

50%

ホルマリン においても、

24

時間で固定は完了しないと推論されることもあり、その間組織の変形が進んでいることを示唆してい る。又、今回の実験では行っていないが、固定時間により重量の経時的変化をみた実験によると、固定

26

時間まで 重量が増加するとし、その後ほぼ一定の値を示すということを考えあわせると固定時間が組織変形に関与することを示 している。

計測実験時における固定液と固定時間は重要な要素であり、固定方法により組織変形の度合いが左右されることが示 唆される。

今回の実験で中性緩衝ホルマリンが、7週間固定以後、脳、腎臓で膨化傾向を示したことは、組織を長期間柔らかく 保つと言われていることと関係があるかも知れない。

4

種類のホルマリン系固定液では、

10

%ホルマリンが

24

時間後 に最大の膨化を示すものの、

1

週間固定時、

24

週間固定時においても、包埋を行なうと収縮率が一番小さかった。脳は

10

%ホルマリンでは

24

週間後においても固定前の大きさにならなかったが、腎臓では

4

週間で固定前の大きさになっ た。さらに

20

%ホルマリンで

1

週間固定した脳や、

20

%ホルマリン、等張ホルマリンで固定した腎臓の

24

時間では、

(3)

10

%以上の異なった実測値を示した。また脳の

1

週間固定時の包埋と、

24

週間後の包埋とでは、脳

1

6

%、腎臓

1

5

% の測定値に変動があったことは、組織の変形は固定液の種類、濃度、固定時間に影響されたことを示していると思われ る。

Ba

h

10

%ホルマリンで固定したブタの肝臓

150

200mg

(2×

10

×

10mm

)は、

16

時間後に

18

%の膨化があ り、腎臓もほぼ同様の膨化、脳は

38

%の膨化を示したと述べているが、今回の実験でもほぼ同じような結果がみられ た。またホルマリン濃度が高くなれば膨化がすくなくなると述べているが、今回そのような傾向は見られなかった。さ らに

58

℃でパラフィン包埋すれば

30

%の収縮があったと述べている。しかしわれわれの実験では脳で

33±10

46±4%

腎臓で

34±8

42±4%

とBahrらより収縮が強い結果となった。岩垂は固定が完全に行われた組織においては、パラ

フィン温度

60

85

℃の範囲であれば組織の変形・収縮は

11

18

%位であると述べており、武石は中間剤過程までの 収縮率は、液の種類や濃度等に関係ないと述べ、組織をパラフィン包埋する時、キシロール等の透徹剤からパラフィン 液に至る過程で、組織中に含まれる脱水に使用したアルコールがパラフィンと完全に置換されない状態が出来、一時的 に組織変性や組織の乾燥があって収縮、硬化が進むと推測しており、包埋時にも組織収縮の要因があることを示唆して いる。

5.

【まとめ】

今回の実験でわれわれは包埋時の値に収縮率の逆数を乗じて補正を行った。すなわち脳は

1.56

1.85

の補正、

(

1)

腎 臓は

1.51

1.72

の補正(表

2

)とした。これらの実験結果は精密な数量的実験を行う必要がある時は実験毎に計測を行 い補正をする必要性を示していると考えられる。

6.

【文献】

・永田哲士:顕微鏡的形態計測の原理と手技 細胞.

8 , p.284

303, 1976

・馬場謙介

,

他:形態計測(Ⅱ)細胞

9 : p.2

20, 1977

Leatherland. J. F. et al : Structure and fine structure of the hypophseal pars distalis in endigenous A frican s pecies of the Genns Tilapia . Cell Tissue Research 149: 245

266, 1974.

Wüstonfeld,E. : Experimentelle Beiträgeznr Frage der Volumànderungen umd Eindringdaner inder histologischen Technik.

I .Z.Wiss.Mikrosk. 62

241

1954~1955

・渡辺明朗:ホルマリンと固定.P

21

23

,実験病理組織技術研究会第

2

回総会講演要資集

1995

・渡辺恒彦:切り出しと固定.P

569

572

,病理と臨床

Vol.6,No.5

1988

・梶原ひろみ,他:ラット甲状腺及び下垂体の重量測定方法についての検討.実験病理組織技術研究会第

4

回総会講演 要資集 P

1

1997

Luna.L.G. :

リン酸中性緩衝ホルマリン液と組織の柔らかさ

. Histo-Lagic 1: p. 14

1973

Bahr,G.F. : Volume changes of tissues in physiological fluids during fixation in osmium tetroxide or formaldehyde and during subsequent treatment . Exptl Cell Research 12 : p.342

355 , 1957

・岩垂 司:最新医学教育講座

No.583

組織片の脱水、脱脂の理論と実際

,

日本卒後教育センター

p27

38

1985

(4)

1. ホルマリン系固定液における組織変形(膨化・収縮)(脳)

同一固定期間による比較

ホルマリンの種類

24

時間

1

週間

8

週間

24

週間 包埋後 補正率

実験①

10% 142±12 131±7 62±7 1.61

20% 134±15 120±11 64±4 1.56

等張

116±4 110±8 58±5 1.72

緩衝

117±8 111±6 56±3 1.78

実験②

10% 137±12 129±8 109±8 103±8 67±10 1.49

20% 125±9 115±5 93±6 87±4 58±4 1.72

等張

109±4 104±4 87±5 78±3 54±4 1.85

緩衝

113±8 113±9 104±6 110±5 55±5 1.81

(対固定前%)

2. ホルマリン系固定液における組織変形(膨化・収縮)(腎)

同一固定期間による比較

ホルマリンの種類

24

時間

1

週間

8

週間

24

週間 包埋後 補正率

実験

10% 118±6 114±5 66±8 1.51

20% 119±12 113±11 65±1 1.53

等張

118±9 110±7 58±4 1.72

緩衝

114±8 112±11 63±8 1.58

実験

10% 113±6 106±5 93±5 94±4 62±7 1.61

20% 108±7 105±2 94±7 91±6 62±5 1.61

等張

103±3 101±5 92±5 86±6 59±9 1.69

緩衝

115±5 108±7 103±6 108±6 58±10 1.72

(対固定前%)

表  1. ホルマリン系固定液における組織変形(膨化・収縮)(脳) 同一固定期間による比較 ホルマリンの種類  24 時間  1 週間  8 週間  24 週間  包埋後  補正率  実験 ① 10%  142±12  131±7          62±7  1.61 20% 134±15 120±11       64±4 1.56  等張  116±4  110±8          58±5  1.72  緩衝  117±8  111±6          56±3  1.78  実験 ② 10%

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