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Academic year: 2021

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地球温暖化と社会技術

著者 竹内 啓

雑誌名 明治学院大学国際学部付属研究所研究所年報 =

Annual report of the Institute for International Studies

号 6

ページ 123‑129

発行年 2003‑12

URL http://hdl.handle.net/10723/454

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地球温暖化と社会技術

1. 温暖化現象

私は2002年から、科学技術振興事業団の補助金を得て、「地球温暖化問題に対する社会技術的アプ ローチ」という研究プロジェクトを実施している。ここではそのプロジェクトの基本的な考え方につ いてのべる。

「地球温暖化」の問題は 1990 年ころから盛んに論ぜられるようになったが、それをどのように理解 し、それに対してどのような対応を取るべきかについて、世に行われている考え方は必ずしも適切と はいえない。

そもそも地球温暖化問題とは、人間の化石燃料消費による CO2ガスの大気中への放出→大気中の CO2濃度の上昇→「温室効果」による大気温度の上昇→海面の上昇、その他の自然的影響→人間生活 への影響→社会的損害という論理によって生ずる災厄をいかに防ぐかという問題であると理解されて いる。そこで温暖化による災厄を防ぐために CO2排出を抑制しなければならないことが強調され、

そのための京都プロトコルなども作成されたことは周知の通りである。

しかし上記の論理のそれぞれの環は、原理的には正しいとしても、まだ多くの不確定要素をふくみ、

従って原因と結果の間の量的関係はほとんど明らかでないといってもよい。更に温暖化の自然的、社 会的影響については地域によってその影響の方向や程度は大きく異なり、温暖化によって大きな被害 を受けることが予想される地域が存在する一方、逆に恩恵を受ける地域もあると思われる。

このような状況の上で、温暖化対策を、もっぱら CO2排出削減という方向からのみ考えるのは単 純すぎるし、更にそれを経済成長と CO2削減の間のトレードオフとして理解するのは全く短絡であ る。

そもそも地球上の自然、そしてその一要素としての気候や気象は、人為的な干渉がなくてもつねに 変化してきたのであって、その中に人間生活や人類文明にとって有利な変化も不利な変化もあったの である。概していえることは、温暖化は豊かな実りと社会の繁栄を、寒冷化は凶作、飢饉そして社会 の衰退をもたらしたのである。従って温暖化を直ちに災厄と見なす必要はない。

もちろん急激な気候の変化や、それにともなう異常気象の発生などは警戒しなければならないし、

温暖化が問題でないというつもりはない。むしろ現在はあまり確率が高くないと思われてはいるが、

南極やグリーンランドの氷が急速に融けて、海面が短期間に十数メートルも上がるようなことが起れ ば、大きな災害が起る危険性があるし、いろいろな可能性を考慮しておくことは必要である。

必要なことは前記のようないくつもの論理の環について、それぞれについての具体的な研究を深め て、その実態と将来に起りうる可能性についての分析を進めて、多段階的に対策を考えることである。

従って CO2排出をできる限り抑制することは、とくにそれがエネルギーのより効率的な利用と結 びつく限りは望ましいことであろうが、それだけに終わってはならない。

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同時に温暖化が進行することを前提とした対策も考えなければならない。CO2排出量の抑制にいく ら努力しても、大気中の CO2濃度が今後数十年間に亘って上昇することは避けられないし、また気 候変動モデルが基本的に正しいとすれば、それが一定程度以上の温暖化と、それに伴う全般的気候変 動をもたらすことは確実である。従ってそれに対応していろいろな面で、多様な技術的手段や政策を 考えておかねばならない。また起り得る気候変動の程度やその形態については、まだ全く不確定であ るから、起り得る多くの可能な事態に対して、多様な対策を用意する必要がある。

またそのために気候や気象の地域ごとの具体的な変化の様相を明らかにし、それがどのような悪影 響と、場合によっては有利な結果を生む可能性とをもたらすかを示さなければならない。それに応じ て、被害を防ぎ、また可能性を利用する方法を提示しなければならない。

2. 温暖化対策を考える視点

温暖化問題については、予測にかかわる不確実性が常に問題とされて来た。IPCC の報告でも、温 暖化の程度については、つねにかなりの幅を持って予測が発表されて来た。実は IPCCはその委員の 多数が比較的確率が小さいとする事象は除外しているので、可能性として考えられる範囲はもっと大 きいと考えねばならない。

この中で温暖化について、「状況がもっと明らかになるまでは、温暖化対策を急ぐべきではない。

もし急いで CO2抑制のための政策を進めて、事態がそれほど切迫したものでないことが明らかにな ったら、無駄に支払うコストが大きすぎる。」という意見と、「かりにまだ何が起るか明確でないとし ても、とにかく重大な危険があり得ることはわかっている以上、できるだけ早く CO2抑制に踏み切 らなければならない。大災厄が起ることが明らかとなってからでは手遅れである。」という意見とが 対立している。

このような対立は不毛であると思う。災厄に備える対策を論ずるとき、それがいつどのような形で 起るかが明確にならなければ、具体的な対策が考えられないということはない。また災厄が必ず起る ことを前提として行動しなければならないということもない。このことは地震対策などの例を考えれ ば明らかなことであろう。どの程度の地震が、いつどこで起るかわからない間は地震対策を実行すべ きではない、もし地震が起らなかったら無駄になるといったら、地震対策は何もできない。といって 逆に地震はいつ、どこで起るかわからないから、つねに地震が起ることを前提として行動しなければ ならないとしたら、社会生活は甚だしく不自由になってしまうであろう。

温暖化についても、将来の予測が不確実だから、まだ何もしないでよいというのは、いわば楽天的 過ぎる考え方である。逆に温暖化が大災害を引き起こすかもしれないから、直ちにその防止のために 全力を尽くさねばならないというのも、悲観的過ぎる考え方である。

現実は大気中の CO2濃度が着実に上昇しつつあるのは事実であり、また過去 100 年間に世界中の 気温がある程度上昇したことも確認される。またアイスコアから採集された過去100万年にわたる地 球の大気の分析によっても、大気の温度と CO2濃度の間に高い相関があり、現在CO2濃度は過去数 十万年の最高水準を超えようとしていることが知られている。ここで CO2濃度と気温との間の因果 関係の方向については両論あるが、いずれにしても今後地球上の気候が新たな局面に入る可能性は高 い。従って 21 世紀において気候変動は起り得る。あるいは何らかの形では必ず起ると考えてよい。

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しかしそれが必ず人類に悪い影響を及ぼすとは限らないから、気候変動をできる限り防止しなければ ならないということにはならない。また気候変動をもたらす要因は CO2濃度だけではないし、未知 の自然的要因も多いから、気候変動が全く起らないようにすることは現在の人類の持つ技術と知識で は不可能である。しかしながらまた、気候変動が全体としては人類に恩恵をもたらすものであったと しても、ある地域に対しては、あるいは一時的には災厄をもたらすこともある。またその方向を見誤 って不適当な行動を取れば、自ら損害を招いてしまうかもしれない。

不毛な対立を生ずる大きな原因は、温暖化対策を CO2排出抑制にのみ集中して論ずることにある。

「温暖化の根本原因は CO2排出量の増大にあるのだから、温暖化対策として CO2排出を抑制するこ とが第一である」というのは、論理的には正しいように見えるが、実は誤りである。それは例えば

「火事が起る根本原因は火を使うことにあるのだから、火事を起こさないために火の使用を抑制しな ければならない」という主張がばかげていると感じられることと同じである。

さらに議論の対応が発展して「これまで CO2を大量に排出してきたのは欧米先進国であるから、

温暖化の責任はもっぱらこれらの国々で負うべきである」と主張する開発途上国側と「今後人口増加 と経済成長によって CO2排出を増加させるのは開発途上国側だから、その抑制が重要である」と主 張する先進国側とが衝突するようになるのは、全く不幸なことであるといわねばならない。さらに先 進国の一部には「今後開発途上国による CO2排出増大を抑止するには開発途上国の人口増加を抑え ることが最も重要である」という意見まであるが、いろいろな観点からして、開発途上国の出生率を 抑制することはその国の人々の福祉のために必要なことであるとしても、それを「開発途上国がこれ 以上 CO2を出すことを抑えるために」という目的で主張すれば、開発途上国側の反発を招くことは 当然である。温暖化問題に限らず、地球環境問題に関連してとかく「地球の有限性と人口の増加傾向 の矛盾」を説く「マルサス主義」が復活するのは望ましくないことである。このような先進国側の議 論に対して、開発途上国側から「現在先進国の人々は 1 人当たり、開発途上国の人々の 10 倍もの CO2を排出しているのだから、CO2排出量を減らすには、途上国の人口を抑えるよりも、先進国の人 口を減らす方がよい」という反論が出されることになり、このような議論は感情的対立にまで発展し てしまうことになる。

ましてやこれまでの CO2排出の責任問題などを論ずるのは有害無益であることはいうまでもない。

また一部では CO2排出権取引を、温暖化問題に対する根本的対策のように主張している人々もい る。しかしその場合基本的問題は、市場に出す排出権の総量を誰がどのように決定するか、また市場 の秩序をどのようにして守るか、簡単にいえば排出権を持たずに排出することをどのように阻止する かであり、ここでアウトサイダーがいたら排出権取引上の前提が崩壊してしまう。それが全く無意味 な考えであるとはいわないが、温暖化対策として実効あるものになるとは思われない。

温暖化によって受ける影響は国によって大きく異なることが予想される一方、気候変動に対応する には、国際的な協力が必要である。とくに温暖化によって大きな被害を受けることが予想されるのは 主として熱帯にある開発途上国、とくに低湿地に莫大な人口をかかえるバングラディシュなどである。

逆に一部の寒冷な国々、例えばカナダなどは利益を受けることが予想される。したがって温暖化問題 について、それぞれが自国の利益のみを考えて行動したのでは適切な対策は実行されないであろう。

全人類的な観点に立つことが重要である。同時に温暖化に対応する対策としては、各国がそれぞれの

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状況に応じてなすべきことは多い。そこでは各国がそれぞれ独自の行動をとることは、全体の利益に ならないかもしれない。2 国間、或いは多国間で相互に協力し、或いは援助することが望まれる分野 も多いのである。

3. 事実の分析と可能性の追求

現在むしろなすべきことは、世界の各地域について、それまでの観測データにもとづいて、何が起 って来たかを分析し、それによって将来何が起り得るかを想定し、その対策を考えることである。こ の場合、将来についていつ何が起るかを「予測」する必要はないし、またそれは恐らく不可能である。

むしろいろいろな起り得る可能性を考えて、それに対して対策を考えることが必要である。

その意味でわれわれにとって第一になすべきことは、日本の気象観測データと、それに関連した事 実に関するデータの詳細な分析である。日本は温暖化によって受ける影響については、必ずしも被害 が大きい方ではないかもしれないが、具体的な問題を正確に捉えるには、よく事情のわかっている自 分の国から始めるのが適当である。

また世界の多くの国々にとって、温暖化の影響はそれほど劇的な、或いはカタストロフィックなも のではないであろうから、日本が例外的に平穏になるということも考えられない。世界全体について の漠然とした「脅威」について語るよりも、特定した場所について具体的な変化を追跡する方が有益 であろう。

日本については、過去100年以上の気象データが蓄積されている。それは最近になってデータベー ス化されているが、その詳細な分析はまだなされていないように思われる。

これまでに私達が大まかに見た限りでは、次のことが見て取られる。(グラフ1, 2, 3参照)

1) 日本各地の気温は、ほぼ 1℃ないしそれ以上上昇している。それは世界全体についてしばしば 言われる0.5℃より大きい。

2) 上昇の程度は場所によって異なり、東京は約 3℃も上昇している。その他大阪、京都、名古屋 などの大都会が高い。それは全般的な温暖化の上に、ヒートアイランド現象が重なったものと 思われる。

3) 全体として1980年代末から1990年代初頭にかけて1℃程度の明確な上昇が見られる。多くの 場所では、それ以外には気温のトレンド的あるいはサイクル的な現象が見られない。

4) 降水量については、明確な変動は見られない。降水量については年々のばらつきが大きいが、

ばらつきの大きさについては、トレンド的な変動よりも周期的な変動があるように思われる。

5) いろいろ指摘されている、異常高温、暴風雨、暴雪等のいわゆる異常気象についても明確な傾 向的変化があるとはいえない。

6 北海道や本州日本海側の積雪量については一部(例えば高田)などには顕著な減少が見られる が、全般的にはあまり明確な傾向はない。これは一般的にいわれている印象とは異なるが、道 路や鉄道、その他の社会施設における積雪対策の進歩によって、積雪から受ける影響が減って いるために、積雪量そのものが減少したような印象を生じているのかもしれない。

われわれの分析はまだ手をつけたばかりであるが、過去100年の気温の上昇は、東京などではかな り大きいともいえる。東京の冬の気温は明治時代に比べると 3℃以上も上昇し、かなり暖かくなって、

(6)

ほとんど高知の気温に近づいている。しかしそのことはそれだけでは悪いこととはいえないであろう。

気候の変化が人間生活に及ぼした影響については、時とともに気候変化に適応する技術が進んで来 たことは確かである。まだ分析していないが、例えば米の収穫高などは、古い時期ほど、その年の気 候に大きく影響されたはずである(1993 年の米作の「冷害」は、この年気温が低くなることがかな り確実に予想されたにもかかわらず、それを無視して低温に弱い品種に集中したことが原因であっ た)。また人々の健康状態については、かつては冬の寒さや、夏の暑さが、脳出血や、伝染病を増加 させる原因となったが、生活環境や公衆衛生の改善によって、そのような現象は見られなくなってい る。

21 世紀において全世界的な温暖化の傾向が加速されると仮定した場合、日本の各地の気候がどの ように変化し、それが生活にどのような影響を及ぼすであろうか。またそれに対してどのような対策 を考えねばならないであろうか。それについては今後研究を進める予定であるが、当面重要なことは 東京などの大都市のヒートアイランド現象であると思われる。それは人々の健康に影響するし、もし 十分な冷房を行なうとすれば、冷房のための電力消費を大きく増大させ、それ自体がヒートアイラン ド現象を強めることになる。それはまた CO2排出を増加させることにもなる。ヒートアイランド現 象に対する根本的な対策としては都市計画、都市設計そのものから考え直す必要があろう。

健康問題に関してはマラリア、デング熱等の熱帯性や亜熱帯性の伝染病の侵入を防ぐことが大切で ある。

その他いろいろな産業、例えばビールなどの売上高が気候に影響されることはよく知られている。

それについても調べて見ることは興味あるが、しかしこのような影響は市場の反応によって十分対応 されるので「心配」しなくてもよいことであろう。

4. むすび

温暖化を「漠とした、しかし何か正体のわからない大きな脅威」として感ずるよりも、むしろ日常 的に起り得る小さな変化の積み重なりとして、そうしてそれは全体としては大きな影響を起こす可能 性を持つものとして理解し、それに対してまた個々具体的に対応することが最も重要であると、われ われは考える。

(7)

グラフ1:平均気温の推移(1900年~2000年)

*気象庁年報2001年より作成

那覇( 7月,年,1月)

01 23 45 67 89 1011 1213 1415 1617 1819 2021 2223 2425 2627 2829 3031 32

1900 1925 1950 1975 2000

7月

1月

東京(7月,年,1月)

01 23 45 67 89 1011 1213 1415 1617 1819 2021 2223 2425 2627 2829 3031 32

1900 1925 1950 1975 2000

7月

1月

高知(7月,年,1月)

01 23 45 67 89 1011 1213 1415 1617 1819 2021 2223 2425 2627 2829 3031 32

1900 1925 1950 1975 2000

7月

1月

札幌(7月,年,1月)

-9-8 -7-6 -5-4 -3-2 -10123456789 1011 1213 1415 1617 1819 2021 2223

1900 1925 1950 1975 2000

7月

1月

(8)

グラフ2:年平均降水量の推移(1900年~2000年)

東京

0 250 500 750 1000 1250 1500 1750 2000 2250 2500

1900 1925 1950 1975 2000

年(移動平均)

年間 (㎜)

*気象庁年報2001年より作成

グラフ3:1961年~2000年の日最深積雪推移

*地上気象観測時日別(SPD)資料 圧縮版 19612000年 より作成

新潟

0 250 500 750 1000 1250 1500 1750 2000 2250 2500

1900 1925 1950 1975 2000

年(移動平均)

年間 (㎜)

札幌

(1,2,3,12月)

0 50 100 150 200 250 300 350

1961 1970 1980 1990 2000

高田(1,2,3,12月) (㎝)

0 50 100 150 200 250 300 350

1961 1970 1980 1990 2000

(㎝) 高田 (1,2,3,12月) 札幌 (1,2,3,12月)

(㎝)

(㎝)

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