経営 と経済 第88巻 第 1号 2008年6月 27
人員間の距離とコミュニケーション ・パターン に関する実証分析 :
ある国内電機 メーカーを対象 として1
阿 部 智 和
Abstract
Thispaperfocusesthatsometherelationshipbetweencommunica‑ tionpatternsandthedistance.Thepapershowsthataninverserelation‑
shipbetweenthedistanceseparatingemployeesandtheamountofface tofacecommunicationoccumngbetweenthem.Andthepaperalso showsthatthedistancepositivelycorrelateswiththeamountoftele‑ phonecalls,anddoesnotwiththeamountofe‑mail.Theresearch reportedhereindicatesthattelephonecallsareconvenientalternativeto facetofacecommunicationwhengeographicallydispersedemployees wanttocommunicate.Anditalsoindicatesthatthecommonbeliefthat e‑mailareconvenientalternativetofacetofacecommunicationwhen geographicallydispersedmaybefalse,andthattheuseofe‑mailisir‑ relevanttothedistance.
Keywords:CommunicationPattern,Distance,Media
1.はじめに
本論文の 目的は,組織 メンバー間の物理的な距離がコミュニケーシ ョン ・ パ ターンにどの ような影響を及ぼ しているのか ということを実証的 に示す こ
とにある.われわれは,①組織 メンバーの物理的距離が隔たるほど対面 コミ ュニケーシ ョンの発生回数はかな り劇的に低下することと②電話は距離を隔
てた者 とのコミュニケーシ ョン手段 にな りうるのに対 し,電子 メールは距離 とは無関係に利用 されること,の2点を既 に明 らかにして きた (阿部,2006).
本論文では, この ような関係が 日本企業で広 く観察される可能性が高い と主 張するべ く,あるひ とつの企業組織を対象 として,阿部 (2006)と同様の分 析 を展開することとしたい.
具体的に分析結果 を紹介する前に,そもそ もなぜ,人員間の物理的距離 と い うオフィス空間の物理的特徴 がコミュニケーシ ョン ・パ ターンに及ぼす影 響 に本論文が注 目しているのかを明 らかにす る必要がある と思われる.ここ ではわれわれが この領域 に注 目している2つの理 由を簡単 に述べてお くこと に しよう.
まず本研究 がこの ような分析 に注 目した理 由の 1つは,オフ ィス空間の物 理的特徴 は経営学の領域で必ず しも十分な注 目を集めて きた分野ではないこ
とである.オフィス空間の物理的特徴 とコミュニケーシ ョン ・パ ターンにつ いては,HerbertA.Simonがその著書AdministrativeBehaviorの中で 「物 理的な近接性はコミュニケーシ ョンの頻度を決定する実際の要因である.そ れゆえ,オフ ィスの レイアウ トは,コミュニケーシ ョン ・システムを決定す る際 に重要な公式的要因のひ とつである2」 と指摘 していた ように,経営学 者たち もそれが重要である とい う認識は有 していた問題である と言 える. し か しなが ら,経営学者, とりわけ組織論の研究者はオフ ィス空間の諸特徴が
もた らす効果 については十分な注意 と実証努力を積み重ねて きたわけではな い (Becker,1981;Zalesny,FaraceandKurchner‑Hawkins,1985).組織 論 を専政 する研究者 たちは,経営者 な ど組織 を設計す る老 たちが組織 メン バーのコミュニケーシ ョンについて思慮を巡 らす際に,タスクの構造や情報 流の設計をすることで対処で きると考 えて きたように思われる.しか しなが ら,Allen (1977)は,人員間の距離 が離れ ることで対面 コミュニケーシ ョ ンが阻害 される効果は,彼 (女) らを同じ公・式組織ユニ ッ トに所属 させるだ けでは打ち消す ことができない, とい う知見 を提出 している.それゆえ,級
人員間の距離 とコミュニケーシ ョン .パ ターンに関する実証分析 :
ある国内電機 メーカーを対象 として 29
織 を設計する際に物理的な設計の影響 も考慮 に入れなければ,本来は頻繁 に 情報交換 をしなければな らない組織 メンバー同士がコミュニケーシ ョン不足
に陥 って しま うことな どが想定 されるのであ る.
われわれがオフィス空間の物理的な特徴 に注 目する第 2の理 由は,少な く とも日本国内の経営学領域 に限 ってみれば この問題領域 における計量的な実 証研究がほ とん ど行われていないことである.これまでの先行研究は欧米を 中心 として行なわれた ものであ る.た とえば,Allen (1977)がアメ リカの ハ イテク企業の研究所を対象 として行なった調査 などがその代表例である.
しかし,空間 とコミュニケーシ ョン ・パ ターンは,た とえば適切な物理的距 離の取 り方な ど,文化の違 いにより国ご とに異なる可能性があるため, 日本 における実証研究を行な うことで,先行研究 とは異なる知見が見出される可 能性 がある3.た とえば,Hall(1959;1966)の一連の研究 に見 られ るよう に,文化間によって適切な対人距離には違いがあるとされている. この よう に考 えるな らば, 日本におけるオフ ィス空間の特徴 とコミュニケーシ ョン ・ パ ターンの関係を実証的に明 らかにする作業 に意味があ るもの と思われる.
以下では,まず先行研究が提 出 して きた知見の紹介を行な う.その上で,わ れわれが行な った実証研究について紹介す ることにしよう.
2.先行研究の紹介 と仮説
人員間の距離がコミュニケーシ ョンに影響 を与 えることを実証的に示 した 研究 としては,Allen (1977)とConrath (1973)による研究が有名である4.
もちろん実証的に研究な どしな くて も,人員間の物理的な距離 が離れるほ ど コミュニケーシ ョンが阻害 される, とい う関係が存在する と予想す ることは 比較的容易であろう.しかし,Allenが実証的に示 した距離の コミュニケー シ ョン阻害効果の大 きさは,われわれの予想を裏切るほ ど大 きかった ように 思われ る.
た とえば,Allen (1977)の研究開発部門を対象 とした研究を見てみると, 研究者 と研究者を隔てる物理的な距離がコミュニケーシ ョン頻度に及ぼす負 の影響は劇的なまでに大 きい.Allenは,アメリカにおける7つの研究所 を 調査対象 として,そ こで働 く研究者のコミュニケーシ ョン ・パ ターンが互い を隔てる距離 に応 じて どの ように変わるのか, という事を実証研究によって 示 した.その関係が図 1に示 されている.
図 1 人員間の距離と対面回数の関係
I̲tA○●3uOl一O̲」IVbLJ!IOU!UP)uJuJ8‑OA‑蓋oqo‑d 5∽MS∽
0 c oo 0
O IO 20 30
a0
40 50 60 70 80
SepcrOIIE)nDistonce〜S。lrTtelers) 90 100
出所 Allen (1977)p.239
なお,図中の直線の回帰式は,P(C)‑β1*SaJl+β2である。
図 1の縦軸のコミュニケーシ ョン発生確率 とは,1週間の内に,何 らかの 科学的な問題 に関 して, 2人の人間がコミュニケーシ ョンを取 る確率を測定 したものである.この図は距離が遠ざかるほどコミュニケーシ ョンの発生確 率が指数関数的に低下 してい くことを実証的 に示 している.実際に,Allen の推定 した回帰式 (P(C)‑β1*Sa1+β2)を使 って より具体的に計算 してみ
る と,人員間距離が1メー トルの際には同僚 と1週間内に少な くとも 1回は コミュニケーシ ョンを取 る確率が55パーセン トもあるのに対 し,30メー トル
人員間の距離とコミュニケーション ・パターンに関する実証分析 :
ある国内電機メーカーを対象として 31
以上離れ る と,約5パーセン トにまで低下す るのであ る5. この知見 か ら, 以下の仮説が導出される.
仮説 1 組織 メンバー間の物理的距離 が大 き くなるほど,対面 コ ミュニ ケーシ ョンの回数は劇的に減少 してい く.
もちろん人間は物理的に離れていて も,電話や手紙,電子 メールな どでコ ミュニケーシ ョンを取 ることがで きる.その意味では距離が離れるにつれて 対面 コミュニケーシ ョンが発生 しに くくなる とい う効果 を打ち消すべ く,こ
れまでにも人 々は多様なコミュニケーシ ョン手段 を工夫 して用いていること が想定 される6.ここから,以下の仮説が導 出され る.
仮説2 コ ミュニケーシ ョンを取 る必要がある場合には,距離が隔たるほ ど,電話での コ ミュニケーシ ョンは増加する.
仮説3 コ ミュニケーシ ョンを取 る必要がある場合には,距離が隔たるほ ど,電子 メールでの コミュニケーシ ョンも増加する7.
つま り,距離の もた らす コミュニケーシ ョンの阻害効果を緩和す るための 対策 として,電話な どのコミュニケーシ ョン ・メデ ィアを導入することが有 効であるとい う仮説 が,仮説 2と仮説3であ る.
3.
調査対象に関する説明本論文で用 いるデータは,国内電機 メー カーの関連会社 1社 (B社) に 対する質問票調査か ら得 られた ものである8.調査対象 とな ったのはB社の 製品開発部門に所属 し,同じオフ ィスを使用 している97人であ った.主な質 問事項 は,過去1週間内に自分の仕事を進める上で重要なコミュニケーシ ョ ンを取 った相手を4人挙 げ,その4人 との物理的な距離 とコミュニケ‑シ ョ
ン回数を尋ねる, というものである.最終的 に75人から回答を得た.欠損値 のある回答な どを取 り除 き,最終的に分析 に使用 したのは69人分の回答であ る.
4.変数の設定 (1) 独立変数
本論文では回答者 とコミュニケーシ ョン相手 との机の物理的距離を独立変 数 として用いる. ここでは
,
「相手の方の座席 とあなたの座席 との間には, 歩 くと何 メー トル くらいの距離があ りますか」 という質問に対 して,各回答 者 が最 も適切であ る と判断 した選択肢 を回答す る形式を取 っている9.ここ でわれわれが物理的な距離を実測せず,回答者による選択肢の選択に委ねた のは,回答者の所属部門が製品開発部門であ り,企業の重要機密事項 に関わ る部門であるため,われわれが実際に測定す ることが困難であったためであ る10.分析に際 しては,以下の手順で変数の処理 を行な った.まず,それぞれの 選択肢 を中央値 に変換 した.た とえば
,
「2メー トル以上 ・5メー トル未満」とい う選択肢 の場合,その中央値の3.5メー トルに変換 したのである.その 級,この変換 した値 を対数 に変換 した.分析 には, この対数変換 した値 を用 いることにしたい 11.
ここで対数 に変換 した理 由は,Allenの知見を参考に したためである.図 1に示 されていた ように人員間距離 が数 メー トルである うちは,距離 が数 メー トル隔たるだけで も,コミュニケーシ ョンの発生確率に対 して与 える影 響 は大 きい. しか しなが ら,距離 が,100メー トル程度離 れて しまうと, さ
らに数 メー トル離れた として も,その数 メー トルが及ぼす影響は きわめて小 さいことが理解で きるであろう.それゆえ,Allenの採 った手順 に従い,分 析 に際 して対数変換 を行な うことにしたのである.
人員間の距離 とコミュニケーション ・パターンに関する実証分析 : ある国内電棟メーカーを対象として
(2) 従属変数
33
本論文で取 り上げ る従属変数は,コミュニケーシ ョン相手 との 1週間あた りの①対面回数 と②電話回数,③電子 メールの数,の3つの変数である. こ れ らの項 目については,実際にコミュニケーシ ョンを取 った回数を記入 して もらった.よ り具体的には,質問票を配付 した前 日までの 1週間について, 対面 と電話 によるコミュニケーシ ョンに関 してはその回数を,電子 メールを 用いたコミュニケーシ ョンについては,電子 メールの往復数を尋ねている.
本論文では,分析の対象をコミュニケーシ ョンの回数 と考 えている.それ ゆえ,1人の回答者 につ き4人いるコミュニケーシ ョンの相手 を,それぞれ 独立 した1サンプル として取 り扱 うこととした12.すなわち, 1人の回答者 か ら4つのサンプルを分析 に用いることになる. この点 には若干の問題が含 まれるであろう.すなわち,サンプルの独立性に関する問題である.1人の 回答者 か ら取 った4つのサンプルは,その回答者の行動パ ターンを反映 して いる.それゆえ,4サンプルは類似の特徴を もち,サンプル問に強い相関関 係が存在 し,正 しい分析結果を得 ることがで きない可能性がある.そのため, サンプルの独立性に関するチ ェックを施す こととした.その作業手順は注釈 13に詳細 に示 されている13.それ らの処理 を行な った後 に,分析を行な うこ
とにした.最終的に分析 に用いたサンプル数は,258である.
(3) 統制変数
組織 メンバーのコミュニケーシ ョン ・パ ターンに影響 を与 えうる変数は, 組織 メンバー間の物理的距離以外にも存在 しうる.た とえば, コミュニケー シ ョン相手 と同じ部門に所属 した経験がある場合 とそ うでない場合 を比較 す る と,以前か らの知 り合いであ るほうがコミュニケーシ ョンを取 りやすい と いった ことが考 えられる14.そ こで本論文では,表 1に示 されているように,
(ア)回答者の属性 と(イ)社 内のネ ッ トワー ク, (ウ)回答者 自身の タスク, (エ)職種,(オ)コミュニケーシ ョン相手 との仕事上の関係,(カ)コミュニケ‑
シ ョソ相手 との共通のバ ックグラウン ド,の6つのカテゴリの変数群を統制 変数 として用いることにした.これ らの統制変数がコミュニケーシ ョンに与 える影響については,仮説 1か ら3について検討を加えた後に,い くつか注 目すべきものについてのみ論 じることにしたい.
表 1 統制変数に関する説明 (ア) 回答者の属性
(9 性別 男性‑0,女性‑ 1のダミー変数.
(参 役職 何 らかの役職 についている場合を 1,そ うではない場合を 0としたダミー変数.
③ 在籍年数 ・建物配置期間 実際の年数をそのまま投入 している
(イ) 社内のネ ットワーク
(∋ 社内の相談相手の数 社内の相談相手の数 に関 して直感的に最 も近い と思 う選択肢 を選ん でもらった.ここでは,技術 に関す る相談相手 と市場ニーズに関す る相談相手の2種類の 相談相手について尋ねている.
(ウ) 回答者 自身のタスク
(丑 ルーティンの割合 仕事時間に占める,ルーテ ィン作業 と新規事業等に関する作業の割合 を合計で100パーセン トになるように答えて もらった.
(エ) 職種
① 職種 ダミー スタッフ,営業 ・マーケテイング,研究開発,その他 (該当する‑ 1) とす るダミー変数.回帰式には,スタッフ,営業 ・マーケテ イング,その他を投入 している.
(オ) コミュニケーシ ョン相手 との仕事上の関係
① タスクの相互依存度 密接に関連 している‑7‑互いに独立 して仕事を進め られる‑1と した変数.
② 会話 に直近の話題が占める割合 最大で も 1年先までの仕事に関す る話題 と,2,3年先 の新規事業に関わる話題を合計100パーセン トになるように答えて もらった.分析には直 近の話題の割合をそのまま利用 した.
(カ) コミュニケーシ ョン相手 と共通 とのバ ックグラウン ド
① 共通のバ ックグラウン ド 入社年次,同チーム経験,同プロジェク ト経験,同一出身校 同時期に社員寮を使用,同一出身地 (それぞれ ほぼ同 じ ・該当するを 1としたダミー変 数)の6変数.
人員間の距離 とコミュニケーシ ョン ・パターンに関する実証分析 :
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5.分析結果
(1) 対面回数
表 2に示 されているように距離 と対面回数 との間には負の関係がある (回 帰係数‑0.284, 1パーセン ト水準で有意).すなわち,人員間の距離が隔た るほど対面回数は減少 してい く,という関係が確認され るのである.これは, 日本企業A社 を対象 とした阿部 (2006)と同様の傾向である.
では,距離 と対面回数のみの関係を図示 した図2を見なが ら,人員間の距 離が もた らす影響についてより具体的に検討することにしよう.図 2には縦 軸 に対面回数,横軸 に距離を取 っている.図2か ら明 らかな ように,距離 が 大 き くなると,対面回数が劇的に減少 している.ここで,実際に得 られた回 帰式 (対面回数 ニー1.444×Ln(m)+ll.700)を用いて計算 してみる と,距 離 が1メー トルの時には約11.7回の対面 コミュニケーシ ョンが1週間に発生 し
ているのに対 し,相手 との距離 が60メー トルになると,対面回数は約5.8回 とほぼ半減 してい ることがわか る. ここで も,A社の分析結果 との比較 を してお こう.A社 を対象 とした分析では回帰係数 が‑1.513であるのに対 し て,本論文では ‑1.444であ り回帰式の傾 きが若干緩やかである.すなわち, B社の方が人員間距離 によって生 じる対面 コミュニケーシ ョンの阻害効果は 若干弱いのであ る. よ り具体的 には,A社 を対象 とした分析 では コミュニ ケーシ ョン相手 と約40メー トル離れると対面回数が半減する.それに対 して, B社の場合,約60メー トルで対面回数は半減する.すなわち,約20メー トル
の差がある.確かに対面回数が半減する程度に差はあるものの,相手 とわず かな距離を隔てるだけで対面回数が大 きく減少する事 について,ほぼ同様の 傾向が確認で きるであろう.
表2 回帰分析の結果 (独立変数 と一部の統制変数)
対面 回数 電話 回数 電子 メール往復数
標準化係数ベ ータ t 有意確率 標準化係数ベ ‑夕 t 有意確 率 標準化係数ベ ー タ t 有意確率
B社の結果 タスクの相互依存度 0.146 2.279
◆ ◆ ◆
0.088 1.481 0.170 2.691◆◆ ■会話に直近の話麺が占める割合 ‑0.099 ‑1.518 0.035 0.577 ‑0.012 ‑0̲188
人員間 の距離(対数 変換 ) ‑0.284 ‑4.396◆ ◆ ■ 0.238 3.952 0.070 1̲092 R2乗 0.177 0.283 0.196
調整済 みR2乗 0.111 0.226 0.133
F値 2.699 4.969 ** * 3.075
◆ ◆ ◆
N 258 258 258
【参考】
阿部 (2006)
の分析結果 人員間 の距離(対数 変換) ‑0.493 ‑10.697
◆ ◆ ◆
0.310 5.956◆ ◆ ◆
‑0.020 ‑0.379R2乗 0.354 0.176 0.188 調整済 みR2乗 0.325 0.139 0.152
F値 12.224
◆ ◆ ◆
4.754 ■◆◆ 5.177 ■ ■ ■'H p<.01 H .01≦ p <.05 *.05≦ p<.10
図2 人員間の距離 と対面 回数 の関係
出所 筆者が作成
人員間の距離 とコミュニケーシ ョン ・パターンに関する実証分析 :
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仕事上の重要 な コミュニケーシ ョンの回数が距離 に よって被 る阻害効果 は,それよ りも些末なものを含むコミュニケーシ ョン一般 についての もの よ りも深刻 とはいえないが,それで も図 2にみ られる関係は,距離の効果が比 較的大 きな ものであるという点ではAllenの発見事実 と本質的には類似 して いる と言えるだろう.ただ し,Allenの研究に対 して向け られた1つの批判 について, ここで も検討 を加えておかなければな らないだろう.その批判 と は,そ もそ も関係の薄い仕事は距離的にも遠 くに置かれてお り,それ故に重 要なコミュニケーシ ョンが少な くなるのではないか, とい う批判である.つ ま り,距離がコミュニケーシ ョン頻度に影響を及ぼ しているのではな く,タ スクの相互依存性が距離 とコミュニケーシ ョン頻度の双方 に影響を及ぼ して いる という見かけの相関が存在するのではないか とい うことである.
そこでコミュニケーシ ョン相手 との仕事の関係性に関連する変数,すなわ ち,「タスクの相互依存度」 と 「会話 に直近のタスクが占める割合」,の 2つ の変数 を検討 しよう.
まず,タスクの相互依存度 については,「相手の方の仕事 とあなたが現在 担当されている仕事 との問には, どの くらいの相互依存関係がある と思いま すか.作業その ものの相互依存関係の強さについて最 も近い選択肢 に○ 印を お付け ください.」という質問をし,「密接 に連関 している」を7点,「それぞ れ独立 に仕事 を進め られる」を1点 とした7点尺度で測定を している.タス クの相互依存度 とコミュニケーシ ョン との相関を確認すると,確かにコミュ ニケーシ ョン相手が遂行 しているタスクと回答者が遂行 しているタスク との 間の相互依存度が高いほ ど,対面回数 (回帰係数0.146,5パーセン ト水準で 有意)が増加 している.
また,「会話 に直近の タスクが占める割合」については,コミュニケーシ ョン相手 と話す内容において,「最大で も 1年先 までの課題」を対象 とした 話題が どの程度の割合を占めるかを尋ねている. この変数については,対面 回数 との間には有意な関係が見 られない.直近の タスクに関する話題 と対面
回数 との間に有意な関係が見 られないのは,多 くの回答者がコミュニケーシ ョン相手 と直近のタスクに関 して話 している割合が きわめて高いことが影響 している と思われる.より具体的に言 うと, コミュニケーシ ョン相手 と話す 会話の内容のうち,平均する と実 に77.6パーセン トも直近のタスクに関する 話題 に費や しているのであ る. これは,調査対象 となったB社 は製品開発 を担当す る開発者が中心であ り,ほぼ毎年新製品を市場 に投入 していること による と思われる.それゆえ,仕事で重要なコミュニケーシ ョンを取 る相手
とは,直近のタスクに関する話題 を話す時間が長 くなっているのであろう.
ここでの重要 なポ イン トは,コミュニケーシ ョン相手 との仕事上の関係性 を示す この2つの変数の影響 を統制 した として も,人員間の距離が対面回数 と有意な負の関係を持ち,また もっとも大 きな影響 を与 えている変数 に とど まっていると言 う点である.すなわち,相手 との仕事上の関係性は対面回数 に影響を与 えるのだけれ ども,それ以上 に距離が対面回数 に対 して与 える影 響は大 きい とい うことなのである.
(2) 電話回数
表 2に示 されているように,人員間距離 と電話回数 との間には正の関係が 見 られる (回帰係数0.238,1パーセン ト水準で有意).すなわち,距離が隔 た るほ ど電話回数は増加 してい るのである. ここで も,A社 を対象 とした 分析 と同様の傾 向が確認 される.やは り,電話は距離を隔てた場合のコミュ ニケーシ ョン ・メデ ィア となることを示 しているのであろ う.図3をみなが ら, ここで も距離単独の影響 を確認 しておこう.図3は縦軸 に電話回数,横 軸 に人員問の距離 を取 っている.図3か ら明 らかになるように,電話回数は 距離が100メー トル程度 になるまで急激 に増加 し,その後 は緩やかに増加 し ていることがわかる.
実際 に得 られた回帰式 (電話回数‑0.457×Ln(m)+0.025)を用いて計算 す る と,相手 との距離が1メー トルの際 には約0.03回 と電話 によるコミュニ
人員間の距離とコミュニケーション ・パターンに関する実証分析 : ある国内電機メーカーを対象として
図3 人員間距離と電話回数の関係
39
出所 筆者が作成
ケ‑シ ョソがはば取 られていないのに対 し,25メー トル離れ る と約1.5回に 増加す る. ここで もA社 に関する分析結果 と比較 しよう.A社の場合は, 相手 との距離 が1メー トルの際 には約 1回であるのに対 し,25メー トル離 れ る と約 2回になっていた. ここで注 目すべ きなのは,A社 とB社 において 電話回数が増加す る程度の差であろ う.A社 と比較 してB社 のほ うが同 じ 程度の距離 (20メー トル程度)離れると電話回数が大 き く増加 しているので
ある.コミュニケーシ ョン相手 とほんのわずか離れると電話 に頼 ったコミュ ニケーシ ョンが増加 してい く, とい う傾向 自体は変わ らないのだけれ ども, その増加の程度が大 きく異なるのである.この ことは,調査対象間の職種 の 違 いを反映 してい るのか もしれない.A社 には営業やマーケテ ィングな ど
の職種 が含まれていた.彼 (女) らは, 自席を離れていることも多い と考 え られる.それゆえ,普段は近い距離 に配置 されている同僚 とも携帯電話を用 いてコミュニケーシ ョンを取 ってお り,相手 との距離が近 くとも電話での コ
ミュニケ‑シ ョンがある一定量 あるのであろ う15.それゆえ,B社 と比較 す る と,同程度距離 (20メー トル程度)を隔てた場合の電話回数の増加があま
り大 き くない ように見えるのか もしれない.
(3) 電子 メールの往復数
電子 メール に関 して も,A社 の分析結果 と同様 の優 向が見 られた.こ こ で も,人員間距離 と電子 メールの往復数の間には有意な関係は見 られない.
すなわち,距離 が増 えたか らといって電子 メールのや りとりは増 えた り減 っ た りせず,また距離 が近 くなったか らといって電子 メールのや りとりが減 る ことがない,とい うことである.また,表3に示 されているように,電子 メー ルの往復数は対面回数 (相関係数0.121,5パーセン ト水準で有意) とも電話 回数 (相関係数0.330, 1パーセン ト水準で有意) とも正の有意な相関を示 し ている.つま り,対面回数の多い人 とは電子 メールの往復数 も多 く,電話の 回数の多い人 とは,やは り電子 メールの往復数 も大 きい ということである.
しかも,対面回数は距離 と負の関係があ り,電話回数は距離 と正の関係があ ることを思い出 して もらいたい.ここでもA社の結果 と比較 を しておこう.
A社で も電子 メールの往復数は対面回数 (相関係数0.220, 1パーセン ト水 準で有意) とも電話回数 (相関係数0.193, 1パーセン ト水準で有意) とも正 の有意な相関を示 している.相関係数の大 きさに若干の違いは見 られるけれ
表 3 相 関係数 表
平均値 標準偏差 1 2 3
1.距離 (対数変換後) 2.対面 回数
3.電話 回数 4.メール往復
1.99 1.86
8.83 8.56 ‑0.314***
0.93 2.85 0.299*** ‑0.080
3.64 4.82 ‑0.001 0.121** 0.330***
N‑271
***p<,01日 .01≦p<.05井 .05≦p<.10
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ども,両社 とも近 くに配置 されている相手 とは,対面 もしくは電子 メールで コミュニケーシ ョンを取 り,遠 くに配置 されている相手 とは,電話 もしくは 電子 メールで コミュニケーシ ョンを取 る傾 向にある, ということが示 される のであ る.
6.デ ィスカッシ ョン
本論文では, ここまで人員間の距離がコミュニケーシ ョン ・パ ターンに与 える影響について向けて きた.最後に,分析に投入 した統制変数に注 目を向 け,それ らの変数がコミュニケーシ ョンに与 える影響 について考察を加える こととしたい. ここでは特 に, (1)コミュニケーシ ョン相手 との共通のバ ッ クグラウン ドと(2)相談相手の数,の2つの変数に注 目し,その影響 を確認す ることにしよう.
(1) コ ミュニケーシ ョン相手 との共通のバ t・Jクグラウン ド
表4には分析 に投入 した統制変数が示 されている. ここで言 うコミュニ ケーシ ョン相手 との共通のバ ックグラウン ドとは,表4に示 されている,① 出身地が同 じである,② 同じ学校の出身である,③入社年次が (ほぼ)同 じ,
④ 同じ時期 に社員寮 にいた,⑤ 同じチームに所属 した ことがある,⑥ 同じプ ロジ ェク トに参加 したことがある, とい う6つの変数の事を指す16.
表4に示 されているように, これ ら6つの変数はコミュニケーシ ョン回数 との間に有意な関係は見 られない. 日本企業に見 られる独特の慣行である社 員寮や人事異動は,福利厚生や技能形成 といったその本来の 目的だけではな く,社 内の知人数を増加させ,社内のコミュニケーシ ョン ・ネ ットワークを 拡大す るとも考 えられて きた (石川,2002;伊丹 ・加護野,1993).しか し
なが ら,表4が示唆するのは, コミュニケーシ ョン相手 と同時期 に社員寮 に いた ことや同 じ部門に配属 された経験,同 じプロジェク トに加わった経験 が
表4 回帰分析の結果 (統制変数)
対面回数 電話回数 電子 メール往復数
標準化係数ベータ t 有意確率 療準化係数ベータ t 有意確率 標準化係数ベータ t 有意確率 (定数) 0.537 ‑2.470 ◆ ■ ‑3.169
■ ◆ ◆
回答者の属性 女性ダ ミー 0.069 1.108 ‑0̲012 ‑0.199 ‑0.034 ‑0.558 役職ダ ミー 0.124 1.661 ◆ 0.039 0.554 0̲024 0.329 在籍年数 ‑0.105 ‑1.322 0.132 1.782 ◆ 0.010 0.130 建物配属年数 0.046 0.731 ‑0.015 ‑0.247 0̲247 3.962 ◆ ■ ◆
相談相手の数 技術に関する相談相手 0.091 1.266 ‑0ー044 ‑0.657 0.068 0.948 市場ニーズに関す
る相談相手 ‑0.016 ‑0.224 0.124 1.846 ◆ 0̲221 3.102■ ◆ ■
タスク ルーテ ィンの占めろ乱合 0.085 1.334 0.053 0.890 0̲006 0.100
職種 スタッフ ‑0.063 ‑0.947 0.001 0.020 ‑0ー069 ‑1.054 営業 .マーケテ イング ‑0.094 ‑1.340 0.315 4.834
◆ ◆ ◆
0.073 1.063その他 ‑0.074 ‑1.129 ‑0.032 ‑0.526 ‑0̲018 ‑0.279
コ ミュニケー シ ョンとの共
通のバ ックグラウン ド 出身地が同じである ‑0.026 ‑0.274 ‑0.102 ‑1.167 ‑0̲046 ‑0.494 同じ学校の出身で
ある ‑0.016 ‑0.182 0.073 0.882 0̲041 0.466
入社年次が (ほぼ)
同 じ ‑0.012 ‑0.167 ‑0.058 ‑0.901 ‑0̲031 ‑0.455
同 じ時期に社員寮
にいた 0.060 0.898 0.048 0.772 ‑0̲014 ‑0.209
同 じチームに所属したことがある ‑0.087 ‑1,401 ‑0.024 ‑0.410 ‑0.046 ‑0.745
同じプロジェクトに
参加したことがある 0.078 1.234 0.087 1.460 ‑0.023 ‑0.367
‡
ⅠR2乗 0.177 0.283 0̲196
調整済 みR2乗 0.111 0.226 0.133
F値 2.6991 ■ ■ ■ 4.969 3.075 ◆ ◆ ◆
'*' pく.01 H .01≦p<.05 *.05≦p<,10
あ った として も,仕事 に関するコミュニケーシ ョンは増加する とは言えない, ということである.すなわち,かつての同僚 は現在の職務を遂行する上での 情報源 とはなっていない とい う事 をこの ことは意味 しているのであろう.そ こで, コミュニケーシ ョン ・ネ ッ トワークの広が りをよ り直接的に測定 した 変数である 「社 内の相談相手の数」に注 目し,その影響 について考察する事
に したい.
人員間の距離 とコミュニケーシ ョン .パ ターンに関する実証分析 : ある国内電機 メーカーを対象 として
(2) 相談相手の数
43
本論文では相談相手の数 に関 して,技術 に関す る相談相手 と市場のニーズ 情報 に関する相談相手 と2つの項 目に分けて尋ねている.なぜな ら,本論文 で対象 としているのは,主 として開発者であ り,彼 (女) らが製品開発活動 を遂行す る際には,技術上の問題解決等の相談だけではな く,市場のニーズ に関す る情報 を把握 した上で製品開発活動を遂行することが重要であ ると考 えたためである.
ここで注 目すべ きなのは,技術 に関する相談相手の数 とコミュニケーシ ョ ン回数 との間に有意な関係が見 られないのに対 し,市場のニーズ情報 に関す
る相談相手が増 えるほど,電話 回数 (回帰係数0.124,10パーセン ト水準で 有意) と電子 メールの往復数 (回帰係数0.221,1パーセン ト水準で有意)が 増加することであろう.これは,技術 に関す る相談相手の数は回答者間で個 人差が比較的見 られないのに対 して,市場のニーズに関する相談相手 に関 し ては,相談相手の数 が多い人 と少ない人 に分かれたためであ る と考 え られ
る17.
ここで相談相手の数が個 々人の持つ情報の量を決定す るとい う単純 な仮定 を置 くことに しよう.この場合,市場ニーズに関する相談相手 を多 く持つ人 はその情報量が多 くな り,相談相手の少ない人が持つ情報量は少ない とい う ことになる.B社の場合,市場ニーズに関す る相談相手が多い人 と少ない人 に分かれているか ら,市場のニーズに関する情報 を把握 している人は組織 メ ンバーの一部 に限 られる. こうした場合,市場のニーズ情報を持つ一部の組 織 メンバーは周囲か ら相談 され ることも多 くな り,結果 として コミュニケー シ ョンの回数が増加 しているのかもしれない.他 にもい くつかの解釈が成 り 立ち うるであろうが,調査対象 となった開発者たちが,製品開発活動を遂行 す る際 に市場 のニーズを意識 した行動 を取 ってい る と解釈 して よいであろ う.それゆえ,少な くともB社 に関 しては,ニーズ情報 を把握 している組 織 メンバーを どの ように配置 させ るか, と言 う事が組織 内での コミュニケ‑
シ ョソを考える上で重要な要因のひ とつである と言えるであろう.
7.ま と め
ここで,われわれが辿 り着いた到達点を簡単に整理 しておこう.その上で, A社 を対象 とした分析か ら得 られた知見 と本論文 で得 られた知見を比較 し, われわれが検討を加 えて きた人員間距離 とコミュニケーシ ョン ・パ ターンに 関する3つの仮説 について,企業横断的に同様の傾向が見 られるか どうかに ついて確認 してお くことにしよう.
7‑1.本論文のまとめ
Allen (1977)やConrath(1973)の研究 がすでに明 らかに していた よう に,人員間距離が隔たるほ ど,対面 コミュニケーシ ョンの回数は劇的に低下 することが本論文で も実証的に確認で きた.距離 を隔てている相手 とどうし て もコミュニケーシ ョンを取 らなければな らない場合には,人は電話に頼 る ようになる.携帯電話が発達 し,席の近い人 とも出張中な どに電話で話す こ とが多 くなった と思われる今 日で もなお,この当た り前の事実が確認で きた.
これ ら′の発見事実は,その程度がかな り劇的であるとか,携帯電話の影響 を 考 えて もなお成 り立 つな どの独特の特徴をもつものの,基本的には,われわ れの直感 に反 さない結果であるように思われる18.
しか しなが ら,電話 と同様 に距離を克服す るためのコミュニケーシ ョン手 段 と思われていた電子 メールは,本論文で も距離 との間に有意な関係は見 ら れなかった点は,やや直感 に反する結果だ といえるだろう.すなわち,距離 が遠 くなったか らといって往復数が増 えるわけで もな く,近 くなったか らと いって も減 るわけではない, とい う関係が確認 されたのである.電子 メール は対面回数 と正の関係を持ち,電話回数 とも正の関係を持 っていることも同 時 に示 された.この ことは,電子 メールは対面 もしくは電話 と連動 して用い