一 米 国多 国籍 企 業 の技 術 管 理 戦 略 分 析 を中 心 と して 一
封尾
智 一
1は じ め に
筆 者 は,こ れ ま で に 米 国 多 国 籍 企 業(US.MNE,MNC)に よ る 技 術 戦 略 (TechnologyStrategy)の 歴 史 的 変 遷 に 関 す る 考 察 か ら,い わ ゆ る"パ ッ ク ス ・ア メ リ カ ー ナ(PaxAmericana)"と 称 さ れ た 米 国 経 済 の 黄 金 期 の 崩 壊 要 因 の 一 つ と し て,主 に 米 国 多 国 籍 企 業 に よ る 技 術 戦 略 の 軌 道 修 正,す な わ ち こ れ ま で の 関 連 企 業 と の 内 部 市 場 取 引 か ら 非 関 連 企 業 へ の 「ラ イ セ ン シ ン グ (Licensing)」 拡 大 に つ い て 論 じ て き た(關,2000cde)。 つ ま り,第 二 次 世 界 大 戦 以 降,圧 倒 的 な 「比 較 優 位(comparativeadvantages)」 に あ っ た 米 国 産 技 術 が,こ れ ま で の 秘 匿 化 さ れ た 状 態 か ら ラ イ セ ン シ ン グ を 通 じ て 拡 散 し た こ
と を パ ッ ク ス ・ア メ リ カ ー ナ 崩 壊 の 要 因 の 一 つ と す る 立 場 で あ る 。 し か し な が ら,1975年 に ギ ル ピ ン(R.Gilpin)が 記 し たU.S.Powerand TheMz〃inationalCorl)0癬 加'ThePoliticalECO〃0〃Zッ げ ・F∂忽9π0ガ グectln‑
vestment(邦 訳 名 『多 国 籍 企 業 没 落 論 一 ア メ リ カ の 世 紀 は 終 わ っ た か 』)に は, 全 く 別 の 角 度 か ら パ ッ ク ス ・ア メ リ カ ー ナ の 崩 壊 に 対 す る 見 解 が 述 べ ら れ て い
る 。 す な わ ち,ギ ル ピ ン に よ れ ば,パ ッ ク ス ・ア メ リ カ ー ナ の 崩 壊 と は,米 国 企 業 に よ る 「海 外 直 接 投 資(ForeignDirectInvestment:FDI)」 を 契 機 と し た,
"既 存 の 米 国 産 優 位 技 術 の 拡 散"と"将 来 の 潜 在 的 な イ ノ ベ ー シ ョ ン能 力 の散 逸"に よ っ て 引 き 起 こ さ れ た,と 位 置 付 け ら れ て い る の で あ る(Gilpin,1975,
1987)。 換 言 す れ ば,米 国 企 業 の 多 国 籍 化 そ の も の が パ ッ ク ス ・ア メ リ カ ー ナ を 崩 壊 せ し め た 元 凶 で あ る,と い う こ と で あ る 。
〔243〕
本 稿 で は,こ う した ギ ル ピ ンの 主 張 に注 目 し,パ ック ス ・ア メ リカ ー ナ 崩 壊 の メ カニ ズ ム に つ い て,と くに米 国 多 国 籍 企 業 の 技 術 戦 略 との 関係 か ら改 め て 考 察 を行 う こ と と した。 また,本 稿 で の 考 察 は,本 誌 に連 載 中 で あ る 『 現 代 多 国籍 企 業 の 技 術 管 理 戦 略 とMNE理 論 』の 内容 を部 分 的 に補 完 す る もの で あ る。
2パ ック ス ・ア メ リカ ー ナ の形 成 と米 国企 業 の 多国 籍 化一 技 術 管理 戦 略 の誕 生 とFDIの 推 進
第 二 次 世 界 大 戦 後 の 世 界 経 済 の覇 権 は,米 国 を 中 心 とす る 自 由主 義 陣 営 とソ 連(当 時)を 中心 とす る社 会 主 義 陣営 に よ っ て分 割 され る こ と と な っ た 。 なか で も,1950〜60年 代 当 時 の米 国 経 済 は,復 興 途 上 に あ っ た 欧 州 や 日本 と比 べ て 圧 倒 的 な 規 模 を 誇 り,巨 大 で 豊 か な市 場 で は テ レ ビ な どの家 電 製 品 や 自動 車 な ど,高 価 で 高 性 能 な 民 生 品 が 大 量 に消 費 され て い た 。 そ して,こ の豊 か な 市 場 を前 に,米 国 企 業 は 巨 額 な研 究 開 発(Research&Development:R&D)費
を投 入 し,高 性 能 ・高 品 質 の イ ノベ ー シ ョ ンを 行 う強 い誘 因 を持 つ こ と とな る 。 米 国 で は,巨 額 なR&D費 に よ っ て生 み 出 さ れ る新 しい 技 術 と,豊 か で貧 欲 に 新 製 品 を 求 め る市 場 との 相 互 作 用 の 中 か ら,従 来 の 重 化 学 工 業 分 野 に加 え,医 薬 品,半 導 体,コ ン ピ ュー タ,航 空 機 とい った 先 端 技 術 産 業 に お い て も,次 々
と新 た な イ ノベ ー シ ョンが 生 み 出 さ れ て い っ た(秋 山,1991;後 藤,2000)。
こ う して,1950〜60年 代 の米 国 経 済 の 黄 金 期 で あ る,い わ ゆ るパ ック ス ・ア メ リ カ ー ナ が 形 成 され る こ と と な っ た。 そ し て,こ う した 圧 倒 的 な技 術 優 位 性 を 背 景 と し て,米 国 企 業 は さ ら な る 利 潤 を 求 め て 海 外 市 場(=主 に 当 時 の EEC市 場)へ と そ の 活 躍 の場 を 広 げ 始 め るの で あ る 。す な わ ち,米 国 企 業 は, 従 来 ま で の 海 外 投 資 形 態 で あ っ た 「 海 外 証 券 投 資(ForeignPortfolioInvest‑
ment)」 で は な く,新 た にFDIを 進 展 さ せ る こ と に よ っ て,よ りグ ロー バ ル な 利 潤 極 大 化 を 目指 し始 め た の で あ る。
例 え ば,い わ ゆ る 伝 統 的 な 「 多 国 籍 企 業 理 論(TheTheoryoftheMNE,
MNC)」 の 始 祖 と され る ハ イ マ ー(S.H.Hymer)に よ る と,従 来 の 海 外 証 券
投 資 とFDIの 違 い と は,前 者 の 動 機 が 「利 子 率(interestrate)」 に よ っ て 説 明 さ れ る の に 対 し,後 者 の 動 機 が 「専 有 可 能 性(appropriability)」 に よ っ て 説 明 さ れ る 点 に あ る と し て い る(Hymer,1976)。 つ ま り,ハ イ マ ー ・モ デ ル に よ れ ば,1960年 代 に 本 格 化 し た 米 国 企 業 のFDIと は,外 国 市 場 に お い て 自 ら の 開 発 技 術 に 対 す る 報 酬 を 専 有 す る こ と で,グ ロ ー バ ル な 利 潤 極 大 化 を 目指 し た 戦 略 で あ る,と 定 義 付 け ら れ る の で あ る(姉 川,2000)(表1参 照)。
表1英 国 と米 国 の海外 投資
19世 紀 の 英 国
20世紀 の 米 国
投 資 主 体 銀行,個 人,公 社 債 市場 企 業 投 資 の タイ プ
証 券(ポ ー トフ ォ リ オ),融 資直接
業 種 原材 料,農 業,公 益事 業
(鉄道 と港 湾)
製 造 業,原 材 料(と くに 石 油), マ ー ケ テ ィ ン グ
主 要 な 動 機 直接 的 な利益 獲得 を 目的 と した
ロー カル市場 へ の参 入機 会
グ ロ ー バ ル 企 業 戦 略投 資 の 場 所
(投資 の規模)
欧 州,米 国,新 植 民 地 (オ ー ス トラ リ ア ・カ ナ ダ)
欧 州,ラ テ ン ・ア メ リ カ,カ ナ
ダ,中 東(石 油)
移 民 活発 な大 量移 民 企業経営者
(出 所)Gilpin,R.,(1975),U.S.PowerandTheMultinationalCorPoration'The
PoliticalEconomyofForeignDirectlnvestment,BasicBooks,p.11.(山 崎 清 訳 『多 国 籍 企 業 没 落 論 一 ア メ リ カ の 世 紀 は 終 わ っ た か 』 ダ イ ヤ モ ン ド社, 1977年,10頁).
米 国 企 業 が グ ロ ー バ ル な 専 有 可 能 性 の 確 保 を 目 指 す 上 で,伝 統 的 な 「輸 出 (Export)」 や ラ イ セ ン シ ン グ で は な く,こ う し たFDIを 選 好 す る 背 景 に つ い て は,主 に 「レ デ ィ ン グ 学 派(ReadingSchool)」 の 「内 部 化 理 論(TheIn‑
ternalizationTheory)」 に お い て,次 の よ う に 説 明 さ れ て い る 。 す な わ ち,同 学 派 を 代 表 す る 論 者 の 一 人 で あ る ラ グ マ ン(A.M.Rugman)に よ る と,外 国 市 場 に お い て 技 術 取 引 を 行 う 際,輸 出 に は 関 税 や 外 国 為 替 管 理,輸 入 規 制 と い っ た リ ス ク が,ま た ラ イ セ ン シ ン グ に は 機 密 漏 洩 や 再 販 売,迂 回 発 明 と い っ た
「消 散 リ ス ク(riskofdissipation)」 が 生 じ る た め,こ れ ら を 選 択 し た 場 合 に は 米 国 多 国 籍 企 業 に よ る グ ロ ー バ ル な 専 有 可 能 性 の 確 保 が 実 現 さ れ 得 な い,と い う の で あ る(Rugman,1981;Rugmanetal.,1985)。
こ う し て,海 外 に 完 全 所 有 あ る い は 多 数 持 株 等 の 子 会 社 を 設 立 し,そ う し た 関 連 企 業 同 士 に よ る 「内 部 市 場(internalmarket)」 で の 技 術 取 引 を 実 現 す る FDIこ そ が,米 国 多 国 籍 企 業 に グ ロ ー バ ル な 専 有 可 能 性 の 確 保 を も た ら す 唯 一 の 選 択 肢 と し て 位 置 付 け ら れ る こ と に な る の で あ る。 そ し て,事 実,こ う し た ラ グ マ ン の 主 張 通 り,こ の 当 時 の 米 国 多 国 籍 企 業 に よ る 技 術 取 引 の 大 半 は, 多 く の 文 献 資 料 か らFDIに よ っ て 設 立 さ れ た 海 外 子 会 社(=海 外 関 連 企 業) と の 内 部 市 場 取 引 で あ っ た こ と が 明 ら か に さ れ て い る の で あ る(Davidson, 1980;Mansfieldetal.,1982)(表2参 照)。
表2米 国産 技術 の海 外子 会社 お よび海 外非 関連 企業 へ の移転 (米国市 場 への導 入年 別)
米 国市 場 へ の 導 入 年 と海 外 へ の移 転 の タイ ム ・ラ グ 米 国市場 への 導入 年 と技
術移転チ ャ ンネル 2年 以 内 3年 以内 以4‑5年 内 以6‑9年 内 10年 以 上
合 計
45‑55年(新 技 術94件)
海外子会社 14件 18件 11件 43件 233件 319件
海外非関連企業 1件 9件 28件 16件 92件 146件
海外 子会社比 93.3% 66.7% 28.2% 72.9% 71.7% 68.6%
56‑65年(新 技 術70件)
海外子会社 24件 39件 21件 46件 49件 179件
海外非関連企業 7件 10件 15件 13件 22件 67件
海外子 会社比 77.4% 79.6% 58.3% 78.0% 69.0% 72.8%
66‑75年(新 技 術57件)
海外子会社 22件 37件 21件 16件 1件 97件
海外非関連企業 2件 4件 10件 6件 2件 24件
海外子 会社比 91.7% 90.2% 67.7% 72.7% 33.3% 80.2%
45‑75年(新 技 術221件)
海外子会社 60件 94件 53件 105件 283件 595件
海外非関連企業 10件 23件 53件 35件 116件 237件
海外子 会社 比 85.7% 80.3% 50.0% 75.0% 70.9% 71.5%
(原 資 料)Vernon,R.andDavidson,W.H.,(1979),ForeignProductionofTechnology‑lntensivePro・
ductsbyU.S.‑BaseofMultinationalEnterprises,NationalScienceFoulldation,p.63.,Sci‑
enceIndicator'ヱ980,p.237.
(出 所)菰 田 文 男(1984)『 現 代 国 際 技 術 移 転 論 の 研 究(下)』(山 口 経 済 研 究 叢 書 第22集)山 口 大 学 経 済 学 会,60頁,に 筆 者 一 部 修 正 。
つ ま り,1960年 代 に お け る米 国 多 国 籍 企 業 の 主 要 な 海 外 投 資 戦 略 で あ っ た FDIと は,輸 出 や ラ イ セ ン シ ン グ に よ っ て 生 じ る様 々 な リス ク を 回 避 す る た め に,海 外 に 自 らの コ ン トロ ー ル 下 にあ る現 地 子 会 社 を 設 立 す る行 為 で あ っ た の で あ り,そ の 目的 は 内 部 市 場 の創 設 に よる 自 ら の優 位 技 術 を利 用 した グ ロ ー バ ル な専 有 可 能 性 の 確 保 に あ っ た,と 結 論 付 け る こ とが で き るの で あ る。 そ し て,こ う した 米 国 多 国 籍 企 業 のFDI中 心 の 海 外 投 資 戦 略 を,改 め て 米 国 多 国 籍 企 業 に よ る技 術 戦 略 の 一種 と して捉 え直 す な ら ば,そ れ は ま さ に 「 技 術 管 理 戦 略(TechnoiogyControlStrategy)」 と呼 ぶ こ とが で きる よ う に 思 わ れ る の で あ る(關,1999ab,2000abcde,2001a)。
3パ ッ ク ス ・ア メ リ カ ー ナ 崩 壊 に 関 す る 一 般 的 見 解 一 技 術 管 理 戦 略 の 修 正 と ラ イ セ ン シ ン グ の 拡 大
1960年 代 に お け る米 国 多 国 籍 企 業 の 海 外 投 資 戦 略 と は,FDIに よ る 内 部 化 を中 心 と した,い わ ゆ る技 術 管 理 戦 略 と呼 ぶ べ き内 容 で あ っ た 。 そ して,こ う した 内部 市 場 取 引 に よ る グ ロー バ ル な専 有 活 動 を推 進 した こ と に よ っ て,米 国 多 国 籍 企 業 は よ り莫 大 な超 過 利 潤 を 手 に し,そ の 規 模 を さ ら に巨 大 化 させ る こ と と な っ た 。 しか し,一 方 で は こ う した 組 織 の急 成 長 に よ っ て,こ れ まで の 技 術 管 理 戦 略 に も あ る 転 機 が 訪 れ る こ と と な っ た。
す な わ ち,米 国 多 国 籍 企 業 の 規 模 が 大 き な もの と な れ ば な る ほ ど,そ う した 組 織 を維 持 ・発 展 させ る た め に 必 要 なR&D費 用(と くに基 礎 研 究 費)も 巨 額 な もの とな り,ま た 開 発 す る技 術 自体 も巨 大 化 ・複 合 化 し,よ うや く開発 した 技 術 的 成 果 もそ の全 て が 商 業 的 な成 功 を 収 め る とい う こ とは な く,さ らに は成 功 した と して も 開発 企 業 側 に十 分 な報 酬 を もた ら さぬ ま ま 陳腐 化 して しま う と い う状 況 下 にお い て,従 来 の 内 部 化 に よる技 術 管 理 戦 略 の 限界 が 次 第 に 明 らか な も の と な っ て い っ た の で あ る(FordandRyan,1981;Gisser,1972;
Midgley,1977;林,1984)。
こ う した流 れ は,1970年 代 以 降 に は決 定 的 な もの と な り,こ う して 米 国多 国
籍 企 業 の技 術 戦 略 は,こ れ ま で の 内 部 化 を 中 心 と した技 術 管 理 戦 略 か らの 軌 道 修 正 を余 儀 な くさ れ る こ と と な っ た の で あ る。 す な わ ち,米 国多 国 籍 企 業 は, 巨 額 化 す るR&D費 負 担 を軽 減 す る た め に,従 来 の 関 連 企 業 同士 で の 内部 市 場 取 引 に加 え て,新 た に 非 関 連 企 業 へ の ラ イ セ ン シ ング を拡 大 す る こ と で 「ロ イ ヤ ル テ ィ(royalty)」収 入 を 重 要 視 し始 め た の で あ る(Baranson,1978;Telesio, 1979;菰 田,1981,1984)。
例 えば,こ の 当 時 の各 国 多 国籍 企 業(米 国46社,欧 州39社,日 本8社)に よ る ラ イ セ ンシ ン グ活 動 に つ い て見 る と,そ の 相 手 先 組 織 と して非 関 連 企 業 の 割 合 が 増 大 して い る こ とが わ か る(BertinandWyatt,1988)(表3参 照)。
表3ラ イセ ン シ ングの相 手先 組織 の種 類
(単位:%)
相 手 先 組 織 合計
国 別 産 業 別
米国 欧州 日本 医薬 その他 の化学
エ レク ト
ロ ニクス 機械 自動車 資ベ ー ス源
供与 供 与 供与 供与 供与 供与 供与 供与 供与 供 与
導入 導 入 導入 導入 導入 導入 導入 導入 導入 導 入
関 連 企 業
完全所有子 会社 19.5 20.4 18.9 22.4 18.2 16.7 26.9 16.6 16.1 19.3 29.5 28.1 34.0 27.0 34.1 26.4 33.5 21.7 26.5 37.2 系列企業 22.0 19.3 25.8 13.5 39.7 21.2 20.5 22.0 21.4 28.3 14.1 14.0 11.6 10.1 18.0 15.2 12.1 21.7 6.1 5.9
非 関 連 企 業
その他 の多 国籍企業 17.1 16.8 16.7 17.9 22.3 20.7 14.7 15.8 14.3 10.5 12.2 12.9 10.7 18.6 12.6 17.4 11.5 8.7 12.2 5.9
自国 の ロ ー カ ル 企 業
12.8 15.7 10.3 17.9 9.1 12.8 9.0 12.6 21.4 14.9 15.9 18.1 14.8 15.3 10.8 14.0 14.1 15.7 42.9 15.6 OECD諸 国 の ロ ー
カ ル企 業
12.1 11.0 13.6 7.5 9.9 11.3 10.9 14.9 10.7 11.9 14.8 12.9 18.9 10.1 13.5 15.2 17.4 13.0 22.9 15.6 東 欧 諸 国 の ロ ー カ ル
企 業
7.2 7.1 7.3 6.0 6.6 &8 4.5 7.9 5.4 7.5
5.6 6.4 4.1 5.1 3.7 6.7 3.4 7.0 4.1 5.9
発 展 途 上 国 の ロ ー カ ル企 業
8.2 9.7 7.1 7.5 5.0 8.4 10.3 7.9 10.7 7.5
5.3 5.9 4.1 5.1 3.7 5.1 4.0 7.0 4.1 5.9
その他 1.0 0.0 0.2 7.5 0.8 0.0 3.2 2.4 0.0 0.0
2.7 1.8 2.1 8.5 3.7 0.0 4.0 5.2 0.0 7.8
(出 所)Bertin,G.YandWyatt,S.,(1988),MultinationalsandIndustrialProperty,HumanityPress International,p.71,に 筆 者 修 正 。
こ う して1970年 代 後 半 以 降,米 国多 国 籍 企 業 の技 術 管 理 戦 略 は そ の 内容 を大 き く修 正 し,従 来 ま で のFDIに よ る 内 部 化 に 加 え て,R&D費 の 回 収 を 目的 と した 非 関 連 企 業 へ の ラ イ セ ン シ ン グ を 拡 大 す る こ と とな っ た の で あ る 。 しか し,こ う した技 術 管 理 戦 略 の修 正 は,米 国 多 国 籍 企 業 の 存 続 に と って 重 大 な 結 果 を も た ら して い た。 す な わ ち,米 国多 国 籍 企 業 は,非 関連 企 業 へ の ラ イ セ ン シ ン グ を拡 大 し た こ とに よ り,確 か に ロ イ ヤ ル テ ィ収 入 に よ っ てR&D費 の 補 填 を 実 現 した もの の,一 方 で は 内 部 化 理 論 が 懸 念 した ラ イ セ ン シ ン グ の 「 消 散 リス ク」 の 問 題 に直 面 す る こ と と な っ た の で あ る。 つ ま り,そ れ は米 国産 優 位 技 術 の 拡 散 の発 生 で あ り,そ の延 長 線 上 と して の非 米 系 企 業 の技 術 力 向上 で あ る。
そ して,世 界 的 に拡 散 し始 め た 米 国産 優 位 技 術 の導 入 に積 極 的 に努 め,そ こ か ら急 速 な技 術 発 展 の 手 掛 か り を得 た 企 業 こそ が,西 独(当 時)を 中 心 と した 西 欧 企 業 や 日本 企 業 で あ った と考 え られ る の で あ る 。 なか で も,敗 戦 後 の 日本 企 業 に よ る イ ノベ ー シ ョン活 動 と は,ま さ に米 国多 国 籍 企 業 に よ る特 許 ラ イ セ ンス の 導 入 活 動 そ の もの を意 味 して い た と指 摘 さ れ る ほ ど で あ っ た(荒 川,1991
;守,1994;後 藤,2000)(図1参 照)。 周 知 の 通 り,日 本 企 業 は こ う した米 国
3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
500
0 (件 数)
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
19616263646566676869707172737475767778
(年 度)
1一 米国[=]そ の他 一●一米国の割合1
(出 所)科 学 技 術 庁 『外 国 技 術 導 入 年 次 報 告 書 』 各 年 度 版,よ り筆 者 作 成 。 図1戦 後 日本 の 技 術 導 入 に 占 め る 米 国 の 割 合(1961〜78年)
商 学 討 究 第52巻 第1号
産 の基 礎 優 位 技 術 を独 自 に応 用 ・改 良 す る こ とに よ っ て,急 速 な技 術 発 展 を遂 げ,さ ら に はそ の 後 の 多 国籍 化 を も早 期 に実 現 す る こ と とな る。
つ ま り,そ の意 味 で は,後 に米 国多 国 籍 企 業 を脅 か す ラ イ バ ル とな る 西 欧 企 業 や 日本 企 業 の技 術 開 発 力 の 向 上 とそ の 多 国籍 化 は,ま さ に 米 国 多 国籍 企 業 に よ る技 術 管 理 戦 略 の 修 正 に よ って 生 み 出 され,ま た 実 現 さ れ た もの で あ る と も 考 え られ る の で あ る(關,2000de)。 そ して,そ れ は,か つ て 英 帝 国が 新 興 国 ・ 米 国 の 「 挑 戦(challenge)」 に 敗 れ,"パ ック ス ・ブ リ タニ カ(PaxBritannica)"
の 時 代 が 終 焉 へ と導 か れ た よ う に,今 度 は 米 国 が新 興 国 ・日本 や 西 独 の 「 挑 戦 」 に敗 れ,パ ッ クス ・ア メ リカ ー ナ の時 代 が 終 焉 に 導 か れ る,と い う こ と を意 味 して い る よ う に思 わ れ る。
こ う して 米 国 多 国籍 企 業 は,奇 し く も 自 らの保 身 の た め に行 っ た 戦 略 修 正 に よ っ て,逆 に 自 らの比 較 優 位 を失 い,さ ら に はパ ッ クス ・ア メ リ カ ー ナ まで を も崩壊 させ て しま っ た と考 え られ る の で あ る。 そ して,そ う した 直 接 的 な 契 機 と な っ た もの が,米 国 多 国籍 企 業 に よ る 非 関 連 企 業 へ の ラ イ セ ン シ ング に よ る 米 国 産 優i位技 術 の 拡 散 で あ っ た,と 考 え られ る の で あ る(關,2000cde)。
4パ ッ ク ス ・ア メ リ カ ー ナ 崩 壊 に 関 す る 新 見 解 一 ギ ル ピ ン の 主 張 を 中心 に
前 述 の 通 り,ギ ル ピ ン に よ れ ば,パ ック ス ・ア メ リ カー ナ崩 壊 と は,米 国 企 業 の 多 国 籍 化 を直 接 的 な 契 機 と し た,"既 存 の米 国 産 優 位 技 術 の 拡 散"と"将 来 の潜 在 的 な イ ノベ ー シ ョ ン能 力 の 散 逸"の 結 果,で あ る と位 置付 け られ て い
る。そ して,そ う した ギ ル ピ ンの 主 張 は,以 下 の文 章 に端 的 に 表 現 さ れ て い る。
「これ ま で の 分 析 か ら明 らか な よ う に ,ア メリカの多国籍企業 の海外投 資は, 経 済 学 者 流 に い え ば,国 際 競 争 と,米 国経 済 の 相 対 的 衰 退 に よっ て 突 きつ け ら
れ た 挑 戦 に対 す る次 善 の 解 決 策 に す ぎ な い,と い うの が 本 書 の論 点 で あ る 。 手
短 に 述 べ れ ば,こ れ まで の ア メ リ カが や っ て き た こ と とい え ば,将 来 の海 外 収
益 と引 き換 え に,そ の 比 較 優 位(技 術,技 術 ノ ウハ ウ,経 営)と 潜 在 的 な生 産
性 の 向 上 とを輸 出 した り,売 り渡 しつ つ あ る とい う こ とで あ る。 こ れ か ら も ア メ リカ が こ の方 向 に進 む か ぎ り,典 型 的 な金 利 生 活 者 経 済,す な わ ち19世 紀 後 半 に お け る イ ギ リス の よ う に投 資 収 益 に 依 存 す る 経 済 に変 身 す る こ と に な る
(Gilpin,1975,p.198;邦 訳,190頁)。 」
つ ま り,ギ ル ピ ンの 主 張 を ま と め る とす れ ば,パ ッ ク ス ・ア メ リ カ ー ナ の 崩 壊 と は,① 米 国 企 業 が 多 国i籍化 し た こ と に よ っ て,既 存 の 米 国 産 優 位 技 術 が FDI対 象 国 に流 出 し,日 本 や 欧 州 の 新 興 企 業 に技 術 力 向 上 の きっ か け と な る
「 技 術 機 会 」 を与 え て しま っ た こ と ,② 既 存 優 位 技 術 の 消 費 か ら得 られ る 海 外 投 資 収 益 へ の 依 存 体 質 の 確 立 に よ っ て,米 国 国 内 のR&D活 動 等 の イ ノ ベ ー シ ョ ン基 盤 が 弱 体 化 し,そ の結 果 と して 自 らの 潜 在 的 な イ ノ ベ ー シ ョ ン能 力 を も 低 下 させ て しま っ た こ と,と い う二 つ の 要 因 に よっ て 引 き起 こ され た複 合 的 現 象 と して位 置 付 け られ て い る とい う こ とで あ る。
で は,こ う した パ ッ ク ス ・ア メ リ カ ー ナ 崩 壊 の 要 因 と され る,"既 存 の 米 国 産優 位 技 術 の 拡 散"と"将 来 の潜 在 的 な イ ノ ベ ー シ ョ ン能力 の 散 逸"に つ い て,
よ り詳 し くそ れ ぞ れ の 内 容 につ い て 検 討 す る こ と と した い。
(1)技 術 拡 散 ル ー トと して のFDI
ギ ル ピ ン に よ れ ば,パ ック ス ・ア メ リ カー ナ崩 壊 の 第 一 の 要 因 で あ る 米 国 産優 位 技 術 の 拡 散 とは,1970年 代 以 降 に 本 格 化 し始 め た非 関 連 企 業 へ の ラ イ セ ン シ ング で は な く,む しろ1960年 代 に 米 国 産 優 位 技 術 の グ ロ ー バ ル な専 有 可 能 性 を確 保 す る た め に編 み 出 さ れ た,FDI(ギ ル ピ ン は 「 海 外 投 資 」 と
して 表 現)そ の もの に よ っ て 引 き起 こ され た 現 象 で あ る,と され て い る。
「 共 同市 場 が ,そ もそ もそ の発 足 当初 よ り,潜 在 的 に きわ め て 重 要 な経 済
的展 開 で あ っ た こ とは 疑 い を入 れ な い と こ ろで あ る 。 し たが っ て,米 国企 業
が この 巨大 市 場 へ の 近 接 を は か ろ う とす れ ば,域 外 共 通 関税 の 内 側 に入 り込
む 以 外 に 道 は な か っ た の で あ る 。 直 接 投 資 は こ の歴 史 的 機 会 を 利 用 す る た め
に 選 ば れ た メ カ ニ ズ ム に ほか な ら なか っ た 。 同 様 に重 要 な こ とは,ヨ ー ロ ッ
パ の 潜 在 的競 争 企 業 へ の ア メ リ カの 技 術 ・経 営 知 識 の 拡 散 が,こ の 市 場 の 究
極 的喪 失 を意 味 す る だ ろ う とい う こ とで あ る。 しか も,こ の ダ イナ ミ ック な 成 長 市 場 は 巨大 ヨー ロ ッパ 企 業 の 形 成 に 必 要 な諸 条 件 を用 意 して お り,こ れ らが い つ の 日か 米 国 企 業 に対 して 米 国市 場 で 挑 戦 す る立 場 に な るか も しれ な い の で あ る(Gilpin,1975,pp.122‑123;邦 訳,116頁)。 」
確 か に,ギ ル ピ ンの 指 摘 通 り,た とえ 内 部 化 を徹 底 した と して も,厳 密 的 な意 味 で 技 術 情 報 の 流 出 を 完 全 に食 い止 め る こ とは 不 可 能 で あ る。 なぜ な ら ば,い く ら 関連 企 業 と の 内 部 市 場 取 引 を徹 底 した と して も,海 外 現 地 子 会社 の ス タ ッ フや 研 究 者 の ス ピ ンオ フ な どか ら,そ う した 技 術 情 報 が 現 地 に流 出 して し ま う ケ ー ス も十 分 に考 え られ 得 る か ら で あ る(Mansfield,1982;菰 田, 1984)。 と く に 人 間 や 組 織 に体 化 され た,い わ ゆ る暗 黙 知 的 な 経 営 管 理 手 法 や ノ ウハ ウ とい っ た 重 要 な技 術 情 報 が こ う し た形 で流 出 して い っ た こ とは, ほ ぼ 問違 い な い こ とで あ ろ う と思 わ れ る(小 宮,1972;白 石,1976)。
「ア メ リ カ の技 術 的 優 位 とそ れ を武 器 と し た多 国 籍 化 と対 抗 す る た め の , ヨー ロ ッパ な い しは 日本 企 業 の 戦 略 は,R&Dの 拡 大 を基 盤 とす る ア メ リ カ 技 術 の模 倣 ・吸 収 で あ っ た とい え る。 と こ ろで そ の模 倣 の 手 段 と し て新 技 術
を体 化 した 製 品 の分 解 や,ア メ リ カ企 業 子 会 社 か らの研 究 者 の ス ピ ン オ フ お よび 特 許 情 報 な どで あ っ た(菰 田,1984,72頁)。 」
つ ま り,伝 統 的 な 内 部 化 理 論 の 主 張 と は 異 な り,FDIに よ る 内 部 市 場 取 引 で あ っ て も,実 質 的 に は 「 消 散 リス ク」 を完 全 に 回 避 す る こ と は不 可 能 な の で あ る 。 そ して,む し ろ そ の 意 味 で は,1980年 代 後 半 か ら始 ま っ た世 界 的 な プ ロ ・パ テ ン ト(Pro‑Patent:親 特 許)時 代 の 到 来 に よ っ て,今 日で は そ う し た 優 位 技 術 を 知 的 財 産 権(lntellectualPropertyRight)の 法 的 拘 束 力 に よ っ て 専 有 す る方 法,す な わ ち特 許 権(PatentRight)化 や トレー ド ・
シ ー ク レ ッ ト(TradeSecret)化 に 注 目が 集 ま りつ つ あ る(關,1999ab, 2000abcde,2001ab)。
「こ の よ う に先 端 テ ク ノ ロ ジ ー の イ ノ ベ ー シ ョ ンが ,広 い市場 を必要 とし
た とい う こ と は,結 果 と して技 術 の 拡 散 を推 し進 め,米 国 の一 国優 位 性 を 崩
し去 っ た。 市 場 を 開拓 し,安 定 的 な需 要 を確 保 す る た め に,関 税 な ど の規 制
を の が れ,米 国 企 業 は外 国 で の現 地 子 会 社 を作 り出 した 理 由 も こ の 点 と関 係 す る 。 米 国企 業 が 自社 の技 術 の 海 外 流 出 を必 ず し も嫌 が ら なか っ た の は,海 外 流 出 か ら相 応 の 利 益 が あ った か らで あ る。こ の テ ク ノ ロ ジ ー の流 出 は,中 ・ 長 期 的 に 見 れ ば,海 外 のfastsecondを 数 多 く養i成し,米 国 の 技 術 面 で の 優 位 性 を 大 き く後 退 させ る 原 因 と もな っ た(猪 木,1998,43頁)。 」
い ず れ にせ よ,ギ ル ピ ンの 主 張 す る よ う に,米 国 産 優 位 技 術 の拡 散 と は, 非 関 連 企 業 へ の ラ イ セ ン シ ン グ を 通 じて だ け で な く,FDIに よ っ て 設 立 さ れ た 海外 現 地 子 会社 の ス タ ッ フや 研 究 者 の ス ピ ンオ フ を通 じて も,十 分 に起 こ り得 る現 象 で あ る と言 え よ う。 しか し,ギ ル ピ ン は,決 して 前 者 の 可 能 性 につ い て 否 定 して い る わ け で は な い 。 む しろ,ギ ル ピ ンは,当 時 の米 国 が 置 か れ て い た 国際 政 治 情 勢 か ら,米 国多 国 籍 企 業 に よ る非 関 連 企 業 へ の ラ イ セ
ン シ ン グの 拡 大 に つ い て も,積 極 的 に そ の 事 実 を認 め て い るの で あ る 。
「1950年代 ,60年 代 において資本,技 術,経 営 ノウハ ウ をヨーロ ッパや 日 本 へ 輸 出 した こ と は,政 治 的 にみ れ ば,た しか に 正 当化 で き る もの と認 識 さ れ る に 違 い な い 。す な わ ち,こ の 投 資 に よ っ て ア メ リ カ の 同盟 国 は強 化 され,
ソ連 の 圧 力 に 耐 え られ る よ うに な っ た か らで あ る(Gilpin,1975,p.213;
邦 訳,203頁)。 」
つ ま り,ギ ル ピ ン に よ れ ば,1970年 代 以 降 の 日本 企 業 や西 欧 企 業 へ の ラ イ セ ンシ ン グ拡 大 の 前 提 と して,1950〜60年 代 に ア ジ ァ 地 域 や 欧 州 地 域 で の"反 共 政 策"の 一 貫 とい う,そ れ ぞ れ 政 治 学 的 な観 点 か ら技 術 輸 出 が 推 進 され た
と い うの で あ る。 こ う した観 点 は,こ の 問 題 に 関 す る従 来 まで の 経 済 学 的 視 点 か らだ けの 考 察 に再 考 を促 す もの で あ り,今 後 の 筆 者 の課 題 とす る 点 で あ る。 米 国 多 国籍 企 業 研 究 に と っ て,こ う した 政 治 学 的 な分 析 視 角 は や は り不 可 欠 で あ り,よ り多 面 的 な 考 察 姿 勢 が 求 め られ て い る と言 え よ う。
(2)海 外 投 資 収 益 依 存 に よ る 国 内 イ ノ ベ ー シ ョン 基 盤 の 弱 体 化
ギ ル ピ ン は,か つ て のパ ッ クス ・ブ リ タ ニ カ の 崩 壊 プ ロ セ ス と の比 較 分 析
か ら,米 国 企 業 の 多 国 籍 化 あ る い はFDIの 本 質 を 「 次 善 対 応 策
(second‑bestsolution)」 と 位 置 付 け,そ の 問 題 点 に つ い て 以 下 の 五 つ に 分 類 し て い る 。
① 海 外 投 資 収 益 に依 存 して い る社 会 で は,そ うで な い場 合 に比 べ て 生 産 力 拡 大 の 伸 び が 低 く,他 国 の 成 長 に 頼 っ て し ま う。
② 投 資 国 は,そ の 投 資 や 収 益 源 泉 が 位 置 して い る 国 に対 し,依 存 度 を著 し く高 め て し ま う た め,外 国 政 府 に よ る不 当 な脅 しに 弱 くな っ て し ま う 。 ま た,外 国政 府 へ の懐 柔 の た め に賄 賂 とい っ た 「レ ン ト ・シー キ ン グ活 動 」 が 活 発 に な っ て し ま う。
③ 米 国 の 比 較 優 位 が 海 外 に 流 出す れ ば,原 稿 の 雇 用 に破 壊 的 な影 響 が 及 び,調 整 の犠 牲 と して多 くの ブ ル ー カ ラ ー労 働 者 が 職 を 失 っ て し ま う。
④ 海外 投 資 重 点 の 対 外 経 済 政 策 は,米 国 の経 済 力 や 工 業 力 の 集 中 を ます ま す 強 め る こ と を 意 味 し,FDIが 可 能 な既 存 の 大 規 模 寡 占企 業 だ け が 潤 い,国 内経 済 の 多 様 化 と分 散 化 が 阻 害 さ れ て しま う。
⑤ 海外 投 資 依 存 に よ っ て 国 内 で の投 資 機 会,社 会 的 ニ ー ズ が な い が し ろ に さ れ,例 え ば 米 国 の都 市 改 造 とか,エ ネ ル ギ ー 資 源 の 海外 依 存 度 軽 減 とか,あ る い は 他 の 国 内投 資 機 会 の探 索 等 が 遅 れ て し ま う。
さ ら に,ギ ル ピ ン は,米 国 企 業 のFDIが 受 入 国 の 経 済 ナ シ ョナ リズ ム を 喚 起 して し まい,様 々 な妨 害 や 圧 力 が 発 生 させ て し ま う点 や,米 国 多 国 籍 企 業 が 自 由貿 易 に 関心 を示 さ な く な っ て し ま う点 を,そ の 他 の 問 題 点 と して 追 加 して い る(Gilpin,1975,pp.200‑205;邦 訳,192〜196頁)。 そ して,こ
う して挙 げ られ て い る問 題 点 の 中 で も,ギ ル ピ ンに と っ て最 も深 刻 に受 け 止 め ら れ て い るの は,④ と⑤ で あ る よ う に 思 わ れ る。
つ ま り,ギ ル ピ ン は,米 国 企 業 の 多 国 籍 化 及 びFDIの 推 進 に よ っ て,既
存 の 優 位 技 術 を多 数保 有 す る 大 規 模 寡 占 企 業 が 潤 い,国 内 の 中小 企 業 や ベ ン
チ ャ ー企 業 の 活 力 が奪 わ れ て し ま う こ と を懸 念 して い る の で あ る。 例 え ば,
ギ ル ピ ンは,19世 紀 の 大 英 帝 国 の 例 を引 き合 い に 出 し なが ら,米 国 多 国籍 企
業 の 海 外 投 資 収 益 へ の 依 存 体 質 に よ っ て,「 米 国 の 国 内 経 済 とそ の 技 術 的
インフラストラクチユア
下 部 構 造 の 若 返 りが 台 無 しに し て し ま わ れ が ち で あ る 」 と指 摘 して い る (Gilpin,1975,p.204;邦 訳,195頁)。 また,ギ ル ピ ンは,同 様 に大 規 模 寡 占 企 業 に 対 して も,多 国 籍 化 及 びFDIの 推 進 が,「 新 製 品 の 技 術 革 新 」 で は な く 「 在 来 製 品 防 衛 」 へ と比 重 を 「シ フ ト」 させ て い る点 につ い て,や は
り警 鐘 を鳴 ら して い る(Gilpin,1975,p.213;邦 訳,203頁)。
「 多 国 籍 企 業 化 あ る い は 資 本 の 国 際 化 とい う現 象 は ,資 本 が 全 世 界 的 視 野 に立 っ て 投 資 場 所 の 選 択 を行 う結 果 な の だ か ら,そ の 際,た と え ば 製 造 業 に つ い て い え ば,お そ ら く労 働 コ ス トが 低 い,政 治 的 安 定 度 が 高 い,さ ら に公 害 補 償 費 用 が 安 い とい っ た 要 因が こ う した選 択 の 重 要 な基 準 を なす もの と考 え て よい 。 こ う した 選 択 の 裏 側 で は,し ば しば 本 国 で の合 理 化 投 資 を怠 り, や が て 国 際 競 争 力 を失 わせ る結 果 に 導 く。 た と え ば,ア メ リ カで は労 働 組 合 関 係 者 が 以 前 か ら直 接 投 資 の 増 加 は 雇 用 の輸 出 に な る ば か りで な く,ア メ リ カ の 主 要 産 業 の 国 際 競 争 力 を失 わせ て い る と攻 撃 して きた が,今 日で はそ の こ とが き わ め て 鋭 い 形 で現 わ れ て い る。 ア メ リ カ資 本 主 義 の 寄 生 性 の 一 面 を なす 問 題 で あ ろ う(木 下,1981,147頁)。 」
以 上,ギ ル ピ ンの 主 張 を ま とめ る とす れ ば,次 の よ うに な る。 す な わ ち, 米 国 企 業 の 多 国 籍 化 及 びFDIの 推 進 は,既 存 の 米 国 産優 位 技 術 の 専 有 化 か
ら得 られ る海 外 投 資 収 益 へ の 依 存 体 質 の 確 立 に よ っ て,か つ て の米 国 国 内 で の 積 極 的 なR&D活 動 に よ る高 性 能 ・高 品 質 の イ ノベ ー シ ョ ンを行 う強 い誘 因 が 働 き に く くな り,こ こか ら米 国 企 業 全 体 の イ ノベ ー シ ョ ン能 力 が 弱 体 化 して し ま っ た,と い う こ と で あ る。 ま た,FDIを 推 進 す る既 存 の 大 規 模 寡 占企 業 だ けが 厚 遇 され る こ と に よ り,潜 在 的 な イ ノベ ー シ ョン能 力 を有 した ベ ンチ ャ ー企 業 の 発 掘 が遅 れ,潜 在 的 な高 生 産 性 部 門へ の 資 源 や 資 金 の 再 配 分 が 疎 か に な っ た こ と,で あ る。
一 般 に生 産 性 を上 昇 させ る主 な 手段 と して は ,① 低 生 産 性 部 門 に雇 用 さ れ
て い る 資 源 を,よ り生 産 性 の 高 い 部 門 へ と再 配 分 す る,② イ ノベ ー シ ョ ンを
行 う,の 二 つ が 想 定 さ れ るが,こ の 当 時 の米 国 経 済 で は これ らが 全 て 欠 落 し
て い た状 態 に あ っ た と考 え られ る の で あ る(後 藤,2000)。 ま た,そ う した な か で,米 国多 国 籍 企 業 を取 り巻 く事 業 環 境 も,次 第 に そ の 厳 し さ を増 して い っ た と考 え られ て い る 。
「 ア メ リカ の状 況 に み られ る基 本 的 事 実 は ,拡 散 の度 合 が 高 ま る と同 時 に, 技 術 革 新 の コ ス トが 急 上 昇 し て い る 点 で あ っ た 。 技 術 や ノ ウハ ウ が ます ます シ ス テ ム 的 性 格 を帯 び て くる の と同 様 に,通 信 や 交 通 の 改 善 に よっ て 知 識 と か 技 術 革 新 が 外 国 の 競 争 企 業 に対 して 実 に容 易 に拡 散 す る よ う に な っ た 。 工 業 技 術,組 織 技 術 が 科 学 知 識 に基 づ い て い る 世 界 で は,比 較 優 位 の寿 命 が ま す ま す 短 命 に な っ て き て い る。 さ らに,先 進 国 と特 定 の 後 進 国 で は と も に科 学 上,技 術 上 の進 歩 を吸 収 す る能 力 が 大 幅 に改 善 さ れ て い る。 ア メ リ カ と し て は,長 い 間競 争 相 手 に対 して 保 持 して きた 高 い優 位 性 ど こ で発 明 さ れ た か は 問 わ ず,そ の 発 明 を 収 益 性 の あ る技 術 革 新 に転 換 され る能 カ ー の 利 用 が あ ま りで きな くな っ て い る よ う で あ る。 した が っ て,ア メ リカ は競 争 相 手 に先 ん じ る た め 彼 らよ り も速 く,し か も高 コス トの も とで 進 ま な け れ ば な
ら な い(Gilpin,1975,p.211;邦 訳,200〜201頁)。 」
一 方 ,ギ ル ピ ンは,こ う した 状 況 を 打 開 す る た め に,米 国 多 国 籍 企 業 及 び 米 国 政 府 が 早 急 に採 るべ き 「 最 善 の 解 決 策(first‑bestsolution)」 に つ い て, 次 の よ うに 述 べ て い る。
「国 際 競 争 の激 化 と ア メ リ カの 相 対 的 衰 退 に よ っ てつ きつ け られ た挑 戦 に 対 し て は,米 国 の 産 業 構 造,資 本 市 場,税 制 を改 善 し て,新 た な生 産 能 力 や
ア ンダ イ ンベ ス トメ ン ト
諸 資 源 を,経 済 社 会 にお け る 『投 資 不 足 』 の 部 門 に,流 す 道 を 開 く こ と
が 最 善 の解 決 策 で あ ろ う。 この 解 決 策 の 意 味 す る と こ ろ は,防 衛 的 な海 外 投
資 よ り も国 内 で の競 争 促 進 と新 技 術 や 産 業 工 程 の 開 発 に重 点 を置 い た 国 家 的
産 業 戦 略 で あ り,現 在 海 外 に 流 出 して い る諸 資 源 の 多 くを,非 軍 事 的 な研 究
開 発 で あ る とか,都 市 再 開発,都 市 交 通,エ ネ ル ギ ー 開発,環 境 保 全 の よ う
な 領 域 に注 入 す る道 を開 くた め の 政 策 で あ る(Gilpin,1975,p.206;邦 訳,
197頁)。」
「した が っ て ,海 外 投 資 に代 る 戦 略 とは新 製 品 の技 術 革 新 と産 業技 術 の改 良 を重 視 す る こ と で あ る 。 米 国 の 産 業 が す で に競 争 力 の な い製 品 分 野 で 競 争 力 を維 持 す る た め に,国 の 資 源 を使 う よ うな こ とは や め て,そ れ を 新 規 分 野 に シ フ トす る か,あ る い は ア メ リ カ全 体 の 生 産 性 向上 の た め さ ま ざ ま な試 み を重 ね る こ とで あ る(Gilpin,1975,p.210;邦 訳,200頁)。 」
す な わ ち,ギ ル ピ ンに よれ ば,米 国 多 国籍 企 業 は,こ れ ま で の技 術 管 理 戦 略 中 心 に よ る 海 外 投 資収 益 へ の依 存 体 質 を 断 ち切 り,新 た に 国 内 の イ ノベ ー シ ョ ン基 盤 の 強 化 に 向 け て,そ の技 術 戦 略 を 立 て 直 す こ とが 必 要 で あ る と説 い て い る の で あ る。 そ して,そ れ は,既 存 技 術 の グ ロ ー バ ル な専 有 化 を 目的 と した技 術 管 理 戦 略 か ら,再 び世 界 的 な比 較 優 位 に あ る製 品 ・技 術 ・工 程 等 を 生 み 出 す イ ノ ベ ー シ ョ ン を 目 的 と し た 「 技 術 開発 戦 略(TechnologyDe‑
velopmentStrategy)」 へ の 転 換 を 意 味 して い る よ う に 思 わ れ る の で あ る (關,2000de)。
5お わ り に
こ れ ま で の 考 察 か ら明 らか に され た 通 り,米 国 企 業 の 多 国 籍 化 及 びFDIの 推 進 が,「 ア メ リ カ の 世 界 支 配 の 強化 で は な く,む しろ そ の 反 対 に 自 ら の 衰 退
の 効 果 を もた ら した 」こ と は,も は や 疑 い の 余 地 は な い よ う に思 わ れ る(木 下, 1981,147頁)。 す な わ ち,米 国 多 国 籍 企 業 に よ る技 術 管 理 戦 略 の 推 進 に よ って, 確 か にパ ッ クス ・ア メ リ カ ー ナ は 崩 壊 へ と導 か れ た と考 え られ るの で あ る 。
しか しな が ら,本 稿 にお い て 明 らか に され た よ う に,そ の メ カニ ズ ム に つ い て は,従 来 まで の米 国 多 国籍 企 業 に よ る 非 関 連 企 業 へ の ラ イ セ ン シ ン グ拡 大 と い う側 面 だ け で な く,新 た に 技 術 拡 散 ル ー ト と して のFDIの 存 在 や,さ ら に は 海 外 投 資 収 益 依 存 に よ る 国 内 イ ノベ ー シ ョン基 盤iの弱 体 化 の現 実 につ い て も 言 及 す る必 要 が あ る 。 そ して,そ の 意 味 で は,こ う した ギ ル ピ ンの 新 見 解 は,
これ ま で の パ ック ス ・ア メ リカ ー ナ 崩 壊 に関 す る議 論 を よ り深 化 させ る存 在 と
して,再 評 価 す る必 要 が あ る と言 え よ う。
商 学 討 究 第52巻 第1号
と くに,筆 者 の こ れ まで の 研 究 との 関連 か ら述 べ る とす れ ば,米 国 多 国籍 企 業 の技 術 管 理 戦 略 が 単 な る既 存 技 術 の浪 費 と して の側 面 を持 つ だ け で な く,潜 在 的 な イ ノベ ー シ ョ ン能 力 ま で を も散 逸 させ る と した ギ ル ピ ンの 指 摘 は,非 常
に興 味 深 い もの で あ っ た 。 こ う した ギ ル ピ ンの 主 張 は,今 後 の筆 者 の 研 究 材 料 と して も,大 い に活 用 す る こ と と した い。 しか しな が ら,一 方 で は,ギ ル ピ ン が 巨 額 化 す るR&D負 担 へ の 対 応 と して,あ るい は 自社 に は な い競 合 他 社 の優 位 技 術 を獲 得 す るた め に,非 関連 企 業 へ も ライ セ ン シ ン グ を拡 大 して い っ た 点
を軽 視 し て い る 点 につ い て は,大 い に疑 問 で あ っ た。
ま た,最 後 に,ギ ル ピ ンの 主 張 に 対 して,い わ ゆ る多 国 籍 企 業 理 論 と の 関連 か ら述 べ る とす れ ば,や は り現 在 に お い て も同 理 論 体 系 の 一 般 理 論 と して影 響 力 を持 つ,伝 統 的 な 内部 化 理 論 との 整 合 性 の 点 で 問 題 が あ る と言 え よ う。 とい う の も,伝 統 的 な 内 部 化 理 論 に お い て は,FDIに よ る 内 部 化 で あ れ ば 外 部 へ の 技 術 拡 散 が 発 生 し な い と想 定 さ れ て い る の に対 し,ギ ル ピ ンはFDIそ の も の が 技 術 拡 散 を発 生 させ る 存 在 で あ る と論 じて い るか らで あ る。 ギ ル ピ ンの 主 張 の重 点 は,海 外 投 資 収 益 依 存 に よ る国 内 イ ノ ベ ー シ ョ ン基 盤 の弱 体 化 に あ る と して も,技 術 拡 散 ル ー トに 関 す る 内 部 化 理 論 との 整 合 性 の 問 題 に つ い て は, や は り残 され た理 論 課 題 と して 認 識 す べ きで あ る よ うに 思 わ れ る。 この 点 に 関
し て は,筆 者 の今 後 の 課 題 の 一 つ と した い 。
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關 智 一(2000e)「 国 際 技 術 戦 略 」 林 悼 史 編 著 『IT時 代 の 国 際 経 営 一 理 論 と戦 略 』 中 央 経 済 社.
關 智 一(2001a)「 現 代 多 国 籍 企 業 の 技 術 管 理 戦 略 とMNE理 論(6)」 『商 学 討 究 』(小 樽 商 科 大 学)第51巻 第2・3合 併 号.
關 智 一(2001b)「 多 国i籍企 業 理 論 の 再 構1築に 関 す る 一 考 察 一 レ デ ィ ン グ 学 派 の 内 部 化 理 論 に お け る特 許 効 力 否 定 の 背 景 を め ぐっ て」 『国 民 経 済 雑 誌 』(神 戸 大 学)第183 巻 第5号.
白 石 孝(1976)『 経 済 革 新 と競 争 の 世 界 一 経 済 発 展 と対 外 投 資 』 秀 潤 社.