「 公共 的差止訴訟」 における 救済過程 の構造 とその展 開
(4)‑ アメ リカにお け る 「公共 的 イ ン
ジ ャ ンクシ ョン訴訟」 につ いて‑
川 嶋 四 郎
吹 第 1章 序論
第2章 「公共的インジャンクション訴訟」事件の典型例 (以上39巻4号) 第3章 救済方法の形成過程
第1節 基本的な諸問題 (以上40巻3号) 第2節 具体的救済方法を形成す るための選択的アプローチ
1.は じめに 2,当事者等主導型
1)被告依拠型 (アプローチ①) 2)裁判所選定型 (アプローチ②) 3.裁判所主導型
1)裁判所独 自形成型 (アプローチ(参)
2)スペシャル ・マスター委託型 (アプロ‑チ④)
(以上40巻4号) 4.和解尊重型 (アプローチ⑤)
5.若干の分析
第3節 裁判所 による裁量的な救済形成 第 4章 救済方法の実現過程
第5章 救済方法の形成 および実現 に対す るコン トロール 第6章 一般的特質 と 「公共的イ ンジャンクション」
第7章 結論
‑ 「救済法」の構造 と日本法への示唆 ‑
〔1〕
(以上本号)
本号細 目次
4.和解尊重型 (アプローチ⑤) 1) は じめに
A.同意判決 の制度 B.和解促進政策 2)和解 ・同意判決の利点
A.紛争 の早期解決
B.訴訟 にまつわるコス トの減少や リスクの回避
C.独創的な具体的救済方法の形成 D.権利侵害 (違法性) の判断の回避
E.第三者の権利 ・利益 の取引可能性 ? F.司法的資源等の効率的配分
3)和解 ・同意判決制度の問題点 とその原因
A.和解 ・同意判決制度 に批判的な見解 a.0.Fiss教授の見解
b.∫.Resnik教授 の見解
C.J.Coleman弁護士‑C.Silver弁護士の見解
B.第三者およびクラス構成員 に対す る救済制限の問題
a.同意判決における第三者の権利 ・利益 の侵害形態 (i)第三者 による同意判決 に対す る攻撃の制限 (ii)第三者 による同意判決の拡充的な利用の制限 (虹)第三者 に対す る事実上の不利益
b.附論 特 にクラス ・アクションの同意判決 におけるクラス 構成員の権利 ・利益の侵害原因
(i)代表原告 (ii)クラス弁護士 (hi) クラス構成員 (iv)被告
4)同意判決の形成過程 における適正化への志向 一 第三者の権利 ・利益の保護 に焦点を当てて‑
A.ヒア リングの実施
B.必要的当事者併合 (連邦民事訴訟規則19条(a)項) C.訴訟参加 (連邦民事訴訟規則24条(a)項)
D.第三者 による別訴の移送 ・併合 (L Kramer教授 の見解) E.第三者の同意の原則的要求 (D.Laycock教授 の見解) F.その他の諸見解
「公共的差止訴訟」における救済過程の構造 とその展開(4) 5)おわ りに
‑ 和解 と判決 の相互接近‑
5.若干の分析
‑ 選択的アプローチの役割分担 を中心 として‑
第 3章 救済方法の形成過程
第 2節 具体的救済方法を形成するための選択 的 アプ ローチ (承前)
4.和解尊重型 (アブ E3‑チ⑤)
1) は じめに
3
当事者 またはスペ シャル ・マスター等 の関与 を通 じて,最終的には裁判所 が 具体的救済方法 を形成す る場合 (‑①②④ のアプローチ),お よび裁判所 が独 自に具体的救済方法 を形成す る場合 (‑③ のアプローチ)杏,これまで述 べて 来 たが,これ らはいずれ も,訴訟上 において具体的救済方法が形成 されて行 く
アプローチであった。 それは,裁判官 の積極的かっ柔軟 な訴訟指揮 による裁量 的な 「手続」形成 および 「救済」形成 の過程であった。
これに対 して,救済内容 に関す る当事者間の交渉 により,主 と して裁判外 で 具体的救済方法が形成 されて行 く場合がある。 これ は,当事者間で作成 され た 和解条項が,具体的救済方法を創造す る場合であ り,その結果,当事者 によ る 訴えの取下 げや コンセ ン ト・デ ィク リー (consentdecree)(441)の申立てが な さ れた りす ることがある。
この コ ンセ ン ト ・デ ィク リー は,判決 の形式 を とった和解 (Settlement, compromise)の一種であ り,その内容 として,エ クイテ ィ上 の救済方 法 で あ (441)consentjudgmentまたは consentdecreeは,我が国では 「和解判決」 また は
「同意判決」 と呼ばれている。その先駆的な研究 としては,谷 口安平 「アメ リカに おける和解判決 (ConsentJudgment)の効力」『法学論叢 (京都大学)』67巻 5号 24頁(1960),同 「比較法的に見た訴訟上の和解」『法学論叢 (京都大学)』70巻 6号
57頁(1962)がある。 また,独 占禁止法53条の3の制度 は,「同意審決」 と呼 ばれ ている。
るイ ンジャンクシ ョンを含んだ ものである。 以下で は,これを同意判決 と呼ぶ。
「公共的イ ンジャンクシ ョン訴訟」事件 に取 り組 む裁判所 は,現在,具体 的救 済方法の選択的形成 のために,一般 に当事者間の 「和解」を尊重 した この アプ
ローチ も広 く採用 している。 これは,将来 自らが拘束 され るべ き和解条項 に盛 り込 まれ る 「公共的イ ンジャンクシ ョン」 の内容決定 に対す る当事者 の自己決 定権 を尊重す る救済形成 のアプローチと言 え るであろう。
ところが,上述 のように 「救済方法 の多様性」等 の具体的救済方法 に関す る 内容的な特質が存在す るので,この種の訴訟事件で は,裁判所 における救済形 成 には通常相当な困難が予想 され る。 それゆえ,確かに,和解 ・同意判決 の制 度 は,裁判所 にとって魅力的である。 しか し,悪 は秘密裡 になされ る。 多様 な 異体的救済方法の中か らどのひとつが選択的に形成 された と して も,通常 「公 共的イ ンジャンクシ ョン」 それ 自体広汎 なイ ンパ ク トを有 している。それゆえ, 同意判決 によ り第三者 の利益が害 され ることもあ り,また同意判決 に盛 り込 ま れなか った具体的救済方法を欲す る人 々の利益が害 され る虞れ も存在す るので ある。
以下で は,まず,同意判決 の形成 を具体的救済方法 を形成す るための選択 的 アプロ‑チのひとつ (「和解尊重型」 アプローチ) と位置づ げ(442),その同意判 決 の形成過程 における利点 および問題点 を指摘 し,公正かつ最適 な具体 的救済 方法 を形成す るために,裁判所がいかなる方法 によ り,その形成過程 を適正化 す る努力を現在行 な っているかまた将来行 な うべ きであるかについて論 じて行
くとに したい。
A.同意判決の制度
同意判決 の手続 は,和解交渉,判決言渡 し ・登録,執行 の3段階か らなる。 まず,和解交渉 は,裁判上 または裁判外で,「権利侵害 につ いての判決」 の前 後 を通 じて行 なわれ る。 訴 え提起前か ら交渉が行 なわれてお り,時 として提訴
(442)SeeSpecialProject.IRemedialProcess.Supranote26at8091
「公共的差止訴訟」 における救済過程 の構造 とその展開(4) 5 と同時 に同意判決 の申立てがなされ る場合 もあ る(443)。 次 に,判決言渡 し ・登 録 の手続 は,当事者が,交渉 によ り合意 した和解条項 に基 づ き,訴訟 が係属 し ている裁判所 に同意判決 を申 し立て ることによ り開始す る和解許可手続である。
これ は,同意判決 の形成過程 と呼ぶ ことがで きる。 公正 な同意判決 (「公共 的 イ ンジャンクション」)の確保 のためには,その形成過程 の適正化 が不可欠 で ある。 これが以下での中心的な課題 となる。和解条項が同意判決 として言 い渡 されれば,その後 には執行 の段階が残 る。 これは,次章で論 じるが,通常 の和 解契約 の場合 とは異 な り,債務者 の不履行 に対 して は,裁判所が裁判所侮辱罪 の適用やモニター等 の補助者 を用 いて執行段階 に介入 し救済内容を実現す る途 を開 くものである。
このよ うに同意判決 は通常 の判決 に近似 した強力な強制力を伴 うものである が,連邦民事訴訟規則 は,同意判決 の形成手続 に関 して は一般的 な規定 を置 い ていない。ただ,わずかにクラス ・ア クシ ョンお よび代表訴訟 の規定(● 444)の中
に,和解 の許可 に関す る規律が存在す るに過 ぎない。 しか しそ こで も,規則 は, 和解 を許可 し同意判決 として言 い渡す さいの一般的な審査基準を明記 していな
い。実定法上唯一 ,反 トラス ト法違反事件 の手続 に関す る1974年 の いわゆ る TuNNEYAcrが,その基準 の指針 を規定 しているに過 ぎず, したが って,その 判断基準が問題 となるのである(445)0
さて,同意判決 の内容 として どのような和解条項が盛 り込 まれ るか ば,実体 的な事件類型 に応 じて,また同 じ事件類型で も事案 に応 じて様 々である。 ご く 一般的に言 えば,次 のよ うな条項が規定 され る余地 が あ る(446)。 まず,実体 的 (443)M.Schwarzschild,PrivateBargain.Supra note212at913,J.Resnik,
Judging Consent,1987U.CHI.LEGALF.43,47.後者 の論文 には,同意判 決 の 沿革 に関す る記述が含 まれている。Seeid.at50‑58.
(444)FED.R.Crv.P.23(e),23.1(1966).
(輯)ANTITRUSTPROCEDURESANDPENALTIESAcTOF1974,15U.S.C.A.§16(e)(1982) である。 この条文 および同意判決 を許可す るさいの判断基準 については,川 嶋 「前 掲論文(「『公共訴訟』事件 における公正 な和解内容 の確保 と裁判官の役割」)(註16)」
94‑95頁註56および100‑04貢を参照。Seeinfranote605.
(446)SeeK.Schoene,Voluntarily Unlocking theSchoolhouseDoor:TheUse
な規定 としては,「公共的イ ンジャンクシ ョン」 に関す る規定 (例,別学解消 の内容),被告 の積極的義務 (例,別学解消措置を とる義務),合意 の 目的,履 行 の期限および弁護士費用等 を挙 げることがで きる。 また,手続的な規定 と し
て は,裁判管轄権 の保持や和解条項 の遵守 を確保す るための手段 (例,モニター 等 の任命)等が盛 り込 まれ るのである。
このよ うに内容を見れば,同意判決 は,通常 の判決 とあま り異 な らな いよ う にも見え る。 さ らに,その形成手続 に着 冒 した場合 ,「公共的イ ンジャンクショ ン訴訟」事件で は,かつて A.Chayes教授(447)が指摘 され た よ うに,判決形成 過程 と和解形成過程 とがそれ ほど大 きく異 な らないとも言 うことがで きる。 す
なわち,典型的な判決の形成作業 は,実質的には当事者間の交渉 と協議であ り, 裁判所 は,判決内容 に関す る交渉を行 な うように命 じるか,判決原案 の作成 を 当事者 に委ね る。 通常,た とえ一方当事者 (原告)のみが判決原案を作成 す る 場合で さえ も,他方 の意見陳述 の機会 を保障す るために他 の当事者 にその内容 が送付 され るので,必然的に交渉 の形式が発生す ることにな ると分析 されて い たのである。
そ うす ると,この種 の 「訴訟」 における救済形成過程 は,良 きにつ け悪 しき につ け 「和解的紛争解決 の温床」 なのであ り,しか も和解形成過程 を判決形成 過程 と基礎 を同 じくす る 「同質的な もの」 として促 え ることもで きる。前者 の 和解 は,同意判決 の形 に結実すれば,一層通常 の判決 に接近す るので あ る (同 意判決 の効力およびその影響力 について は,後 にその問題点を述べ るさいに言 及 したい (‑3)Ba))0
しか しなが ら,同意判決 に結実す る 「公共的イ ンジャンクション」 の形成過 ofClassAction ConsentDecreesin SchoolDesegregation・1982W ASH・
U.L.Q.1305,1332‑42〔hereinaftercitedasKISchoene,VoluntarilyUnloch‑
ing.〕,L・Anderson,Implementation・Supranote251at729‑37・
(447)A,Chayes,RoleoftheJudge・Supranote24at129811300・SeealsoSpe‑ cialProject:RemedialProcess・Supranote26at809,C・Menke1‑Meadow・
Fo,andAgainstSettlement.infranote480at502・さ らに,マイケル.K. ヤ ング (和田英夫 ‑紙谷雅子訳)「アメ リカ司法制度の新展開一新 しいいわゆる
『公共的訴訟』 (PublicLaw Litigation)‑」『ジ ュ リ ス ト』721号34頁,41貢 (1980)も参照。
「公共的差止訴訟」における救済過程の構造とその展開(4) 7 程 は,後 に述べ るよ うな諸問題 をは らんでいる。 そ こで,それ らの問題点 を解 明 しその克服の方向を探 る前 に,和解 ・同意判決の制度 を支えている基本 的 な 政策 とその制度的な利点 を見て行 くことに したい。
B.和解促進政策
ところで,和解 による紛争処理 は,近時 アメ リカの司法制度 の下 で強力 に推 奨 され,広汎 に普及 している(448)。裁判所 は, トライアル前 または トライアル中,
しば しば和解 の勧試 を行 な うのである(449)。
このような和解奨励 の政策 は,実定法の中に も見 出す ことがで きる。 まず, 1983年 の改正で,連邦民事訴訟規則16条(450)(a)項(5)号 は,プ リトライアル ・カ ンファレンス (pretrialconference)の目的 として和解 の促進 を標梼 し,同条 (C)項(7)号 は,そ こで議論 され るべ き事項 として,和解成立 の可能性 (お よび 裁判外紛争解決手続 の利用可能性)を明記 した。 ここに至 り和解 の奨励が明確 化 されたのである。 これは,裁判所 の訴訟事件審理表 の幅榛 を緩和 し,係争人 や司法制度 のために費用 ・時間を節約す ることを 目的 として,訴訟手続 ので き るだけ早 い時期 に和解 を促進 し成立 させ る必要性が認識 されたためで あ る(451)0
(唖)Seee,g.MANUALFORCoMPLEX LITIGATION§1・21at18(WestPublishingCo・
1977),F.Easterbrook,JusticeandContractinConsentJudgments,1987
U.CHI.LEGALF.19,21‑30 [hereinaftercited asF.Easterbrook,Justice and Contract.),T.Mengler,ConsentDecreeParadigms:Modelswith‑
OutMeaning,29B.C.L.REV.291,327132(1988) [hereinafter cited asT.
Mengler,ConsentDecreeParadigms.〕,L.Kramer,ConsentDecreesand theRightsofThirdParties,87MICH.L REV.321,327〔hereinaftercited as L.Kramer,ConsentDecrees.〕,Note(S.Lazos),Abuse in Plain‑
tiffClassActionSettlements:TheNeedfora Guardian during Pretria lSettlementNegotiations,84MICH.L.REV.308,308‑09(1985)〔hereinafter cited asS.Lazos,ClassActionSettlements.〕.
(449)Seee.g.W.Fletcher,Discretionary ConstitLLtion.Suprenote 116 at 638.ただし,早期和解の可能性は,ディスカバ リー手続の停止,クラス・アクショ
ン決定の延期,その他プリトライアル手続の延長の根拠とすることは許されないと されている。SeeMANUAL FOR CoMPLEX LITIGATIONSuPra note448 §1.21at 18.
(450)FED.R.CIV.P.16 (C)(7)(1983).
(451)SeeFED.R.CIV.P.16ADVISORYCoMMITTEENoTE1983AMEND.
しか し,すでにそれ以前の1946年 に,た とえば規則68条 が,和解 の促進 に奉 仕 し訴訟の長期化 を回避す ることを意図 して規定 されて いた(452)。 す なわ ちそ こでは,被告 による和解 申出を原告が拒否 した ところ,結果的 には下 され た判 決 よりも先 に申 し出 られた和解内容の方が原告 にとって好 ま しいと判明 した場 合 には,原告 は,和解 申出後 に生 じた弁護士費用等 の コス トを披告 に支払 わ な ければな らないとされているのである。 またさらに,係争人が和解交渉 の過程 でな した行為 または陳述 を証拠 と して責任 を確定す ることは許 されないと規定 す る連邦証拠規則408条(453)の中に も,和解奨励 の政策 を看取で きるのである。
さ らに,労働関係 における人種差別解 消訴訟事件 にお いて は,まず,Equal Employmeユ1tOpportunity Commission による調停活動 などが行 なわれな け ればな らないと規定 されているので(454),「公共的イ ンジャンクシ ョン訴訟」 の 事件類型 の中で も,当事者間の交渉 による具体的救済方法 の形成 が最 も頻繁 に 行 なわれている(455)とされ るのである。
このような和解促進 の政策 は,もちろん クラス ・アクシ ョン訴 訟 に も,また そのような形態で提起 され ることの多 い 「公共的イ ンジャンクシ ョン訴訟」事 件 にも一般 に妥当す ると考え られているのである(456)(457)0
(452)SeeFED.R̲CIV.P.68ADVISORYCoMMITTEENoTE1983AMEND.
(453)FED.R.EvID.408(1975).
(454)TITLEⅦ oFTHECIVILRIGHTSAcTOF1964,42U.S.C.A.§2000e‑5(b) (1976)・
同条 は, も し EqualEmploymentOpportunity Commission が,人種差別 の存在 を信 じる合理的な理 由が存在す ると判断 した場合 に,同委員会 は,協議 ,調 停 および説得 とい う非公式的な方法 によ って,違法な状態を排除するよ うに努力 す べ きである旨を規定 している。
(455)SpecialProject:RemedialProcess.Supranote26at811.
(456)Seee.g.S.Lazos,ClassActionSetile7ne7Ws.Supranote448at308・
(457)なお本稿で は,和解 と密接不離 の関係 にあるにもかかわ らず,近時 ア メ リカで大 き な展開を示 している 「交渉 (negotiation)」 に関す る議論 には立 ち入 る ことが で きなか った. これについて は,た とえば,野村美明 「訴訟社会 と交渉技術 ‑ ハ ‑ ヴ ァー ド大学 における実践教育 について‑ 」 『阪大法学』140号235貢(1986),太 田勝造 「交渉 ・和解 ・法学教育」 『法政論集 (名古屋大学)』126号182頁(1989)
〔この論文 は,後 に同 『民事紛争解決手続論』179頁 (信 山社 1990)に加 筆補充 さ れて収録されている。〕などを参照。
「公共的差止訴訟」 における救済過程 の構造 とその展開(4) 9
2)和解 ・同意判決の利点
和解的紛争解決 に由来す る同意判決 は,い くつかの利点 を もっている。まず, 両当事者 にとっては,紛争 を早期 に解決で き (‑ A),訴訟 にまつ わ るコス ト を減少 させ本案審理 の結果か ら生 じる リスクを回避す ることがで きる (‑ B)0 原告 にとっては,独創的な具体的救済方法を取得で きる可能性が開 け (‑C), 被告 にとって は,権利侵害 (違法性) の格印を回避 で きる (‑D)。 また,両 当事者 にとっての利点 と して,当事者間の交渉 によ り第三者 の権利 ・利益 の取 引がで きることが挙 げ られ る場合 もある (‑ E)。 そ して,最 後 に裁判所 サ イ ドか ら見 た場合 に,和解 によ り司法的資源 の効率的な配分が可能 にな る ことが 指摘 されている (‑ F)。
A.紛争の早期解決
訴訟 は,敗訴当事者 による不服 申立ての方法が尽 き訴訟が終了 す るまで に, しば しば何年 もかか ることがある。 これに対 して,同意判決 の言渡 し ・登録 は 通常早 いペースで行 なわれ る。 当事者 は,裁判上 または裁判外で同意判 決原案
(和解条項) を交渉 し,提訴後数 日または数週 間以 内 に,同意判決 が言 い渡 さ れ ることもある。 また,時折 ,原告の提訴 と同時 に同意判決 の申立てを行 ない, 提訴当 日に同意判決が言 い渡 され ることもある(458)とされ る。 したが って,同 意判決 によ り,当事者 は紛争 を早期 に決着 させ る ことがで きるので あ る(459)0
しか も,同意判決原案が,当事者間の幅広 い情報交換 を通 じて,自主 的 な交渉 によ り作成 された ものであるため,和解条項 に関 して任意 に履行 のなされ る蓋 然性が高 くなる(460)。同意判決 の制度 は,当事者 自治 を尊重 した優 れ た制度 で (458)Seesupranote443.
(459)Seee.g.F.Easterbrook,JusticeandContract.Supranote448at20,T.
Mengler,ConsentDecreeParadigms.Supranote448at327‑28.
(4m)Seee.g.SpecialProject:RemedialProcess.Supra note26at810,T.
Stein,Implementation&Monitoring.Supranote295at147148.
(461)F.Easterbrook,JusticeandContract.Supranote448at21130.
ある(461)とされ るのである.
さ らに,一般 に同意判決 の不履行 は裁判所侮辱罪 の対象 となるので,和解 が 単 な る私的な契約 に留 まっているにす ぎない場合 と比較 して当事者 (債務者) が司法的な威嚇の下 に置かれ るので,執行 も迅速 に行 なわれ る可能性が開けて 来 るのである(462)0
また,「公共的イ ンジャンクシ ョン」 を含 む コ ンセ ン ト・デ ィク リーは,エ クイテ ィ上 の救済方法であるので,裁判所 は,後述す るよ うに (‑第4章),同 意判決の文言 を解釈 した り,同意判決 の履行 を監視す るために裁判所 の補助者 (モニター等) を任命す ることによ り,救済実現過程 に対 して も,直接 的 また は間接的に関与す ることが可能 となる。 その点で,私的な和解 の場合 よ りも迅 速 に,救済内容が実現 され る可能性 が開 かれ る ことにな るので あ る(463)。 私 的 な和解契約 の場合 には,訴訟 を提起 しまず判決 を得 なければ,裁判所 によ る履 行 の強制 を求 めることがで きないか らである。
なお,和解条項 の作成 のさいに,その規定 の仕方か ら,当事者 は争 いが その 実現過程で再度生 じるか もしれないと考え ることもある。 しか しなが ら,た と えそ うで も,争 いは自分 たちが交渉 し裁判所が言 い渡 した 「和解条項」 に限定 され ることを予期で きる。 それゆえ,同意判決 の言 い渡 しによ り必ず しも紛争 を完全 に終結 させない場合 もあるが,しか し,その争いの範囲を限定するメ リッ
トがある(464)とも言われている。 さ らに,このような紛争 の早 期解決 は,裁判 所サイ ドにとって も利点があるとされている (‑F)。
B,訴訟 にまつわるコス トの減少や リスクの回避
訴訟 の過程で和解が成立 し同意判決が言 い渡 されれば,当事者 は,一般 に訴 (462)Seee.g.LAnderson,ApprovalandInterpretation.Supranote251at
580,F.Easterbrook,Justice and Contract.Supra note448 at20,T.
Mengler,ConsentDecreeParadigms.Supranote448at292,L・Kramer, ConsentDecrees.Supranote448at327.
(463)L.Kramer,ConsentDecrees.Supra note 448 at 325‑26.See alsoL.
Anderson,ITnPlementation.Supranote251at732‑35.
(464)T.Mengler,ConsentDecreeParadigms.Supranote448at328.Seealso T・Stein,Implementation&MonitorLng.SuPranote295at147148.
「公共的差止訴訟」 における救済過程の構造 とその展開(4) 11 訟 における本案審理 の費用の支出を回避 で きる(465)。 確 か に,ほ とん どの私 的
な和解契約 の場合 (その結果,裁判所 の許可 な く訴えの取 り下 げがなされ る場 合 またはそれが許 され る場合) には,通常係争当事者 と司法機関 との関係 はそ こで終了す る。 しか し,同意判決 の場合 には,その言渡 しか らまた新 たな関係 が開始す る。 その裁判所が,同意判決の実現過程 を担当す ることにな るか らで ある。 同意判決 の実現過程 において,ほとん どの当事者が裁判所 の関与 を望 む ので,必然的に費用がかか ることにな る(466)と も言 われて い るので あ る。 した が って,厳密 に言 えば,本案審理 の費用が節約で きるに過 ぎない。 しか しなが ら,合意 によって形成 された同意判決 は,債務者 による任意 の履行 が期待 で き るか ら,通常 の 「公共的イ ンジャンクシ ョン」判決 の執行 に比較 して,執行 関 係 の費用 も減少す るのである(467)0
た とえば,ウィスコンシン州 ミルウォーキー市 の公立学校 における人種別学 解消事件 である Armstrong事件(468)(同意判 決) にお いて,連邦控 訴裁判所
は次 のように判示 している。
(実際,人種別学解消事件 は,和解 による自主的な紛争解決 が,訴訟 的 な解 決 よ りも好 ま しいと考 え られ る事件類型 のひとつである。 なぜな らば,誠実 な 和解 に内在す る協力 の精神 は,極 めて長期 にわた りこの種 の具体的救済方 法 を 首尾 よ く実現 して行 くために不可欠だか らである。 当事者 の合意 によ り到達 し
た具体的救済方法 は,共同社会内で協力 によ り産 み出 された ものであるので, 共同社会が外部か ら課 された と考 える命令的な判決以上 に憲法上 の平等保護 を (465)Seee.g.T.Mengler,ConsentDecreeParadigms.Supra note448 at
328,S.Lazos,ClassActionSettlements.Supranote448at308n.1,L Kramer,ConsentDecrees.Supranote448at325.
(466)T.Mengler,ConsentDecreeParadigTnS.SuPranote448at328.
(467)Seee.g.L Anderson,ApprovalandInterpretation.Supranote251at 580,K.Schoene,VoluTuarily Unlocking.Supra note446 at1309,R.
Moss,Participation andDepartmentofJusticeSchoolDesegregation ConsentDecree,95Y ALE L.J.1811,1830 (1986) 〔hereinaftercited as R.Moss,Participation.〕.
(煉)Armstrongv.Board ofSchoolDirectors,616F.2d305,318 (7th Cir.
1980).
効果的に実現で きることになるであろ う。)(469)
費用の軽減 とい う点 は,この種 の訴訟事件 における原告 にとって極 めて魅 力 的である。 この種 の原告 は,しば しば訴訟遂行 の資力 に欠 ける場合があ るか ら である。 典型的には,善意 の弁護士や,政府 の リーガル ・エイ ドか ら資金援助 を得 た弁護士 またはNAACP等 の公共利益 の保護団体等 の援助 を得て,訴訟 活動 を行 な っている。 しか も,その事件 の性質上大規模 なデ ィスカバ リー手続 の活用 も不可欠 とな り,その費用 も時 には莫大 な額 に上 ることもある。 さ らに た とえば,別学 の解消措置や雇用差別 の解消 のための積極的措置,さ らに環境 汚染の コン トロール設備 の設置等 のよ うに 「公共的イ ンジャンクション」 とし て求 める内容 は極 めて複雑であるので,原告 は自己の資力等 に照 らして,訴訟 遂行 の後 にそのような成果を判決 の形で得 ることに,大変 な困難 を覚え るか も 知れない。 したが って,和解交渉 ひいて は同意判決 の執行 の容易 さは,同意判 決 の実現過程 において生 じる紛争解決費用を低減 させ ることになる。 その実現 過程で は,裁判所が,同意判決 の文言 の解釈や紛争 の解決 を行 な った り,事情
の変更 に応 じて同意判決 の修正 を行 な うことが可能だか らである(470)。
しか し,同意判決 の内容が抽象的で暖昧 な らば,それをめ ぐり実現過程 で争 いが生 じることがある。 その場合 には,当事者がその解決 を求 めて裁判所 の介 入 を望 むので,その限 りで費用が増加 す ることになる(471)。
また,時折当事者が,とにか く和解 に漕 ぎ着 きたいがために意 図的 に暖味 な 文言で和解条項 を作成す る場合がある。 これは,争点 の解決 を将来 に先送 りす ることを望 む場合 に用 い られ る技法で あ る(472)。 それ ゆえ,不可避 的 に費用 が 増加 し,同意判決の場合 に も,通常 の判決 の執行以上 に費用が増大 す る こと も 皆無ではないであろ う。 したが って,少 な くとも訴訟以上 に費用 の減少 を望 む な ら,当事者 は,少 な くとも判決 の場合 と同 じくらいに和解条項 を当事者 や裁
(469)Id.at318.
(470)Cf.L.Kramer,ConsentDecrees・Supradote448at326‑27・
(471)T.Mengler,ConsentDecreeParadigms・Supranote448at3281 (472)L Anderson,ApprovalandInterpretation.Supranote251at616・
「公共的差止訴訟」における救済過程の構造とその展開(4) 13 判所 に とって明確 に しておかな ければな らないので あ る(473)。
さ らに,同意判決 によ り,当事者 は本案審理 の結果生 じるか も知 れ な い リス クを回避 す ることがで きる。 訴訟遂行 中 に当事者 の側 で,判決結果 の予 想 につ いて意見 が一致 しない場合 もあ るO仮 に,それが一致 して いて も外 れ る場 合 も あ る。 事実 関係 の明瞭 な場合 で も,裁判官 が認定 を誤 り,法 的判 断 を誤 る場 合
もあ る。 だか ら,本案判断 に関 して特 に不確実性 が高 い場合 には常 に,また低 い場合 で も判 断者 (裁判官 お よび/ また は (特 に損害賠償訴訟事件 の場合 には) 陪審員) が当事者 の望 む結果 に至 らない とい う危険 を回避 す るために,同意 判 決 を申 し立 て るので あ る(474)。訴訟 で争 うよ り も,同意 判 決 とい う形 で和 解 を す る方 が,将来 の不確実性 が相対 的 に減少 す ると,当事者 は考 え るか らである。
当事者 は,それ によ り救済形成 の さいの裁判官 の裁量権 限 を相 当程度制 限 で き ると確信 して い るか らで あ る(475)。 しか し, この予 想 が誤 って お り同意 判 決 の 実現過程 で裁判所 がその文言 を修正 で きる広汎 な裁量権 が存在 す るな らば,当 事者 は,同意判決 の制度 を利用 しな くな るで あ ろ う とい う指 摘(476)もな され て いる。 このよ うな同意判決 の修正権限 に対 す る消極 的 な評価 は,上述 のよ うに, この修正手続 の存在 ゆえ に将来 の事情 の変更 に即応 しうることが同意判決制度 の利点 のひ とつ と して挙 げ られて い る点 と比較 して興味深 い。 その評価 は,結 (473)なお,裁判所の関与する通常の判決の場合に比べて同意判決の内容が唆味 にな りや
すいという点に関 して,上述のA.Chayes教授の指摘が参考になる。教授 は,通常 の判決形成過程と同意判決原案の形成過程 とがそれほど大きく異ならないとされる のである。 この見解によれば,通常の判決形成過程と和解交渉 ・同意判決の形成過 程とを連続的に捉えることができ,同意判決の唆昧さも程度問題と考え られ,それ は決 して回避できない問題ではないと思われる。同意判決 となるには最終的には裁 判所による許可手続を経ることになるので,その唆昧さをチェックできないわけで
はないからである。Seesupranote447andaccompanyingtext.
(474)Seee.g.AgentOrangecase.Supranote346at749〔大規模 な損 害賠償請 求事件について。),F.Easterbrook,Justiceand Contract.Supranote448 at24‑25.
(475)T.Mengler,ConsentDecreeParadigms.Supranote448at330.さ らに, 大沢 『前掲書 (『現代 アメ リカ社会 と司法』)(註22)』193頁参照。
(476)SeeT.dost,From SwifttoStottsand Beyond:Modification ofInju7W‑
tionsinFederalCourts,64TEX.L REV.1101,1129‑30& n.173 (1986)
〔hereinaftercitedasT.Jost,From SwifttoStous.〕.