チベット語の色彩語彙
著者 長野 泰彦
雑誌名 国立民族学博物館研究報告
巻 5
号 2
ページ 409‑438
発行年 1980‑10‑20
URL http://doi.org/10.15021/00004524
長 野 チベ ッ ト語 の 色彩 語 彙
チ ベ ッ ト 語 の 色 彩 語 彙
長 野 泰 彦*
Tibetan Color Terminology
Yasuhiko NAGANO
This brief paper is designed to analyse the system of Tibetan color terminology. Since such a clarification has not been at- tempted yet, this paper is rather descriptive than theoretical,
When terminology is analysed, the understanding of the informant and the linguistic investigation (including historical analysis) hold the same level of significance in this paper. In that
sense, this argument is fairly different from that of Berlin & Kay.
A speculative hypothesis on the historical change of Proto- Tibeto-Burman system of color terms down to Tibetan, from the point of view of Tibeto-Burman comparative linguistics, is presented.
まえ が き
1.チ ベ ッ ト語色 彩 語 彙 の記 述 とそ の来 源 11.チ ベ ッ ト語 色彩 語 彙 体系 の分 析 皿.色 彩 語 彙 に関す る一般 理 論 一 紹 介 と批
判
N.チ ベ ッ ト ・ビル マ共 通 祖語 たお け る色 彩 語 彙 体 系 とそ の変 遷
む す び
ま え が き
色 彩 が 言 語 に お いて どの よ うに 表現 さ れ るか,と い う問題 は,言 葉 とそ れ を と りま く事 象 め 把 え方 一 所 謂,相 対 的 態度(サ ピア ・ウ ォー フの仮 説)と,そ れ に対 す る 普 遍 的 態度 を絡 め,様 々な分 野 で様 々の 方 法 に よ り議 論 され て きた。 特 に,民 族 学 ・文 化 人 類学 の方 面 で は1960年 代 か ら組 織 的 な 研 究 が進 め られ,認 識 の 普遍 性 や基 礎 的 色 彩 語彙 の発 展 過 程 な どに つ い て,そ れ な りの成 果 を あ げて い る。 言 語学 に お い
*国 立民族学博物館第1研 究部
409
国立民族学博物 館研究報告 5巻2号 て も,leXiCal SemantiCSの 分 析 対 象 と して 色 彩 語 彙 が と り 上 げ ら れ,見 る べ き業 績
も 幾 つ か あ る 。
しか し,そ れ らの研 究 はそ の個 別 言 語 の 痔 っ 色彩 語彙 体 系 や 語彙 の粟 糠 を 明 らか に しな い まま,主 と してFoci(色 見 本 か らイ ンフ ォー マ ン トに どれ が最 も基 本 的 な色 か を 選 ば せ る フ ィー ル ドワ ー クの一 方 法)に よ って そ の言 語 の基 礎 色 彩 語彙 を決 め る も の が 多 く,又,形 態論 的 ・統 辞 論 的手 順 を踏 ん だ業 績 は少 な い。
小 論 は,こ の よ うな研 究 傾 向 に対 し,チ ベ ッ ト語 とい う個 別 言 語 にお け る色 彩 語 彙' 体 系 を,主 と して 語彙 の歴 史 と語 構成 の面 か ら明 らか に しよ うとす る試 み で あ る。 イ
ンフ ォ ー マ ン トとの 調査 に よ って 得 られ た結 果 を尊 重 す る こ とは論 を侯 た な い が,そ れ らに言 語 学 的 吟 味 を加 えて,何 が帰 納 され,ど こまで 演 繹 し得 るか を探 って み た い と思、う。
らいげん
こ こに扱 うチベ ッ ト語 とは,現 代 口語 中央 チ ベ ッ ト方 言 で あ るが,来 源 を調 べ る際, 辞 典1)に 記 載 され て い る古典 ・文 語 チ ベ ッ ト語 も参 照 した 。 仏典 に規 定 さ れ る色彩 語 彙 を 除 け ば,チ ベ ッ ト語 の そ れ が その 古 典 期 か ら現 代 まで ほぼ 等 質 の体 系 を持 って い
る こ と は,第1章 の記 述 か ら肯 ん ぜ られ る処 で あ ろ う。
イ ン フ ォー マ ン トは,元 東 洋 文 庫研 究 員 祖 南 洋 氏 で あ る。 同 氏 の 熱 意 と広 汎 な 学 識 が な か った ら,こ の よ うな 豊 富 な デ ー タ を集 め る こ とす ら不 可 能 で あ った と思 わ れ る。 記 して 深 甚 の謝 意 を表 した い。
色 の 属性 とそ の 記 述 方 法
一 般 に 色 と は 可 視 光 の 内,波 長 が ほ ぼ440‑660mμ の 範 囲 に あ る 電 磁 波 で あ って, そ の 波 長 の 差 が 色 相(色 あ い:Hue)の 違 い と な り,そ の ス 漫 ク トル 色 光 に 白 色 光 を 加 え る に つ れ て そ の 純 度(Chroma)が 減 じ,又,放 射 の 強 さ に よ っ て 明 度(Bright‑
ness)が 規 定 さ れ る。 色 彩 は こ れ ら三 要 素 を 数 値 に よ っ て 記 述 す る の が 最 も 厳 密 で あ り,逆 に 色 を 再 現 す る 時 も,そ れ らの 要 素 を 光 を 用 い て 組 み 合 わ せ る の が 理 想 的 で あ る。 しか し実 際 に は,多 く の 色 票 を 備 え て 直 接 の 見 本 と す る方 が 便 宜 で あ る こ と も多 く,こ の 調 査 も 色 票 に よ っ て 行 った 。 色 票 は,十 の 色 相 を 更 に 四 つ の 細 い 色 相 に 分 割 し,そ れ ぞ れ に 明 度 ・純 度 が 異 な る紙 片 が つ い て お り,色 相 ・明 度 ・純 度(飽 和 度)に 名 と 番 号 と を 付 し て 色 を 区 別 す る。 よ く整 備 さ れ た 色 票 と して,Munsell2), Grum‑
1)JλscHKE, DAs,格 西 曲札, BucK, DEsGoDIN, GoLDsTEIN, SEDLAdEK, r翻 課 名義 大 集』, r五 体 清 文 鑑 』 を参 照 した が,以 下一 々注 記 しない 。
2)2441No. Calvert. Baltimore, Maryland, U.S、A.へ 直接 注 文 しな い と入 手 で き ない 。
410
長野 チベ ッ ト語の色彩語彙
bacher,新 制 色 名 帳(日 本 標 準 色 協 会),標 準 色 彩 票(大 蔵 省 印 刷 局)な ど が あ る が, こ の 調 査 で はMunsellとGrumbacherと を 用 い た 。 Munsell色 票 は 最 も完 壁 と考 え られ て お り,上 述 の 細 か い 差 を 極 あ て 厳 密 に 表 わ し,一 様 の 感 覚 差 に よ?て 排 列 レ て あ る の だ が,そ の 色 票 数 が 彪 大 で,イ ン フ ォ ー マ ン トが 混 乱 す る こ と が しば しば だ っ た た め,先 ずGrumbacherのColor Visualizer Chartを 用 い て 色 相 と 明 度 と を 調 べ,後 に 明 度 と 飽 和 度 をMunsellに よ っ て 確 め る方 法 を 採 っ た 。
Grumbacher Chartは108種 の 色 を 色 相 と 明 度 に よ って 排 列 して あ り,飽 和 度 は, pure color columnが そ の 色 相 に お け る 最 も 高 い 純 度 に な っ て い る 他 は,低 く,且 つ,一 定 に な っ て い る。 従 っ て,Munsell程 科 学 的 と は 言 え な い が,実 用 上 は こ れ で 充 分 で あ り,Munsellに よ る 再 点 検 に よ っ て こ の 不 備 を 補 う こ と が で き た 。
色 相 名 称 はGrumbacherに,明 度 ・飽 和 度 表 示 はMunsellに 従 っ た 。 色 相 名 の 対 照 表 を 次 に 掲 げ る。
Munsell Grumbacher 色 相 名 称
GY BP P RP 2.5 YR 5/7.5 YR 10 YR B BG G Y R
YG BV V RV YO 0 RO B BG G Y R
Yellow-Green Blue-Violet Violet Red-Violet Yellow-Orange Orange Red-Orange Blue Blue-Green Green Yellow Red
チ ベ ッ ト語 表 記 は 正 書 法 に よ り,転 写 方 式 は 北 村 甫[1974 b]に 従 う。
1.チ ベ ッ ト語 色 彩 語 彙 の記 述 と その来 源
1.語 彙 の 記 述
Grumbacher Chartに よ っ て 得 られ た 色 彩 語 彙 は 図1に 掲 げ た 通 り で あ る。 以 下, そ れ ぞ れ の 語 彙 項 目 に つ い て 検 討 す る。 矢 印 は 修 飾 の 方 向 を 表 わ す 。
411
BIAIN*144KIHJFA4V4.- 5巻2号
,
ひ
9Zlngsnag gzlngsdmar gzingsskya
dumdog sngodmar sngonpo
sngonag
ljanggu
ljangnag
ljangskyang .Ijanggu
smyugse gser
nag
sngonpo
sngodkar(sngoskya) (9・yumdo9)
sngoljang
ljanggu
Ijangser
smyugse
nagpo sernag
gse「po
serdmar
skyerkha snumpa
serposnumpa
rdzamdog nagpo
mchinkha
9Zlngsnag
rdzaser
rdzadmar
gzlngS dmar
gzmgS nag
9Zlngsnag
dmarser
lidmar (dmarsertshapo)
dmarpo
' gzingsdmar
ljang ser
1jang dkar
ljangser dkarpo
skyerkha
se「po
se「po gsermdo9
libang
dmar skya
khambu mdo9
gzingsdmar dkarpo
図 1
gzingSは 「紫 色 」,skyaは 「灰 色 」 を 表 わ す 。gzingsは 現 代 口 語 で は 殆 ん ど 色 相
名 に し か 使 わ れ な い が,zing,'dzingと も綴 ら れ,元 来 「(毛髪 や 灌 木 が)も じ ゃ も
412
長 野 チベ ッ ト語 の色 彩 語 彙
じ ゃ した 」 の 意 を 表 わ した も の で あ り,nominalizerと して の 一paの み を と る こ と か ら,動 詞 か ら来 源 した 形 容 詞 で あ る と 考 え られ る。
V-6, RV-7 V-5, RV-6 V-4, RV-5
gzings dmar
dmarは 「赤 い 」 で あ り, nominalizerと して 一poの み が 接 尾 さ れ 得 る。 こ の 語 源 は 明 らか で な い が,文 語 チ ベ ッ ト語(以 下WT)のdkar「 白 」 と'khar「 青 銅 」 が,チ ベ ッ ト ・ ビ ル マ 共 通 祖 語(以 下PTB)の*karか ら分 裂 した も の と考 え れ ば, WTの 「赤 」 もd‑marと 分 節 す る こ と が で き, d一 を 比 較 的 新 しい 段 階 で 接 頭 さ れ た
も の と見 傲 す こ と が 可 能 だ が,Benedict[1972](以 下STCと 略 す)はPTB*mar の 形 を 再 構 して い な い 。
尚,WT marは 「バ タ ー 」 の 意 で あ る。
西 義 郎 教 授 の 御 教 示 に よ れ ば,タ マ ン祖 語*marは 「金 」 を 意 味 す る と の こ と で, こ の 意 味 範 疇 がWT dmarと 関 係 あ る こ と は 確 か で あ ろ う[c£ 西 1977]。
V‑3RV‑4 V‑2RV‑3R‑2 V‑1.5RV‑2R‑1.5
R‑V1.5
9Zlngsnag
nagはnagpoの 語 幹 で あ り,「 黒 い 」 の 意 。
BV-9 B -6 B -5
sngon po
sngonのunderlying f()rmはsngoで,「 青 い 」 を 表 わ す 。 sngoが 物 質 を 指 す 例 と して,「 草,植 物 」 が あ る が,こ の 用 例 は そ れ 程 古 くな く,又,sngo tshod「 野 菜 」・
sngo lO「 葉 」 の よ う に 複 合 語 と して 現 れ る こ と が 多 い こ と か ら,二 次 的 な 意 味 と 考 え て よ い で あ ろ う。
sngOが 「緑 」 の 意 味 領 域 を 含 み 込 む こ と は,日 本 語 の 場 合 と 同 様,極 め て 頻 繁 に 起 こ る 。 例 え ば,交 通 信 号 の 緑 色 は 必 ずsngOで あ っ て, lj ang「 緑 」 は 用 い られ な い 。 チ ベ ッ ト ・ビ ル マ 諸 語 の 多 く が こ の 形 式 で 「白 い 」 を 表 わ す 点 に は 注 目 す べ き で あ
り,STCも 「白 い 」 にPTB*snow(STC#296)を 再 構 成 して い る 。 仮 に こ の 再 構 成 形 式 が 正 し い とす れ ば,PTBか らWTへ の 間 の 何 れ か の 段 階 で,「 白」 → 「青 」
と い う意 味 変 化 を 経 た こ と に な る。
413
国立 民族学博物館研究報 告 5巻2号 BV-8
BV-7 BV-6
sngo dmar
BV-5 BV-4 BV-3 BV-2 BV- 1.5
du mdog
duは 「煙 」, mdo9は 「色 」 の 意 で あ る。 WTに は 「色 」 を 意 味 す る 語 と して,
モ
mdo9, tshos gshis; khaの 三 つ が あ る。 WTで は, mdo9は 自 然 色 を,' tshos gshis (tshos:染 め る, gshis:特 性)は 染 料 の 色 を,又, khaは し っ と り し た 物 の 表 面 の 色 を,そ れ ぞ れ 表 わ す が,現 代 口 語 で はtshos gshisが 最 も広 い 意 味 領 域 を 占 め る 。
B-9 B-8 BG-9 B-7 BG-8
sngo dkar ' sngo skya
g-yu mdog
イ ン フ ォ ー マ ン トは こ の 三 者 を 区 別 しな い が,辞 書 の 記 述 に よ る と,B‑9とBG‑9 がsngo dkar, B‑8, BG‑8及 びB‑7がsngo skyaで は な い か と思 わ れ る 。9‑yu mdo9は 辞 典 に 記 載 が 無 い が,9‑yuは 「 トル コ石 」 の 意 で あ る。
dkarは 「白 い 」 を 表 わ し,‑poの み が 接 尾 し得 る 。 Nagano[1979 a]で は, WT dkarがPTB*kar「 青 銅 」 か ら直 接 来 源 して い る と し た が,「 白 い 」 と 「青 銅 」 は, WTでdkar vs.'kharの 様 に 弁 別 さ れ て い る(西 田 龍 雄 教 授 の 御 指 摘 に 従 う)の で, 前 の 仮 説 は 撤 回 す る。 た だ,WT dkarが 「白 い 」 と 「錫 」 の 双 方 を 意 味 す る こ と は 確 か で あ り,又,STCが*gar又 は*d‑garの 形 を 金 属 名 と し て 再 構 して お らず,
「錫 」 に対 す る 再 構 成 形 式 も な い こ と か ら,PTB*karがWTでdkarと'kharに 分 裂 し,そ れ ぞ れ 「錫 」 と 「青 銅 」 を 意 味 す る よ う に な っ た と想 定 して お き た い 。 これ は あ く ま で も想 定 で あ っ て,今 後 チ ベ ッ ト ・ ビル マ(T‑B)諸 言 語 の 比 較 研 究 に よ っ て 修 正 きれ る こ と に な ろ う。
B‑4 B‑3 B‑2 B‑1.5
sngo nag
BG-4
BG-3 G-7
BG-2 G-6 YG-4
BG-1.5 G-5 YG-3
ljang gu
「緑 」 の 意 で あ る が,こ の 語 はWT ljang ba「 芽 」,及 び, lcang「 柳 」 と 同 源 で あ
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長 野 チペ ッ ト語 の 色彩 語 彙
る と思 われ る。単 独 で用 い られ る と きは常 に縮 小 辞 一9Uを 伴 う。 Mα 紘 妙噸 α漉 に梵 語haritaの 訳 語 と して 現 れ るの を初 出 と し,早 い時 期 か ら色 名 と して使 われ た こ と が 分 か る が,こ れ だ けで は色 名 が先 か,物 質 名(「 芽 」又 は 「 柳 」)が 先 か は俄 か に定
め難 い。
ljangの 持 つ重 要 な意 味 領域 と して,「 未 熟 な,手 を加 え て いな い 」 を 挙 げ て お か な けれ ば な らな い。 例 え ば,ljang phrug(緑 ・子 供)は 「 新 生 児 」の 意 で あ り,日 本 語 の 「緑 児」 と平 行 す る感 覚 で あ ろ う。
BG‑7 BG・6 BG‑5
sngo ljang
G‑9 ljang dkar
G-8 YG-7 YG-6 YG-5
ljang ser
serは 「黄 」 の 意 で あ る が, WT gser「 金 」 と 同 源 で あ る。 gserも 亦 色 名 と し て 存 在 し(c£0‑9・8),知 識 階 級 は こ の 二 者 を 区 別 す る が,全 く同 音 で あ り,元 来 こ の 区 別 は無 か った の で は な い か と思 わ れ る。 ラ フ 語 に も 同 様 の 現 象 が 見 ら れ,§iはyellOW
とgoldenの 両 方 を 意 味 す る[MATIsoFF 1973:6611。 又,西 田 教 授 も2[鋤 と
「白 」,「金 」 と 「黄 」 が そ れ ぞ れ,リ ス語,ラ フ 語,ビ ス 語,ア カ 語 に お い て 共 通 形 式 を 保 存 して い る 点 を 指 摘 さ れ,更 に トス 語 に お け る 事 例 に も 言 及 し て お られ る[西
田1968a:5,1973:235‑236]。
serに 接 尾 す る 小 辞 は 一poで あ る 。
G‑4 G.3 G.2 G‑1.5
liang nag
YG‑8・9 bang ser dkar po
YG‑2
YG‑1.5 ljang skyang
skyangは 「高 陵 土 」 の 意 で, skyangの 後 にmdo9「 色 」 が 接 続 す る こ と も あ る 。
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国立民族学 博物館研究報告 5巻2号 Y-9
Y-8 skyer kha
skyerは 「う こ ん 草Curcuma longa」 で,チ ベ ッ トで は 代 表 的 な 染 料 の 一 つ で あ る 。 khaに つ い て は, BV‑5の 項 を 参 照 さ れ た い 。
Y-7
Y-6 skyer kha snum pa
snumは 「油 」, snum paは 「油 っ ぽ い 」 の 意 で あ る。
Y-5 gser po
G。8の 項 に 述 べ た 通 り,gser poは 「金 色 」 を 表 わ す 。 nominalizerは 一poの み で あ る 。
Y-3 Y-2 Y-1.5
smyug se
smyugは 「竹 」, seはser「 黄 」 の 異 形 態 。
YO-9 YO-8 YO-7 YO-6 YO-5 YO-4 YO-3 YO-2 YO-1.5
ser p0
ser po snum pa
ser dmar
ser nag
smyug se nag po
0-9
0-8 ser po gser mdog 0-7
0-6 0-5 0-4 0-3
dmar ser
rdz a ser
rdzaは 「壌 土 」 を 表 わ す 。
416
長野 チベ ッ ト語 の色彩語彙 0‑2
0‑1.5 rdza mdog nag DO RO-9 Ii bang
1iはWT li khri「 光 明 丹」 か ら来 源 して い る と考 え られ,1i bang全 体 で 「オ レ ンヂ 色 」 を表 わ す 。bangが 何 を 意味 す る か は分 か らな いが,漢 語 か らの 借 用 の 可 能 性 が あ る。 又,liも 漢 語 「 梨 」 か らの 借 用 で はな い か と思 わ れ る。 西 田教 授 の 御 教 示 に よれ ば,li bangはWT li‑wang「 硫 黄 」 にあ た り, liは 漢 語 「 梨 」 か らの 借 用, wangは 「 黄 」 か らの 借 用 と思 わ れ,又,こ の語 の形 式 全 体 が 「 硫 黄 」 の 借 用 で あ る 可 能 性 もあ る,と の こ とで あ る。 又,張 現 教 授 の御 意 見 で は, 『説文 』 に 「留 黄 」 を 説 明 して,「 莫 草 名 可 以 染 」 とあ り,『 段 注説 文 』 で は 同語 を 注 して 「 又作 流 黄 疏 黄 」
「其 色 黄 而 近緑 」 と 出て い るの で,お そ ら く 「 留/流/騎 黄 」 の借 用 で あ ろ う,と の ことで あ った。
RO-7 RO-6 RO-5
li dmar/dmar ser tsha po
tshapoは 元 来 「暑 い 」 の 意 で あ る が,「 き つ い,強 い 」 を も意 味 し,色 彩 語 へ の modifierと して は後 者 が 適 用 さ れ る。
RO-4 RO-3 RO-2 RO-1.5
一rdza‑dmar一
mchin kha mchinは 「肝 臓 」 の 意 。
R-9 kham bu mdog
kham buは 「杏 子 」,・buは 小 辞 で あ る 。
R.8
R-7 R-6 R-5 R-4
dmar skya
dmar po
dmar nag
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国立民族学博物館研究報告 5巻2号
RV-9 } gzings dmar dkar po
2.明 度 指 標
前 節 の 記 述 か ら,明 度 の 高 い(明 る,v・)色 に はm6difierの 位 置 にdkarが 現 れ, 明 度 の 低 い 色 に はnagが 現 れ る こ と が 分 か る。 こ の 点 をMunsell色 票 に よ っ て 再 確 認 し て お こ う。
先 ず 中 立 色(色 相 を 持 た な い も の)に つ い て で あ る が,明 度9の 中 立 色 がdkar,明 度8〜4がskya,明 度3〜1がnagで あ る。
様 々 な 色 相 を 通 じ,明 度8の 色 がmodifierの 位 置 にdkarを,明 度3及 び2の も の がnagを,そ れ ぞ れ 持 っ て い る こ と は, Grumbacher chartに よ って 判 明 して い る が,Munse11色 票 で ど の 位 置 に こ れ ら の マ ー カ ー が 出 現 す る か を 調 べ た 結 果 が 下 記 の 表 で あ る 。
明 度
色 相 飽和度
2 3 4 5 6 7 8 5P
5RP 5R 5YR 5Y 5GY 5G 5BG 5B 5PB
4 4 10 6 6/8 6 4 4/6 6
N N
N N
N N N
N
N N N
N
N
K K , K
K K K
K K
K
(色 相 表 示 はMunsellに よ る 。 Kはdkar, Nはnagの 略 記 。)
色 相 に よ っ て,KとNの 現 れ る 位 置 が 前 節 の 記 述 と 若 干 ず れ て い る が,お お む ね 一 致 して お り,こ れ ら の 資 料 か ら,K(dkar)は 高 い 明 度, N(nag)は 低 い 明 度 の マ ー カ ー で あ る と 結 論 し て 大 過 な い と考 え る。
3.形 態 論 的 手 続
チ ベ ッ ト語 の 色 彩 語 彙 は,単 独 で 用 い られ る と き は必 ず 二 つ か 四 つ のmorphか ら 成 る 。
単 一 の 形 態 が そ れ だ け で 色 名 を 指 す 場 合,‑pa,‑po,‑gu,‑kha,‑mdogの 何 れ か
418
長野 チベ ット語の色彩語彙
が 接 尾 さ れ な け れ ば な らな い 。 こ の 内,‑pa,‑po,‑guは 小 辞,‑khaと 一mdo9は
「色 」 を 意 味 す る 名 詞 で あ る 。 小 辞 の 前 に は 動 詞(‑paの み),形 容 詞,名 詞 が 立 ち 得 る が,・khaと 一mdogの 前 に は 物 質 名 で あ る こ と が 明 瞭 な 名 詞 の み が 立 つ 。 こ の こ と は 後 章 に論 ず る 通 り,基 礎 色 彩 語 彙 を 他 か ら弁 別 す る重 要 な 基 準 に な る。‑ba血9が 小 辞 か 名 詞 か は未 だ 判 ら な い が,形 態 的 手 順 と い う観 点 か らす る と,・9Uに 酷 似 し て
い る 。
小 辞 を 伴 う色 名 二 つ が 複 合 語 を 構 成 す る と き,小 辞 は 省 か れ る。 例:sngon po十 dmar po→sngo dmar(c£BV‑6)(p.414)。
小 辞 を 伴 う色 名 が,‑kha又 は 一mdo9の つ く色 名 を 修 飾 す る場 合 は, N‑mdog A‑
po(N一 名 詞, A・ 一形 容 詞)又 はN牌A蒋(鉾=ゼ ロ)の 何 れ の 形 を も と り得 る 。 例:
rdza‑mdog scr‑po又 はrdza ser(cf.0‑3)(P・416)。
修 飾 関 係 が 二 つ 存 在 す る と き は,A#A#A#‑poの 形 を と る(c£YG‑8)(P.415)。
小 辞 一poを 伴 う色 名 が 同 一 の 色 名 を 修 飾 す る 場 合 の 形 は, A‑po A‑mdo9で あ る (c£0‑8)(p。416)。
4.統 語 論 的 手 続
色 名 語 彙 内 部 に 働 く統 語 的 手 続 と して,ま ず,修 飾 部 は 被 修 飾 部 の 後 に 立 つ 点 を 挙 げ て お か な け れ ば な らな い 。 こ れ は チ ベ ッ ト語 全 体 に 亘 っ て 通 用 す る ル ー ル で あ る。
NAの 形 を と る 複 合 語 に は こ の ル ー ル が あ て は ま る が, N‑khalmdo9 .又 はN・kha/
fhdbg Aやoで は, Nとkha/mdogと の 修 飾 関 係 は 上 述 の も の と逆 に な る。
∬.チ ベ ッ ト語 色 彩 語 彙 体 系 の分 析
前 章 に 記 述 し た 色 彩 語 彙 を 分 析 す る に あ た り,二 つ の 異 な った ア プ ロ ー チ が 可 能 で あ る 。 一 つ は 構 造 的 分 析 で あ り,も う一 つ は 発 展 段 階 的 分 析(所 謂,developmental analysis)3)で あ る。 前 者 で は,基 礎 色 彩 語 彙(=Basic Colour Terms:以 下BCT)
も複 合 ・派 生 に よ る 語 彙 も 同 一 レベ ル で 扱 わ れ,明 度 ・飽 和 度(純 度)・ 色 相 の そ れ ぞ れ の 意 味 領 域 に お い て 各 語 彙 が ど の よ う な 機 能 を 果 た して い る か と い う点 に 分 析 の 重 点 が 置 か れ る 。 こ れ に 対 し,後 者 に あ っ て は,先 ずBCTの 弁 別 に 焦 点 が 当 て られ, foci・ 来 源 ・複 合 ・派 生 ・形 態 論 的 特 徴 な ど に 照 ら し て,各 語 彙 が ど の 程 度 基 礎 的 で あ る か と い う順 位 づ け を 行 い,そ れ を 通 して 当 該 言 語 に お け る 色 彩 語 彙 の 展 開 の 歴 史
3)CONKLIN 1973の 用 語 規 定 に 従 う。
419
国立民族学博物館研究報 告 5巻2号 を 窺 お う と す る。BCT弁 別 の 為 の 基 準 等 に つ い て は, PP・ 423‑4及 びP.426以 下 に 詳 述 す る 。
1.構 造 的 分 析 1)明 度
P.418の 記 述 か らdkar, skya, nagが 明 度 を マ ー ク す る こ と が 既 に 判 明 して い る。
「青 」 を 示 す 横 列(図1参 照)が 最 も 典 型 的 に こ の こ と を 裏 づ け て い る が,skyaは そ れ 程 明 瞭 に 出 て こ な い し,他 の 形 態 に と っ て 替 わ ら れ る こ と が あ る(cf. G‑8)。 又, Munsellに よ る 調 査 で はskyaは 出 現 し な い 。 こ れ らの 事 実 か ら,明 度 の 指 標 と な る
も の はdkarとnagの み で あ る と考 え た い 。
上 記 の 中 立 色 の 他 に,Grumbacherに よ る 調 査(図1)で は,明 度5の 付 近 にdmar
「赤 」 がmodi丘erの 位 置 を 占 め て い る もの が あ る(例:v‑4/5/6, Bv‑6, Yo‑4/5, RO‑5/6/7)が,こ れ ら は 混 合 色 の 一 方 を 指 す か,飽 和 度 の 指 標 に な って い る か の 何 れ か で あ って,明 度 と は 関 係 が な い 。P.411に 述 べ た 通 り, Grumbacher chartは, 各 色 相 の 明 度4〜5の 部 分 の み が 最 高 純 度 に な っ て い る の で,dmarが 出 現 す る の で あ る。 飽 和 度 に つ い て は下 の3)を 参 照 さ れ た い 。
2)色 相
色 相 は物 質 名 に よ っ て 表 現 さ れ る が,dmar, sngo, dkarとnagは そ の 来 源 を つ き と め る こ と が で き な か っ た 。 こ れ ら が 本 来 色 名 な の か 否 か は,現 段 階 で は 分 か ら な い 。 各 色 相 名 称 に つ い て は 前 章 を 御 覧 頂 き た い 。
3) 飽 和 度(純 度)
上 で 触 れ た が,高 純 度 はdmar「 赤 」 に よ っ て マ ー ク さ れ る 。 Munsell色 票 は 同 一一 色 相,同 一 明 度 の 色 を 更 に 純 度 に よ っ て 区 別 して い る の で,Grumbacherか ら演 繹
さ れ る処 が 正 し い か 否 か を,之 に よ っ て 再 点 検 す る こ と が で き る 。 次 頁 上 に そ の 結 果 を 表 示 す る 。 × 印 はdmarがmodifierの 位 置 に 出 現 す る こ と を 示 す 。 表 示 係 数 は全 てMunse11に よ る 。
こ れ を 見 る と,各 色 相 の 最 高 純 度 又 は そ の 次 の 純 度 の 所 に,dmarが 現 れ て い る こ と が 分 か る(色 相 ・明 度 に よ っ て そ の 最 高 飽 和 度 は異 な っ て い る。 こ れ に 関 す る 理 論 に つ い て は,[MuNs肌L l975]を 見 られ た い)。 こ の こ と か ら, dmarは 色 相 の
「赤 」 を 表 わ す と と も に,飽 和 度 が 高 い こ とを 示 す 指 標 と して 機 能 して い る と結 論 し て よ い と思 う 。
例 え ば,ljang dmar(緑 ・赤)は 緑 と 赤 の 混 合 色 を 表 示 す る の で は な く・ 「最 も純
420
長野 チベ ッ ト語の色彩語彙
飽 和 度
色 相 明 度
2468101214 5P
5RP sR 5YR 5Y 5GY 5G 5BG 5B 5PB
3/4 4 4 6/7
8 7/8 6 5/6 5 4
度 の 高 い緑 」 「 最 も緑 ら しい緑 」 を 意 味 す る。
これ に対 し,低 純 度 を 表 わ す マ ー カ ー は存 在 しな い。
上 述 のdmarは 理 論 上,い か な る色 相 を も修 飾 し,高 純 度 を示 す 筈 で あ る が,上 に掲 げ た表 の 様 な 実験 的 な場 を 除 けば,実 際 上fociと な る色 相 を修 飾 す る位 置 に し か 出現 しな い(fbciに つ いて は次 頁 及 び 図2を 参 照)。
4)ま と め
本 節 で論 じた こ とを ま とめ る と,次 の様 な表 が帰 納 で きる。
高 低
明 度 dkar nag
飽 和 度 dmar
色 相 物 質 名 とgzings(動 詞 語 幹),及 び sngo, dkar, nag, dmar(来 源 不 分 明)
す な わ ち,構 造 と機 能 とい う観 点 か らは,主 と して 物 質 名 か ら成 る色 相 語 彙 に,明 度 と飽 和度 を示 す マ ーカ ーが そ のmodifierの 位 置 に現 れ て,色 を指 定 す る とい う体 系 が 観 察 され る。
2.発 展 段 階 的 分 析
1)BCTを 他 か ら弁 別 し,更 に その 中で どれ が ど の程 度基 礎 的 で あ る か と い う順
位 づ けを 行 うに は幾 つ か の 基 準 の立 て 方 が あ る と思 われ る。 文 化人 類 学 の 方 面 で は,
バ ー リ ンとケ ィ(== Berlin&Kay:以 下B&K)の 基 準 が,多 くの 批 判 が あ るに
421
国立民族学博物館研究報告 5巻2号 せ よ,よ く知 られ,広 く用 い られて い るが,小 論 で は之 を全面 的 に受 け入 れ る こ とは 避 けた い と思 う。 何 故 な らば,B&Kの 基 準 は もと も と,全 て の言 語 を通 じて 存在 す る(と 彼 らが主 張 して い る)普 遍 的 色 彩 範 疇 とそ の進 化(evolution)を 求 め る為 に 立 て られ た もの で あ り,「 普 遍 的」 な る もの か ら して 疑 わ しい が,仮 に そ れを 認 め る に して も,チ ベ ッ ト語 と い う個 別 言 語 にお け る色 彩 語 彙 を その個 別 的変 遷 とい う脈絡 で 理 解 す る こ とを第 一 義 的 目的 とす る小 論 で は,ま た そ れ と は別 の基 準 の立 て 方 が求
あ られ るで あ ろ うか らで あ る。
2)チ ベ ッ ト語 に お け るfociは 図2に 示 す 通 り で あ る 。fociと は 言 う ま で も な く,
図 2
f()CUS「焦 点 」 の 複 数 形 で あ っ て,こ の 種 の フ ィ ー ル ドワ ー ク で イ ン フ ォ
ー マ ン トに 色 票 を み せ ,ど れ が一 番 基 本 的 な 色 か 一 ど の 色 に イ ン フ ォ ー マ ン トの 「焦 点 」 が あ て ら れ て い る か 一 を 調 べ る 方 法 と そ の 結 果 の 双 方 を い う。 具 体 的 に は,一 枚 の 板 に 色 相 と 明 度 の 異 な る 色 票(純 度 は そ の 最 高 飽 和 度 の も の に な っ て い る)を 隙 間 な く貼 り つ け た も の(筆 者 の 調 査 で は 色 票320枚)を イ ン フ
ォ 一 一マ ン トに 示 し,30秒 以 内 に 最 も 重 要 な 色 と そ の 中 で も典 型 的 に そ の 色 と感 ぜ られ る も の を 選 ば せ る 。 イ ン フ ォ ー マ ン トが 二 人 以 上 い る 場 合 は指 定 さ れ た 色 票 をmappingし て fociを 定 め る が,こ の 調 査 で は 一 人 だ け だ った の で,数 回 同 じ こ と を 日 を お い て 繰 り 返 し,そ の ず れ をmap‑
pingし て あ る。 B&Kは こ の 方
法 をBCTを 決 め る 際 に 最 も 重 視 す
る が,筆 者 は た だ,BCTに つ い て
の 見 当 を つ け る 補 助 手 段 と し て 評 価
422
長 野 チベ ノ ト語 の 色彩 語 彙
す る に留 ま る。 しか し,今 迄 為 され て きた 色彩 語彙 に つ いて の 調 査 で は必 ずfbciの 表 が示 さ れ て い るの で,そ れ との比 較 の便 宜 の 為 に調 査 結果 を 図示 して お く。
3) こ の よ う に して 大 体 の 見 通 し の つ い たBCTは,チ ベ ッ ト語 の 場 合,如 何 な る 基 準 を 以 てBCTと 認 定 さ れ 得 る で あ ろ う か 。 言 語 学 的,特 に 形 態 論 ・語 構 成 上 の 特 徴 と,語 彙 の 来 源 ・歴 史 と い う観 点 か ら,次 の 三 基 準 を 立 て 得 る と考 え る 。
(1) そ の 語 彙 は 単 一 の 語 幹 要 素 を 持 っ て い る か,
(2) そ の 語 彙 は 一 つ の 語 幹 要 素 と 一 つ の 小 辞 か ら成 っ て い る か, (3) そ の 語 幹 要 素 は 何 か 他 の 物 質 を 思 わ し め な い か 。
基 準(1)は 複 合 語 を 排 除 す る為 の も の で,B&Kの 基 準a)に 似 て い る が, B&
Kの 用 語̀̀mono‑lexemic"は 誤 解 を 生 じ 易 い 。"root‑morphemic"と で も 言 い 換 え る べ き で あ ろ う(B&Kの 基 準 に つ い て は 第III章1節 を 見 られ た い)。
基 準(2)は 語 幹 要 素 十 小 辞(‑po,‑pa,‑gu)の 構 造 を も つ 語 彙 を,語 幹 要 素+名 詞(‑mdo9,‑kha:「 色 」)の 構 造 を も つ そ れ か ら 区 別 す る。 後 者 に お け る 語 幹 要 素 は 文 法範疇 の 上 で 必 ず 名 詞 で あ っ て,し か も,何 らか の 物 質 名 で あ る こ と が 明 瞭 に 分 か る も の で あ る か ら,前 者 に お け る 語 幹 要 素 に 比 べ,色 彩 語 彙 と して 基 礎 的 で あ る度 合 い が 相 対 的 に低 い こ と に な る 。
又,前 者 の 内 で は,‑poが 接 尾 す る も の を 最 も基 本 的 と 見 傲 す 。 な ぜ な ら ば,‑pa は 動 詞 のnominalizerで あ り,‑guは 縮 小 辞 だ か らで あ る。
基 準 一(3)一 は そ の 語 彙 が 本 来 色 名 な の か;或 る▽ほ他 の 物 質 名 に 由 来 す る の か,を 弁 別 す る も の で あ り,イ ン フ ォ ー マ ン トが
物 質 名 を 即 答 した か 否 か と い う心 理 的 側 面 と,辞 書 や 比 較 言 語 学 的 方 法 に よ る 語 の 歴 史 的 側 面 を 両 方 と も考 慮 に 入 れ る。
第1章 で 得 た 資 料 に 基 準(1)を 適 用 して,ま ず 複 合 語 を 除 き,残 っ た も の は 基 準(2)と 基 準(3)め 内,イ ン フ ォ ー マ ン トの 心 理 的 基 準 に 照 ら し て み る と,右 の 結 果 が 得 ら れ る(0:基 準 を 充 た す,1:基 準 に 反 す る,1/2:
[基 準(3)に お い て]イ ン フ ォ ー マ ン ト
色 相 gzings sngo ljang gser skyer du ser dmar mchin li kham bu nag skya dkar
基準 β
0 0 0 0 1 1 0 0 1 1 1 0 1 0
基準3 1/2 1/2 1 1 1 1 1 0 1 1 1 0 1 1/2
423
国立民族学博物館研究報告 5巻2号 が1分 以 内 に物 質 名 又 は関連 す る 意 味 を言 え なか った が,3分 以 内 の辞 典 検 索 に よ っ て 答 え た もの)。
こ こに得 た数 値 を もと にグ ル ー プ分 け をす る と次 の 様 にな る。
,第1群 第2群 第2群a。
第3群 第3群a.
第4群
dmar, nag sngo, dkar gzings gser, ser ljang
skyer, du,mchin, li, skya, kham bu
第2・3群 は 一poが 接 尾 す るの で,第2群a・ 第3群aよ り も基 礎 的 と考 え る。
以 上 が チ ベ ッ ト人 の意 識 に即 したBCTの 順 位 づ け で あ り,第1〜3群a.の 色 相 は, gserを 除 くと, foci調 査 に よ る もの と一 致 して い る。 これ らの こ とか ら,今,仮 に 基 準(2)に 対 して0の 値 を 持 つ もの を チ ベ ッ ト語 にお け るBCTと して お きた い。
さて,こ れ らBCTを,チ ベ ッ ト人 の 心 理面 とは 関係 な く,形 態 的特 徴 と語 の 歴 史 的側 面 に照 ら して考 え た場 合,ど の よ うな グル ープ 分 けが で きる で あ ろ うか。 基 準 (2)(3)に 下 位基 準 を設 け て再 検 討 して み よ う。
下 位 基 準(2')は,本 来 的 な 形 容 詞 にの み 接 尾 す る小 辞 一poが 付 き得 るか 否 か で あ り(接 尾 し得 る もの を0と す る),之 を下 位 基 準(3')よ り優 位 に 置 く。 下 位基 準(3') は,来 源 を遡 って 明 白 に そ れ が知 られ るか 否 か で あ り,知 られ る場 合 の係 数 を1と し, 全 く不 分 明 の 場合 を0と す る。来 源 が よ く分 か らな いが,PTBの 枠 組 み で考 え た場 合,
そ れ を推 察 で き る もの を1/2と 定 め る。
これ らの基 準 に よ り,下 表 の結 果 が得 られ る。
gzings sngo lj ang gser ser dmar nag dkar
基 準2' 1 0 1 0 0 0 0 0
基 準3' 1 0 1 1 1 1/2
0 1/2
こ れ を ま と め る と,次 の グ ル ー プ 分 け が 可 能 で あ る 。
a碧 羊 [0 0] sngo, nag
b群 [ol/2] dkar, dmar
c群[01] gser, ser
d碧 羊 [l l] gzings, lj ang
以 上 の こ と か ら,言 語 学 的 に 看 た 場
合 のBCT内 部 に お け る基 礎 的 で あ る
こ との 度合 い と展 開 の 順 序 ・歴 史 を,a群 が最 も基 本 的 で 古 く,順 にd群 に 至 る もの
と解 釈 す る。d群 の後 にei群 と して非BCT(前 に掲 げ た 第4i群 に属 す る もの)が 続
424
長野 チベ ッ ト語の色彩語彙
くが,非BCTの 中 で の展 開 の順 序 につ い て は,適 切 な基 準 を 立 て る こ とが 難 しく, 小 論 で の方 法 に はな じま な い と思 われ るの で,こ こに は論 じな い。 又,a群 とb群 の 間 に戴 然 た る一 線 を 画 す る こ とに も亦,若 干 の躊 躇 を感 ず る4)。 この段 階 で はaとb
を同 レベ ル で 扱 う方 が 慎 重 な 態 度 な の か も しれ な い。
本 節 に述 べ た こ とを図 示 す るな らば,チ ベ ッ ト語 色彩 語彙 の展 開 の 段 階 は次 の様 で あ る。
sngo nag
dkar dmar
stage 1
gser ser
stage ii BCT
gzings ljang
stage iii
li skyer du mchin skya kham bu
stage iv 非BCT
皿.色 彩 語彙 に関 す る一 般 理 論 紹 介 と批 判
色彩 に つ いて の解 釈 や そ れ に付 随 す る感 情等 に関 す る問 題 は,ア リス トテ レス5)以 来 様 々な角 度 か ら議 論 され,色 の属 性 その もの に つ い て は,18世 紀 の物 理 学6)に よ っ て解 明 の緒 が 与 え られ た が,語 彙 体 系 と して の 色彩 用 語 の研 究 は今 世 紀 に入 って か ら, 特 に ア メ リカの 文化 人 類 学 者 達 に よ って推 進 され て きた。 タ ー ナ ー,コ ン ク リン,バ
ー リ ン,ケ ィ等 の業 績 に見 るべ きも のが 多 い が,中 で もバ ー リンとケ ィ の 論文[B&K l969]は 色 彩 語 易 の 意 味論 的 研 究 を 一歩 前進 させ た もの と して評 価 され て よ い。 事 実 1970年 代 に為 され た この分 野 で の 研 究 は,賛 否 の 如何 を 問わ ず,B&K論 文 を 出 発 点 とす る か,又 は判 断 の 目安 と して い る ものが 多 いの で,本 節 で はB&Kの 仮 説 を 紹 介 ・批 判 し,併 せ て チ ベ ッ ト語等 の事 例 に当 ってB&K仮 説 の妥 当性 を検 討 した い 。
1.バ ー リ ン と ケ イ の 仮 説
B&Kの 根本 的 な 考 え方 は,「 言 語 が認 識 を規 定 す る」 とい うサ ピア ・ウ ォー フの 4)dkarとdmarのd一 が 比較 的 新 しい接 頭辞 で あろ う ことは,ギ ャ ロ ン語 や アオ語 を参 照 す る
こ とに よ って 容 易 に推 定 で き るが,語 幹 要素 の意 味 指定 はPTB!PLBの 枠組 で も必 ず しも容 易 で な いか らで あ る。
5)ア リス トテ レス は我 々 が今 問題 と して い るBCTに 対 す る具 体 的 な基 準 を持 って お り,又, 色 相 ・純 度 ・明度 を 既 に概 念 的 にで はあ るが 区 別 して い た よ うで あ る。rlEPIXPStMATON 792a3‑20(邦 訳で は 『ア リス トテ レス全 集R(岩 波)第10巻,PP・5‑6)を 参 照。
6)代 表 的 な も の と し て,1.NEWTON=OPtiks,oratreatiseofthereLt7ections,refractions,inLt7exions andcotoursoflight,London,1704.
425
国立民族学博物館研究報告 5巻2号 仮 説 に 反 対 し,「 認 識 が 言 語 を 規 定 す る 」 こ と を 語 彙 意 味 論(語 義 論)を 通 して 証 明 し よ う とす る も の で あ り,従 っ て,意 味 の 不 連 続 性 を 否 定 し,代 り に 数 学 のfuzzy set theory等 を 使 っ て,意 味 の 場 の 連 続 性 と 色 彩範疇 の 普 遍 性 を 説 こ う と い う も の で あ る 。 B&Kは98言 語 に お け るBCTを 先 ず 調 査 し て い る が,そ こ に 適 用 さ れ たBCT
の 基 準 は 次 の 通 り で あ る。
a)monolexemicで あ る こ と 一→ 複 合 語 ・派 生 語 を 排 除 す る 。 例:英 語reddish・
blueは こ の 基 準 に 叶 わ な い 。
b)mono‑significantで あ る こ と 一→ 色 名 と して の 意 味 が 他 の 語 彙 の 意 味 に 含 ま れ な い こ と。 色 名 が 物 質 名 か ら 来 源 し て い る場 合,之 を 除 く 為 の 基 準 で,英 語 crimson, vermillion等 は 除 か れ る対 象 に な る 。
c)そ の 色 名 が 特 定 の も の に し か 使 わ れ な い 場 合,BCTか ら外 す 。 例:英 語blond, roan等 は 之 に 祇 触 す る 。
d)使 用 頻 度 が 高 く,使 用 法 も一 般 的 で あ る こ と が,比 較 的 明 白 に 認 め られ る も の で あ る こ と 一→ 例:英 語puce(暗 褐 色), mauve(藤 色)等 は 除 か れ る[B&K l969:6]o
以 上4項 が 主 た る基 準 でs副 次 的 基 準 と し て 次 の4項 が あ る 。e)既 にBCTと し て 立 て ら れ た も の と 同 じ意 味 領 域 を 占 め る も の が あ る と す れ ば,そ れ はBCTか ど う か 疑 わ し い 。f)物 質 名 が そ の ま ま で そ れ の 表 わ す 色 を も意 味 す る よ う な 語,例 え ば, 英 語 gold, silver, ash,は 疑 っ て か か る必 要 が あ る。9)最 近 の 外 国 語 か らの 借 用 はBCTで な い 。 h)上 記 の 基 準 に よ っ て も そ の 語 彙 の 査 定 が 困 難 な 場 合,形 態 論 的 複 合(構 造)が 二 次 的 に 問 題 さ れ る[B&K 1969:6]。
B&Kは 実 地 調 査(20言 語)と 文 献 調 査(78言 語)に こ の 基 準 を 適 用 してBCT を 抽 出 し,実 地 調 査 に はf()ciの チ ェ ッ ク を も施 した 結 果,「 色 名 範 疇 は 決 し て 言 語 に よ っ て 偶 発 的 に 決 め られ て い る の で は な く,BCTのfociは 全 て の 言 語 に お い て 類 似 して い る 」[B&K 1969:10]と し,全 て の 言 語 に お け るBCTのf̀)ciの 数 は2か ら11の 間 に あ り,之 を 普 遍 的 意 味 範 疇 の セ ッ トの主 た る指 標 と解 釈 して い る。 そ して, 98言 語 全 て に 妥 当 す るBCT数 の 差 異 を 次 の 様 に 説 明 す る 。
(1)全 て の 言 語 は 「白 」 と 「黒 」 を 持 つ 。(2)三 つ のBCTが あ る と す れ ば,そ れ は 「白 」 「黒 」 「赤 」 で あ る。(3)四 つ のBCTが あ る な ら,そ れ は(2)の 色 と 「緑 」 か 「黄 」 の 何 れ か で あ る。(4)五 つ のBCTが あ る と す れ ば,そ れ は(2)の 色 と 「緑 」
「黄 」 の 双 方 で あ る。(5)六 つ のBCTが あ れ ば,そ れ は(4)の 色 と 「青 」 で あ る。
(6)七 つ のBCTが あ る な ら,そ れ は(5)の 色 と 「茶 」 で あ る 。(7)八 つ 又 は そ れ 以
426
長 野 チベ ッ ト語 の色 彩 語 彙
図3
上 のBCTが あ る とす れ ば,そ れ は(6)の 色 と 「 紫 」 「桃 色」 「 燈 色 」「灰 色 」 又 は こ れ らの 組合 せ を必 ず含 ん で い る[B&K 1969:34]。
B&Kは これ らBCT数 とその 組 合 せ の 分 布 を 図3の 様 に示 して い る。 . 次 にB&Kは このBCT数 の増 大 と各言 語 にお け るBCTの 展 開 あ 歴 史 は平 行 し て い る一 つ ま り,上 記 の(1)か ら(7)へ のBCT数 の変 化 と その 過 程 は全 て の言 語 に あ て は ま る・ と主 張 し・ そ れ を次 頁 の 様 に図 示 す る([B&K l969]の 表 は極 め て単 純 だ った が,何 回 か の改 訂 を 経 て い るの で,最 近 の もの を示 して お く)。
427
国立民族学博物館研究報告 5巻2号
図4
2.バ ー リ ン と ケ イ の 仮 説 の 問 題 点
以 上 に概観 して きたB&Kの 仮 説 は どの 程 度 迄妥 当性 を持 つも の で あ ろ うか。 既 に多 くの 書評 もあ るが,筆 者 な りの批 判 を試 み た い と思 う。
1)先 ずfociとBGT基 準 に つ いて で あ るが,こ の様 な方 法 を具体 的 に,初 めて 提 案 した とい う点 に お いて,彼 らは高 く評 価 され るべ きで あ る。foci調 査 が最 高 純 度 の色 票 に よ って の み行 わ れて い る点,基 準c)d)e)f)は 互 に重 な り合 い,redun‑
dantで あ る点,基 準h)を 実 際 に活 用 す べ きで あ る点,等 々,問 題 はあ るが 大 筋 に お い て肯 首 し得 る と思 う。
2) しか し乍 ら,B&Kの 実 際 の 調査 方 法 は相 当杜 撰 で あ って,折 角 の 方 法論 が そ の価 値 を失 って い る こ とが多 い。 材 料 につ い て も同様 の こ とが言 え る。B&Kの 居 るバ ー ク レーか ら出版 されて い る良 いモ ノ グ ラフ を使 わ ず に,前 世紀 の宣 教 師 の 記 録 を 使 った り,学 生 の レポ ー ト(ア ジ アの 言 語 に は之 に依 る もの が 多 く,日 本 語 も例 外 で な い。 而 も同 じ学 生 の書 い た 中 国語 の 記 述 もB&Kは 用 いて い る)に 頼 る もの が 多 い7)。 又,原 資 料 は良 くて も,B&Kの 不注 意 か ら形 態 認 定 を誤 り,原 資 料 の 価 値 を 減 じて い る もの も相 当 あ る(例:ネ スパ ース 語)8)。先 ず 彼 らの 使 った材 料 に は 余 り信 を置 け な い か,又 はB&Kの 操 作 が稚 拙 で あ る と考 え られ る。
次 に考 慮 に入 れ て お くべ き はbilingualismの 問題 で あ る。 B&Kの 被 調 査者 は・
幾 つ か の例 外 を 除 き,サ ンフ ラ ンシ ス コ 近 辺 に 住 む 英 語 と のbilingualsで あ る。
7) c£[HlcKERsON 1971:263‑4].
8) cf.[HlcKERsoN 1971:266].
428
長 野 チ ベ ッ ト語 の 色彩 語 彙
bilingualismの 色 彩 語 彙 体 系 に 及 ぼ す 影 響 に つ い て は 既 に ア ー ウ ィ ン9》(ERwlN=
Semantic shift in bilingualism,・AJps 74.233‑41)の 優 れ た 研 究 が あ り, B&K は こ う い っ たbiasing factorを 考 慮 に 入 れ て お く方 が 安 全 で あ ろ う10)。 そ う で な し N.
と,そ の 当 該 言 語 に お け る 体 系 とbilingualの も つ 体 系 と の 差 異 す ら提 示 で き な くな っ て し ま う か らで あ る。
サ ン プ ル 抽 出 法 に つ い て も 問 題 が あ る 。B&Kの 様 な 普 遍 性 を 探 究 す る 研 究 で は, 類 型 の 異 な る 言 語 を バ ラ ン ス を と っ て 慎 重 に 選 び 出 す 必 要 が あ る と思 わ れ る が,98言 語 の 分 布 は か な り 偏 っ て い る。 チ ベ ッ ト ・ ビ ル マ 系(T‑B)言 語 は一 つ もな い し,ア ル タ イ 系 は 一 言 語 の み,又,ア ウ ス トロ ・ タ イ で は タ イ 語 だ け し か 扱 わ れ て い な い 。 之 に 対 し,Congo‑Kordofanian系 は23言 語 が 含 ま れ てLSる[HlcKERsoN I971:
264]。
3)次 にBCT基 準 の 適 用 法 を 検 討 して み よ う。 前 に も述 べ た 通 り, BCT基 準 そ の も の に は 概 ね 賛 同 し得 る が,実 際 に は 之 を 使 っ て い な い の で は な い か と さ え 思 わ れ
る 。 我 々 に 身 近 な 日本 語 ・英 語 に つ い て 看 て ゆ き た い。
B&Kに よ れ ば,日 本 語 はstage VIIに 属 し,11のBCTを 持 っ て い る 。 し か し, 筆 者 の 見 解 で は,日 本 語 はstage IIIaに 属 し, BCT数 は4で あ っ て,次 に 挙 げ る
七 つ の 語 彙 はBCTと は 考 え に くい 。 以 下 に 理 由 を 列 挙 して お く。 ア)「 緑 」 は 普 通
「青 」 の 意 味 領 域 に 含 ま れ る か ら,基 準e)に 触 れ る 。 又,こ の 語 源 は 不 詳 だ が,八 重 山 方 言 で 「芽 」 を 指 す こ と か ら,之 を 元 来 の 意 味 と一 す6国 文 学 者 が お一 りユ1),こ の 説 が 正 し け れ ば,基 準b)に も祇 触 す る。 イ)「 黄 」 は 染 料 の 名[⇔ 基 準b)]。 ウ)「 茶 」 は 物 質 名 で,か つ 借 用[⇔ 基 準b)]。 エ)「 桃 色 」 は 基 準b)に 触 れ,「 ピ ン ク 」 は g)に あ た る 。 オ)「 紫 」 は 染 料,又 は 染 料 を と る 草(LithosPerum er■throrhizon)の 名 [⇔ 基 準b)]。 カ)「 榿 」 は 果 実 の 名[o基 準b)],「 オ レ ンヂ 」 は 借 用[⇔ 基 準9)]。
キ)「 灰 色 」 は 基 準b)に 抵 触 し,「 グ レ ー 」 は 借 用 語 で あ る。
英 語 も亦stage VIIに 入 っ て い る が,筆 者 に よ れ ば, stage VIとVIIの 中 間 に 位 置 す べ き で あ る。 何 故 な ら ば,orangeは 果 実 の 名, pinkはOEDに よ れ ば 花(カ ー ネ ー シ ョ ンの 一 種)の 名 で あ っ て,共 に 基 準b)に 触 れ る か ら で あ る 。
9)ERWINの 研究 は,ナ ヴ ァホ ・イ ンデ ィア ンにお け る 色 彩 語 彙 が,ナ ヴ ァホ語 の みを 使 う老 と英語 とのbilingualと の間 で どの よ うに違 うか を 分析 した もの で あ る。
10)こ の調 査 の イ ンフ ォー マ ン ト,祖 南 洋 氏 もチ ベ ッ ト語 と日本 語 のbilingualで あ るが,こ の 二 言語 は第 一 次的BCTが 共 にK&Mの い うStage IIIaに 属 す ことな ど,類 型 的 に似 てい る た めか,そ れ 程 のbiasは 認 め られな い 。
11)例 え ば,佐 竹1955 : 6。小 論 で は 佐竹 論 文 に触 れな か ったが,之 は万 葉 ・記 紀 時 代 の文 献 を 渉猟 し,佐 竹 氏 な りの基 準 に よ って 基礎 色 彩 語彙 体 系 を 明 らか に した労 作 で あ る。
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国立民族学博物館研究報告 5巻2号
B&Kの 母 国 語 た る 英 語 に あ って も 彼 ら 自 身 の 作 った 基 準 を 厳 密 に 適 用 して い な い こ とや,日 本 語 の 場 合 を 考 え る と,基 準 の 運 用 を 怠 り,{bciの み に よ ってBCTを 決 定 して い る の で は は な い か と 思 わ れ る。
4) B&KはBCT範 疇 の タ イ プ を そ の 数 に よ っ て 分 類 し た の み な らず,そ の 変 化(BCT数 の 増 加)が と り も 直 さ ず 各 言 語 に 於 け るBCTの 通 時 的 展 開 で あ っ て, そ の 過 程 は 全 て の 言 語 に 共 通 す る と も主 張 して い る。B&Kの 用 語 でevolutionと い う の が こ れ で あ る が,果 してB&Kの 言 う進 化 は 各 言 語 のBCTの 展 開 の 歴 史 に 通 有 す る で あ ろ うか 。
[HlcKERsoN l971]や[CoNKLIN 1973]に はB&Kの 方 法 そ の も の に 対 す る 厳 しい 批 判 が 読 み と れ,「 進 化 」 に つ い て も,主 と し て ア メ リ カ ・イ ン デ ィ ア ン語 や
ア フ リカ 諸 語 に お け るB&K仮 説 へ の 反 証 が 示 さ れ て い る 。 又,[BIUXNSTETTER 1977]も ポ リ ネ シ ァ 祖 語 の 研 究 を 絡 め,言 語 学 的 方 法 に よ っ て 得 られ た 色 彩 語 彙 の 変 遷 がB&Kの モ デ ル に 合 わ な い こ と を 指 摘 して い る。 チ ベ ッ ト語 に あ っ て も 同 様 で
あ っ て,後 節 に 述 べ る 通 り,極 め て 局 所 的 に しかB&K仮 説 は あ て は ま ら な い 。 こ う い っ た 言 語 事 実 に つ い て だ け で な く,モ デ ル を 作 る 際 の 発 想 そ の も の に も 問 題 が あ る 。 例 え ば,B&KはBCT数 の 増 加 を 各 言 語 に お け る そ れ の 通 時 的 変 化 と直 結 さ せ て い る が,論 理 的 に は 逆 の 場 合 も あ る 筈 で,事 実 そ れ に 近 い 現 象 をHickerson
が 指 摘 して い る。
5) 本 節 で は,第1・H章 に 記 述 ・分 析 した チ ベ ッ ト語 色 彩 語i彙体 系 を,B&K仮 説 に 照 ら して 検 討 し て お き た い 。
[B&K 1969]に は チ ベ ッ ト語 は 扱 わ れ て お らず,彼 ら の 見 解 は 不 明 で あ る。
第H章1節 に 論 じた チ ベ ッ ト語 色 彩 語 彙 構 造 はB&Kの 目 指 す 方 向 と は 相 容 れ な い の で,PP.423‑5に 述 べ た チ ベ ッ ト語BCTと そ の 変 遷 に つ い て の み, B&Kの モ デ ル と 比 較 した い と 思 う。 ま ず,そ の 結 論 を 再 録 す る な ら ば,チ ベ ッ ト語 のBCT と そ の 歴 史 的 展 開 は 次 の 様 に 図 示 で き る 。
sngO青 nag 黒
dkar 白 dmar赤 stage 1
gser金 ser 黄
stage ii
9ZmgS
ljang
紫 緑
stage in
チ ベ ッ ト語 は,fociと 語 構 成 ・形 態 的 特 徴 に よ っ て 抽 出 した 八 つ のBCTを 持 っ て
い る 訳 で あ る が,之 は 図4(Kay&McDaniel一B&Kの 改 訂)で は ど の 段 階 に
も 巧 く適 合 せ ず,B&Kが 判 断 す れ ば お そ ら くstage VIIの 不 完 全 な 変 種 と い う こ
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長 野 チベ ッ ト語 の色 彩 語彙
と に な ろ う。 又,図3で も何 れ の タ イ プ に も あ て は ま らず,B&Kの い う 普 遍 性 も チ ベ ッ ト語 に は 通 用 し な い こ と が 分 か る。
た だ,上 記 のBCTは 筆 者 自 身 の 基 準 に よ る もの で あ る か ら,之 にB&Kの 基 準 を 適 用 し,鯖 に か け た 上 で 今 一 度B&Kの モ デ ル に 立 ち 返 る こ と に し よ う 。B&K の 基 準a)c)9)に つ い て は,8BCTは 全 て 適 格 で あ る が,基 準b)e)f)を 厳 密 に 適 用 す る と,stage iに あ る4BCTの み カs適格 と な り,之 はK&Mのstage IIIaに 当 る 。B&Kの 基 準b)e)f)の 適 用 方 法 は相 当 緩 か で あ っ て,そ れ を 基 礎 に 図4が で き て い る の だ か ら,ど こ 迄 こ う い う比 較 が 意 味 を 持 つ か 疑 問 だ が,チ ベ ッ ト語 の 最
も基 本 的 なBCTがstage IIIaの 段 階 に あ る こ と だ け は確 か で あ る 。
次 に 通 時 的 展 開 に つ い て 考 え て み る。 ま ずP.424に 掲 げ たa群 →d群 へ の 変 化 を K&Mの 図4,(P.428)に 求 め よ う とす る と,全 て 適 合 し な い 。a群 ・b群 を 合 わ せ たstage iを 問 題 と す れ ば,之 はK&Mのstage lllaに な り, stage iとiiを 合 わ せ た 段 階 はstage IVに 当 た る。 但 し,こ の 場 合, gserとserは 同 源 語 で あ り ・ serがgserの 意 味 領 域 を 完 全 に カ バ ー し得 る,と い う前 提 の 下 に, gserをBCTか
ら外 さ な い とstage IVに は 入 らな い 。 stage i, ii, iiiを 合 わ せ た 最 新 のBCT段 階 はK&Mの 図 に は適 当 な 場 が 存 在 しな い 。
4.ま と め
以 上 概 観 して きた通 り,B&K及 びK&M 、 の仮 説 に は言 語事 実 にそ ぐ わ な い点 が 多 い。 しか し,fbciを 決 め る方 法 や具 体 的 なBCT規 定 基 準 その もの は高 く評 価 さ れ て よ く,そ の点 で は筆 者 の批 判 を含 め,今 迄 為 され た多 くの反 証 は,決 してB&Kモ デ ルの 価 値 を 減 ず る もの で は な い。 問題 は如 何 に言 語 事 実 を お さ え,如 何 に基 準 を適 用 す るか で あ り,そ れが 厳 密 に行 わ れ たな ら,よ り豊 か な仮 説 が導 き出 され るで あ ろ う。
た だ,私 がB&Kの 方 法 に根 本 的 に不 満 なの は,個 別 言 語 に お け る色 彩 語彙 の 構 造 を全 く無 視 し,BCT数 とfociの 認 定 にの み意 を注 いで い る点 で あ る。 勿 論B&K
の方 法 の方 が よ り早 くBCTの 普 遍 的 モ デ ル に到 達 で き る し, B&K流 に言 え ば,構 造 を 問題 に すれ ば 類 型 論 に 陥 り易 いか も しれ な い。 しか し,各 言 語 が それ に即 した 語
彙体 系 を保 って い る こ と も亦 事 実 で あ り,仮 に類 型 論 にな った と して も,そ れ な りの 意 味 は充 分 あ る と思 わ れ る。 実 際,[B&K 1969]に 対 す る書 評 の多 くが そ ろ って 讃 揚 して い るの は,皮 肉 に もB&Kが 批 判 して 止 まな か った類 型 論 的 分 析 BCT 数 とfbciの あ り方 に よ って98言 語 を分 類 して解 説 を加 え た 部分 一 に対 して で あ っ た の で あ る。
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IV.チ ベ ッ ト ・ビル マ共 通祖 語 にお け る
色 彩 語 彙 体 系 とその変 遷
チ ベ ッ ト語 のBCT,及 び,第II章1節 に 論 じた構 造 が,ど の よ うな体 系 か ら来 源 して い るか を 模索 す る こ と は,現 在 の チ ベ ッ ト ・ビル マ比 較 言 語 学 の段 階 で は極 め て 危 険 な こと と言 わ な け れ ば な らな い が,個 々の形 態 とそ れが織 りな す体 系 につ い て の 手 掛 りが与 え られ て い15場 合,或 る程 度 信 愚 性 の あ る推 測 を 働 か す こ とは可 能 で あ る。
特 にチ ベ ッ ト語 の 場 合,第II章1節 に述 べ た マ ー カ ー の構 造 と機 能 が 明瞭 で あ り, 而 も,そ れ らの マ ー カ ーが,先 に論 じた通 り,最 も基 本 的 なBCTと 認 め られ る こ と
か ら,こ れ らの語 彙 その もの と構造 とを遡 って,チ ベ ッ ト祖 語(PT)12)と チ ベ ッ ト ・ ビル マ共 通祖 語(PTB)の 段 階 にあ って も矛 盾 の な い モ デ ルの 設 定 とそ れ に対 す る説 明 がで き るな らば,そ れ を一 仮 説 とす る こと は許 され よ う。
1.PT及 びPTB段 階 で の色 彩 語 彙 体 系 推論
勿 論,PTとPTBの 話 し手 は存 在 せ ず,従 っ て,飽 和 度 ・明 度 の マ ー カ ー をP・418 とP.421で 行 っ た 実 験 に よ っ て 確 め る こ と は 不 可 能 で あ る。 そ こ で 本 節 で は ・ 第 一 次 的P.421が 色 相 と と も に,何 ら か の マ ー カ ー と し て の 機 能 を 担 って い た と い う 前 提 の 下 に 論 を 進 め た い 。
先 ずPTの 段 階 を 検 討 し て み よ う。 チ ベ ッ ト語 に つ い て の 吟 味 か ら,筆 者 はnag, sngo,dmar,dkarを 第 一 次 的BCTと し,之 を 色 彩 語 彙 発 展 段 階 の 最 も古 い 層 と 考 え た 。 仮 に これ らをPTのre且exで あ る と し,上 記 の 前 提 に 照 ら す と,上 述 の4BCT
は色 相 で あ る と 同 時 に,下 記 の 機 能 を 担 って い た も の と推 察 し得 る。
尚 低
飽 和 度
明 度
*dkar
*d】【nar