• 検索結果がありません。

手術の上顎発育と構音および 鼻咽腔閉鎖機能への影響について

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア " 手術の上顎発育と構音および 鼻咽腔閉鎖機能への影響について"

Copied!
10
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

は じ め に

口蓋裂では口腔と鼻腔が交通しているため, 口 腔内を陰圧にすることが不可能で哺乳困難を生ず る. また上顎の披裂という形態的な異常と鼻咽腔 閉鎖機能不全により言語障害が起きる. このため およそ半歳から歳までに手術を受けることが 望ましい.

また, 今日における口蓋裂の代表的術式として, の報告した 手術)があげら れる. 手術の目的は, ① 裂の閉鎖,

② 軟口蓋の後方移動, ③ の形成で あり, 本法はこれらつの目的を同時に満たすう えで極めて合理的な方法である. その一方で, 硬 口蓋の骨膜の剥離操作に起因する上顎劣成長を指 摘する報告も散見され)), その問題点を改良す る目的で硬口蓋前方の骨膜を温存する術式)や,

)などが開発された.

一方では, 本術式が上顎の劣成長に影響を与え ていないとする報告もあり)−), 本術式が上顎発 育に及ぼす影響について明確な答えは得られてい

――――――――――――

! "! # # $ !

%

手術の上顎発育と構音および 鼻咽腔閉鎖機能への影響について

久留米大学医学部形成外科・顎顔面外科学講座

井 野 康

口蓋裂に対し 手術を行った患者の術後の上顎発育と構音および鼻咽腔閉鎖 機能について, 我々が新たに設定した顎裂幅指数を用いて比較した. &'月より '''月までの期間に 手術を受けた全&症例中で, 術後年以上経過 観察が行えた片側顎裂を伴う口蓋裂'例と口蓋裂のみ(例の計((症例について, 術後 の上顎の発育と構音および鼻咽腔閉鎖機能について検討した. 口蓋裂のみ群(例では 全例で劣成長を認めず, 片側顎裂を伴う口蓋裂群'例では上顎劣成長ありが例劣成長 なしが&例であり, 顎裂を伴う群の方が有意に劣成長を生じやすかった. 上顎劣成長あり 群となし群の顎裂幅指数はそれぞれ%%(平均%') と'%%'(平均%) で あり, 検定で両群間に有意差を認めた. また, 顎裂幅指数と上顎劣成長の有無について の相関係数では, 両者の間に正の相関を認めた. '語単語検査および鼻漏出については, 構音・鼻咽腔閉鎖機能と顎裂の有無や幅の広さに関係は認めなかった. 手術 では, 上顎骨の劣成長を生じやすいとの報告があるが, 本法は上顎の劣成長に大きな影響 を与えておらず, その主たる原因が幅広い顎裂が徐々に近接することによる上顎アーチの 縮小にあると考えられた. また, 構音や鼻咽腔閉鎖機能に対しても本術式自体は影響を与 えておらず, 裂型による大きな差は認められなかった.

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

久留米医会誌,

,

(2)

ない. また, 顎裂幅の程度や上顎劣成長が本術式 施行後の構音および鼻咽腔閉鎖機能に及ぼす影響 についても同様である. その理由のつとして, 顎裂幅の程度を客観的に示す数値がなかったこと があげられる. それに対し, 我々は新たに顎裂幅 指数を設定した. この指数を用いて口蓋裂患者に 対し 手術を行った患者の上顎発育と構 音および鼻咽腔閉鎖機能を比較することにより, 本 術式がそれらに影響を与えるかについて検討した.

対 象 ・ 方 法

. 手術の上顎発育への影響について ) 顎裂の有無と上顎劣成長の関係について 対象は, 月より月までの 年間に当施設で同一の術式による 手術 (藤野法)) を受けた例中, 年以上経 過観察が行えた例を対象とした. これをさら に, 片側顎裂を伴う口蓋裂の例をⅠ群, 顎裂 を伴わない口蓋裂のみの例をⅡ群として (図 ), 顎裂の有無と上顎劣成長の関係について

検定を用いて解析した.

) 顎裂幅の程度と上顎劣成長について

① 顎裂幅指数の設定

Ⅰ群 (片側顎裂を伴う口蓋裂群) では, 顎裂幅 の程度を示す新たな指標として, 口唇裂手術前の 写真を用い, 顎裂幅/健側 の長さ=

顎裂幅指数を設定した (図).

② 上顎劣成長の有無と顎裂幅の程度 (顎裂幅 指数) の関係について

Ⅰ群の中で 手術後に, 反対・切端 咬合を認めた症例を上顎劣成長あり群 (Ⅰ群;

例), 認めなかった症例を上顎劣成長なし群 (Ⅰ群;例) とし (図), 両群間で顎裂幅 の程度 (顎裂幅指数) に差があるかについて 定を用いて検討した.

③ 顎裂幅の程度 (顎裂幅指数) と上顎劣成長 の有無の相関関係について

片側顎裂を伴うⅠ群例において, 顎裂幅の 程度 (顎裂幅指数) と上顎劣成長の有無との間に 相関関係を認めるかをピアソンの相関係数を用い 久 留 米 醫 學 會 雜 誌 平成

当科で行った 手術施行症例の内訳

㝖እ6౛

ᑠ㢡⑕4౛

㢦㠃ⴎ⦰1౛

ᡂே1౛

Pushback৖ᘐǛᘍƬƨ159̊

୧ഃཱྀ၁㢡ཱྀ⵹⿣

17౛

∦ഃཱྀ၁㢡ཱྀ⵹⿣

136౛

∦ഃ ⿣䜢క䛖 ⵹⿣

ᡂே1౛

㢡⿣䜢క䜟䛺䛔ཱྀ⵹⿣䛾䜏 70౛

∦ഃ㢡⿣䜢క䛖ཱྀ⵹⿣

66౛ ⤒㐣ほᐹ䛜5ᖺᮍ‶

59౛

5ᖺ௨ୖ⤒㐣ほᐹ䛷䛝䛯 㢡⿣䜢క䜟䛺䛔ཱྀ⵹⿣䛾䜏⩌

(ϩ⩌;27) 5ᖺ௨ୖ⤒㐣ほᐹ䛷䛝䛯

∦ഃ㢡⿣䜢క䛖ཱྀ⵹⿣⩌

(Ϩ⩌;50)

㝖እ14౛

ୖ㢡ຎᡂ㛗䛺䛧⩌

(Ϩ-B;39)

ୖ㢡ຎᡂ㛗䛒䜚⩌

(Ϩ-A⩌;11౛)

ୖ㢡ຎᡂ㛗䛺䛧⩌

◳䞉◳㌾ཱྀ⵹⿣

౛㻕

ୖ㢡ຎᡂ㛗䛒䜚⩌

㻔㻜౛㻕

⢓⭷ୗཱྀ⵹⿣

(ϨB;39) 㻔 ౛㻕 㻔㻝㻟౛㻕

50༢ㄒ

᳨ᰝ᪋

⾜౛ Ϩ’;27 0 ϩ’;11

㰯₃ฟ

᳨ᰝ᪋

⾜౛ Ϩ’’;30 0 ϩ’’;13

(3)

て検討した.

. 手術の構音および鼻咽腔閉鎖機能 への影響について

) 構音機能について

① 顎裂の有無と構音機能の関係について 片側顎裂を伴う口蓋裂の例の中で, 年齢が 歳以上の時期に構音機能評価を行えた をⅠ群とした (図).

次に, 顎裂を伴わない口蓋裂 (Ⅱ群) 例よ り粘膜下口蓋裂を除いた硬・硬軟口蓋裂を伴うも 例の中で, 年齢が歳以上の時期に同評 価を行えたものをⅡ群 (例) とした (図).

なお, 今回の検討より粘膜下口蓋裂群を除外した 理由は, 近年多くの報告)−)にもある様に口蓋裂 の中では特異的で比較対象となり難いためである.

構音機能の評価法としては, 日本音声言語医学 会版の単語検査を用いて言語聴覚士が聴取し, 正 確に発音できた語数を計測する方法 (単語検 査) を用いた. Ⅰ群, Ⅱ群のそれぞれの間で 構音機能に差があるかについて検定を用いて検 討した.

② 顎裂幅の程度 (顎裂幅指数) と構音機能の 相関関係について

顎裂を伴うⅠ例において, 顎裂幅の程 度 (顎裂幅指数) と構音機能との相関関係を認め るかをピアソンの相関係数を用いて検討した.

) 鼻咽腔閉鎖機能について

① 顎裂の有無と鼻咽腔閉鎖機能の関係について

Ⅰ群 (片側顎裂を伴う口蓋裂) 例の中で,

年齢が歳以上の時期に鼻咽腔閉鎖機能評価 を行えたもの例をⅠ群とした (図).

次に, Ⅱ群 (顎裂を伴わない口蓋裂) 例か ら粘膜下口蓋裂例を除いた硬・硬軟口蓋を伴 うもの例の中で, 年齢が歳以上の時期に 同評価を行えたものをⅡ群 (例) とした (図). なお, 構音機能と同様の理由で, 粘膜下 口蓋裂群は今回の検討より除外した.

鼻咽腔閉鎖機能の評価法としては, 子音 「パ, カ, タ」 の発音時に鼻息鏡を用いてからメモ リまでの鼻漏出を計測した. ただし, 口蓋瘻孔の 合併症例や精神発達遅滞や聴力障害を有する者は 除外し, 咽頭弁適応となった症例はその術前の結 果を用いた. Ⅰ群とⅡ群との間で, 鼻咽腔閉 鎖機能に差があるかについて検定を用いて検討 した.

② 顎裂幅の程度 (顎裂幅指数) と鼻咽腔閉鎖 機能の相関関係について

顎裂を伴うⅠ例において, 顎裂幅の程 度 (顎裂幅指数) と鼻咽腔閉鎖機能との間に相関 関係を認めるかをピアソンの相関係数を用いて検 討した.

なお, 本研究は久留米大学倫理委員会の承認を 得て行った (研究番号).

. 手術の上顎発育への影響について ) 顎裂の有無と上顎劣成長の関係について 片側顎裂を伴う口蓋裂群 (Ⅰ群) 例では上 顎 劣 成 長 あ り が 例 (%) な し が (%) であり, 顎裂を伴わない口蓋裂のみ群 (Ⅱ群) 例では上顎劣成長ありが例 (%) なしが例 (%) で, 両群の間に明らかな有 意差を認めた (, 表).

) 顎裂幅の程度と上顎劣成長について

① 顎裂幅指数の計測

Ⅰ群 (顎裂を伴う口蓋裂群) 例において, 顎裂幅指数は(平均) であった.

② 上顎劣成長の有無と顎裂幅の程度 (顎裂幅 指数) について

Ⅰ群 (顎裂を伴う口蓋裂) 例の顎裂幅指数 は, 上顎劣成長あり群 (Ⅰ群;例) で 顎裂幅指数の測定方法

顎裂幅 健側 の長さ =顎裂幅指数とした.

(4)

(平均), 上顎劣成長なし群 (Ⅰ 群;

例) で(平均) であり, 検定 で両群間に有意差を認めた (, 表).

③ 顎裂幅の程度 (顎裂幅指数) と上顎劣成長 の有無の相関関係について

Ⅰ群 (顎裂を伴う口蓋裂群) 例において, 顎裂幅の程度 (顎裂幅指数) と上顎劣成長の有無 の間に正の相関を認めた (図).

. 手術の構音および鼻咽腔閉鎖機能 への影響について

) 構音機能について

① 顎裂の有無と構音機能の関係について 単語検査の結果は, Ⅰ例で(平 ), Ⅱ例で(平均) あっ た (図). Ⅰ群とⅡ群の間に有意差を認めな かった ().

②顎裂幅の程度 (顎裂幅指数) と構音機能の相 関関係について

例において, 顎裂幅の程度 (顎裂幅 指数) と単語検査 (単語) との相関係数は であり, 相関関係を認めなかった (図).

) 鼻咽腔閉鎖機能について

① 顎裂の有無と鼻咽腔閉鎖機能の関係について 鼻漏出検査の結果は, Ⅰ例で (平均), Ⅱ例で(平均) であった (図). Ⅰ群とⅡ群の間に有意差 を認なかった ().

② 顎裂幅の程度 (顎裂幅指数) と鼻咽腔閉鎖 機能の相関関係について

例において, 顎裂幅の程度 (顎裂幅 指数) と鼻咽腔閉鎖機能との相関係数は であり, 相関関係を認めなかった (図).

久 留 米 醫 學 會 雜 誌 平成

片側顎裂を伴う口蓋裂群での顎裂幅指数の

比較 ()

顎裂幅指数 (口唇裂手術前) 上顎劣成長あり群

(Ⅰ)

(平均)

上顎劣成長なし群 (Ⅰ )

(平均)

()

顎裂幅の程度 (顎裂幅指数) と上顎劣成長 の有無の相関

両者の間に正の相関 () を認めた.

顎裂の有無と構音機能の比較 顎裂を伴う口蓋裂群と顎裂を伴わ ない口蓋裂群間に, 検定では有意 差を認めなかった ().

上顎発育についての結果 ()

Ⅰ群;片側顎裂 を伴う口蓋裂群

()

Ⅱ群;口蓋裂 のみ群 () 上顎劣成長あり (%) (%)

上顎劣成長なし (%) (%)

()

(5)

口唇・顎・口蓋裂患者に対する口蓋裂手術の歴史 をたどると, ( ) が最初に口蓋 裂を閉鎖した文献報告を行い, その後披裂縁の閉 鎖のみを目的とした術式が らによって改良された). は, 披裂縁を単に閉鎖するだけでなく口 蓋を後方へ移動させる術式へとさらに改良を加え ). つの有茎弁による軟口蓋の後方移動と, 前歯部のつの有茎皮弁による前方部分の閉鎖を 同時に行う !)は, "#$

手術の代表として今日でも多く用いられている.

しかしその後, "#$ の手術侵襲が上顎発 育の抑制をきたすとする報告が散見されるように なった)) )−). その原因としては, 骨膜を剥離 することによる骨・骨膜への直接侵襲)), 口蓋 動脈への侵襲による血流低下 ), および硬口蓋の 過緊張や瘢痕形成%))があげられている. この た め , 硬 口 蓋 前 方 の 骨 膜 を 温 存 す る 術 式) &)などの術式が工夫された. その一方 で本術式は上顎の発育に大きな影響を与えていな いとする報告も散見され%)−'), 現在において未だ 一定の見解が得られていない. そこで今回当施設 において, 口蓋裂患者に対し"#$ 手術を 行った患者の上顎発育について統計学的検討を行っ た. また, 構音や鼻咽腔閉鎖機能に関しては, 口 蓋裂のみの方が片側および両側の唇顎口蓋裂より も良いとする報告'))がある一方で, 裂型間に 差はないとする報告))も見られる. 今回, こ れらについても検討した.

顎裂を伴わない口蓋裂のみの群では上顎劣成長 を全く生じておらず, 統計学的にも顎裂を伴う群 の方が明らかに上顎劣成長を生じやすいという結 果であった (表). このことは, "#$ 手術が上顎の劣成長に大きな影響を与えていない ということを示す明らかな根拠になると考えられ る. 鈴木も, 口蓋裂のみの群では口蓋形成術によ る顎発育への影響は全く見られない%)とし, 我々 と同様の結果を示している. したがって, 我々は 今後も口蓋裂に対して最も生理的術式である"#$

手術を第一選択としてゆく予定である.

また, 上顎劣成長は顎裂幅の広いもの程生じや 顎裂の有無と鼻咽腔閉鎖機能の比較

顎裂を伴う口蓋裂群と顎裂を伴わない口蓋裂群間に, (検定では有意差を認めなかった (!)).

顎裂幅の程度(顎裂幅指数)と鼻咽腔閉鎖機能 の相関

**例において, 顎裂幅の程度 (顎裂幅指数) と鼻咽腔閉鎖機能との間に相関係数相関関係を認め なかった ()).

顎裂幅の程度 (顎裂幅指数) と構音機能の相関

*例において, 顎裂幅の程度 (顎裂幅指数) と 構音機能との間に相関関係を認めなかった ()).

(6)

すい事が分かった. 今まで, 顎裂の程度と上顎劣 成長の関係について数値的に証明した報告は無い.

その理由のつとして, 顎裂の程度を数値的に定 量化する方法が無かったことがあげられる. そこ で今回我々は, 片側顎裂を伴う口蓋裂に対し, 顎 裂幅の程度を示す新たな指標として, 口唇裂手術 前の写真を用い, 顎裂幅/健側 長さ=顎裂幅指数を設定した(図). 黄らは, 未 手術片側口唇裂患者名と顔面に奇形のみられ ない対照名の顔面石膏模型より顔面の部位を 計測したところ, 健側の の長さは 完全唇裂と不全唇裂と対照間に有意差はないと報 告している). また, 写真の撮影方向が若干変わっ ても, 両者の長さの相対関係が大きく変化するこ ともないと考えられる. これらの事より, 我々の 考案した顎裂幅指数は, 症例間の顎裂幅の程度を 比較検討する上で, 簡便かつ有用な相対値になり 得ると考えられる.

拝田ら)は, 手術前に既に破裂の部位と程度 に応じた劣成長を認めるとしている. また, 吉増 )は, 一卵性双生児の口唇顎口蓋裂患者におい て, 唇顎裂あるいは口蓋裂単独例では術後の顎発 育障害はほとんど見られず, 口唇顎口蓋裂では症 例の裂型, 特に顎裂の程度が術後の顎顔面発育に 最も大きく影響すると結論付け, 我々と同じ見解 を示している. すなわち, 上顎劣成長の主たる要 因は幅広い顎裂が徐々に近接することによる上顎 アーチの狭小化, つまり健側上顎の後退にあると 推察される. すなわち, 健側の上顎が患側の上顎 に徐々に引き寄せられることによって生ずると考 えられる (図). このことは, 我々が経験した 口唇裂手術前の顎裂幅指数の大きい症例におい て, 顎裂が近接すると上顎は劣成長になり, 逆に 歯科矯正などの治療により顎裂が近接しないと上 顎は劣成長とならないことでも示されている (図 ). 吉岡ら) 手術施行後の顎裂幅 径が加齢とともに減少しているとし, 田辺ら) 手術施行後の口蓋断面積は比較的低 い年齢では対照よりも大きいが年齢の高いもので は対照より小さいと帰結している. これらの報告 手術によって幅広い顎裂が徐々に近 接することを示唆しているものと考えられる.

以上の結果を踏まえると, 顎裂を伴う口蓋裂患 者に対し上顎劣成長を来たさないための最善の治 療方針としては, 顎裂が近接しないように歯科矯 正を行いながら顎裂への骨移植を早期に行うこと と考えられる. 従来の顎裂部骨移植の目的は, 上 顎骨の連続性と安定化と歯槽堤形成による顎裂隣 在歯の誘導・萌出と良好な歯列形成および顎裂部 陥凹への骨移植による顔面形態の改善である. 二 次的顎裂部骨移植の至適時期に関しては, 年にらが混合歯列期 ( 頃) としている)). しかし, 今回の我々の結果 からすると, 顎裂を伴う口蓋裂患者における二次 的顎裂部骨移植の第四の目的として, 上顎狭小化 の予防を加える必要があると考えられる.

らは, 年に実験結果より方針へ変え, 進行 する重度の反対咬合を予防するために歳で 顎裂骨移植をするべきである)と報告しており, 我が国でもこの概念を取り入れる施設が出てきて いる). これらの報告も, やはり上顎の劣成長が 上顎アーチの近接によるものと推測しているため と考えられる. しかし, 一方で早期顎裂骨移植に よる犬歯部周囲での顎発育抑制や, 体躯の小さい 症例では採取骨量が限られることが懸念されると いう報告もある)). これらに対しては, 矯正歯 科と連携した治療計画を立て, 歯肉骨膜弁の作成 法や体躯の大きさを考慮した腸骨移植術を行うこ とで, 上顎の劣成長 (顎裂部の狭小化) を予防し, 侵襲の大きな上顎骨切り術と長期に及ぶ手術前後 の矯正治療を回避できると考えられる.

手術後の言語成績に関して従来より 多くの報告がなされており, 口蓋裂のみの方が片 側および両側の唇顎口蓋裂よりも良いとする結果 が散見される)). しかし, 検討方法が各報告に より一定していないことや, 統計学的検討をされ ていないものが多いことから裂型による差がある とは言い難い. 高橋らによる本邦での年間の 主な報告をまとめたものによると,

術後の構音・鼻咽腔閉鎖機能は口蓋裂のみの群で やや優れるものの各裂型間で大きな差は見られな )としており, 我々の結果においても同様で あった.

また, 顎裂幅の程度 (顎裂幅指数) はいずれの 久 留 米 醫 學 會 雜 誌 平成

(7)

機能にも関与していなかった. すなわち, 顎裂幅 の広さが 手術の治療成績に影響を与え ていないことが示唆された. このことは以前より 報告されてきたことであるが), 新たに顎裂幅指 数を設定することで, 客観的に比較検討し得たも のは本報告が初めてである.

当施設において 手術を行った患者 の上顎発育と構音および鼻咽腔閉鎖機能を検討す ることにより, 当術式が上顎の劣成長や構音・鼻 咽腔閉鎖機能障害を引き起こす原因となるかを検 討した. その結果, 手術は上顎の劣 成長に対して大きな影響を与えておらず, その主

上顎劣成長のメカニズム

顎裂が近接しなかった症例とした症例の比較

歯科矯正などの治療により顎裂が近接しないと上顎は劣成長とならず (図左), 逆に顎裂が近接すると上顎は劣成長になる (図右).

(8)

たる原因は幅広い顎裂が徐々に近接することによ る上顎アーチの縮小にあると考えられた. 従って, 顎裂幅の広い症例では骨移植を早期に行い, その 部の縮小を予防すべきと考えられる. また, 構音 および鼻咽腔閉鎖機能に対しても術式自体は影響 を与えておらず, 従来の報告通り裂型による大き な差は認められなかった.

以上の結果を踏まえ我々は,

年ごろより 早期顎裂骨移植術を積極的に行っている. 本報告 の対象が

月までの症例となっていたの はこのためである. 今後早期顎裂骨移植の症例と 従来の症例を比較検討し, より理想的な顎裂の治 療を行っていく考えである.

稿を終えるにあたり, 本研究の御指導, 御協力 くださった清川兼輔教授に深く感謝いたします.

また, 御協力を頂いた久留米大学医学部形成外科・

顎顔面外科学講座の諸先生方皆様に厚く御礼申し 上げます.

)

.

!"#!

)

$ %"&' ( ) (*+(( ( , -. (/(

01 11"# #

!

)

(2" (3/ 4 +5 4 , * (- 2 . 0"#

)

. 67. + 4 ( ( +( 87 + ' , + +- 5 !"#

)

9 , : 2 *4

* ( ; (4-. (/(

1 !1"#10

0

) 鈴木正幹:口唇・顎・口蓋裂の研究. 医学研究

!!!0 !#

,

#0

) 吉増秀實:唇顎口蓋裂患者の顎顔面形態に関

する研究−

卵性双生児による比較研究−.

口病誌

1 "# 1

1

) 塚田貞夫:金沢医科大学における口蓋裂およ びその類症の手術成績. 日口蓋誌

0 "##

#

)

9< "=( + ="6 ( &

2 ( ( , ( (*6 ( 4 , * +( +( ( + + ( ( 4(' -

& ! !"#1

) 塚田貞夫:粘膜下口蓋裂. 日本医事新報 「ジュ ニア版」

! 0"#1

) 高戸 毅, 竹田秀円, 伊東 優, 米原啓之, 修三, 北野幸恵, 北野市子:静岡県立こ ども病院における粘膜下口蓋裂患者の統計的 検討. 日形会誌

# 1# 1"#1#

) 朴 修三, 梁 淑姫, 加藤光剛, 北野市子:

口唇裂に粘膜下口蓋裂を合併した症例の検討.

日形会誌

1 1"

!

) 森口隆彦:口蓋形成術における最近の進歩.

口唇裂・口蓋裂の治療 最新の進歩

"

東京

"

克誠堂

"1 #"# #

) 森口隆彦:口唇裂口蓋裂の総合治療. 第

"

東京

"

克誠堂

"#0 ##"!

)

> %9+ '( ( * +( ( 4- . ( # "#1 0

)

((?"> +(?>

(, , (6 (- )% #1 !#"#1

)

/(( /

+ , - 2 . ! "#

1

) 河合 幹, 鍋谷秀信, 橋本 治, 栗田賢一, 池 田 憲 昭 , 内 山 観 , 服 部 美 知 恵 , 下 村 美智子:当教室における口蓋形成術とその言 語成績 (

# !- !

# - #

). 日口外誌

!0!

0 "#1

#

) 新垣敬一, 天願俊泉, 仲間錠嗣, 石川 拓, 國仲梨香, 牧志祥子, 比嘉 努, 前川隆子, 須佐美隆史, 砂川 元:琉球大学医学部付属 久 留 米 醫 學 會 雜 誌 平成0

!

(9)

病院歯科口腔外科における口蓋形成術後の床 管理の有用性について. 日口蓋誌

) 相野田紀子:

歳代で施行した口蓋裂初回手 術例の構音. 日形会誌

) 高橋庄二郎:口唇裂・口蓋裂の基礎と臨床.

東京

日本歯科評論社

) 黄 國和:等高線図法による片側唇裂患者の 顔面形態に関する研究. 歯科学報

,

) 拝田龍之:頭部

線規格写真による唇顎口 蓋裂児の頭蓋顔面形態の経年的観察. 日口蓋

,

) 吉岡弘道:

システムによる治療を行っ た唇顎口蓋裂児上顎歯槽弓および口蓋の成長 発育に関する研究. 日口蓋誌

,

) 田辺晴康:等高線図法による未手術口蓋裂患

者の口蓋発育ならびに歯牙異常にする研究.

歯科学報

,

)

! "

#$% # $ && '& (& %&

& $%)*&#

)

!+," %-

% -# &,#,% $ &

(& %& '& & $%$%)., *%

)

#$% # %

%% $ & '& (& %&

& $%)*& /0 & & $ &# +&

%.,

) 土佐泰祥, 保坂善昭:顎裂部骨移植術の意義 と術式. 医学のあゆみ

,

) 松井桂子, 越後成志, 君塚 哲, 福井攻政,

高橋正任, 森川英広, 千葉雅俊, 伊藤正健:

上顎骨成長を考慮した顎裂部への骨移植時期 の検討. 日口外誌

&

,

) 松井桂子:顎裂部への早期新鮮自家腸骨海綿

骨細片移植術後の上顎骨成長について. 東北 大歯誌

,

(受理 平成日)

連絡先:井野

久留米大学医学部形成外科・顎顔面外科学講座 1& --

2-,&3454,-))6(

(10)

久 留 米 醫 學 會 雜 誌 平成

(

!

)

"#

$%

(

&'!(

) (

)

Ⅰ)

(

!(

)

(

)

Ⅱ)

* $

$+

,+-%. %%/"0&!'( !

"1 )

)

+ "# ! " $" /%" -/" %

", "

"

"

参照

関連したドキュメント

節の構造を取ると主張している。 ( 14b )は T-ing 構文、 ( 14e )は TP 構文である が、 T-en 構文の例はあがっていない。 ( 14a

相対成長8)ならびに成長率9)の2つの方法によって検

(2) カタログ類に記載の利用事例、アプリケーション事例はご参考用で

(表2)。J-CAPRAポイントを合計したJ-CAPRA スコアについて,4以上の症例でPFSに有意差

にて優れることが報告された 5, 6) .しかし,同症例の中 でも巨脾症例になると PLS は HALS と比較して有意に

しかしながら生細胞内ではDNAがたえず慢然と合成

大学は職能人の育成と知の創成を責務とし ている。即ち,教育と研究が大学の両輪であ

劣モジュラ解析 (Submodular Analysis) 劣モジュラ関数は,凸関数か? 凹関数か?... LP ニュートン法 ( の変種