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貿易障壁の引き下げと自国市場効果

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(1)

貿易障壁の引き下げと自国市場効果

‐国際立地選択を含む独占的競争貿易モデル‐

西 山 博 幸

1. はじめに

国際貿易はなぜ行われるのか。この問いに対し,Ricardoをはじめとする国際経済学 者は「比較優位」の概念に沿って説明を加えてきた。確かに,比較優位の存在が貿易 発生の重要な要因であることに異論をはさむ研究者はほとんどいないであろう。しか し,比較優位以外に貿易発生の原因があることもすでに広く認識されている。規模の 経済(あるいは収穫逓増)に基づいて発生する生産特化の利益を得るために貿易が行 われるという考え方もその1つである。

比較優位の概念が説明の対象として想定していたのは産業間貿易であった。しかし,

Grubel and Lloyd(1975)らに代表される実証研究によって産業内貿易の重要性が指摘 され,これが比較優位の理論だけでは説明のつかない現象であることも明らかにされ ると,「規模の経済」や「製品多様性」が貿易利益の発生原因として注目されるように なった。ただし,製品多様化による利益を明示的に検証するためには,差別化製品の バラエティをモデルに導入する必要がある。当時,製品バラエティを貿易モデルに組 み込むことが困難であったために,この方向での研究は他と比べやや立ち遅れること となった。しかし1970年代に不完全競争市場の理論が進展すると,その成果が貿易理 論にも応用されるようになる。とりわけ,チェンバリン・タイプの独占的競争を一般 均衡モデルに導入したDixit and Stiglitz(1977)の貢献は大きい。そして1980年代に は,不完全競争と規模の経済(収穫逓増)を導入した貿易モデルが数多く提示される ようになった。新貿易理論と呼ばれるこれらの一連の研究は,収穫一定と完全競争を 前提とした伝統的貿易理論とは明らかに一線を画したものであった1

1 Melitz(2003)以降,財の異質性(heterogeneity)を導入した国際貿易モデルの研究が急速に進められている。新新貿易理論と

も呼ばれるこの分析の枠組みは,現在,貿易理論以外の様々な分野でも応用されている。ただし本稿では,こうした財の異質 性は考慮しない。

。さらに1990

(2)

代に入ると,輸送費の重要性が認識されるようになる。伝統的貿易理論にも輸送費を 導入した研究は存在するが,その重要性はさほど認識されておらず,せいぜい財や生 産要素価格の均等化を阻害する要因として扱われていたにすぎない。しかし,収穫逓 増と不完全競争を前提としたモデルにおいて,輸送費の存在は特化パターンにも影響 を与える重要な要素となる。Krugman(1980)は,独占的競争モデルに氷山型の輸送費を 導入した理論モデルを構築し,「より大きな市場(需要)を持つ国には企業が集中し(多 くの種類の財が生産され),その国が財の輸出国になる」という自国市場効果(Home market effect:以下HME)を明示した 2

近年,貿易・投資の自由化を通じて,各国経済の相互連関が急速に拡大・深化して いることは事実である。EUにおける関税同盟やFTAの推進等,もはや世界的なトレンド となっている各国の関税や非関税障壁の引き下げ・撤廃は,貿易や企業の国際立地行 動をどのように変化させるのであろうか

。その後,輸送費を導入した独占的競争モデ ルは,地域経済統合や経済地理学の研究(e.g. Krugman, 1991; Krugman and Venables, 1995)にも応用されるようになる。

3。その結果,HMEにはどのような影響がおよ ぶのであろうか。こうした問題の重要性にも関わらず,貿易・海外直接投資(以下FDI)

を導入したモデルによるHMEの分析は少ない。また,輸送費等の障壁が当該研究におい て重要な役割を担っていることは前述の通りであるが,それらは両国で等水準にある という仮定の下で,その引き下げによるHMEへの影響が考察されることが多い。本論文 では,これと同様の分析,すなわち「両国で等水準にある貿易障壁を両国政府が同率 で引き下げる政策(対称的な貿易政策と呼ぶ)」に加え,「各国の障壁水準が異なって いる状況で,各国政府ごとにその引き下げを行う政策(非対称的な貿易政策)」の効果 についても考察を加える。第2節では,Krugman(1980)を土台とした基本モデルを構築 し,それを用いてHMEの基本的な性質を確認する4。第3節では,近年のグローバル化 の実情に鑑み,基本モデルに企業の国際立地選択行動を組み込んだ独占的競争貿易モ デル(FDIモデル)を提示する5

2 国内市場の規模と貿易パターンとの関係は,この時期に初めて注目されたわけではない。貿易パターンの決定において需要要 因を重視したLinder(1961)も,国内需要規模の重要性について言及している。この点については,小島(1964)を参照のこと。

なお,Krugman(1980)は「新経済地理学」の先駆的研究としても位置づけられる。

。そして,FDIモデルでもHMEが発生し,さらに対称的 な貿易政策がHMEを強化することも確認する。続いて,非対称的な貿易政策がHMEにお よぼす影響についても考察を加える。分析の結果,両国の貿易障壁水準が異なってい る場合には,自国の貿易障壁が相対的に高い(低い)ほどHMEも強化される(弱められ

3 Krugman and Venables (1995)では,輸送費の削減を経済統合の指標として捉えている。

4 HMEについては菊地(1998)等の解説が分かりやすい。

5 FDIや多国籍企業行動を導入したHMEの分析には,Behrens and Picard (2007)等がある。なお,このモデルの理解には,Ottaviano et al. (2002) and Ottaviano and Thisse (2002)等を参照するのが有益である。

(3)

る)こと,自国(外国)のみが貿易障壁を引き下げた場合,自国のHMEは強化される(弱 められる)ことが明らかにされる。第4節では結論の要約を行う。

2. 自国市場効果の基本的性質

本節では,Krugman(1980)のモデルを基礎とした2国(自国,外国)1部門1要素の 貿易モデル(基本モデル)を構築する 6

E

。議論をできるだけ単純にするため,両国の 総所得(総支出) , Eの水準は外生的に所与とする7

E E/ γ

。なお本論文では,自国経済

(市場)の規模が外国以上である場合を分析する。これは,自国所得の相対的規模を 示すパラメータ E E+E)が,1/2γ <1の局面に該当する。

2.1. 基本モデル

両国の代表的消費者は,差別化財の消費によって効用を得る。自国の差別化財消費

に関して,CES型の数量指数 1

0 1 0

1

+

= ∫ ∫ σ

σ σ σ σ

σ n F

n H i

i di c di

c

C を仮定する。σ(>1)

財間の代替弾力性,アステリスク(*)は外国の変数であることを示す。上付きのH,F は財の生産国が自国,外国であることを示しており,ciHciF)は,自国(外国)で 生産された第i財に対する自国消費者による需要である。nは財バラエティ(企業)

数である。企業は輸出に際し,関税や運送料,その他諸費用を含む氷山型の輸送費に 直面しており,1単位の財輸送にt>1単位の財輸出が必要である8。以下では, の低t

下を貿易障壁の低下と表現する。本節では,Krugman(1980)等との対比が行えるように,

それらの設定と同様,初期(政策施行前)における両国の障壁水準が等しいと仮定す

6 同質財部門を加えた2部門モデルを用いた先行研究も数多い。Yu (2005)は,自身の理論分析の結果とHelpman and Krugman

(1985)やDavis (1998)の結果とを対比し,HMEと産業構造との関係が従来考えられているよりも複雑であるとの指摘を行って

いる。

7 多くの先行研究では,各国所得(それ故,世界所得)は内生変数とされる。ただし,完全雇用と利潤ゼロ条件を前提とする長 期均衡モデルにおいて,その水準は外生変数である世界の労働賦存量と相対的な人口規模を表すパラメータによって決定され る要素所得に等しくなる。これに対して,本論文第3節のFDIモデルでは利潤ゼロ条件が成立しないため,上記と同様の設定 でモデルを構築することは不可能である。しかし,各国所得(正確には世界所得と規模パラメータ)そのものを外生的に固定 すれば,所得決定のプロセスがモデルから排除されてしまうものの,形式的には上記と同様の分析が行なえるモデルとなる。

2節の基本モデルにこの設定は必ずしも必要ではないが,第3節のFDIモデルとの整合性を維持するために,基本モデルで も国民所得そのものを外生変数として処理した。

8 例えば,Baier and Bergstrand (2001) は,OECD 諸国における貿易拡大のうち 38 %ポイントが関税率低下,12%ポイントが 運送料低下によって説明できると指摘している。この推計結果から,貿易拡大要因としての関税率や輸送費低下の重要性がう かがえる。

(4)

る。価格指数を σ σ σ

+

= ∫ ∫ 1

1 0

1 0

1 n ( i)

n

i di tp di

p

P σ σ σ

+

= ∫ ∫ 1

1

0 1 0

)1

( n i

n

i di p di

tp P

とすると,両国消費者の個別財に対する需要は次のようになる。

. ) 1 ( ,

) 1 ( )

(

, )

( ,

1 1

1 1

E P

p c E P

tp c

E P tp c E P p c

F i i H i

i

F i i H i

i

γ γ

γ γ

σ σ σ σ

σ σ σ σ

=

=

=

=

(1-4)

次に,生産者の行動を定式化する。いずれの国でも,差別化財の生産には固定的労 働投入αと単位生産あたり労働投入βが必要,すなわち生産技術が規模に関して収穫 逓増の状態であるとする。単純化のためHelpman and Krugman (1985, ch.10)と同様に 両国の賃金を1とする。各企業の利潤最大化問題より,下記の最適価格が求まる。

p p

pi = i =σβ/(σ1) . (5) (5)式から明らかなように,このプライシング・ルールは障壁水準とは無関係である。

また,すべての財価格が一致している。この価格の対称性は分析を容易にするが,も ちろんこれは諸々の条件に依存して成立する極端な性質である。例えば,両国賃金が 一致しない場合には価格の対称性は崩れ,両国の相対賃金水準が結果に大きく影響す るようになる。(5)式を考慮すると,価格指数は次のようになる。なお,τ t1−σ <1 ある。

( +τ )σ

= p n n 11

P P= p(τn+n)11σ . (6, 7) ここでは明記しないが,(5)式と両国の自由参入条件(ゼロ利潤条件)から,均衡にお ける生産水準を求めることができる。さて,ゼロ利潤条件に(1)-(7)式を代入すると

E n n n n

σα τ

γ τ τ

γ =

+ +

+

) 1

(

E n n n n

σα τ

γ τ

τγ =

+ +

+

1 (8, 9)

が得られ,これら両式から均衡企業数(10),(11)式が決まる。

n A

) 1 (

) 1 (

τ γ τ γ

=

n A

) 1 (

) 1 (

τ τγ γ

=

. (10, 11) ここで,両国の企業数合計がn+n = A1Aσα/E)となる点に注意したい。こ れは,世界の総企業数が外生要因σ,α,E のみによって決定され,内生変数や注目す るパラメータγ τ からは独立していることを示している。この性質は,本節のモデ ルと次節のFDIモデルとの整合性を保つ上で非常に重要なポイントである。さて,表記

(5)

の簡略化のためA=1とすると,n>0およびn >0の条件を満たすためには,

γ τ τ τ

< + + < 1

1

1 , (12) が必要である9。仮に,自国市場規模が大きく1/(1+τ)<γ である場合には,企業が自 国のみに集中し,すべての財バラエティが自国で生産されることになる。他方,

) 1 /( τ τ

γ < + の場合,財生産は外国のみで行われる。こうした完全特化均衡の状態を 避けるため,以下の分析ではγ τ が (12)式の条件を満たすと仮定する。ここで,貿 易障壁の低下(τ の上昇)によって(12)式の範囲自体が狭まることにも注意されたい。

これは,τ1に接近した場合に,lim (1 ) 1 1/2

1 + =

τ τ

τ , lim(1 ) 1 1/2

1 + =

τ

τ となることか

ら確認できる。この結果は,仮に両国の市場規模が等しい場合(γ =1/2,障壁がい くら低下しても不完全特化均衡が維持されることを示している。

2.2. 自国市場効果:基本的な性質の確認

(10)式より次式が導出できる。変数aについて,その変化率をaˆ da/aで表す。

) 1 1 (

) 1 ( ˆ

ˆ >

= +

γ τ γ

γ τ γ

n . (13)

(13)式より,自国規模の拡大率よりも自国企業数の増加率の方が大きい,すなわちHME が確認できる。γ が上昇した場合,自国企業は輸送費のかからない自国市場の拡大と 輸送費のかかる輸出市場の縮小に直面する。しかし,(正の)輸送費が存在する場合に は前者の影響が支配的となり,自国での利潤獲得機会が大きくなるために自国への企 業参入が促される。一方,外国では市場規模の縮小によって企業の退出が促進される。

これは自国市場に対する企業参入の追加的な誘引となる。その結果,自国規模の拡大 に伴って,その変化率以上の企業(財バラエティ)数の増加が自国で発生するのであ る。この結果についてKrugman(1980)は,ある財に関して大きな自国市場を持つ国がそ の財の純輸出国になると解釈している10

続いて,貿易自由化によるHMEへの影響を確認しよう。(13)式より,(14)式を得る。

( )

{ (1 )} 0

/ ˆ ˆ

2 >

=

γ τ γ

γ τ

n γ . (14)

貿易障壁の引き下げ・撤廃による貿易自由化の推進はHMEを強化する。貿易障壁の低下 は,主に(a)貿易相手国の財需要を増加させ,輸出を増加させる(輸出成長効果)(b)

9 (12)式は,Helpman and Krugman (1985, p.208)のSLの範囲に関する条件に該当する。

10 Krugman (1980, p.958)参照。

(6)

価格指数の低下を通じて国内で販売される財の相対価格を上昇させ,国内需要を減少 させる(輸入競争効果)という2つの経路を通じてHMEに影響をおよぼす11

本節では,HMEの基本的な性質についての確認を行った。よく知られていることであ

るが,HMEが発生する根本的な原因は,両国の市場規模格差が各国企業に非対称な影響

を与える点にある。そして,その非対称性は貿易障壁に基づいて生み出されている

。これらう ち,いずれの効果が支配的かによってHMEへの効果が決まる。すでに述べたように,正 の輸送費が存在する場合,国内市場を通じた効果の方が輸出市場を通じた効果よりも 強い。また,輸入競争効果は自国よりも外国において強く作用するため,外国企業の 国内販売の損失は自国企業よりも大きい。すなわち,外国の輸入競争効果は輸出成長 効果よりも強いうえに,自国の輸入競争効果よりも強く作用する。それ故,外国企業 の外国市場からの撤退が増加する。一方,自国では企業参入が発生する。結果として,

貿易を自由化するほど市場規模の大きな自国の企業数が多くなる。すなわち,貿易障 壁の水準が低いほど大国の優位性がより強まり,HMEが強化されるのである。

12

1

=

=τ t

仮に障壁が存在しない( )場合,(8),(9)式はいずれもn+n =1となる(A=1 に注意せよ)。この場合,世界全体の企業数は決まるものの,各国の均衡企業数は決ま らなくなる。すなわち,貿易障壁の存在はHMEの研究において重要な役割を果たしてい るといえる13

3. 企業の国際立地選択と自国市場効果

前節の企業参入・退出行動は,企業の国際立地選択として解釈されることもある。

菊地(2007)も,これを仮想的な多国籍企業の行動として捉えている 14

n

。確かに,前節 の基本モデルにおいても,世界全体の企業数が外生要因のみによって決定されていた

(ここでは1)ために,自国企業数 と外国企業数nの決定とが表裏一体n =1n となっているように見える。しかし,このnnとの相反する動きは決して企業によ る国際的な立地選択の結果として生じたものではない。この点を修正するために,本 節では企業の海外進出行動をモデルに導入する。

11 この「輸出成長効果」,「輸入競争効果」は,Amiti(1998)の「Export growth effect」,「Import competition effect」に該 当する。

12 Davis (1998)は,同質財と差別化財とに同一の輸送費がかかる場合にはHMEが消滅することを示し,同質財部門における輸送

費の重要性を指摘している。Jensen (2006)も,両部門で同一の輸送費がかかる場合HMEが非常に小さくなることを実証的に示 した。

13 特に輸送費の存在は,新地理経済学においても重要な役割を担っている。

14 菊地 (2007, p.79)参照。

(7)

3.1. FDIモデル

海外進出を行う際,企業は両国で操業した場合の利潤比較を行うであろう。こうし た企業行動をモデルに反映させるために,本節では基本モデルの枠組みに国際立地裁

定式(πi=πi)を組み込む。近年の国際生産・販売ネットワークの拡大・深化における

FDIの重要性に鑑みても,企業の海外進出行動をモデルに導入する意義は大きい。便宜 上,この裁定式を導入した本節のモデルをFDIモデルと呼ぶ 15

n

。ここで重要なことは,

FDIモデルでは,均衡企業数の決定において各国市場で操業する企業の利潤が同時に考

慮される点である。この設定変更によって,各国均衡企業数の変化が直接リンクする ようになる。ただし,個別消費需要,プライシング・ ルール, 価格指数((1)-(7)式)

は第2節の基本モデルと同一である。さて,国際立地裁定式(後述の(15)式)はゼロ 利潤条件と両立しない。それ故,(8),(9)式は成立せず,各国企業数(10),(11)式も決 定されない。立地裁定式からは,各国企業数の配分が決定されるのみである。このた めFDIモデルでは,世界全体の総企業数を外生的に与える必要が生ずる。基本モデルと の対比を可能にするために,世界全体の企業数を1,自国企業数を としよう。FDIモ デルでは,外国企業数n1nとなるため,記号の書き換えは必要であるが,本質 的に(6),(7)式は変化しない。以上の想定のもとで,国際立地裁定式に(1)-(7)式を代 入し整理すると(15)式を得る。本節では後の分析の都合上,各国の貿易障壁水準を区 別しttと表記する。なお,τ t1−σ <1τt1σ <1である。

) 1 (

) 1 )(

1 ( ) 1 (

) 1 (

n n

n

n +

=

+

τ

γ τ τ

γ

τ . (15)

(15)式の左辺および右辺は,それぞれ自国および外国において「国内生産財に対する 需要」から「輸入財に対する需要」を差し引いた大きさを示している。0<γ,τ,τ <1 より,両辺とも正値であることが確認できる。これは,いずれの国でも,国内財に対 する需要が輸入財需要を上回っていることを示している。(15)式を解くことで,自国 の均衡企業数が求まる16

15 FDIモデルでも生産技術の収穫逓増は仮定しているが,本節の議論において規模の経済は必ずしも必要ではない。詳しくは補

論を参照のこと。

16 この場合,nは世界全体に占める自国企業の割合であると同時に,自国企業数そのものをも表す。

(8)

) 1 )(

1 (

) 1 ( ) 1 (

=

τ τ

τ τ ττ

n γ . (16)

自国企業数に関する0<n<1の制約を満たすためには,自国市場規模パラメータおよ び両国の貿易障壁が次の条件を満たす必要がある。

<

<

ττ γ τ

ττ τ τ

1 1 1

) 1

( . (17)

すでに述べたように,基本モデルの均衡企業数はゼロ利潤条件によって,FDIモデルで は国際立地裁定式によって決定される点で両者の決定プロセスは明らかに異なる。に もかかわらず,前節の設定どおりτ =τとした場合には,(16),(17)式がそれぞれ(10),

(12)式に一致する。ここから,FDIモデルと基本モデルとが高い整合性を保っているこ

とが分かる。これは,Krugman(1980)やHelpman and Krugman (1985)等に代表される先 行研究のモデルの頑健性を示すと同時に,本節のFDIモデルが,先行モデルの基本的な 性質を損ねることなく,その枠組みに整合的に国際立地裁定行動を導入していること をも示している。

3.2. 企業の国際立地選択と自国市場効果

(16)式を用いて,企業の国際立地選択を導入した場合のHMEを検討しよう。

) 1 1 ( ) 1 (

) 1 ( ˆ

ˆ >

=

τ τ ττ γ

ττ γ γ

n . (18)

(18)式から,FDIモデルにおいてもHMEが発生することは明らかである。企業の国際立 地選択行動を組み込んだFDIモデルにおける自国企業数nと規模パラメータγ との関

係が,基本モデルの(10)式と同一である以上,この結果は当然である17

=τ

τ

。したがって,

立地裁定式の導入によって自国と外国の企業数が明示的な対応(相反)関係を持つよ うになった点を除けば,FDIモデルのHMEに関する基本的解釈も基本モデルと同様に行 える。さらに の場合を考えると,(18)式は(13)式に一致するため,(14)式と同 様に貿易障壁の引き下げがHMEを強化するという結論を得る。以上より,次の命題 1 が成立する。

命題 1 企業の国際立地選択行動を導入したFDIモデルでもHMEは発生する。さらに,

17 (10)式と(16)式が完全に一致するにはτ=τ*が必要であるが,この条件の有無は均衡企業数の水準を変化させるだけで、企業

数と規模パラメータγとの関係は歪めない。

(9)

FDIモデルにおいても,対称的な貿易政策(両国で等しい水準にある貿易障壁の同率引 き下げ)はHMEを強化する。

さて,近年の世界経済が貿易や投資の自由化を通じて加速的にその相互連関を深め ていることは周知の事実である。その流れにおいて,各国の関税や非関税障壁の引き 下げ,撤廃は世界的なトレンドとなっている。しかし,多くの論文で仮定されている ように,ある財に関する障壁(輸送費含む)がすべての加盟国で一致しているという 状況は一般的ではなく,国ごとに異なっているのが普通である。もし,各国の貿易障 壁水準が異なっている場合,その格差とHMEとはどのように関係しているのであろうか。

これは,(18)式を用いることで簡単に分析できる。障壁格差がない経済(経済0τ =τ

と格差が存在する経済(経済1τ τ)のnˆ/γˆを,それぞれHME0HME1と表記する。

経済0の両国障壁水準および経済1の自国障壁水準が同じ場合,

{

γ ττ τ τ

}

{γ τ τ}

τ τ γτ

+

=

) 1 ( ) 1 ( ) 1 (

)

0 (

1 HME

HME (19)

となる18。各パラメータの大きさを考慮すれば,(19)式から次の関係が見出せる。

<

<

>

>

. ,

0 1

0 1

HME HME

HME if HME

τ τ

τ

τ (20)

すなわち,自国の貿易障壁が相対的に高い(低い)ほど,HMEは強化される(弱められ る)19。この結果は,直感的にも解釈しやすい。外国の貿易障壁が相対的に低いほど 自国企業にとっては輸出が容易になるため,その分HMEは強化されるのである。

命題2 自国の貿易障壁が相対的に高い(低い)ほど,HMEは強化される(弱められる)

最後に,各国政府ごとの非対称的な貿易政策がHMEにおよぼす影響を検討する。(18) 式より,

( )

{

(1 ) (1 )

}

0

) 1 ˆ (

/ ˆ

2 >

=

τ τ ττ γ

τ γ τ

n γ

, (21)

18 (19)式においてτは経済0の両国障壁水準および経済1の自国障壁水準,τ*は経済1の外国障壁水準に対応している。

19 経済0の両国障壁水準および経済1の外国障壁水準が同じであると仮定した場合でも,((19)式右辺が変化するものの)結論 は変わらない。

(10)

( )

{

(1 ) (1 )

}

0

) 1 ˆ (

ˆ/

2 <

=

τ τ ττ γ

τ γτ τ

γ

n , (22)

を得る。(21),(22)式は,それぞれ自国および外国政府による貿易障壁引き下げの効 果である。自国(外国)政府によって貿易障壁の引き下げが行われる一方で,外国(自 国)の障壁水準が変化しない場合,自国にとってのHMEは強化される(弱められる) この結果は次のように解釈できる。外国の貿易障壁が低下した場合,外国の価格指数 が低下する。このとき,自国の障壁水準が変化しない状況の下で,外国国内財に対す る需要増加が強く作用するために,外国企業利潤が増えることになる。それ故,自国 への企業参入が減少し,HMEは弱められるのである。自国政府による貿易障壁の引き下 げについても同様の解釈が行える。

命題3 自国(外国)のみが貿易障壁を引き下げた場合,自国のHMEは強化される(弱 められる)

上記の結果は,初期時点(政策施行前)においてどちらの国の障壁水準が高いかに依 存しない。この根本的な原因は,本モデルにおいて各国の政策が完全に独立しており,

τ τとが連動するメカニズムが組み込まれていない点にある。ゲーム理論等を用い て各国政策間の連関性を挿入すれば結果も変わる可能性があるが,この点に関する考 察はここでは行わない。ともあれ,上記の分析に従えば,自国において関税等の貿易 障壁の引き下げが遅れ,貿易相手国が先にその引き下げを行った場合,それは自国へ の企業流入を阻む要因となる可能性がある。逆に,現在の日本のように,国内企業の 多国籍化・海外流出に歯止めがきかず産業空洞化の進行が加速しつつある経済にとっ て,他国に先んじた貿易障壁の撤廃はHMEを強化し,空洞化を食い止める一つの手段と なりうる。

4. おわりに

本論文では,世界経済の相互依存関係が拡大・深化する中で,対称的,あるいは非 対称的な貿易政策(輸送費や関税を含む貿易障壁の削減・撤廃)が,自国市場効果に およぼす影響について考察を行った。分析の結果,得られた主な結論は以下の3点で

(11)

ある。第1に,krugman(1980)を土台とした基本モデルに企業の国際立地裁定式を組み 込んだ独占的競争貿易モデル(FDIモデル)でも,従来の研究結果と同様,HMEの発生 が確認できた。そして,対称的な貿易政策がHMEを強化することも確認した。この結果 は,関税率等の貿易障壁水準の似通った国どうしが協調的に関税率を引き下げた場合 には,大国の経済的利益が増加することを示している。第2に,両国の貿易障壁水準 が異なっている場合には,自国の貿易障壁が相対的に高い(低い)ほど,HMEは強化さ れる(弱められる)ことも明らかにされた。そして第3に,両国の障壁水準が異なる 場合,自国のみが貿易障壁を引き下げた場合,自国のHMEは強化される。一方,外国の みが貿易障壁を引き下げた場合,自国のHMEは弱められる。すなわち,現在の日本のよ うに国内の産業空洞化に悩む経済にとって,他国に先んじた貿易障壁の撤廃はHMEを強 化し,空洞化を食い止める一つの手段となりうる。

補論:独占的競争モデルと規模の経済

新貿易理論における多くの独占的競争モデルにならい,本論文では収穫逓増の生産 技術を仮定して分析を行った。そもそも長期均衡モデルでは,生産技術が収穫一定で 固定労働投入も存在しない場合,ゼロ利潤条件から均衡生産量や均衡企業数が決定さ れなくなる。しかし,本論文のFDIモデルのように国際立地裁定式を導入したモデルで は,同様の分析を行うのに規模の経済は必ずしも必要ではない。FDIモデルでは,基本 モデルに設定をあわせるため収穫逓増を仮定したが,生産技術が収穫一定と仮定して も,世界の総企業数を外生的に与え,固定的労働投入以外の固定費(例えば立地費用)

を利潤関数に導入すれば上記の問題は回避できる。便宜上,収穫一定を仮定したFDI モデルを修正FDIモデルと呼ぼう。均衡企業数の決定プロセスに関する基本モデルと修 正FDIモデルとの相違は,前者では各国市場への参入・退出行動の結果として均衡企業 数が決定されるのに対し,後者では,世界の総企業数が外生的に与えられたもとで各 企業の国際立地選択行動から均衡企業数が決定されるという点である20

x l=α +β

このよう に,両者は明らかに異なるモデルであるが,モデル構造についてその整合性は高い。

この点を以下で確認しておこう。収穫逓増の生産技術を仮定した場合( の利潤関数は,基本モデル,FDIモデルとも

)

( x

w

px α β

π = + π =(pβw)xαw, (A1)

20 収穫逓増を仮定した第3節のFDIモデルでも,均衡企業数は立地裁定式から決定される。

(12)

である。ここでxは財需要,それ以外の記号の定義は本文と同じとする。ただし,表 記を簡略化するために財バラエティを示す記号(i)は省略している。一方,生産技 術が収穫一定(l=βx)で,固定的労働投入以外の固定費用α が存在する修正FDIモ デルの場合,利潤関数は,

α β

π = pxw x π =(pβw)xα (A2) となる。ここで,(A2)式のように生産技術が収穫一定と仮定する場合,α を固定的な

労働投入と解釈することはできない点には注意が必要である。(A1),(A2)式より,両 式の相違は固定費用の部分のみ(賃金が影響するか否か)であることが容易に確認で きる。仮にw=1ならば両式は一致する。w1ならば両式は完全に一致しないものの,

賃金水準が外生的に一定である限りどちらの利潤関数に対応するプライシング・ルー ルも(5)式になる。それ故,価格指数も(6),(7)式と一致する。さらにτ =τの場合,

修正FDIモデルにおける自国企業数および規模パラメータの条件式も,それぞれ(10),

(12)式に一致する。以上より,規模の経済が存在しない場合でも,設定次第で規模の 経済を導入した場合と同様の分析を行なうことが可能であることが分かる。

参考文献

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