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中国憲法における「社会主義」―その変遷と「本質 」―

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中国憲法における「社会主義」―その変遷と「本質

」―

著者 毛 桂榮

雑誌名 明治学院大学法学研究 = Meiji Gakuin law journal

巻 110

ページ 147‑250

発行年 2021‑01‑25

その他のタイトル The  Socialism  in the Constitutions of China: Text Analysis

URL http://hdl.handle.net/10723/00004043

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中国憲法における「社会主義」

―その変遷と「本質」―

毛   桂 榮

1,本稿の課題

 本稿は,中国憲法における「社会主義」概念の変遷を検討ものである。中国 憲法における「領導」及び「共産党の領導」,また「専政」概念の研究の続編 となるものであるが⎝₁⎠,本稿が執筆するより直接的なきっかけは,2018 年の憲 法改正で憲法第 1 条に「中国共産党領導は中国特色社会主義の最も本質的特徴」

との一文が追加されたことである。これは,1982 年憲法の本文では直接登場 しない「共産党の領導」が約 40 年ぶりに中国憲法の本文(総則の第 1 条)で規 定されただけでなく,これまでの「社会主義」の理解では見られない規定であ る。いわば,「共産党の領導」という政治権力論あるいは支配論が「社会主義」

の定義になり,なおかつ「最も本質的特徴」になるということである。共産党 が「社会主義」を目指す政党で,「共産党の領導」の下で「社会主義社会」を 目指すということは理解できるが,「中国共産党領導は中国特色社会主義の最 も本質的特徴」という表現は,若干不正確な言い方かもしれないが,手段が目 的を規定するような表現である。なおかつ共産党の領導は「中国特色社会主義」

の「最も本質的特徴」とされるので,その他の特徴より最上位に置かれること になる。これは,「目的と手段の置換(逆転)」以上に手段の最終目的化といっ たところであろうか。「計画経済」を社会主義の特徴とする議論はなくなった

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と思うが,「平等」の追求を「社会主義」の定義とデカップリングする議論は ないと断定できる一方,共産党の領導と社会主義の最も本質的特徴としてカッ プリングすることは,断定できないが,これまでに見たことはない。個人的に は「本質的な特徴」の用語を使用するなら,「社会主義」の「最も本質的な特徴」

は,「平等」を追究する思想,運動(そして体制?)ではないかと思われる。も ちろん,「社会主義」と「中国特色社会主義」との相違,また「社会主義」あ るいは「共産主義」をどう定義するかいろいろと議論があり得るが,共産党の 領導という権力論をもって「社会主義」(の社会,思想,体制)あるいは「中国 特色社会主義」の「本質」(本質的特徴)を定義することは,私としては寡聞に してこれまでにみたことのない議論である。本稿は,憲法第 1 条におけるこの 修正が登場する経緯,理由の探求を含め,中国における「社会主義」概念の変 遷を中国憲法の条文に即して探ってみたい。

 中国の大学では憲法の授業はほとんどない。また、憲法の条文が個別・具体 的ケースで裁判の基準,あるいは司法判断の根拠にすることが基本的にない。

司法における違憲審査制は存在しない⎝₂⎠。憲法違反は大きな問題になるかとい うと,そうでもないようである。中国憲法学界では,(望ましくないが,悪くな い憲法違反という意味で)「良性違憲」の概念もあるぐらいである。憲法は中国 においては「国家の根本法」,「最高の法律効力を有する」(1982 年憲法序文)と はとても言えない状況である。しかし,憲法の規定,条文テキストを確認する ことで中国政治のあり方を理解することが可能であり,場合によってはその「本 質」,「特徴」を捉えることができる。憲法は人権保護と国家機構からなること が一般的であるが,中国憲法(1982 年)は序文のほか,第 1 章「総則」,第 2 章「公民の基本権利と義務」,第 3 章「国家機構」,そして「国旗国歌」などの 第 4 章という構成である。後に検討するように,中国憲法には「憲法」的な内 容はあるが,他方,政治的な宣言(共産党領導の成功物語,共産党の指導思想など)

も多い。とくに序文には「革命史」の叙述,重要な「宣言」,「規定」があり⎝₃⎠

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さらに(現行憲法計 32 条からなる)総則には(社会主義の)経済制度に関する諸 規定がおかれている。現行憲法の修正は序文のほか,総則の各条文に関する修 正が多く,特に総則における経済制度に関する諸規定の修正がかなり重要であ る。憲法修正を通じて改革開放政策が実施された後の中国の変化を見ることが できる。

 憲法の条文の (不変及び変更を含む) 変遷を辿ることで,中国は社会主義(国家)

なのか,いかなる意味で社会主義(国家)なのかを本稿では考えてみたい。中 国は「資本主義化」している,または中国は「赤の資本主義」あるいは「国家 資本主義」になっているとの議論が多いが,「社会主義」という概念は中国の 政治経済を考える上で果たして意味を持たなくなったのかを考える素材を提供 したい。私はこれまでに「領導」(共産党の領導),人民民主(無産階級)「専政」

の概念の分析をしてきた。今回は,「社会主義」に関する諸規定の変遷を分析 することで,政治における共産党の領導,経済における「公有制」・「国有経済」

の優位が中国憲法における「社会主義」の一貫した規定であることを確認した い。これは,中国の経済改革,そして政治改革の可能性と限界を考える材料と なる。

 以下では,共産党の領導の規定,「社会主義」という用語(概念)の変遷の ほか,これまで社会主義の思想と深く関連する諸概念,具体的には計画経済,

公的所有(公有制),国有経済,そして私的所有(の廃絶),平等,搾取(の消滅)

などの問題がどのように規定されているのかに注目する。また,これらの諸規 定と「中国特色社会主義」との関連も検討していく。もちろん,これは,社会 主義概念,社会主義理論の主たる内容になることを主張するものではない⎝₄⎠。 これまで私が受けた教育(いわゆる「マルクス政治学」を含む)を踏まえてとりあ げるべき諸概念と判断しており,より重要な社会主義の意味内容が抜けている かもしれない⎝₅⎠。本稿は,何をもって社会主義となるか,社会主義はどうなる べきかを直接的に主張するものではない。以下,第 2 節では,1949 年臨時綱

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領から 1982 年憲法およびその改正まで憲法における社会主義に関連する諸規 定の変遷を時系列的に素描・概観し,その上で第 3 節では「共産党の領導」規 定の変遷,第 4 節では,社会主義の用語(概念)そのものの規定,また,より 具体的に「計画経済」の「登場」と「退場」,社会主義の経済制度に関わる公 有制の規定,(公有制経済に対する)非公有制経済の規定,搾取及びそれに関わ る平等の規定,所得配分の規定を検討していく。第 5 節では,中国共産党領導 は「中国特色社会主義」の「最も本質的特徴」となる規定の登場を検討する。

終わりにおいて本稿の検討を整理し,政治における共産党の領導(支配),経 済における公有制,国有企業(経済)の優位(主導)が中国憲法における「社 会主義」規定の一貫した意味内容であることを明らかにしたい。また「公有制」

が(中国特色)社会主義の「経済的特徴」,「共産党の領導」が中国特色社会主 義の「政治的特徴」とするならば,「社会主義」から「中国特色社会主義」へ の移行に伴い,「公有制」という「経済的特徴」よりも「中国共産党領導」と いう「政治的特徴」(最も本質的特徴)が優位するようになったことも示してい きたい。

2,「社会主義」関連の諸規定の変遷:概要

 1949 年以後の中国では,まず臨時憲法とされる共同綱領(1949 年)があり,

そして最初の「社会主義憲法」とされる 1954 年憲法が制定された。1970 年代 に二つの憲法,即ち 1975 年と 1978 年の憲法があり,時間的に 3 年間の間隔で あるが,文化大革命中,またその直後の憲法として内容的には近似する。改革 開放政策実施後の憲法としては 1982 年憲法があり,1954 年の憲法をベースに 制定された憲法であるが,1982 年憲法は現行憲法として,すでに 1988 年,

1993 年,1999 年,2004 年,2018 年の 5 回の改正を行ってきた⎝₆⎠。以下は,そ の改正を含め,「社会主義」関連する諸規定の変遷を概要的に検討していく。

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1)1949 年共同綱領から 1982 年憲法まで

 1949 年共同綱領は,建国に際して政治協商会議⎝₇⎠で採択されたもので,一 般的に臨時憲法の役割を果たしたものとされる⎝₈⎠。中国が社会主義国家になる 前の段階(通常「新民主主義」国家)における中華人民共和国のあり方を規定し たものである。その共同綱領の本文第 1 条では,中国は「新民主主義」,即ち「人 民民主主義国家」で,「労働者階級が領導」し労働者と農民が同盟する「人民 民主専政」を実行すると規定されていた。この規定にある「新民主主義」論,

「人民民主主義」・「人民民主専政」に関しては議論しないが,「労働者階級の 領導」が規定されていることを確認したい。憲法で「共産党の領導」が規定さ れているかどうかは,中国憲法を理解する問題の 1 つである。共同綱領では,

この第 1 条の規定のように「労働者階級の領導」が規定されているが,共産党 の領導は明文的に規定されていない。共同綱領第 1 条だけではなく,序文(前 文)を含め綱領全体に「共産党の領導」の表現は直接的には存在しない。しか し,共同綱領における「労働者階級の領導」は「共産党の領導」を意味するこ とを指摘したい。もとよりこれは前衛党理論(後述)によるものであるが,「労 働者階級の領導」の表現は実質上,「共産党の領導」を意味するものと憲法史 の研究では指摘されている⎝₉⎠。また,例えば 1975,1978 年憲法に労働者階級 の領導はその前衛党(要するに共産党)を通じて国家を領導するとの規定(共に 第 1 条)があるように,1949 年時点で「労働者階級の領導」の規定は間接なが ら,実質上,「共産党の領導」を規定したものである(後述)。共産党の領導を 明示しなかったのは,政治協商会議に参加する諸党派などへの配慮があったと される。

 「新民主主義」国家の経済政策に関しては,共同綱領の第 28 条で「国営経済」

(1982 年憲法の 1993 年改正で「国有経済」に変更)は「社会主義性質の経済」で あり,重要な経済領域は国家の統一的経営とし,国有の資源と企業は,経済社

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会の「領導力量」(この「領導力量」の規定は 1982 年憲法では「主導力量」に変更さ れる)と規定されている。さらに第 26 条では,私的経済は国営経済の「領導」

の下と規定されている。

 こうして見ると,1949 年の共同綱領では「新民主主義」国家(第 1 条)が規 定されているが,第 1 に,「労働者階級の領導」が規定され,それは実質上「共 産党の領導」であり,第 2 に,国営経済,または国有の資源と企業が「領導力 量」としての優位が規定され,「社会主義」的な経済の志向性が示されたと思 われる。政治における「共産党の領導」,経済(制度)における国営経済(国有 経済)の優位は,その後の憲法規定における一貫した規定であることを予め指 摘しておきたい。

 1950 年代,社会主義改造(農村における集団化,都市における私営企業の(社会 主義への)改造),搾取制度を廃絶する社会主義社会の建設(1954 年憲法第 4 条)

が推進されていく過程で,中国で最初の社会主義憲法とされる 1954 年憲法が 制定された⎝₁₀⎠。54 年憲法では,人民代表大会制度を中心に社会主義の「政治 制度」(後述)が規定されたが,1949 年の共同綱領と同じく憲法第 1 条では労 働者階級が領導する人民民主専政のことが規定されている。明文の「共産党の 領導」は序文においてのみ政治協商会議との関係で登場するが,「共産党の領導」

は憲法第 1 条における「労働者階級の領導」によって間接的に規定された。

 54 年憲法が規定する社会主義の経済に関しては,一時,社会主義の代名詞 とされる「計画経済」の実施(第 15 条)が初めて規定された。計画経済の規定 は以後,1982 年憲法まで継承され,1993 年憲法改正における「計画経済」の 条文の削除(また「社会主義市場経済」の追加)まで続く。「社会主義経済」(第 5,

6 条)とする全民所有制経済(国営経済)と集団所有制経済(合作社など)のほか,

私営経済などに関する規定(第 7 条)が明記され,「領導力量」とされる国営経 済を優先的に発展する(第 6 条)一方で,個人経営,資本主義工商業は改造,

制限の対象となり,全民所有制(国営経済)に転換することが目標と規定され

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ていた(第 10 条)。また 1954 年憲法では,計画経済,公共利益を破壊すること を禁止する規定も置かれ,これはその後の憲法に継承されていく。

 1954 年憲法では,「搾取制度」の消滅が社会主義国家建設の目標としてはじ めて規定された(第 4 条)。農民の土地所有権の保護(第 8 条)が規定されたが,

農村の個人農業などは,社会主義改造をへて合作社(農業集団化)へ転換して いくことが明示的に規定されている(第 7,8 条)。集団所有制の合作社は,「半 社会主義」(1949 年共同綱領の規定)の経済ではなく,「社会主義経済」であると 定義は変更される。社会主義改造,農業集団化によって農民の土地所有権はほ とんどなくなり,よって 1954 年憲法にある農民の土地所有権の規定は,1970 年代以後の憲法では当然なくなる。また,1954 年憲法では私的財産などの私 的所有権の保護(第 8 条から 12 条まで)は規定されるが,資本主義的経済,私 営経済,農民の個人経済は,合作社など社会主義改造をへて公的所有(国営と 集団所有)へ転換することが予定されている(第 10,13 条)。他方,地下資源,

水源などは全民所有とすること(第 6 条)が規定され,鉱山,川,山林などの 私的所有は実質上,存在しなくなり,これは,以後の憲法で地下資源などの国 有規定として継承されていく(例えば 1982 年憲法第 9 条など)。

 1954 年憲法が制定されて 20 年後,1975 年憲法が,またその 3 年後 1978 年 憲法が制定された⎝₁₁⎠。1970 年代憲法文化大革命期間中,またはその影響が持 続する期間中に制定された憲法であり,多くの共通する規定がある⎝₁₂⎠。共産党 の領導に関しては,2 つの憲法の序文だけではなく,本文にも明文的に登場し,

労働者階級の領導は共産党の領導を意味することが明確に示された。即ち,二 つの憲法はともに,労働者階級はその前衛党(共産党)を通じて国家を領導す る(ともに憲法第 2 条)ことが規定された。さらに公民の共産党の領導を擁護す る義務まで規定された(1975 年憲法第 26 条,1978 年憲法第 56 条)。別途,「専政」

の憲法規定に関する検討で指摘したように,共産党の領導を担保するものとし て,憲法では共産党による武装力量(軍と警察)の統率も規定された(1975 年憲

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法第 15 条,1978 年憲法第 19 条)。近代国家に関しては暴力装置の合法的独占と するウェーバーの議論(『職業としての政治』を参照)があるが,中国憲法では,

共産党による暴力装置(武装力量)の独占(統率)が明文に規定されていた。共 産党による国家の領導という党国体制は,国家暴力装置の独占,そして(専政 の対象となる)反革命などの鎮圧(75 年憲法第 14 条,78 年憲法第 18 条)などを通 じて実質的に確保されている⎝₁₃⎠

 1975 年,1978 年憲法では,1954 年憲法の「計画経済」,全民所有制(国営経 済)と集団所有制の規定や,地下資源,水源などの全民所有とする規定が継承 された。また,社会主義公共財産は「不可侵」(原文は不可侵犯)と規定された(と もに第 8 条)。対して,私有財産に関しては,1975 年と 1978 年憲法ではともに,

収入や家屋など(言わば生活資料)の所有権を保護すると規定されているが,土 地などは徴収・徴用,あるいは国有化できると規定されている(ともに第 6 条)。 補償の規定はない。言わば,私有財産は不可侵ではない,ということである。

 社会主義改造をへて,都市では私営経済はなくなるが,農村においては個人 経営(例えば個人商店)が存在しており,これに関しては,1975 年と 1978 年憲 法では「他人を搾取しない」形で許容するが,集団化への誘導が明示されてい る(ともに第 5 条)。社会主義的所有制(全民所有制,即ち国営経済と,集団所有制)

が社会主義経済の目標として堅持されていると言える。

 労働の「分配」に関しては,1954 年憲法では,搾取制度の消滅が目標とさ れたのに対して,1975 年と 1978 年憲法では共通して搾取制度の消滅を前提に,

国家は「働かざる者食うべからず,能力に応じて働き,労働に応じて分配する 社会主義原則」を実行することが規定されている(75 年憲法第 9 条,78 年憲法第 10 条)。これは,1954 年憲法には見られない規定であるが,分配に関する「社 会主義原則」とされており,一部の規定は 1982 年憲法まで継承された(後述)。  1982 年憲法は,改革開放政策が実施された後に制定された憲法であるが,

2018 年までに計 5 回修正されている⎝₁₄⎠。まず,1982 年憲法は,例えば,第 33

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条で規定される「法律の前,一律平等」(法の下の平等)の条文は,1954 年憲法 第 85 条を修正したものであるが,条文やその規定の内容においては,1954 年 憲法への回帰という側面が多く指摘されている⎝₁₅⎠。もともと,1982 年憲法の 制定は 1954 年憲法を前提あるいはベースとして進められていたので,そのよ うな結果になるのは当然であろう。そして,1982 年憲法第 1 条における「労 働者階級が領導する人民民主専政」の社会主義国家という規定も基本的に 1954 年憲法を引き継ぐものである。1970 年代憲法の第 1 条に規定する共産党 の「領導核心」の規定,労働者階級が前衛党を通じて国家を領導するなどの表 現は継承されていない。

 他方,1982 年憲法は,1954 年憲法と異なる重要な規定も多い。まず,1982 年憲法第 1 条では,「社会主義制度」は中国の「根本制度」としてそれを破壊 することを禁止すると規定されている。「根本制度」という表現はこれまでに 使用されていなかった表現である。また,「社会主義制度」の包括的定義はな いが,その 1 つと思われる「経済制度」に関しては,第 6 条では「社会主義経 済制度の基礎」は,公有制(全民所有(国営経済)と集団所有制)であることが 規定されている。要するに公有制は「根本制度」である「社会主義制度」の(経 済制度)の基礎である。これに対応して,これまでの経済秩序,経済計画,あ るいは公共利益を破壊することを禁止する規定(第 15 条など)に加えて,社会 主義の公共財産が「神聖不可侵」(第 12 条)と規定された。これは,1978 年憲 法の公共財産「不可侵」の規定(第 8 条)よりも,1954 年憲法における「共和 国の公共財産は神聖不可侵」の規定(第 101 条)を援用して,「社会主義の公共 財産は神聖不可侵」に修正した。公有制経済と企業は所有制において社会主義 経済の基礎であり,公共財産でもある。

 そして,改革開放政策を反映する形で,1982 年憲法は,第 1 に計画経済に 対する市場調整の「補完」的役割(第 5 条),第 2 に,国営企業,集団所有制企 業が経済計画を守った上で「自主経営権」などを認めること(第 16,17 条),

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第 3 に,個体経済(私有,個人経営)が公有制経済の「補完」とすること(第 11 条),さらに,第 4 に私有財産(私有財産の所有権,「継承権」即ち相続権)を尊重・

保護すること(第 11,13 条)が規定された。その上で,(全民所有制経済)国営 企業の役割を国民経済の(領導力量ではなく)「主導力量」(第 7 条)とする位置 づけに調整・緩和した。計画に対する補完とする市場の役割,公有制経済の補 完とする個体経済の役割の規定があるように計画と市場,公有制と私有制の役 割を調整した。「主導力量」とする国営経済の役割規定は,これまでの「領導 力量」の規定との相異が決してはっきりしないが,1982 年憲法の規定として は今日まで続いている。「個体経済」は以後,成長し,1988 年の憲法修正では それに私営経済を加えるようになり,さらに 1999 年憲法修正では私営経済な ど「非公有制経済」の概念までに拡張していった(第 11 条)。

 1982 年憲法はまた,階級闘争から経済建設への転換を反映して,「階級闘争」

の存続を認めながらも,「搾取する階級」が階級としてすでに消滅したことを 序文で宣言し,また第 6 条でも「社会主義公有制は人が人を搾取する制度を消 滅」させたことを明文規定した。また,分配制度の規定では,1975 年,1978 年憲法に規定された「働かざる者食うべからず」の規定が削除された上,「労 働に応じた」分配の原則が再度規定された。ただし,分配の「社会主義原則」

を単に(分配の)「原則」として簡略・修正した。これも 1954 年憲法にない規 定である。

2)1982 年憲法の修正

 1982 年憲法は現行憲法として,すでに 5 回修正されている。まず,市場経 済の拡大に伴い,1988 年の憲法修正では,土地(所有権)の違法な売買や譲渡 を禁止する規定を維持する一方で,貸出や(所有権と分離する)使用権の譲渡を 可能にすることが規定された(第 10 条)。都市の土地は国家所有で公共財産と しては「神聖不可侵」と規定されているが,所有権と使用権の分離で市場にお

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ける土地の(使用権の)取引は法的に可能になった。農村の土地も村などの集 団所有制を維持しながら,貸出などは可能になる。元より,農村の土地は多く の場合,地方政府に一旦国有化することで徴収され,地方財政を確保する手段 になって土地開発に利用されることが多い。その結果,「失地農民」など多く の問題となっている。農村における土地収用に対する補償(第 13 条)が憲法に 規定されるのは,2004 年の憲法改正である。また,私的所有として,個体経 済に加えて「私営経済」の規定が新規追加された(第 11 条)。「個体経済」,「私 営経済」は,やがて「非公有制経済」という概念に集約されていく(後述)。  1993 年の憲法改正は,第 1 に「共産党領導の多党合作(協力)と政治協商制 度」が憲法の序文に追加され,中国の「政治制度」(後述)の一つとして議論 されるが,より重要なのは,第 2 に「社会主義初級段階」,第 3 に「中国特色 のある社会主義」理論がそれぞれ序文で追加されたことである。また,第 4 に

「計画経済」の規定は削除され,「社会主義市場経済」のことが規定された。

第 5 に,土地の所有権と使用権の分離と同じように,国営企業に対しては,所 有と経営の分離を図り,「国営企業」,「国営経済」はそれぞれ「国有企業」,「国 有経済」へと概念が変更・修正された(第 7,16 条)。国家(中央政府)は持株 会社など方式で国有企業に対する所有権(代表権)を行使するような形で国有 資産管理監督委員会が国務院の特別組織として設置されるのは,2003 年のこ とである。

 「社会主義市場経済」は公式に提示され,市場経済の拡大に伴う私営経済な どの発展があり,1999 年の憲法改正では,さらにいくつかの重要な規定が登 場してきた。まず第 1 に,「中国の特色ある社会主義」論や「社会主義市場経済」

論などを提起した鄧小平の「理論」は「鄧小平理論」として憲法の序文(第 7 段)

に追加された⎝₁₆⎠。第 2 に,序文に規定される「社会主義初級段階」論が「長期 にわたる」と修正を加え,またその「初級段階」論が憲法本文(第 6 条)に規 定された。第 3 に,「社会主義法治国家」が憲法で規定された(第 5 条)。合わ

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せて,第 4 に,「反革命」罪などが国家安全危害罪などに修正された⎝₁₇⎠。また,

第 5 に長期にわたる社会主義初級段階において公有制が「主体」として公有制 と「非公有制」など多様な所有制が共存することが規定され(第 6 条),さらに 第 6 に,その「非公有制経済」が社会主義市場経済の「重要構成部分」(原文は,

重要組成部分)と規定された(第 11 条)。これまでの「個体経済」(1982 年憲法第 11 条),「私営経済」(1988 年追加)の諸規定を発展させて,「非公有制経済」の 概念で包括するようになり,なおかつ,これまでの「補完」の位置付けを高め て,社会主義市場経済の「重要な構成部分」と規定し直した。「非公有制経済」

は,「社会主義経済制度の基礎は生産資料の社会主義的公有制」の憲法規定(第 6 条)からして「社会主義経済」ではないが,「社会主義市場経済」の「重要な 構成部分」となっている。第 7 に,分配原則は,社会主義経済における「労働 に応じた分配」原則は依然,「主体」として堅持されるが,「多様な分配方式」

が共存する規定に変更された(第 6 条)。

 中国は 2001 年のWTO加盟をへて数年,2004 年に 4 度目の憲法改正を経験 する。この修正では,第 1 に,江沢民の「三つの代表」論が序文に追加される と同時に,序文の「社会主義労働者」のあと「社会主義事業の参加者」の表現 も追加された⎝₁₈⎠。それは要するに,私営企業の経営者などが「搾取」する資本 家ではなく,社会主義の構築に貢献するものとして憲法において合法化したも のである。第 2 に,私有財産は「侵犯(侵害)を受けない」(原文:不受侵犯)

と規定するなど私有財産に関する保護規定を強化した(第 13 条)。同時に私有 財産の徴収などに関しては,「補償」を与えることが追加修正された。社会主 義の公共財産は(第 12 条)「神聖不可侵」(原文:神聖不可侵犯)となっているの に対して,私有財産は「侵害・侵犯を受けない」(原文:不受侵犯)と規定され ていることが興味深い。「神聖不可侵」という表現は,1954 年憲法を継承した ものである。1970 年代の憲法には「公共財産は不可侵」の表現があっても,「神 聖不可侵」という用語は使用されなかった。「神聖」の用語は文革中,忌避さ

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れていたであろう。「不可侵」(原文:不可侵犯)に類似する概念は,「侵犯を受 けない(原文:不受侵犯)の表現があり,憲法第 13 条「公民の合法的財産は侵 犯を受けない」規定のほか,「公民の人身自由は侵犯を受けない」(第 37 条),「公 民の人格尊厳は侵犯を受けない」(第 38 条),「公民の住宅は侵犯を受けない」(第 39 条)の規定があり,全部で 4 回登場している。「神聖不可侵犯」と「不受侵犯」

は,前者(公共財産)に関しては「神聖」の 2 字があるが,「犯してはならない」

という意味では「不可侵犯」と「不受侵犯」が同じであると主張する学者が多 い。しかし,「公共財産」は「神聖」不可侵とされ,私有財産は公共利益のため,

(補償を与えて)徴収されることがあるので,制限されるということにおいて は公共財産とは異なる⎝₁₉⎠

 2004 年の憲法改正は,ほかにもいくつか注目すべき改正がある。第 3 に,

社会保障に関して,新規に「経済の発展水準に見合った社会保障制度」を建設 することが規定されている(第 14 条第 4 項)。社会保障制度の構築は国家の義 務かどうか議論があるが,当該規定は社会保障を受ける権利(社会保障権)を 規定したものではないとされている。ちなみに中国憲法には福祉国家,福祉社 会などの概念規定はなく,福祉国家や社会保障などに関わる規定は,経済発展 を前提に「物質生活と文化生活を改善」し,また「社会保障制度を構築」する 憲法 14 条の規定だけである。第 4 に,「法の下の平等」を規定した憲法 33 条 では「人権を尊重また保護する」と追加規定された(第 33 条第 3 項)。中国憲 法における初めての「人権保障」の条文規定とされる。

 2018 年の憲法改正は,これまでの 5 - 6 年間隔の改正に比べて随分間隔が 長く,14 年ぶりである。第 1 に,もっとも作業量の多い修正作業は国家監察 委員会が新設されたことにかかわる。この国家監察委員会は監察部を再編する ものであるが,行政機関である国務院,司法機関である検察院,人民法院と並 ぶ国家組織と新設されるものであり,理屈上,行政権,司法権である検察権と 裁判権と並立する監察権を行使する国家機関となるが,実際は現在,共産党の

159

(15)

中央規律検査委員会と合同で規律違反の摘発,監察などを行う組織である。第 2 に,重要な改正として憲法序文において「科学発展観」⎝₂₀⎠,「習近平新時代中 国特色社会主義思想」⎝₂₁⎠(習近平思想)の追加,第 3 に,国家主席の任期制限(連 続して 2 期以上任職の禁止,最大 10 年の制限)の削除,第 4 に,重要な改正とし て短い一文ではあるが,憲法第 1 条第 2 項,社会主義制度は中国の根本制度の 規定のあとに,「中国共産党領導は中国特色社会主義の最も本質的特徴」の一 文が追加された。第 5 に,憲法第 24 条においては労働を愛し,社会主義を愛 するなどの「公徳」(公共道徳)の部分に,「社会主義核心価値観」(後述)を唱 導することが加えられた。第 6 に憲法序文では「人類運命共同体」,「中華民族 の偉大な復興」などが追加され,また社会主義国家に関して,富強,民主,文 明に加えて,(富強民主文明)「和諧美麗」の(中国の夢に関わる)用語も追加さ れた⎝₂₂⎠

 2018 年の憲法改正では,国家監察委員会の設置のほか,もっとも議論され たのは,国家主席の任期制限(廃止)に関する修正,及び関連する「習近平思想」

の序文における追加であるが,実は,中国政治のあり方に重要な位置を有する 第 1 条における条文の追加が非常に重要な意味を有している。「最本質特徴条 款」あるいは「本質特徴条款」と略されることが多く,本稿が検討するテーマ に関わる改正である。2018 年の憲法第 1 条の追加修正の結果,第 1 条は,(第 1 項)「中国は労働者階級が領導し,労働者と農民の同盟を基礎とする人民民主 専政の社会主義国家」,(第 2 項)社会主義制度は中国の根本制度である。中国 共産党領導は中国特色社会主義の最も本質的特徴である。如何なる組織あるい は個人が社会主義制度を破壊してはならない」となるのである。

 以下では,図表―1 の整理を参照しながら,内容別に共産党の領導,社会主 義(用語),計画経済,公有制,非公有制,搾取と平等の規定及びその変遷を 検討し,その上で「中国特色社会主義」の「最も本質的特徴」規定(第 1 条追 加規定)が登場する意味合いを検討する。

(16)

図表−1 中国憲法における「社会主義」の諸規定の変遷

憲法 共産党の 領導

社会主義

(思想,制度) 計画経済 公有制,国営・

国有経済 私有財産・私有制 配分・搾取 平等 1949 年

共同綱領 序文:労働者階 級領導の人民民 主専政の共和国 の成立。

1 条:新民主主 義,即ち人民民 主主義の国家,

労働者階級が領 導。

28 条: 国 営 経 済は社会主義性 質の経済。

26 条: 国 営 経 済,合作社経済,

私的資本主義経 済などを調整す る。

35 条:計画的に

重工業を重点的 に発展する。

28 条:国営経済は 社会主義性質の経 済。国家経済の運 命などに関わる重要 な経済領域は,国家 の統一的経営(国営)

とする。国有の資源 と企業は経済社会の 領導力量。

29 条:合作社経済 は,半社会主義性質 の経済(援助・優遇)。

26 条:私的資本主 義経済などが国営 経済の領導の下。

27 条:土地改革,

農民の土地所有権。

30 条:国民経済に 有利な私営経済は,

政府が援助。

(男女平等,

民族平等)

1954 年憲法 序文:統一戦線 組織で共産党が 領導。

1 条:労働者階 級が領導する人 民民主国家

序文:社会主義 社会,社会主義 改造 4 条:国家は,

社会主義工業化 と社会主義改造 を通じて,漸次,

搾取制度を消滅 し,社会主義社 会を建設するこ とを確かにする。

15 条: 国 家 は 経済計画を用い て国民経済の発 展と改造を指導 し,生産力の向 上,生活水準の 改善,国家の独 立と安全を図る。

10 条: 計 画 経 済の破壊禁止。

公共利益の破壊 禁 止( 10 条,

14 条)。

5 条: 主 た る 所 有 制は次の各種類:

国家所有制,即ち 全民所有制,合作 社,即ち労働大衆 集団所有制,労働 者個人所有制,資 本家所有制。

6 条: 国 営 経 済 は 全民所有制の社会 主義経済,国民経 済の領導力量。国 営経営を優先的に 発展。地下資源,

水源などは全民所 有とする。

7 条, 合 作 社 経 済 は労働大衆の集団 所有制的社会主義 経済。保護,奨励,

指導する。合作社 は,個人農業,個 人経営を改造する 主たる方法。

8 条: 国 家 は 法 律 により,農民の土 地所有権及びその 他の生産資料所有 権を保護する。合 作社の組織を奨励。

10 条:資本家の所 有権を保護する。

資本主義工商業の 利用,制限,改造。

漸次,全民所有制 が資本家所有制に 取って代わる。

13 条:公共利益の ための土地などの 徴収,国有化。

私有財産の保護(10 条,12 条)

4 条:漸次,

搾取制度を 消 滅 し, 社 会主義社会 を建設。

(男女平等,

民族平等)

85 条:公民 は 法 律 上,

一律平等

1975 年憲法 序文,共産党の 領導。文革の勝 利。

1 条:労働社階 級が領導する。

2 条:共産党は 領導核心。労働 者階級はその前 衛党を通じて国 家を領導する。

26 条: (公 民 の 基 本 権 利 と 義 務)共産党の領 導を擁護するこ と。

16 条: 全 人 代 は共産党領導下 の最高国家権力 機関。

序文:社会主義 革命,社会主義 建設,社会主義 国家。

1 条:社会主義 国家 14 条: 社 会 主 義 制 度 を 防 衛 し,反革命など を鎮圧。

15 条: 共 産 党 中央委員会主席 が武装力量(軍 など)を統率。

武装力量の任務 は 社 会 主 義 革 命・建設の成果 を防衛。

26 条:公民(基 本権と義務)は,

社会主義制度を 擁護。

17 条, 全 人 代 は経済計画を批 准。20 条 国 務 院は,経済計画 を制定,執行。

5 条:所有制は主に,

社会主義全民所有 制(国営)と社会主 義労働大衆の集団 所有制の 2 種類。

6 条:国営経済は,

国民経済のなかで領 導力量。地下資源な どは,全民所有。土 地などは徴収,国有 化は可能。

8 条:社会主義公共 財産は不可侵。社会 主義経済と公共利 益の破壊を禁止。

5 条: 非 農 業 の 個 人労働者の他人を 搾取しない労働を 許容する。同時に,

社会主義の集団化 の道へ誘導する。

9 条: 公 民 の 労 働 収入,貯蓄,家屋 などの所有権を保 護する。

5 条: 他 人 を搾取しな い労働。

9 条: 国 家 は,「働かざ る者食うべ からず」,「能 力に応じて 働 き, 労 働 に応じて分 配 す る」 の 社会主義原 則を実行す る。

(男女平等,

民族平等)

161

(17)

1978 年憲法 1 条:労働者階 級が領導する国 家。2 条:共 産 党は領導核心。

労働者階級はそ の前衛党を通じ て国家を領導す る。

56 条: 公民は共

産党の領導を擁 護すべき。

序文:社会主義 革命,社 会主義建設,社 会主義国家。

1 条;社会主義 国家 18 条: 社 会 主 義 制 度 を 防 衛 し,反革命など を鎮圧。

19 条: 共 産 党 中央委員会主席 が武装力量を統 率。専政の柱石。

武装力量の任務 は 社 会 主 義 革 命・建設の成果 を防衛。

8 条:社会経済 秩序,国家の経 済計画を破壊す ることを禁ずる。

32 条: 国 務 院 は,経済計画を 制定し,執行す る。

5 条:所有制は主に,

社会主義全民所有 制(国営)と労働大 衆の集団所有制の 2 種類。

6 条:国営経済は,

国民経済のなかで領 導力量。地下資源,

水源などは全民所 有とする。土地の徴 収,徴用,国有化で きる。

8 条:社会主義全民 所有制経済と集団所 有制経済の発展を 保証する。社会主義 の公共財産は不可侵。

5 条: 非 農 業 の 個 人労働者が他人を 搾取しない労働を 許容する。同時に,

社会主義の集団化 の道へ誘導する。

9 条: 公 民 の 労 働 収入,貯蓄,家屋 などの所有権を保 護する。

5 条: 他 人 を搾取しな い労働を許 容。

10 条:国家 は,「働かざ る者食うべ からず」,「能 力に応じて 働 き, 労 働 に応じて分 配 す る」 社 会主義原則 を実行する。

(男女平等,

民族平等)

1982 年憲法 序文:引き続き 共産党の領導の 下(四つの基本 原則)。共産党 が領導する統一 戦線。

1 条:労働者階 級が領導する人 民民主専政の社 会主義国家

序文:社会主義 改造の完成,社 会主義制度の確 立,社会主義民 主・法制,社会 主義労働者。

1 条:社会主義 制度は中国の根 本制度。社会主 義制度を破壊す ることを禁止。

6 条:社会主義 経済制度の基礎 は生産資料の社 会 主 義 的 公 有 制,即ち全民所 有制と労働大衆 の集団所有制。

15 条: 国 家 は 社会主義公有制 を基礎に計画経 済を実施する。

市 場 調 整 が 補 完。経済秩序と 経済計画の破壊 を禁止。

16 条: 国 営 企 業は,統一領導 と国家計画の完 遂の前提で,経 営自主権を有す る。

17 条; 集 団 経 済組織は,国家 計画の指導,関 係法律の元で独 立に経済活動の 自主権を有する。

6 条:公有制(同左)。

社会主義公有制は,

人が人を搾取する制 度を消滅させ・・

7 条:国営経済は社 会主義全民所有制 で国民経済の主導 力量。国家は,国営 経済の強固化と発展 を保証する。

8 条:合作社は,社 会主義労働大衆の 集団所有制。

9 条;地下資源,森 林などは国家所有と する。法律により集 団所有の森林,草原 などは,この限りで はない。

10 条:都市の土地 は国家所有に属する。

12 条:社会主義の 公共財産は神聖不 可侵。

11 条:労働者の個 体経済は,社会主 義公有制経済の補 完。国家は,個体 経済の合法な権利 と利益を保護する。

国家は,行政管理 を通じて個体経済 を指導・援助し,

また監督する。

13 条:国家は公民 の合法な収入,貯 蓄,家屋など財産 の所有権を保護す る。国家は法律に より公民の私有財 産の継承権(相続 権)を保護する。

序 文: 搾 取 する階級は,

階級として すでに消滅

(但 し, 階 級闘争は存 続)。

6 条: 社 会 主義公有制 は, 人 が 人 を搾取する 制度を消滅 し, 能 力 に 応じて働き,

労働に応じ て分配する 原則を実行 する。

(男女平等,

民族平等)

33 条:公民 は, 法 律 の 前で一律平 等(法 の 下 の平等)

1988 年修正 10 条:土地の使用

権は,法律の規定 により譲渡できる

(追加)。

11 条:個体経済,

私営経済は社会主 義公有制経済の補 完。個体経済,私 営経済の権利保護,

誘導,監督,管理。

1993 年修正 序文:共産党が 領導する多党協 力と政治協商制 度(追加)。

序 文:「社 会 主 義初級段階」,

「中国的特色の ある社会主義理 論」の表現を追 加。

15 条:「社会主 義市場経済」を 追加

15 条改正:「計 画経済」を削除,

国家は社会主義 市場経済を実行 すると追加・修 正。

7 条:国有経済,即 ち社会主義全民所 有制経済で,国民経 済の中の主導力量。

国家は国有経済の強 固化と発展を保障す る。(国営経済は国 有経済に修正など)

16 条など 修 正(国 有企業)

(18)

1999 年修正 序 文:「鄧 小 平

理論」を追加 序文:社会主義 初 級 段 階 に 関 わって「長期に わたり」を追加。

5 条:「 社 会 主 義法治国家」な どを追加。

(28 条 の 反 革 命 罪 な ど を 削 除・国家安全危 害罪などへ修正

6 条:条文調整,ま た「社 会 主義 初級 段階では,・・・(同 右参照)を追加。

6 条: 社 会 主 義 初 級段階では公有制 を主体とし各種所 有制経済が共に発 展する基本経済制 度を堅持し,労働 に応じた分配を主 体として各種の分 配方式が併存する 分配制度を堅持。

11 条:個人経営,

私営経済など非公 有制経済は社会主 義市場経済の重要 な構成部分。個体 経済,私営経済の 権益を保護。誘導,

監督,及び管理を 実行

6 条: 労 働 に応じた分 配を主とし て各種の分 配制度が併 存する分配 制度(同左)

2004 年修正 序 文:「三 つ の 代表」重要思想 を追加

「中国特色社会 主義」(修正)

序文:社会主義 労 働 者 の あ と に,「社 会 主 義 事業の建設者」

第 11 条:非公有制 経済の権益を保護。

その発展を誘導。

監督,管理。

13 条:公民の合法 的私有財産は侵犯 を受けない(不受 侵犯)。公民の私有 財産権と継承権を 保護する。私有財 産の徴収・徴用,

補償。

14 条:「 経 済発展水準 に見合う社 会保障制度 を建設する」

を 第 4 項 と して追加。

33 条 に「人 権を尊重ま た保障する」

を 第 3 項 と して追加。

2018 年修正 1 条:( 社 会 主 義制度は根本制 度のあと)共産 党領導は中国特 色社会主義の最 も 本 質 的 特 徴

(追加)。(序文)

科学発展観,習 近平思想も追加。

序文:習近平新 時代中国特色社 会主義思想(習 近平思想)を追 加。

1 条:社会主義 の最も本質的特 徴(同左),

24 条: 社 会 主 義の核心価値観 を奨励

序文:「和諧 美麗」(の社 会主義国家)

を追加。

163

(19)

3,

「共産党の領導」:「労働者階級の領導」から「最も本質的特徴」

規定まで

1)「領導」のこと

 日本の中国政治研究では,「領導」あるいは共産党の「領導」を日本語で「指 導」あるいは「共産党の指導」と訳してきた。日本語の「指導」は,命令等の 意味内容を含まない用語で,中国語にある「領導」用語の訳語としては適切で はないことが最近指摘されてきた⎝₂₃⎠。他方,中国では共産党の領導は強制や命 令ではないといった議論が多い。私は,中国憲法のテキストにある「領導」に 関する規定を素材に,「領導」には 3 つの意味内容があることを指摘した。即ち,

第 1 に(組織化における)影響力・先導という概念であり,辛亥革命における孫 文の領導,1949 年以前における共産党の領導がその意味である。第 2 に,国 家権力の掌握を媒介した支配である。これは強制力を伴うものであり,その強 制力を支えるものは,国家暴力装置の独占的支配である。共産党の領導は,多 く場合,強制力を伴う領導であり,「統治権」あるいは「国家政権」を掌握す ること(1949 年の建国)によって可能となるものである。労働者階級(実質上は 共産党)の領導は,「人民民主専政」を実施するなどとして規定されるが,そ れは「敵」に対する「専政」(鎮圧)の一面を有するものであり,国家政権の 掌握があってから可能である。同じ共産党の領導といっても,とくに 1949 年 以前における共産党の領導と建国後の共産党の領導を区別する必要がある。

1949 年以前の共産党の領導は強制力を伴うものではない。命令できる強制力 の基盤,また権限関係などは存在しなかった。「領導」はすべて支配や統率や 命令的関係を有するものと理解するのは間違い。中国憲法の序文(前文)では,

共産党の領導の下で革命の勝利を勝ちとったことが叙述されている。その意味 での共産党の領導は,同じく 1982 年憲法の序文に叙述されている「孫文の領導」

(20)

と大差がなく,同様に影響力,先導としての領導である。第 3 に,領導は,組 織上の権限関係に由来する概念である。この領導は共産党の領導というよりも,

職務や権限関係によって生じる概念である。より具体的に職務や権限を有する ことから来る命令関係である。上級組織が下級組織に対する領導などの規定が 一般的である。また,「領導」は人を指す場合,それは(第 1 の)影響,(第 2 の)

支配の意味というよりも,第 3 の意味から来るものである。即ち,組織上の権 限関係に関係する上位の人間,あるいは組織における上司を意味する概念であ る。中央の「領導」と言う場合,中央の党や政府における職務権限を有するも のを指すものである。省や県レベルで,「領導班子」を言う場合,そのトップ の職位(省書記,省長,県書記,県長など)を有する執行部を指す概念である。

或いは「党政領導幹部」という場合に一定の職務権限以上の管理職,例えば,

「党政領導幹部選抜任用工作条例」においては、 課長級(県処級正職・副職)以 上の管理職を指す概念である。「私の領導」を言う場合,同様に職務権限の関 係で生じる関係(上司)である。

 「領導」の用語に関連して,「領導核心」の用語に関して,一言補足する。後 述するように 1970 年代の 2 つの憲法には共産党は国家の「領導核心」という 規定(第 2 条)がある。それは,労働者階級が前衛党を通じて国家を領導する(同 第 2 条)と同じく,党の国家にする包括的な支配という意味の領導であり,そ の中心性を強調して「領導核心」と表現される。この「領導」あるいは「領導 核心」は,強制力を伴うものである。他方,後述するように共産党の執行部に おけるその特殊な地位を表現するものとして「領導核心」と呼ぶ場合がある。

その「領導核心」は,第 3 の職務権限との関連性が重要となる。例えば,習近 平総書記が現在,「領導核心」とされるが,それは党の執行部の中で有する特 別の地位,あるいは権限を表現するものである。鄧小平の場合,共産党の総書 記を兼任せず,党中央顧問委員会主任,中央軍事委員会主席を担当したが,

1990 年代以後は一般党員になり党執行部に残らないが,1987 年(第 13 期 1 中 165

(21)

全会)に「重要な問題には鄧小平同志の指示を仰ぐ」との秘密決議がなされた とされ,実質上,最終決定を行う権限を有していた。鄧小平は「改革開放の総 設計師」とともに「領導核心」とされるのである。もちろん,実際の表現とし て「領導核心」の用語は上記の 2 つの意味が重なって使用することが多い。

2)「労働者階級の領導」と「共産党の領導」

 以上を踏まえて,労働者階級が共産党を通じて国家を領導するという表現が あるように,共産党の国家に対する支配という意味における「共産党の領導」

に注目して憲法におけるその規定を整理していく。

 「共産党の領導」の規定に関しては,まず,本文か序文(前文)かの相違が ある。序文で書き入れた場合,憲法序文の規範性に関する一般的な議論がある が,その序文の「共産党の領導」については,それは過去の叙述か,あるいは 現在および未来に関する規定かの相違がある。即ち,それは歴史的叙述なのか,

規範的な主張,原則の提示なのかの相違である。歴史叙述の場合,とくに,

1949 年以前の共産党の「領導」は,政権獲得以前のことで強制力を伴わない 影響力の行使であり,大衆を組織化し,先導するという意味である。この点は

、 重要である。「領導」はすべて,強制力を伴うものではないことを指摘した。

憲法序文にある共産党の領導がすべて同じ意味ではないことを理解すべきであ る。もちろん,先導とする「共産党の領導」と支配・あるいは命令を伴う「共 産党の領導」とを区別することは,前者の意味を軽視することにはならない。

この点,後者の「共産党の領導」の正統性を考える上で非常に重要である。中 国政府の白書ではよく「共産党の領導」を,「人民の選択」,「歴史の選択」と して正統化するが,その「歴史・人民の選択」という根拠付けには共産党の領 導による建国論がある。1954 憲法で序文(最初の一文)では中国人民が共産党 の領導の下で建国したことが叙述されている。1975 年や 1978 年憲法も同様に,

中国人民が共産党の領導の下で建国したことが憲法の序文(第 1 段)で提示さ

(22)

れている。1982 年の憲法も同様に序文(第 5 段)で中国共産党が中国人民を領 導して苦難な闘争を経て革命に勝利し,建国をしたと叙述されている。1982 年憲法の叙述スタイルでは,これまでとは異なって(憲法の)主語は中国共産 党になっている。ともかく,憲法における「共産党の領導」による建国の歴史 叙述について,私は「共産党建国論」とネーミングしたことがある。その結果 として,建国後における共産党の領導が,「人民の選択」,「歴史の選択」とし て受け入れられたとし,正統化される。いわば 1949 年以前における共産党の 領導(による革命の成功・勝利,そして建国)をもって建国後における共産党の領 導を正統化するロジックである。過去をもって現在そして未来を正統化する技 法であるが,影響・先導とする共産党の領導(の成功)をもってその後の支配 とする共産党の領導を正統化するものである⎝₂₄⎠

 次に,憲法の序文よりも本文の規定に着目する。この場合,共産党の領導に 関しては,直接的な規定なのか間接的な規定なのかの相違が存在する。すでに 指摘したように,「労働者階級の領導」は 1949 年の共同綱領より憲法第 1 条に おいて規定されてきた。時系列に整理すると次のようになる。① 1949 年の共 同綱領第 1 条では,中国は「新民主主義」,即ち「人民民主主義国家」で,「労 働者階級が領導し,労働者と農民の同盟を基礎とする人民民主専政を実行する」

と規定された。② 1954 年憲法第 1 条では「中国は労働者階級が領導し,労働 者と農民の同盟を基礎とするする人民民主国家」と規定された。③ 1975 年,

1978 年憲法ではともに第 1 条で,中国は「労働者階級が領導し,労働者と農 民の同盟を基礎とする無産階級専政の社会主義国家」,また第 2 条では共産党 は領導核心で,労働者階級はその自己の前衛党(原文は「先鋒隊」,即ち,前衛部隊)

である共産党を通じて国家を領導することが明文化されている。④ 1982 憲法 は当初は第 1 条では,中国は「労働者階級が領導し,労働者と農民の同盟を基 礎とするする人民民主専政の社会主義国家」,また同条第 2 項では「社会主義 制度は中国の根本制度」などの規定が置かれた。この現行憲法の 2018 年修正は,

167

(23)

第1条第 2 項に「根本制度」文のあと,「共産党領導は中国特色社会主義の最 も本質的特徴」が追加された。

 以上から見るように,共同綱領を含めすべての憲法では第 1 条として労働者 階級が領導し,労働者と農民の同盟を基礎とすること(人民民主専政,あるいは 無産階級専政)が規定されており,共通している。憲法第 1 条の規定は,中国 では「国体」を規定する内容とされる⎝₂₅⎠。「労働者階級」とは何か⎝₂₆⎠,「労働 者と農民の同盟」とは何か,またその議論の背後に「前衛党理論」があること については,ここでは議論しないが⎝₂₇⎠,この「労働者階級の領導」は実質上,

「共産党の領導」であることを受け入れるなら,共同綱領を含めすべての憲法 は条文第 1 条で「共産党の領導」を規定したことになる。共同綱領と,1954 年憲法,また 1982 年憲法当初の規定は,共通して「労働者階級の領導」を規 定したのに対して,1970 年代の二つの憲法は,労働者階級の領導を規定しな がら,同時に労働者階級はその前衛党である共産党を通じて国家を領導するこ とを明文的に規定している。1982 年憲法の 2018 年修正は,1970 年憲法のスタ イルを継承し,労働者階級の領導を規定しながら,「共産党の領導」を明文規 定しているが,「前衛党である共産党を通じて国家を領導する」という表現で はなく,「共産党領導は中国特色社会主義の最も本質的特徴」と規定している。

この相違は後に詳しく検討するが,前者の「前衛党を通じて国家を領導する」

規定は権力の所在を示す表現であるのに対して,後者は,権力の所在(共産党 領導)が社会のあり方(本質)を,あるいは形式が内容を規定するような形の 規定となっていると言えよう。

 ちなみに,1949 年の共同綱領の「人民民主主義」,「人民民主専政」,1954 年 憲法の「人民民主」の規定は同じ意味(人民民主専政)と思われる。同様に「人 民民主主義国家」(1949 年共同綱領)あるいは「人民民主国家」(1954 年憲法)と の規定では,「人民民主」と「人民民主主義」の相違があるが,基本的に同じ 概念である。対して,1970 年代の憲法は「人民民主専政」の用語を使用せず,

(24)

共通して「無産階級専政」との表現を採用していた。1982 年憲法に至っては,

1949 年の「人民民主専政」の表現に回帰するが,序文では「人民民主専政,

実質上即ち無産階級専政」と言い直している。以下ではもう少し,(労働者階級 の領導)「共産党の領導」に関する規定を個別に見ていこう。

 まず,1949 年共同綱領では,序文において労働者階級領導の人民民主専政 の共和国が成立したことを宣言し,本文第 1 条では労働者階級が領導する人民 民主専政を実施することが規定されている。序文と本文ともに,「労働者階級 の領導」が規定されるが,「共産党の領導」の表現は直接登場しない。共同綱 領の序文では「共産党」は登場するが,政治協商会議への言及で共産党と民主 党派とは横並びの形式で言及されている。

 1954 年憲法では,序文において「統一戦線組織」における「共産党の領導」

が言及されている。その意味では「共産党の領導」は直接規定されたといって よいが,統一戦線組織に限定した表現で,国家に対する全般的な「領導」とい う表現(規定)になっていない。この点を除き,1954 年憲法は,1949 年共同 綱領の規定に近似し,「労働者階級の領導」をもって「共産党の領導」を間接 的に規定したと理解してよい。1954 年憲法の審議過程では,第 1 条に「共産 党の領導」を書き入れた方が分かりやすいのではないかと明文規定の提案は あったが,採用されなかったとされる⎝₂₈⎠

 1949 年の共同綱領と 1954 年憲法に言う「労働者階級の領導」が「共産党の 領導」を意味する解釈に関しては,異論が無いわけではない。加茂具樹は,「領 導」と「指導」との意味の相異を強く意識し,その『現代中国政治と人民代表 大会』(サブタイトルは人代の機能改革と「領導・被領導」関係の変化)において中 国共産党が国家に対する「領導性」あるいは「領導」としての地位が正式に確 認されたのは 1956 年の共産党第 8 回党大会であったとしている⎝₂₉⎠。繰り返す が,1949 年の共同綱領では「共産党の領導」は登場しない。1954 年憲法も,

序文の統一戦線組織(政治協商会議)における「共産党の領導」の言及を除き,

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参照

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