論文の内容の要旨
氏名:引 地 麻 梨
専攻分野の名称:博士(医学)
論文題名:間質性肺炎における新規血中自己抗体の探索
間質性肺炎は,肺胞領域や細気管支領域の間質に線維化を生じる肺疾患の総称であり,特発性に生じる ものを特発性間質性肺炎 (idiopathic interstitial pneumonias: IIPs) と呼称する.IIPsの中には,確立し た膠原病としての診断を満たさないものの,自己免疫背景を有すると考えられる症例が数多く存在し,こ れらは患者背景や疾患の予後に一定の特徴をもつサブグループとして考えられている.このような自己免 疫背景をもつ間質性肺炎は,interstitial pneumonia with autoimmune features (IPAF)と定義されている.
IIPsの中で最も予後が悪い特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis: IPF) は,IPAFの定義から 除外されているが,一方ではIPFの病態に自己免疫が関与することを指摘する報告も多く存在する.そこ で本研究ではIPFを含む間質性肺炎において,自己免疫背景を有する症例を抽出可能にする新たな自己抗 体の同定を試みた.
ProtoArray®は9,483種類の蛋白質を固相化したプロテインマイクロアレイであり,このマイクロアレ
イチップに健常者5名,IPF患者7名,膠原病に伴う間質性肺炎 (connective tissue disease associated interstitial lung disease: CTD-ILD)患者2名の血清をそれぞれ反応させ,間質性肺炎に特異的な血中自己 抗体を探索した.マイクロアレイ法を用いて,間質性肺炎群で増加がみられる自己抗体を10種類選定し,
Protoplex™による解析で自己抗体を半定量した.これにより,間質性肺炎群で最も有意に増加する自己抗
体として,抗ubiquitin-conjugated enzyme E2T (UBE2T) 抗体を同定した.抗UBE2T抗体の濃度測定 法として,enzyme-linked immune sorbent assay (ELISA) 法を確立し,健常者 61名,IPF 43名,IPAF 10名,CTD-ILD 12名,サルコイドーシス14名,慢性過敏性肺炎 (chronic hypersensitivity pneumonitis:
CHP) 6名の血中抗UBE2T抗体測定を行った.抗UBE2T抗体濃度の平均値は,健常者196 ng/ml, IPF 425 ng/ml, CTD-ILD 1102 ng/ml, IPAF 440 ng/ml,サルコイドーシス 246 ng/ml,CHP 182 ng/ml
であり,IPFの抗UBE2T抗体濃度は,健常者やサルコイドーシス,CHPと比べて高値を示していた.健
常者と比較した際のreceiver operating characteristic曲線の曲線下面積は,CTD-ILDが0.89,IPFが 0.84であった.このことより,抗UBE2T抗体はCTD-ILDを診断する際に最も有用な自己抗体であるこ とが判明し,自己免疫背景を有する間質性肺炎の抽出を可能にすると考えられた.抗UBE2T抗体は,患 者背景や既存の確立した自己抗体に関連なく陽性を示すため,これまで自己免疫背景をもつと考えられて いたサブグループとは異なる患者群を抽出できる可能性がある.また,呼吸機能検査や動脈血酸素分圧で 規定される疾患の進行度にもよらないため,病初期における診断にも使用できると考えられた.さらにIPF 肺の免疫組織染色では,UBE2Tは蜂巣肺内部の被覆上皮細胞で染色を認めており,間質性肺炎の病態との 関連が示唆された.現在UBE2T及びその自己抗体の線維化機序への役割を解明中であり,今後さらに臨 床的,生物学的意義が明らかにされることが期待される.