目次
Ⅰ はじめに
Ⅱ 「概念フレームワーク」における純損益とリサイクリング (1) 純損益の合計または小計を要求すべきか否かに関する議論 (2) リサイクリングを要求すべきか否かに関する議論
Ⅲ 純損益とリサイクリング概念を維持するアプローチ
(1) アプローチ2A(OCIに対する狭いアプローチ)
(2) アプローチ2B(OCIに対する広いアプローチ)
Ⅳ むすび
Ⅰ はじめに
IASBの「財務報告に関する概念フレームワーク」(以下において、「概念フレー ムワーク」と略称する)は、財務諸表の作成および表示の基礎となる概念を説 明するものである。IASBの予備的見解によれば 、 概念フレームワークの主た る目的は、IASBがIFRSの開発および改訂を行う際に首尾一貫して使用するこ ととなる概念を識別することにより、IASBを支援することである([13],p.5)。 IASBの現行の 「 概念フレームワーク 」 は、前身の機関である国際会計基準 委員会によって1989年に公表された。この現行の「概念フレームワーク」は
純損益とその他の包括利益 その1
-
IASB
の概念フレームワークD.P.
を中心にして-榊 原 英 夫
IASBが国際財務報告基準(IFRS)を開発する際に役立ってきたが、以下の(a)
~(c)の問題があった([15],p.6)。
(a) いくつかの重要な領域が取り扱われていない。
(b) いくつかの領域におけるガイダンスが不明確である。
(c) 現行の 「 概念フレームワーク 」 のいくつかの側面が時代遅れになっている。
このため、2004年にIASBとFASBは両者の 「 概念フレームワーク 」 を改訂 するための共同プロジェクトに着手した。2010年9月に財務報告の目的およ び財務情報の質的特性に関する内容(第1章および第3章)について、IASB が米国の国内基準設定主体である財務会計基準審議会(FASB)との共同プロ ジェクトの成果として改訂された。しかしながら 、2010年11月に両者は他の プロジェクトに集中するために当該共同プロジェクトに関する作業を中断し た([15],p.6)。2011年にIASBはアジェンダについての公開協議を実施した。
この協議に対するほとんどのコメントの提出者は、「 概念フレームワーク 」 を IASBにとっての優先的なプロジェクトとして確認した。その結果、2012年に IASBは 「 概念フレームワーク 」 プロジェクトを再開した。本プロジェクトが 2012年に再開してからの作業は、FASBとの共同ではなくなっている。その後、
2013年7月にIASBはディスカッション・ペーパー「財務報告に関する概念フ レームワーク」1)(以下において、D.P.(2013年)と略称する)を公表し,2015
年5月にD.P.(2013年)に関して受理したコメントを考慮して開発された公
開草案を公表した([15],p.6)。
D.P.(2013年)([13],para.8.3)によれば 、IASBの「アジェンダ協議2011」2)
に対するコメントの提出者は、財務業績の報告(その他の包括利益とリサイク リングを含む)をIASBが扱うべき優先的なトピックとして確認したうえで、
財務業績の報告に関して次のような意見を表明していると説明されている3)。 (a) 多くの作成者が業績を説明するために非GAAP指標を使用していること は、純損益および包括利益合計が企業の業績の有用な指標ではないかも
しれないことを示すものである。
(b 企業の業績を測定し、報告する場合における純損益およびOCIの役割に ついて明瞭性が欠如している。このことは、OCIが論争の多い事項の「ご み捨て場」として認識されていることを意味している。
(c) 多くの財務諸表利用者がOCIで報告される変動を無視している。それら の変動は、長期的な趨勢をそれから推定できる営業フローによって生じ るものではないからである。
(d) 純損益とOCIとの間の相互関係が不明確である。特に、リサイクリング
の概念と、OCI項目を何時、どのOCI項目をリサイクルすべきかが不明 確である。
D.P.(2013年)は、上記のような、「アジェンダ協議2011」に対するコメン
トの提出者により提起された財務業績の報告に関する意見に応えるため、セク ション8(「包括利益計算書における表示-純損益とその他の包括利益」)にお いて財務業績の報告(OCIとリサイクリングを含む)に関する議論を検討して いる4)。
本論文は、D.P.(2013年)のセクション8を中心に財務業績の報告(OCIと リサイクリングを含む)に関する議論を検討する5)。具体的には、Ⅱ節におい て、①純損益の合計または小計を要求すべきか否かに関する議論と②リサイク リングを要求すべきか否かに関する議論を検討する。また、Ⅲ節において、純 損益とリサイクリング概念を維持するアプローチとして①アプローチ2A(OCI に対する狭いアプローチ)と②アプローチ2B(OCIに対する広いアプローチ)
を検討する。なお、本論文において,その他の包括利益(other comprehensive income)はOCIと略称する。
Ⅱ「概念フレームワーク」における純損益とリサイクリング
本 節 に お い て は、D.P.(2013年 )([13],paras.8.19-8.26) に お い て 検 討 さ れた①純損益の合計または小計を要求すべきか否かに関する議論と②リサイ クリングを要求すべきか否かに関する議論を明らかにする。D.P.(2013年)
([13],p.180)は、コメントの提出者に対する質問19において、「『概念フレー ムワーク』は、純損益についての合計または小計を要求すべきであるとの IASBの予備的見解を8.19項から8.22項において議論している」と述べている。
また、D.P.(2013年)([13],p.180)は、コメントの提出者に対する質問20に おいて、「『概念フレームワーク』は、以前OCIに認識した収益および費用の 項目の少なくとも一部をその後純損益に認識する(すなわち、リサイクルする)
ことを許容または要求すべきであるとのIASBの予備的見解を8.23項から8.26 項において議論している」と述べている。
(1) 純損益の合計または小計を要求すべきか否かに関する議論
D.P.(2013年)([13],para.8.19)は、財務諸表の利用者が純損益を企業の業 績についての主要な指標として彼らの分析に組み込んでいるとのIASBによる 認識を「IASBは、多くの投資者、債権者、作成者等が純損益を有用な業績測 定値と見ていること、また、小計または語句としての『純損益』が経済、ビジ ネスおよび投資者の精神に深く浸透していることを以前から承知していた。す べてのセクターからの利用者は、純損益を追加的な分析の出発点としてまたは 企業の業績についての主要な指標として、彼らの分析に組み込んでいる」と提 示している。
上記に提示したような、財務諸表の利用者が純損益を企業の業績についての 主要な指標として彼らの分析に組み込んでいるとのIASBによる認識は、2008 年のIASBディスカッション・ペーパー「財務諸表表示に関する予備的見解」
([2],para.3.35)においても、次のように提示されていた。
「両審議会(IASBとFASB-引用者挿入)は、市場関係者の多くが純損益
を有用な業績の測定値と見ていること、また、純損益(profit or loss or net income)という小計または語句が経済、ビジネス、および投資家の精神に深く 浸透していることを承知している。すべてのセクションからの財務諸表の利用 者は、分析の出発点として、または企業の業績についての主要な指標として、
彼らの分析において純損益を組み入れている。両審議会は、包括利益計算書に ついて提案されている様式は、純損益に関する基準を引き続き維持しながら、
財務諸表の利用者が包括利益の考え方を理解できるようになると論断した。」 D.P.(2013年)([13],para.8.20)によれば、合計または小計としての純損益 の維持を支持する人々の主張が、次のように説明されている。
(a) 財務諸表の利用者は、純損益およびそれが企業の配当支払能力および負 債支払能力に与える影響に関する情報に主に関心を持っている。したがっ て、合計または小計としての純損益の表示は、利用者のニーズを支援す るものである。
(b) 純損益は、持続または反復する可能性が低く、将来の見積りまたは価格 の変動を受けやすいため、将来の正味キャッシュ・インフローの予測可 能性の低い再測定による利得および損失を除外している。さらに、一部 の再測定(金利の変動などの要因により生じるものなど)は、再測定さ れた資産または負債の存続期間にわたり自動的に巻き戻される傾向があ る。したがって、純損益の合計または小計のほうが、包括利益合計より も予測価値が高い。
(c) 純損益は、包括利益合計よりも企業の事業モデルとより一層厳密に符号 する可能性があり、したがって、企業の資源がどのように使用されたの かに関する経営者の観点からの情報を提供する。
また、D.P.(2013年)([13],para.8.21)によれば、合計または小計としての 純損益の維持を支持しない人々の主張が、次のように説明されている。
(a) 純損益を小計することによりそれに重要性を与えることなく、収益およ
び費用の表示科目を表示することが、企業がある期間中に自らの経済的 資源に基づいて得たリターンに関する情報を伝える最も有効な方法であ る。たとえば、この方法は、企業が次のようなことをさせないようにする。
(ⅰ) 財務業績の好ましい(またはそれほど好ましくない)側面を強調する 手段として、収益および費用の項目のうちのいくつかを純損益から除 外すること
(ⅱ) 変動性の高い収益および費用の項目を純損益の外に隠して、そのこと により企業のリスクを低いように見せること
(b) 純損益に焦点を当てるために、OCIに表示されている情報を無視する財
務諸表の利用者もいる。
(c) 包括利益の中の単一の数字を企業が自らの資源に基づいて得たリターン に関する情報の主要な指標と考えることは、企業の業績を過度に単純化 することになる。
D.P.(2013年)([13],para.8.22)によれば、IASBは、純損益を純損益および その他の包括利益の計算書に合計または小計として表示することを要求する考 え方を維持するとの上記8.20項に示された主張に納得している。したがって、
「概念フレームワーク」は純損益を合計または小計として要求すべきであると の主張がIASBの予備的見解であると結論づけられている。
(2) リサイクリングを要求すべきか否かに関する議論
D.P.(2013年)([13],para.8.23)は、①純損益の合計または小計を要求すべ きか否かに関する議論と②リサイクリングを要求すべきか否かに関する議論は 表裏一体のものであるとの見解を次のように述べている。
「『概念フレームワーク』に純損益の概念を含めるべきか否かを議論する際に、
リサイクリングに対する支持論と反対論も併せて考慮する必要がある。このこ とは、リサイクリングがない場合には、純損益が他の合計または小計と異なら ない種類のものになるからである。したがって、リサイクリングがない場合に
は、『概念フレームワーク』は、企業が純損益または他の合計または小計を表 示すべきか否かを定める必要がなく、純損益(または他の合計または小計)を 要求または許容すべきか否かの決定は、IASBが個別の基準を開発または改訂 する際に実施できる決定となる。」
D.P.(2013年)([13],para.8.24)によれば、リサイクリングを支持する人々 の主張が、次のように説明されている。
(a) リサイクリングは、企業が自らの経済的資源に基づいて得たリターンに 関する主要な情報源としての純損益の完全性を保護する。すべての収益 および費用の項目がどこかの時点で純損益に認識されることになるから である。
(b) リサイクリングは、当期中に発生した取引または事象(たとえば、実現 または決済)に関する目的適合性のある情報を財務諸表の利用者に提供 することができる。
(c) リサイクリングは、IFRSが類似した収益または費用の項目を純損益また はOCIに認識することを許容または要求している状況において、純損益 の比較可能性を高めることができる。たとえば、リサイクリングによって、
IAS第16号「有形固定資産」に準拠して不動産を再評価することを選択 する企業の純損益は、不動産の再評価を選択していない他の企業の純損 益とより一層比較可能なものになる。このことは、両方の企業が、不動 産の売却損益を同じ期間の純損益に認識することになるからである。
また、D.P.(2013年)([13],para.8.25)によれば 、 リサイクリングを支持し ない人々の主張が、次のように説明されている。
(a) リサイクルされた金額は、多くの場合、当該期間中の財務業績に関する 有用な情報をほとんどまたは全く提供しない。
(b) リサイクリングは、財務報告に複雑性を加え、したがって、純損益およ びその他の包括利益の計算書で提供される情報の理解可能性を損なうも
のである。たとえば、リサイクリングにより、当期に関連する収益およ び費用が不明瞭になる場合がある。
(c) リサイクリングにより、純損益およびその他の包括利益の計算書におい て複数回認識される項目が生じることになる。
(d) リサイクリングに従って実施された組替調整額は、それらが当期におい て企業により認識された資産および負債の変動から生じていない場合(つ まり、資産および負債の変動が過去の期間に生じている場合)、収益また は費用の定義を満たさないかもしれない。
(e) 純損益は、リサイクリングが実現を契機とする場合には特に、リサイク リングの結果として利益操作を受けやすくなる可能性がある。
D.P.(2013年)([13],para.8.26)によれば、上記の8.24項から8.25項にお いて提示した議論を検討したうえで、IASBの予備的見解として、「概念フレー ムワーク」は純損益の合計または小計を要求すべきであり、このことは、また、
いくつかの収益または費用の項目をリサイクルする結果をもたらすかまたはそ うなる可能性があると結論づけられている。
Ⅲ 純損益とリサイクリング概念を維持するアプローチ
D.P.(2013年)([13],para.8.28)は、Ⅱ節における結論(「 概念フレームワー ク 」 は純損益の合計または小計を要求すべきであり、これはいくつかの収益ま たは費用の項目がリサイクルされる結果となるかまたはそうなる可能性がある とのIASBの予備的見解)を基礎とした下記の2つのアプローチ(純損益とリ サイクリング概念を維持するアプローチ)を検討している6)。
① アプローチ2A:どのような項目をOCIに認識できるのかの記述に対する
「狭い」アプローチ
② アプローチ2B:どのような項目をOCIに認識できるのかの記述に対する
「広い」アプローチ
また、D.P.(2013年)([13],para.8.34)は 、 上記のIASBの予備的見解を展開 するためには、次の2つの質問に取り組む必要があると述べている。
(a) 純損益に認識される収益および費用の項目とOCIに認識される項目とは、
何によって区別されるのか。
(b) ある期間にOCIに認識した項目のうちどの項目を純損益に組み替える(リ
サイクルする)べきか。また、何故そうすべきなのか。
D.P.(2003年([13],para.8.35))は 、 上記の2つの質問に取り組む際に、純 損益を定義したり直接記述したりしようとはしていない。D.P.(2013年)は 、 純損益に含まれる項目が広範囲にわたることを考慮に入れ、純損益に認識でき るものではなく、OCIに認識できる項目の種類を記述することによって、純損 益とOCI項目とを区別することを提案している。このアプローチは、純損益 を標準的な区分として扱うことを意味する7)。
本節においては、D.P.(2013年)により検討された純損益とリサイクリン グ概念を維持する2つのアプローチ、①アプローチ2A(OCIに対する狭いア プローチ)と②アプローチ2B(OCIに対する広いアプローチ)を明らかにする。
(1) アプローチ2A(OCIに対する狭いアプローチ)
ここでは、アプローチ2A(OCIに対する狭いアプローチ)について、①ア プローチ2Aの原則と②アプローチ2Aの原則の適用を説明したうえで、③ア プローチ2Aの問題点を明らかにする。
1)アプローチ2Aの原則
D.P.(2013年)([13],para.8.40)によれば 、 アプローチ2Aは、「純損益およ びその他の包括利益の計算書の目的8)」と「IASBが純損益およびリサイクリ ングの概念を維持することに納得した理由(8.20項および8.24項-5頁およ び7頁参照)」に基づいて、収益および費用の項目が純損益またはOCIにおい て認識する資格を有するか否かを決定するために下記の3つの原則を適用する と説明されている。
(a) 原則1:純損益に表示する収益および費用の項目は、企業がある期間に 自らの経済的資源に基づいて得たリターンに関する主要な情報源を提供 する。
(b) 原則2:すべての収益および費用の項目は、ある項目をOCIに認識する
ことにより当該期間の純損益の目的適合性が高まる場合を除いて、純損 益に認識すべきである。
(c) 原則3:OCIに認識された項目は、その後純損益へ振り替えられ(リサ
イクルされ)なければならない。このことは、振替により目的適合性の ある情報がもたらされる場合に行われる。
D.P.(2013年)は、上記の3つの原則について、以下のように説明している。
(a) 原則1:純損益に表示する収益および費用の項目は、企業がある期間に
自らの経済的資源に基づいて得たリターンに関する主要な情報源を提供 する。つまり、純損益は、経済的資源に基づいて得たリターンに関する 主要な情報源を提供する。
D.P.(2013年)は、この原則1について、次のように説明している。
① IASBは、すべてのセクターからの財務諸表の利用者が、純損益を追加的 な分析の出発点としてまたは企業の業績の主たる測定値として、分析に組み込 んでいることを以前から承知していた。純損益に関する情報は、利用者が企業 の財務業績(企業が自らの経済的資源に基づいて得たリターンを含む)を理解 するのに役立つ([13],para.8.42)。
② 項目を純損益とOCIに区別して認識することにより、企業がある期間中 に自らの資源に基づいて得たリターンの異なる構成部分が明確に識別される。
通常、この区別は、それらから生じる将来キャッシュ・フローの見込みを評価 するために有用な方法でこれらの構成部分の差異を伝えるのに役立つ可能性が ある([13],para.8.43)。
③ 提案されている原則1における、「主要な」という用語は、当該情報を最
も顕著に強調する項目のプールを指すものである([13],para.8.44)。また、「主 要な」という用語は、「副次的」なものがあることや、純損益の外で表示され る項目もやはり企業が自らの経済的資源に基づいて得たリターンを財務諸表の 利用者が理解するのに役立つ目的適合性のある情報を提供する場合があること を含意している([13],para.8.45)。
(b) 原則2:すべての収益および費用の項目は、ある項目をOCIに認識する
ことにより当該期間の純損益の目的適合性が高まる場合を除いて、純損 益に認識すべきである。つまり、収益および費用の項目をOCIに認識す るのは、このことにより純損益の目的適合性が高まる場合に限られる。
D.P.(2013年)は、この原則2について、次のように説明している。
① 純損益に含まれる項目は、企業が自らの経済的資源に基づいて得たリター ンに関する主要な情報源を提供するので、IASBによれば 、 ある項目をOCIに 認識することが適切となるのは、こうした表示が企業への資源の提供に関す る意思決定に対しての純損益の目的適合性を高める場合に限られると推定さ れている。収益または費用の項目をOCIに認識することは、次の(a)および (b)のいずれかの場合に、純損益の目的適合性を高めることになるであろう
([13],para.8.46)。
(a) 純損益に表示される経済的資源に基づくリターンをより一層理解可能な ものにする。すなわち、単一の収益または費用の項目の様々な構成部分 をより一層理解可能なものにする。
(b) 純損益の中の項目の予測価値を高める。
② 上記①と対照的に、資産および負債の現在測定値(すなわち、公正価値 または他の現在市場価格に基づく測定値や、見積りキャッシュ・フローに基づ く他の測定値)の変動には、資産の取引、消費および減損並びに負債の履行に 関する原価ベースの情報と同じ予測価値を有していないものがある可能性があ る。このため、現在測定値の変動を純損益に含めると、場合によっては、様々
な予測価値を有する再測定の様々な構成部分を不明確なものにする、あるいは その理解を困難なものにする([13],para.8.48)。現在測定値の変動は、予測価 値の異なるいくつかの要因または事象の変動の影響を反映している場合があ る。6.47項9)では、公正価値測定で捕捉される構成部分を識別しており、6.112 項10)では、他のキャッシュ・フロー・ベースの測定を構築する際に考慮すべ き要因を識別している。たとえば、負債性金融商品の公正価値は、時の経過や、
基準金利、相手方の信用リスクまたは流動性に対する市場のスプレッド、市場 の需要などの変動によって変動する場合がある。当該負債性金融商品を公正価 値で測定することにより、財政状態計算書での表示を正当化する有用な情報が 提供される場合もあるが、当該測定値に寄与する要因のうちいくつかの変動は、
異なる予測価値を有している可能性がある([13],para.8.49)。
③ したがって、IASBの予備的見解としては、OCIの使用は、資産および負 債の現在測定値の変動(再測定)から生じる収益または費用の項目に限定すべ きである11)。しかし、こうした再測定のすべてがOCIでの認識に適格となる わけではない([13],para.8.50)。
(c) 原則3:OCIに認識された項目は、その後純損益へ振り替えられな(リ
サイクルされな)ければならない。このことは、振替により目的適合性 のある情報がもたらされる場合に行われる。つまり、すべてのOCI項目 をリサイクルする。
D.P.(2013年)([13],para.8.52)は、原則3について、「アプローチ2Aは、
すべての収益または費用の項目は、どこかの時点で純損益に認識すべきである と提案している。したがって、アプローチ2Aのもとにおいては、過去にOCI に認識したすべての項目は、振替により目的適合性のある情報がもたらされる その後の期間において純損益へ振り替えられ(リサイクリングされ)なければ ならない。多くの場合、振替(リサイクリング)は実現、決済または減損の時 点となるが、ある種のヘッジ会計のように、リサイクリングを別の時点で行う
ことが必要となるいくつかの場合がある」と説明している。また、D.P.(2013 年)([13],para.8.53)は、アプローチ2AがOCIに対する狭いアプローチであ るとの特徴について、「この原則3を適用すると、リサイクリングがその後の どの期間においても目的適合性のある情報をもたらさない場合、その収益また は費用の項目は、アプローチ2Aのもとでは、OCIに認識する資格を有しない であろう」と説明している。
2)アプローチ2Aの原則の適用
D.P.(2013年)([13],para.8.54)によれば 、 前記の3つの原則に基づいて、
アプローチ2Aは、2つの項目グループだけがOCIに認識する資格を有すると 提案している。これら2つの項目グループは、「橋渡し項目」および「ミスマッ チのある再測定」として以下のように説明されている。
2)-1 橋渡し項目
D.P.(2013年)は、橋渡し項目について次のように説明している12)。
「資産または負債を再測定する場合、当該再測定の影響の全体を純損益に反 映することにより、通常は、財務諸表の利用者にとって最も目的適合性が高 く,理解可能な情報が提供される。しかしながら 、IASBは、時には、資産また は負債を再測定すべきであるが、純損益における情報は財政状態計算書で使用 するのとは異なる測定を基礎とすべきであると決定する場合がある。これは、
両方の測定が有意義で,理解可能でかつ明確に説明できることが条件となる
([13],para.8.55)。財政状態計算書で使用する測定とは異なる測定を純損益にお ける情報の基礎とするためには、それら2つの測定値の間の差異の変動を橋渡 し項目としてOCIに表示することになるであろう。OCIに認識される累計額は、
この2つの測定値の間の差額となるであろう。言い換えると、その累計額は、
両者の間の橋渡しを提供する([13],para.8.56)。」
さらに、D.P.(2013年)([13],para.8.59)は、どのような場合に2つの測定 を使用すべきかについて、次のように説明している13)。
「IASBが2つの異なる測定の使用を検討するためには、両方が企業の財政状 態および財務業績という異なる側面に関する有用な情報を提供するものである ことが必要となる。これに該当するためには、企業が資産を取得した以降また は負債を引き受けた以降に純損益に認識した累計額が、当該資産または負債に ついて、有意義で、理解可能でかつ明確に説明できる測定値の結果と整合的で あるべきである。財務諸表の利用者が、純損益に表示される情報により一層重 点を置くことを考えると、当該合計または小計に表示されるすべての金額が、
『概念フレームワーク』における概念と整合的な測定を反映することが重要で ある。適切な測定値の決定方法がセクション6において議論されている。」
D.P.(2013年)([13],para.8.57)は、橋渡し項目の例として負債性金融商品 に関する再測定を次のように説明している。
「たとえば、2012年の公開草案「分類および測定:IFRS第9号の限定的修正」
(「IFRS第9号2012年公開草案」)では、IASBは、所定の状況において、負債 性金融商品を財政状態計算書では公正価値で測定すべきであるが、純損益に認 識する金額を算定するためには償却原価で測定すべきだと提案している。OCI に認識された累計額は、当該負債性金融商品の公正価値と償却原価との間の差 額である。IASBの考えでは、この表示(2つの測定の報告)は、特定の状況 においては企業の財政状態と業績を、当該負債性金融商品が保有されている事 業モデルに基づいて、最も適切に反映するものであり、したがって、将来キャッ シュ・フローの金額、時期および不確実性を見積るための最も目的適合性の高 い情報を財務諸表利用者に提供する。」
また、D.P.(2013年)([13],para.8.61)は、橋渡し項目のリサイクリングに ついて、「原則3に沿って、OCIにおける金額は、純損益に認識する収益およ び費用の決定に用いた測定の自動的な結果として、純損益にリサイクルされる。
たとえば、負債性金融商品を財政状態計算書では公正価値で測定するが、純 損益には償却原価を用いて認識する場合には、過去にOCIで報告した金額を、
当該負債性金融商品の減損または処分の際に純損益にリサイクルすることが必 要となる。これは、当該負債性金融商品を償却原価で測定するとした場合に純 損益に認識されるであろう金額と一致する」と説明している。
2)-2 ミスマッチのある再測定
D.P.(2013年)([13],para.8.62)は、ミスマッチのある再測定について次の ように説明している。
「収益または費用の項目が、場合によっては、資産、負債または過去のもし くは予定された取引の結び付いた集合体の一部分だけの影響を表していること がある。このことは、その結び付いた集合体の中の項目の1つ(またはある項 目の一部分)が定期的に現在価額に再測定され、それと結び付きのある項目が 再測定されないかまたは認識されるとしても後の時期まで認識されない場合に 生じる。ミスマッチのある再測定は、収益と費用の項目が項目の結び付いた集 合体をきわめて不完全にしか表現しないために、IASBの意見によれば 、 企業 が当期に自らの資源に基づいて得たリターンに関して目的適合性のほとんどな い情報しか提供しない場合である。このような場合、ミスマッチのある再測定 を純損益に認識すると、純損益に含まれる金額の理解可能性と予測価値を低下 させることになるであろう。」
D.P.(2013年)は、ミスマッチのある再測定の例として①「キャッシュ・フロー・
ヘッジの手段」と②「在外事業体に対する純投資」について、次のように説明 している。
① キャッシュ・フロー・ヘッジの手段
たとえば、IFRSはほとんどのデリバティブを公正価値で測定することを要 求している。デリバティブを予定取引のヘッジに使用する場合、デリバティブ の公正価値の変動が、収益または費用が予定取引から生じる前の報告期間に発 生する場合がある。デリバティブとヘッジ対象の影響を一緒に表示できるよう になるまで、デリバティブの再測定から生じる利得または損失は、企業が当期
中に自らの資源に基づいて得たリターンに関する最も目的適合性を有する情報 を提供しないかもしれないと主張しうる。ヘッジが有効で、IFRSに準拠して ヘッジ会計に適格である場合には、企業はデリバティブに係る利得または損失 をOCIで報告し、その後、予定取引が純損益に影響を与える時に当該利得ま たは損失を純損益にリサイクルする。このことにより、財務諸表の利用者は、
ヘッジ関係の結果を理解できる([13],para.8.63)。
② 在外事業体に対する純投資
ミスマッチのある再測定についての別の例は、企業が在外事業体に対する投 資を自らの表示通貨に換算する際に生じる為替差損益である。この為替差損益 がこの例である理由は、為替レートの変動が在外事業体に対する投資の価値に どのように影響を与えたのかについてその再測定が不完全にしか描写しないか らである。この再測定は、未認識の資産、特にのれんおよび無形資産の価値に 対する影響を捕捉しない。さらに、この再測定は、為替レートの変動が、原価 ベースの測定を用いて測定する非貨幣性資産または負債の価値(外貨で表示さ れている)にどのように影響を与えるのかを捕捉しない。しかしながら 、 一部 の人々によれば 、 外国為替の再測定は、在外事業体の資本を維持するものであ るので、資本維持修正と考えことができると示唆されている。この見解を有す る人々によれば 、 これらの為替差損益は、純損益およびその他の包括利益の計 算書に全く認識すべきではないと考えられている(資本維持に関する詳細につ いてはセクション9参照)([13],para.8.64)。
また、D.P.(2013年)は、ミスマッチのある再測定のリサイクリングについて、
次のように説明している14)。
ミスマッチのある再測定に関連するOCIの金額は、結び付きのある取引と 一緒に表示できる時に純損益にリサイクルされるであろう 。 たとえば、将来製 造され、販売される棚卸資産の予定売上についての有効なキャッシュフロー・
ヘッジにおいては、以前OCIに認識したヘッジ手段に係る利得または損失の
累計額は、企業が棚卸資産の販売から生じる収益を認識する時に純損益にリサ イクルされるであろう([13],para.8.65)。同様に、在外事業体の換算から生じ る為替差損益の累計額は、当該事業体の処分時に純損益にリサイクルされるで あろう。これは、処分日の累計額が、在外活動から生じる外国為替に対する企 業のエクスポージャーの累積的影響に関する目的適合性のある情報を提供する との根拠によるものである。リサイクルされる金額は、当該事業体の処分に係 る純損益と一緒に純損益に計上されることになり、これには、在外事業体のす べての資産および負債の価値の増価(または減価)に関する金額が暗示的に組 み込まれることになるであろう 。 これらの資産および負債には、非貨幣性で原 価ベースのものや、以前認識されていなかったものが含まれる([13],para.8.66)。
3)アプローチ2Aの問題点
D.P.(2013年)は、アプローチ2Aの問題点15)について、「OCI項目を概念 的に橋渡し項目とミスマッチのある再測定とに限定することは、現在OCIに あるいくつかの項目が概念的にはOCIに認識される資格がなくなるであろう ことを意味する。逆に、現在純損益に認識されているいくつかの項目が、概 念的にはOCIに認識される資格を有するであろう。このことは驚くことで はない。何をOCIに認識すべきであるかに対する現行のアプローチが、首 尾一貫した決定を導くための明示的な概念なしに開発されてきたからである
([13],para.8.77)」と述べたうえで、D.P.(2013年)は、現在OCIに認識され ているが、アプローチ2Aの適用が困難な項目として①年金(確定給付資産また は負債の純額の再測定)と②有形固定資産・無形資産の再評価を指摘している。
D.P.(2013年)は、年金(確定給付資産または負債の純額の再測定)に対
してアプローチ2Aの適用が困難な理由を次のように説明している16)。
確定給付資産または負債の純額は、一般に長期的なものであり、このことは、
金利などのような変動性の高い市場ベースのインプットの小さな変動が、当期 に認識される再測定に重大な影響を与える可能性があることを意味する。これ
らの影響は、長期の保有期間にわたり元に戻るかまたは大きく変動することが ありうるので、財務業績に関する情報は、これらの再測定をOCIに表示する ほうがより一層適切に伝達できると主張する人々がいる([13],para.8.72)。し かしながら 、 アプローチ2Aを適用すると、IAS第19号「従業員給付」に準拠 した,確定給付年金資産または負債の純額の再測定は、次のような理由でOCI に認識されないであろう([13],para.8.73)。
(a) 認識または再測定されていない、結び付きのある項目がないため、ミス マッチのある再測定ではない。
(b) 橋渡し項目ではない。純損益に認識された累計額は、負債または資産の 有意義で、理解可能でかつ明確に説明できる測定値と整合的でない。こ れは次の理由による。
(ⅰ) 純損益に認識される金額は、各期首において再設定される割引率を用 いて決定される。これらの金額の累計額は、経緯によってしか説明で きず、有意義で、理解可能で、かつ明確に説明できる測定値として説 明できない。原則的には、このことは義務の存続期間を通じて純損益 における認識について単一の割引率を使用することにより克服できる が、このことには、相当の追跡作業と運用上の複雑性、または極めて 恣意的な単純化が必要となる。これにより生じる情報が財務諸表の利 用者にとって目的適合性を有することが明らかではない。
(ⅱ) 実際のキャッシュ・フローと過去の見積りとの間の差額が、リサイク リングされずにOCIに累積される。これらの差額に対するリサイクリ ングについてのどのような基礎も、恣意的となるかまたは極めて複雑 となるであろう。
また、D.P.(2013年)([13],para.8.75)は、有形固定資産の再評価に対して アプローチ2Aの適用が困難な理由について、「現行のIFRSで要求している有 形固定資産および無形資産の再評価は、橋渡し項目の定義に該当しないように
思われる。IAS第16号およびIAS第38号『無形資産』に準拠して、純損益に 認識される減価償却の金額が再評価後の帳簿価額を用いて算定されるからであ る。したがって、減価償却累計額控除後の取得原価は、有意義で、理解可能で、
かつ明確に説明できる測定値にはならない。さらに、これらの基準は、リサイ クリングを認めていない」と説明している17)。
(2) アプローチ2B(OCIに対する広いアプローチ)
ここでは、アプローチ2B(OCIに対する広いアプローチ)を①アプローチ 2Bの原則と②アプローチ2Bの原則の適用について説明したうえで、③アプ ローチ2Bの問題点を明らかにする。
1) アプローチ2Bの原則
D.P.(2013年)は、アプローチ2Bの特徴(OCIに対する広いアプローチ)
について、「アプローチ2Bは、アプローチ2Aよりもより一層多くの項目を OCIに認識することを認めるであろう。アプローチ2Bは、IASBが特定の基準 を開発または改訂する際に,ある収益または費用の項目をOCIに認識すべきか 否かの決定や、当該項目をその後にリサイクルすべきか否かの決定についてア プローチ2Aよりもより一層大きな裁量をIASBに認める([13],para.8.80)」と 説明したうえで、アプローチ2Bのもとで適用される「純損益をOCI項目と区 別するための原則」を次のように説明している。
① アプローチ2Bは、アプローチ2Aとおおむね同じ原則を使用するが、原 則1と原則2をより広く解釈し、原則3を修正する。原則1(「純損益に 表示する収益および費用の項目は、企業がある期間に自らの経済的資源 に基づいて得たリターンに関する主要な情報源を提供する」)と原則2
(「すべての収益および費用の項目は、ある項目をOCIに認識することに より当該期間の純損益の目的適合性が高まる場合を除いて、純損益に認 識すべきである」)は,同じである([13],para.8.81)。
② アプローチ2Bは、原則1および2を適用する際に、純損益に認識する
測定値の性質について、より幅広い見解を採用している。アプローチ2A によれば、純損益の構成要素が、関連する資産または負債の有意義で、
理解可能で、かつ明確に説明できる測定値から生じる場合に限り、収益 または費用の項目を純損益の構成要素とOCIの構成要素とに分解するこ とが、純損益において目的適合性のある情報をもたらすことになるとの 見解を採用している。アプローチ2Bは、どのような情報が目的適合性 を有し、理解可能であるのかに関して、より幅広い見解を採用している。
すなわち、アプローチ2Bのもとでは、収益または費用の項目は、純損 益に認識する構成要素が目的適合性のある情報を提供する(つまり、純 損益の予測価値と理解可能性を高める)場合に、純損益とOCIに分解 されることができる。それが、関連する資産または負債について、明 確に説明できる測定値から生じる必要はないであろう([13],para.8.82)。
③ 原則3は、OCIに認識する収益または費用の項目をリサイクルすべき か否かを決定するための、より大きな裁量をIASBに与えるように修正 されている。アプローチ2Bの原則3は、次のように記述されている18)
([13],para.8.83)。
原則3:以前OCIに認識した項目は、振替が目的適合性のある情報をも たらす場合に、かつ、その場合に限り、純損益への振替(リサイクル)
をすべきである(強調追加)。
④ アプローチ2Aの原則3との相違は、次の点である([13],para.8.84)。 (a) アプローチ2Bに限り、ある項目がその後においてリサイクリングす
る資格を有しない場合であっても、OCIに認識される場合がある。し たがって、
(b) アプローチ2Bのもとでは、アプローチ2Aのもとでよりも一層広い範
囲の収益および費用の項目がOCIに認識される可能性がある。
2)アプローチ2Bの原則の適用
D.P.(2013年)は、アプローチ2Bの原則の適用に関する基本的見解について、
次のように説明している。
アプローチ2Bは、アプローチ2Aの概念(「橋渡し項目」と「ミスマッチの ある再測定」)に加えて、OCI項目の追加的なカテゴリ-を導入する。この追 加的なカテゴリ-は、長期性の資産または負債の中にはその再測定を純損益の 外で反映するのが最も適切であるとの見解を基礎としている。この見解を有 する人々によれば 、 それらの項目の長期的な性質や割引率などのようなイン プットの小さな変動に対して生じる感度によって、将来のリターンについて の予測力が低い再測定、あるいは、場合によっては、純損益の情報を不明瞭 にするまたは理解を困難にするかもしれない再測定が生じると考えられてい る([13],para.8.86)。こうした状況で、再測定(または、より一般的には、再 測定の分解した構成要素)をOCIに表示することは、資産が将来キャッシュ・
フローにどのように寄与する可能性が高いのかまたは負債がどのように決済さ れる可能性が高いのかに関して、透明性のより高い情報を提供するであろう
([13],para.8.87)。
D.P.(2013年)([13],para.8.88)によれば、「アプローチ2Bは 、 上記の基本 的見解に基づいて、ミスマッチのある再測定と橋渡し項目の使用に加えて、収 益および費用の項目が次の(a)~(c)の特徴のすべてを有している場合には、
IASBはそれらをOCIに認識することを検討すべきであると提案している。
(a) 長期間にわたり、資産が実現するまたは負債が決済するであろう。
(b) 当期の再測定が、資産または負債の保有期間にわたり、完全に元に戻る かまたは著しく(いずれかの方向に)変動する可能性が高い。
(c) 当期の再測定の全部または一部をOCIに認識することにより、企業が自 らの経済的資源に基づいて得たリターンの主要な指標としての純損益の 目的適合性と理解可能性が高まる。
なお、D.P.(2013年)([13],para.8.89)は、上記の8.88項に列挙した(a)~(c) の特徴のすべてを有し、IASBがOCIに認識すべきであると判断する収益また は費用の項目を総称して「一時的な再測定」と呼んでいる。
2)-1 一時的な再測定の例示
D.P.(2013年)は、「確定給付年金負債または資産の純額の再測定」を一時
的な再測定についての例として次のように説明している。
一時的な再測定の1つの例は、確定給付年金負債または資産の純額の再測定 であろう。個々の義務は、従業員が退職し、最終的には死亡するにつれて決済 されるであろう。この形態の決済の対象期間は、一般的に長期的なもの(つまり、
従業員の寿命)と考えられる。この対象期間の長さとリスクの性質により、確 定給付制度債務および制度資産から生じる保険数理差損益は、多くの報告期間 にわたり著しく変動すると予想される。再測定は将来キャッシュ・フローの不 確実性とリスクに関する情報を提供し、それらの不確実性とリスクを財政状態 計算書に反映する。しかしながら 、 再測定は、当該キャッシュ・フローについ ての可能性の高い金額および時期に関する情報をほとんど提供しない。したがっ て、再測定をOCIに認識することにより、それらの各項目の予測価値の間の相 違が透明になり、それらがより高い予測価値を有する純損益の項目と区別され る。このことにより、純損益はより一層理解可能なものになる([13],para.8.90)。
一時的な再測定がリサイクルされるのは、リサイクリング調整が、リサイ クリングにより財務報告に加わるコストと複雑性を正当化するのに十分な目 的適合性のある情報を提供する場合に限られるであろう 。 したがって、IASB は、OCIに含まれるそれぞれの個別の種類の一時的な再測定を扱う基準におい て、その再測定をリサイクルすべきか否か、および何時リサイクルすべきかを 決定するであろう([13],para.8.91)。 たとえば、確定給付負債の純額の再測定 について、運用可能であるとともに目的適合性のある情報を提供するリサイク リングの適切な基礎を識別することは困難である(8.73項(b)18頁参照)ため、
IASBは、それらの一時的な再測定をリサイクルすべきではないと決定する可
能性がある 。 なお、アプローチ2Aと同様に、リサイクリングが橋渡し項目と ミスマッチのある再測定について常に使用される([13],para.8.92)。
2)-2 OCI項目の現行の取扱いに対するアプローチ2Bの適用
D.P.(2013年)([13],para.8.94)は、表2において、アプローチ2BがOCI 項目の現行の取扱いおよび提案されている取扱いに対してどのように適用され るのかを説明している。
表2: OCI項目の現行の取扱いおよび提案されている取扱いに対する アプローチ2Bの適用✳
IFRS またはIFRS案
認識される資産
または負債 OCI項目
アプローチ 2Bを用いた OCI項目か
現在のまたは 提案されている
IFRSに基づく OCI処理の根拠 IFRS第9号
2012年公開草案
OCIを通じて公正価 値で測定する金融資 産
割引率の変動 Yes 橋渡し項目
保険契約
2013年公開草案 保険契約 割引率の変動 Yes 橋渡し項目 IAS第16号
IAS第38号 IFRS第6号
有形固定資産、無形 資産、探査および評 価資産
再評価益
または戻入れ Yes 一時的な再測定
IAS第19号 年金-確定給付資産
または負債の純額 再測定 Yes 一時的な再測定 IAS第21号 在外事業体に対する
純投資およびヘッジ 為替差額 Yes ミスマッチのあ る再測定 IFRS第9号
2010年公開草案
キャッシュフロー・
ヘッジ手段
公正価値の変動
の有効部分 Yes ミスマッチのあ る再測定
IFRS第9号
純損益を通じて公正 価値で測定するもの に指定した金融負債
発行者自身の信 用リスクに起因 する公正価値の 変動
Yes 一時的な再測定
IFRS第9号 資本性金融商品に対
する指定された投資 公正価値の変動 Yes 一時的な再測定
✳D.P.(2013年)([13],para.8.94)は、その脚注71において、「金融商品についての分析は IFRS 第9 号『金融商品』、IFRS 第9 号2010 年公開草案(ヘッジ会計)およびIFRS 第9 号
2012 年公開草案(分類および測定)に基づいている。この分析はIAS 第39 号を扱っていない。
持分法投資の中で生じたOCI項目は、表示している個々の項目の分析に従う」と説明している。
3)アプローチ2Bの問題点
企業会計基準委員会(ASBJ)は、「純損益/その他の包括利益および測定」
と題するペーパー(以下において、ASBJペーパーと略称する)を2013年12 月の会計基準アドバイザリー・フォーラムの会議における議論のために提示し た。ASBJ([1],p.1)は、本ASBJペーパーにおいて、「DPにおいて明示された 提案と多くの点で共通の見解を持っている。しかしながら、DPには改善しう るいくつかの領域があると考えている」と述べたうえで、OCIは「連結環」と いう単一の概念で説明できるとの観点から、アプローチ2Bの問題点を次のよ うに指摘している。
① DPは、OCIを3つの区分に分類している。つまり、「橋渡し項目」、「ミ スマッチのある再測定」および「一時的な再測定」である。しかしながら、
ASBJは、ASBJペーパーの第7項で提案した定義(OCIとは、企業の財 政状態の報告の観点から目的適合性のある測定値と企業の財務業績の報 告の観点から目的適合性のある測定値が異なる場合に使用される「連結 環(linkage factor)」である)に基づいて、単一の区分、つまり「連結環」
を提案している([1],para.14)。
② DPは、在外事業体に係る為替差額をミスマッチのある再測定に分類して いる。しかしながら、ASBJは、このOCI項目は連結環として説明でき ると考えている([1],para.74)。また、DPは、キャッシュフロー・ヘッジ から生じるOCI項目をミスマッチのある再測定に分類している。しかし ながら、ASBJは、一般的に、キャッシュフロー・ヘッジから生じるOCI 項目は、連結環として説明できると考えている([1],para.77)。
③ DPは、IAS第19号「従業員給付」に準拠した確定給付年金資産または 負債の純額の再測定を、橋渡し項目にもミスマッチのある再測定にも分 類していない。DPは、この項目は、割引率の再設定とリサイクリングの 問題があるため、橋渡し項目には分類できないと説明している。DPのア
プローチ2Bにおいては、この項目は一時的な再測定に分類されている
([1],para.80)。適切なリサイクリングのモデルを決定することは困難で あるかもしれないが、ASBJは、容認できるリサイクリングのモデルの開 発は可能であり、したがって、確定給付資産または負債の再測定は,連 結環として説明できると考えている([1],para.83)。また、純損益を通し ての公正価値による測定を指示された金融負債の公正価値の変動のうち、
発行者自身の信用リスクによる変動は、DPのアプローチ2Bにおいては、
一時的な再測定に分類されている([1],para.84)。ASBJは、この項目は連 結環として説明できると考えている([1],para.86)。
Ⅳ むすび
D.P.(2013年)は、どの項目をOCIに含めるべきかに関する2つのアプロー
チ①アプローチ2A(OCIに対する狭いアプローチ)と②アプローチ2B(OCI に対する広いアプローチ)を検討している。両アプローチとも、収益および費 用の項目がOCIに含められる資格を有しない限り、それらの項目を純損益に おいて認識することを要求している。各アプローチにおいてOCIに含める項 目は、26頁の図表1のように要約できる([14],p.9)。また、各アプローチに対 する賛成論と反対論は、26~27頁の表3のように要約できる([13],para.8.97)。